「……蒼い空か」
「白い砂浜やで♪」

ややくたびれた顔で呟くソーマ・赤とは逆に楽しそうに目の前の光景を見つめる犬上 小太郎。

「なんで俺まで行く事になったんだ?」
「そりゃ、俺の保護者の千草姉ちゃんが不参加にしたからや」
「……まあ、微妙なお年頃だからな」

小太郎の保護者の天ヶ崎 千草のたっての頼み(日本酒の現物支給あり)で保護者役で参加したが……、

「……男の俺にはちょっとキツイもんがあるな」
「そやな……俺もちょっとキツイわ」

貸切状態の南の島の砂浜の眩しさに目を細めると同時に顔を砂浜から背ける。

「こ、小太郎くん! 助けてよ〜〜」

カラフルな水着姿の少女達に囲まれて焦るネギ・スプリングフィールドの姿を見ないようにして二人は話す。

「とりあえず定番らしい砂の城でも作ってみるか?」
「……そやな」

困るネギの姿を黙殺し、二人は砂浜に座り込んで砂に海水を混ぜて固めていく。

「ところで」
「なんや?」
「なんで千草は南の島に行くのを嫌がったんだ?」
「さあ? 乙女の事情って言ってたで」
「なんだ、そりゃ?」
「よう分からんけど……突っ込むと地雷踏みそうでなんも聞けんかった」
「……そいつは正解だぞ。女ってやつは、男には分からん難しい事があるからな」
「そうやったんか……俺、一つ賢くなったわ」

複雑な女心や肌の手入れの難しさなどを理解する心とは無縁の二人だった。
ちなみに背後から聞こえる黄色い嬌声と……少年の悲鳴は耳に入らないようにしていた。





麻帆良に降り立った夜天の騎士 四十四時間目
By EFF





「……海へ行かなかったのか?」
「当たり前や。うちは紫外線に平気で肌を曝してもすぐにリカバー出来るほど……大胆やないえ」
「まだ切り捨て二十代だから、大丈夫じゃ「甘いえ……まあ、その甘さが若さなんやけどな」」

エヴァンジェリンの家へやって来たお客――天ヶ崎 千草――は一切の迷いもなく言い切る。

「……まあ、あの面子で行くのなら、家で本でも読んでいる方が精神的には休めるがな」
「そうだね、あの面子は箍が外れやすい連中が多いから」
「否定しません。少なくともネギ先生はオモチャになる可能性が高いでしょう」
「フン、精々苦しむがいい。女難……それこそがぼーやの運命だ」

クククと楽しげに悦に入ってほくそえむエヴァンジェリン。
ネギがクラスメイトに振り回される光景を思い浮かべてとても楽しそうにしていた。

「しかしまあ……なんで南の島を選択するんだろう?」

リィンフォースは周囲を見渡して、少し呆れた声音で呟く。

「確かに面白みが減る可能性は高いです」
「いっそ、南半球のスキー場にでも行ったほうが珍しいから印象に残りそうだと思うけどな」

此処はエヴァンジェリンの家の地下に設置されている魔法の別荘。
今現在、ネギ達が行った場所に似通った所だった。

「ちなみに此処は魔法によって、人工の光を使用しているから日焼けは大丈夫だぞ」
「そら、ええことやな」

お肌の手入れを気にする年頃の千草は、それはもう見事なまでに嬉しげに微笑んでいた。
そう……日焼けを防ぐために態々日傘を自分から用意するだけの慎重さがあったのだ。




雪広 あやかは青空へ顔を向けて嘆く。
目の前には白い砂浜に青く澄んだ美しい海があったのにあやかの気持ちはどんよりと濁り気味だった。

「ど、どうして……こ、こんな事に?」

そう、あやかの頭の中では休みを利用してネギと二人っきりでイチャイチャ……魂のリフレッシュする予定だった。
その為に雪広グループのリゾートアイランドを貸切にして楽しむ計画を考えていたのに、現実はあやかの妄想……もとい想像を上回る嫌な方向へと発展してい た。

