とある農村――兵に恐れを成した村人は武器を捨て、悲鳴を上げて逃げていく。
小十郎は溜め息を吐くしかなかった。これでもう村の暴徒鎮圧は5回目である。
ここに来て急に各地の農村に住む人々が反乱を次々と起こし、暴挙に出ていた。
それ等を華琳は兵を出し、全て鎮圧させていた。そしてその後に残るのは必ず――

「また黄色い布か……」

小十郎は周囲に散乱している黄色い布を、徐に1枚拾い上げた。
辺りに散らばっている布は、全て村人達が頭に巻いていた物だ。

(あれか? 三国志の序盤に出てくる……)

そこまで考えた所で、背後から殺気を感じた小十郎は、素早く背後に刀を振るった。
背後から鍬で襲おうとしていたらしい――喉に刀を突き付けられた村人は固まっている。
無論、彼も頭に黄色い布を巻いている。全て逃げたと思っていたが、残っていたらしい。

「失せろ……ッ! テメェの手は、血で染める為にあるモンじゃねえだろうが……!」

小十郎がそう一括すると、村人は身体を震わし、鍬を捨てて逃げ出した。
辺りを見回し、残っている者が居ないか確認した後、小十郎は刀を収めた。

「片倉様ッ! 御無事ですか?」

1人の兵が慌てた様子で小十郎の元へ駆け付けた。

「ああ、こちらは片付いた。他の奴等はどうした?」
「はっ。夏候惇様、夏候淵様、許緒様共に御健在です!」
「そうか。追撃部隊がこちらに戻ったら合流するぞ」

兵が姿勢を正し、元気良く返事をした。
まだ若いが、よく働いてくれる若者だ。
こう言った逸材は、伊達軍にも欲しい所である。

(まあ、雰囲気に慣れるかどうかだがな……)

小十郎は拾い上げた黄色い布を懐に入れ、他の仲間達と合流する為に走った。

 

 

 

 

「そう……やはり黄色い布が」

その日の朝議も、今回の暴徒鎮圧の報告から始まった。これで5回目である。
春蘭、秋蘭、季衣――彼女達が相手をした暴徒達も黄色い布を所持していた。
小十郎は持ち帰った布を華琳に渡し、以前と同じ相手だったと言う事を示す。

「まるでダダを捏ねるガキだ。暴れるだけ暴れて、鎮圧されるんだからな」
「その例えは尤もね。明確な目的は不明……桂花、そちらはどうだった?」
「はっ。各地の諸侯に連絡を取ってみましたが、何処も対応に手を焼いているようです」

華琳が軽く溜め息を吐くと、桂花に続けて問い掛けた。

「何処の諸侯も私達と同じ、か……具体的には?」
「はい。ここと、ここと、それからこちらも……」

桂花はそう呟きながら、丸机に置かれた地図に小石を次々置いていく。
なかなか広い地域で暴れているようで、密集している所は少なかった。
小石を置き終わった後、桂花は思い出したように言った。

「それと、敵の首領は張角と言うらしいですが……正体は全くの不明だそうです」
「正体不明? ますます訳の分からない集団ね」
「はい。捕らえた賊を尋問しても、誰1人として話さなかったとか……」

敵の首領の名前が分かっても、正体が不明では――。
一同が思わず溜め息を吐き、対応に頭を悩ませる。

「剣を振り上げれば逃げるクセに、それだけは口を割らぬか。何やら気味が悪い」
「何か変な取り決めでもあるんでしょうかね? あいつ等の間に……」

季衣がそう言った後、小十郎はポツリと呟くように言った。

「やはり黄巾党、か……」
「知っているのか? 片倉」

秋蘭が訊くと、小十郎は軽く頷いて返事を返した。

「まあ、名前ぐらいは――」
「ならそれ以上言わなくて良いわ」

小十郎の言葉を遮るように、華琳が口を開いた。
そして、華琳が小十郎を睨むように見つめる。

「天の国の技術や知識は確かに興味深いわ。だけど歴史その物は、こちらの世界で完全に再現されている訳ではないのでしょう?」
「まあな……」

本来、三国志の登場人物は殆どが男性だ。が、今の所はほぼ全員が女性となっている。
このまま進んで行けば、いずれ会うだろう蜀や呉の武将も、女性となっている確率が高い。
こう捻じ曲がっているなら、事件の見掛けは同じでも、根本的な理由は違うかもしれない。

