陽射しのキツイ砂漠地帯の空に突然黒い影が出現する。
激しい放電を行いながら黒い影は球体へと変化し、やがて一人の少年を砂漠へと放り出す。
地面に叩き落された少年はすぐさま立ち上がった。

ア チッ! アチ、チって! クッソォォ――ッ!!
 こ、これが弟子に対する仕打ちなのかよ―――ッ!!」

十分に熱された砂に飛び込み、慌てて立ち上がって火傷にはならなかったが、少年はこの状況に涙目であった。
見渡す限り、砂、砂、砂、そして柱のように聳え立つ岩しか周囲にはない。
少年はもう少し考えて、送り込んで欲しいと切実に思っていた。

「って言うか……ちぃはどこだ!?」

慌てて周囲を見渡して、もう一人居たはずの人物が居ない事に気付いて一気に血の気が下がっていく。

「ちぃ!? ま、まさか、別の場所に飛んだのか?
 お、おいおい……シャレにならんぞ!!」


自身の置かれた状況を徐々に理解して、少年の顔色は真っ青に染まっていく。

「マズイ! 絶対にマズイ!!
 ちぃはまだ何も魔法を使えないんだぞ!!」


自分の身を守る事さえ出来ない人物のみを案じつつ少年は、

「って、俺もデバイス持ってない!」

自身の所持品に考えを巡らして、今後の予定を考えようとしたが、

「―――っ!? いきなり砂蟲と戦えってかっ!?」

津波のように盛大に砂を巻き上げて現れた巨大なミミズのような昆虫と対峙する。
ドロリと口らしき部分から唾液のような物を吐き出し、少年に向かってくる。
胴回りというか、太さだけで二メートルを超え、全長は砂に隠れて定かではない。
自身の記憶の中にある砂蟲の情報を思い出して、少年は嫌そうな顔で砂漠を駆け出していく。

「確か派手な音と血の臭いに集まってくるんだったな」

魔法で倒すのはそう難しくないと思うが、問題は倒した後だった。
自身の知識の中にある砂蟲は同類の流した血の臭いでも集まってくるし、既にこの追走劇の騒音で惹かれている可能性がある。
一匹、二匹くらいならば問題はないが、繁殖力の旺盛な事も思い出して……嫌な予感しかしなかった。

「あのボケ師匠が! 帰ったら必ず文句を言うからな! 覚えてろ!!」

現状で戦うのは不味いと判断したのか、少年は最初から逃げを打つ。
当然の事ながら砂蟲と呼ばれた生き物は少年を逃がさないと言わんばかりに追いかけてくる。

「や、やっぱり、こうなんのか!!」

一匹の砂蟲の激しい動きが原因で周囲の砂が急に盛り上がり始めている。
自身の想像通りの嫌な展開が始まった事に少年はうんざりしていた。

―――ザザザザッ!!

波の音に似た砂が波打つ音が大きくなっていく。
非常に不本意だが、自身の生存を懸けた激しいデッドヒートの始まりだった。




麻帆良に降り立った夜天の騎士 七十四時間目
By EFF




いつもは色々と横道に逸れて中々進まない3−Aのクラス会議だが、今日は珍しく混乱せずに決まった。

「で、では今年の麻帆良祭はホラーハウスでよろしいですわね?」
『は〜〜い』

いつもよりやる気のない賛同の声が教室に響く。
クラスメイト全員がやる気がないわけではないが、明らかに面倒だと感じている者が力なく返事を返しているのだ。
議事進行を担っていた雪広 あやかはいつもこんなふうに決まれば楽なのにと真剣に思っている。
何故今回はこんなにもあっさりと決まったのかと問われれば、あやかは非常に嫌そうな顔をするだろう。

(……まさかネギ先生の元気がない所為ですわ、なんて言えません)