「いや〜〜悪いね、いいんちょ♪」
「あ、朝倉さん!! 私に何か恨みでもあるんですか!?」

諸悪の根源である報道部の朝倉 和美に詰め寄る。
和美に知られた事が原因ではあるが……まさか、クラスの大半まで招待する事になるとは思わなかったのだ。

「しゅ、週末を利用して、日頃から頑張っておられるネギ先生の慰労をと考えていたのに!
 こ、これでは、全然意味がありませんわよ!!」
「……そうなの?」
「ええ、そうです! 周りが年上の人ばかりだから……気を遣い過ぎてはいないかと心配していたんです!」
「ふぅん……で、本音は?」
「そ、それはもちろんって!? 何を言わそうとしているんですか?」

さりげなく本音を暴露させようとする和美に、慌てて抗議するあやかだったが、

「……どうせ、ネギを独り占めしようとしていただけでしょ」
「ア、アスナさん!?」

背後から忍び寄ったアスナの一言に男性陣を除く全員が頷いたので……それが事実だと認定されていた。

「イイじゃん、タマにはね♪」
「タマにじゃないでしょう、早乙女さん!」

和美に輪を掛けて、ハデに情報を漏らした早乙女 ハルナにあやかは猛抗議するも……いつものようにスルーされていた。

「ところでリィンちゃん達はやっぱり不参加だったの?」

アスナが周囲を見渡してから、あやかに尋ねる。
クラス全員が参加というわけではなく、リィンフォース、エヴァンジェリンを筆頭に一部の生徒は不参加だったのだ。

「……ええ、クラスのうるさ型と一緒だと気疲れするから行かないと」
「……なるほどね」
「代わりにソーマさんを犬上 小太郎くんでしたか……彼の保護者にと申されまして」


「おかげで一人気疲れ中だがな」

ぼそりと漏れる声はアスナもあやかも黙殺していた。

「赤兄ちゃん」
「なんだ?」
「一勝負せんか?」
「ほう……だったら、あの岩場までどっちが先に着くかでどうだ?」

ソーマ・赤が指差す先には岬の先にある岩場だった。
おそらく干潮時にはこの島と繋がるような場所に見え、緩やかな曲線の砂浜を走って二分、そこから20メートルほど泳げば辿り着けそうだった。

