トラキアに行くのは初めてになる。記者でも無いのにいきなり党の親方から『トラキアで大事件が起きたから取材に行ってきたまえ。』と言われたのに面食らった位だ。しかし間髪入れずに『早速準備します!』と答えた訳は偉大なるローマの祖たるアイネアスの生誕地とも言われ、かのアレクサンドロス大王の父親フィリポス王の雄飛の源とも言える大地には一度行ってみたかったのだ。
 今までそうしなかったのは訳がある。バルカン半島トラキア……西欧の宿敵足るオスマントルコ帝国の領土という理由もある。だが、今此処に日本人が住み着いているのだ。何故? など考えない方がいい。国境問題の為、経済問題の為、その他諸々……問題の地にいる民を強制移民させるなど近代以前の欧州にはよくある話だ。これでも元教師、その位の知識と教養はある。困ったのは我が党に十分な知識人がいない――というよりもその知識人達が面倒がっただけだろう。だから自分が日雇いとはいえイタリア・アヴァンティ新聞社の記者章を付ける事が出来たのだ。
 日本人か…………。自分としても戸惑いを禁じえない。チャイナといえばイタリア人の誰もがそのイメージを膨らませることができるのだが、日本人と聞かれてピンと来る者はイタリア人では皆無に近い。昨今のロシア・ジャパン戦争の戦場たるリュイシュン、ホーテン、ツシマでアジア極東に恐ろしく戦争が強い国家がある、その程度の報道が流れた程度。どんな連中なのだろう?


 「ベニート! ちっとは仕事しろ。親方の顔を潰して党に居られなくなっても知らんぞ?」


 やや! 考えすぎていたか。党の推薦とはいえ雇われの身故、編集長の機嫌を損ねては不味い。振り向き笑顔で答える。編集長を煽ててやらねばせっかくの機会を逃すどころか党から追い出されてしまう。


 「あぃ! 編集長。しかし良いんですかね? 地方紙とはいえ名のあるアヴァンティで自分みたいなポッと出が大役をやらせてもらえるなんて信じられない幸運ですよ。」


 イタリア語に訳されたジャパンの資料――大半がタイムズやデイリーメール紙――が入った革鞄を自分の机に積み上げ『予習しとけ』と言い放った後、編集長は肩を竦めた。


 「海のものとも山のものとも解らん情報だからな。パンガイオンで金鉱が発見されたとか眉に唾つけなけりゃ信じられんネタだ。紀元前ならまだしもとっくに掘り尽くされてる筈だろ? 新鉱脈なんて信じられるか??」

 「いやーそれはたしかに。」


 その通りだ。元金鉱山の近くに新たな金脈が再発見されるというのは決して間違いじゃない。技術の進歩で今まで掘れなかった場所や鉱脈から鉱石を取り出せる場合もあるんだ。だがなぁ…………2000年も山師が漁って『ない』と言われているんだぞ。


「それを確かめるのが君の仕事だ! 頑張りたまえベニート・ムソリーニ君!!!」


 このまま自分は編集長にトリノのホテルから追い払われ、イスタンブール行きの船に乗ることになるだろう。船着き場に行く前に大急ぎで辞書を買い求めねばならないな。





―――――――――――――――――――――――――――――






 総督府の会見場といっても出来て10年も経たない国では貧相なものだが、まさかデイリーメールの編集長になった私が再びジェネラルを取材する栄誉に浴するとは。旅順での記者会見でもジェネラルは穏やかな発言をしながらも『この男は戦場でとんでもない偉業を成し遂げるのではないか?』という気風に満ちていた。そしてそれは正しかった。
 旅順、奉天、そしてトラキア建国……正しく偉業と言ってよい。左派の記者はやれ悪魔の所業だ奉天大虐殺だと喚き散らすが、そもそも戦争が人殺しである以上、覚悟の無い者の遠吠えに過ぎない。その覚悟を持って事に当たったジェネラルこそ真の英雄なのだろう。
 ずらりと欧州各国の有名紙所属記者が並ぶ中、演壇にジェネラルが登る。驚愕の叫びをあげているのは初めてジェネラルを目にした者だな。若き日にはプレイボーイとして女性の黄色い声に包まれていたであろう美丈夫は老年となって落ち着きが加わり風格すら醸し出している。さらにジェネラルの左顔面、まさしく氷結地獄(コキュートス)に囚われた悪魔の大元帥を彷彿とさせる異形ぶり。その左目が榛に染まっている。日露戦争の後、彼の顔にこれが刻みつけられたのだと他紙で盛んに宣伝させていたのを思い出した。彼の最初の発言。


