比較的広い王室で激しく、華麗に舞う2つの人影――
彼等が持つ武器が組み合う度に火花が飛び、金属がぶつかり合う音が響く。
そして互いに相手を圧すべく、自然と口から気合いの雄叫びが放たれた。

「おおおりゃあああ!!」

2つの人影の内の1つ――長曾我部元親が愛用の碇槍を力のままに振るう。
頑丈で太い鎖に繋がれた槍の先端部分が標的を狙って飛んだ。

「ふんッ……!」

もう1つの人影――毛利元就は慌てる事なく、自分を狙う碇槍を愛用の輪刀で弾く。
元親が弾かれた先端を戻している隙を見逃さず、元就は輪刀を構えて駆け出した。

「散れッ!」

その言葉と共に元親へ詰め寄った元就が構えていた輪刀を上へ向けて薙ぎ払った。

「ちっ……!」

戻しきれなかった先端をそのままにし、持ち手で振るわれた輪刀を辛うじて受け止める。
耳を劈くような音が響き、元親は顔を顰めた。

「相も変わらずしぶとい奴よ……」
「へへっ……悪ぃな。鬼は意外と悪運が強いんだよ!」

最後の言葉と共に元親は右足に力を込め、元就の腹部目掛けて勢いよく蹴りを放つ。
吸い込まれるように蹴りが腹部に突き刺さり、元就は衝突されたように吹っ飛んだ。

「ぐっ……がっ……!」

地面を2、3度転がり、元就は腹部を襲う痛みに激しく咳き込んだ。
咳が収まった後、元就はこちらを見つめる元親を恨めしく睨み上げる。

「貴様ぁ……!」
「戦いってのはよう、得物で打ち合うだけじゃねえだろうが」

知らないとは言わせないばかりに元親は微笑を浮かべる。
元就にとって彼に対する憎悪を更に燃やすには十分な物だった。

「海賊風情が……我に戦事を垂れるつもりか!」
「ああ? 気に障ったかい? 日輪の申し子さんよ」

元就が唇を強く噛み締め、ゆっくりと立ち上がる。
それから輪刀を2つに割り――特異な刀に姿を変えたそれを――両手で構えた。

「…………殺す!」

それ以上の言葉は要らないとばかりに元就が再び駆け出す。
元就の激しい憎悪に燃える瞳が全てを物語っていた。

「だから言ったろう……やれるもんならやってみな!」

元親もそれを黙って見ている訳ではない。
元就と同じ時に駆け出し、正面から迎え撃った。

「先手必勝ってかぁ!!」

元親は駆けつつ、碇槍を正面の元就目掛けて横に薙ぎ払う。
莫大な風が起こったが、討ち取った手応えが全く無かった。

「甘いわ!」

瞬時に体勢を低くし、攻撃を避けた元就が片方の輪刀で元親の右肩を斬り裂く。
辛うじて身体を引っ込めたのが幸いしたのか、肩から腕を斬り落とされる事は無かった。

「この――――ッ!」
「まだ終わりではない!」

元就の叫んだ声と共にもう片方の輪刀が続けて振るわれた。
鋭い光を放つ鋸のような刃が元親の左頬をやや深く、眼帯を浅く斬り裂いた。
元親は反撃に転じようとしたが、元就が素早く後退した為に叶わなかった。

「良い格好だぞ……無様でな」

血を流す元親を嘲りつつ、2つに割った輪刀を構える元就。
左頬と右肩を斬られた元親だったが、自分にとって気にする程では無かった。
頬から出る鮮血を手で拭い、元親は微笑を浮かべる。

「やってくれるぜ。顔の傷の仕返しのつもりかい?」
「…………自惚れるな。まだまだこれからよ」

元就の身体から、殺気と憎悪が溢れ出す。

「貴様は既に我が手の内。貴様が苦痛に泣き叫ぶ図は我の眼には見えている」
「へっ……鬼が手の内に大人しく納まってると思ったら大間違いだぜ?」

碇槍を肩に掲げ、そう言い放つ元親。
既に彼の身体には斬られた痛みは走っていなかった――

 

 

 

 

