「左翼は張飛隊! 右翼は関羽隊! 中央でご主人様と私が率います!!」
「敵軍の動きに合わせて全軍を停止。初撃を耐えて、反撃に移るのだ!!」
「本陣からの合図によって動くぞ。自軍の旗を見失うな!!」
「野郎共ッ!! 地と形勢を正しく読めよッ!! そうすりゃ必ず勝てる!!」

元親達が一斉に兵士達に向け、激励を飛ばす。
それと同時に虎牢関の正門が開き始めた。

「虎牢関正門が開門しました! 旗印は呂! 敵本陣ですッ!」

斥候の1人が悲鳴のような声で叫ぶ。
その報告を聞いた朱里が全軍に向けて指示を出した。

「分かりました! 全軍、速やかに展開してください!」 
「弓を構えろぉーッ!!」

愛紗の命令を聞いた兵士達が一斉に弓を構える。
全ての弓兵が構え終わったのを見て、元親が号令を掛けた。

「今だ! 奴等に良い物を見せてやんなッ!!」

元親の号令に合わせ、敵陣に向けて矢の雨が降り注いだ。
しかし董卓軍兵士は怯む事なく突撃してくる。

「お客さんだ! 野郎共ッ!! 手厚く歓迎してやんな!!」
「「「「オオオオオオオ!!!」」」」

ついに反董卓連合と董卓軍、最後の戦いが切って落とされた。

 

 

 

 

「ハァァァァ! ハッ!!」

敵を震え上がらせる戦人の声が戦場に幾度となく響き渡る。
その声を上げるのは愛用の青龍刀を振るう愛紗である。
一撃、二撃と繰り出される度に愛紗の気合いの声が響いた。

「どうしたどうした! そんな攻撃で私は討ち取れないぞッ!!」

青竜刀に董卓軍兵士達は斬り裂かれ、宙高くへ吹き飛ばされる。
戦神と呼んでも過言ではない勇猛な姿に、長曾我部軍兵士達の士気は自然に上がる。
愛紗は更に士気を上げる為に攻め手を緩める事なく、青竜刀を果敢に振るった。

「うりゃりゃりゃりゃりゃーッ!」

愛紗とは反対方向の場で戦うのは、戦場に不似合いな掛け声と共に暴れまわる鈴々である。
愛用の武器である蛇矛を操り、董卓軍が誇る勇敢な兵士達を次々に薙ぎ倒していく。
鈴々の活躍を見た長曾我部軍兵士達は、負けじと敵を確実に斬り倒していった。

「でぇーいッ!!」

そして中央では暴風よろしく、荒々しい攻撃が戦場を暴れ回った。
その暴風の発生源は長曾我部軍の主、長曾我部元親である。
右手に握られた碇槍が振るわれると、董卓軍兵士達は次々と命を落としていく。
董卓軍兵士達は迂闊に踏み込むことが出来ず、冷たい汗を流した。

「さあ、ドンドン来な! 鬼が喰らってやるぜ!!」

元親の挑発に激怒した董卓軍兵士が次々と踏み込んで行く。
戦場と言う荒れた中で追い詰められた者程、冷静な判断は出来ないようだ。
踏み込んだ兵士達は微笑を浮かべる元親の碇槍によって、絶命していった。

 

 

 

 

長曾我部軍と董卓軍が激突してから数時間が経とうとしていた。
董卓軍の猛攻を辛うじて凌いだ長曾我部軍は後退、徐々に戦線を離脱していく。
その様子を見ていた呂布と張遼が意外そうに眼を見開いた。

「…………逃げた」
「ホンマや、ドンドンと後ろに後退していくで。呂布ちん、どうするんや?」

補佐を任されている張遼が事実上の指揮官である呂布に問い掛ける。
呂布は少し考えるような仕草をした後、長曾我部軍が後退していった方を指し示した。

「…………逃げたのなら追う」
「追うんか? でも奴等の後ろには曹操や孫権の軍がおるで?」
「…………別に良い。敵は倒すだけ」

単純な呂布の考えに張遼は苦笑しつつ、手に持つ槍を扱いた。
その瞳は武人の物に変わっていた。

「呂布ちんがそう言うならウチもそうするで。でももし曹操と孫権の両軍に当たったら、呂布ちんは孫権の方を頼むわ。ウチは曹操の方を迎え撃ったるから」
「…………(コクッ)」

