「もうすぐこの物語も結末を迎える。それが外史の運命……」

泰山の頂上へ続く道を守る城塞――その屋根の上に于吉は腕を組みながら立っていた。
真下を見下ろせば、自らが作り上げた傀儡達と長曾我部軍が激闘を繰り広げている。
しかし状況はこちら側が若干不利。名のある武将達相手に傀儡は少し力不足らしい。
だが傀儡は斬り倒されようが、叩き潰されようが、貫かれようが、何度でも蘇れるのだ。
彼等は“傀儡”と言う名の通り、人ではない。自分が少し手を加えれば無限に生み出せる忠実な兵士達なのだ。

猛将と言えど、所詮は人間。何時かは息切れの時が必ずやってくる。
その時こそが、数では圧倒的に勝っているこちら側の勝利なのだ。

「せいぜい死力を尽くし、戦おうではありませんか。物語に花を添える為にね……」

そう呟いた後、于吉は懐から人の形に切り取られた紙型を取り出した。
それ等に1つの命を吹き込むように、自身の名を筆で中心にゆっくりと書き込んでいく。
書き終わった途端――紙型が白い煙を上げたかと思うと、それは于吉の姿に変わっていた。

「身体が3つもあると便利な物です。これで全ての相手が出来るのですから」

紙型から生まれた2人の于吉の内、1人は右側を向いていた。
その方向には長曾我部の援軍として駆け付けている魏の軍勢が居る。
どうやら彼は魏の方を相手にするらしい。

そして残ったもう1人は左側の方を向いていた。
言わずもがな、そこには魏軍と同じ目的で駆け付けている呉の軍勢が居る。
それぞれ自分達が相手をする軍が決まり、于吉達は妖しい微笑を浮かべた。

「ではお互い頑張りましょう。最後の花を添える為に」

その言葉が合図だったかのように3人の于吉は一斉に屋根から跳び立った。
1人は孫呉、1人は曹魏、そして最後の1人である本物は――長曾我部だ。

 

 

 

 

于吉が城塞から跳び立ってから数十分後。
長曾我部軍の援軍として駆け付けていた孫呉軍は思わぬ足止めを喰らっていた。
順調に歩を進めていた孫呉軍の前に、突如として白装束の大軍が現れたのである。
この事態に孫呉軍は直ちに布陣を展開――白装束と正面から激突したのだ。

「そこを退けえ! 孫呉の道を阻む者は命を無くすぞッ!!」

手にした長刀を振るって広大な戦場を駆け回るのは、孫呉が誇る剛の者“思春”である。
本来は孫権――蓮華の護衛を務める思春ではあるが、この事態に彼女も駆り出されたのだ。
そして彼女の背中を守る為に“弓腰姫”と謳われる小蓮が矢を立て続けに放っていた。

「シャオ達の邪魔をするんなら、容赦はしないんだからぁ!!」

得意の弓矢で迫る白装束達を射抜き、次々と絶命させていく。
しっかりと心の臓や頭を撃ち抜いている辺り、彼女の腕前が窺える。

2人が前線で兵を率いて戦っている間、後ろでは蓮華達が指揮を執りながら戦っていた。
呉の知将である冥琳と穏は軍師の務めを果たしつつ、兵達を前へ前へと進軍させていく。
師弟関係で結ばれる2人は1度も食い違う事は無く、己の持つ才能を存分に発揮していた。
大軍を相手に己の才能を存分に発揮出来るのは、兵法家としてはこの上ない喜びである。

――そんな中、白装束と呉兵の中を颯爽と駆け抜け、彼女達の元へ迫る影が1つ。
少しズレてしまった眼鏡を指で直しつつ、影は蓮華達の前へ悠然と姿を現した。

「――――貴様は……!」
「どうも……御久しぶりです」

影――于吉が不気味な笑みを浮かべ、頭を軽く下げて挨拶をした。
蓮華はそれに答える事は無く、代わりに剣を構えて殺気を放った。

「良い戦になりましたね。物語の結末には相応しい物です」
「……黙れ。戦に良い物も、悪い物も無い」

姉を殺し、冥琳を言葉巧みに陥れ、孫呉を壊滅させようとした男――憎い敵だ。
更に彼女同様、于吉の姿を見たのか、冥琳も蓮華の元へ駆け寄り、剣を構えた。
彼女も于吉にしてやられた恨みがある。殺気は蓮華よりも激しい物だった。