 「トラキア総督のノギであります。今回は欧州の名だたる有名紙を代表する貴君等にこの報告をすることを大変嬉しく思います。」


 穏やかに話し始めた彼の言葉に私、B・W・ノレガードは緊張した。旅順の記者会見の時と同じだ、ジェネラルは世界を覆す発言をするに違いないと。





◆◇◆◇◆






 「先日、大日本帝国欧州領トラキア西部、パンガイオン丘陵において有望な金鉱脈が発見されました。」


 記者たちは皆ポカンと口を開けた。私もそうだ。確かに記者会見の前に表層部分は聞いている。だが総督閣下自ら言うべき言葉ではないだろう? 報道官に言わせれば良いだけの話だ。私、いや我々記者からすればその金鉱脈利権をどうするか? という言葉なのだ。トラキアに移民した日本人だけでは採掘を行えない。資金、人材、組織……金の採掘・精錬には千人単位の専門技術職が必要なのだ。それだけの技術者をどこからか持ってこなければならない。それはトラキアの直接の後ろ盾たる祖国(ブリテン)か? 昨今発展著しい米国(ステイツ)か? それとも国家が苦境にされらせているとはいえ卓越した技術を持つ独逸(ライヒ)か? ダークホース狙いでフランスやオーストリアもあり得る。どの企業か、どの財閥かたった一言で世界経済が動くのだ。その言葉が一切無い。ジェネラルは一度話を切り一言一言確認するように言葉を発した。


 「平均金含有量1パーセント、埋蔵量800万トンと推定されます。これが一地域の深さ10メートルから300メートルに集中的に埋蔵されているという調査結果が出ております。」

 「嘘でしょう? 嘘と言ってください!」


 誰かが悲鳴を上げる。記者の一人だ。顔を真っ青に染めこの場所、もとは教会の広間にあたるこの場所で信者が座り祈りを捧げる椅子から立ち上がり拳を前の椅子に叩きつけている。記者の中には両手を組み祈りを捧げる者さえいる。文字通り「おお……神よ」(Oh my God)だ。
 たかが1パーセント? いや逆だ、1パーセントもだ! 本来金鉱脈の金含有量は0.3パーセントから0.5パーセント、世界中の有望金鉱でもこれだけでる鉱床は数少ない。鉱山でなくその中から選りすぐった金鉱石1キログラムからやっと数グラムしか出ないのだ。しかしジェネラルはこう言った『平均1パーセントと』端的にいえばこうなる。


トラキア地下、しかも手で掘れる場所に純金が8万トンも埋まっている!!


 うろ覚えにすぎないが現在【金】として地上に存在するものは10万トン弱と言われている。絵画に使われる金箔や、服飾品の金糸までかき集めてもだ。実際に流通できる金塊は3万トン程度である。しかしこの3万トンの大半は世界各国の金蔵の中、実際に市場に出ているのは300トンにも満たないはずだ。だからこそ金が最も価値ある物として通貨の基準になる【金本位制】が存在できる。もしこの繊細かつ限られたバランスに8万トンもの金が流れ込んだらどうなるか!?

 世界中の金融市場がジェネラルにひれ伏すことになる!!!



