「乃木の旦那様、橙子様が参っているのですが……」


 仮住まいとした那須の農家、その屋敷の本来の主に従う使用人の声が障子越しに聞こえてきた。軍を休職し隠遁した此の地で軒先を貸してもらい、代わりに村の顔役の真似事をしている為か、村の皆は儂を『乃木の旦那』と呼んでいる。
 使用人の声で独逸(ドイツ)語の原書から目を離す。部下の公金横領事件で責を被り晴耕雨読の日々であるが、一時たりとも軍人の本分を忘れたつもりはない。若い時は無茶をしたものだがこの歳ともなれば下の者への示しだけでなく個人としての矜持も出てくるものだ。それでも、孫娘に甘い顔をしてしまうのは儂も老いたというべきなのか?あの元気な孫のことだから母親と大喧嘩した挙句、飛び出してきてしまったのだろう。昨日親族の一人が饅頭を持って挨拶に来ていた筈、と考えて思わず溜息と共に呟く。


 「老いたな……儂も。」    「旦那様?」

 「いや、橙子が来たということはまた母親と喧嘩でもしたのであろう、困ったものだ。」

 「それが旦那様。き、来ていただければ……」

 「如何したのだ?」


 流石に不審に思わざるを得ない。尋常小学校でも「乃木の御転婆娘」で通る孫だ。同学年の男の子を率いて喧嘩をしたと教諭が嘆いたのは知っている。知恵もよく回り家の者からも愛される。立ち上がり使用人を促して後に続く、めったに使わぬ客間に居るというのもおかしい。使用人が障子を開け中に入る。其の時、儂は息を呑んだ。


 そこには確かに孫娘“橙子”が居た。


 しかし、その顔に何時も見ていた子供らしい表情は欠片も残っていない。確かに背恰好は8つの幼子のままである。まず、着ているもの自体がおかしい。淡い橙の袿に娘袴、代々の着物でもなく買い与えたものでもない。そもそも息子であり彼女の父親、勝典には無駄をするな贅沢をするなときつく言いつけている。さらに雰囲気がまるで違う。幼子らしい無邪気さの混じった愛らしさは消え失せ、底冷えするような凛気すら感じる娘の感触、いつもの御転婆ぶりで雑草を束ねたような背中に届く髪は綺麗に梳かれ、柔らかな光沢を放っている。これはありえない。孫は絶対に母親、義娘に髪を梳かせることは無いのだ。いつもぼさぼさの頭を梳くのは祖母の、儂の妻の静子である。そしてその瞳を見て驚いた。


 (はしばみ)の瞳……憑かれたか!」


 魑魅魍魎等信じたことは無い。精々心弱きものの戯言、だが確信せざるを得なかった。無造作に床の間に立てかれられた軍刀を引っ掴み鞘を払う。白刃が煌いた其の時、橙子は静かに頭を垂れた。


 「“初めまして”、御爺様。」


 儂はその声に手を止めざるを得なかった。










蒼き鋼のアルペジオSS 榛の瞳のリコンストラクト
 

第一章 日露地獄変










 客間の中、異様な雰囲気の中で儂・乃木希典とその孫と称するモノは相対している。


 「貴様は何者だ、よもや今さら橙子と言うのでは無かろうな?」

 「そうであり、またそうでないとも言えます。御爺様が橙子の姻戚関係において祖父に当るのは事実、さらに姻戚関係での呼称が祖父と孫娘である以上、最も適当と呼べる単語を会話化しました。しかし、御爺様のおっしゃる通り現在、いえ4時間前の素体たる“橙子”とは明らかに違います。“橙子”は河辺での斜面滑落によって肋骨骨折、頚椎損傷を負い機能停止状態にあり、生命維持において危険域にありました。そこでコアユニット防衛機能を構成するナノマテリアルを強制再プログラムし“橙子”を他律行動状態に置くことで生命維持を行っております。橙子はその管制システムです。」


