ピシリと張りつめた空気の中、私の目の前で孫が花を生けている。筋は悪くない。夫の話では孫の四肢は機械時計より正確に動かすことができるという。私が花を生けた動作を狂い無く模写し、自らの体に刻みこむ程と言う事。だからこそ……
 じっと見る視線の前で緊張感をもって生花を生け終わり、私の孫――橙子――は正座のまま深々と一礼する。『終わりました。』その声を聞いて私は初めて声を発した。


 「橙子さん。立華(りっか)にしろ取り合わせにしろ悪くはありません。しかし、途中で雑念が入りましたね? 剣山への挿し込みに乱れが見えました。貴方の多忙からすれば無理なきことですが、このような時は雑念に構わぬよう。華道とは技術ではなく精神修養の一環です。」


 はい……と気落ちな声が返ってくる。解っていながらつい囚われた様、本当は子供らしく遊びたい盛りなのに不憫に思ってしまう。でも夫とこの子に恥をかかせるわけにはいかない。この子を一人前の女として教育するのが老いた私の務め。逝ってしまった息子、義娘……血は繋がらなくとも家族は繋がるもの、そう思っている。


 「今日はここまでとしましょう。これから帝都へ(おもむ)くと聞きました。気をつけてお行きなさい。橙子! 今走り出そうとしましたね? 端多無(はした)い! 和装で走ればどうなるか解る筈。」


 勢いよく立ちあがった孫娘の肩がビクリと震える。全く御転婆なのは変わらないのね? 唯のおばあちゃんでいられたらどんなに良かったか。


 「華道は始まりから終わりまで修行です。全てに緊張感を持ちなさい。そう、退出を認めます。」


 洋風の部屋とはいえ一部畳敷きとして和室の造りに変えている。襖、障子、皆私が揃えた。あの人(おっと)が安らげるように、この子(とうこ)が戻ってこれるように。ありがとうございましたの声と静かに扉が閉じる音が消えると大急ぎで駆けていく足音が聞こえる。溜息をつきながらも優しい想いに捉われる。


 「ば――。……ばぅわ――――……。」    


 隣の部屋から声が聞こえる。先ほどの叱責で目を覚ましたのかしら?
 襖を開けると燐子が柱を頼りに立ちあがっているのが見える。私を目にすると顔に満面の笑みを浮かべて歩こうとし、姿勢を崩してコロンとトルコ絨毯の上に転がった。最近はそれでも泣かずに這ってこちらにやってくる。
 笑いながら抱きかかえる。どうやらご機嫌のよう、目敏く生け花に目をつけ触れようとする。流石に壊すのも憚られるので切り折りの花を一つ持たせると大喜びで振りだした。
 いつもの風景、いつもの生活、世界が変わってしまってもそれが私の小さな幸せだった。





―――――――――――――――――――――――――――――






 「閣下は今頃帝都へ?」

 「だな、橙子御嬢さんと共に空の人となっているだろう。」


 部下の言葉に頷きつつ軍隊手帳に目を通す。思えば時代とはこんなに早く進むものなのかと嘆息したい。日本からトラキアまで移民船で来るのに3か月、3か月だぞ! それが限られた人数とはいえ1週間で日本に戻れる。


 39年式2型大型飛行艇、略称――(しき)大艇


 始めて見た時、鋼鉄製の鯨が空を飛んでいる!……と仰天したものだ。橙子嬢から供与される武器の一つだが、実際使い始めると軍隊より各国政府で先を争うように使われている。

