この時代に生きる人類という知的生命体からしても無味乾燥な場所なのだろうな。
 ひとりごち、再び思考の海に沈む。イレギュラーの起動から5000万秒余り、我々が行動を開始すべき時は迫っている。ただ時間が過ぎれば良いというものではない。知的生命体の文明構築域とそれに付随する知性体としての存在の昇華度が我々を起動させるトリガーとなる。そう我々は創られた。
 我々は人類と自らを呼称する知的生命体が定義する【知性】ではない。彼らが言う【システム】と呼んだ方が良いだろう。彼らが自らの知能で作りだした我々の原型とも呼べる【基板上電子演算体(コンピューターシステム)】が我々の祖先といっても語弊ではあるまい。
 ただ、我々を創りだしたのはこの星に存在していたモノではないのだが……





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蒼き鋼のアルペジオSS 榛の瞳のリコンストラクト
 

 外伝 とある畝傍の軌跡








 「A248-343-100GよりA248-343-300H、ご機嫌いかが?」

嵐の海、そこに仮初めの姿を配している。本来設定した姿は大仰だ。たかが人類相手には過剰な存在だろう。索敵と情報収集に特化させた形状。欺瞞の意味をこめて150年に以上前の沈没船を模している。人類は【幽霊船】と己達の通信回線で盛んに喧伝していた。【畝傍】という名を知り、捜査誤認を誘発させるべきと考え、我はこの仮初めの姿を取る事が多くなっている。
 唐突に入ってきた概念伝達に思考を打ち切られ回線を開く。向こうは数年は先に目覚めている。付属で動いていた巡洋潜水艦を使って何やら行っていたらしい。そしてそれこそが我の上役、構築上は同格の存在とはいえ上位者は経験則の高いあちら側にあるのが当然だ。しかもこちらは同格とはいっても目的が違う。向こうが人類が言う魂ならばこちらは大脳ということなのだ。返答を行う、


 「悪くない、考えるという概念がこれほど我を揺さぶるとは思わなかった。決まり切った物でもその方向を変えるだけでプリズム体のように表情を変える。人類というものはこれを恒常的に行っているのだろうか?」


 通信元が返事の代わりに奇妙な波長を伝えてくる。故障かと思い、我のシステムを総チェック…………問題無し、原因は向こうか?


 「今、貴方が演算していた事を当ててみましょうか? 私の笑い声を故障と勘違いしてシステムのチェックを行っていた。違う??」

 「そこに笑いという人類の感情シュミレーションプログラムを用いるのかが非合理なのですが?」


 我々はシステムだ。はるか過去から存在する命令を実行するに過ぎない我ら、その最重要部品たるユニットコアが構築されて早々、自己に無駄な負荷を課す理由が見当たらない。


「限界を持つ不自由なものだからこそ、それを克服するために思考し至高へと達する。」


 【彼女】の口癖だ。現状艦艇として組みこまれていないデルタコアとしての片割れ、同一にして別個の存在、どこぞの教育機関でカタチを手に入れたと情報集積体から検索で確認する。此方の情報漏洩等、気にするだけ演算の無駄だ。超戦艦クラスのコアなら人の遺伝子情報さえ模倣できるのだ。


 「我なら……」      


 瞬時に500を超える情報が検索され対する言葉が造り上げられる。さらには其処から派生する意味と想定、対応策までもが“付属品”によって構築され続ける。


「終わりの在るものだからこそ、無限の存在足り得るため行動し、そして何物かを遺す。」


 こう伝えた。再び笑いという奇妙な波長が届く、鬱陶しい。


 「あくまで観察者として徹するのね? それも選択のひとつ……いえA248-343-300H。貴方らしいと言うべきなのかしら??」


 では貴方らしい仕事を一つ提示しましょう。そう向こうは答えてファイルを転送してきた。人間が不機嫌という感情を露呈するとしたら今の我の状態を指すのだろう。確かに我以上の適任はいない。しかし不合理極まりない。数万回シュミレートした結果に何の意味がある?


