漆黒の空を一輪の花火が舞い、咲き誇る。それに続くように次々と花火が舞い星の無い夜空を飾る。

とある街の神社に1人の黒い髪の少年がいた。その視線の先に見えるのは一人の着物の姿の少女と少年と
同い年くらいの白い髪の少年。

そしてその二人の背後には無数に蠢く異形の化け物……蛇に人面を付けたようなもの、一つの目の狼男のようなもの、
特撮に出てきそうな怪獣のようなもの、不定形のアメーバのような姿で不気味な無数の目と口を覗かせるものなど例を
上げていけば限が無いほどいた。黒い髪の少年は驚愕の表情を浮かべていたがそれは、無数に蠢く異形に対してのもの
ではなかった。

『着物姿の少女に光輝く剣を突き刺している白い髪の少年』の光景に対してのものだったからだ。

黒い髪の少年はすぐさま着物姿の少女に駆け寄る。どうにか即死にはならなかったものの、もう既に何もかも手遅れだった。

一刻一刻ごとに冷たくなっていく彼女の身体をその手で感じながら黒い髪の少年は涙を流す。それは本来の黒い髪の少年から
してみればありえないことだったが、黒い髪の少年はそんなことなど気にもかけず、ただ自分の腕の中にいる少女を必死に
呼びかけ続けた。やがて少女の手が少年の顔に触れた。それが暖かく、優しく、何があっても手放したくないと言う切実な
思いを、黒い髪の少年に起こさせた。


「■■■………、なんで■■■■■?」

「!!っ 俺が……■■■■?」


少女の言葉で、やっと自分が泣いていることに気付いた少年は驚く。彼は姿形こそ『人』だが、その本性は『人ならざる魔性』。

そんな彼が人間のように涙を流す筈などない……だと言うのに黒い髪の少年は流した。ただの純粋な思いを込めた涙を。


「■■■■■■……■■■■……■■■■」

「………」


少女の言葉が一つ一つ、黒い髪の少年の言葉に深く染み渡っていく。そして彼女は今ある力を最大限に振り絞り
自らの唇を少年の唇へと乗せる。それは彼と彼女にとって始めてのファーストキスだった………少女は悔いの無い
笑顔を浮かべた後、その短くも未来があった筈の人生に静かに終わりを告げた。


「……ゥ、ゥゥ………うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああーーーーーーーー!!!!!!!!」


絶叫。何も守れず、ただ後悔と嘆きの咆哮が地面と空を振るわせ天を貫かんばかりに響き渡った。


「■■■、これが貴様の選んだ結末、そして、決して覆ることの無い事実。所詮貴様も我々と同類だったと言うわけだ」

「…………■■■……テメェだけは、絶対に許さねえええええええええええええええええええええーーーーーーーー!!!!!」


その身が漆黒に包まれ黒い髪の少年はまさに『悪魔』を思わせるような姿へと変貌し、白い髪の少年へと一気にその腕を振り上げた。














学園都市……科学によって超能力が開発され、人口の約八割が学生で占められた街である。

ここに住む学生の殆どはレベルの大小あれど能力を使うことができる。だが中にはどうしても能力を行使できない者も少なくない。

そんな彼等が組織化されたスキルアウトなる武装集団もあるのだが、それとは対照的に全ての能力者の頂点に君臨する
『レベル5』と言う者達も存在する。その中でも電気を自由自在に操り『超電磁砲(レールガン)』と呼ばれる異名を
持った常盤台のエース『御坂美琴』は闇夜の鉄橋である人物と対峙していた。

黒い髪をまるでウニのようにツンツンとさせた独特なヘアスタイルに少々目つきの悪い少年『上条当麻』は
『何でこんなことに……』と色々と疲れたような表情で美琴を見ていた。状況から察するに美琴なる少女は
大気圏外を突き抜けんばかりのやる気を発揮しているがとうの上条本人はやり合う気など更々無く、
ただできるだけ穏便に済ませようとしているみたいだ。