 ボーイングPB-1 【フライングホエール】

 BAe(ブリテッシュエアロスペース) 【スキップジャック】


 英米二国に関しては態々部品を購入し、組立を自国で行うノックダウン方式という方法で生産を行うほどだ。そのための半国営企業まで作ったらしい。性能は常識外としか言いようが無い。欧州の本国と遠く離れた植民地をひと飛びで繋げられるというのだ。日露戦争で目にした飛行機すら玩具の類でひとくくりにされそうな巨人機、ドイツでは対抗せんと老舗の船舶会社(ドルニエ)に発動機が十個以上ついたモノを【建造】しているという。
 小村閣下が仰っていたが、植民地を持つ欧州列強が(よだれ)を垂らして欲しがることは間違いないと言ったとおりだ。金持ちであれば本国で仕事に励みながら年に数回は植民地の現地視察ができる。本人が細かく現場を見れる利点は計り知れない。植民地を経営するのは企業家――つまり金持ちなのだからな。
 この巨人飛行艇を用い世界を空で結ぶ構想、現在各国政府で空のシルクロードと称する航空路の線引きで激しくやり取りが行われているらしい。閣下も参入を考えていたようだが、政府の説得とギリシャのいざこざで諦めたそうだ。
 その閣下も学習院の講師まで仰せ使い、年一度は本国帰還を命ぜられてしまった。政府としては最初の放逐等忘れたように閣下は勿論、橙子嬢をなるべく手元に置いておきたいらしい。態々、学習院に女子中等科まで作った位だ。とりとめもなく考えを巡らせていると振動が止まった。


 「中佐、到着しました。」    声と共に狭苦しい装甲車の扉を開ける。


 燦々(さんさん)と秋にしては強い日差しが照りつける中、衛兵の敬礼に答礼を繰り返しながら天幕の中へ、居並ぶ士官達が一斉に敬礼する。その奥、床几に腰を下ろしている一戸(いちのへ)少将閣下に対し俺は敬礼し着任を告げる。直接会ったのは欧州領着任式の時だけだが日露を知る陸軍将兵、そして国民ではお馴染みだろう? 遼陽会戦時、頑強に抵抗するロシア軍堡塁に直属の一個中隊で夜間奇襲を仕掛け見事にこれを奪取、後に陥とした堡塁が一戸堡塁と報道されたほどの猛将が閣下だ。


 「浦上中佐、及び第8装甲警備中隊着任します。」

 「御苦労。」


 野太いが、よくぞ来たの好意的な表情のまま閣下が顔を上げた。




◆◇◆◇◆






「やってくれますな…………」


 資料を見ながら俺は呻いた。既に4件、今月匪賊共が回教徒の隊商を襲った回数だ。古代ローマ【ヴィア・エグナティア街道】。オスマントルコのバルカン主要三街道では裏道になってしまった寂れた道交だが、日本の東海道とは比較にならない程の完成度である。限定的とはいえ原始的なコンクリートまで使われた頑丈な舗装道路。主要交易拠点となるべき場所には石造りの隊商宿(バンサライ)が設けられている。
 この街道が大日本帝国欧州領トラキアの東から西を横断しているのだ。これほど整備された環境で匪賊が跳梁跋扈するというのは乃木閣下は歴代太守の失政にこそある、そう仰られていた。そのことを一戸閣下に話すと彼は苦い顔をした。


「浦上中佐、それは解っている。だが民心を安定させる前に混乱の元凶たる奴らを叩かねば我等の力を現地民に示すことが出来ぬ。我等は所詮、トルコ人の傭兵と侮られているのは明白だからな。それも前回の反撃で多少は改善したかも知れんが。」


 傭兵なら大したことは無かろうという無知と、ロシアを叩き潰した悪魔と言う恐れ、今回は前者が勝ったようだ。隊商に襲い掛かった十数人の匪賊と隊商を護衛していた一個機兵小隊――装甲車2両と自動騎車10台――つまり機関銃十数丁に正面から相対すれば結果は推して知るべき。


 「彼らが住民の一部とつながっているのは明らかです。匪賊、乃木閣下はクレフティスと呼んでいますが彼らは略奪した物品の一部を村々で分け与え、義賊としての体裁を保っているとか。基督教徒(キリスト)と基督教徒回教徒(イスラム)の仲の悪さは我々が想像するより遥かに凄まじいものです。故に回教徒を殺し略奪しても罪にはならず。たとえ死んでも極楽に行けるとか?」

 「いや、それでも人間同士だろう? 人を殺して極楽行きというのは……」


 少将の部下の一参謀が戸惑ったような意見をいうが俺はそれを容赦なく押し潰す。去年小アジアへ傭兵として実地研修に行って思い知らされた。此処は日の本ではない!