「明確な理由や根拠の無い情報は判断を鈍らせるわ。そんな物、占い師の予言と同じよ」
「この前、占い師の予言に結構な謝礼を与えた奴と、同じ奴とは思えない言葉だな……」

小十郎の皮肉めいた言葉に、華琳が微笑を浮かべる。

「あれは私個人の問題。外れた所で笑い話よ。……けれど国の問題は、占いで解決させる気は無い」
「そう言う事か。まあ、好きにしてくれ……」

投げ槍気味に言うと、華琳が満足げに鼻を鳴らした。

「まあ、敵を呼ぶにも名前は必要だわ。黄巾党と言う名前は貰っておくわよ?」
「さっき言った筈だ。お前の好きにすれば良い……」
「そうさせてもらうわ。それで皆、他に新しい情報は無い?」

華琳にそう訊かれ、皆が一斉に首を横に振る。
どうやらこれ以上、新たな情報は無いようだ。

「ならば優先すべきは情報収集ね。張角と言う者の正体も確かめないと――」

華琳がそう言い掛けた時、会議場に1人の兵が慌てて入ってきた。
汗だくの姿を見ると、相当に焦っているのが嫌でも窺える。

「会議中失礼致します!」
「言え。一体何事か」
「はっ! 南西の村で、新たな暴徒が発生したと報告が。また黄色い布ですッ!」

また奴等――黄巾党が暴徒を起こしたらしい。
その報告を受けた途端、全員の顔が真剣な表情に変わる。
兵を下がらせた後、華琳が呆れたように呟いた。

「休む暇も無いわね。さて、情報源が現れた訳だけど……今度は誰が行ってくれるの?」
「はいっ! 華琳様、ボクが行きます!! ボクに行かせて下さい!!」

華琳の言葉に真っ先に手を挙げたのは季衣だった。
村が襲われていると聞いて、黙っていられないのだろう。
しかし珍しく、華琳が季衣に対して顔を顰めた。

「……季衣。お前は最近、働き過ぎだ。ここ暫くロクに休んでおらんだろうに」

春蘭の言う通りだった。季衣は連続の出撃で、ロクに休んでいなかったのだ。
しかし忠告も聞かず、季衣は自分がやりたいと言って聞かなかったのである。
そんな彼女を小十郎は優しく止め、代わりに自分が名を挙げた。

「華琳、この件は俺が行く。季衣は休息を取らせた方が良い」
「そうね。今回の出撃は季衣を外しましょう。確かに最近、季衣は働き過ぎているわ」

華琳の言葉に涙を浮かべながら、季衣は反論する。

「華琳様ッ! どうしてですか! ボク、全然疲れていないのに……!!」
「季衣。貴方の心と身体はとても貴い物だけど……体調を崩しては元も子も無いわ」
「体調なんか崩しません……。ボク、無茶なんてしてません……ッ!!」
「いいえ、無茶よ。今回の出撃は控えて、ゆっくり身体を休めなさい」

季衣は俯き、涙を零しながら反論を続けた。

「でも、みんな……困っているのに……村のみんなが……」
「そうね。その1つの無茶で、季衣の眼の前に居る百の民は救えるかもしれない。けれどそれは、その先で救える筈の何万と言う民を見殺しにすると言う事に繋がる……」

刹那、季衣が俯かせていた顔を上げ、華琳に向けて怒声を上げた。

「だったらその百の民は見殺しにするんですかッ!!!」
「する訳がないでしょうッ!!!!」

季衣よりも更に強い華琳の怒声が、会議場を支配した。
彼女の声は、この場に居る者達を震わせるには十分な物だった。
季衣も思わず身を縮め、王座に座る華琳を上目遣いで見上げる。