「なぁ、正直勘弁してくれませんかねぇ? 俺はこれでも色々とお忙しいんですが……」

「うっさい! 大体あんたみたいに人様の能力を打ち消せるような奴がレベル0だってことがムカつくのよ!」

「……いや、それって完全に理不尽で無茶苦茶な」


それ以上は続かなかった。美琴がポケットから一枚のコインを取り出し、親指で弾いたのだ。

ただ弾くだけなら問題など微塵も無いが弾かれたコインは凄まじい威力を秘めた雷撃の閃光となって
上条に襲い掛かって来る。だがとうの襲われている当麻本人は溜息をつくと右手を掲げるだけ。

傍から見れば何故、そんな余裕でいられるのかと言われるような光景だが別段焦る必要など実際に無いのだ。


何故なら………


パシュゥゥゥンッ


右手に宿った本人でもよく分からない力『幻想殺し(イマジンブレイカー)』が彼女の放ったレールガンを自動的に容易く消滅させるからだ。


「!?っっ チッ! 相変わらず変な能力よね、それ!!」

「んなこと言っても俺にだって分からねぇよ。ただこれが『異能なら何でも打ち消せる』ってことしか
自分でも把握できてないし……」


上条は能力者ではあるが検査での判定は『レベル0』、つまり能力を一片たりとも発現できない『無能力者』と言うレッテルが
貼られているのだ。能力を持ち得ながら無能力者。これほど曖昧で意味不明なものは無いと思うのは当然と言えるだろう。


「まっ、とりあえず何度やってもお前の攻撃は俺には通用しないってのが分かったろ? お前もいい加減帰れよ、なぁ?」

「…………OK、OK、よ〜〜くわかった。ようはアレ、私も本気で行かなきゃ駄目ってことね!!」

「いやいやいや、おかしいッ!! 何でそういう結論に辿り着くんだよ! 正直言ってそこが不思議で仕方ないんだけど!!?」

「いいから……黙って喰らっとけやゴルァッ!!」


直後、御坂美琴の能力によって発動された雷雲の稲妻が当麻の下へと落下し、周囲へ落雷が飛散した……。














「はぁぁ〜〜。本当に不幸だったな……昨日は」


学生寮の自室でのんびりと昨日の惨事を思い浮かべながらぐーたらとしている少年『上条当麻』は
そんなことを呟きながら、ほんの数秒前に自分の足で踏んづけて破壊してしまった携帯電話を眺めながら溜息を吐く。

あの後、とてつもない威力を誇る稲妻の落下を受けたのにも関わらず幻想殺しで相殺した為、完全ノーダメージ。

そして一目散に全力疾走でその場を離れた。理由? 簡単な話その場に留まっていれば美琴の更なる追撃を受けさせられる
可能性と偶然通りかかった人に目撃され警察…もといアンチスキルにでも通報されたら良くて事情聴取、悪ければ何かしら
の罰則を受けると言う事態に成りかねない。故に即効でその場から離れたのはある意味正解なのだ。

とは言え、どうやらあの後美琴の発動させた落雷が原因で上条の部屋の電化製品の八割がやられてしまっており、
冷蔵庫もクーラーも活動停止と言う事態になってしまった。クーラーが附けれない点は猛暑である夏とは言え
『普通とは違う』上条からしてみれば大して問題ではない、が、冷蔵庫までもがその機能を停止してしまった
点は正直痛かった。

昨日の内に電化製品の一つである冷蔵庫が使えなくなったと言うことは、冷蔵庫の中身は既に壊滅状態だと
言うことを意味している。そして自分の目で確かめた結果、上条の予想の大体は当たっていた。それでも
何とか生き残った物もあったが……。