「会えて嬉しいぞ。貴様をこの手で討つ日を、どれだけ待ち侘びた事か……」

冥琳は微笑を浮かべているが、内心は激しい怒りに燃えているのが分かる。
穏に全指揮権を渡してでも、この男だけは自分の手で討たねばならない――
その強い決意は身体中から出ている殺気が物語っていた。蓮華も同じだった。

「ハハハハ、実に光栄ですね。これまで私が糸を引いてきた甲斐があります」
「雪蓮姉様の仇……今こそ取ってやる! 覚悟しろッ!!」

彼女達の宣戦布告に対し、于吉は嬉しそうに両手を広げた。

「来なさい……! この宴を更に、共に盛り上げましょう!!」

戦いが始まった。最早3人の戦いに割って入れる者はここに居ない。
勝つのは一体どちらなのか――それはまだ誰も知る由も無かった。

 

 

 

 

蓮華と冥琳が于吉と決闘を開始した丁度その頃。
曹魏軍も突如現れた白装束の大軍と激闘を繰り広げていた。
慌てる事なく部隊を展開して布陣を組み、効果的に迎え討つ。
現在の状況は言うまでも無く、魏軍が白装束を圧倒していた。

そして魏軍統率者である華琳は――

「ハアアアッ!!」

既に2人目の于吉と決闘を始めていた。
彼の細い首に狙いを定め、華琳は愛用の大鎌を勢いよく振るう。

「フッ……!」

それに対し、于吉は素早い身のこなしで絶命必死の攻撃を避ける。
彼の動きはまるで舞を舞っているかのように華麗だった。

(やれやれ……接近戦はこちらが不利ですね)

小柄な体格には似合わない大鎌であるが、華琳はまるで手足のように操っている。
流石は元魏王、そして覇道を歩まんとした女だ――于吉は彼女を改めて評価した。
対する華琳は大鎌を構えつつ、于吉を嘲笑うかのような態度を取った。

「どうしたの? 逃げてばかりじゃ私を殺せないわよ?」
「近づきたいところですが、貴方の鎌がそれを許してくれませんのでね」
「当たり前よ。あんたみたいな下衆を、簡単に近づけるとでも思った?」

華琳は忘れてはいない。自分を意志の無い人形の如く操り、利用した事を。
毛利元就は元親に倒されてしまったが、術を掛けた張本人は眼の前に居る。
彼女は彼を生かして帰す気は更々無かった。

「覚悟なさい。生きている事を後悔するぐらい痛め付けてやるから」
「…………それは怖い。貴方に1人で挑むのは失敗でしたかねえ」
「言っておくけど、手下を待っているなら無駄よ。何故なら――」

――自分が一番信頼する部下達が、懸命に白装束達を蹴散らしているから。
華琳は静かにそう言った。

春蘭、秋蘭、季衣の猛将3人が武を振るい、軍師の桂花が知で敵の陣形を制する。
魏の将軍達は伊達ではない。主が1対1を望むなら、嫌でもその状況を作り出す。
今まさにそれが成されていた。

「成る程……私への援軍は期待出来ませんか」
「そう言う事。さあ、早く続きを始めましょうか」

刹那、同時に2人は地面を勢いよく蹴った。
華琳は大鎌を、于吉は拳を、己の敵に放つ。
――血が地面に飛び散り、土を赤く染めた。

 

 

 

 

再び場所は変わり、泰山への道を塞ぐ城塞前――長曾我部軍は力の限り戦っていた。
謎の白い煙が消え失せた途端、白装束の大軍が彼女達の前に次々と姿を見せたのだ。
皆が一斉に驚愕の表情を浮かべた事は言うまでもない。

何より彼女達を不安にさせたのが、元親が忽然と居なくなってしまった事である。
兵士達の士気が落ち掛けたが、愛紗達が必死に激励をし、士気低下を何とか防いだ。
主の安否を思いつつ、愛紗達は迫り来る白装束を一斉に迎え撃ったのだった。

