時は来た。60年の周期を巡り開催されるのは、四つの陣営に分かれた28人のマスターと呼ばれる者達と
彼等の剣となり盾となる七つの座に据えられし存在、サーヴァントたちによる壮絶な死闘舞踏たる『聖杯共同大戦』。

七人一組で一個の陣営となり、聖杯の采配によって十のクラスに分かれたサーヴァントを召喚し共に覇を競い合う。


剣士(セイバー)

槍使い(ランサー)

弓兵(アーチャー)

魔法使い(キャスター)

騎乗者(ライダー)

暗殺者(アサシン)

狂戦士(バーサーカー)

拳闘士(ファイター)

異形(クリーチャー)

復讐者(アベンジャー)


以上の十の座に当て嵌められた英霊たちとそのマスターの諸君等が競い争うこの戦い、その結末を知る得るのは
果たして………。

















時刻は既に12時を周り大抵の人は安らかな眠りに入っている頃。

1人の少女が西洋風的な屋敷の自宅に存在する地下室で、魔術的儀式を行っていた。大方一般の人々から見れば
異常な光景と捉えるだろうが名門魔術師『遠坂家』の当主である彼女からすれば、それは異常でも何でもなく
当たり前の光景と言えるのだ。

この世界には、『御伽噺の産物』でしかない筈の存在である『魔術師』が実在している。

人の身でありながら人智を超えた神秘を行使する彼等は森羅万象全ての始まりにして終焉とされる高次元の座標
『根源の渦』へと到達することを『最大にして最終目的である使命』と謳い、魔術師なら誰もが根源への到達を
目指している。

それは彼女の家柄である遠坂家も例外ではなかった。彼女の父『遠坂時臣』は根源到達の為に『聖杯共同大戦』へ
参加したものの、最終局面となった戦いにおいて彼は無残にも敗れてしまい、その結果として命を失うこととなった。

その日から、彼女は父の後を継いで遠坂家の当主となり、様々な魔術の勉学に励み魔術師としては中位の資格を得た。

そして……父が果てせなかった聖杯探求を成し遂げるべく彼女は水銀で魔方陣を描き、何十年分の魔力が篭った古代遺跡
である宝石を手に取り、サーヴァントを自分の下へ呼ぶ為の呪文を詠唱する。


「告げる。汝の身は我が元に。我が命運は汝の剣に。聖杯の寄る辺に従いこの意、この理に、従うならば応えよ!」


凛の呪文詠唱に呼応するかのように魔方陣が赤く光り輝き、凛の全身に張り巡らされた魔術回路が脈動し始める。

多大な精神的苦痛と疲労が凛の身に襲い掛かるも彼女は負けず屈さず。呪文の詠唱を続けた。


「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者!」


光が激しさを増し、空間そのものを大きく歪み切るような感覚まで出てくるが、彼女は最後の部分を詠唱を続ける。


「汝三大の言霊を纏う七天! 抑止の輪より来たれ! 天秤の守り手よ!!」


やがて最後の呪文を詠唱し切った瞬間、突然上の方から凄まじい破壊音が鳴り響く。呪文は最後まで詠唱したと
言うのに魔法陣からサーヴァントが現れる気配は一切無い。そのありえない現象に驚愕した凛は凄い勢いで上へ
と駆け上りそのまま爆発が聞こえた部屋の一室へ訪れると部屋のドアを蹴破り、勢いよく入って来た。


「やれやれ。これは一体どういうことかな? 正直、こんな乱暴な召喚なんて初めてだよ」


存分に皮肉を込めた、甲高い女性特有の声が黙々と上がる砂塵の煙から聞こえて来た。

やがて煙が消える。煙が晴れたその先にいたのは1人の少女だった。

自分と同じか、あるいは年下と思わせる容姿に、空虚を連想させるような灰色のポニーテールの髪は
その一本一本が生気を帯びてはおらず、だが夜風に靡く姿は中々に艶やかとしいて綺麗だった。

黒みがかった藍が特徴的なビスチェに近い形状の甲冑にダークブルーのスカートを履き、漆黒のマントを
羽織った彼女の姿はまるで『中世の騎士か剣士』を連想させるような、それに近い風情と言えた。


