アキトがこの世界にやって来てから、幾日も過ぎようとしていた。

自然の中でゆったりとする事が無かった彼にとって、とても充実した日々となっていた。

また、自分より上の存在である勝仁の指南を受けて武を高めていた。


そして、彼が一番充実していると思える時は野菜を育てるとか日光浴などであった。



豹変と言っても良いほどの変わり振りである。








TRAVELER

第一章









第5話


さて、アキトはこの世界に来た時は着の身着のまま…何も所持していない状態であった。(コミュニケ等は除くが)

ので早速彼の服を買いに行こうと天地家で意見が纏まり、遠慮しまくるアキトを強制的に街へ連れて行く一行であった。





「これは、買い過ぎじゃないか?」

「え、そう?」

魎子と阿重霞、美星を除く女性陣の着せ替え人形と化していたアキトは、
試着する度に購入が決定し、今現在天地と自分で必死になって運んでいる荷物の量に呆れながら彼女らに言うが、
鷲羽はこれ位が普通と思っているのか、逆に彼に尋ねかける。

「いやまぁ、皆がそう思っていないのなら別に構わないのだが。

 俺としても、此処まで親切にして貰って文句を言える立場でもないしな」

買い物途中、天地家の財布事情を心配していたアキトだが、最近天地家に金が舞い込んだらしく
かなりの余裕があると聞き、こうして今の状況を甘んじることにしたのだ。



「ねぇ、あの人チョーイケてない?!」

「きゃっ、目が合っちゃった」

がやがや



「どうも視線を感じるのだが」

自分が持っている荷物の量を再確認したアキトは、目立つ原因がこれだろうなと溜息をつく。

が、実際に注目を受けている原因はそれではなく――

「とても歩きにくいのだが……鷲羽ちゃん、砂沙美ちゃん」

乙女の直感でそれとなく感知した二人は、アキトの服の裾を両サイドから掴んで周囲を警戒する。

そう。注目の的はアキトの容姿にあった為、二人で売約済みだと言う事を誇示しようとしたのだ。

アキト本人は、彼女らの好意に感づいていないが。

「別にいいじゃないのよ」

「えー、、砂沙美はこうしていたいなぁ」

二人がそう言うと、女子には強く言えないアキトは困ったように苦笑いを浮かべる。
そんな彼を見かねて、後ろを歩いていた清音は彼らの横に移動すると

「もう二人とも、アキトさんが困ってるじゃないですか」

「「ぶーぶー」」

助けに入った清音に心の中で感謝を送るアキトとは裏腹に、二人の少女は頬を膨らませて抗議する。

「そんな可愛く拒否しても駄目です!ただでさえアキトさんは荷物を持ってるんですから、邪魔したら駄目よ!」

そう言われると流石に悪いと思ったか、少々名残惜しそうに手を放す二人にアキトはホッと心の中で胸を撫で下ろす。



「……ちぇ、売約済みかぁ」

「しかも子持ち」

ざわざわざわ



「なぁ」

周囲のざわめきの中、よく分からない単語を聞き取ったアキトは隣にいる清音に向かって尋ねる。

「子持ちは兎も角、売約済みって何の事だ?」

「ぶっ!?」

子持ちが指す意味は悟ったアキトだが、売約済みの意味を理解できなかったアキトは不思議そうに尋ねるが

急な事に清音は顔を真っ赤にして噴き出す。

「えっと、その…」

「ん?」

しどろもどろに答える清音を不思議そうに眺めながらアキトが答えると、耳まで真っ赤にして俯いていた清音は

「こんな事私に言わせないでよ!この馬鹿ぁっ!」

「え?え?」

バッと顔を上げてアキトの方へ向くと大声で怒鳴り散らすと、恥ずかしさのあまりに一人走り去ってしまうのであった。





「いや、流石と言うかなんつーか。なぁ?」

「鈍さでは天地様並ですね。……親戚か何かでしょうかと本気で勘ぐってしまいますわ」

その後方で天地と一緒に歩いていた魎呼と阿重霞は呆れたように言う。

「え?」

やはり気づかない天地に深く溜息をつく魎呼と阿重霞であった。



























天地家でのアキトの生活は前の世界での生活と比べ、とてもゆったりとしたものである。
――まぁ、あれ以上にハードでネガティブな復讐生活と比べればどの生活もユッタリだが。