「うりゃりゃりゃりゃりゃ!!」
「ドオリャアアアアア!!」

鈴々と翠が武器を振るい、迫る白装束を蹴散らしていく。
鈴々が蛇矛で横に薙ぎ払い、翠が十文字槍で斬り裂く。
だが白装束は2人の覇気に怯む事なく、飛び掛かった。

「そこを退くのだぁ! 鈴々達は鈴々達の世界を早く救うのだ!!」
「そうだ! こんなところであたし達はくたばる気はない!!」

飛び掛かってきた白装束を薙ぎ倒し、2人は吠えた。

「右の陣が手薄になりました! 第2、第3部隊は進軍! 一気に攻め崩して下さい!!」

更に辺りには兵士達に指示を出す朱里の声も響き渡っている。
そんな彼女達の近くで戦っていた霞と桜花も互いに白装束と奮戦していた。

「こりゃ呆れるわ。斬っても斬っても湧いて出てくる。まるで虫やな」
「だが諦める訳にはいかないぞ。この世界の運命が懸かっているんだ」

桜花がその一言と同時に向かってきた白装束の顔面を斬り裂いた。
血飛沫を上げ、顔面を真っ二つに斬られた白装束はゆっくりと倒れる。
悲鳴の1つも上げなかった事に不気味さを感じ、桜花は肩で息をした。

「へえ……やるやないか!」

霞が桜花の剣捌きに関心しつつ、竜槍で白装束2、3人を薙ぎ倒す。
2人は自然と背中を合わせ、互いに身を預けていた。

「ヘマやらかすなや。今は誰も助けてくれないんやで?」

霞の言葉に桜花は心外と言った様子でフンと鼻を鳴らした。

「侮るな。自分の身くらい、自分で守れる!」

彼女の返事に気を良くしたのか、霞が微笑を浮かべた。

「その意気や。絶対に死ぬんやないで」
「…………そう言うお前もな。霞」

そう呟く2人の姿は、まるで長年共に戦い続けた戦友のようだった。
そんな2人の周りを白装束が容赦無くゆっくりと取り囲んでいった――

 

 

残る長曾我部軍の猛将達は一体どうしているのか――
彼女達は蓮華、華琳達と同じく、于吉と対峙していた。
御分かりだと思うが、この于吉は紙型ではなく本人である。

「さて……貴方達の御相手は私が務めましょうか」

眼鏡を人差し指で上げ、于吉は静かに呟いた。
対峙する愛紗、星、紫苑、水簾、恋は猛将としての面持ちを浮かべている。
これ以上無いと言うぐらいの相手である。于吉は内心で戦意を高ぶらせた。

「貴様1人で私達の相手をすると言うのか? 舐められた物だ」

愛紗が己の内に煮え滾る怒りを吐き出すように言った。
彼女の持つ青龍刀もそれに応えるかのように輝いている。
今の彼女なら巨岩が立ち塞がろうと、斬り倒せそうだ。

それは星、水簾、紫苑も同じだったらしい。愛紗と同等の怒気が彼女達を包み込む。
残る恋はいつもと変わらぬ冷静沈着な面持ちだが、内なる闘志は燃え滾っている。
しかし于吉は飄々とした態度を崩さず、彼女達に向けて言った。

「さあ始めましょう。この世界の運命を懸けた戦いを!!」

于吉が両腕を上げ、宣告する。
愛紗達が自然と武器を構えた。

「私を倒せば、貴方達の愛する長曾我部にも会えますよ……」

于吉がそう呟いた瞬間、愛紗が雄叫びと共に飛び掛かっていた。
残酷な輝きを放つ青龍刀が真正面に立つ于吉目掛けて振り下ろされる。
命中すれば確実に彼の身体を一刀両断し、死に至らしめる事だろう。
だが何時もの冷静さを欠いた乱暴な彼女の攻撃は当たる事は無かった。

「遅いですね……!」

于吉が華麗に避け、愛紗の腹部に素早く拳打を放つ。
その狙いは正確で、まるで彼女が自ら攻撃を吸い寄せているようである。
まともに喰らってしまった愛紗は少量の胃液を吐き、地面を転がった。