「言っとくけど……俺は早いで」
「はん、その言葉そっくり返してやるぜ」

自信満々に話す小太郎にソーマ・赤も負けじと言い返す。
二人はにやりと笑うと立ち上がり、

「アスナの姉ちゃん、号令や!」
「ふん、ま〜た負けて泣くなよ」

完全に勝負事にして、燃え上がっていた。

「……いいけどね」

やや呆れ気味になって、アスナは二人の側に行って手を上げる。

「いいわね?」
「「おう!」」

アスナは二人に声を掛ける時、ネギを相手に遊んでいた者も見物する為に集まってきた。

「ヨーイ……ドン!!」

全員の視線が集まると同時にアスナが腕を振り下ろしスタートの号令を出す。
二人はその声と同時に駆け出すが、全員の視線は、

「そりゃ反則や――ッ!!」

……海を走るソーマ・赤に集中していた。

「ハハハッ! 甘い! 甘いぜ!
 先に辿り着いた方が勝ちであって、海を走るのは反則じゃねえぞ!!」


小太郎の抗議も声を軽く流して海の上を走り、ソーマ・赤は一直線に岩へと走る。

「ま、負けるか――ッ!!」

慌てて小太郎も針路変更して海の上を走り出す。
全力で水の上を疾走する奇行にあやかは呆けた顔で見つめ、和美、アスナは呆れた顔で話す。

「……赤さんって、意外と大人気ない人だね」
「もう少しビシッとしてくれたら……渋くて良いんだけど」
「突っ込むのはそこじゃありません!!」

ひとり常識人なあやかが和美とアスナにツッコミを入れていた。

「ど、どうして人が海を走れるのですか!?
 まずはそこを注目するべきではありませんか!?」

「いや、まあ……そこはソーマさんだから?」
「説明になっていません、アスナさん!!」

苦笑いというか、ソーマなら出来てもおかしくないと思うアスナはあっさりと納得した様子で告げる。
そんなアスナにあやかは苛立ちを隠しきれずに叫んでいた横では、

「オオ―――ッ! 流石はソーマさん!!
 私も出来るようになれるアルか!?」
「コツはアレで……右足が沈む前に左足を出すというところでござるな」
「楓忍法にはないの?」
「あったら教えてよー」
「いやいや、あの技は結構難しいでござる。今の二人にはちと難しすぎるでござるよ」
「「ええ――!!」」

ごく自然に目の前の事件を受け入れるクラスメイトが居て……しかも、

「ソーマさんって忍者なのかな?」
「ござるって言わないあたりが……本物っぽいけどね」
「ござっ!? そ、それは違うでござろう、釘宮殿、柿崎殿!」
「んー……でも本物にも見えるけど?」
「いやいや……椎名殿、ソーマ殿は決して忍者ではござらんよ」
「そっかなー」

日頃から忍んでいない忍者が慌てて弁明中というカオス状態に陥っていたが。
あやかはそんな光景を見つめて……自身が常識人である事をしっかりと認識して決意する。

「あ、あなた方はもう少し……真面目に一般常識と いうものを学ぶべきです!!」

自分がしっかりとして3−Аの一般常識の最後の砦になろうとしていた。

「ず、ずるいで!」

一応、ソーマ・赤の勝利という形で終わった競走?だったが、小太郎は不機嫌な顔でブーたれていた。

「甘いぜ、小太郎。戦いとはこうやってルールの粗探しから弱点を突くもんだ」
「くっ! 俺が甘かったんか!?」
「言ったろう……先に辿り着いた方が勝ちだと。
 他に条件はあったか?」
「そ、それはっ……そうやけど」
「しかし、お前の走りは……ムラが多いぞ。
 ちゃんと気を制御してんのか? 見るかぎり……ちょっと我流のクセで甘いところがあったぞ」
「う、うそや!? ど、どこがおかしいんや?」

文句を言い続けていた小太郎だったが、ソーマ・赤の指摘に大慌てて聞き返す。

「イイか、瞬動とはちょっと違うんだ」
「そ、そうなんか?」
「一気に吹き飛ばすような力を出すんじゃねえ……そのやり方だとブレが大きくて力の修正に余計な神経を使うぞ。
 大きくドンじゃなく、小さくスッスッと細やかに出す事で負荷を小さくして滑るように歩くんだ」
「……意味はわかっけど難しいで」
「当たり前だ。ハデに激しく動く方が格好よく見えるかもしれんが、そんなのは下手くそがやるもんだ。
 本当に上手いヤツは入りも抜きも全部無音だぜ」
「…………」

ソーマ・赤の注意に小太郎は徐々に耳を真面目に傾けて聞く。

「一気に力任せに飛んで、足に負担を掛ける無駄があるとワンテンポ遅れるだろ?」
「……そやな」
「デカイ一撃を大きく避けるのならそれでも良いが、小さい攻撃に大きく飛び跳ねるのはダメだ。
 小刻みに避ける方が修正が効いて即座に対応できる。
 下手な動きを繰り返し続けると次の動きを先読みされるぞ」

そう話してソーマ・赤は一歩を軽く踏み出すように見せて……二メートルほど先に一気に移動する。
その動きに小太郎は虚を突かれたように反応できずにいた。

「……確かにスッやな」
「本当に強いやつは基本を疎かにしねえ。
 お前も本当に強くなりたいんならハデな技よりも基礎をきちっと固めろ」
「チマチマやんのは苦手なんやけどな」
「身体能力のよさだけで生き残れるほどヌルさはないぜ」