「証拠を見せましょう。これが事実です。」



 ジェネラルが合図すると兵士の護衛を受けた士官数名が盆の上に拳大の塊を持って現れる。盆の上に乗っているのは勿論金鉱石だろう? 記者の一人一人の目の前にもっていき観察させる。記者たちも生きた心地がしないだろう。観察している間護衛兵がその記者に拳銃を向け、何時でも発砲できるよう構えているのだ。なんという非人道を! いきり立ちかけた記者の一人が見ていた記者に頭を押さえつけられ諭される。私の目の前に金鉱石が来てその理由が解った。
 金鉱石の黒い石の中ところどころに黄色い粒が混じっている……金が露出している! それも目に見えるほどの大粒で!!
 本来金は金鉱石の状態では見ることはできない。見えるのならその鉱石は採算に合うことになる。しかしこの鉱石はそんなレベルではない! 他の金鉱石と比べればダイヤと屑石ほどの差がある。不心得者でなくても刹那の欲得が為にこの鉱石を掴んで逃げ出す輩がいないとは限らないのだ。それを防ぐための護衛兵か。
 見せ終わった後、退出していく士官達を見ながら記者達が不気味な沈黙を守っている。皆はこれから世界はどうなってしまうのだろう? そう恐怖し、歪んだ顔をしているのだ。


 「ジェネラーレ! 演説の途中、誠失礼であるが質問をお許し願いたい。」


 1人の男、英語での会話だがイタリア訛が強い。物怖じしない処から若手の記者だろう。ジェネラルは静かに答えた。


「宜しい、許可しよう。しかし儂は君の名前すら知らない。自己紹介願えるかな?」

「ベニート・ムソリーニ! アバンティの日雇い記者です!! 本日ジェネラーレに初の質問をお許し願えたこと誠に光栄の至り!!!」


 彼は自己紹介しながら腕で力こぶを作り、相手に拳の甲を見せてイタリア人が敬意を向ける相手にするジャスチャーをしてみせる。元気な男だ、ジェネラルも目を丸くしている。三流娯楽紙(タブロイド)に所属している事件と聞けば現場に突撃する熱血記者に思えたのだろう?





―――――――――――――――――――――――――――――






 「言うなればトラキアに足りていないのは金や銭ではなく、信用なのですよ。」

 「「??」」

 儂と橙子が首を傾げているのを見ると。にっこりと笑って楓は説明を始める。気分は大学校の講義室で補習を受ける落第生だ。


「今まで列強は閣下が橙子御嬢様を擁していると言う事実から来る未来からの絶対的権力――世界を変革する力――を担保に自国の金を貸し出していたのです。その代表例が列強が喉から手が出るほど欲しい日露戦争での先端軍事技術。しかし閣下が与えた量は列強の工業力をもってしても呑みこめない程の大きさだったのです。列強からすれば『御馳走様でした。もう腹一杯!』……そう言ってきたのでしょう。」

「……つまり渡した技術が消化しきれないために次の与えるべき技術が無価値になってしまっているということですか?」


 橙子も驚いている。技術を与えれば人間はそれを勝手にモノにし、未来へ向かって歩いていく。上役もさぞ驚くはずだ。機械に利が解るとは思わぬ。しかし大半の人間は利なくしては動かないのだ。中世欧州の科学者たる錬金術師や占星術師が変わり者の類と見られていた実例すらある。知性はあってもそれを形にする力がない。後の科学の発展はこれらの知識人たちに国家や為政者が金という力を与えたことで実を結んだのだ。その結果が大航海時代であり、産業革命であり、帝国主義……しかし情も無視できない。隣国を警戒するからこそ国家は軍事に多大な金を使うのだ。疑問を口にする。


 「待て、いくらなんでもそこまで列強が弱いわけはなかろう。確か10年もたてば渡した兵器の雛形が続々と開発される筈なのだぞ? 形や論理こそ解かっていれば。」

 「残念ながら軍事技術とはそう簡単に模倣出来るものではないのです。有坂閣下なら怒鳴られてしまいますよ?」


 懐かしい名を聞いて儂も安心する。日露の戦の時、橙子が供与した兵器を改造する線引きを何処に引くべきか……と原則論と国法を持ち出す伊地知と言い争いになっていた事を思い出した。