「はぁぁ〜〜〜〜〜俺の人生、不幸続きの御先真っ暗か……………………よし、天気が良いから布団でも干すか」


元気も覇気も無い声でそう言いながら布団をベランダへと干そうとする上条。と、ここであることに気付いた。

既に布団が干されていたのだ。しかし上条本人に前々から布団を干した記憶などないし、そもそもこれからなのだ。

では何故布団が干されているのか? そう疑問に思うもすぐにそれが見間違いであることを彼は知った。

それは布団ではなく『一点の汚れも無い純白のシスター服を身に纏った銀髪美少女』だったのだ。


「…………………………はぁ? え、何コレ? シスター? シスターさんでいいのか? 本当にそう判断していいのコレ?」


『世の中ありえないことなんて無い』。誰かが言った言葉だがこれは流石にありえないだろッ!! 
と、心の中で絶叫する男、上条当麻。すると今まで眠っていた少女が目を覚まし、腹の虫の音と共にこう告げた。


「お腹……空いた」














しばらくして上条は白いシスターにまだ生きていた野菜と肉を使って炒め物を作り、
それを食べさせることで彼女を餓えから救った。


「本当にありがとうね!! あのままだったら多分、お腹空きすぎて死んじゃってたかも!」

「………あのさ、こっちとしては色々と聞きたいことが多すぎてアレなんだけど………お前、誰? 何であんなとこにいたんだ?」


まずはそこからだった。そもそも人のベランダの柵に干されていた時点で異常だった。まぁ上条自身も相当なまでに
『異常』だがそれは一先ず置こう、とにかく彼としてはこの外国シスターさんがどういった人物なのか知りたかった。


「あっ、そうだ。まだ名前言ってなかったよね。私の名前はインデックスって言って、一応魔術師……かな?」

「『魔術師』ぃぃ? 魔術師ってアレ……手の平から火の玉出したりとか、普通なら人間ができないようなことを
平気でやってのける連中のことか? それでいいんだよな?」

「うん。でも私の場合、魔力を練ることができないから魔術は使えないけど……」


残念と言わんばかりに顔を伏せるこの銀髪シスター、インデックスに対し、上条はどこか物思いに耽るような仕草をしながら
彼女の『内部』を注視した。当麻は自身の能力の一環である『透視』に似た能力を行使しインデックスの中に流れる『魔力の
流れ』を確認しこの眼前にいる少女の言い分は本当だろうと自己判断すると、続けてインデックスに質問をしてみた。


「とりあえずお前がその魔術師ってのは分かった。でもどうして俺のベランダで干されてたんだ?」

「あれ? 疑わないの? この街って確か……え〜〜っと、この街って科学がすごい発展したところじゃなかったっけ?」 


確かにそれは言えた。上条当麻はこの科学が異常な程に発展した学園都市に住む人間、ならその身に起きた事象や一部の出来事を
科学を基準として考えるのは妥当であり、普通ならインデックスの言葉を『頭のイカれた狂人』とか『極度の変人』などの戯言と
して切り捨てるのが普通の判断なのだが当麻は違った。


「ま〜〜よ、それりゃ俺だって『魔術はあります』って突然言われても困るよ。けど、少なくともお前が嘘を付いているようには
見えねぇし仮に此処で嘘をついていたとしてもお前にはメリットなんて一つも無いだろ? まぁ頭のおかしくなった変人だったら
ありもしないことを真実と本気で思い込んでいるかもしれないけどさ……少なくともお前の言葉は信用できるってとこかな」


嘘吐き。心底上条は自分に対しそう思った。魔術と言う存在を上条は既に、と言うより気の遠くなるような昔から知り得ている。

だがありのままに話せば色々と問題が起こるだろうし、何より上条当麻と言う人物の今の立場は『平凡な学園都市に住む学生』の
1人と言う『設定』になっている。故にそう易々と事実を話せるほど無責任な立場ではないのだ。


「ふ〜〜ん……あっ、何でベランダに干されたてたかの質問だけど、実は私、追われてるの」

「追われてる、か。追われるにはそれ相応の理由がある筈だと思うけど?」

「たぶん、私の中の『十万三千冊の魔導書』が目当てだと思う……」

「十万三千冊の魔導書? それって……死者の書とかそう言った感じのか?」


上条の言葉にインデックスは頷いて肯定する。しかしそんな数の代物が一体どこにあるのかと
疑問に思う上条だったが、すぐさま一つの結論に至った。


「もしかして、『頭の中』にあるのか?」


核心に迫る問いかけだった。それに対しインデックスは無言でコクリと頷く。やがてインデックスは時計を見ると
何かを決意したかのように立ち上がり、笑顔を浮かべて明を見た。


