さて問題です、ここはどこでしょう?
……………いや、マジでどこだ?
あの、厳密に言えば場所が分かって無いとかじゃないんだ。
何でこんな場所に連れてこられたんだって言う意味で、ここはどこなんだって言う話……


「随分とまた豪華な店に連れてきたな……」

「事情も説明せずに悪かったわね」


現在、俺がいるのは洛陽でもかなり高価な料理屋。
その二階の個室に、月さん・詠・音々音の四人でいるわけだ。
音々音はどうも、俺が心配だからってことで来てくれたらしい。
ありがたい話だね、まったく……


「音々音、恋にお土産買ってあげなよ?」

「当然であります」


その恋はと言うと、この店の入り口の前に立ってるらしい。
来るときは一緒だったんだけど、詠の指示で一応の警護ってこと。


「ナオキさん、無理言って申し訳ありません」

「無理も何も、まだ何も聞かされずに来たんで、謝らなくていいですよ」


今いる個室には横長の机が置いてあって、椅子が向かい合うように2つづつ置いてある。
んで、個室の奥側の椅子に、俺と月さんが並んで座ってる形。
詠と音々音は立ったまま、机を挟んでる状態だ。


「それじゃ、要件は聞かせてくれるよな?」

「えぇ。言ってしまえば、白石のところに来た書状の内容と同じよ」

「ん?」


簡略化し過ぎだろ。
もうちょっと分かりやすく言ってくれない?


「一国の主ってだけでも、縁談とかの文はよく届くのよ。その中に、何度も断ってる富豪の子息がいるんだけど……」

「お断りさせていただく旨をお送りしても、何度となく縁談のお話を送ってこられるんです」


ストーカー並みに気持ち悪いな。


「それで、『直に会ってくれ』っていう文面を送ってきたから、この機会に直接断ろうと思ってるわけ」

「……んで、俺は何をすればいいの?」

「ナオキさんは、その……私の、旦那様役を……へぅ……」

「……………はい?」


その役必要か?
よっぽどの馬鹿じゃ無けりゃ、詠が強く言えば収まるんじゃね?


「相手も旦那がいると分かれば引き下がるでしょうし、よろしく頼むわよ?」

「……で、厳密に俺は何をすればいい?」

「引き受けて、くださるんですか?」

「ここまで来て、“やっぱ帰ります”何て言いませんて。微力ですけど、協力しますよ」


ぶっちゃけ、そんな相手に言い寄られてるのは気分悪いしな。
月さんに仕えてるってのもあるけど、もっとそれ以上に、なんだろう……
とにかく、嫌がってるのは見て分かるし、そんな顔見てたくないってのはある。


「白石は特別何かを喋る必要は無いわ」

「そんなんでいいの?」

「えぇ。相手に何か聞かれたら、旦那っぽい答えを言えばいいわ」

「旦那っぽい、ねぇ……」


余計に何言えばいいか分からん……
ちゃんと通じるかどうか不安だなぁ。


「それじゃ、ボクとねねは一階の部屋にいるから」

「隣の部屋はとれなかったのか?」

「生憎とね……なにもないとは思うけど、万一はソレで対処してくれる?」


詠のいう“ソレ”ってのは、俺のすぐ手に届くところに立てかけてある刀のこと。
さすがに一振りしか持ってきてないけど、使う事態に発展してほしくねぇなぁ……


「じゃあ月、何かあったらすぐに呼んでよ?」

「大丈夫だよ詠ちゃん、ナオキさんがいるし」

「……アテにしてるわよ、白石」

「あぁ、承知した」











数分後、扉がゆっくりと開いた。
先に入ってきたのは、40代くらいの男性。
仰々しく礼をしてきたってことは、手紙の相手の従者ってとこか。
頭の半分くらいが白髪になってるところをみると、随分苦労してるんだな……


「お待たせー、董卓さーん!」


次に入ってきたやつが、その手紙の相手か……
チャラチャラしてるって言うか、何て言ったらいいだろ?
そうだな……少女マンガとかによく出てきそうな、我儘御曹子ってところか?
ま、あんまり第一印象は悪いのは仕方ないよな?


「今日は僕のために会いに来てくれて本当にありがとう!やっぱり愛だよね、うん、これは愛あるからこその会席だよね!」

「えっと……いや、その……」


圧倒されちゃってるし……
ま、無理無いか。
俺でも圧倒される、っていうか引く。


「あ、あのぅ、今日はお話が──」

「うんうん!分かってますって!挙式の御相談だということは、重々理解してきていますから!」


駄目だこいつ、早く何とかしないと……


「いえ、あの、そうではなくて……」

「違うこと無いでしょ?だって僕と董卓さんは、結ばれる運命に──」

「話を遮って悪いんですが……」


いい加減にうるさい、ってかウザイ。
口挟んだっていいだろ、さすがに?