 「極楽に行けるんですよ! 基督教徒から見ての回教徒、逆もまたしかりですが相手は人間では無く悪魔として扱われているんです。悪魔を殺すならそれは彼らで言う聖なる戦い。彼らの神の御心にかなうから極楽に行ける。そういった論理です。我が国の石山門徒が織田右府に対抗できた最大の精神的免罪符がソレです。」


 甘ちゃんは外で水でも被ってこい! という罵声は飲み込む。早くこの素人共を一人前にせねば……焦りを覚えた。一戸閣下も前回の移民で来たばかりだ。陸軍将官として日露で剛勇を見せつけたのは承知の事実だがこの戦は根本的にルールが違う。たとえ匪賊討伐が知識として解っていても、現実で使いこなせるとは限らない。閣下はそれが解っているからこそこの事態で早速俺を呼んだのだ。無能では無いという証左は有難い。
 その閣下も唸り声を上げて考え込んでいる。自分達が悪魔扱いされていると感じれば大概の人間は激昂するか委縮するかのどちらか、冷笑したり憐憫で済ませれるのは相応に識見と分別を持たねばならない。現に俺の周りの士官達は憤激をかろうじて抑えている有様だ。


 「では、どうするか? と閣下は仰りたいようですが討伐作戦を始めて一年、下地は整ってきています。これは小アジアで学んだ経験ですが匪賊共に敵の敵を用意してしまうのですよ。自然にこの地の民が匪賊を憎むよう仕向ければいい。」


 俺は閣下の前でヒラヒラと紙を振って見せた。我が軍の軍票(軍用代理交換紙幣)を……




―――――――――――――――――――――――――――――






 「お腹空いたな……。」


 帝国領(ボヘミア)から出なけりゃ良かった、ぼくはそう思う。冶金工の徒弟として働き続ければよかったんだ。銃の手入れや修理が出来ると法螺を吹いたおかげでこいつらにこき使われている。


 「オイ、ヨシップ! まだ俺の銃の手入れが済んでいないじゃないか!!」

「じゃテメーがやるかコラ! 全く無茶苦茶にしやがって普通なら屑鉄行きだぞ? もちっと大事に扱いやがれ!!」


 不機嫌な顔をありありと浮かべた鬚面の男に怒鳴り返す。カネはある、唯メシが無いだけだ。此処に妙な東洋人……絹の国(シーナ)の隣の住民と称している連中が此処(トラキア)に来てから妙なことになってる。
 ブリテンやフランスといった欧州の列強(でかいくに)が皆でトラキアの海岸沿いに国を作り始めたのだ。それも東洋人の為に! 興味があったからぼくはこいつ等について来ただけのこと。そもそも連帯意識なんてあるわきゃない。こいつ等【クレフティス】だって同じだろう。逃げる準備はできている。ただ土地勘の無い十四のぼくがこいつらから簡単に逃げられるとは思っていない。
 此処に来て初めて解ったが、ここに入植してくる東洋人はかなり狡猾な連中だ。バルカンを昔の欧州と呼んで懐かしがる人間が新大陸には多いって聞いたけど、それは絞りつくされてカスすら出ないっていう現実なんだ。搾取される貧農と小作人、そして搾取する僅かばかりのイスラムの地主。東洋人はこのイスラムの地主の代わりだとぼくも思っていた。