基礎、反復練習を想像して嫌そうな顔で話す小太郎だが、、ソーマ・赤は自分が強くなる為にする事だと言い切る。

「そっちの小僧もだぞ。親から貰った身体の力だけに頼るだけじゃなく、自分で感覚を磨き上げるのも秘訣だ」
「は、はい!」
「わかったで」

ソーマ・赤の話に聞き耳を立てていたネギは急に話を振られて慌てて返事をし、小太郎も少し神妙な顔つきになって頷く。

「どんな世界でも才能だけじゃ成功しねえ。
 才能がないのもダメだが、才能だけを当てにするヤツは……最後の最後で負けちまう。
 頂点に立つっていうのはそういうもんだ。
 同レベルのヤツばかり集まってくれば、後はどれだけ飽きの来る地味な練習を続ける事が出来るかだ」

真剣な表情で有無言わせぬ調子で告げるソーマ・赤に聞いていたアスナ達は言葉が出せない。
それだけの重みのある戦場を駆け抜けて生き延びた戦士の忠告だったが、

「どうよ、俺って渋い?」
「それ がなかったら良かったわよ!!」

重すぎる空気を払拭しようとしたソーマ・赤の調子のよい言葉にアスナが肩を震わせて……お怒りだった。
渋い格好好い大人だったのに……いきなりその評価をひっくり返されたのがお気に召さなかったらしい。

「オオッ、鋭いツッコミだな!」
「ちょっとイイかなと思った私がバカだったわ!!」
「ククク、甘いぜ、嬢ちゃん♪」
「よけんじゃないわよ!!」
「当たったら痛いから俺は避ける!
 文句があるなら当ててみな!」
「ムッキ――ッ!!」

アスナがシリアスな空気を台無しにしたソーマ・赤を殴り飛ばそうとするが、相手のほうが一枚上手でアスナの攻撃は一つも掠らずに空振りしている。

「…………」
「……アスナがオモチャにされてるわね」
「にゃはは……まどか、嫉妬?」
「ち、違うわよ!」

そんなアスナを見ながら不機嫌な顔で黙り込む釘宮 円をしたり顔で柿崎 美砂と椎名 桜子がからかい始める。
全く以ってシリアスが似合わず……緊張感が皆無なメンバーだった。





クラスの大半が南の島へバカンスに向かうも、喧騒を嫌う者も当然いる。

「……魔導師ですか?」
「そ、魔法を使うっていう点は同じだけど、使う魔法が違うで良いのかな」
「……そうだな。分類すれば、精霊魔法とはまったく異なる術式で行使する魔法と思え」

天ヶ崎 千草はリィンフォースとエヴァンジェリンの説明にようやく自身が気にしていた違和感に納得できた。

「つまりリィンは魔法使いであって、魔法使いではないちゅうわけやな。
 なんや言葉遊びにも感じられるけど……理解したえ」
「ちなみに私が陰陽術を使えるのは蒐集行使で覚えただけよ」
「蒐集行使? 何かを集めて行使するのなら……何らかの方法で敵の魔法を奪うちゅうことやな」
「そういう事だ。コイツは敵の魔法特性を強引に奪って解析して自分の魔法に組み込むのさ」
「……そらまた、すっごい反則技おすな」
「私もそう思ったぞ。軽い気持ちで高を括って蒐集行使に付き合ってやったが……全部モノにされた」

苦笑いを顔に浮かべてエヴァンジェリンは呆れた様子で肩を竦める。

「この私が六百年以上掛けて研鑽した魔法を自分流に改編して使われた日には激しい憤りを感じたよ」
「そら、そうでしょうな。うちかて、そんな事をされた日には寝込みたくなりますわ」
「ケケケ♪ シカモ、ゴ主人ノ"闇ノ魔法"モ アッサリト使イコナサレタカラナ」
「あれは便利よね。カートリッジシステムに近いし」
「カートリッジシステム?」