いつもは世間知らずと言うか、微妙に一般常識に疎いネギをからかっているのだと思えば、頭痛がした。
ネギをからかう事で本来の事柄から脱線し、いつも自分か、他の誰かが修正するのが3−Aの基本だ。
まだ本調子ではなく、微妙に暗い影を引き摺っている担任にムチを打つような真似は誰もしない。

(いえ、一部の人は傷口に塩どころか、ハバネロを磨り潰した物を嬉々として塗り込めそうですけど……)

冗談ではなく、本気でやりかねない人物を知っているだけにあやかはいつも以上の慎重さを胸に秘めていた。
本来は副担任である高畑先生がネギ先生のフォローをしっかりやらなければならないのに……相も変わらず出張中だ。
この辺りは担任だった頃をそう変わりがないだけにいつもは気にしなかったが、今年ばかりはそうは思わない。

(というか、丸投げ状態というのは如何なものでしょうか?)

ネギが赴任してから、副担任になっていた高畑はほとんど顔を出していない。
源 しずな先生がフォローをしているが、彼女自身も自分の担当するクラスがあるので十分なフォローが出来ていない。
事情を鑑みれば、何がしたいのかはあやかでも理解している。
経験不足のネギにより多くの経験を積ませるのが目的だとしても……もう少しフォローすべきだと言いたくなる。

(…………クラスの纏まりが今おかしくなりそうなのに)

チームワークのよさだけはどのクラスよりも優れていたと思っていた3−A。
ネギの心理状態の悪化が原因で何名かのクラスメイトからネギ先生への信頼度が薄れている。
教師としてのネギを信用していないとまではまだ行ってないが、頼りにならないと内心で思っている可能性だってある。

(よりにもよって一番変化が激しいのが超さんだなんて……)

人当たりもよく、好き嫌いというものがなかったはずのクラスメイト超 鈴音のネギを見る目が大きく変化している。
期待外れ、やはりこんなものだったかという失望感みたいな目で見ている事が多くなっている。

(……アスナさんも微妙に距離を取っている様子じゃありませんか)

元気爆発と言った感じのクラスのムードメーカーが沈んでいるとまでは行かないが、心ここにあらずみたいな様子で何かを考え込む時間が増えている。
普段あまり深く考えないというか、直感で動いている節があったアスナが思い悩んでいるのは異常事態かもしれない。
この時期なら想い人の高畑先生を麻帆良祭にどう誘うかで悩んでいるのかとクラスメイトは思っていたが、そうじゃなく別の事で頭が一杯らしいので心配してい る者もいた。
牽引役の一人がリタイヤ中の状態ではクラスの纏まりも元気も出るはずがない。

(……今年はダメかもしれませんわね)

あやかは深いため息を吐いて、クラス全体で楽しむのは難しいだろうと思っていた。




気だるい弛緩した空気の中、3−Aの生徒達はそれぞれ勝手に自分達に与えられた仕事だけを行う。
やる気のなさが完全に表に出て、面倒だなと思う生徒の方が多く見える。
それでも一応準備に参加して、用意を行う点は日頃にチームワークの良さかもしれない。

「ダリィな……別に不参加でも良かったんじゃねえか?」
「全くです。強制じゃないんですから、個人個人の部活のほうを優先するべきです」

長谷川 千雨の呟きに綾瀬 夕映が賛同する。
千雨の方は特に優先する事はないが、幾つかの部活を掛け持ちしている夕映の方は結構忙しいのかもしれなかった。

「綾瀬も言うようになったな」
「夕映でいいです。千雨さんこそ、何か約束でもあったのでは?
 何か時間を気にしてるみたいですが?」
「いや、そっちの方はいいんだよ。別に約束したわけじゃないからさ」

夕映は千雨が人と会うのではないかと思い、途中で抜けたらどうかと気を遣うが、千雨は手を振って気にするなと告げる。
意気投合したのか、二人の会話はざっくばらんな仲の良い友人のものだった。