 摩訶不思議な言葉遣いであるが儂の口走った言葉はあながち間違いでもない様だ。要するに孫娘は河辺で死に至る傷を負い、この存在が取り憑くことで命永らえているらしい。だが、易々とそんな御託を信じるほど儂は真っ直ぐ生きてはおらん。試してみるか……。


 「孫を救ってくれたのには感謝するが早々に立ち去れ。ここは祖父の家だ、医者も呼べるし病院のある帝都にも近い。生死を回天させた以上そなたにも不都合があるはずだ。」

 「残念ながら現在の医療技術では“橙子”を回復させることは不可能です。その医療技術に世界が達するのは116万8300時間相当が必要と想定します。また現状において橙子を自律行動状態に回復するだけでも2万6000時間は必要と算定しました。」


 試すはずが儂の想像を遥かに超えた答えが帰ってきた。それも明後日の方向にだ。普通なら戯言の類と切って捨てている。だが数字という具体的なものが平然と口から飛び出たことを唖然とするしかない。国家予算ぐらいにしか使うことがない筈の数字、法螺吹きでももっと曖昧な言葉を言うだろう。


 「しかしながら、現状においては“橙子”を表層意識に浮上させ会話を試みることも不可能です。橙子の演算処理が“橙子”の脳演算能力の殆どを使用している為、並列化を試みた場合、負荷による脳細胞の破壊が94.32パーセントの確率で起こります。さらにこれは“橙子”と私の契約条項にも違反します。」

 「契約……じゃと?」


 孫と話をさせろ、と言う言葉の腰を折り、明後日どころか来月後にも匹敵する答えが返ってくる。孫はいったい此奴と何を話したのだ?挑発の文言を混ぜさらに言葉を繋げる。


 「正しく欧州の御伽噺に出てくる悪魔じゃな。願いを叶えると甘言を弄しさらに奪う。言え!孫と何を話した?」

 「“橙子”との契約内容は橙子を現時代での情報収集手段としての素体復元とその使用、これは橙子としては1万時間もあれば過剰なほどですが“橙子”の回復時間2万6000時間中の使用が認められております。代価として提示されたのは1904年に行われるであろう日露戦での勝利の為の介入。」


 絶句した。何を馬鹿なと思った事で記憶が蘇る。橙子が数日前に露西亜(ロシア)帝国が攻めてくる噺に怯えた表情を見せた時、儂がいるから心配ないと安易な受け答えをしたのだ。橙子は勘が鋭い。故に此奴に突かれたのか。


 「悪魔と言ったのは訂正しよう。だが貴様は只の似非預言者にすぎん」


……そう口にしたところで気がついた。何故此奴はあった事を繰り返すような言葉にしたのか?


 「貴様、ソレをどこで見てきた?」


 橙子はクスリと笑いゆっくりと話し始める。己の世界の日露戦争を、その世界での儂の行動と未来を、そう、大日本帝国陸軍所属第3軍司令官“乃木希典”の生涯を。そして自分が何者であるかも…………。










 信じ難い話ではあるが納得はできた。日露開戦、旅順攻略戦、奉天会戦、ポーツマスの講和、学習院院長就任そして殉死、同じ状況なら儂の選択もたいして変わらないだろう。ただ、疑問に思わざるを得ない。このままいけば此奴の思い通りの未来に辿り着くはずなのだ。何故態々変える必要がある?


 「“乃木希典”に孫はいません。」     「何?」

 「“乃木希典”の子は早くに夭折するか子を成さず日露戦争において死亡しています。橙子の世界とは既にずれが生じております。さらに御爺様の性格が“橙子”によって変化している可能性もありえます。性格が変われば状況判断にも違いが生じると橙子は仮定します。」


「儂は儂だ、それ以外の何者でもない。」


 ぶっきらぼうに答えを返す。此奴の性格が読めてきた。兎に角、無礼かつ無遠慮だ。人の心、想いというものに土足で上がりこんでくる。しかも正論を振りかざし、己を人という範疇の外側に置いて人の世を眺めている。