「貴様ッ!!」

星が槍を、水簾が戦斧を、恋が戟をそれぞれ振りかざし、于吉へと向かって行く。
その後方から紫苑が弓を構えて彼に狙いを定め、矢を次々に放った。

「フハハハハッ!! そうです、そうですよ! 踊りましょう、結末の時まで!!」

狂気の笑い声を上げながらも、于吉は彼女達の正確な攻撃を避けていく。
その過程の中、冷静に出来た隙を窺い、己が鍛えた拳打を素早く放った。
思いの他かなりの強敵だ――この場に居る者達全員がそう思った。

 

 

 

 

泰山頂上・祭壇内部――2人の男の激しい戦いは既に始まっていた。
2人の内、1人の男――長曾我部元親は瀬戸内海ではそれと知られた剛の者である。
彼の持つ碇槍の一撃は海の巨大な人食い鮫さえ一撃で絶命させる程の威力があった。
だが信じられない事に、その自慢の碇槍が軽々と弄ばれてしまっていた。

「遅いんだよ! マヌケがッ!!」

もう1人の男――左慈は元親が放つ碇槍の一撃を軽々と蹴り飛ばし、無力化していた。
左慈の戦闘は蹴りを主体とした格闘技である。故に彼は自慢の足技を徹底的に鍛えた。
その結果が今の状況である。最早左慈の脚力は常人が及ぶところでは当になくなっていた。
一種の化け物と言って良いだろうか、それは元親が鬼と呼ばれるのと同じような物だった。

「このっ――」
「遅いって言ってんだよ!!」

元親が諦めずに一撃放とうとした時、左慈がそれより素早く反応した。
高速の上段3段蹴り――蹴りの最初の1発目で元親の一撃は弾かれた。
そして2発目が元親の顎を痛烈に蹴り上げる。彼の足下が宙に浮いた。

「死ねッ!!」

左慈がその一言と共に足下から浮いた元親の側頭部を最後の3発目が痛打した。
まるで頭部が砕けたのではないかと言うくらいの激痛が元親を容赦なく襲う。
そして彼の身体は体重などを無視し、軽々と柱へ向けて吹き飛ばされた。

「どうだ! 長曾我部元親ッ!!」

勝ち誇った笑みを浮かべ、声を上げる左慈。
実際に手応えはあった。死んでもおかしくはない。

だが――

「まだまだだぜ、クソガキ……! 俺を殺すにはまだ足りねえ……!」

額と唇の端から流れる血を拭い、微笑を浮かべる元親。
彼は意識が続く限り、戦いは決して止めたりはしない。
それが一軍を率いる将――強者の務めだからだ。

「くっ……しつこい野郎だ。そのしぶとさには敬意を払ってやるぜ」

左慈が額に青筋を浮かべつつ、構えた。

「なあ、1つテメェに訊きてえ……」
「…………何だ。俺に殺される前に訊いておきたい事があったのか」

左慈の皮肉を無視し、元親は彼に問い掛けた。

「テメェはどうして俺をそこまで眼の敵にする? 俺がそんなに憎いのか?」
「……………………」

左慈は元親からの問い掛けに暫く黙った後、ゆっくりと口を開いた。
最初に「良いだろう……」と呟いた後、憎悪に満ちた眼を浮かべる。
それは全て元親に向けられていた。

「教えてやる! テメェの存在が気に食わねえんだよ!」
「…………俺の存在が気に食わねえだぁ?」
「そうだ! テメェの生き方、志、何もかも全てだ!!」

左慈の言葉の1つ1つが、元親にはまるで呪詛のように聞こえた。
それ程までに彼の憎しみは凄まじいのである。寒気がする程に。

「貂蝉から聞いただろう? 俺達はこの外史を管理する為に生まれた存在だ。ただそれだけの為にだ。俺達に他の生き方は存在しない。この外史が死ぬ時は、俺達も運命を共にするんだ。最初はそれでも良いと思っていた。貴様がここに現れるまではな……!!」

左慈が拳と唇を噛み締める。
薄らと血が滲み出ていた。

「貴様は何にも囚われずに自由だった。武将達に囲まれ、民に囲まれ、太守としての仕事に押し潰される事なく、笑顔でのうのうと暮らしていた。…………ムカつくんだよ!! 使命と言う鎖に縛られず、自由に生きている様を見せつけられるとなぁ!!」

