「装備は? 食料も万全?」

イーシャが隣を歩くオールに確認する。

「大丈夫だ。ちゃんと買い込んである」

肩に掛けている大きめの袋を揺らし、証明する。
それを見たイーシャが安心そうに頷いた。
今回のギルドの依頼は、少しばかり長旅になる予定だ。

内容は、アミラル街に住んでいる家族への手紙配達。
エンシャントからアミラルへは、南に進んで10日ほどで到着する。
万一の時の事を考え、装備や食料も万全にしていなければならない。

「よ〜し! じゃあ目的地のアミラルへ向けて出発♪」

2人の前を元気溢れる笑顔を浮かべながら、ルルアンタが歩いている。
数日前に仲間に加わった彼女だが、もうすっかり慣れてしまっていた。
これもルルアンタの太陽のように明るい性格が成し得た事かもしれない。

「ふふ、ルルアンタ。はしゃぎ過ぎると転ぶわよ?」

「だいじょ〜ぶ♪ ルルアンタ転ばないもん」

そう言って意気揚々と進むルルアンタだが、イーシャの警告通り、数歩進んだ所で転んだ。
その後、すぐさま起き上がったルルアンタが、気まずそうな様子で後ろの2人を見つめる。

「ああ、やっぱり……」

「何をやっている……」

あまりにもベタベタな光景にイーシャは苦笑し、オールは軽く溜め息を吐いたのだった。

 

 

「オールッ! そっちに行ったよ!」

ルルアンタが叫ぶ。
相手をしていたモンスターが、突然標的を変えたのだ。

「分かった……!」

ルルアンタの呼び掛けに、オールが剣を構えながら答えた。
下級モンスター・ピクシーが、鋭利なダガーを握り、オールへ襲い掛かる。
相手が突き出したダガーの刀身を受け止め、オールが力任せに振り払った。

「後は任せて!」

ピクシーがその衝撃に怯んだ所を、背後からイーシャが短剣で斬り裂いた。
少しの悲鳴を上げた後、斬り裂かれたピクシーが煙のように消滅していく。

「大勝利♪ やったね」

「ええ、でも油断してたわ。背後から襲ってくるなんて……」

突然背後から襲われたが、無事に追い払う事が出来たので、一同が息を吐いた。
旅の途中、又は依頼遂行中の際は、こうしてモンスターに出会う事は多々ある。
特に依頼者護衛中の時は、今回のような不意打ちは注意しなければならない。

「ここから先の道にも、モンスターはゾロゾロ居るのか?」

腰に剣を提げつつ、オールがイーシャに訊いた。

「沢山は居ないと思うけど……注意しておいて損は無いわね」

オールとルルアンタが頷き、目的地への移動を再開する。
期日にはまだ余裕があるとは言え、モンスターの相手ばかりしている訳にもいかない。
これから先、不意打ちを喰らわないように注意しながら、一同は移動するのだった。

 

 

 

 

月が闇を照らす夜――大きな木の下に、休むのに丁度良い場所を見つけた一行。
今日はここで一晩を過ごす事にした。夕食も手早く済ませ、後は就寝するだけ。
今日の夜の見張りは、オールが務める事になった。

「よく眠ってるわ。元気良くはしゃいでいたせいかしら?」

イーシャが隣で布に身体を包み、気持ち良さそうに眠るルルアンタを見つめた。
彼女は“リルビー”と言う、見た目は人間の子供と同じと言う変わった一族である。
成人になる年齢は10歳であり、ルルアンタはもう13歳。立派な成人なのだ。
しかし寝顔を見ていると、とても成人とは思えない程に可愛らしい物があった。

「リルビーか……初めて見たし、ルルアンタから詳しい事を初めて聞いた」

「リルビー族は然程珍しくないわ。冒険者になる者も居るし、働いている者も居るのよ」

「そうなのか……」

ルルアンタ曰く「リルビー族は屈強なドワーフ族の次に数が多く、繁栄してる」らしい。
更に彼等は毒などと言った物に耐性が強く、その特性を活かして冒険者にもなるとの事。
無論、ルルアンタも例外ではなかった。

「何にしても、ルルアンタは心強いわ。治癒の魔法にも長けているし」

「そうだな……」

「でも最初貴方が彼女を連れて来た時は、何事かと思ったけどね……」

イーシャの言葉に対し、オールが少し顔を顰めた。

「意味は分からんが、心外な事を言われている気がするのは何故だ?」

「ふふ……分からなくても良いわ。今の私の言葉は忘れてちょうだい」

そう言うとイーシャは布を取り出し、自身の身体を包んだ。
そしてゆっくりと、眠っているルルアンタの隣に寝転ぶ。

「お休みなさい、オール。見張り番を宜しくね」

「ああ……ゆっくり休め。しっかり務めは果たす」

「ええ、期待しているわ……」

イーシャはそう言った後、ゆっくりと瞼を閉じた。
暫く経つと、ルルアンタの寝息に混じり、イーシャの寝息も聞こえてきた。
どうやら彼女もルルアンタ同様、眠りに就いたらしい。よく眠っている。

オールは燃え盛る焚火の炎を見つめながら思っていた。

(見張りと言うのも、なかなか暇なものだな。大切な役目ではあるが……)

焚火から視線を外し、オールはオルファウスから借りた本を袋から1冊取り出した。
焚火を見つめ続けるのもいずれ飽きるし、こう言った時間に本は非常に役立つのだ。
剣を何時でも構えられる場所に置きつつ、オールはページを開き、本に意識を向けた。