互いに段取りを決め、呂布と張遼は戦場へと赴いていった。
だがこの判断が今後の2人の運命を変える事になるのを、この時2人は知る由も無かった。

 

 

 

 

後退した元親達を追撃してきた董卓軍は現在、曹操と孫権の両軍と戦っていた。
朱里が立てた策が見事に成功したのである。

「ご主人様! 曹操軍と孫権軍が敵軍と衝突しました! 作戦は大成功です!」
「ああ。右翼の愛紗も、左翼の鈴々も無事で良かったぜ!」

長曾我部軍相手に勇敢に戦っていた董卓軍も、強国の誇る軍が相手では大人と子供だった。
元親がその結果に満足した表情を浮かべていると、戦場を偵察していた兵から1つの報告が入った。
何でも張遼と言う董卓方の武将が曹操軍に投降し、彼女の陣営に下ったらしい。

(ちっ……どうせなら董卓軍の内情を知ってる奴等全員を引き込みたかったが、上手くいかねえもんだな)

敵の武将を1人取られた事に元親は内心舌打ちをした。
だが現状を考えれば、1人の将が減ったと同じだ。
少しは有利に事が運ぶかもしれないが、あちら側にはまだ呂布が居る。
油断は禁物と言う事だ。

「これからどうすんだ? まさかこのまま見物って訳にもいかねえだろ」
「大丈夫です。ちゃんとそこは考えてありますよ、ご主人様」

朱里が元親に得意そうな笑顔を向ける。
その笑顔の裏にまたも深い考えを見て取った元親は、意地の悪い微笑を浮かべた。

「頼もしいな。んで、その考えってのは?」
「はい。虎牢関の城門へ私達が一番乗りするんです」
「一番乗り?」

朱里の言葉に元親が少し首を傾げる。

「成る程……城門に一番乗りを果たせば、我々が奮戦した意味もあると言う物だ」
「?? どう言う事なのだ?」
「つまりね、士気が高い今の私達なら城門に一番乗りして門を開ける事が出来る。更にその勢いに任せれば、虎牢関を落とせるかもしれないって事だよ。そうすればご主人様の名も挙がるし、長曾我部軍も有名になります」

朱里の詳しい説明に元親と鈴々が「オオ!」と歓声を上げた。
2人の大袈裟な反応に、朱里の頬が少し赤く染まる。

「大胆で良いじゃねえか。裏方役ばっかしじゃあ、飽き飽きしてた所だ。城門をぶち破って、大暴れしてやるか」
「私も賛成です。我々の名を高める好機、一気に攻めましょう!」
「鈴々もまだまだ暴れたいのだぁーッ!!」

朱里の提案は、満場一致で賛成だった。
元親、愛紗、鈴々がやる気を出す中、朱里は冷静に合図を下す。

「それでは行きましょう! 全軍、前進して下さい!!」

朱里の合図と同時に、元親達は城門に向かって行軍を開始した。
名を挙げるため、他の勢力に力を見せる為に――

 

 

 

 

城門前に辿り着いた元親達は城門を突破する準備を始めた。
どの軍が先に城門を破壊し、虎牢関一番乗りを果たすのか――
どの軍も相手の狙いは同じだと分かっている為、ガムシャラに攻撃を仕掛ける。

だが長曾我部軍が誇る天才軍師の朱里が、その混乱している場の中で冷静に機会を窺がっていた。
その一瞬のタイミングを朱里の瞳は見逃さなかった。

「今ですッ! ご主人様! みんなと一緒に門を開けちゃって下さい!」
「おう! 任せておきな! 行くぜ、野郎共ッ!!」
「了解ッス! お前等、力を出し切れぇーッ!」
「兄貴に恥を掻かせるなよぉーッ! 行けぇーッ!!」

朱里の合図と共に元親は碇槍を、兵士達は太い丸太の先端を虎牢関の城門に叩きつけた。
その結果――城門の巨大な鉄扉は無残にも破壊され、ゆっくりと城内へと倒れていった。
それを見た兵士達は歓喜の声を露わにし、一斉に虎牢関内部へと突入していく。
虎牢関一番乗りを果たしたのは――朱里の思惑通り――長曾我部軍であった。

城門を突破し、元親達が虎牢関内部へ赴くと、剣と盾で入念に武装した董卓軍兵士が迎え撃っていた。
相手もやられっぱなしでは済まさないと言う気がヒシヒシと伝わってくる。
だが数も士気も勝る長曾我部軍兵士相手では、敵が倒れるのも時間の問題である。
そして何人かの兵士達が戦線を潜り抜け、敵本拠の砦へと侵入しようとした時だった――