左慈が地面を蹴り、立ち尽くす元親の右頬を蹴り飛ばす。
呻き声1つ上げず、元親は地面を勢いよく転がった。

「貴様のような奴に俺達の気持ちは分からねえだろ!! 決められた道を進むしかない俺達の気持ちが!! この外史を管理すると言う鎖に縛られ、抗う事すら出来ない俺達の気持ちがぁ!!」

左慈はゆっくりと歩き、倒れる元親の首を掴んで無理矢理立ち上がらせた。
だが――

「くっくっくっくっく……」

元親は笑っていた。口から血は零れているが、それでも笑っている。
左慈は信じられないような面持ちで元親を見つめた。

「な、何を笑ってやがる!? 何が可笑しい!!」
「笑えるぜ……運命に抗えないとか抜かしやがるからな」

元親は真剣な眼差しを左慈に向けた。

「決められた道しか進めねえだぁ? んな物はなぁ、テメェの両足をブッた切ってでも違う道へ這いつくばって進みゃあ良いんだ! それが真剣に抗うって事なんだよ! テメェの場合は最初から諦めて、抗う事を放棄してるだけなんだよ!!」
「だ、黙れ!! 口を閉じろ!!」

左慈の顔に狼狽の様子が浮かぶ。
元親は彼の言葉も聞かず、言葉を続けた。

「何度でも言ってやるぜ。テメェは臆病なだけだ。抗った結果が怖くて逃げてんだよ!!」
「黙れって言ってんだ!! 今すぐに黙らねえと、その歯を全部へし折ってやるぞ!!」
「黙ってたまるか。俺は我慢て奴が大嫌いでね。言いたい事は言わせてもらうぜ……!」
「黙れええええ!!!」

左慈が右拳を振りかざし、元親の歯を折ろうと勢いよく放った。
しかしそれは元親が咄嗟に動かした左手で軽々と止められた。

「――――くっ!」
「覚えときな。運命なんざ――」

元親が右手に持った碇槍を地面に落とし、左慈と同じくゆっくりと振りかざした。
左慈はすぐさま離れようとするが、自分の右拳を掴む元親の左手がそれを許さない。
刹那――

「クソくらえだ」

元親の振りかざした拳が真っ直ぐ左慈の左頬へ直撃した。
微かな悲鳴を上げ、左慈は勢いよく地面を転がった。
左頬に激痛が走る。鈍器で直接殴られたかのようだった。

「運命は変えられるんだよ。今まさに俺達がそれを成そうとしてるだろうが」

地面に落とした碇槍を拾い、元親はそれを肩で揺らした。
左慈は血を拭い、憎悪と殺意に満ちた瞳で元親を睨む。

「こ、殺す……絶対に殺してやる!! これで終わりにしてやる!!」
「俺もそのつもりだ。テメェの悪態はもう聞き飽きたからな……!!」

両者がゆっくりと構える。この場が静寂な空気へと変わった。
次の一撃で全て決まる。どちらかが勝ち、どちらかが負ける。
勝利か敗北か、はたまた生か死か――刹那、一陣の風が吹いた。

「ハアアアアアア!!!」
「オオオオオオオ!!!」

両者が地面を蹴り、その場から駆ける。
一瞬にして、両者の影が交わった――

 

 

「ぐっ……グボォ……!?」
「ガ……かはぁ……うっ……!」

元親が、左慈が、互いに苦しい呻き声を上げる。
それは見た者が思わず眼を瞑るような、凄惨な光景だった。
元親の碇槍が左慈の腹部を容赦無く貫き、血を滴らせている。
そして左慈の懇親の蹴りが元親の胸部を捉え、命中させていた。

2人は2、3度呻き声を上げて血を吐いた後、ゆっくりと後ろに倒れていった。
左慈を貫いた碇槍は自然に抜け、元親の胸に命中していた蹴りも自然と離れた。
左慈の腹部には穴が、元親の胸には蹴りの跡がくっきりと残っている。

――2人はそれから呻き声を上げる事も、血を吐く事も無かった。

 

 

後書き
第63話をお送りしました。決戦模様、如何だったでしょうか?
大学が忙しくなってきた分、遅れ気味ですが、御容赦下さい。
さて残すところ、後2話です。最後まで御付き合い下さるよう、お願いします。

具体的な感想があれば、感想メールフォームに書いて送ってくれると嬉しいです。
では次話でまたお会いしましょう!




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