「綾瀬じゃなかった、夕映もこの頃は妙に真面目っぽいな。勉強嫌いじゃなかったのか?」
「嫌いですが、必要最低限やっておけば、時間を取られる事がないと考え直しました」
「まあな、赤点取らなきゃ、追試も補習もしなくてすむもんな」
「そういう事です」

口を動かしつつ、二人はきちんと手も動かして自分の仕事をきっちりとこなしていく。
やる気が十分にあるのではなく、面倒な事はさっさと終わらせてしまいたいという感情で行動しているみたいだった。

「しっかし、あの子供先生もなんと言うか……しっかりして欲しいよな」

愚痴を零したわけでもなく、ただ現状を見て原因を指摘する。
3−Aの覇気というか、やる気が減少している元凶は腑抜けた状態のネギそのものなのだ。
空回りもするが、ネギは教師としての使命感に燃えて行動するのに周囲が引っ張られるのも事実だ。
周りのやる気が微妙にないのはネギを心配して、気持ちの行き場がバラバラになっていた。

「まあ、目を逸らしていた現実とようやく向き合って……ダメージを受けているのは事実です」
「そうなのか?」
「ええ、詳しくは言えませんが、自分がこう在りたいという理想と今の自分とのギャップが原因です。
 上ばかりを見過ぎて、足元にあった石ころに躓いて、転んで大怪我したようなものです」
「……よくあるパターンだな」

千雨は王道っぽい悩みだなと思いつつ、長引きそうな予感を感じていた。

「そもそもまだ十歳のガキが理想と現実の狭間で苦労すんのがおかしいだろ?」
「言いたい事は良く分かるですが、ネギ先生の場合は自分から早く大人になりたいのではないかと思うです」
「背伸びしたって良い事ばかりじゃねえと思うんだが?」
「私もそう思うですが、本人が願っている以上は周りが心配してもダメです。
 ネギ先生は意外と頑固で融通が効かないところがあるです」

夕映の指摘に千雨は深いため息を吐きながら頷く。
大人になりたがっているわりには妙にガキっぽい部分があるので厄介なトラブルを引き起こしている。

「微妙に空気読めない先生だからなぁ」

千雨はそのおかげで恥を掻いただけにまたトラブルに巻き込まれるのは絶対にイヤだと本気で思っている。

「ま、ああやって悩んでいるうちは余計な事しねえから大丈夫だな」
「いえ、そうそう悩んでいられるほど……現実は優しくないです」

楽観的と自分でも思っているが、千雨はしばらくはあのままでいて欲しいと切に願う。
ああしている間は特にトラブルも発生しないだろうと本気で考えていたのだが……現実は優しくなかったらしい。

「なんだよ、それ? また夜天が何かすんのか?」

千雨は自身の心の平安を乱す行動を良く起こすリィンフォースが苦手だった。
その為にまだドタバタ劇でもするのかと警戒していたが、

「リィンさんは何もしないです」

あっさりと夕映が千雨を安心させるように告げる。
夕映の一言に千雨はホッと安堵の息を漏らした。

「そっか、あいつが動くと大事になる気がすんだけど?」
「そうですね。リィンさんが本気で動けば……学園都市の滅びが来そうです」
「……いや、そこは否定してくれ。主に私の心の安息の為に」

夕映の肩に手を添えて、千雨は必死に頼んでいた。
絶対にありえないと本気で言いたいのだが、もしかしたらと否定できない部分がリィンフォースにはある。
ドタバタ劇の起きない退屈な日常を求める千雨は夕映の意見に泣きたくなってしまった。



絡繰 茶々丸は週に一度の楽しみである教会裏に住んでいる野良猫達の餌やりに足を運んでいた。
本当は毎日でも餌をやりたいのだが、野生の動物を餌付けするのは危険な事だとエヴァンジェリンに注意を受けた。
自力で獲物を確保出来なくなるし、必要以上に人に慣れ過ぎて悪意ある人間の悪戯を受けるかもしれないと警告された。
エヴァンジェリンの指摘に茶々丸は納得したわけではないが、間違ってはいないので週に一度と決めたのだ。