「ギャアーッ!」
「ヒ、ヒィ! 助け……助けてくれッ!」
「ギャッ!?」
「い、嫌だ! 死にたくない! 誰か……誰か助けてくれぇーッ!!」

その兵士達が砦の前で突然、悲痛な叫びを上げて絶命した。
元親、愛紗、鈴々、朱里は砦の前に立つ人影に視線を移す。

その人影は日焼けした肌と、血のように赤い髪と目を持った女性だった。
その手には巨大な“戟”と呼ばれる武具が握られている。

「あれが……」

元親が確信したような声を上げる。
身震いするほどに剥き出しになった殺気と闘気。
あの女性こそ、どの勢力も戦いたがらなかった――

「……呂布」

董卓軍が誇る狂気の武人――呂布。
呂布は無表情のまま、ゆっくりと戦線へと向かってくる。
その異様な姿に長曾我部軍の兵士達は心の底から怯えていた。

「成る程な……どいつもこいつも戦いたがらない訳だぜ」

元親もまた、肌で感じる呂布の強さを前にして鳥肌が立っていた。
こんなにも鳥肌が立つのは、瀬戸内での決戦以来である。
元親は自身が感じている物が恐怖なのか、興奮なのかは分からなかった。

元親がそんな事を考えていると、颯爽と呂布の元へ駆け出した者が居た。
元親はその姿を見て、驚愕に眼を見開いた。

「貴様ッ! この先は通さんぞ!」
「……誰だ?」
「我が名は関羽! 長曾我部が一の家臣なり!」

愛紗の名乗りを聞き、呂布が一瞬ハッとした表情になる。

「……お前が関羽」

呂布が手に握られている戟を構え、元から大きかった殺気と闘気を更に増幅させる。
その様子に愛紗は顔を顰めたが、負けじと自分も闘気を高ぶらせた。

「クソッタレが……鈴々!」

愛紗の行動を見ていた元親が、愛紗と比較的距離が近い鈴々を呼んだ。
その声には焦りの色が含まれている。

「お、お兄ちゃん……?」
「愛紗の所へ行け! 愛紗1人で戦わせるな!! 今回ばかりは相手が悪い!」
「で、でも……」
「こっちは心配すんな。俺が前に出て敵をぶっ倒す! 倒したらすぐに俺も助けに行く!!」

元親の言葉に、鈴々は深く頷いた。

「……分かったのだ! 後はお願い、お兄ちゃん!」
「ああ。お前等2人が一緒に戦えば負けねえ。信じてるぜ!」

元親は鈴々も呂布打倒に向かわせ、戦意が萎えかけていた兵士達に激を飛ばす。

「何ビビってやがんだ、野郎共ッ! 俺に付いてくりゃ大丈夫だ! 俺を信じろ!!」

元親の激励に兵士達が元親を一斉に見る。
その瞳には失い掛けていた闘志が戻り始めていた。

「アニキ……」
「そうだ……兄貴に付いて行きゃ、間違いはねえんだ!」
「俺達には、兄貴達が付いているんだ!」
「「「「オオオオオオオオ!!!」」」」

元親は士気を取り戻した兵士達と共に前線へと突撃した。
兵士達と同じく、呂布に怯えていた朱里も元親の言葉にやる気を取り戻したらしい。
元親に続く兵士達に向けて陣形の指示を出し、勝つための布石を打っていた。

 

 

 

 