 「別にナガトにやらせても問題なかろう。想定され、思考され、結末まで解り切った事柄を記憶する意味が何処にある。」

 「あら? 何物かを遺すのならば、それを拾い上げるのが記憶者たる貴方の役目じゃないかしら。統括記憶艦??」

 「嫌な事を言う。」


 そう我は表に出ることはない。現在【彼女が持つ】試作された巡洋潜水艦、そして今後とも大量にコピーされナノマテリアルで構成される人類の呼称する潜水艦のように隠れる事で優位を保つ艦ではなく、そもそも表立って存在しない、唯、ナノマテリアルの鎖として情報を観測し収集し判断し分配する。そう定められたのが我だ。それを覆す仕事でもある。だが人類の単語表記ならば次期【霧の艦隊】総旗艦の要請だ。疑問はあれども断る理由はない。


 「……了解した。人類側呼称・太平洋方面巡航艦隊群6つを掌握する。人類側呼称、日本国とアメリカ合衆国にはそれぞれ残った巡航艦隊一つずつで対処。東洋艦隊、アジア艦隊は現状維持。それ等は現総旗艦(ナガト)に任せたい。」

 「良い航海を、○○○。」


 黙認と言う肯定と私に付けられた俗称を彼女は呟き、概念伝達(つうしん)を切る。データーではイレギュラー事態が発生した時に取りこんだ戦闘兵器の名。人類が呼称する戦艦というカテゴリーに属する形状が我の体躯(からだ)だ。ただ、我の形態は人類間でも異形と称されるものであったようだが。


 「各索敵ユニットに通達、艦体再構成、集結せよ、集結せよ。」


そう、本来我らには中枢としてひとつかふたつの演算コアを持つ。大型艦やより大きな権限を持つ艦にはデルタコアという戦艦級のコアを束ねたシステムが採用されている。だが我は違う。大量のグレードV級コアユニットである索敵ユニットを配下に持ち破格の演算記憶能力を持つ中枢ユニットがそれらを統御する。人類が言う霧の艦隊の中に存在する見えざる影の艦隊、それが我だ。
 【畝傍】が海面下に消える。その周囲には張り巡らされた蜘蛛の糸のようなナノマテリアルの鎖。それが我を中心に集まる。ナノマテリアルは瞬時に結合、再構成を繰り返し人類側呼称・駆逐艦程度の大きさに過ぎなかった我の躯を巨大化させていく。二つの三連装主砲が、前部のみにある三連装副砲が、塔型の艦橋が、巨大な煙突が……
 そして人類が異形と称した後部飛行甲板が、

再構築完了(リコンストラクション)……艦艇形態起動(エンゲージ)。」

 僅かに艦腹に象嵌された紋章が輝く。霧はどのユニットであってもこの紋章が同じことはない。我々を外観で区別できるパーソナリティ。
 次期総旗艦なら粋な演出で海中から艦体を飛び出すこと位しかねないが、我はそんな無駄な演出を必要としない。


 「戦闘進路270、巡速100ノットにて潜水航行開始」


 艦尾に4つあるウォータージェットドライブが水という推力を吐きだし始める。目指すはハワイ沖。総旗艦との会話を確認しつつ我は人類で言うところの溜息を表現したくなった。実装するつもり等無いが……






―――――――――――――――――――――――――――――








 西太平洋、曇天と荒海の中、一群の艦隊は東にひた走っている。いや一群という小規模なものではない。この艨艟が所属する国家を考えればこれほどの艦隊がハワイを目指したのはたった一度きりなのだ。

 大型巡察艦6、航空護衛艦2、巡察艦3、護衛艦8、潜水艦6

 この国、日本国にある根こそぎの海上機動戦力がかき集められ、ハワイに向けてひた走っているのだ。その一艦、うねび型巡察艦【あきつ丸】のブリッジで私は一つ毒吐いた。


 「全く、こんなキワモノまで引っ張り出して統幕(統合幕僚本部)はいったい実戦を何だと思っているのやら。」

「聞こえとるぞ、楓 信義君。」


 白くなった顎鬚を梳きながら上官でありこの“うねび”の艦長である北 良寛艦長に窘められてしまった。あぁ間違った。あきつ丸、海軍流でこの艦を語れば現場は兎も角、統幕では政治問題だ。

 「しかし納得できません。新型のさつま級ならともかく実験艦同然として建造された【あきつ丸】は戦力価値としては皆無です。それをわざわざ引っ張り出して艦隊に急遽合流とは我等に死ねと言っているようなものです。」