「それじゃあ……もう行くね。ここにいると魔術師が来ちゃうから……」

「………そうか。まぁ〜〜他人の決めたことに水を差す気はないけど、何か困ったことがあったら此処にこいよ?」

「……うん、色々ありがとう。じゃあね『とうま』」


インデックスはそう言って上条の部屋から出て行く。その途中で上条の住む学生寮に配備された清掃ロボットに追い回されるも
何とか無事に去って行く。その様子を見ながら上条は溜息を吐き、そのままベッドに寝ようとするが何かを察知し、ベランダの
窓を見据える。上条が感じとったのは彼の『本職』にとって重要な存在の気配だった。普段の上条は学園都市に住む高校生と
言うことになっているが、実際は『ある存在を狩る』ことを生業にしているエキスパートであり、この街へ来たのも元々の
理由は其処にあった。

上条はすぐさま窓を開け、ベランダから地上へとダイブし、そのまま何事もなく着地する。自らの意識を集中させ
気配の根源を探ろうとする上条。そして見つけた。距離はそんなに遠くなかった為、すぐさま上条はその場所へと向かった。














学園都市のとある路地裏で数人の不良男が中学生の女子1人を囲んでカツアゲ紛いなことをやっていた。


「ちょっとばかし金貸してくれね〜〜か〜〜? 俺達金欠で困ってんだよ、なぁ?」

「そうそう。下手したら路上で餓え死んじまうかもしれねぇし、だから恵んでくれよ?」

「あっ、嫌なら嫌でも良いけどそん時は身体を貸してもらうがね〜〜ぎゃはははははは!!」


少女を囲んでいる男の数は七人。それに対しショートヘアの茶髪に学生服を身に纏った少女は怯えたような様子で
男達を見ていた。


「お、お願いします! 悪かったのなら謝りますから……」

「謝罪なんてどうでもいいんだよ!! いいからさっさと金出せよクソ女!」


少女の言葉に逆上した男がその鍛え上げられた足で彼女の腹を蹴り飛ばす。地面に這い蹲る形で悶絶する少女を尻目に
男達の無慈悲な暴力が一気に少女に襲い掛かる。しかし次の瞬間、1人の男の頭が消えて残った胴体がドサリと、まるで
糸の切れた操り人形のように地面に倒れた。残りの不良共は訳が分からぬまま恐怖に駆られ思わず少女を見た。

そして知った。少女が事切れた男の頭部を、先程の怯えた表情とは打って変わり妖艶な笑みを浮かべながら持っていることに。


「あ、あ、うわああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」


一目散に逃げ出す不良たちだったが、次々と少女によって首を決断され、残るは1人のみとなった。


「い、嫌だ、助け……助けてぇぇぇぇ!!!!!」

「クククク、助けて? 私のお願いは断ったくせに? 本当に人間は勝手で愚かよね〜〜」


じりじりと男に近付く少女。その両目は赤く血のように塗り潰され、口は耳まで裂け、裂けた口から
無数の鋭い犬歯が顔を覗かせる。もはや完全に人間で無いことは明らかだった。


「さあ! 貴方の死に様で私を存分に楽しませて!!」

「あああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」


異形の少女の手が男の顔に触れようとしたその時、何か鋭い…刃物のようなものが飛来し少女の手首を切り裂いた。


「逃げろ!」


不良男が後ろを振り返ると、そこに立っていたのは上条だった。明は不良男を逃がすと目の前にいる異形の少女と対峙する。


「最近になって男を狙った殺人事件が頻繁に起きているようだが……お前が原因か?」

「さぁ? 人間どもの事情なんて私知らないし興味も無いわ。それよりアンタ誰? 人様の食事を邪魔しやがって!!」


憤怒の表情を浮かべ声を荒げる少女の言葉に上条は不敵な笑みを浮かべながら答えた。


「俺か? 貴様等『悪魔(デーモン)』を狩る『祓陰士(エクソシスト)』だ!」


そう宣言した瞬間、明の服が破れ段々とその姿を変えていく。長い髪の毛が二つに束ねられ一対の翼となり、
口は少女同様に大きく裂け、身体は筋肉が盛り上がり、皮膚は烈火のような真紅へと変貌していく。