「……来い」

呂布の感情を感じさせない声が響く。
その声に応えるように愛紗が青竜刀を構えた。

「行くぞッ!!」

愛紗が一気に呂布との間合いを詰め、青龍刀での連撃を浴びせ掛ける。
だが呂布は簡単にその攻撃を見切り、全てを弾き返した。

「――――ッ!? くっ!!」

愛紗の表情が、驚愕の面持ちに変わる。

「……こんなものか」

対する呂布が期待外れだと言わんばかりの声を出す。
その言葉は愛紗の武人としての心に大きく響いた。

「何の、これからだッ!!」
「…………甘い」

愛紗が再び振るった青竜刀の連撃を呂布は容易く弾き返す。
呂布の取る単純な動作からは、考えられない程に正確な動きだ。

「ぐっ……!」

弾き返された際の衝撃で、愛紗の手が軽く痺れた。
呂布の武人としての驚異的な技量を感じ、愛紗は思わず顔を顰めた。

「……弱い」
「くっ……! 私が弱いだと……!」

これまで愛紗は武において敗北するなど考えた事も無かった。
だが呂布の強さを前にして、その可能性が出てきていた。
愛紗が唇を強く噛み締め、悔しさを露わにする。

そんな時、愛紗の背後から迫る影があった――

「愛紗〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!」
「鈴々ッ!? 何をしに来た!」

突然の援軍に愛紗は驚きを隠せない。
そんな彼女に鈴々は悪びれも無く言った。

「お兄ちゃんから頼まれて、愛紗の助太刀に来たんだよ」
「ご主人様の……」

愛紗は元親の家族を想う心が嬉しいと感じる同時に悔しいとも感じた。
自分だけでは力不足と決められたようなものであり、無理も無かった。
1人の武人である愛紗として、悔しがるのも当たり前の事だった。

「悔しがってる暇は無いのだ。今はコイツをどうにかしないと駄目なのだ」
「…………ああ、そうだな」
「お兄ちゃんが言ってたのだ。鈴々と愛紗が一緒に戦えば負けないって……」

鈴々が、元親から言われた言葉を噛み締めるように、愛紗に向けて吹いた。
その言葉を聞いた愛紗は、自然と身体中の闘志が湧き上がるのを感じた。

「…………2人纏めて相手をしてやる。どうせ負けない」

呂布が2人に向けて闘いの続きを促す。
2対1と言う不利な状況にも関わらず、負けない自信があると言う呂布に愛紗は感心した。
しかし決してこの戦いに負ける訳にはいかないのだ。

「負けない……か。それはどうだろうな。その言葉は私達の武を受けてから言うのだな!!」

愛紗が呂布へ宣戦布告をしたのと同時に、鈴々が呂布へと跳び掛かった。

「とりゃああああああッ!」

蛇矛による渾身の一撃は速くて鋭く、そして力強かった。
だが呂布はその一撃を戟で何とか受け止めた。

「くっ……!」

初めて感じる手の痺れに、呂布は表情を僅かながら歪ませた。
だが渾身の一撃を放ったつもりの鈴々にとって、信じられない光景だろう。

「わわっ!? 受け止めたのだ!」
「慌てている暇は無いぞ。ここで私達が呂布の足止めをするのだからな!」
「うんッ! 了解なのだ!!」

愛紗の激励にも似た声に、鈴々の闘志が自然と高まる。
3人の激闘は、まだ始まったばかりだった――

 

 

 

 

「おらぁぁぁぁぁッ!!」

呂布を愛紗と鈴々に任せた元親は、前線で兵士達と共に董卓軍兵士達と戦っていた。
元親は外見はいつもと変わらず、豪快に碇槍を振るっている。
だが内心はかなり焦っていた。

狂気の武将と言われた呂布を相手にしているのだ。
いくら愛紗と鈴々がかなりの武勇を誇るとは言え、不安は残る。
一刻も早く敵兵を片づけ、2人の援護に行ってやりたかった。

「喰われたくないなら逃げちまいなッ!! 度胸のある奴だけ掛かって来い!!」

元親はそう叫ぶと同時に、鎖に繋がれた先端を大きく振るった。
逃げ切れなかった敵は死の風車に巻き込まれ、絶命する。

しかしまだ終わらない。
董卓軍兵士は頑なに抵抗を続け、元親達へ突撃してきた。
しつこいと感じつつも、元親は碇槍を振るう。

何時の間にか大量の帰り血が元親を真っ赤に染めていた。
無論、多くの命を奪い去った碇槍も血に染まっている。

「へへっ……鬼は鬼でも、今の俺は地獄への渡し船を出す鬼か……」

元親は自嘲気味な笑みを浮かべつつ、敵兵を薙ぎ払っていく。
今は地獄の底に住む鬼でも構わない。
大事な仲間の家族の愛紗と鈴々が救えるのなら、何にでもなってやる。

そんな決意が、元親を固めていた。

 

 

それから暫くして、元親はようやく抵抗していた敵兵全てを倒したのだった。
そして初めの目的を達した元親はすぐさま愛紗と鈴々が居る前方に視線を移す。
そこには今も刃を必死にぶつけ合う、3人の戦う姿があった。

元親は碇槍に飛び乗り、愛紗と鈴々の元へと向かった。
呂布との最終決戦が迫っていた――





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