 「だが、貴様になにができる?精々孫一人操る程度、政を変えるなら桂君(時の総理)にでも取り憑くべきだったな。」


 橙子は薄く笑うと言い放った。


 「御爺様を操れれば事足ります。この体は最高の人質たり得るでしょうね。」

 「甘い!孫娘を斬れぬと思うたか!!」


 鞘におさめ傍らに置いた太刀を腰だめに拾い、刃と打ち身を逆手に素早く鞘走らせようとする。俗に言う“居合”目の前の娘は圧倒的な気迫と共にそれを声のみで押しとどめた。


 「斬れませぬ!私が契約したのは貴方の孫の命と未来、対する代価は貴方の選択、未来を知り得たなら解るでしょう。貴方が後世どう伝えられるかを!そして132年後、世界に何が起こるのかを!!」


 その時、儂は幻を見た。大海原を疾駆する軍艦(フネ)を、海軍の新鋭戦艦が玩具にしか見えぬ巨躯、錨を図案化した輝光の紋章を掲げ禍々しいまでの美しさをもつフネを。それを儂は先ほど知った。『霧の艦隊』、孫に取り憑いた此奴の本体。正真正銘の『人間の敵』!


 「貴様もその一員だろう!それどころか貴様が中心となって人から海を、海を奪い取った!!」

 「未来の同胞、子孫達の短慮を責めるべきでしょう。御爺様にとっては132年後の事等関係ないはず。今を見るべきです。」

 「ぐっ……!」


 はぐらかしたつもりが痛いところを衝かれた。確かに此奴の知っている日露戦争で“乃木希典”は10万もの兵士を殺した。要塞攻略としては未曽有の速さ、妥当な損害等との評価は言い訳にしかならない。己の采配の稚拙さがそれ程の兵士を草生す屍にしたのは“事実”なのだ。
 そして何よりも腹立たしいのは“乃木希典”の殉死が美化され軍神、英雄と讃えられ続けていることだ。少なくとも彼が儂ならば我慢がならぬ。愚将として自らを断罪した筈が裏目に出るとは。だが、それは覆しようがない。なぜなら旅順要塞を攻略するにはこの国にとって根本的に足りないものが必要だ。火砲、弾薬……即ち『鉄火』の量が決定的なまでに足りていないのだ。橙子は微笑んで囁く。


 「大丈夫ですよ?橙子は別に御爺様が戦でロシアを滅ぼせとは言っておりません。状況次第では負ける戦故、橙子の世界と同じ結果になれば良いのです。」

「ぬけぬけと。お主のことだ、負けぬ戦の手筈ぐらい整えておるのだろう?」


 降参といった風情でどっかりと畳に胡坐をかく。思惑こそ読み切れんが日露の関係が緊迫しているのも事実、儂に此奴が御しきれると思わぬが愚将が軍神として讃えられる未来よりマシだろう。それにこんな未来を聞いてしまえば人殺しと罵られるのは避けたいの願うのが人の常だ。儂はこの戦に何を仕込むのやら……と胡乱な目を向けると、その当人は首をコクリと傾げている。


 「?、了承したと判断します。では10日後迎えの船を相模湾に寄こしますので……」

 「その前にやる事がある。」


 ふと思い立ち顎を上げる。先ほど河辺での斜面滑落、孫は何故そんな所にいた?儂はすっくと立ち上がり孫娘の着物、その襟を摘まんでひょいと持ち上げる。さながら悪戯をして叱られる子猫の様だ。ふん、着物というより体の一部の様だな?何処までも常識外れな奴だ。


 「勝典、お前の父親に会いに行く、察するに無断で悪童共と川遊びでもしておったのだろう?さらに祖父の家に勝手に上がり込む図々しさ。息子の前でどう取り繕うのか見物だな。」