「今日の百人も助けるし、明日の万人も助けてみせるわ。その為に必要と判断すれば、無理でも何でも遠慮なく使ってあげる。……だけど今はその時ではないの」

季衣が再び顔を俯かせる。

「だから今回は休みなさい……良いわね?」

今度は優しい口調で、華琳が季衣に告げた。
季衣は零していた涙を拭うと、背を向け、会議場を出て行く。
拭った筈の涙が、また零れていたのを誰もが見てしまった。

「華琳様……」
「…………桂花、隊の編成を」
「…………御意」

春蘭の言葉に対し、華琳は桂花に意味有りげな視線を送りながら言った。
その意を汲み取ったのか、桂花は軽く頷いた後、考えた編成を告げる。

「では秋蘭。今回の件、貴方が行ってちょうだい」
「分かった。季衣の分まで、奮闘してこよう……」
「……ちょっと待て。どうして俺じゃないんだ?」

代わりに行くと言った筈なのに、何故か秋蘭が選ばれた事に不満を零す小十郎。
彼の言葉に桂花は不機嫌そうな面持ちで、小十郎に言い返した。

「貴方には情報収集よりも大切な仕事があるでしょう? 分からない?」

そう言われ、小十郎は華琳、春蘭、秋蘭と、次々に視線を移した。
すると誰もが、季衣が出て行った扉の方を顎で示す。
暫くして、その意味にようやく気付いた小十郎は頭を抱えた。

「こんな時まで、俺に子守りをさせる気か……」

そうボヤいた小十郎は、季衣の後を追い掛けるように会議場から出て行った。

「適任ね……」
「適任だ」
「うむ。適任だな」
「あいつには似合いの仕事です」

彼が去った後、魏武将全員の心が一致したのだった。

 

 

 

 

「身体を休めろと、言われた筈じゃなかったのか……?」
「あっ、兄ちゃん。村のみんなを助けに行く筈じゃ……」

会議場を出た小十郎は、城壁の上に腰を下ろす季衣の姿を見つけた。
恐らくここから、出撃する者達を見送ろうとしたのだろう。
小十郎が城壁に上がると、季衣は驚いた表情で彼を見つめた。

「軍師殿から外されたんだ。殆ど私怨が入っているように思えたがな」
「あはは。桂花、兄ちゃんの事を眼の敵にしてるもんね」
「あいつが勝手に癇癪を起こして、突っ掛かってくるだけだ……」

その後、小十郎は秋蘭が隊を引き連れて出撃する事を彼女に伝えた。
話の中に混ぜて、季衣の分まで奮闘すると言う事も伝えてやった。

「秋蘭様がボクの分まで、か……」
「そう言っていた。だから今は休め」
「そう言われても……ボク、本当に疲れてないんだ」

珍しく落ち込む様子を見せる季衣。
そんな彼女の頭を、小十郎が優しく撫でてやった。

「お前に対して意地悪をしている訳じゃない。お前の事が心配だから言ったんだ」
「…………兄ちゃんも、心配してくれたの?」
「……ふん。そんな事を、俺の口から言わせる気か?」

照れ臭そうに言う小十郎を見て、季衣は思わず笑いが込み上げてきた。
こんな彼の姿を見るのは、ここに来て初めての事だったから――。

「……何故笑う」
「だって、ふふ……可笑しいんだもん。変な兄ちゃん」

そう言うと、季衣は城壁の上に元気良く飛び乗った。
そして意気揚々と、歌を歌い始めた。

「…………む」

季衣の歌を聞いて、小十郎が思わず顔を顰めてしまった。
何処かで聞いた事のあるような、軽い調子の歌である。
この手の軽い歌は、どうにも苦手な感じが抜けなかった。

(だがまあ……考えようによっちゃあ、明るい歌か)

それから出撃準備を整えたのか、門を出て行く秋蘭隊の兵が、こちらに向けて手を振った。
任を全うする前に気分が落ち着いたらしく、兵達は何処か嬉しそうな様子である。
逆に気恥ずかしいのか、季衣は頬をほんのり赤く染めながらも、歌を歌い続けた。