「……………あんた誰?」

「先日、月さんと婚姻を交わした者です」

「へぇー、あっそ……ところで董卓さん、婚姻を交わ、し……た──た?」


目に見えて顔が真っ青になっていったよ。
てか、月さん?
あなたはあなたで赤面しないでください。
言った手前、俺が恥ずかしくなります。


「な、ななな、なな、な……っ!」

「取り敢えず、どうぞおかけください」


月さんに促されるがまま、漸く相手が席に着いた。
立ったまま、大仰に手を振りまわされてウザかったんだ、ほんと。


「ど、どどどどど、どういうことですか董卓さん!?僕というものがありながら、こんな男とも女とも分からないやつと、けけけ、け、結婚だなんて!!??」

「ナオキさんは、とっても魅力のあふれた殿方ですよ」

「(隣でそれ言われるとなお恥ずかしいんだけど……)」

「僕を差し置いて董卓さんとの結婚が出来る人間なんてこの世にいません!嘘です、嘘だと言ってください!今ならまだ間に合います!!」


……詠が旦那役を任命した理由が分かってきた。
こりゃ、人の話をまともに聞かないタイプのかなり悪い方だ。
例えに律でも出そうと思ったけど申し訳ないと思うくらいだし……


「残念ですが……すでに婚姻の手続きは済ませてしまいましたし。それに、そちらの方へは何度かお断りの書面を送らせてもらったはずですが?」

「あんなのただの照れ隠しじゃないですか!それが分からない僕だとでも言うつもりですか?!」

「(うん、お前は自己解釈しすぎな?)」

「え、えっと……先に送っていたとおり、そちらとの縁談はお断りさせて頂きます。こうして、その……だ、旦那様が、出来たわけですし……」


おーい、月さん?
マジで赤面しないでくれない?
そろそろ俺も恥ずかしくなってきたよ?


「認められるわけ無いじゃないですか!だって、董卓さんの隣には僕しか釣り合わないっていうのに!!」

「え、えっとぉ……」

「董卓さんからの愛は分かってるんです!そんな小芝居は止めて、僕の元に帰ってきてください!!」


……ちょっと前の発言撤回な?
駄目だこいつ、もうどうしようもない……


「あー、ちょっといいですか?」

「何だよ!?」

「月さんも言っての通り、俺たちは婚姻を正式に結んだんです。そちらの立ち入る要素は皆無です」

「お前の意見は聞いてない!大体、さっきから董卓さんの真名呼んで……そんな小芝居するためだけになんてことをっ!!」


詠、あとで絶対呪ってやる……


「そんなに結婚したって言うなら、証拠の一つでも見せてみろよ!」

「証拠?」


チッ、面倒な展開にしやがって……
微妙とはいえ、論点すり替えて、言葉の上で優位に立ったな……
こうなると、こっちが正論言っても無駄だ。
特にこういう馬鹿が相手だと、全部が全部を“言い訳”として解釈する。


「(どうする?証拠を提示すれば、優位をこっちに戻せるけど……)」

「あの、証拠を見せればいいんですか?」

「「へ?」」


ハモるな、ウザったい。
てか、月さん?


「ナオキさん、こちらに体を向けてもらって良いですか?」

「はぁ……」

「あ、あと……──」


耳元に口寄せて、何するつもりなんだ?


「(さすがに恥ずかしいので、目だけは瞑っておいてもらえますか?)」

「(何するつもりか知りませんけど、まぁいいですよ)」


さて、目を閉じてっと……
マジで何するつもりだってんだ?
マンガとかだとこういう展開ってどうだっけ?


「(ん?)」


両方の頬に手の感触?
開けるなと言われてるから目は開けられないけど、何が──


「……──っ!!?」

「ん……──」


さ、さすがに目は開いた。
というか勝手に開いたって言ってもいいくらいだ。
え、ちょっ、ちょっと?!


「あ、あああ、ああああ、あ、ああ???!」


お前はお前で壊れてるのな?
いや、今はそんなことどうでもいい!
証拠って、キスって、え、ちょ??!


「ん……ちゅ、ぇろ……ぁむ、れろ、んちゅ……」

「……っ??!」


舌ぁ?!
月さん、あなた舌まで入れて──


「っふぅ……これで、証拠になりますよね?」

「「……………」」


誰も何も言えねぇって……
俺は何が起こったか反芻してるし……
し、舌まで入れて、え、キスで、へ?!