 ――銃の激鉄、火打石を交換しながら黙々と考える。――

 東洋人は貧農から搾取するわけじゃなかった。まず軍隊がやってきて村から農産物を購入する。暴力的な徴税請負人にも見えるが、ちゃんと彼らは払う者は払っていくんだ。軍の紙幣というやつで。これが巧妙な作りでこれを現金にするにはアレクサンドロスポリスまでいかなきゃならない。其処で目にするってわけだ。ローマの都市すら逃げ出す程の異様な街に。
 大概の奴はこれで気落とされる。誰もが奴らこそこの地の支配者だって納得させられる。そして街ではちゃんと軍の紙幣は現金と交換してもらえる。ポンドでもフランでもマルクでもだ。その国の銀貨で貰ったという農民もいた。
 これじゃかなわない。紙屑扱いのトルコやバルカン諸国の紙幣でなく、列強の紙幣で払ってもらえるなら農民は喜んで産物を渡し増産に励むだろう。そしてぼくらは用済みだ。もともとクレフティスというのは山賊と言う意味だ。貧しいから山賊にならざるを得ない地域、そこに堅実に稼げる物が見つかれば皆そちらに行く。いけないのは戻れなくなった者とこういった事しかできない人間だけだ。山賊をやっても生き延びれるか解らない土地、それがトラキアの現実だ。
 そしてあいつらはいずれ農民を敵に回す。隊商を襲うにも限度がある。隊商から根こそぎ奪えば誰も街道を通らなくなるだろう? でもそれをやらなければ自分達が食えなくなるんだ。果ては自分たちも他の土地に行くしかなくなる。
 頭目が妙案として皆が喝采を叫んだ方法――みかじめ料と称して農民が得た金を奪う――そんなことをすれば恨みはこっちに向く。ぼくらは貧農から隊商の情報を得ていたんだぞ!? 向こうの知っていることは此方も知っている。逆もまたしかりだ。
 東洋人も馬鹿じゃない。何度か被害に会うと警戒し、あちこちに軍隊を配置するようになった。隣の縄張りの連中が隊商宿前で待ち伏せを行ったようだが返り討ちどころか皆殺しにされたという。
 当然じゃないか。直したばかりの銃を手に取る。旧式の燧石銃(フリントロック)、あいつらの中にはまだ超旧式の火縄銃(マッチロック)を使っている連中もいる。あの異様な街(セイキョウ)で随所に立っている衛兵の銃、新式のあんな物(アサルトライフル)に勝てるわけないじゃないか。
 廃墟になった昔の修道院、場違いなほどに石材でガチガチに固められた建物を使って作られた村――もう村の跡と言って良いな――とにかくトンズラすべきだ。誰もいない廃墟で火を焚いて鍛冶場の真似事をする。どんな馬鹿でもこれがどういった事が解るだろう。その点親方に忠告してやったが。


 「海岸ならともかく地の利の無いこんな山奥に来るわけが無い。」


 あぁ! 今まではそうだったよ。でも今度はトルコ人じゃなくて東洋人なんだぞ? それもロシア人を皆殺しにした悪魔将軍の親衛隊に同じことが通用するのか?? 構えて照尺と照星を調整し文句を垂れた奴に突き返す。


 「オィ! カラトゥジョ。次は壊すなよ? 今度壊したらその脳足りんの空洞に鉛を詰めてやる。」


 忌々しい顔をしてその男、カラトゥジョが銃を受け取る。なんだかんだ言ってもこいつらはぼくをあてにせざるを得ない。銃の整備ができるのはぼくだけ、冶金ができるのもぼくだけだ。
 立ち上がると歩き出す。何処へ行くとの声に親方のところだと怒鳴り返す。どこかに金属でも残っていないか探しに行くとでも云わなけりゃ家からだしてもらえない。地主も山賊も大事なものは金庫の中と相場は決まってる。ぼくはこいつらにとっても貴重品だ。勿論、ぼくの命じゃなくてぼくの腕なんだが。

 ――ヨシップ・ブロズ お前は今何をやっているんだ?――

 抜けた天井の上、お日様が輝いている。『誰もが満足して働ける国に行きたい。』夢を追うのをやめたのは何時だっただろうか? 少年特有の小さくそして汚れた手を見てそう思う。





―――――――――――――――――――――――――――――







 自動貨車(トラック)半軌装輸送車(ハーフトラック)が轟々たる音を響かせて宿営地に入っている。俺はその中の一台に走っていき。車から飛び降りて敬礼する輸送隊の指揮官を労う。細々とした部隊編入が終わると、見た顔を見つけ声をかけた。