初めて聞く……魔法でシステムなどいう近代科学みたいな単語。

「一時的に外部から魔力を供給して増幅する……魔法と科学をミックスした技術だ」
「……俗に言うハイテクですか?
 しかし、魔法にハイテクを使うちゅうのは……なんや凄い異和感がせん事も?」
「コイツにはそれが当たり前なんだよ!」

自分が古臭い昔ながらの魔法使いだと感じさせられたエヴァンジェリンが納得できない気持ちを隠さずに吼える。
頭……理性では分かっているが、感情がまだ上手く噛み合せずにいるみたいだった。

「でも、その恩恵で花粉症がないんだよね?」
「グッ! そ、その点は嬉しいがな!」
「花粉症って……真祖の吸血鬼のあんさんが?」

とても信じられない様子で千草がエヴァンジェリンを見ながら尋ねる。

「呪いの所為で魔力が殆ど封じられているのさ」
「正確には違う。この学園都市を守っている結界がエヴァの呪いを核にして抑え込んでいるんだよ」
「チッ! 忌々しい事だな!」

登校地獄の事を聞かされたリィンフォースは、エヴァンジェリンに一番気になった部分を問うてみた。
即ち"呪いを掛けられた直後から完全に魔力を抑え付けられたのか?"と。
その問いにエヴァンジェリンは意味を理解して……みるみる内に呪いの不自然さに気付く。
呪いを掛けられた直後の頃は……今みたいに完全に封じられたわけではなかった。

「この学園都市の結界が更に抑え付けていたとはな」

確かに力は抑えられているが、呪いを掛けられた場所から麻帆良に来るまでの間は……その効果は殆ど意味をなさなかった。
実際にナギと麻帆良に移動するまでは五分か、自分の方がレジスト出来ていたのだ。
弱体化した自分に鞭打つように呪いの効果を強化したのは……、

「……あのジジイが!!」

この麻帆良学園都市が電力で設置している結界――魔に対する――が枷となっていたのだ。

「……事情も話さんと足枷付けるのはええ度胸してますわ」
「あれでしょ……バレたって封じられているから文句を言うだけしかないとなぁなぁで済ませているのよ」

説明不足なのは間違いなく、そしてエヴァンジェリンなら"バレても、まあ大丈夫じゃろう"と勝手に思っているだけ。

「こっちの世界もそうやけど……魔法使いの世界もダメダメやね」

こっち――関西呪術協会――と若干濁した表現で話しながら千草は深いため息を零す。

「やっぱり……秘匿している事が原因なんやろか?」
「まあ、ナァナァで済ませているのは否定できんよ。バレてもオコジョになるだけだからな」
「……なんでオコジョなのか、不思議よね」
「全くやな。まあ昔ながらの古臭いカビの生えた掟なのは確かや。
 だいたい自分達の世界があんのに……なんでこの世界に係わろうとするんやろな」

千草は自分が感じる最大の疑問点を話す。

「元この世界の住人なんは分かってますけど……それも昔の話なんえ。
 一旦魔法世界に根を張ったんやったら、そこの世界で生きていくんがスジやで」
「ま、おおよその見当は付くけどね。
 この世界に残された遺跡になりかけた施設を自分達が管理、使用したいんでしょう」
「後は未練……これが最大の理由かもしれんがな。
 向こうに移住する際に此処に残った連中も居た筈だ。
 バッサリと何もかも捨て切れずに……ウダウダと未練を抱えて、こっちに係わり続けているだけさ」

エヴァンジェリンが呆れた声音で自分がこれまで見てきた魔法使いを思い出して話す。

「あれだ、"自分達は元この世界の住民だったから、今も人知れず感謝の気持ちを持って奉仕しています"ってとこだな」
「……アホやろ。うちに言わせれば、"自分の足元固めてからせんかい、ダボが!"やな」
「同感。コソコソとしか動けないくせに正義の味方気取りの真似は止めて欲しいわ」