朝は勝仁との鍛錬で汗を流し、昼間は天地と一緒に畑仕事。

畑仕事が早く終わればその辺りを散策したり、木陰でノンビリする事が多かった。

で、今日は釣りをする事にしたらしい。

「……」

「にゃ〜」

魚が惹いた感触がしたアキトはすばやく竿をあげるが、そこには何も無く、
傍らで大物を期待していた魎皇鬼は、釣り針を不思議そうに見て残念そうに鳴く。

「なかなか釣れないものだな」

「にゃ?」

実は釣りは初めてなアキト。
首を傾げながら、今度こそと釣り針に餌をつけて糸を湖に垂らす。
そして体育座りをしながら、再び糸が引くのをボーっと待つのだ。


ちなみに今現在のアキトは、上下黒服、バイザー着用、そして体育座り。



……シュールな光景である。




こうしたゆったりした空間で、アキトのネガティブな思考は幾分か改善され、
時折過去の彼を思わせる様な雰囲気を出すようにもなった。

時間はたっぷりあるのだからこうして静かに自分の在り方、これからの生き方…生きている意味を考えるのには打ってつけであった。

「なぁ魎皇鬼」

「にゃ?」

「俺はどうしたら良いと思う? 元々は死ぬ筈だったのに生かされて、何をやれと言うのだろうか」

答えは得られないと分かっているが、それでも魎皇鬼に話しかけるアキト。

「みゃみゃみゃん!……みゃ〜」

すると魎皇鬼は、体を彼に擦り付けたり目を潤ませたりして必死で彼に何かを訴えてるような行動を取る。

そんな魎皇鬼を眺めていたアキトは、フッと薄く笑みを浮かべて魎皇鬼の頭を撫でてあげる。

「ごめん、お前に愚痴ってもしょうがないな」

「……にゃ」

ちっとも伝わっていない事にショックを受けた魎皇鬼だが、日常茶飯事な事なのであまり気にせずに一鳴きすると
次の瞬間、耳と体中の毛を逆立たせて真上を見上げる魎皇鬼!

「どうした?」

「にゃー!」

必死でアキトの服の裾を引っ張って湖から引き離そうとする魎皇鬼に困惑するアキト。

【マスター、真上から巨大な物体――恐らく宇宙船の類でしょうが、高速で降下してきます。退避した方が宜しいかと】

「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!(汗)」

との、ダッシュからメッセージを受けたアキトは魎皇鬼を鷲掴みすると、天地ハウス目掛けて全力で駆け出そうとするが――


ドバァッッシャァァァァン!!



美星来襲の時と同じく、

巨大な宇宙船が天地家前の湖に着水して水飛沫――或は津波とも言う――を発生させるのであった。


























「こ、この騒ぎは。またか?」

慌てて天地家から出てくる一同は、着水したモノの中から現れた人物達に深く溜息をついた。


「阿重霞ちゃ〜ん!砂沙美ちゃ〜ん!元気だったぁ〜?」

天地達の姿を視界に拾った女性は大声をあげて、阿重霞たち姉妹の方へと賭けてきて――

「二人共、元気にしてたぁ? ママってば心配で心配で心配だったゎよ〜」

「ちょ、ちょっとお母様?!」

「はぅ、苦しいよ」

「天地ちゃんも久しぶり〜」

「ぃ゛!?」

二人の抗議を聞いたのかいないのか、すぐに二人を解放した水色の髪の女性は今度は天地に狙いを定めて抱きついた。

予想はしていたが、天地が張った予防策(魎子の後ろに隠れておく)をいとも容易く突破したので、
驚きと体に触れる女性特有の柔らかい体に、体を硬直させる天地であった。

嗚呼、青少年。

あまり他意の無い女性は、阿重霞から何か言われる前にパッと天地から離れるが
天地を想う女子からしては自分からはなかなか出来ない事をやってのける彼女にヤキモキしたのであった。