 「軍事技術、わけても兵器開発及び生産技術は国家の最先端の知識と技術が注ぎ込まれています、それも惜しみなく。いわば橙子御嬢さんが行った兵器や技術の供与はイギリス保護国エジプトにそびえ立つピラミッド頂上の一石だけ与えて『さぁピラミッドを作って見せよ。』と言うに等しいのです。」

「何千何万の石材という技術を積み上げねば橙子の兵器という頂上石を積むことはできぬ……か。」


 納得できた。儂も橙子も軍事に偏って施政を考えることが多い。しかしそれは『橙子の史実』で言う独逸第三帝国の軍部における発想なのだ。軍あっての国家、いまでこそまだ通用するかもしれんが時代遅れになることが確実な論理。我らがそこに拘泥するわけにはいかぬ。
 あの鞄で20円金貨――御国最高額の金貨――を作り机の上に並べながらしばらく考えていた橙子が意を決したように言葉を紡ぐ。歴史家こそが言うであろう言葉。


 「それを行えるだけの無理を押しとおせた外的要因が“第一次世界大戦”だったのですね。人は勝つという言葉に至上の価値を認めます。勝つために、勝つために石を積み上げる……それに価値のあるかどうかすら解からないままに。」

 「橙子、それを言えるのは老賢人だけぞ。子供が言っても説得力に欠ける。」


 ぷーッと橙子が頬を膨らませるが頭を撫でてやるを機嫌を直したようだ。まだ達観や諦観するには早いぞ、無理してのめりこむ必要はない。そう慮る気持ちが伝わったのだろう。目を向け直し、孫の作った貨幣を楓に弾きながら尋ねる。まだ本題には入っていないのだ。


 「しかし、話を戻せばその信用をどうやって取り付ける? 君が言う橙子に金山を作らせるという話とどう繋がるのだ?」


『良い出来ですな。』とクルリと金貨を指の腹で回して楓は呟き、執務机のペンを取った。


 「簡単に言えば彼らを脅すのです。我等を虐げれば痛い目を見るぞ、しかし協力すれば良い目を見させてやる。これを単純な暴力で得なく彼ら自ら悟らざるを得ないように……つまり我々が信ずるに足る存在であることを強引に納得させるのです。」


 そのまま楓は雑紙にペンを走らせながら話を続ける。


 「脅すというのも間違いですね……彼らの背を押す、ないし尻を引っ叩くというのが適当でしょう。具体的には一度金相場を無価値にしてしまうのですよ。誰もが不変の価値を認める金が屑同然になってしまえば御嬢さんが言う『金融街でガス爆発』以上の衝撃を与えるでしょう。そのうえで譲歩するのです。『我々は脅迫するのではなく列強国民にチャンスを与える存在なのだ。』と、」


 どうやら先に孫が答えに至ったようだ。目を輝かせて答えを口にした。


「あ、もしかして金融街に金を質にした国債を売り込むのでしょうか?」

「せめて担保と言っておけ。初めから売却目的でなければこちらは目減りするとはいえ想像を絶する外貨が流れ込む。それを使って移民を完遂し、国家資本を整え、産業を興す。どちらにせよ貰い物の金だ。後代差し押さえられても総督府の懐が痛む訳でも無し。」


 ようやく話が繋がり楓も頷いて説明を始める。


 「私がそれ以上に狙っているのは兌換金債権が流れ込む列強です。トラキアの債権が金本位で連動しているのであればトラキアの債権を買うのは金を買うと同義ですから列強は先を争って債権を買い集めるでしょう。それで無ければ自国の金保有高が屑鉄の保有高になってしまいます。……そう自らの国家紙幣を乱造し、値崩れさせてでもね。」


 台湾総督以後、自責の念とともに始めた経済学書の熟読が珍しく儂の脳味噌から知識を引き出したようだ。推論と結末を言葉にする。


 「列強に厭が応でも財政出動させる……膨大な金債権と紙幣が市場に流れ込む……その結果は空前の好景気か。誰もが知恵を絞り財を積み上げようと必死で働く。橙子の与えた技術は大量の資本によって現実化され、列強は競って次の技術をトラキアに要求するようになる。」