そして下半身と両腕に漆黒の外骨格を纏わせたその姿はまるで人々が抱く悪魔その物のイメージを具現化したかの
ような風貌で猛々しく、獰猛さを孕み、全てを破壊せんとする気迫はまさに『地獄の野獣』と表現するに相応しい
ものだった。

その姿にウェルバスは何かを思い出しかのように、たじろぎ始めた。


「ま、まさか、同族でありながら人間側に与し、私達を狩る『祓陰士(エクソシスト)』って……」

「あん? お前等の間でそんな噂が流行ってんのか? まぁ〜〜間違いなく俺だな、それ」

「チィィッ!!!! せっかく『あの方』の手引きでこっちの世界に来れたのにィィィ!!」

「『あの方』……か、なるほど。お前には『上』がいるってことか」

「だったら何よ! 言っておくけど邪魔しないで頂戴! せっかくこんな面白い所で人間どもを好きに殺せるんだから!」  


そう叫んだ瞬間、少女はその身を更に醜悪な物へと変貌させた。制服が消え失せ妖艶な裸体が露になる。しかしその妖艶で美しい
身体を台無しにするかのように無数のミミズのような痣が浮き上がり奇妙に這いずりながら蠢いていた。そして一番目を惹くのは
左眼部分からミミズの触手が伸びその先端には真紅の眼球がまるで心臓のように脈動していた。


「シャアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」


少女だった存在『デーモン・ウェルバス』は上条を捕縛しようと体中からミミズのような触手を放出するも、
異形と化した上条の腕一振りで簡単に消え失せられた。


「く、くそがッ!! はあァァァァァ!!!!」


触手による攻撃が無意味と悟ったウェルバスは口からビル一つを倒壊させかねない威力の空気砲が解き放たれる。


「無駄だ」


上条の一言がウェルバスを絶望で支配する。放たれた空気砲は上条の手で鷲掴みにされ、そのまま潰すように消し去った。

打つ手を失ったウェルバスはそのまま逃げようとするが、上条がそれを許さなかった。両手から火炎の玉を放ち
ウェルバスの逃走を阻止した。


「ぐぎゃァァッ!!!!」

「逃がしはしない。お前は今、この場で俺が狩らせてもらう」

「クソがァァァァァァ!!!! 調子に乗ってんじゃねェェェェ!!」


ウェルバスは腕を振るい無数の空気の刃を次々と発生させる。音速で放たれる空気の刃に上条は体中に傷を負うも大したダメージは
なく、それどころか余裕な笑みさえも浮かべている。すると彼は自身の目の前に紅蓮色に燃え上がる魔法陣を出現させ、その中へと
手を入れる。そして何かを取り出した。それは一本の刀だったが普通の刀とは違い刀身が翡翠色に輝き神秘的な神々しさを放っていた。


「『古より造られし魔を退け祓う剣よ。今此処に、我に仇なす魔を斬らんが為、我にその力を授けよ!』」


上条の口から紡がれる詠唱が反響し、それに呼応するかのように翡翠の剣が光輝く。そして一筋の斬戟がウェルバスを襲った。


「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!」


それは致命傷だった。いかに異形の存在と言えど致命傷を負えばそれは間違いなく『この世界での死』を意味している。


「イヤダ、イヤダイヤダ!! モットモット……人間ドモヲ殺スノヨ!!」

「無駄だ。この『退魔刀』で致命傷を負ったお前は直に死ぬ。その前に答えろ……お前を手引きしこの街へ入れたのは誰だ?」

「フ、フフフ、フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!! アーーーハッハッハッハッッハッ!!!!!」