一方、元親に言われ、屋敷からの脱出を目指していた愛紗達は――

「せい!!」
「ハアアアアア!」

思わぬところで足止めを喰らってしまっていた。
屋敷から出れる扉まで後もう少しと言うところで白装束が現れたのである。
更にその中には左慈と袁紹の姿もあり、難戦を極めた。

「ここから生きて帰さんぞ! 貴様等も、そして長曾我部もな!!」
「黙れ! 我等もご主人様も決してここで死にはしない!!」

左慈の蹴りを青龍刀で受け止め、愛紗は言い放った。
その後にすぐさま左慈を力任せに押し返し、青龍刀を素早く突き出す。

「当たってはやれん!」

左慈が地面を蹴って後ろに跳び、青龍刀の猛攻を難なく避ける。

「くっ……! チョコマカと……!!」
「それは貴様とて同じ事!!」

愛紗と空けた距離を左慈は再び地面を蹴って詰めた。
そしてその勢いと共に愛紗の顔面目掛けて蹴りを放つ。

――鈍い音が響いた。

「――――ちっ!!」

左慈が憎々しげに舌打ちをする。
自身の放った蹴りは青龍刀によって又も受け止められていた。

「私とて貴様の攻撃は当たってやれんぞ?」

愛紗が微笑を浮かべ、左慈をあからさまに挑発する。
左慈の額に密かに青筋が浮かんだ。

「上等だぜ……長曾我部の操り人形が!」
「外道に人形呼ばわりされる言われは無い!!」

愛紗の青龍刀と左慈の蹴りが再びぶつかり合った。
互いに譲れぬ目的の元、2人の闘志は尽きていない。

彼等のすぐ隣で戦う星と袁紹もまた同じだった。

「オーホッホッホッホッホ! 大人しく私に斬られてしまいなさい!!」

甲高い笑い声と共に袁紹の黒長剣が星の胴体目掛けて振るわれる。

(ちっ……意外に重い!)

星は槍で上手く避けて反撃しながらも、袁紹の実力に内心驚いていた。

(袁紹……武人としての実力は地を往く物だと聞いていたが、これ程とはな)

袁紹の剣の実力は噂が嘘に思える程に鋭く、素早かった。
時折こちらの腕が痺れるくらいの力で剣を振るってくるのである。
人の噂は全くもって頼りにならない、星は槍を持つ手に力を込めた。

「やりますな、袁紹殿。私も段々と燃えてきました」
「オホホホホ! ならそのまま燃え尽きてしまいなさい!」
「ふっ――――御冗談を!!」

星は微笑を浮かべた後、構えた槍を突き出した。
袁紹に反撃へ転じる間も与えず、連続で素早く突きを繰り出す。

「あっ……くっ……! 生意気な小娘ですわね!!」
「貴方程ではありませぬ故!」

槍の名手である星の攻撃を袁紹は辛うじて受け止めている。
皮肉を言いつつも、彼女は反撃の機会を窺っているようだ。

(どんな修練を積んだのかは知らんが……貴様からは一太刀も受けぬ!)

連続突きを一旦止め、横に薙ぎ払って袁紹との距離を取る。
星は少し乱れてしまった呼吸を整え、再び攻撃を開始した。

 

 

「せい!」
「ぐおおおお!?」

甘寧が常備している短剣を手に、襲い掛かって来た白装束の1人を斬り倒した。
愛紗と星が戦っている間、甘寧は自分達に向かって来る白装束を相手にしていた。
彼女の背後には孫権と陸遜、瀕死の重傷を負って気絶している周喩の姿がある。