(……リィンさん、それ以上マスターみたいに黒くならないで下さい)

茶々丸は給仕をしながら聞いているが、その感情はただ一点に絞られていた。





昼食を食べた後のまったりとした時間に、

「王様ゲーム?」
「うん……クジに順番を書いて一番を引いた人が王様でね」
「ああ、何となく分かった。その一番クジのヤツがメンバーに命令するんだな」
「そうそう……って、何かおかしい?」

ソーマ・赤は美砂の提案したゲームに眉を顰めていた。

「王様って言うのが気に喰わない……殿様に変えてくれ」
「まあ、それはいいけど……王様嫌いなの?」
「うちの姫さんにちーと色々あってな」
「リィンさんに?」
「おっと、これ以上は内緒だ。ベラベラ話して良い内容じゃないんでな」

ソーマ・赤が人差し指を口に当てて、これ以上は話さないとジェスチャーすると、

「……ふぅん。実はリィンさんは本物のお姫様とか?」
「え!? そ、そうなの?」
「だから食道楽と言うか、食事にはうるさいんだ!」
「食い意地張っているんじゃなくて、美味しいものばかり食べてきたから庶民の味が珍しいんだ!」
「……それはねえよ(姫さん……この面子相手にキレずに耐えるのは大変だな)」

日頃、このうるさい面子を相手に苦労しているリィンフォースにちょっと同情するソーマ・赤だった。

「ほらほら、夏美ちゃん……ゲームなんだから飲んでね♪」
「う、うぅ……ちづ姉、わざとやっているでしょう」

グラスの側面に水滴を浮かべたよく冷えたジュースの前で村上 夏美は涙目で那波 千鶴に抗議していた。
ジュースを飲む事に問題があるわけではない……ただそのジュースに二本のストローがなければだが。

「ふふふ、ルールは守らないとね♪」
「お、美味そうなジュースやん。ホンマに飲んでもええんか?」
「ええ、夏美ちゃんと一緒に飲んでね」

仕方なく夏美は他の参加者に目を向けて、何とかしてもらおうと思ったが、

「やるわね。カップル定番のイベントをここで出すか……」
「にゃはは、赤さんはノリが今ひとつだったけど、青さんはノリノリだったから面白かったよ♪」
「グフッ……も、もうダメ………青さんのイジワル……」

砂浜を恋人同士のフリをして追い駆ける――ウフフなイベントをやらされた円が真っ白に煤けてダウンしているのを楽しげに見つめる参加者が助けてくれないだ ろうと自覚するしかなかった。