「…………………………もしかして貴方………私のサーヴァント?」

「一応は。まぁ突然の事態に混乱しているとは思うけど、それは僕も同じだ。一体何だって僕が
爆発と共に空中落下を決めさせられた挙句、君の家の一室の天井を破壊しなければならないんだ?」


どこか癪に障る口調だったが自分に非があるのは間違いないし、その点を考えれば彼女は十分被害者と言える。


「んんッ! まっ、確かにその件については私も悪いわ。反省。……で、貴方はどのクラスに据えられた英霊なの?
聖杯の導きに応えたサーヴァントなんだから、当然クラスはある筈でしょ?」


わざと咳払いをして自分の非を素直に認め反省し、教訓にしたマスター・遠坂凛は目の前でソファーに腰を下ろしている
自分のサーヴァントへ向けてクラスについての質問をしてみた。しかし目の前の少女から帰って来た答えは予想外のもの
だった。


「その前にいいかな? 君が僕のマスターであることは明白だ。パスも繋がっているし問題は無いけど
君は『僕のマスターとして相応しいのか』、と言うことについては『NO』と言わせてもらうよ」

「へ?……………はぁぁッ!? ちょっ、何よそれ!!」

「いくら僕がサーヴァントだからって、己が主人を選ぶ意思くらいあるさ。だからこそ言わせてもらうが
君は僕の主としては相応しくない。でもまぁ………この聖杯共同大戦に呼ばれてしまった以上仕方ない。
かなり不本意だけど君のサーヴァントにはなるつもりさ、あくまで『仮』だけどね」


ブチッ。

凛の中で切れてはいけないものが切れてしまうが、その事実に目の前の騎士少女は気付いていない。


「ま、そんなわけだから君はこの家の何処かにでも隠れててくれないかな? どうせ君達魔術師は戦闘に関して
言えばド素人…いや、それ以下なんだろ? そんな輩に戦いの方針を指図されるのは我慢できないからね。
そんなわけだから今夜は一歩も」

「あ、あ、あったま来たァァァァァァァァァァァァァーーーーーー!!!! 何よ! 出会って早々
的を得てないダメ出しばかり言っちゃってさ! そんなに言うなら私がマスターだって証明させてやるわよ!」


そう言って凛は手の甲に刻まれた『白い色の令呪』を掲げ、今まさに、こんな下らないことの為だけに
三度限りの切り札を使おうとしていた。


「ちょ、まっ、待つんだマスター! その令呪がどれだけ貴重なものなのか分かっているのか!? 落ち着くんだ!」

「うるっさい! いいから! つべこめ言わず私に従いなさいよォォォォォォォォォォォーーーーーーー!!!!!!!」


この凛の一言で凛の手の甲から三画ある令呪が一つ、無残にも消え失せてしまった……。

















「はぁぁ……まったく。この私があんなことで令呪を一画使うなんて……」

「その点に関しては僕も悪かったのは認める。でも僕はまだ君と言う人間を理解できていなければ、
把握もできていない。故に僕の考えは変わらないけど、今後は君の指示に従い行動するよ。令呪に
よる束縛もあるしね。また癇癪の一つで令呪を使われるのは僕としても堪ったもんじゃない」


現在、居間の一室にてマスター遠坂凛とそのサーヴァントである騎士風の少女は、先程について
話し合っていた。今の現状を整理してみると凛の令呪は先程使ってしまった為、事実上あと二画
しか使えない。しかもまだ関係は『信頼し合ってる』とは程遠いと感じだが、それでも一応この
サーヴァントは凛をマスターとして認めてはいるらしい。


「まぁその件については仕方ないとして……貴方のクラスは? サーヴァントとして
召喚された英霊なら10ある座の内の一つに据えられてる筈でしょ?」

「ああ、もちろん。僕は聖杯の采配によって『クリーチャー』の座に振り分けられたみたいだね」

「クリーチャーって確か……異形の英霊……よね?」


騎士風の少女もとい『クリーチャー』なる彼女の言葉に凛は少しばかり怪訝な表情を浮かべる。

英霊とは過去、現在、未来……または並行世界において何らかの偉業や功績を残した者は死後、世界によって
『英雄』として認められその魂は『英霊の座』と呼ばれる高次元幻想界へと収められる。そうすることで英雄
の魂は精霊の域にまで昇華し、様々な力を保有する『英霊』として確立する。