彼女達を守る為にも、甘寧は決して退く事は出来なかった。
そして早くここを突破し、周喩を手当てしなければならない。

「甘寧ッ!」
「孫権様ッ! 私の後ろに居て下さい! 必ず守りますから!」

甘寧は先程斬り倒した白装束が持っていた長剣を手に持ち、短剣をしまった。
正面で鎌を構える2人の白装束を前に甘寧は闘気を放つ。

「悪は滅ぶべし……」
「業火に焼かれて消えるべし……」

白装束は闘気に怯える事なく、徐々に甘寧へと迫る。
そして――2人は一斉に駆け出した。

「甘くみるなッ!!」

甘寧はそう言い放ち、長剣を構えて駆け出した。
その途中、しまっていた短剣を手に持ち、勢いよく投げつける。

「ぎゃあああ!」

投げつけられた短剣が1人の額に深々と突き刺さった。
悲鳴と共に向かって来た2人の内の1人がゆっくりと倒れる。

「貴様もだッ!」
「――――ッ!?」

向かって来た白装束を甘寧は擦れ違い様に長剣で腹部を斬り裂く。
腹から溢れる鮮血と臓物に白装束は激しく痙攣した後、倒れた。

「くっ……まだ来るか!」

先程2人倒したばかりだと言うのに、再び姿を現す白装束。
甘寧は内心で舌打ちしながらも、長剣をゆっくりと構え直す。

後ろに居る孫権達の為、戦っている愛紗達の為、諦める訳にはいかない。
己の力が続く限り戦い続けようと思った、その時――――

「――――ッ!? 何だ!?」

それは本当に突然だった。
何処からか爆発するような音が屋敷内へと響いたのである。
戦いを続けていた者達が思わず手を止め、辺りを見やる。

(…………干吉の奴、とうとう始めたか)

ただ1人、左慈だけが今の状況を理解していた。
そして――自身の相方がそれを始めた事さえも。

 

 

 

 

王室で行われる元親と元就の激しい戦いは互角だった。
互いに一歩も譲らず、大きな隙を見せず、組み合う。
2人から無くなっていくのは純粋に体力だけだ。

「――――ッ!? な、何だ!」

そしてここでもまた、屋敷の異変に気が付いていた。
爆発音が耳に響き、元親は思わず辺りを見回す。

「ふっ……ついに始まったか」

元就は1人静かにポツリと呟いた。
どうやら彼は今の状況が分かっているらしい。
元親は元就を睨み付け、問い掛ける。

「何だと……? 何が始まったってんだ!」
「告げた筈よ。この屋敷を業火が包み込むと」

元就は両手に輪刀を構えつつ、言葉を続ける。
碇槍を構えながらも、元親はその言葉に耳を傾けた。

「今の音が合図よ。間も無くこの屋敷は燃えて無くなるのだ」

元就の静かな笑い声が元親の耳に届く。
その不気味さに元親が内心で舌打ちをする。

「…………成る程な。それじゃあ急がねえといけねえ」

元親は碇槍の先端をゆっくりと元就に向けた

「あんたをぶっ飛ばすのに時間を掛けてちゃいられねえ。一気にカタを着けるぜ!」
「愚か者が……貴様が勝つ事は決して無いのだ。最早この戦の結果は見えている」

元就は余裕の表情で告げた。
しかし元親にとってその言葉は戯言と同じだった。

「結果は最後まで分からねえ。最初から結果が分かってたら苦労はしねえんだよ!」
「戯言よ。それに貴様をこの世から消し去った時が、我が元の地へ帰る合図となる」
「な――――ッ!」

元就の言葉に元親は驚きに眼を見開く。
何故なら彼の最後の言葉が印象に残ったからだ。

「元の地へ帰れるって……テメェ、それはどう言う事だ!」
「ふん……約束事よ。我と白装束とのな」
「何…………!」

白装束との約束――
元就は自分を殺す為だけに協力していたのではなかったのか。
元親は己の心に湧き上がった疑問を抑えずにはいられなかった。

「白装束の連中が俺達を天界へ戻せる力を持ってるってのか!」
「そうでなければ我はあんな怪奇集団と手は組まぬわ」

当然だと言わんばかりに、元就は答えた。
彼の態度に元親は忌々しげに唾を吐き捨てる。

「へっ……俺の命と引き換えに、あんたは元の地へ帰るってか。良い根性をしてるぜ」
「――――黙れ!! 海賊風情が!」

元就が憤怒の表情で元親を怒鳴り付けた。
彼の変わりように元親は少しだけ驚く。

「貴様はこの地の真実を知らぬのだ! 貴様が蹂躙する、この地の真実をな!」
「ここの真実だと……?」
「そうだ! 我は白装束と手を組んだ後、この地の真実を知ったのだ!」

輪刀の刃を元親に向け、元就は怒気が含まれた言葉を続けた。

「この偽りに塗れた地を……存在してはならぬ地をな!」
「…………」

元親は自然と耳を傾けていた。
元就の言う、この地の真実と言う言葉を――



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