ただそれだけ。不敵な高笑いと共にウェルバスは消滅し、後に残ったのはウェルバスが依代にしていた金髪の少女と
干乾びたミミズの屍骸のみ。すぐさま上条は少女に駆け寄り、彼女の安否を確かめる。どうやら多少擦り傷はあるが、
それ以外は目立った外傷もなく、大丈夫そうだった。そして元の人間の姿に戻ると少女を抱き上げ知り合いの医者が
いる病院へと向かった。














「うん、とりあえず君が連れてきた女の子は命に別状は無いよ。ただ疲労困憊の様子だけど、まあ安静に寝てれば治ると思うよ?」


そこは上記にも言った『知り合いの医者がいる病院』の診察室。上条の目の前にはカエル顔の医者
冥土帰し(ヘブンキャンセラー)』は落ち着いた物腰で明にそう伝え、表には出さないものの内心ホッとする明。


「そうか。なら良かった。あっ、悪いんだけどあの娘のこと頼むわ」

「まったくいつも君はそうだねぇ〜〜? ま、僕としても医者として患者を見捨てるような真似はしないし、
一度引き受けたからには最後まで面倒見させてもらうよ」

「……いつもありがとな。『冥土帰し(ヘブンキャンセラー)』」

「まっ、君とは長い付き合いだからね。これ位はどうってことないよ」


そう言って所用の為その場を後にする冥土帰しの後姿を見つめながら、上条は自宅へと帰ろうとする。そして丁度、
病院を出た瞬間にそう遠くない……より正確に場所を特定すると自分の住んでいる学生寮から何者かが魔術を
行使した気配を感じ取った上条はすぐさま自宅である寮へと向かい、入り口まで来ると寮内を包み込むかの
ように結界が張り巡らされているのが確認できた。


「魔術、それも『人除けの結界』か。道理で妙な気配が漂ってるわけだ」


本来なら魔術に対し適応の無い者では結界の作用で学生寮に入ることはできないが、生憎『人外』である上条にとっては
何の障害でもないので、余裕に入れる。今のところ寮内に察知できる人の気配は二つ、一つは朝出会った少女インデックス。
もう一つは見覚えはないが身体から魔力の気配も発している為、間違いなく『魔術師』であると断言できる。

しかもそれだけではなかった。


「血の臭い……インデックス!!」


上条は駆けた。インデックスの下へ。一分一秒でも早く。そして見つけた。



『背中を斬られ血まみれで倒れ伏せているインデックス』を……。



上条は急いで駆け寄りインデックスの傷の具合を確かめる。かなり深く斬られており、素人から見ても十分に
危険な状態なのは一目瞭然だったが、自分が治療すれば十分に間に合う程度のものだった為にほんの少しだが
安心感が心を満たしていく。


「うん? 君は一体何者かな?」


後方から声が響く。振り返って見れば黒い法衣にその身を包み、夕焼けのような肩まで伸びる赤い長髪を靡かせ、
目元にバーコードの刺青を付け、タバコを吹かした外人の青年が怪訝を含めた瞳で上条を見据える。格好からして
神父のようだが刺青に耳にピアスまで付けた者を聖職者たる神父様と表現するのはあまりに冒涜と言えるだろう。

何はともあれ、この神父様モドキが人除けの結界を張り、インデックスを追っていた存在に違いなかった。


「何者か…だって? こんな小さな女の子追いかけ回してる変態野郎に言われる筋合いは生憎ねぇよ」

「何だか変な誤解をしているみたいだけど、僕はあくまで『ソレ』を回収しに来ただけなんだよね」

「インデックスを? 目的はこいつの頭の中にある『十万三千冊の魔導書』だろ」

「へぇ、まさか君みたいな科学サイドの人間がソレを知ってるとはね……いや、結構驚きだよ。
とりあえずステイル・マグヌスと名乗りたいところだけど、ここは『Fortis931』と言っておこうかな」


