「直詭さーん、入っていいですか?」

「ん?摘里?いいぞ」

「んじゃあお邪魔しま──何してんです?」

「筋トレ……もとい、運動だが?」


一日暇な日はこうやって筋トレすることもある。
ただ腕立て伏せとかするだけだけど、鈍って足手まといになりたくないからな。
あー、いい汗かいた……


「んで?俺に何か用?」

「はい。桃香様が呼んでます」

「俺を?」

「正確には全員です。後何人かもこの後呼びに行きます」


全員集めて何しようってんだ?
何かあったのかな?


「理由は聞いてるか?」

「一応は……面倒な事案が上がったそうです」

「面倒事?別に全員集める必要なくないか?」

「わちきに言われても……」


まぁそりゃそうなんだが……
でも面倒事とかあんまり関わりたくないなぁ。
それ程いい予感もないし……
むしろ悪い予感しかしないし……


「ハァ……とりあえず、広間に行けばいいんだな?」

「そです」


呼ばれてる以上行くか。
脇に置いておいた手拭いで汗を拭いて、と。
一応着替えていくか。


「着替えたらすぐに行く。他の連中にも声かけるなら行っていいぞ」

「あ、折角ですから着替えを見守っておきます」

「何のために?」

「主にわちきの眼福──痛たたたたたた!!!」

「くだらないこと言ってないでさっさと行け」


頭を思いっきりぐりぐりぐり……
これで軍師なんだから呆れるわ……
さて、出てったことだし、さっさと着替えていきますか。



広間の大きなテーブルには全員が坐している。
俺の横には眠そうな恋と、何故かそわそわしてる星がいる。
いや、星?
お前のキャラってもうちょっとこう……


「全員集まったみたいだね。じゃあ朱里ちゃん、お願いね」

「畏まりました。実はここ最近、不審者の目撃が相次いでいるんです」

「不審者?」


何だそれ?
俺は初耳だぞ。


「警邏中には見かけなかったが?」

「愛紗さんの仰る通りです。その不審者は、警邏中の人間に見つからないように出没しているようなのです」


こっちの予定を見透かしてるってことか?
そりゃ厄介だし面倒だ。
……で、星?
何か心当たりでもあんのか?
さっきからそわそわしっぱなしじゃねぇか。


「んで、その不審者は何しでかしたんだ?」

「悪漢の捕縛です」

「「「「「は?」」」」」


ほぼ全員が声を出した。
何だそれ?
不審者が悪人の捕縛をしてる?


「不審者っていい奴の事なのだ?」

「いや鈴々、それは絶対にない」

「捕縛されていた悪漢たちに話を聞くと、全員が全員、“仮面の奴にやられた”と言ってるんです」

「仮面?その不審者は仮面をつけているのか?」

「そうらしいです。どうも、自分の事を華蝶仮面(かちょうかめん)と名乗っているようで、町人からそういった情報を得られました」


華蝶仮面?
聞いたこともないぞ。
いや、三国志を読んでても絶対に出てきてないはずだ。
……出てきてないよな?


「それで、その華蝶仮面は神出鬼没ってことでいいのか?」

「そうなりますね」

「ん〜……私としては、会ってみたいんだけど……」

「桃香様、それはあまりに危険すぎます!もしも我々に害をなす存在であれば──」

「いや愛紗よ、それはないのではないか?」


今までだんまりだった星が口を開いた。
全員の視線が星に集中する。


「正体不明とは言え、悪事を働いているわけではない。危険とは言い難いのでは?」

「しかしだな星、善行をするなら堂々とすればよいだろう?それを態々我らから隠れるように、しかも素顔を隠して行うなど、後ろめたい心がある証拠」

「それはそうだが……」

「桃香様、華蝶仮面なる者の捕縛の命を!」


んー、愛紗が突っ走ってるなぁ……
でも捕縛したほうがいいとは思うってのは確かにある。
実際、さっきの愛紗の発言は何一つ間違ってないし。


「そう、だね。華蝶仮面さんにどういう思惑があるか聞いてみたいし、荒っぽいことはしたくないけど、捕まえて聞いてみよっか」

「よーっし!鈴々が何とか仮面を捕まえてやるのだ!」

「へへっ!鈴々、どっちが先に捕まえるか勝負だな」

「翠には負けないのだ!」


桃香が賛成したこともあって、華蝶仮面は捕えるという方向で話が決まったみたいだな。
鈴々も翠もやる気満々だし……


「それでは警邏も強化いたしましょう。雛里、手配は頼めるか?」

「御意です」


一番やる気出してるのは愛紗か?
まぁ、他の面々もそれなりにやる気は見せてる。
ただ一人、その中で露骨にやる気を見せてないのは……


「……………」


俺の横にいる星だけ。
何か知ってるのか?
知ってるって言うか、隠してる?
そんな印象だな……











それから数日が経った。
華蝶仮面の目撃情報だけは得られる。
ただ、実際に俺たちが見かけることはない。
……内通者でもいるんじゃないのか?
いつどの道を警邏が通るって、華蝶仮面に知らせてる奴がいるとか……?