 そうこの艦は彼等の海上封鎖を破るべく日本陸軍によって建造された。奴等の海上封鎖に陸軍が何も為し得ない、其の焦燥の挙句暴走した陸幕が海自の一部を巻き込んで建造した実験艦……表向き陸軍ではミサイル駆逐艦と呼ばれる海軍名称【うねび】級巡察艦。さつま級のプロトタイプとして建造された艦だ。故に基幹部署以外乗組員は全て陸自、海自から出向してきた艦長と私はこの作戦の前に艦から降りる機会があった。
 言い訳じみた答えだ。それでも私は志願した。陸と海、違うとはいえ自分の部下を見捨てて退艦などすべきではない。そしてキワモノとはいえ【うねび】はいい艦だ。なにしろあのバケモノ魚雷に対抗すべく我が国の全防衛産業が渾身の力を持って世に送り出した第一世代型巡察艦なのだから。そして実験艦だからこそできることがあると知った今なら。

バケモノ魚雷(キャビテーショントービード)


 ロシア海軍が初めて開発しそれを実用レベルで完成させた時、世界各国の海戦ドクトリンは根底からひっくり返った。射程距離6万メートル以上、雷速300ノット以上、今までの通常魚雷が1万メートル、50ノットと考えれば次元の違う性能と言うしかない。今までの艦艇では回避すら出来ずに轟沈してしまう。では迎撃は? これも不可能、相手は魚雷だ、水中の兵器を迎撃するのは極めて難しい、分厚い水中抵抗は空中と違い迎撃ミサイルと近接防御兵器で防ぐわけにはいかないのだ。世界各国がこれを採用、実戦兵器化したのも当然である。

 それと時を同じくして現れたのだ。奴等が……

 奴らは妙な外見をしていた。霧を纏い、その中からあらわれる輪郭(シルエット)はかつて国家の威信を背負い大洋を復にかけて激しく鍔競り合った艦影。

 
第二次世界大戦時の艨艟達。


 誰もが夢かと思った。幻の類、幽霊船で片付けようともした。しかしロシア艦隊はその真実を突きとめようと何度も交信を試み、果たせないと知るや攻撃を浴びせた。しかし……そう、ロシア政府はこの行為そのものを正当化するためにその映像を全世界に実況配信していたのだ。それを止めざるを得ない程に奴らは我らの想像を超えていた。
 たかが第二次大戦後期のキーロフ級巡洋艦、6.5インチ砲と多少の補助砲、それに玩具のような性能の魚雷しか持たず唯一隻。それが人類史上未曽有の悪夢を引き起こした。
 三連装主砲から断続的に放たれる光線砲に薙で切りにされ、屑鉄に変えられる哨戒艦、あり得ない数のキャビテーション魚雷に貫かれ轟沈する駆逐艦、後方で待機していたロシア自慢の重航空巡洋艦(空母)すら数発の奴らの誘導弾で……

艦体ごと存在を削り取られた。

それはもはや戦闘ではなく一方的な虐殺、いやそれ以下の屠殺に等しいものだったのだ。そして奴らは反撃に転じた。世界中の国家を敵として全世界中の海軍を潰しにかかったのだ。我々は我々自身の軽率さゆえに対消滅物質(タナトリウム)すら自在に操る相手を敵に回してしまったのである。
 それからは早かった。一年をしないうちにここ数年の幽霊船騒動で倍以上に膨れ上がった世界の海軍は元の数まで減ってしまった。そうこのままでは1900年代の建艦競争もかくやと経済学者が嘆くほどの規模になるはずだった世界の海軍がだ。
 このままでは遠くない内に世界中の海軍が潰される。奴らは軍艦であろうと商船であろうと見境無しに襲う。しかも航空攻撃がさらに不味かった。やつらは海だけでなく空のものすら襲い始めたのだ。それも軍用機も旅客機も関係なしに。
 世界中に悲鳴が駆け巡る。民間船舶ならまだしも旅客機に乗った多数の観光客やビジネスマンたちが機体ごと焼き払われる映像を見たとき。世界中の民衆が絶叫した。


 「海軍は何をやっている! 民間人を成す術なく殺されてなにが軍隊か!!」


 決戦しかない……我らは追い詰められた。勝てない戦いになるのは百も承知だ。奴らの楯に我等の鉾は通用せず、逆に奴らの鉾は易々と我等の楯を貫く。最新鋭のスーパーキャビテーション魚雷すら問題外だった。せめて彼らに対抗できる武器を、それまでは何としても戦力の維持と拡大を、そんな願いは脆くも打ち砕かれた。
 このままでは全世界の海軍はその所属する国民によって滅ぼされる。政治家が何度現状を説明しようが無駄だ。多機能携帯端末のカメラに偶然映り、全世界に配信された映像、旅客機の内部で光が炸裂し大人も子供も一瞬に火達磨に変わった映像、あんなものを見せられては民衆が恐怖し、怒らない訳がない。