「……何て言う歌だ? 随分と、その、軽い物みたいだが……」
「題名は知らないよ。前に街に来てた旅芸人さんの歌で……え〜と、確か名前は張角……」

季衣の呟いた名前に、小十郎の表情が驚愕の物に変わった。

「おい季衣! 今お前、張角って……!」
「…………あっ! 兄ちゃん!!」

2人は同時に華琳の元へ駆け出した――。

 

 

 

 

秋蘭隊が情報収集から戻って来たのは、その日の晩の事だった。
就寝し、身体を休める時間ではあるものの、今はそう言ってはいられない。
主要の面々が集まり、すぐさま報告会が開かれたのだった。

「……間違いないのね?」
「はいっ! ボクが見た旅芸人さんは、3人組の女の子でした」
「私が今日行った村でも、3人組の女の旅芸人が目撃されています。恐らく同一人物かと」

季衣と秋蘭がそう華琳に報告した後、桂花もそれに続いた。

「季衣の報告を受けて、黄巾の蜂起があった陣留周辺の幾つかの村にも調査の兵を向かわせましたが……大半の村で目撃例がありました」
「その旅芸人の張角と言う娘が、黄巾党の首領の張角と言う事で間違いは無さそうね」
「これで敵の正体が、あらかた判明した訳だな(奴等が首領か、下らねえ…………)」

華琳がやれやれと言った様子で溜め息を吐く。

「正体が分かっただけでも前進ではあるけれど……どうせなら目的も知りたいわね」
「大陸を旅して歌っている旅芸人の目的なんざ、俺達に分かる訳ねえだろうが……」
「ふう……どうせなら大陸制覇の野望でも持っていれば、遠慮無く叩き潰せるんだけど」

華琳らしい考え方ではある。小十郎は溜め息を吐いた。
もし政宗もこの場に居たら、同じ事を言い出しそうだ。

「まあ、結局は叩き潰す事に変わりはないんだろう?」
「そうよ。夕方、都から軍令が届いたわ。早急に黄巾の賊徒を平定せよ、とね」
「……随分と遅い対応ですね。まあ、それが今の朝廷の実力と言う事ですが」

秋蘭が呆れたように呟いた。彼女の言う通り、これが今の朝廷の実力なのだ。
そもそも各地で乱が次々と起きているのに、軍令を出すのがとても遅すぎる。
金で高い地位を買った、朝廷に居る者達の無能さを証明しているような物だった。

「でもこれで、大手を振って大規模な戦力が動かせるわ」
(今までが中規模だったからな。奴なりに気を遣った編成だったのか……)

小十郎がそう考えていると、会議場に春蘭が飛び込むように入ってきた。
今までこの場に居なかったのは、出撃の準備をしていたからであるが――。
華琳は慌てる事なく、落ち着いた様子で彼女に訊いた。

「どうしたの春蘭。兵の準備は終わった?」
「いえ……それがまた、例の黄巾の連中が現れたと。それも今までにない規模だそうです」
「……奴等に先を越されたな。これで俺達は、後手に回らざるを得なくなった訳か……」

小十郎がそう言うと、華琳は苛々した様子で「分かっているわ」と呟いた。
皆が思っている以上に、今の状況が悔しくて堪らないようだ。

「ふう……春蘭、兵の準備は終わっているの?」
「申し訳ありません。最後の物資搬入が、明日の払暁になるそうで……既に兵達には休息を取らせています」

彼女の言葉を聞き、華琳が深い溜め息を吐いた。

「間が悪かったわ。恐らく連中は、幾つかの暴徒が寄り集まっているのでしょうね」
「集団が集まっていると言う事は……必ずそれ等を纏めた指揮官が居る筈ですね」

人が寄り集まった、意志の力と言う物はとても凄まじい。
時にそれは巨大な力となり、時代を飲み込みさえもする。
その事は戦国と言う時代に身を置いていた小十郎も、分かっている事だ。

「さて、今度の敵は今まで通りにいかないわ。どうするか……」
「華琳様ッ!」

事態の対処に思案する中、季衣が手を上げた。
言うまでもないが、出撃したいと言う意思表示だろう。

「季衣ッ! お前は暫く休んでいろと言っただろう……!」
「それは分かっています。けれど華琳様は仰いましたよね? 無理すべき時は、ボクにも無理をしてもらうって! それに百人の民も見捨てないって!!」