「夏美ちゃんだったか、安心するといい。彼はまだお子様だから、意味を分かってないよ♪」
「……そうですね」

フォローしたつもりなのか、最後通牒なのか、突然出てきたソーマ・青の言葉に夏美は肩を落として……ジュースを小太郎と仲良く飲む事にした。

(……救いは小太郎くんがこのイベントの意味を知らないって事よね)
「おっ、なかなかイケるやん♪」
「……そうだね」

「フフフ、夏美ちゃん……こうやって距離を縮めて幸せになるのよ♪」
「……ちづ姉のバカ」

夏美は誰にも聞こえないように小さい呟く抵抗しか出来なかった。

「くっ、千鶴さん! どうして私とネギ先生にそのイベントをしてくれないんですか!?」
「そんなの決まってるじゃない……いいんちょの場合、暴走するからよ」

口惜しさに歯噛みするあやかにアスナが嫌そうな顔で告げると全員が頷くのも……お約束だった。

「次で す! 次こそはっ!!」

血気盛んに次の殿様を決めようとするあやかに女性陣は苦笑いしていた。
……ちなみにあやかは最後まで殿様になれなかったのもお約束かもしれなかった。




千草は魔法と科学をミックスさせた存在が如何に便利なのか実感していた。

「一家に一人居れば、ホンマ助かるんやろうね……いい腕してるわ」
「お褒め頂きまして……光栄です」

昼食の時間になったので千草は茶々丸の手料理を頂いたが、その味は文句の付けようのない美味しさだった。

「そりゃあ……食道楽の人がワガママ言ってたし」
「……人の事は言えんだろう、腹ペコナイト」
「ヒドッ! エヴァって、いじめっ子だよね」
「フン、茶々丸に飼い慣らされたのは貴様じゃないのか?」
「ケケケ♪ ドッチモドッチダロウサ」
「「チャチャゼロ!」」

エヴァンジェリンをからかおうとしたリィンフォースに即座で嫌味で反論し、揚げ足取りでチャチャゼロが二人をからかう。
二人が一頻りチャチャゼロに抗議するのを見ながら、キリの良いところで千草が尋ねる。

「……ところで刹那のことなんやけど、ええかな」
「どうかしたの?」
「どう言うたらええんかな……技術はあんのやけど、精神面が妙に不安定みたいなんや」
「当然だろう。あの小娘は生真面目で融通が効かんし、何より……自分に自信を持っておらん」
「それはやっぱりハーフを気にしとるんか?」
「まあな、アイツの境遇はよくある話だろう。
 周りの大人はそれなりにフォローしているみたいだが……アイツ自身が臆病者だからな」

断言するような言い方のエヴァンジェリンに千草は否定せずに肯定するように頷く。

「……そやな」
「いい加減開き直れば、楽になれるんだけど……烏族の掟に拘っているみたい。
 正体がバレたら出て行かないと不味いと思って、距離を取っていたしね」
「自分を迫害した一族の掟に縛られる時点でアホウだな」
「ケケケ、頭ノネジガ緩ンデイルンジャネェノカ」

千草はこの意見から大体の事情は察したが、口から出た言葉は辛辣だった。

「……護衛失格やな。護衛する人間が対象から距離を取るやなんて常識外れやおませんか。
 ようそんなんで……無事やったもんや」
「攻める側も守る側も抜けていただけよ」
「……否定はせんがな」

千草の言うように護衛する対象から距離を取るなど、ボディーガード失格と呼ばれる行為を刹那はしていた。
事情を察した千草はやや呆れた様子で今までの事を思いつつ、もしかしたら本当に搦め手を使っていれば、あっさりと木乃香を掌中に収める事が出たのではない かと感じていた。

「おかげで私もケンカ売られたけどね」
「はぁ!?」

リィンフォースに対する牽制のような事件の詳細を本人から聞いて、千草の中の刹那の評価がまたも下がる。

「……狂犬やおませんか。詠春はんも学園長もなに考えていたんやろ?」

護衛する人間が敵を生み出すような真似をするのは千草にはとてもマトモには思えずに呆れた声が出る。
もし、この事件が酷い方向に捻じ曲がれば……間違いなく対象の木乃香に対する安全が一つ取り除かれると千草は考える。
少なくともリィンフォースはフリーランスの魔法使いで中立の立場ではあるが、目の前で事件が起きれば嫌々ながらでも手を貸す可能性のあるタイプだと感じて いたのだ。
そのリィンフォースに対して護衛の人間が独断で敵対行動をするなど、いざという時に味方になり得る人物を自分からダメにしているようなものだと呆れさせる しかなかった。

「ジジィは面白ければそれで満足しているんだろ。
 まあ、孫娘を第一に考えるヤツなら文句は言わんし、詠春も似たようなものだ」
「京都で高村さんが言ってたじゃない……組織よりも家族を優先したとか。
 公人としての立場より、私人の立場を優先して配置したんでしょ」
「状況を考えれば、間違いないかと思われます。
 少なくとも学園長はこの学園都市の警備が磐石な物と過信しているのは確かです」