「美砂樹ちゃん、あまりはしゃいじゃ駄目よ」

「は〜い」

美砂樹と呼ばれた女性は、後からやってきた黒髪の女性に窘められ舌をペロッと出して笑う。

「船穂お母様!」

どこか幼さを感じさせる活発そうな美砂樹とは違い、落ち着いた感じのする女性・船穂は
砂沙美の呼びかけに柔和な笑みで答える。

「砂沙美ちゃんも阿重霞ちゃんも、お元気そうですね。

 天地さんも鷲羽さんも、お久しぶりですね」

「は、はぁ」

「そうかい?久しぶり、にしてはなんだか最近会った気もするんだけど」

綺麗な笑みを浮かべる船穂に対し照れながら答える天地と違い、鷲羽は少々皮肉ったように言う。

「最近、樹雷皇がやけに張り切っちゃって」

鷲羽の言葉に、苦笑いを浮かべ船穂は後ろからズシズシと歩いてくる人物に目をやりながら言う。

樹雷皇と呼ばれた男性は、一同が集まっている場所までやってくると
阿重霞に視線を向けてホログラムを表示して大声で話しはじめる。

「阿重霞!そんな軟弱な男ではなく、ワシが選んできた者と見合いして貰うぞ!!」

「うぇ、やっぱりか」

「嫌ですわ! そんなお方より、天地様の方がもっと素晴らしい殿方ですもの!」

「ごめんなさいね、天地ちゃん」

「むむぅ!?ならば天地とこの者で勝負させて、どちらがお前に相応しいか見極めてやる!」

「がんばって!天地兄ちゃん」

「望むところですわ!」

「トホホ。結局俺の意見は聞かずにこうなっちゃう訳ね……」


かくして、天地VS阿重霞お見合い相手とのバトルが開始されるのであった。






















ドバァッッシャァァァァン!!




そして数秒で終了。

結果はいつも通りの乱入により、まだ戦える状態であった天地の勝利であった。







「またお前かぁぁぁぁぁ!?」

「ごめんなさぁぁぁいぃぃ!」







「で、やっぱりこうなるんだね」

「そうね〜」

天地ハウス縁側にて見物していた一同は、予め分かっていた様に呟くとお互いに苦笑いする。
ちなみに全員傘を装備。

「それにしても…あの親父さんもよく頑張るよなぁ」

毎度毎度こうなりながらも、諦めずにやってくる樹雷皇を呆れた様子で見ながら言う魎呼。

「それはね、魎呼」

その魎呼の言葉に、鷲羽が苦笑いを浮かべながら話し始める。

「ああやって、ここにきて阿重霞殿や砂沙美ちゃんに会う口実を作っているんだよ。

 ホントのところ、天地殿を認めているんだけど……何せねぇ?」

「はい、頑固者ですから」

問いかける様な鷲羽の目配せに、船穂は苦笑いしながら答えるのであった。




















「あ、あれ?そういえばアキトさんは何処?」

「アキト殿なら確か魎皇鬼と岸辺で釣り……あ」

アキトの姿が見えない事に疑問を覚えた砂沙美が一人呟くと、その疑問に鷲羽が答えるが、

アキト達が居た場所を思い出すと、サッと顔に青筋を立てる。

「え?!どうしよ、アキトさん大丈夫かな?」

慌てて辺りを見渡しながらアキトを心配する砂沙美に、近くに居た美砂樹が不思議そうに彼女の顔を覗き込む。

「あら砂沙美ちゃん、アキトって誰の事かしら?」

「あ、お母様…。アキトさんは最近やってきた男の人だよ――ってそんなことより」

美砂樹への解答を手短に答えた砂沙美は必死の形相で鷲羽にしがみ付き、

「鷲羽ちゃん!アキトさんを見つける道具、出して!!」

「いや砂沙美ちゃん?ドラえもんじゃあるまいし…。まぁ道具なんて使わなくても、そこら辺に居ると思うよ。
 あのアキト殿がちょっとした水如きで怪我するとも思えないしね」