 「え?ちょっと……待ってください!」


 悲鳴と共に背中にぶら下げられ手足をジタバタさせる橙子にわからぬ様含み笑いをし、儂・乃木希典は屋敷を後にした。










 相模湾に浮かぶ数少ない島、江ノ島が見えるうらぶれた砂浜に儂と息子の勝典、それに孫娘の橙子であったモノが流木に腰かけている様はどこぞの一家が散歩の後、休憩しているようにも見えただろう。しかし儂等はここで彼らの来るのを待っていた。


 「お久しぶりです。師団長殿!」

 「オゥ、鮫島君。君が今は師団長じゃないか。昔の言い方はよせ。今じゃ只の乃木の爺よ!」

 「なにを!、那須から善通寺まで演習を見にきて軍学を講義する爺がいてたまりますか。士官と下士官適当に見繕って来ましたが今度は何をやらかすつもりなんです?」


近寄って来た一群の人々からよく聞いた野太い声が飛び出し、儂も家族には見せない荒っぽい返事で答える。鮫島重雄陸軍中将、以前新設の第11師団長を拝命した折、部下として尽くしてくれた男だ。休職した儂の跡を継いだ彼の成長を頼もしく思う。喜怒哀楽の激しく気性の荒い男だったが師団長としての風格すら醸し出すようになったのは正に地位が人を造る云々だろう。部下の紹介を鮫島中将がした後、彼が儂の隣の2人に声をかける。


 「もしかして勝典君か?いやいや、随分男ぶりが上がったじゃないか。それに大尉昇進おめでとう。もう新米少尉等と口は利けんな。それに橙子ちゃんかね?可愛らしいお嬢さんだ。」

 「ハッ、先日昇進と配置換えにより軍艦【初瀬】乗組みとなりました!」


少尉でも大尉でも中将というものは雲の上の人だろう。緊張感をもって答礼する息子と、その膝下に隠れてしまいはにかんでいる孫娘。やれやれ……


 「橙子、直ぐ馬脚を表すのに猫を被るのはやめよ。今回の企て、己がはにかむ前に説明すべきではないのか?」


 ぷぅ……と頬を膨らませたのも一瞬、橙子は勝典の前に出て優雅に一礼し言葉を紡ぐ。


 「鮫島中将様、それに皆様方、本日は私如きのお招きを受けて頂き有難うございます。これより皆様方を硫黄島まで御案内させて頂きます。」


 鮫島中将初め殆どの人間が唖然としている。平然としているのは儂と勝典ぐらいなものだ。当然だろう、言葉遣いはともかく子供の知るはずのない単語が飛び出してきたのだから。


「閣下…これは?」


 不審な顔をして尋ねる鮫島に答える。


 「聞くな、竜宮城にでも連れてってもらえると考えればよい。尤も修羅界の造兵廠といっても過言ではないのかもしれんがな。」


 皆の反応は気にせず橙子は軽やかに砂浜を駆け波打ち際まで走る。そこで大きく手を上天に振り上げると、波打ち際が凄まじい勢いで爆発した。
 相模湾の砂と太平洋の潮を撒き散らしながらそれが顕わになる。3つのマストに檣楼を備え帆にて船体を疾駆させる軍艦としてはやや旧式の感が否めない3檣バーク帆装、大きく湾曲した艦首とフランス戦闘艦の特徴である両舷に張り出した装甲帯(ダンブルホーム)、それ以上に舷側に張り出した砲塔旋回部と上に乗せられた4門の23.3センチ砲。


 「馬鹿な!畝傍だと……」


 今度ばかりは絶句する勝典の声に思わず納得する。軍艦【畝傍】、日清戦争の折、海軍の切り札の一つとしてフランス造船廠に発注され、完成後日本回航の際に行方不明となった帝国海軍史上有数の大惨事を引き起こした艦だ。大嵐で難破した、いや設計の誤謬で沈没したのだ。挙句に清国やロシアの工作員の仕業や宇宙人の関与などという突飛なものまで出る始末だったのは覚えている。だが少なくとも儂にはわかる。
 これは【畝傍】ではない。何故なら橙子を見た時と同じ感覚、そう仮初めの姿たる気配がするのだ。思わず感想がついて出る。