身も蓋もない言い方ではあるが千草は否定する気もない。
確かに麻帆良学園都市の結界は魔の侵入を容易にさせないようにしているが、手の打ちようでいくらでも侵入出来る。
そして、人であれば……一般人を装って正面から入ろうと思えば簡単に出来そうにも見える。

「まあやり様によってはいくらでも穴を抉じ開ける事は出来ますわ。
 塀に囲まれた監獄やのうて、幹線道路や駅にチェック機構があったとしてもボロを出さなければ良いだけの話やし」
「一年に一回だけその監視が疎かになる期間もあるしね」
「フン、ここが戦場だという自覚がない正義の味方気取りのバカが多いからな」
「関西からの侵入者は減りましたが、全体から見れば二割減程度です。
 このまま浮かれて隙を見せれば、簡単に侵入されて手痛い出血をする事になると予測できます」
「別に良いんじゃないの。自分達の領土なら自分達の手で守るのがスジなんだから」
「そうだな。覚悟もないくせに戦いを選択する連中など痛い目を見れば考えも変わるだろうさ。
 天ヶ崎 千草、一つ覚えておくが良い。
 ここの連中はな、侵入者を殺す事が出来ないくせに戦場に立っている自覚のないバカが多いぞ」

エヴァンジェリンのニヤニヤと薄ら笑いを浮かべて話す内容に千草の頭痛はピークを迎える。

「なんやそれ? 負けたフリして、ザックリやられたらどうすんのや?」
「言ったろう……覚悟のない連中が多いとな。
 ここの連中は本当の意味での戦場で生き残る術を知らずに強くなったと勘違いしている奴らが多いのさ」
「厄介な人が多そうやな」
「ま、外様の私達はそれほど重要な場所の警備はないよ」
「そうおすな。うちらは所詮雇われ者ですから」
「その分、実入りは良くも悪くもないけどね」
「怪我せん程度やったらそんなもんとちゃいますか?」
「そうかもね」

適度に仕事をすれば良いと意見を合致させて千草とリィンフォースは笑っている。
二人にすれば、こんなところで全力で戦う意味を見出せないし、ある意味魔法使い達と仲良くしようとも考えていない。

「うちは顔繋ぎの相手が出来れば悪うないと考えますわ」
「良いんじゃない。美味しい話があれば、一声掛けるね」
「おおきに♪」

学園の警備など二人には重要ではなく、まあ財布の中身が増えればオッケー程度だ。

「あの爺さんをギャフンと言わせたいのよ」
「ああ、その気持ちよう分かりますわ。
 あのじいさん、遊び心が多過ぎて……公私混同しとるさかいな」
「まったくだ。あのジジィの遊びには付き合いきれんな」

心底嫌そうな顔で告げるエヴァンジェリンに全員の気持ちが近衛 近右衛門の悪ふざけへの嫌悪で一つになる。

「距離を取って必要以上に係わらないことをお勧めします」
「ケケケ、イザトナッタラ頭ヲカチ割ッテ真ッ赤ナ花デモ咲カセヨウゼ♪」
「うむ、悪くないな」
「そうだね。頭の整形でもしてあげて……余計な事を考えないようにさせよう」
「ま、何にしても悪ふざけが過ぎるご老人を黙らせるのも一つの手やな」

何気に悪に染まりつつある千草だった。
一見、小悪党にも見える千草だが……実のところ一本芯がきちんと出来ている。
自分の意思を貫き通すのなら、それ相応の代価を支払わねばならない事を理解し、傷つく事を恐れていない。


男だろうと、女であろうと一本のブレない堅い芯を持つ者が本当に強いのだとエヴァンジェリンは思っていた。






―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
EFFです。

南の海の話は二つの場面に分かれます。
海へ行った面子と行かなかったメンバーのそれぞれの話になるはずです(多分)
ただアスナとネギのケンカはありませんが。

それでは次回も刮目してお待ち下さい。





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