「これだけ警邏を強化しても、華蝶仮面は見つからず、か」

「まぁ焦っても仕方ないって言いたいですけど、わちきたち軍師まで参加してるんだから、さっさと出てきてほしいですよねぇ」

「こういうのは根気が大事とは言うけど、ここまで影も見えないと辛いな」


んー、何か打開策でもありゃいいんだが……


「摘里、何かいい策でもないか?」

「そうですねぇ……いっそ、今日は道を変えてみるとか?」

「我らの独断で変えるわけにはいかんだろう」

「いや、いいかもしれないよ?」


不意打ちには弱いかもしれないし……
ま、どの辺に出現するか分からないから、こうやって軍師も引き連れて警邏やってるわけだし……


「では、どう道順を変える?」

「いつもならこのまま通りを順番に西に向かいますが、今回はいきなり西の端の通りまで行っちゃいましょう」

「分かった。んじゃ、ちょっと駆け足で行くぞ」

「えー……!わちき軍師ですよー?」

「足には自信があるとかいつか言ってただろ?文句言わずについてこい」

「ぶぅ〜……」


不貞腐れてる摘里を引き連れ、足早に目的の通りまで向かう。
この通りは人通りがちょっと少ないから歩く分には楽だ。
ただその分、面倒事と言うか厄介事が結構頻繁に起こる。
3日に1回は補導か捕縛することがあるかな?


「出ますかねぇ〜?」

「摘里が言い出したし、出なかったら責任とれよ?」

「またそんなこと言う〜……」


半ば賭けだけどな……
さてさて、面倒事が起きなければいいんだが……


「何だとこの野郎!」

「やんのかコラ!?」


あーあ……
喧嘩とか日常茶飯事とでも言いたげにやってくれちゃってもう……
収めなきゃだめだよなぁ?


「直詭殿、行くぞ」

「はいはい」

「わちきは?」

「後ろからついてこい。危なくない場所で待機してればいい」

「はーい」


駆け足でけんかしてる連中の元へ向かう。
やっぱこの通り、もうちょっと何とかしたほうがいいよな?
呑みたい盛りの若いのがよく集まってるし……
……まぁ、俺と同年代か少し上なんだけどな?


「そこの者たち、そこまでだ!」


ん?
どこからか声が轟いた。
思わず足を止めて、その声の出処を探す。


「直詭さん、あそこ!」

「ん?!」


屋根の上に、一人の女性が立ってる。
逆光のせいで顔がはっきりと見えないな。
そう思ってたら、ひらりと優雅に屋根の上から飛び降りてきた。


「……………おい」


思わず声が漏れた。
いや、たぶんこいつが華蝶仮面なんだろう……
蝶々を模した仮面付けてるし。
でもだなぁ、それ以外の外見から明らかにわかるんだが……


「(星のやつ、なにやってんだ?)」

「直詭殿、もしやこやつが華蝶仮面では?」

「そーだろーね……」

「おぉ〜♪本物見ちゃった♪」


え、何?
二人とも気づいてないの?
もしくは俺が馬鹿で、こいつは星じゃないとか?


「白昼堂々喧嘩とは見過ごせぬ。この私、華蝶仮面が成敗してくれる!」


……いや、声からして星だ。
何でこれで気付かれないかね……?


「何だこの変な奴?」

「邪魔しようってんなら容赦しねぇぞ?!」

「ほぉ?この華蝶仮面の正義の鉄槌を受けたいと見える」


言うが早いか、素早い踏み込みで二人の懐へともぐりこんだ。
そのまま華麗な動きで二人の顎を打ち抜いた。
……殺してはいないけど、やりすぎじゃね?