こいつらの【ちょっと】はどの程度なんだろうか。

「そうだけど…砂沙美、心配だもん」

どうやらアキトの扱いが、一般から天地関係者クラスまで引き上げられているらしい。
本人にとってはいい迷惑だろう。



「で、その砂沙美ちゃんが心配なアキトって人は砂沙美ちゃんとどんな関係なのかなぁ?」

「え、えっと……どんな関係って言われても」

興味津々といった感じで尋ねてくる美砂樹に、思わず後ずさりしてしまう砂沙美は、

どのような関係?と尋ねられて暫く考えた後、ある事を思い顔を真っ赤にして黙り込んでしまった。

砂沙美がこのような態度を取るとは思ってなかった美砂樹は、驚いて一瞬目を丸くするが、

「そう、砂沙美ちゃんはそのアキトって男の人が好きなのね?」

「わ、なんでわかったの!?」

「(砂沙美ちゃん…誰でも分かるって)」

思わず墓穴を掘っているのにも気づかない砂沙美に溜息を付く鷲羽。

「だてにママは砂沙美ちゃんのママやってないわよ♪」

「ぉぃぉぃ」

美砂樹の言葉に呆れた物言いで呟く鷲羽に、美砂樹は顔だけ彼女に向けると笑顔を向けて話しかける。

「何か?」

「いえ。ん?」

美砂樹から視線を逸らした鷲羽は、湖から何か黒い物が這い上がろうとしているのに気づいた。

その黒い物は、頭の上にずぶ濡れになった小動物を乗せ、
自分も必死に這い上がろうと力を入れるが、手が滑って再び湖面に落下。

数秒ほど水の中で暴れる音がした後、また這い上がろうと手を掛ける。
とにかく、長い時間をかけて上陸を果たした黒い物は、何故か震える手を不思議そうに見た後、
蹲って不気味な声で笑い出すのであった。

もしかしたら泣いているのかもしれない。

「これは……!」

「鷲羽さんどうしたの? って、あれってアキトさん!!」

その様子を何処からともなく取り出したカメラで、終始激写していた鷲羽の向いている先を見た砂沙美は

その黒い物――そう、アキトの所へ一目散に駆けていくのであった。









「死ぬかと思った……」

砂沙美につれられて一同の下にやってきたアキトは、開口一番にそう言うとバイザーを外す。

「これ、壊れちゃったみたいだ」

「ああ、ごめん。耐水加工してなかったわ、後でちゃんと直しておくよ。

 で、どうして湖から?」

バイザーを謎の装置で何処かに送り届けると、アキトに何が起きたか尋ねる。

「突然目の前に宇宙船が落ちてきて、津波から逃げ遅れた」

「…よく無事だったねぇ」

「ねぇ、鷲羽さん。なんでそんな呆れたって感じなの?」

無事を安心した様子だが、少々呆れを含ませる言い方で言った鷲羽に、砂沙美は疑問を浮かべる。
すると鷲羽はポンッと彼女の頭に手を置いて説明をし始める。

「いい、砂沙美ちゃん? 地球人というのは私達の用に肉体強化を受けていないの。
 無論アキト殿や天地殿だってあんなんだけど普通の地球人だから、
 あの質量で発生した津波をもろに受けて無事な筈無いのよ……少なくともどこか怪我してる筈なんだけど」

「いや、特に問題ないが?」

「この通り、無傷だから驚きを超えて呆れてたって訳。……うんアキト殿、一回精密検査受けてみようか?」

と一通り説明した後、不思議そうにアキトの体を観察し始めた鷲羽は一瞬目を光らせて問いかける。

「遠慮しとこう」

寒気を感じたアキトは冷や汗垂らしながら断った。
寒気の元が鷲羽の言葉からか、隣で視線を飛ばす砂沙美からかは本人にもわかっていない。


両方なんだろうが。








「む、そういえばっ!またもや彼奴のせいで言い忘れるところだったわい!」

美星を怒鳴りつけていた樹雷皇は、ハッと閃いたかのように砂沙美の方に向きかえると

「今回は砂沙美の見合い相手も連れてきたぞ!どうじゃ、中々の二枚目じゃろう?」

「「「 はぁ!? 」」」

樹雷皇の唐突な発言に、一同は目を丸くして硬直する。

彼の背後から誰にも気づかれてないが、優雅に歩いてくるその見合い相手の事は置いておいて、
いち早く復活した砂沙美は、本気で嫌そうな顔でアキトの後ろに隠れると樹雷皇に叫び返す。