英霊となった彼等は『世界の守護者』となり、未来永劫『世界にとっての巨悪』と戦う宿命を授けられる。

しかし英霊となった者全てが人間に与した者ばかりとは限らない。

英霊の中にはあまりの悪行の為に忌み嫌われ、恐れられるあまり崇拝の対象になった者や
その悪行が結果的に世界にとって有益な善を成した者など。そうした存在も英霊の座へと招聘されるのだ。

そして、それ等に該当する英雄の類は『反英雄』と呼ばれる。

クリーチャーの座に収まるのは『人ならざる化生の英雄』であり、その多くが反英雄である。

例えばギリシャ神話に登場するメデューサや獅子や蛇や山羊などが合わさった怪物キメラ、
ドラキュラ伯爵のモチーフになったヴラド三世などが当て嵌まる。

つまり、凛のサーヴァントである彼女が『異形の座』に据えられた英霊ならば、それは彼女が
『人ならざる化生』と言う事実に他ならない。

なのだが…………一通り見た限りではそのような風貌は一切見られず、むしろ人としての理性さを感じさせる。

異形の英霊と言うよりは10あるクラスの内、最も優秀とされる『セイバー』、『ランサー』、『アーチャー』の
『三大騎士クラス』のどれかが合ってると思えるのだが実際は違うらしい。


「君がそんな顔をするのは無理もないか。何たって今の僕の姿は人間そのものだからね。でもいくつかある宝具の
内のある一つを開放すれば、僕は忽ち人ではなくなる…………とにかく僕がクリーチャーであることは明白だよ。
それについてはマスターが聖杯より与えられる『ステータスの透視』スキルで分かるだろ?」


この聖杯共同大戦に参加するマスターには必ずステータスを読み取る為の『透視スキル』が与えれている。

これによりマスターは自身のサーヴァントはもちろん、相手のサーヴァントのクラスやステータスを読み取る
ことが可能となるのだ。そして凛がこのスキルを用いてクリーチャーのステータスを読み取ったところ、以下
の結果が出てきた。


クラス/クリーチャー

属性/善・混沌

筋力/C

耐久/B

魔力/A+

敏葎/B

幸運/D


「ふ〜〜ん………なるほど。とりあえずサーヴァントとしての戦力は『中の中』か『中の下』ね。
まぁ〜私としてはやっぱり『上の上』か最低でも『中の上』が好ましいわね」

「それは期待に応えられなくて悪かったね。でも僕がこんなステータスなのは君の召喚の際の
『失敗』でもあるってことを覚えていてほしいな、仮マスター?」


クリーチャーの鋭い指摘に凛は『ぐぬっ』と唸る他なかった。

元々の力量もあるのだが、現在において凛の『召喚の際の事故』によってパラメーターが
半分ほど下がってしまったのだ。


「と、とにかく! これからどうする?」

「そうだな………それじゃあまず、この土地の地理を把握しておこう。聖杯からの知識はあるが
実際に見た方がより把握しやすい筈だ。策を一つ二つ練るのはその後が得策だと思うな」

「そっ。じゃあそれで決まりね。そ・れ・と! あの部屋の片付けと掃除はアンタに任せるわ。
仮とは言え私をマスターとして認めたんだから、それぐらいは普通にやってくれる筈よね?
ちなみに私は明日に備えて一足先に寝ておくから頼んだわよ〜〜♪」


ニッコリと笑みを浮かべてクリーチャーに命令した凛は、そう言って部屋を出ようと扉を開け外へと出ようとする。


「……………………………………………………了解した。そして地獄に落ちるがいい、仮マスター」


その去り際にクリーチャーは、凛へと唾でも吐き捨てるかのような言い草でそう呟き、黙々と部屋の片付けに移行した。

















かつて一つの街があった。

大して珍しくも無い、どこにでもある日本の街並み。

しかし、それらは『強大な絶望の化身』と言う名の超大規模な異常災害によって崩壊した。

まず襲ったのはとてつもない地震。ビルなどの類はかろうじて耐えてはいるが、民家などは
膨大な風圧によって大破し、見るも無残な瓦礫の山へと変貌する。

続いて襲って来たのは巨大な竜巻。人々は皆、猛獣を思わせる強風の勢いに成す術なく呑み込まれる。

最後に襲ったのは途方もない大爆発。原子爆弾や水素爆弾でもない、が、それでいて全てを灰燼に
還さんとする勢いはまるで、地獄の具現化と言う風に捉えてもおかしくはなかった。