「正義の前に、悪は平伏すのみ……」

「お前が華蝶仮面か!?」

「むっ?」


こっちには気付いてなかったのか。
愛紗の呼びかけに少し驚いてるし……


「これはこれは……うわさに聞く関羽将軍と見える」

「質問に答えろ!お前が華蝶仮面か!?」

「如何にも。それで、私に何か用でも?」

「ある。お前には城までついてきてもらうぞ」

「この私を捕えると?それはおかしなことを言う……」


ノリノリだなぁ、星の奴……


「私は正義心に従って行動しているだけ。捕えられる謂れはない」

「なら素顔くらい曝したらどうだ!」

「ふふっ……素顔を晒していないくらいで捕えるとは……器が知れるぞ?」

「なっ!?」


愛紗が星に口で勝てるわけないだろうに……
んー、助け舟出したほうがいいか?
いや、ここは……


「摘里、後頼む」

「直詭さんは?」

「仲間がいるかもしれないだろ?他の通りを見てくる」

「了解しました」


ま、仲間なんていないだろうけどな。
取り敢えず通りの出口に待機して、と。
……口論終わるの早いな……
愛紗が言い負かされて終わりって感じでいいんだろう、うん。


「えっと……あ、東の通りに逃げるつもりか」


逃げる方向を見て、先回りする。
待ってたら予定通り、華蝶仮面が屋根を飛び越えてやってきた。
そのまま物陰に身をひそめて、次の行動を待つ。


「ふぅ……少々焦ったが、直詭殿が口を挟まなくて助かった」


仮面を外しながら独り言を言ってる。
その瞬間を待ってたんだよ、星。
外してる最中悪いが、話しかけさせてもらおうか?


「星、こんなところで何してるんだ?」

「な、なな、直詭殿?!」


もはや手遅れだよ。
右手に持ってる仮面を今更後ろに隠したところで……


「な、直詭殿こそ、このようなところで何を?」

「それがな?華蝶仮面の後を追ってきたんだよ。見なかったか?」

「み、み、見ておりませんな……」


視線を合わせようとしない。
いつもの星らしくない。
ま、その理由が分かっててこういうやり取りをしてるんだがな?


「……ま、冗談はここまでにして、と。星……」

「そ、そのような目で見るのはやめてくだされ……」

「どおりでこの間の軍議で、口を開かなかったわけだ」

「そのようなつもりでは……」


まったく……
こんなお遊びしてたとか、愛紗あたりにばれたらお説教ものだぞ?
俺はどうするかって?
……どうしたもんかね……


「まさかとは思うけど、まだ続ける気じゃないだろうな?」

「む、むぅ……」

「別に俺も口外するつもりはないけど、やめておいた方が身のためだぞ?」

「脅されるおつもりか?」

「そうじゃない。ただの忠告だ」


軍議に上がるほどの問題になってるわけだし……
そのうちバレるとも思うし……
いつか痛い目に合うとも思ってるし……


「まぁ、続けたいんなら自己責任でやれよ」

「……止められないのか?」

「どういう印象与えてるかは別にして、やってることは間違いじゃないしな。ま、問題が大きくならない程度にはしておけ」


個人的に言うとだな、謎のヒーローって言うのは結構好きなんだよ。
治安に関わるとは思うけど、そこまで馬鹿なことはしないだろうと思う。
第一、星に口で勝てる自信なんてないし、無理にやめさせたって無意味だろうし……


「なら、直詭殿は黙っててくださると?」

「弱みを握ったつもりもないから安心しろ」

「では、その分の礼は尽くさねばなりますまい」

「気にすんなよ」

「そういう訳にも行きますまい。今夜あたり、美味い酒でもお持ちしますので」

「気が済むならそれでいいよ」


まぁ、正直なことを言えばやめたほうがいいだろう。
多分近い将来、痛い目にあうだろうし……
どこまで周りに受け入れられるかもわかったもんじゃない。
さっさと捕まえろって言う声だって上がるかもしれない。


「でも星、本当にほどほどにしておけよ?」

「随分と心配してくださるが、何か思うところでも?」

「まぁ……杞憂で終わればそれでいいんだけどな?」


後は星の責任能力に任せざるを得ないな。
どうせ、今夜一緒に呑むことになるんだろう。
その時にでも危険性を教えてやればいいか……


「では直詭殿、一緒に肴でも選びに行きませぬか?」

「生憎と警邏の途中だ……って言うか、愛紗たちはこっちに来ないのか?」

「東の通りに向かうといっておいたので」

「準備のいい奴だ……」


それに乗せられる愛紗もどうかとは思うが……


「んじゃ、さっさと合流してくるわ」

「お気を付けて」

「鏡に向かって言うんだな」


……何だろうか、面倒事が増えた気がする。











後書き

このお笑い仮面出すか正直迷ってまして……
でもネタに困ったら出そうと思ってました、はい。
つまりはちょっと困ってますw
何か良いネタあればください(オイ



では次話で



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