「ああ、あああ……あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」

「チッ!」

「きゃぅっ?!」

「……………うぐっ?!!」


……色んな事が同時に起こりすぎたな。
よくもまぁこの事態に、俺の思考と体がついていったもんだ。
多分というか確実に、普段からの調練の賜物だな……

順番に説明すると、逆上した相手が腰の刀に手をかけたんだ。
それが目に入ったから、立ち上がりながら月さんを引きよせた。
同時に、反対の手で自分の得物をつかんで、相手ののど元に突き付けたって感じだ。
もちろん、鞘に入ったままではあるぞ?
急な事態だったからってのもあって、机の上はめちゃくちゃになったけど、不可抗力だよな?


「……ぁ、な、何を……?」

「……こういう場で刀を抜くって、どういう了見だ?」

「え?」

「百歩譲っても、先の発言は到底許されるものじゃない。お前は月さんに対して、祝福の言葉を述べることはあっても、その月さんの選んだ相手を侮辱する道理は無い」


それはつまり、月さんをも侮辱することにつながるからな。
確かに、俺自身も言われてて気分のいいものじゃなかったけど、優先順位ぐらいは分かる。


「もしも……もしもそれ以上刀を抜くなら、こちらも相応の対処はさせてもらう」

「…………………………」


腰抜かしてへたり込んだか……
ってか、漏らすなよ、汚ねぇな。


「今の心境だと、三度も待てるほど寛大じゃない。お引き取り願おうか?」

「…………………………」


完全にビビって、俺の言葉が聞こえてないみたいだな。
……ったく、あんまりやりたくないんだぞ?


ダァン!!


「──っ?!」

「二回目を言う前に、行動に移してくれるよな?」


あー……脅しの意味込めたとはいえ、机殴ると痛い……
まずはへたり込んでるそいつに、声のトーンは落として言う。
次いで、従者の方にも目で問いかけておく。
そっちの方は物分かりが良かったらしく、こちらに深々と礼をして、連れて出て行ってくれた。











「月、なにもなか──」

「詠殿、どうしたであり──」


さっきの奴と、ほぼ入れ違いに入ってきた二人が絶句した。
ん、なんか変なとこでもあったか?


「ちょ、ちょっと白石!あんた何で月を抱いてるのよ!?」

「え?あ……」


やべ、完全に忘れてた。


「詠ちゃん、私からちゃんと説明するから、ナオキさんを怒らないで?」

「ゆ、月?!」


顔が赤いままの月さんが、詠の元に寄って行った。
んで、色々説明し始めたみたいだな。
手間省いてくれてほんと助かる……


「あ゛ー、なんか気疲れした」

「お疲れの様でありますね?」

「あーうん、疲れたよ……それと音々音、そこの水たまりは汚いから踏むなよ?」


ちょっと危なかったな。
言うのが遅れてたら、確実に踏んでただろうし。
……にしても……


「……………」

「白石殿?口元を押さえて、どうかされたでありますか?」

「──っ!?い、いや……何でも無い!」

「珍しいでありますね?白石殿がそこまで取り乱すとは」

「……ぁ、あぁ、まぁな……」


ようやく落ち着いたってのもあるのか、今さらになって感触が明瞭になってきた。
柔らかくて、暖かくて、舌に残ってる感触も甘くて……
その時に伝わってた鼓動が、今になって感じられる。


「白石殿、顔が真っ赤でありますよ?」

「……否定はしない、ただ言葉にしないで?」

「はい?」


椅子に座りなおして、口元に手は当てたまま……
愛おしいような、何とも言えない感情が収まるのには、かなり時間がいりそうだな……







後書き


キスの描写ってどう書けばいいの?(オイコラ
今後の課題の一つとはいえ、難しいです、はい。

とりあえず、この回で董卓軍での日常編が終了ってことになります。
次話からはまた、ストーリー進んでいくわけですが……
ま、例のあの大戦です。
どんな感じにしていくかの構想は出来てますが、どんな感じになることやら(マテマテ

んで、ここまでに登場させたように、蜀・魏・呉の何処に行くにしても、オリキャラは出そうかなって思ってます。
出すキャラの性格とか外見とかも決まってきてますし……
ただ、自然と呉のオリキャラが一番多くなる雰囲気です。
無印時代から引っ張ってきてもいいんですがね?(汗

まぁ、暫くはオリキャラとの遭遇は無いんで、もうちょっと試行錯誤はします。
出さないっていう手段も勿論ありますし……

そんなこんなで、また次話で



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