無慈悲に燃えがる大火は街に住んでいた人々を骨の髄まで燃やし尽し、最後は全てを焦土の中へと消し去る。

そんな中で大切な家族、信頼していた友達や恩師など。様々なものを失ってしまった1人の幼い少女が
虚ろな瞳でただ黙々と歩いていた。四方八方あらゆる方角から灼熱の業火に苦しむ人々の叫びが聞こえる。

何故、こうなったのか少女には検討もつかなかった。

そんなのは当たり前だ。彼女を含め街の人々全員が何故こうなってしまったかなど分からない。

彼等は変わることのなかった筈の日常と言う名の世界で生きていた。苦しいことも悲しいことも
無いとは言えない、しかし、それでも平和な何気ない日常を謳歌していたことに違いなかった筈。

では何故、こうなってしまったのか?

ただその疑問だけが彼女の脳内を支配し、生ける屍のようにズルズルと片足を引き摺りながら歩いていく。

その行動に意味など一つも無かった。この時彼女は死んでしまったのだ……『肉体』ではなく『心』が。


『やぁ、■■■■■。今日は随分と悲惨な目に会ったようだけど、大丈夫かい?』


ふと、自分に話しかけて来る誰かがいた。それは白く耳から垂れた体毛が特徴的な謎の生物だった。


『もし、君がこの悲惨な地獄からの救済を望むのなら僕と契約して■■■■■■■■■■』


謎の白い生き物の言葉に彼女は……■■■■■は答えた。

















「っ……うん……………今のは………アイツの過去?」


召喚が行われた夜が明け、いつも通りの朝がやって来た。

少しばかり欠伸をしながらベッドから起き上がるのは、黒く艶やかな長髪が特徴的な少女『遠坂凛』。

彼女は先程まで見ていた夢について考え始めた。マスターとサーヴァントは霊的な繋がりがある為、
時としてサーヴァントの過去をマスターが夢として見る場合がある。いつでも見れると言うわけで
はないが、とにかくあの夢がクリーチャーの過去であることは直感的とは言え何となく理解できた。

それと同時に様々な疑問や謎が浮かび上がっては来るが、今そんなことを考えても仕方がないと判断した
凛は慣れた手付きで早めに着替え終え、髪をツインテールに纏めると朝食を摂る為に食堂へと向かった。


ガチャッ


「おはよう、仮マスター。 昨日は人に仕事を押し付けておきながら随分とよく寝れたようじゃないか」


嫌味たっぷりな口調で話しかけて来るクリーチャーだが、現在彼女は凛の為にお手軽ながら朝食の用意をしていた。


「………そう言う割りには気が利くのね、貴方」

「おっと、勘違いしてもらっては困るな。これはあくまでサーヴァントとしての使命を全うしているに過ぎない。
確かに僕は昨日の日をもってサーヴァントとして君の下に召喚された。で、あるならば仮とは言えマスターの健康
管理も視野の内に入れておくのは当然の帰結と言うものさ。だから間違っても誠意などではないことを主張するよ」


あくまで自分はサーヴァントとしての義務を果たしたに過ぎないと語るクリーチャー。どうやら昨夜の時の考えを
改める気は更々無いようだ。そこまで思い至った凛は溜息を吐いて彼女が用意してくれた和風の食事に手をつける。

ちなみにメニューは『焼き白身魚』に『ピーマンとキャベツの炒め物』、『ご飯と味噌汁』と言った感じだ。

見た目も良くあまり腹が空いていなかった凛でも食欲を沸かせる一品だった。そして味の方は……


「お、美味しい。なんかコレ、そこいらのレストランより美味しいかも」

「当然さ。微細な調味料の調整に独特なこだわりの味付け。工程の一つ一つに手心を加えてるんだからね」


自信あり気に答えて来るクリーチャーに何とも言えないものを感じた凛だったが、彼女が作った料理への感想は本物だ。
店に出しても何の問題もないほど完璧だったし、味もメニュー自体は至って平凡だが六つ星レストラン並かもしれないと
思わせるほどのものだった。