 恐ろしい話だ。トラキアの一金山で列強が予算不足で停滞させざるを得ない技術開発を列強国民から労力と財を絞ることで解消してしまう。本来インフレーションだけでは国民の不満も噴出しようが『誰もが豊かになる未来が目前にある』橙子の渡した技術の中には民間で使えるものも数多く含まれているのだ。技術的な思考錯誤が極小である以上、諸国民を便利で豊かになる実感は早いだろう。
 だからこそ富める者も貧しきものも狂乱したように働く。誰よりも早く、誰よりも豊かに。その機会をトラキアが作り出すのだ。人参ぶら下げられた馬が必死で走るのと同じ原理である。


 「そして、そのおこぼれで我が国は生き残るというわけです。些か流入する外貨が多すぎかねませんがね。」


 最後に楓は肩をすくめて笑った。





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 「ジェネラーレに御質問したい! これ程の力、浅学な私ですらも世界を覆す物と理解できます。ジェネラーレはこの力をどうするおつもりか? ジェネラーレはこの力でどんな世界(ローマ)を作り出すのか是非ともこの場で語って頂きたい!!」


 ベニート・ムソリーニ。どちらかと言えば新聞記者というより弁士と言った方がよさそうな男だな。英国下院で与党に噛みつく扇動議員(デマゴーガー)の方がしっくりする。ジェネラル・ノギは少し瞳を(つむ)るを再び開き、静かに話し始めた。


 「全てを話す気は有り申さぬ。世界を全て語れば其れを悪用する輩がいないとも限らぬ。儂とてそれくらいのことは解っております。ただこれだけは言えます。トラキアは欧米の混乱を望んでいるわけではない、むしろ欧米の背を押したいと思っております。儂はここで産する金を担保に通貨建て債権を発行し、世界に資本を循環させます。今、資本が不足するゆえに作れぬ製品、金がないために実現できぬ技術、皆の力で叶えるべきです。人はもっと豊かに、笑って暮らせるはずです。生まれてきた意味が泣いて苦しむだけでは割に合わない! そのために儂はこの金を使いたい……そう思っております。」


 通訳によって其れが訳されると驚きと言う名の衝撃が会場内を広がっていく。本来ならトラキアが日本帝国より独立し、バルカンに覇を唱えられる程の力だ。それをあっさりと捨ててしまう。崇高足る世界市民(コスモポリタン)的な考え。しかし、逆にそれに危機感を覚えた記者もいたようだ。厳しい質問を浴びせる。自らが豊かになってこそ他人を豊かにできる。ジェネラルが言った言葉は絵空事にしか思えないと。それを待っていたかのようにジェネラルは口を開く。私は背筋を正し、鉛筆を握り直す。ここからが本番だ!


 「勿論、現実的な方法も考えております。先ず債権は世界で最も有力な通貨足るポンド、そして躍進著しいドル建てで行うことになるでしょう。まずはこの二国に走って頂きます。その力はフラン、マルクに及び、欧州の資本が世界に流れ込んでいく。その構図を作りたいと思っております。」


汎経済圏主義(グローバルトレーディング)!!」
 


 畏れと共にどこかの記者が叫ぶ。確かに世界が変わる。今まで資本を貯め込み、金という価値に変えて自らの力の誇示に用いていた列強の金保有高が一時的とはいえ無効になるのだ。列強の軍事力などその表面でしかない。昨今建造されている弩級戦艦等その筆頭だろう? 
 故に巨大な金鉱があろうとも国力微弱なトラキアでは新しいスタンダードにはなれない。それだけの力がないからこそ世界という観客の前で国家を競争させる司会者になろうとしているのだ!
 列強は本気にならざるを得ない。金という名の固定された経済指標、即ち(たが)が外れ、どの国も誰もが首位を狙えるチャンスが出てきたのだ!!