華琳が押し黙る中、季衣が彼女の名を強く呼んだ。
そして――。

「……そうね。その通りだわ」
「華琳様……!」

季衣の顔が真剣な表情が、徐々に明るい物に変わっていった。

「春蘭。すぐに出せる部隊はある?」
「はい。当直の隊と、最終確認をさせている隊は残っている筈ですが……」

華琳が頷き、季衣の方を見つめた。
そして力強く、彼女に指示する。

「季衣。それ等を率いて、先発隊として今すぐ出発なさい」
「は、はいっ!! ありがとうございますッ!!」
「それから補佐として、秋蘭を付けるわ。良いわね?」
「え……? 秋蘭、様が……?」

自分が指揮を任された事に、驚きを隠せない季衣。
彼女を落ち着ける為、華琳は冷静に告げる。

「秋蘭にもここ数日無理をさせているから、指揮官は任せたくないの。やれるわね?」
「あ……は、はいっ! 宜しくお願いします、秋蘭様ッ!!」
「うむ。宜しく頼むぞ、季衣。お前には期待しているからな」

季衣が頭を下げ、これからの戦に意気込む様子を見せた。
そんな様子を秋蘭が、微笑ましそうに見つめる。

「但し撤退の判断は秋蘭に任せるから、季衣は必ず従うように。すぐに本体も追い付くわ」
「御意」
「分かりましたッ!」

華琳の視線が春蘭と桂花へと移った。

「桂花は後発部隊の再編成を。明日の朝に来る荷物は待っていられないわ。春蘭は今すぐ取りに行って、払暁にまで出発出来るようになさい!」
「「御意ッ!」」

そして最後に残った小十郎は――。

「小十郎は本体を率いる私の護衛を頼むわ」
「また護衛か……ったく、仕方ねえ」

華琳の護衛を任され、溜め息を吐くのだった。

「各々、己の任を全うするように! 以上、解散!!」

その言葉を皮切りに、指示された者達が慌ただしく散って行く。
1人、その場に残った小十郎が、華琳を睨むように見つめた。

「……出陣までの暇を作ってくれたな。全く」
「やる事が無いのならば、少し寝ておけば?」
「ふざけるな。んな事、出来る訳ないだろう」

華琳が呆れた様子で小十郎を見つめる。

「他の皆は夜通しの作業になるから、恐らく馬上で休む事になるでしょうね。その間、事態に即対応出来る人間が必要になる。そう、貴方みたいな人がね」
「…………買い被られた物だな。あまり客将の俺に期待を寄せ過ぎない方が良いぜ?」
「そう? 武の力もあり、指揮能力もここ最近見た感じだと、十分過ぎる程にあるわ」

そう言うと華琳が玉座から立ち、ゆっくりと小十郎に歩み寄る。
そして十分に近づいた後――。

「貴方、天の国で少し軍師か何かの経験でもしているんじゃない……?」

妖艶な笑みを浮かべながら、華琳は小十郎の胸当てを指でなぞった

「さあな。したとしても、真似事ぐらいだ」

小十郎はゆっくりと背を向け、その場を後にしようとする。

「春蘭を少し手伝って来る。その後はお前の言う通り、少しだけ休ませてもらう」
「そう。なら私は今から少し寝ておくわ。休む時になったら……部屋に来る?」
「……そう言う冗談は、春蘭か軍師殿にでも言ってやれ。喜んで飛び付くぞ?」
「あら、鈍いかと思ってたら、気付いてたの? と言うか、遅すぎるくらいかしら」
「時々夜中に聞こえてくるテメェ等の喘ぎ声で、嫌でも気付かされるさ……」

小十郎は皮肉を言った後、会議場を出て行った。
後に残った華琳は、フンと鼻を鳴らして、自室に戻るのだった――。

 

 


後書き
第8章をお送りしました。黄巾の乱にいよいよ突入です。
原作をなぞりっぱなしですが、キャラが増えたら日常編を書き上げます。
その時は、オリジナル話をドンドン書いていきたと思っています。
では、また次回の話で御会いしましょう。


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