「ふむ……魔法は精霊力を鍛えれば使えるのか。だが基本的な事を学ばなければ――」

見張り番を務めるオールの夜は、こうして更けていった。

 

 

 

 

翌朝――気持ちの良い日の光が、大陸全てに朝を告げる為、一斉に照らした。
野宿をしたオール達も例外ではなく、横になっているイーシャとルルアンタの顔も照らす。
眩しい光を顔面に当てられ、彼女達は少し呻きながら、ゆっくりと閉じていた瞼を開けた。

「起きたか……」

眼を覚ました彼女達を、オールが不機嫌そうな表情で迎える。
しかしこれは彼のいつもの顔なので、2人は気にしていない。

「ふあ……おはよう、オール」

「ふみゅう……ルルアンタ、まだ眠いよぉ」

小さい欠伸をしつつ、イーシャとルルアンタは眼を軽く擦った。
どうやらまだ寝起きの瞼が言う事を聞いてくれないらしかった。

「特に異常は無かった。よく眠れて何よりだ」

「ええ、ご苦労様。次の見張りは私がやるわね」

「宜しく頼む」

イーシャが微笑むと、朝食の支度へと取り掛かった。
ルルアンタも彼女を手伝いながら、オールに声を掛ける。

「朝食はルルアンタとイーシャが作るから、オールは少し寝てても良いよ」

「それもそうね。オール、ほんの少しでも睡眠を取っておいた方が良いわ」

夜中をずっと見張をしてくれた彼を気遣い、睡眠を取るよう勧める2人。
しかしオールは首を横に振り、彼女達の気遣いを断った。

「ありがたいが、大丈夫だ。眠くないからな」

「え〜……少しでも寝ておいた方が良いよ?」

「大丈夫だと言っている。それよりも手が止まっているぞ?」

オールにそう指摘され、ルルアンタは止まっていた手を慌てて動かした。
イーシャはそんな彼に苦笑しながらも、内心は彼を心配していたりする。
表面上は平気そうだが、本当はどうなのだろうか。やはり辛いのではないのだろうか。

(全くもう……パーティのリーダーが倒れたら、シャレにならないって言うのに)

だがそう言った所が“彼”に少しだけ似ていた。
自分が方々探し回っている、あの“彼”に――

 

 

 

 

エンシャントを出発してから10日後――オール達一行は、アミラルへ到着していた。
アミラルは他の街と比べ、比較的小さい街並みであるものの、かなりの賑わいがある。
特に港も備わっているせいか、海に生きる漁師もよく訪れているらしい。

「やっと着いたねえ。今日はここの宿で泊まるの?」

「ああ、その予定だ。イーシャもそれで良いか?」

「私もそれで構わないわ。暫く野宿が続いたし、今日ぐらいはベッドで眠りたいものね」

「よし。じゃあギルドを探して手紙を届け、報酬を貰うとしよう」

オールとルルアンタが足並みを揃え、ギルド探しに赴く中、イーシャだけは違った。
突然彼女が彼等とは別方向に歩き出したのを見て、オールがイーシャに問い掛ける。

「どうしたイーシャ。何処へ行くんだ?」

「あ……ゴメンなさい。オール、悪いけど私、今から別行動をしても良いかしら?」

ルルアンタが彼女の言葉に首を傾げる中、オールはイーシャの行動に見当が付いていた。

「俺と初めて出会った時に言っていた……男を探しにいくのか?」

「…………」

イーシャは答えず、無言のままだ。
その態度を見たオールは、彼女に背を向けた。

「宿を取っておく。探し終えたら、そこに来い」

オールはそう言うと、そのまま先へ進み始めた。
ルルアンタはイーシャを気にしつつも、彼の後を追う。

「ちょ、ちょっとオール! 待ってよぉ!」

2人が遠ざかっていくのを見送った後、イーシャは呟くように言った。

「ゴメンなさい……」

 

 

 

 

「オール! オールってば!」

「何だ……少しは静かに出来ないのか?」

目的のギルドを見つけ、手紙を渡した2人は、約束通りの報酬を受け取った。
その後、一休みをしようと酒場を探す中、オールはルルアンタの質問攻めにあっていた。
自分の周りを歩きながら、声を掛けてくる彼女に、彼は少々ウンザリしているようである。

「イーシャの事が気にならないの? せっかく同じパーティだって言うのに……」

「気には掛けている。だがあいつはあいつの考えがあるから、俺達に言わないんだろう」

オールの言葉に、ルルアンタが頬を膨らました。
どうやら彼の答えが、彼女には不満らしい。

「それでも声を掛けるのが、仲間って言うんだよ。オール、イーシャに何か、ルルアンタ達に出来る事が無いか聞いてみてよ」

「……安易に俺達が関わって良い事ではないと思うぞ? あいつにはあいつの考えが――」

「オールは頭固すぎッ! 表情だけじゃなく、性格まで固かったら、ホント絶望的だよ!」

「……何が絶望的なんだ」

そんな会話を繰り広げながら、2人はようやく見つけた酒場に入っていく。
だがその中では、普通の酒場には有るまじき光景が広がっていた。

「俺達冒険者の事を馬鹿にする気か! この小娘ッ!!」

「さっきの言葉を撤回しろ! 俺達に謝りやがれ!!」

「あ〜ら、何を怒っているのかしら? 私はただ、事実を言ってあげただけよ。こぉ〜んなに、つまらない世界を真顔でうろついて冒険? ホント笑わせるわ! 下らない!」

1人の女性が、多数の冒険者らしき男達に囲まれながら、彼等に罵詈雑言を浴びせていた。
オールとルルアンタは、酒場の出入口で佇み、思わずその光景に見入るのだった。

 

 


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