そんなクリーチャーの料理を心行くまで堪能する凛は食事中ながら早速今後の方針について語り始めた。


「まず第一に私の仲間になる『白ノ陣営』に属するマスターを探しましょう。大半は私の知り合いだからいいとして、
残りはざっと3人ほどいるわ。その3人については私の仲間が全力で探してくれてる。私達はその間に策を練るのよ」

「うん、分かった。その為に君が直々にこの街を案内してくれるんだろ?」

「もちろん。これを食べ終わったらすぐにでも行きましょう」


そう言って凛はクリーチャーの作ってくれた料理に箸を伸ばしそれを口へと運んでは、頬張るように味わった。

















朝早く自宅を出た凛とクリーチャーは地理把握の為に街中を散策していた。ちなみにクリーチャーは
格好的に人目に付き易いので今は霊体化することで自身の姿を一般人に見せないよう心掛けている。

そして現在時刻は既に1時半を回っていた。一通り大体の地理を把握したクリーチャーに凛は安堵した
様子を浮かべると近くにあった公園に寄り、公園の入り口付近にあったベンチに座り疲れを孕んだ息を
吐き出した。


「ふゥ〜〜まっ、ざっとこんなもんでしょ。何か他に聞きたいことはない?」

「そうだねぇ………例えばあの大橋。未遠大橋だっけ? 遮蔽物の少ないあの場所なら巧く敵を
誘き寄せれば僕の持つ弓か銃の宝具で狙撃できるし、霊脈の細かな流れが集中している場所なら
魔法を効率良く発動させることだってできる。結構戦法は多彩に採用できそうだな」

「ちょっ、ちょっと待って! 貴方、クリーチャーなのに飛び道具系の宝具持ってるの?!
それに今『魔法』って言ったわよね! まさか魔法も使えるってのアンタ!!?」

「お、落ち着いてくれ仮マスター。ちゃんと順を追って説明するから」


クリーチャーは興奮した様子の凛を何とか鎮め、コホンっとワザとらしく堰をして話し始めた。


「そう言えば君に僕の宝具の説明をしていなかったな。まぁ昨日はあんなことがあったわけだし、
仕方ないと言えば仕方ないが……まず、その宝具について断片的ではあるが説明しよう。基本的に
英霊が保有する宝具は『一つ〜五つ』までが限度。僕の保有している宝具は三つある」

「三つってことは……それなりに破格の英霊なのね貴方」

「まぁそうなるね。でっ、宝具と言うのは君も知っているとは思うけど英霊が『英雄となる為に
必要なアイテムや逸話』が元となっている。例えば北欧神話で有名なジーク・フリートが悪竜を
打ち滅ぼす際に使用した『聖剣バルムンク』やギリシャ神話のヘラクレスが挑戦した『十二の試練』
とかね。それらは確実に宝具として昇華されるだろう」


伝説や歴史にその名を刻んだ名のある英雄の霊格たる英霊は皆、宝具の由来となった武器や逸話など
『英雄としての象徴』に成り得る何かを持っている。それを持ち得ているからこそ英雄は英雄として
成り立つことができる。

逆を言えば、宝具を持たなければ英雄は英雄ではなく『ただの常人』に過ぎず。死後は『ただの亡霊』で終わる。


「僕のは少し変わった宝具でね……三つの内の一つは『同一の剣を無数に生み出す宝具』なんだ」

「け、剣を無数に? そんなこと流石に…」

「無理じゃないさ。それは『単一の宝具』として定義できるからね。そして二つ目は『並行世界の英雄が
有する宝具を性能は少し劣るが使用することができる』と言うものなんだな」

「はあァァッ!?? 何言っちゃってるのよ貴方! そんなのいくら何でも無茶苦茶でしょう!」

「まっ、その反応になるよね普通は。………仕方ない。本当なら未だ君を真のマスターとして認めて
いない時点で我が宝具を晒すのは些か心配だけどここは……!! 仮マスター! 敵サーヴァントだ!」


話しを一旦区切り、自分達『白ノ陣営』以外のサーヴァントの気配を感じ取ったクリーチャーは一本の
サーベル状の刀剣を出現させ、いつでも戦闘に入れるよう警戒態勢となった。凛も自前の宝石を取り出し
いつでも魔術を行使できるように態勢を万全にする。