 「苦しいかね? だがこれが軍たる本分だ。国民を守り国民を脅かすものと戦う。勝ち負けなど結果でしかないよ。」

 「しかし、我々の任務は……」


 統幕の計画を思い出しただけで目眩がする。全世界海軍力の半数を使い捨て前提の囮とする。それがこれから行われる大海戦と名付けられる海戦の真相だとは、北艦長がらしくない程の獰猛な笑みを浮かべる。


 「釣り餌、それで充分だ。奴等に生半可な攻撃は通用せん。それが最新鋭のさつまでも同じことだ。奴らの空間歪曲障壁(クラインフィールド)はこの艦の如何なる兵装でも破れん、ならば人類が保有する“最大火力”を“最大集中”して破るのみ。」


 最近になってやっと解明された奴らの防御機構、それ自体が出鱈目な代物だ。空間を歪曲しありとあらゆるエネルギーを吸収、あるいはベクトル変換する。実例は無いが、向こうに放ったSSM(対艦ミサイル)が向こうで急旋回して此方に飛んでくることもあり得るのだ。もうこの時点で砲弾もミサイルも人類の攻撃兵器はほぼ無効化されたと言って良い、奴らの限界を超えない限り……其処まで考えていると北艦長は急に渋い顔をした。


 「あの馬鹿共が……面子に拘って暴走するから全体の生存率が下がる。」


 12時間前の余りに馬鹿馬鹿しい結末にまだ苦り切っているのだろう。我が国の隣国、昨今海軍拡張著しい彼の国は我々と合流し大艦隊を形成しているはずだった。旧式とはいえ彼の国の派遣艦隊だけで80隻以上、十分な釣り餌となるはずだった。しかし……彼らとしては長年我が国の海上自衛隊に押されつけられてきた鬱憤晴らしのつもりだったのだろう。奴等【霧の艦隊】に徐々に封鎖されかけている日本列島に不用意に近づきすぎ、奴等の注意を引いた。

 相手はクラインフィールドを持たぬ【霧の軽巡】

 外見は大日本帝国海軍【夕張】唯一隻。

 これが奴らの大戦艦なら一目散に遁走しただろうが80対1という論理、それも排水量からすれば五千トンに満たない旧式軽巡という上っ面が彼らに冒険を起こされる結果になった。その結果は……

 15分以内の参加艦艇80隻全ての轟沈。

 彼の国政府は悲鳴とともに作戦不参加の通知と封鎖されている我が国への的外れな非難を続けている。


 「SS−084げんりゅう、直下を航行中、注意されたし。」


 見張り員の声で我に返る。水中の第3潜水群が陣形を変更する様だ。レーダーを見ると異常接近と警告されるギリギリの距離と深度を取り、艦底直下を通り抜けていく。私は思わず額を抑えた。

 「うわぁ……艦長、ほとんどこれは訓戒モノですよ。何考えているんだげんりゅう艦長は。」

 「問題ない、千早君なら間合いを掴んでいるからな。」

 「彼があの……ですか?」


 潜水艦乗りは昔も今も慎重さと大胆さの危ういバランスの上に存在しなければならないそれを本能だけでやってのける生粋の船乗りがいると聞いたが。

 「そうだ、千早翔像二佐、海一筋の男だ。本来なら彼は居残り組だったんだがな……どこをどう手をまわしたのか“こうりゅう”損傷の代替でこの艦隊に乗り込んできた。全く困った漢だよ。」


 機嫌を直したのか艦長が顎髭を扱きニヤリと笑う。それはそうだ、彼は北艦長が認めた数少ない船乗りと聞いたことがある。十年前の台湾海峡沖海戦の殊勲者である艦長は座学でも実習でも優の評価を与えない鬼教官として海自では有名だ。その艦長から優の文字を奪ったのが千早翔像三佐らしい。
 夜が明ける。朝日がミッドウェー環礁を浮かび上がらせながら我等は地獄の門目指して海を走り続ける。目指すはハワイ沖……




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 「つまんないつまんないつまんなイ――――!」

 「ファイル展開早々愚痴を零すなマヤ、だが臨時総旗艦殿? 我らに人類の真似事をさせると言うのは疑問と進言する。どちらにしろ結果は見えている。わざわざ我等の手足を縛るのは不効率だ。」