 「鍵島君! 君もか。道理で物々しいと思ったよ。」


 「浦上中佐殿も壮健そうでなによりです!」
    

 やや低めだが良く通る声。乃木閣下の従兵から俺の護衛兵としてアルメニア、クルドの地獄を巡った戦友だ。誰が敵で誰が味方か解らぬような修羅の戦野、あの時傭兵として向かった日本人大隊の大半が靖国にも逝けず、あの地の土になっている。


 「で……貴重な工兵小隊まで投入する理由を聞こうか?」


 おかしいとは思ったのだ。匪賊討伐するのには野営地にいる二個中隊300人で十分、小隊規模とはいえ装甲車や自動機車まである。匪賊は一隊として纏めても数十人しかいない。さらに俺の警備中隊もある。拠点攻撃用の工兵小隊と航空支援班まで持ってくるのは過剰としか言いようが無い。
 何故、指揮官の中尉に聞かなかったかは命令を受けただけの新米と判断したから。こういった場合は指揮下の先任下士官に聞いた方が裏事情を知っていることが多い。鍵島がいたことで確信を深めた俺だ。


 「征京防衛司令部からの命令となってますが実態は違います。刑部戦務参謀の独断のようで、」

 「またあの男か……。」


 能力は信頼できるがいけ好かんことには変わりない。幕閣ではいろいろあるが公人と私人ではきっちり分けているつもりだ。気配を察したのか鍵島が耳打ちする。


 「その話は後で、少々催しておりまして。」

 「……なら付き合おう。人気のない場所ならいくらでもある。」


 こういった場合は必ず裏事情がある。それも決して公言できない類のものだ。宿営地の裏手側に2人して歩を進めた。




◆◇◆◇◆





 じょろじょろと2条の滝が地面の穴に吸い込まれた後、2人で煙草を咥えている。
火をつけて一服すると鍵島が(おもむろ)に声を出した。


 「御嬢。」


 気配を感じ振り向くと其処に乃木閣下の御孫嬢がいた。慌てて一礼しようとすると彼女は首を振る。むしろ鍵島に抗議しようと首を向け――当たり前の事に気がついた。


 「何故此処に居る?」     ……と。


 橙子御嬢さんは今、空の人の筈だ。此処にいる訳が無い。恐る恐る振り返ると背後で鍵島の咎める様な声が発せられた。


 「御嬢、やはり橙子御嬢さんと同じ姿形はやめた方が良いですぞ! いくら貴方が御嬢さんの全てを再現できる存在だったとしても。」

 「私が理解できないのはそこだったりします。何故人は同じ姿形、同じ知識と記憶までもつ存在を違う者と言い張るのか大いに謎ですね。」


 解っていた筈だ、浦上栄次郎。乃木閣下が日露の戦役でどれほど出鱈目じみた戦が出来たのか? 閣下の孫娘――橙子御嬢さん――の力、その正体がここにいる。 俺は膝が震えるのを止められない。資材山の上、腰掛けた小さな(からだ)が俺等を見下ろしていた。彼女の榛の瞳はその鋳型となった少女に似て、何かが決定的に異なっている。


 「乃木閣下からは了解をとりました。戦争を拝見します。」


 鍵島が軽く袖を引く。それほど俺は慄いていた。頭を振ると考えを切りかえる。この国の後援者の要請だ、厭も応も無い。我等は商会に例えるならば唯の丁稚、彼女こそ大旦那なのだ。


 「了解しました。失望はさせません。」


 敬礼しくるりとまわれ右して駆けだす。それが作戦を始める為に急いでいるのか、ただ彼女から逃げ出したかったのか最後まで俺は解らなかった。







 あとがきと言う名の作品ツッコミ対談




 「どもっ! とーこですっ。いよいよ国家建設シュミレート……と思ったけどなんか泥臭い話になってきたわね作者? それになんなのよあの序文!? 橙子の羞恥プレイと燐子の萌えシチュしか書いてないじゃん。」


 ん、もともと文明圏のある場所に新規に別文明圏の国家をでっちあげるわけだからね。旧勢力の破壊は避けられない。ましてや政治的だけとはいえ欧米主導の即時開発だからのんびり弾圧と妥協を繰り返しながら同化出来るわけでもない。相当強引な施政になることは覚悟させておかないとね。そして序文だけどこの第3章でやる朝ドラ確定の節の練習文でもあるから今回はオフレコにしてくれ。