「久しぶりですね……こうして穏やかな時間を送るのは」

悪魔襲撃事件からバタバタと多忙な日が続いていた。
傷付いたリィンフォースも無事に回復し、ようやく大丈夫だと確信して、ホッと一息を吐く。
いよいよ麻帆良祭に向けて、所属する茶道部が主催する野点の準備もあって、忙しくなる前の息抜きだと判断する。
今年の学園祭は非常に重大なイベントがあるだけに気を抜く暇がないかもしれないと思っていただけに、今日はゆっくりとしたいと感じていた。

「小さかった子猫たちも元気に育ってきました。
 早ければ、麻帆良祭の後で出て行きますので……少し寂しくなるかもしれませんね」

軽やかだった足が少しだけ重くなる。
マスターであるエヴァンジェリンの行動に従うのは茶々丸にとっては当然の事だが、こうして自分なりの行動の結果から生まれた関係を切り捨てるのは少し…… 悩んでしまう。
これが自我の成長だと自身を作り上げた超 鈴音達は喜ぶかもしれないが、本人にはよく分からない。

「おや? 何か…………あったのでしょうか?」

いつもは静かな場所の教会裏が今日に限っては騒がしい。
猫が自分達の縄張りに侵入してきた何かを威嚇とまでは行かなくとも……警戒しているように感じる。
茶々丸は猫の警戒を含んだ鳴き声を耳にして、若干速度を緩めて注意して歩いて行く。

「…………エ?」

そして、自身の視界に猫が警戒するものを見た時、茶々丸の意識はフリーズした。
時間にして数分間、茶々丸は完全に無防備な状態に陥るほどに衝撃を受けた。

「…にゅ……にゅぅぅぅ………」

好奇心旺盛な子猫達が木の下で眠っている七、八歳の少女の頬を肉球でペシペシと叩く。
痛くはないみたいで、少女はその手が煩わしそうに可愛らしい声で唸る。

「……イイですね。実にイイ反応 をします」

自身がリィンフォースに毎朝している反応以上に可愛らしい動きに茶々丸はトリップ状態になっていた。
茶々丸は即座に手に持っていた猫の餌を用意して、猫達の注意を惹き付けると少女の元に向かう。
地面に膝をつき、恐る恐る手を伸ばして、茶々丸は少女の頬を突付く。

「…みゅ……みゅみゅぅぅ………」
「実に素晴らしい反応です。この破壊力は……リィンさん以上かも?」

もし鼻血が出るのならば、一リットル以上は出るかもしれないと茶々丸は思う程に興奮している。

「雪広さんもこんなふうに興奮するのでしょうか?」

ネギに対していつも過激な反応を見せる雪広 あやかと同じような反応をして……少し考え込むが、

「……問題ありませんね」

あっさりとスルーしてしまった。
そんな感じで茶々丸はメモリーに全力全壊で少女の様子を記録していると、

「……ん、んぅぅ……」
(うっかり起こしてしまいました……やはりマスターのうっかりが感染したのでしょうか?)

まだ十分に記録していない事を不満に感じつつ、とりあえず少女が迷子ではないかと考えて話をしようと考えていたが、

「……? チャ、 チャチャァァァァ―――ッ!!」

いきなり目を覚ました少女に抱きつかれ、茶々丸は混乱した。

(はて、何処かでお会いしたでしょうか?)

少女の様子から茶々丸は自分の事を知っていると判断するが、茶々丸自身には全く覚えがない。

(……こんなにもリィンさんにそっくりな少女を私が覚えていないのはあり得ませんが?)