「砂沙美、絶対嫌だからね!!!! アキトさんからも何か言ってよぉ!」

「え?」

「さ、砂沙美まで…?! ならん!!」

「嫌だったら嫌だもん!!」

「くっ…こうなったら、そこの男! ワシの選んだ男とどちらが砂沙美に相応しいか勝負せぃ!!」

「え、え?」

「アキトさん、頑張って!!!」

「はぁ。まぁ、いいけどさ」

結局、姉と同じ展開になった砂沙美の見合い対決はアキトが参戦することになったのである。
断れば良いものを……やはり、女子には甘いアキトであった。















「ふん! 原住民風情が、この僕に勝てると思うなよ」

相手として現れた少年はアキトの方を見ながらニヤニヤと笑みを浮かべながら話す。
少年はアキトを挑発しているのだが、その手には乗らないアキトは聞く耳持たないといった様子で少年と相対する。

代わりといっちゃなんだが、天地ハウス縁側にて砂沙美と鷲羽が憤慨してたのは言うまでもない。

砂沙美と鷲羽の言葉を苦笑いしながら聞きながら、アキトは場の状態を確認する。

「天地君。 少し地面が抉れるかも知れんが、構わないか?」

「え!? え、まぁいいですけど、抉れるって」

「用意は良いかな?」

何故か審判役を任されている勝仁の声掛けに、アキトは相手をジッと観察する。

「(子供とは言え、身体能力はあちらの方が上だ。ここは速攻でやるしかないか)いいですよ」

「はははっ、ほら!さっさと掛かってきなよ」

構えるアキトに対し、見合い相手は余裕の表情で踏ん反り返っている。

そして間を空けずに、

「始めぃ!!」

試合開始の号令が掛けられた。

「さて、すぐに終わらせ ―― !?」

声掛けと同時にゆっくり構え始めた見合い相手は
次の瞬間、余裕の表情から一転して驚愕の表情を浮かべることになった。

自分の前方10m先に居た筈のアキトが一瞬にして目の前に接近してきたからである。

「ちっ!」

何とか反応できた彼は、迎撃するためにフック気味に拳を振るうが

シュッ  パシッ!!

「なにっうわ?!」

地球人では反応できない速さの一撃を軽々と避け、アキトは見合い相手の足を払った。

完全に宙に浮いた見合い相手は、既に次の攻撃態勢に入っているアキトに驚愕の視線を向けた。

「ぐっ?!」

振り上げた肘で見合い相手を地に叩き落したアキトは、まだ動けそうな相手に止めの攻撃を加える。

「こ、これくらいで……ヒッ!?」

相手の首を砕き折る勢いで振り下ろしたアキトの足は、首を僅かにかすらせて地面を抉り戦意を一気に奪う。

幾ら肉体強化を受けていようが身体構造は変わらないので、
急所へのダメージには普通の人間とは変わらないだろうというアキトの予想は大当たりであった。
……もっとも、あれだけの威力の蹴撃だ。
効かなくても衝撃で相手を気絶させる位の威力はあっただろう。