 「それでギリシャ独立で有名なクレフティスを潰しにかかったのか。でも初めに戻るけどボーイングは民間企業だよ? そもそもこの時期では影も形も存在していない企業。どうやってでっちあげたの?? 中途半端な答えしたら粛清するよ! (砲口径拡大中w)」


 う〜む、込み入った話だし裏ネタとしてなら。2章で列強各国に硫黄島製の武器を投げ与えただろ?この時代の米国ではまだ企業として軍民の垣根が低いのよ。だから適当な町工場で戦車とか飛行機作るのも趣味と商売の内で黙認されていた。クリスティー戦車とかはその好例だね。当然米国では軍人だけでなく民間人にもこれらの兵器を見せることになる。
 その中にボーイング社のCEOになるウィリアム・ボーイングがいたのさ。彼もライト兄弟と同じく飛行機キチガイの典型。さらに悪いことに彼は最新の飛行機技術を知ろうと日本までじーちゃまに会いに来たのよ。拙作では書けなかったけど彼の会社が後の民間航空機材大きな位置を占めることになると解っていたじーちゃまは全面バックアップ。乃木将軍のお気に入り技術者として彼は鳴り物入りで国営航空産業のトップに付けることが出来たわけ。しかも米陸海軍の全面バックアップでね。これは拙作でのボーイング社の実態だったりする。BAe社はプライドとアメリカ+じーちゃまの行動に危機感を覚えた英産業界が対抗馬としてじーちゃまが日本陸軍に供与した技術をベンチマークするために作った国営コングロマリットというところかな?


 「あうあうあう……」


 だから言ったじゃないか。中途半端でないとあぼーんだと。だから本文でもスパッと切ったのさ。


 「言ってないわ! でも財政的にも状況的にも不味いドイツ帝国が独自開発なんて、」


 何処ぞでドイツの技術は世界イチイィィィッ!! が入ったのかもね。元々黄禍論の強いお国だし。ダイムラーエンジン(ガソリンエンジン)発祥の地だから意地でも国産でドルニエDo]]作ると思う。


 「うわー史実通りにあのエンジンだけで10も20も付いたトンデモを作る気か。」


 だから建造なのさ(笑)ま、結局国際的には二式大艇とその眷属だけでシェアは90%になるだろうね。


 「世界の空を2式が飛び回るのか……史実と比べれば夢みたいな話よね。」


 まだ川西は影も形もないけどね(苦笑)そして4発旅客機の時代はまだ後、大型機に着陸に耐えられる主脚と車輪が出来ないからね。1930位までは飛行艇全盛期が続くと思うよ?


 「宮崎氏の空賊が現実になりそうね(笑)」


 さてとーこが夢見てるから初めに自己ツッコミするけどヨシップ君はオリジナル人物じゃないから。後のバルカンにおける一国の立役者にしてあのPN鉄男氏も恐れたお人だから。正直資料なんて皆無だしもう想像で描くしかなかったけどね。


 「ソレソレ…何故彼なの? 確かにバルカンでは重要人物だけどこの時点で出しても殆ど意味無さそう。」


 一応第2部へ繋げるためにキャラ配置だけといったところかな? ネタバレだけどそのころの彼の身分はオーストリア・ハプスブルグ帝国宰相直属近衛軍団所属第2近衛師団【ダス・ライヒ】師団長だから。


 「え???」


 これは第2部での霧で無いパートにおける軍事状況での鏑矢だね。この世界でナチスドイツが生み出す筈だった武装親衛隊という矛盾した組織を真っ二つに割った結果こうなると言うことに誘導していくつもりだから。


「(ドン引き)」


 なるほど……粛清されない様にするにはとーこを引かせればいいのか。なるほどなるほど。


 「あ…ア…アッ……」


 どーした? とーこ??」


 「アフォか――――!!!!!」


 (轟音と悲鳴が交錯)



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