 「橙子……悪趣味も程々にせい、これでは海亀ならぬ幽霊船ぞ。」

 「これが一番都合が良いかと思われますので、皆様方は書類上、他の場所で他の仕事をしているのでしょう?私も含めここにいる全員はさながら幽霊でしょうかね。」


 そういうことだろうな。俗にいう国家機密による秘密任務と鮫島達を勘違いさせるにはいいかもしれん。どうやら畝傍も船尾から連絡艇を出して岸に向かわせている。


 「行くぞ。鯛や平目の舞なぞ無さそうだが、それ以上のものは見せてくれるのだろうな?橙子。」

 「勿論です、御爺様。」


 鮫島達と息子に顎で促し儂は連絡艇に乗り込んだ。










 船室の窓から外を覗きながらさも恐ろしそうに鮫島閣下が呟く。


 「今どのくらいの船足なのです?私も船には何度も乗ったものですが今、この船は尋常ではない速度を出しているはずです。しかし全く船首によって切り裂かれる波濤もなければ船体に打ち掛かる横波もない。どんな仕掛けで動いているのかさえもさっぱり。」


 最新鋭の戦艦でも臭う石炭臭がなく、海の上に居るのに潮の香りさえ届かないのは不安なのだろうな、静かに答える。


 「毎時100ノットで日本列島から遠ざかっているそうです。私たちが向かうのは小笠原諸島のさらに南、海鳥と火山ぐらいしかない無人島との事。土地の者は硫黄島と名付け政府もそれをそのまま島の名前としたとか。」

 「100ノット!漁船で5ノット、商船でも10ノットちょい、軍艦でも20ノットで高速艦なのにその5倍!海軍は良い物を買い入れましたな!!」


 皮肉とも取れる発言を閣下は目で制する。その若い士官はバツが悪そうに口を噤んだ。どの国もそうだが陸軍と海軍は仲が悪い。どちらも同じ軍組織、それも国家予算を奪い合う仲ともなれば『仲良く』できないのも当然だろう。表面上、綺麗事を言っても毎月の封筒(給金)の厚さを気にすればきりがない。“隣の稲穂は黄金色”大して変わらないのに比べてしまうのが人間の悲しい性だ。そしてこの国は海軍を重視している。なにしろ軍艦には大砲や小銃など比べものにならないほどの金が注ぎ込まれるのだ。我等が遣う金を不当に海軍に奪われている、こう思う陸軍士官は少なくない。


 「しかし恐ろしくはないかね?失礼な話だが君の娘御を見たとき私は震えが止まらなかった。これが人間なのかと。」

 「恐ろしくないといえば嘘になります。ですが、あの娘は間違いなく橙子です。」


 手指を屈伸させ震えていないとこを確かめながら言い募る鮫島に断言する。


 「なぜそう言いきれる?」


 「娘は食事の時いつも汁物の具だけ先に食べてしまうのです。言って聞かせてもなかなか直しません。そして飯を食べながら悲しそうに椀の中を覗き込むのです。それは娘がこうなってからも変わっていません。多分……橙子は此処に居るのでしょう。ただ、人以上の知識や力を得て変わっているように見えるだけだと思います。」


 「そうか、君は親馬鹿だな。」  鮫島閣下が処置無しといった風情で肩を竦める。

 「そう言われます。」   苦笑いでごまかす。


 少しばかりの沈黙の後、意を決したように閣下は私に向き直る、そして告げた。


 「たが勝典君、あの娘から絶対に眼を離すんじゃない。過ぎた力はその身を滅ぼすだけに留まらん。無邪気に振るう強大な力など災厄以外の何物でもない。」










 その娘と祖父は俗に言う『操舵室』にいた。


 「御爺様、御父様を【初瀬】から下ろすことはできませんか?アレは…」


 その“史実”の結末は知っている、心配なのも当然だろう。しかし儂は海軍でなく陸軍中将だ、組織の垣根を越えて無理を通せば御国の秩序を乱す。憑いている人と呼べぬモノが憑かれている娘の父親の心配をするとは……怪訝な顔をしつつ返事をする。