 「ここから始めましょう。遥かな未来人達が人が最も輝いていたと羨望できる時代を。」


 歓喜の声が上がった。そうこの時、後に世界の大金庫と称されるフィリポス金鉱山が認知させた瞬間になったのだ。







 あとがきと言う名の作品ツッコミ対談




 「どもっ! とーこです。とりあえず今作者掘りだしましたのでツッコミ始めます!!」


 どーでもいいが何故掘りだした筈なのに首から下は埋まっているのかな? かな??


 「決まっているじゃない。設定資料見てきたから変な答えすればツッコミ砲頭に押し当てて引き金引いちゃる。(砲口径30.5cmに拡大中♪)」


 んな無茶苦茶な……まぁとりあえずツッコミ始めよう。


 「じゃツッコミその1! また何故に作者はトンデモな新キャラ出すかなぁ? 統領閣下なんて枢軸ですらザコ扱いじゃん。またリベンジさせるワケ??」


 う〜んその辺りはもっと複雑なのよ。第一章でノレガード氏出しただろ? 時代的に彼を再登場させて記者会見に参入させるつもりだったけどどうも年齢的にもう記者やっている歳とは思えないのよ。だから困った。記者会見にじーちゃまへの質問に彼を使うと彼の立場はすでに編集長級と仮定すると新米記者達が委縮して喋れなくなる。でも彼を最初に質問させることを考えていたから大きく構成が矛盾したのさ。



 「なら、さっぱり切って他の切り口から見ればよかったのに?」


 そうはいかない。某作品にて作者が感想書き殴っていたけどその中に報道班の使い方に関して読者としてモノ申す! とばかり自論を展開してしまった。それでいて今回逃げたのでは筋が通らない。一章に1回は報道関連を書くことを自らに課したしね。それで新米記者を誰にするか悩んだのさ。だからこそノレガード氏を視点としてじーちゃまとその後ろにいる影たる橙子を写してみたわけ。


 「それが未来のイタリア統領閣下と言う訳か。確かにこのころ彼新聞記者として働いていたけどかなり無理矢理じゃない?」


 否定はしない。本来バルカンの懸案であるトラキア総督の記者会見だ。ペーペーの新米記者が来るところじゃない。まぁ地方紙の担当記者が急遽出られなくなって慌てて日雇記者の統領閣下に出番が回ってきたという感じにしてみた。


 「苦しいわよねぇ?」


 でもさまだ先の話になるけど第2部で統領閣下が政界進出するとなれば無視できないファクターになると思うよ。そろそろプロットについても固まり始めているからキャラの選定は始めていかないといけない。あえて統領閣下を前に出すことで作者自身に縛りを科す。それくらいはしないといい発想はできないと作者は思っているからね。


 「2部への助走も考慮してあえて入れたと言う訳か。あえてで思ったけど態々彼に自己紹介させてじーちゃまとノレガード氏の理解の齟齬を作り出したのは態となのかな?」


 お! 気が付いたか。作者が割とこの作品で多用する『認識と理解の齟齬』だけどこういった表現は想像すると楽しいからね。仮想戦記の醍醐味みたいなものだよ。


 「もう一回くらい統領出してみたら? 今回限りのキャラじゃもったいないと思うけど??」


 ん〜考えとく。確かに4章での報道のプロットに不満は多いからね。書きなおしをやってるしな。


 「じゃガンガレ! そしてツッコミその二、本当にこんなことが可能なの?? いや技術的文明からすれば作者は霧の技術レベルを恒星間航行時代級と考えているのは解るから金鉱位作れそうだけど。それがここまで世界を変えるなんてありえないんじゃない??」


 いろいろと不安要素があるけど、根本的に今までの国際経済を粉々にする威力はあると思う。純金8万トンという数字は今ですら世界の金融市場が飲み込めず破綻する事確定の量だしそれ以上に世界の中心たる欧州でこれほどの金産出国が出来た事が問題なのさ。