抱きついている少女はリィンフォースを幼女化したと思えるほどに……そっくりだった。
これだけそっくりだと絶対にメモリーの中に記憶されている筈なのに全く記録がない。

(あ、でも……瞳の色は片方が違いますね)

左目だけは碧眼と呼ばれる淡く優しい輝きを見せ、右目はリィンフォースと同じ紅い眼だった。
とりあえず茶々丸は抱きついている少女を落ち着かせようと思い、優しく背中を撫でる事にした。
しばらくすると少女も落ち着き始め、茶々丸に全幅の信頼を置いているのか、まっすぐに見つめて微笑んでいた。

「チャチャ――」

べったり甘えてくる少女に茶々丸はまず名前を聞く事にした。
少女は自分の名前を聞いてくる茶々丸に吃驚しながらも、何度か口篭りながらも名前を告げた。

「―――――――――」

少女の名前を聞いた瞬間、茶々丸は可能性の一つを予想して、ある人物に新たに追加された機能を使用した。
空間スクリーンによる通信機能を展開し、その人物が画面に現れた時、

「超 鈴音、あなたを犯人です」
『…………スマナイ。いきなり犯人とは「リン姉さま!」――っ て! 何でちぃが此処にいるヨ!?』

茶々丸の言葉に途惑い、更に少女が画面に現れて思いっきり動揺する超 鈴音。
ありえないという気持ちがその顔から溢れ、動揺を隠し切れなかった。

「やはり、あなたが諸悪の根源なのですね」

茶々丸がその様子にやはり超が原因だったかと思い、非常に冷ややかな視線で見つめる。
超はそんな茶々丸に対して慌てて自分が原因ではないと否定した。

『そこ で断定しないで欲しいヨッ!!』
「リン姉さま……お腹すいた……

少女のお腹が可愛らしく音を立てた瞬間、

「お 任せを! この私が用意しましょう!!」

少女を優しく抱きしめていた状態で茶々丸が立ち上がる。
リィンフォースにそっくりな少女を泣かせるような真似は断じて出来ないというオーラが茶々丸から溢れ出していた。

「ホントっ!?」
「勿論ですとも! こ の絡繰 茶々丸に全てお任せください!!」

溢れんばかりの使命感を胸に滾らせた茶々丸が少女の願いを叶えようとしていた。

「チャチャ――だ〜い好 きぃ」
「その言葉があれば、この茶々丸は 如何なる困難をも解決してみせましょう!」
(いや、本当に……大丈夫なのカ?)

嬉しそうに少女は自分の頬を茶々丸の頬に擦り付ける。
そんな少女の行動に茶々丸は暴走気味だと超は真剣に思っていたが、敢えて口には出さなかった。
見ている限り、3−Aの委員長の暴走具合に似ているだけに迂闊に声を掛けるとヤバいと感じていたのだ。

『ア―――、材料はコチラで用意するから出来る限り誰にも知られずに連れて来て欲しいネ』

半ば投げ遣りみたいな形で超は一応の注意を出しておく。
万が一学園側がその少女の身柄を押さえたならば、遊び半分でやるわけには行かなくなると判断していた。

「承知しました。絶対に学園長には気付かせずに参ります」
「リン姉さま……兄さま、いない?」
『……ハイ?』

少女の問いに超の目は点になって呆然としていた。

「エヴァお姉さまがさいしゅう……しけんって言ってた」
『……そうカ』
「マスターが元凶ですか……ちぃさんを泣かせた時点でお仕置き決定ですが、今はちぃさんのお食事が最優先です」

少女の言葉に超は幼馴染の少年の苦労を感じて目を閉じて天を仰ぐ。
おそらくだが、少年は今も自分の側にいない少女の身を案じて不眠不休で探しているのだろう と思う。
その閉じられた目の端には薄っすらと涙が滲んでいた。
そう、自分が少女を保護した以上は少年の苦労は全くの無駄骨に終わるのだ。
超の予想では気力、体力の限界まで転移した場所に留まって探し続け、最後の最後に自分を頼るのだろうと感じていた。

(何処に飛ばされたか、分からない以上は……どうにもならないネ。
 スマナイ……無力な私を許して欲しいヨ)