「レッツ・イン・クリアぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 来ちゃった来ちゃった、マジで来ちゃったよォォォォォォ!
まっさかこ〜〜んな、とっころで敵陣営のサーーーーーーーヴァントに出会うなんて、マジでスーパーミラクル
ラッキーーーーーーーじゃない私!! でもでも、あんた達にとっっっっってはハイパーアンラッキーって感じ
よねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!」


凄まじいまでのハイテンションをヒートアップしたエンジンのように燃え上がらせ、幽鬼のような黒い長髪に
赤いコートを羽織り、市販で売ってるような白いマスクで顔を半分ほど隠した女性の姿をしたサーヴァント。

ハイテンションな口調もそうだが何より雰囲気や気配が通常のサーヴァントに比べて『異常』に見えた。

『英霊の枠に収まった悪霊の類』

それが、このサーヴァントを初めて見た凛の率直的な感想だった。

そして赤いコートのサーヴァントは片手に黒一色に塗り潰された一本の巨大で歪な形状の鋏を顕現させて
それを掴むと、一気に振り上げ掲げるように宣言した。


「レッツ・ショーーーーーーーーーーータイィィィィィィィィィムゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!
さあさあ始めましょう! サーヴァント同士のデスマッチをねぇぇぇぇぇ!!!!」

















時間は遡り、凛とクリーチャーが敵サーヴァントと遭遇する2日前。冬木市の街が戦場として象られた異空間で
二騎のサーヴァントが激しい戦いを繰り広げていた。マスターに召喚されたサーヴァントは現実世界においての
戦闘行為は聖杯から令呪以上の強制力が掛かってしまう為に理論上不可能。そもそも聖杯戦争は一般人に知られ
てはならない代物なので、サーヴァント同士の戦いは冬木市をモデルにした異次元の虚構の世界、

霊子虚構世界(セラフ)』において行われる。

この異空間から出る方法は『相手サーヴァントを撃破』か、『現実世界へ通じる穴を見つけて入る』。

以上の2択しかない。話を戻すが現在このセラフにおいて戦っているのは凛と同じ『白ノ陣営』に属する
マスター『ジナコ・カリギリ』のサーヴァント『キャスター』と『赤ノ陣営』に属するマスター『ヤガミ』
のサーヴァント『バーサーカー』の二騎。

ちなみに彼等のマスターはサーヴァントたちから離れた場所で魔術戦を展開している。


「■■■■■■■ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」

「フン、流石は狂戦士の英霊と言ったところか。中々に強い……」


少し忌々しさを含んだ賞賛を目の前にいる狂戦士へと贈るキャスターの姿は、黒一色しかないゴスロリ風の衣装を
身に纏い背中の左側に巨大な蝙蝠のような漆黒の翼を生やし、ダークグリーンのおかっぱ頭な髪型の少女のと言う
異様なものだった。それに対しキャスターの相手をしているバーサーカーは腰に虎柄の袴を履き、全身の肌は鮮血
でも浴びたかのような真紅の体色に胸と両足手首に軽装の青銅でできた甲冑を装備した格好をしている女性と言う
異質で奇怪的な姿をしていた。

そして一番目に付くのは、頭の両サイドから湾曲するように生えている漆黒の二本角だった。

しかもその角から発せられる魔力は尋常じゃないほど禍々しく殺気に満ち溢れており、
一般人なら彼女の殺気と存在感だけで心臓を鼓動を止められてしまうだろう。

そんな気さえ無意識に思ってしまうほどの代物なのだ。


「■■■■■…………ふ、ふふ、あっはははははははははははは!! そう言う御主も中々やる!
この聖杯共同大戦はわっちの期待通りのモノじゃったわい!」


突如として猛獣の如き荒々しさを引っ込ませ、バーサーカーとは思えないほど豪快に理性的に笑う彼女に
キャスターは怪訝な表情を浮かべ珍しいものでも見たかのような視線を送った。


「狂いし英霊の筈なのに理性を残し人語を口にするとは。貴様、バーサーカーはバーサーカーでも
よほどの規格外のようだな。なればこそ………討ちがいがあると言うものだ!」