口の中でそう呟いた後、まるで自分の自慢でも紹介するような口振りで上条に告げる。


「魔法名だよ。流石にこれは聞いたことなかったかな? まぁ…どっちみち知ったところで意味無いけどね」


魔術師、ステイル=マグヌスは味わい深く嗜んでいた口の煙草を手に取ると、指で弾く。

弾かれたタバコは横合いへと投げ捨てられ火の付いた煙草はそのまま壁に当たって火の粉を散らした。


炎よ(kenaz)


ステイルがそう呟いた瞬間、火の粉が轟! と言う激しい音を立てて爆発した。ほんの小さな火花から炎へと
変わりそれは形作られた。『炎剣』と称するに相応しい剣の形を取り繕ったそれをステイル=マグヌスは振るい
更なる呪文を詠唱する。


巨人に苦痛の贈り物を(PurisazNaupizGebo)


それはまるで火山のマグマによる奔流のようだった。上条は重い圧力と摂氏3000℃の灼熱をまともに喰らってしまい、
その様子にステイル=マグヌスは『罪悪感』などと言う三文字は微塵も無く、むしろ邪魔者を排除できたことに対する
清々しささえ覚えていた。


「はい、お疲れ様。残念だったね。そんな程度じゃあ1000回……いや、それ以上でも勝てやしな !!!!ッッッッ」


完全に勝ったと思った瞬間、強烈な一撃がステイル自身の腹部を襲い、
ステイル=マグヌスは肋骨を2本ばかり折って吹っ飛ばされる。

激痛にその顔を歪め口から血反吐を出すステイルは目の前を見て驚愕に染まった……あの炎剣の一撃を受けたのにも
関わらず上条当麻と言う少年は傷一つなく、ついさっきステイルの肋骨を折った拳を前に突き出したまま、ステイルを
見据える。


「誰が、1000回やっても勝てないって? ああ、お前のことか」


至極、さも当然とばかりに答える上条。そもそも魔術を行使したからと言って上条当麻と言う存在を
容易く殺せると思ったらそれは大間違いであり、愚かにも甚だしいと言える。

先程も言ったと思うが上条当麻は『人間ではない』、かと言ってこの世界に住む生命体の一員でもない
……彼は人々が『悪魔』や『妖怪』と呼ぶ存在『妖獣デーモン』。我々人間の住む世界『表層境界(クレドライン)』から
様々な物質や生命体に憑依し器とすることで初めてこの世界に現界することのできる『裏層境界(アンダーライン)』に蠢く者。

彼等は太古の昔より人間の世へと出現しては人の魂と血肉、そして魂を肉体に縛り付ける力
生命力(ライフマナ)』を喰らって来た。

そんな彼等に対抗する為、人類は『天層境界(ヘブンライン)』の住人『天使』や『神』と称される者達と契約を結ぶことで
デーモンを滅することのできる力を有した戦士『祓陰士(エクソシスト)』を誕生させ、対デーモン戦力と言う名の剣と盾を
人類は得たのだ。その祓陰士の中でも例外と呼べる者がいた。嘗てはアンダーラインに住む『悪魔』でありながら
裏層境界へ反旗を翻し、自らの意思で人間側に与した悪魔族最強の勇者……その名は『アモン』。

しかし現在においては、今の自分の在り方を指し示す名で自らを『悪魔人間(デビルマン)』と彼は称する。


















さぁ、今此処に科学と魔術……そして悪魔が交わりし物語が始まる。本来なら異能を持っているだけの人間だった主人公は
悪魔となり、既存の物語は少しずつだが本来の軌道から大きく逸脱し始め、新たなる物語への道が構築される。

では我々も楽しもう。

1人の人の心を持った悪魔とその頭脳に十万三千冊の魔導書を持つ少女の行く末を………。




あとがき
よう、この世界を…この物語を見ている読者の諸君。

俺の名はケットシーの『シャルロット』、まぁ〜上条当麻の使い魔をやってる猫の悪魔とでも思ってくれ。とにかくまさか俺のご主人とあの禁書目録が出会っちまうとはな、こいつは一嵐来るぜ、当麻!

次回 『少女と首輪』

幼き少女に架せられし呪い、お前ならどうする?



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