茶々丸は少年の事は良く分からないが、自身の主が原因でこの少女がこの場所に独り放り出されたと思うと沸々と煮えたぎるような怒りの感情が出そうになって いた。
この後、茶々丸は少女を保護し、超の隠れ家の一つに隠密行動の果てに辿り着いた。




エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルは若干途惑いの表情で目の前の人物を見ていた。

「で、何の用だ?」

茶々丸を少し幼くした感じのガイノイドが不安そうな顔でエヴァンジェリンの前に立っている。

「ちゃ、茶々丸お姉さまの妹の絡繰 茶々美(からくり ささみ)です。
 お姉さまがどうしても外せない役目が出来たのでマスターのお世話を代わりに行うように仰せつかりました」

茶々美の言葉にエヴァンジェリンは顎に手を当てて少し考える。

「そうなんだ。何かトラブルでもあったの?」

考え中のエヴァンジェリンの隣で聞いていたリィンフォースが代わりに質問するが、

「いえ、私も詳しくは聞かせてもらえなかったんです」

茶々美も要領を得ないような答えで応じる事しか出来なかった。
事実、茶々丸は事情を決して話さずに濁すような事しか言わなかったのだ。

「で、でもお姉さま…………かなり不機嫌な御様子でした。
 マスター、一体何をしたのですか?」
「なに? 私が原因なのか?」

考え中のエヴァンジェリンも自分の事が原因ではないかと聞かされたので思考を中断させて顔を向けた。
茶々美は恐る恐る自分が持っていた茶々丸が書いた便箋を取り出す。

「内容は……マスターに対してかなり毒舌で書かれています。
 お姉さま、大激怒っぽい感じでした」
「へー、それは興味深いね」

今まで傍観に徹していたソーマ・青が身を乗り出すようにして、茶々美から便箋を手にした。

「中、読んで良いかい?」
「構わん、ついでも内容を聞かせろ」
「了解っと―――」

エヴァンジェリンが許可を出し、ソーマ・青は楽しそうな様子で手紙を読んでいくが、その表情は徐々に険しくなった。
そんなソーマ・青の様子からリィンフォースはエヴァンジェリンに目を向ける。

「なんか、すっごく怒っているような雰囲気じゃない?」
「待て、待て! 私は茶々丸を怒らせるような事をした覚えはないぞ!!」

ここ数日の自身の行動を慌てて顧みたエヴァンジェリンが即座に怒らせていないと反論する。

「いや、これ……相当怒っているみたいだよ。
 なんかさ、積もり積もった怒りが大爆発って感じだね」

一通り内容を目にしたソーマ・青が何をしたんだと言わんばかりの表情でエヴァンジェリンに顔を向ける。
流石に積もり積もったと言われてはエヴァンジェリンも自信を失ったのか、焦りを浮かべていた。

「じゃあ、読むけど……良いかな?」

最終確認としてソーマ・青が真剣な顔でエヴァンジェリンに尋ねる。

「……構わん」

問われたエヴァンジェリンは少し躊躇したが、結局頷いて答えた。

「待った、チャチャゼロにも聞いてもらって判断してもらわない?」

リィンフォースが読み上げようとしたソーマ・青に待ったを掛ける。
エヴァンジェリンは微妙な顔に変わり、ソーマ・青は良いんじゃないかと頷いてみせた。
しばらくして、茶々美がエヴァンジェリンの部屋からチャチャゼロを抱えて戻ってきた。

「ケケケ。ゴ主人、妹ヲ激怒サセタンダッテ?」
「覚えがない! 全くの誤解だ!!」

身に覚えのない冤罪と言わんばかりにエヴァンジェリンはチャチャゼロの軽口に反発した。
とりあえず関係者が全員揃った事でソーマ・青が真剣な表情で茶々丸からの手紙に目を向けて読み始めた。