そう言ってキャスターは両手から赤く禍々しい魔力の玉を二つほど精製し、真名開放を解き放つ。


闇よ、我が敵を滅ぼせ(ダーク・キル・バースト)!!」


暗黒の魔力が血肉に餓えた野犬のようにバーサーカーへと喰らい付き爆発を起こす。


「……………………………痛いねぇ。痛い痛い。あ〜〜わっち、こういう攻撃は苦手だわ〜」


黙々と広がる硝煙の中からバーサーカーは台詞とは対照的に暢気な感じを醸し出すバーサーカーは
いつの間にか顕現させた自身の宝具である『棘状の突起が付いた巨大な金棒』を振り上げ、同時に
凄まじいまでの凶悪さを孕んだ狂気の笑みを浮かべる。


「でも中々、見所あるやないのォォォ!!!!」


殺意を込めた金棒の振り一撃一撃がキャスターを殺そうと迫る。本来、キャスターと言うクラスの
サーヴァントは『魔法使い』である為、セイバーやランサーのような近接戦闘では圧倒的に不利で
多くの場合、瞬殺されてしまうのが落ちだろう。

しかし、ジナコのキャスターは違う。

魔術や魔法よりも格闘戦を得意とし、本来ならばファイター向きのサーヴァントである筈なのだが召喚の際の
方法における手違いか、聖杯の偶然の采配かは分からないが『キャスター』のサーヴァントとして現界している。

その為、魔術戦は不得手だが純粋な戦闘技術をもって挑む近接戦では通常のキャスターと違い、その力を発揮できる。


「そらそら! 避けて逃げてるだけじゃあ、わっちには勝てんぞ!!」


しかし、だからと言って分をこちらの良い方向に持っていけるとは限らない。バーサーカーの金棒による一撃一撃の
重い攻撃は速度自体が速すぎる為、中々懐に入り込む隙ができず、更に金棒を振るう度に発生する魔力波が邪魔する
せいでまともな攻撃ができずにいた。

と、ここでキャスターは自身の漆黒の翼を広げ空中へと移動する。

すると赤い稲妻が迸るかのようにキャスターの両腕に発生し、彼女は真名開放を猛々しく叫び上げた。


我が闇よ、稲妻となりて敵を焼け(ダークネス・スパーク)


降り注がれた赤い稲妻は巨大な魔力の一筋となって竜が獲物を飲み込むかのようにバーサーカーに
襲い掛かる。だが以前としてバーサーカーの顔から笑みは絶えない。


「二度も宝具を開放するとはのぅ……大物か、もしくはただの阿呆かは分からぬが、お前さんの剛毅さに
答えてわっちも己が宝具を開帳しよう! そしてその目に焼き付けるがいい! 『茨木の鉄槌』!!」


バーサーカーは自分の宝具の真名を開放し、秘められた金棒の力を思う存分に解放した。

するとバーサーカーの金棒は柄の部分を除いて何百何千とも知れぬほどの無数の茨へと変化した。

そして激流の如くと言った勢いでキャスターの放った赤い稲妻を防ぎ、見事に相殺させてしまった。


「チッ! 防がれたか。だが、私が空中にいる以上、それに適した宝具でもない限り無駄だ!」

「なるほど。確かにコイツは厄介じゃが…!!ッ 誰じゃ其処におるのは!?」


二人が戦っている場所は、セラフ内にある一部崩壊した廃墟ホテルの敷地内。その敷地内で木々が密集している
場所から何者かが二人の戦いを見ていたのだ。自分の存在が感付かれたことに驚いた何者かは急いでその場から
逃走を図る。


「今の気配……マスターやサーヴァント特有の気配が感じられんと言うことは……一般人か!!」

「一般人だと!? 馬鹿を言うなバーサーカー! ここは霊子虚構世界(セラフ)だぞ。一般人が入れることは」

「しかし、現にあいつは間違いなく一般人じゃった。この戦いは人目には付いてはならん暗黙の闘争。
非常に残念なことじゃが、あの一般人には消えてもらうぞ!」

「!!っ そんな行為など認め…ぐあっ!」


自分達を見ていた何者かを一般人だと判断したバーサーカーは一気に駆け抜け、目撃者の抹殺を
遂行しようとした。これに異を唱え止めようとしたキャスターだったが先程の茨の破片が再生し
増幅。また無数の茨と化してキャスターの身に纏わり付くと彼女を拘束する形で縛り上げた。

そしてバーサーカーはキャスターの制止の声も聞かず、宝具である金棒『茨木の鉄槌』を担いで
目撃者の抹殺する為、その後を追っていった………。



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