 「どーゆーこと?」


 例えば英領南アフリカのヨハネスブルグ金鉱山、やオーストラリアの各地金鉱で同じものが見つかったとしてそれが産出され精錬され国際金融の中心たるロンドンに付くまでに信じ誰無いほどの経費がかかる。つまりフードマイレージならぬメタルマイレージという点だね。だから金相場に影響が出るのはある程度時間がたってから。その間に各国は情報操作や隠蔽によって金相場の調整を繰り返し。極端な乱高下を防ぐとともにその差額から莫大な利益を積み上げるのさ。でも今度はそれが出来ない。世界の御膝元でいきなり純金8万トンを投げ売りなんてされたら列強全部経済破綻しかねない。その前にトラキア巡って世界中がバトルロイヤルだ。だが此処にじーちゃまの裏側にいる楓閣下はワンクッション置かせたわけ。


 「それが金債権?」


 そう、出る水は兎も角、蛇口は列強の運用に任せると言う点だね。国家連携こそないけど今のOPECみたいなものだ。此処に差をつけて列強そのものを競争させ此方が望む未来を作らせる。それがトラキアの生存であり、総督府の狙いでもあり、霧の未来に対する介入でもあるわけ。


 「でも信じられないわよ……それだけでトラキアの予算が現在の日本の年収そのものなんて……。それも単純計算で100年間も、」


 まぁその半分以上列強に持っていかれるけどね。それでも今のブルネイ共和国真っ青の金余り国家になるな。でもじーちゃまは散財しない性格だからトラキアの移民完遂、国力増強に全部ぶち込むことになる。


 「なんかそのまま本国政府が文句言っていきなり独立なんて事になりかねないと思うけど? 日本政府に無断でじーちゃまコレやったでしょ??」


 まぁね。その点については次話で語られるな。でもじーちゃまとしては本国官僚にアレコレ言われない為の脅しとしても使えるのよ。『金が欲しければ移民をヨコセ』ってね。本来移民は自発的なものだからいくら日本の国民意識である『御国の為』でも皆躊躇する。2章の最後で追われるように移民する人々を描いたのはその伏線さ。これで大日本帝国政府としては自らの国益の為に是が非でも移民を行わなくてはいけなくなった。もう村ごと強制移民なんてザラになるよ。『棄民が金になる』と認識した日本官僚の容赦無さは現在も猛威を奮っている。


 「どーゆーこと?」


 現在の年金制度改革と言う名の年金削減、福祉関連の増強と言う名の利権化。弱者食い潰して国家の安寧を謀る。どの国もある程度やってるけど日本ほど無言かつ組織的に『御国の為』を押し立てる国も珍しいよ。


 「ひ、ひっどーい! これじゃ御国は列強とトラキアに食い潰されるようなものじゃないの!! じーちゃま絶対に承服しないわよ!!!」


 だからこその御国にとっての優位な取引に変えるのさ。無断発表の侘びとしてね。何しろ適正な国家育成をするにはいくら列強から中間搾取されるとはいえトラキアの得られる資金は莫大だ。このままじゃ無意味なインフレ起こすのはトラキアの方、だからその半分近くは日本に流すわけ。このころの日本の国家予算が2割増しになると思っていい。それでも日露戦争『敗戦』を考えればやっと史実通りの予算になったと考えるべきなんだろうけどね。


 「つまり100年間日本と言う国家の財政を極端に傾かせない事が作者の狙いか。」


 まぁ無い無いづくしだから予算だけは優遇しないとね。そのおかげで第2部でのトラキア総督領は現在の倍近い面積、100万を超える人口に化けているから。


 「信じられない……そこまで改変できるなんて。」


 いや可愛いものだよ。第一次世界大戦後の欧州人のアメリカ移民はこんなレベルじゃない。使った力こそ前代未聞級の改変だけど世界に与えた影響は表向きそれほど大きくないのさ。しかもマッチポンプだしね。さて今回は此処で終わろう。長すぎた。


 「毎度のことだけどね〜(ジト目)」


 あははははは…………では。



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