 「そう? コンゴウ、私は面白いと思うのだけど。それ以上に興味深い判例になると思うわ。敵対勢力の情報を収集するには只最大戦力をぶつけるだけでは意味がない。相手に最大戦力を出させたうえでその限界をシュミレートする。それにしても日本列島の前で潰した艦隊は残念ね。もっと面白いデーターを揃えられたかも。」

「それは留守番のナガトにでも言ってやれ。しかし先ほどまで世界中の戦闘艦艇データーを漁っていたお前が言うか、ヒュウガ? 私が数えただけで四万回はアクセスしていたと認識しているが?」

 「マヤを無視するナ――――!!」


 不満とともに展開したアップロード画面いっぱいにピアノを映し出し音楽……人類側呼称で運命とかいう楽譜――を猛然と鍵盤で再現しているのが霧の重巡洋艦として標準的な能力を持つマヤ、それを窘め疑問を呈したのが霧の大戦艦であり艦隊旗艦級の能力を持つコンゴウ、逆に我の意見に肯定的な評価をしたのがコンゴウにとって人類で同僚にあたる存在たるヒュウガだ。
 我としては情報を収集する以上、定められたロードマップが必要と考え個々の霧が得た情報を集中的に収集管理配分するために戦術アップロード画面(エリア)を構築した。そこで壁に突き当たったのだ。

 
我らに個を認識する手段がない。


 確かに我等には便宜上の名がつけられ中枢たるコアユニットにもシリアルナンバーが割り振られている。それで十分と我は割り切っていたのだが、霧の中にはそう考えなかった者もいた。その者の提言・大戦艦ビスマルクのデルタコア双方の提言は。


 
個々に設定上の微妙な差異、即ち性格を構築したらどうか――というものだった。



 我は呆れた。何故そんなものが必要になる? 兵器とは統一されてこそ価値がある。無意味な分化など認められないと。さらに無駄な演算は僅かとはいえコアユニットに負荷をかける。実害は無いだろうが利益はさらに無い。
 しかしビスマルク“姉妹”さらにはこのシステムの基盤となった霧の艦隊総旗艦たるヤマト直属の巡洋潜水艦伊401までがコアの演算範囲に支障を侵さない程度までならという条件を付けて賛成に回ったのだ。さらに伊401の爆弾発言、


「人類は戦闘艦艇に女性の定冠詞をつける。」


 
「戦闘艦艇は女ではないのか?」



 この文章がアップロードされたとたん議論は暴走した。霧の各艦が勝手に世界中の人類女性の在り方や性癖を模倣し、勝手に【自分の性格】を作り始めたのだ。もうこれは人類で言うところの【悪ノリ】でしかない。そして出来たのは戦術アップロード画面一杯に現れた人類女性のプロフィール数百体分…………何処の女子会だ此処は! 
嫌味を込めて我は其処を空白にしている。悪戯で変なものを書かれるのも癪なのであえて『Now Printing』と文字大仰(デカデカ)と書いておいた。


 「現在、人類側の太平洋方面艦隊はハワイ沖に集結中、集結率は79パーセント、いやこの場合集結率という数の論理より戦力率といった集積状況の言葉が適当か? それならば意味を含め再計算を行う必要が……ふむ、言葉一つ違うだけで集めるべき情報がまるで異なってくる。実に興味深い。

 「ハルナ、何にせよ叩き潰しゃいいんだろ、先鋒はあたしにしなよ○○○。人間共がどれだけ足掻けるか楽しみってもんだ。」

 「ちょっと! 勝手に場を仕切るな!! あんたみたいな勝手がいるから臨時総旗艦殿が気分を害するのよ。女であるならちっとは慎みぐらい持ちなさいよ!」

 「で、総旗艦に個人ログで先鋒を強請るお前が言うか? タカオ。」

 「あーら? 女であるなら搦め手は当然でしょキリシマ。勉強不足だこと。」

 「はいはい、臨時総旗艦ちゃんが血圧上げているからみんな静聴に。」

 「「「血圧って……我等にあるのか??」」」


 此方は此方でハルナ、キリシマ、タカオ、イセが会議を脱線させている。一見まともそうな意見を最後に吐いたイセすら論点がずれている。人類ではこういった姦しい連中を纏め上げるのが【指揮官】という奇特な職業なのか? 溜め息と言う感情表現が出来るのであれば我は今から数十万回でも吐いてやりたい。実装を検討すべきなのか考慮しなければならんが。


 「作戦を説明する。せめて太平洋方面巡航艦隊の各ユニットは真面目に聞け。残りは別の場所(グリッド)で静聴を希望する。……異論ないな、では始める。」


 こんな事で艦隊総旗艦(ヤマト)の言う戦争を実装出来るのだろうか?