 「お前が言いたいことはよくわかっている。だが無理をいうものではない。それに勝典は“陸軍中尉”ではなく海軍大尉だ。戦場では運命など簡単に転ぶものだぞ。」


 「でも……」


 なおも不安な顔をする孫に思わず意地の悪い言葉を吐いてしまう。


 「あいつとて覚悟と引き際は心得ている、そう簡単に命を捨てはすまい。そんなに心配なら直に言うべきだな。そのほうが勝典にとって何よりの励みだ。」


 「言えるものなら言っております!」


 橙子は胸を押さえプイとそっぽを向いた。




 畝傍は波濤を越えて進み続ける。その先にはこの島々の者すら近づくことのない荒れた無人島があるはずだった。










あとがきと言う名の作品ツッコミ対談





「どもっ!第一話お読みいただき有難うございます。とーこが皆様に代わって説明不足の作者にツッコミいれますねっ。」


まぁ後書きじゃはっちゃけて構わんと許可出したからな。で今回は何よ?


「じゃ聞くけどさ、この作品で橙子の立場ってどうなのよ?アルペジオではメンタルモデルの中にコアユニットがあるっぽいけどナノマテリアルの艦体部分は硫黄島に置いたままでいいの?」


あ…早速誤解してるな。“橙子”の中に入っているのはコアユニットじゃない。あくまでオリ設定の索敵ユニット。あくまでコアユニットの手足でしかないわけ。ある程度の独自行動能力と自己判断能力こそ備えているけど独自意思と呼べるものはない。それに橙子はメンタルモデルじゃないから。


「だよねー、裏設定によればフュージョナルディバイサー(設定パラパラ)かぁ…でもこんなこと霧でやる必然性が無いんじゃない?自らメンタルモデル作ればいい話だし。」


確かに時空転移した時代が原作の時代ならそうだったのだろうけど、このコアユニットが転移したのは原作の始まる前だよ?言わば大海戦の真っ最中、まだメンタルモデルなんぞ霧は考えてすらいないだろうね。概念あたりは「総旗艦」が考えていそうだけど。


「おぃ……原作で書かれることは無い設定年表に転換点作って次元転移させたのかい!それも全てが始まる人類評定の9年前に?原作がかかわる余地全くないじゃない。まさか132年間分、物語続けるつもり?」


それはない。(断言)基本1903から1945辺りまでを2部構成全7章100話程度でやれたらと思ってる。まずは第一部完結が目標かな?あくまでこの物語はとある次元転移した霧とそれに関わった一族の物語だから。某佐藤先生の大和無双作品とアプローチは似ているんじゃないかと思う。向こうよりさらに斜め(だけ)に走っていると戦々恐々だけどね。


「作者あの作品大好きだからねェ・・・あ、畝傍のアレはネタだよね?」


行方不明理由?ま、某無責任艦長なのは認めるけど実際それに近いことがまことしやかに囁かれたらしいよ。ちょろっとネタはこれからもいろいろ出すつもり。


「そうそう132年後の事実に対して私なんか矛盾していること口走ってるけど?」


あ…それか、初めの文は乃木という人間に対しての警告、次の文で橙子の祖父としての警告、両立させるには話を聞けってな意味ね。こういった矛盾した2つを強制的に突き付けるのは今後もかなり使うと思う。


「また小難しい手法を。後、鮫島閣下だけどたしか11師団長就任は…」


別に乃木の史実はこっちの史実と同じなわけじゃないよ?いろいろ異なっている。特に顕著なのは乃木パパの配置かな?初期プロットでは陸軍だったけど最終的に海軍に移動させた。この物語全体を通してキーパーソンだから。理由は橙子がファザコン。


「ヒトの性癖あげつらうなっ!!(蹴)…こんなところで今回はお開き。其処で撃沈してる作者は放置で。」



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