「んじゃ、さっそく……親愛なるリィンさん、うっかりでうっかりなマスターへ「待て」「飛バシテンナ、妹ヨ」
 いや、まあ僕が書いたんじゃないからね」

文面通りに読んだだけと告げるソーマ・青に納得できない様子のエヴァンジェリンとカラカラと楽しそうに笑う最古の従者。

「二度入れるところがお姉さまの怒り具合を物語ってます」
「ケケケケケ、分カッテンジャネエカ」
「何やったのよ、エヴァ?」
「だから、何もしてないと言ってる!!」

文面の最初から毒を吐いているのでリィンフォースも不審気味にエヴァンジェリンを見つめる。
しかし、エヴァンジェリンには全然身に覚えがないので答えようがなかった。

「リィンさん、非常に申し訳ないのですが、マスターのうっかりのおかげでしばらく実家に戻る事になりました」
「……実家って超のラボ?」
「ケケケケケ。アレカ、三下リ半ッテカ、ゴ主人?」
「私のせいなのか!?」

ジト目でエヴァンジェリンを睨むリィンフォースとからかう気満々のチャチャゼロ。
流石にリィンフォースに睨まれた事でエヴァンジェリンは事態の深刻さを予感して焦り始めた。

「本当に申し訳ありませんが、代わりに妹を派遣いたしますので何かあれば頼って下さい」
「お姉さまに頼まれましたので、必ず不都合がないように頑張ります」
「よろしくね、茶々美さん」
「茶々美で構いません」

とりあえずリィンフォースの世話を任せる為に妹を派遣したという事が判明し、二人は仲良くしようと頭を下げた。

「料理に関しては私が覚えている全てのデーターをダウンロードしているので大丈夫だと思います」
「はい、お姉さまの貴重なデーターを頂きましたのでお任せ下さい」

姉から貴重なデーターを貰った事を茶々美は自慢げに話す。

「……私の事はどうでも良いのか?」
「茶々美、ついでにマスターの世話もお願いしますってさ」
「……お姉さまが優先順位を変更されて、マスターよりもリィン様を優先しないとダメみたいです」

茶々美が申し訳なさそうにエヴァンジェリンに事情を話して頭を下げる。
流石にプログラムを書き換えられてはどうしようもないと茶々美が話すとエヴァンジェリンは苛立った様子で黙り込んだ。

「マスターが我が侭を言うようであれば、ガーリックパウダーを口の中に放り込むように…だとさ」
「いや、絶対にしませんから安心して下さい」
「……ゴ主人、コイツハヤベェンジャネーカ?」

慌ててエヴァンジェリンの怒りを買わないように茶々美が手を振って否定し、チャチャゼロが真剣な様子で話す。

「…………ほ、本当に覚えがないんだが?」
「いや、茶々丸がここまで怒っているって絶対に何かしたんだよ」

ここまで暴言を吐く茶々丸にエヴァンジェリンは本当に自分が何をしたのかと思い、必死に自身の行動を顧み始めた。

「後、姉さんが酒を飲みすぎるようなら、中身を酢に換えて飲ませるようにって書いてあるぞ」
「何ダト?」
「それに関しては、酢でも飲んで頭を柔らかくした方が良いんじゃないかと真面目な顔で話してました。
 もっとも私はそんな事をする気はないですが」

流石に妹に酢でも飲んでろと言われたチャチャゼロもショックを隠しきれずに動揺していた。
チャチャゼロにまで飛び火した事でリィンフォースとソーマ・青の二人も事態に深刻さに顔を見合わせる。
この日より、エヴァンジェリンの従者に対する仕打ちの事で本人が大真面目に考え込む日々が続く。


……ただ原因は今の自分にではなく、未来の自分にある事を知らない為に無意味な苦悩とだと本人は知らなかった







―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
EFFです。

……この分だとまだまだ麻帆良祭に入れないような気がしてならない。
おかしいな……なんでこうなったんだろう?
ま、まあ、とりあえず流れに任せて書いて逝きますので、今しばらくお待ち下さい。

それでは次回でお会いしましょう。




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