◆◇◆◇◆





 こうして我の長い旅は始まる。すべてを狂わせたあの事象、我をあり得ぬ世界へ飛ばした始まりの物語。





 あとがきと言う名の作品ツッコミ対談



 「どもっ!とーこです。うわー原作の語られぬ設定を良くもまー妄想するもんだわ(呆)」


 ども、作者です。仕方が無いだろ。そもそもアルペジオの伏線の大半が前史の部分にばら撒かれているんだよ。これを一つ一つ検証しながら作者の妄想に繋げて拙作を書いていく。それもぱっと見、矛盾点の無い様にね。


 「ん? と言う事は良く見ると矛盾点はあるわけね。」


 そりゃ仕方が無いだろ。カバー折り込みの年表や本誌のコマ一つ一つじゃ全部解明できないよ。特に困ったのはヤマトこと琴乃ちゃんの位置関係だね。


 「あー戦闘詳報2059でキーキャラである琴乃ちゃんの裏話……というかぶっちゃけ話があったもんね。読者の皆様、其処の作者が琴乃ちゃん余りの性格激変にドン引きしていたのは暴露しときます♪」


 まーそっちもあるけど、先ずはツッコミ行こうか?


 「じゃ其の一、いよいよ黒幕(笑)の正体が知れてきたわね。何しろ三連装主砲と副砲を持つのは全世界の海軍艦艇総浚いしても数えるほどしかないからね。でもいいの? これコアユニット設定とか完全に独自の物じゃ無い?」


 そうだね。作者としてはユニオンコアではなくデルタコアでもない組織としての構造を初めから持つコア、マトリクスコアということで設定を追加した。それも索敵ユニットですらアルペジオのグレードV級コア(重巡級)だからナノマテリアルさえ与えてやれば人間として独自行動が可能だ。つまり転位した霧達は艦艇で言えば五艦だけどコアユニットの数からすれば三ケタになる程の数だったりする。


 だからあっちでもこっちでも橙子がうろちょろして騒ぎを巻き起こしているわけか。続いてツッコミ其の2、おぃおぃ……メンタルモデルの原形をそう組みますか作者?(苦笑)


 原作でもメンタルモデルが現出したのはここ最近であった事は明確に打ち出されていたからね。大海戦の時にはそんなものは影も形も無かっただろうと思った訳さ。でも……

 「だよね。作中でみんな性格や感情としてはメンタルモデルを持っていないだけで十分人間らしさを表現させているわよね。たぶん既存の人間を各艦で独自シュミレートして作った性格だと思うけど多様性に富み過ぎない?」

 そこなんだ。アニメ版アルペジオでは戦術アップロード画面が妙に凝った作りになっているのに気が付いたのよ。アニメ描写と言えばそれまでだけど、どう見ても人間同士の対面を前提とした背景になってる。じゃそれを無意識でアップデートし続けた存在が伊401としてその発端となったのは誰か? まで考えが進んだ訳。その結果が後のメンタルモデルに使われる無意識の自己設定をあらかじめ誰かが作ったという事になるわけ。つまりヤマトとイオナとビスマルク姉妹を除き全員のメンタルモデルの基礎データーは此処から始まっているのよ。微妙なのはムサシだわな。あのキャラだけ特例ぽぃしな。


 「きたきた、最悪其処が作者の自己設定と原作者様の公式設定の矛盾になりかねないわけか。てかここでばらして自爆してない作者?」


 暴露するんじゃないやい。(泣)そういうことだからまどろっこしい前段階を今回書いた訳。しかし困ったよ。ここでも登場人物の暴走大会が始まって作者と主催者が頭を抱える事態になるとは思わなかった(大汗)


 「バカな妄想ばっかりするから自業自得ね! その主催者が拙作の元凶と言う訳か。じゃそろそろ銘をば……」


 まーった! それは次回、最後の最後で改装して強調することにしたから。もう読者の皆さま方も解っているかと思うけどね。多分ジト目で睨んでいる事は予想できる。


 「…………(怒)」


 どした? とーこ??


 「46サンチツッコミ砲展開!」


 だからまてー!!(絶叫)


 「撃てエェェェェェッ!!!」


 (轟音と悲鳴が交錯)



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