「勝者! テンカワ アキト!!」


「……鷲羽さん」

「私に聞かないでよ。 彼本人が地球人だって言っているんだから」

試合開始時の踏み込み、止めの蹴撃で出来たクレーターを見た天地は呆然としながら訊ねるが、
振られた鷲羽も呆然とした様子だ。

仮にも樹雷の闘士見習いである相手を、速攻で倒したのである。
一同はアキトの地球人としての強さに驚くのであった。


「彼は……そう、遥照に指南を受けているのですね」

一人、じっくりと観察していた船穂はアキトの動きの中に自らの息子の動きが混じっていた事に気付くと
周りの皆に聞こえるような形で呟いた。

それで皆も少々納得したかのように頷く。

「前から私の攻撃を受け流す実力はあったからなぁ。あの爺さんに鍛えられたってんなら当たり前か」

「なんてたって、樹雷一の闘士からの指南ですものね」

「だからと言ってあそこまでいくもんかね……」

地球人としての限界を超えている事に既に気付いている鷲羽はそう呟くのであった。








「……なんだ?」

皆の下へやってきたアキトは、様々な思惑が乗った視線を受けて疑問を浮かべる。

「アキトさん、強いんだね!」

「まぁ、それなりに修行は積んでいるからな。……ところで」

言葉を区切ったアキトから視線を感じた女性二人は、アキトの前に立つ。

「はじめまして。 私は樹雷 柾木 船穂」

「私は樹雷 柾木 美砂樹でーす。 阿重霞ちゃんと砂沙美ちゃんのママでーす♪」

「……? あ、俺の名前はアキト。 テンカワ アキトだ」

二人の女性を確認したアキトは、どこかデジャビュを覚えるのであった。

「どうしたの?アキト殿」

「いや、どこかで会った事のあるような無いような……」

「デジャビュってやつ?」

「あぁ、なんか美砂樹さんの方を見ると嫌な感じがする」

妙な間を空けたアキトに鷲羽が声を掛けると、彼は美砂樹の方を向いて眉を顰めていた。

自分に視線が集まっている事に気づいた美砂樹は、

「え?私がどうかしたかしら?」

【――アキト?】

「!!?」

一歩前に出て彼の顔を覗き込むと、彼はバッと後ろに飛び退くのだった。

「アキト殿?」

どうしたのかとアキトを見る一同は、彼の顔が真っ青になっているの気づいた。

「どうしたの? アキトさん」

「い、いや……」

彼自身も自分で何をやっているのかわからないと首を傾げる。

その様子のおかしいアキトを心配した美砂樹と船穂は、彼に近づいて様子を伺おうとする。
特に美砂樹が話しかけた時から彼がおかしくなったので、彼女は人一倍彼の心配をして駆け寄る。

「大丈夫〜君〜? お腹でも痛いの?」

「顔色が悪いようだけど……」

【――アキト〜?お腹痛いの?】

美砂樹は彼の頭を撫でようと手を彼に伸ばすが、

「うっ!」

やはり後ろに飛び退いたアキトは船穂と美砂樹を交互に見た後、体と声を震わせて何とか声を出す。

「ユ、あ、……悪い!」

「あ、アキトさん!!」

そう言って苦しそうな顔をしたアキトは、どこかへと走り去りそれを砂沙美が追っていくのであった。









「……」

「鷲羽さん、一体……?」

先程からアキトの様子をジッと観察していた鷲羽に、アキトの異常に困惑した天地が話しかける。

「はっきりとは言えないけど……多分アキト殿は過去に何らかのトラウマを抱えているんだと思う」

「トラウマ、ですか?」

聞き返す天地に頷くと呆然としている美砂樹と船穂を見、

「それも、船穂殿と美砂樹殿を見て思い出すトラウマ……(どっちかと言うと美砂樹殿、か)。

 ねぇダッシュ、見てるんでしょ?」

虚空に声をあげる鷲羽に反応して、ダッシュがスクリーンを広げて答える。

『……そうですね、鷲羽さんの仰るとおりだと思います』

そして一同をグルリと見渡し、最後に美砂樹の方へとスクリーンを向ける。

『美砂樹さんと船穂さんを見て、……マスターの大切な方を思い出されたのでしょう』

「「え?」」

『特別似てると言う訳では無いのですが。……いえ、全く似ていませんが、そうですね。雰囲気と髪でしょうか』

太陽の様に明るい性格な美砂樹と、和風の黒髪。

これらを見てアキトは―――

「けど、それくらいで「魎呼!!」な、なんだよ」

阿重霞と魎呼がそう言うと、皆スクリーンを見て答えを待つ。

そして、ダッシュは重々しく語る。



『……その大切な方を、助けられなかったのです』

























あとがき


たくさんのコメント、ありがとうございます。

多忙な職から転職し、落ち着けるぞー!

と思っていたのですが……うん。夜勤とかだと気力が削られていきますね。


ここでは書いて無い気がするので参考?としている物を下記に。

・天地無用! 魎皇鬼 (OVA版)
・真・天地無用! 魎皇鬼 (小説)
・天地無用! 魎皇鬼 (奥田コミック版)
・新・天地無用! 魎皇鬼 (奥田コミック版)




つまり、良いとこ取り。

でもTVシリーズは含めてません。
神代さんはでません。
清音は……うん。

GXPもまだ見てないので含めてません。
見る見る詐欺真っ最中です。





Q.なんで清音いるの?

A.好きだからです。




これからも頑張って生きたい(誤字にあらず)と思います。



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