……なんか嫌な予感がする。
本当にただの気のせいなんだが、何だか……
有体に言えば、これから悪いことが起こりそうな……


「ナオキー、邪魔するぜー」

「……猪々子?何か用か?」


文醜こと猪々子が、ノックも何もなしに部屋に入ってきた。
片手に何か持ってるようだが……


「ちょっと付き合ってくれ」

「何に?」

「いいからいいから。ほら、早く用意してくれって」

「まだ付き合うと言ってないぞ?」


なんか急いでるみたいだけど。
取り敢えず何に連れて行こうとしてるかは言ってほしいところだ。


「急いでるようだけど、とりあえず要件言えよ」

「いやぁ、麗羽様に呼んで来いって言われてて……」

「断る。麗羽絡みでいいことが起きる気がしない」

「そう言わないでくれって。ナオキにも分け前やるから」


……分け前?
一体に何に付き合わそうってんだ?
何の期待もできないんだが……


「いいから詳しく話せ。そんで考える時間も寄越せ。二つ返事で了承できるほど、俺は軽くない」

「……ったく。じゃあまず、コレ見てくれよ」


そう言いながら、猪々子が俺の机の上に紙を広げてきた。
コレは……地図?
なんか隅っこの方に、“項羽”って書いてあるが。


「コレ、項羽の残した財宝の地図なんだよ!」

「項羽の財宝?」

「そう!劉邦との戦いに敗ける直前に隠した財宝の在処が記されてるんだ!すげぇだろ?!」

「……胡散臭ぇ」

「安心しなって!ちゃんと信用できる奴からもらった地図だから」

「……ちなみにどんな奴?」

「いつも一緒に屋台で飯食ってるおっちゃん」


……掴まされたな?
でも信じ切ってるらしい。
てか、こんなんに付き合えと?
この上なく嫌だ。


「んで、宝探しにでも行こうってか?俺は行かねぇ──」

「もう麗羽様も斗詩も準備できてるから、あとはナオキだけだぜ」

「何で俺も一緒に行く前提で話が進んでるんだ?」

「行くだろ?だって項羽の財宝だぜ?」


……忘れてた。
こいつも袁家の一員だった……


「ちょっと猪々子さん?まだ準備は済みませんの?」

「あ、麗羽様」

「……あんまり会いたくない奴が態々来たか……」


麗羽まで来たか……
これ、逃げ道とかあるかな?
何言ったって聞きそうにないし……


「だってナオキ、行かないとか言ってるんですよ?」

「何故ですの?」

「……そんな胡散臭いものに付き合いたくない」

「あら?この私が見たところ、間違いなく本物ですわよ。いいからさっさと準備なさい」


あぁ、それは間違いなく偽物だな。


「そもそも、何で俺が一緒に行かなきゃならん?三人で行って来いよ」

「……?お出かけに鞄を持って行くのは至極当然でしょう?」

「……俺は鞄と?」

「何か違いまして?」


よりにもよって無機質扱いかよ……
これ以上なく行きたくなくなった。
でも相手は麗羽だ。
聞く耳持たない相手をどう言い包めるか……


「早くしてくださいな。私はもう待ち草臥れましたわ」

「そもそも却下だ。麗羽について行って俺に何の得がある?」

「何故拒否なさるのです?」

「いいことがないから」

「おかしなことを仰いますわね。兎も角、直詭さんがついてくることは決定事項ですわ。早くしてくださいな」

「あ、おい……」


言うだけ言って、さっさと部屋を後にする麗羽。
残された猪々子もなんか困った顔してるな。
……いや、そんな顔していいと思ってるのか?


「随分な厄介事持ってきてくれたな……」

「ハハハ……ま、まぁいいじゃん?絶対損はさせないからさ」

「……ハァ、後でごねられても面倒か……」


ついて行かざるを得ないらしい。
恨むぞ猪々子……


「ついて行くにしても、荷物持ちは却下だからな」

「あー……分かった……」











「本っ当にすいません!」

「斗詩さん、なぜ頭を下げるのです?」

「だってぇ……絶対直詭さん迷惑してますし……」

「……もういい。さっさと済ませてさっさと帰る」


ひたすら斗詩が謝ってくれる。
もう十分すぎるくらい謝ってくれたかな。
ただまぁ、本音を言えば麗羽とか猪々子に謝ってほしいところであってだな……
……ま、土台無理な話だが。


「んで?その項羽の財宝が隠されてるってのはこの洞窟でいいのか?」


城を出て歩くこと数時間。
日の向きが随分変わったことから見て、相当な距離を歩いた。
勿論、休み休みだが。
現在俺たちがいるのは、なんか面倒くさいことが起こりそうな予感がプンプンする洞窟の前。
……マジでこの中入る気か?


「地図だとここで間違いないはずですよ」

「なら猪々子さん、先導してくださいな」

「了解〜!じゃ、ナオキ任せた」

「却下」

「えー!」


ここまでついてきただけありがたく思え。
これ以上は本気で勘弁だ。


「直詭さん、早く入ってくださいな」

「麗羽が行けば?」

「万一のことがありましたらどう責任とるおつもりですの?」

「俺には起こっていいのか?」

「然したる問題でもないでしょう?」


キレていい?
そろそろ俺、キレていい?
ちょうど得物も腰に携えてるしさ。


「すいませんが直詭さん、お願いできませんか?」

「……斗詩くらい麗羽が低姿勢なら考えるけどな」


そんなレアな場面が見られたら喜んで前を歩いてやる。
……無いよなぁ……


「……ハァ、話も何も進まないか。ほら猪々子、松明貸せ」

「ほい」

「行くぞ」


面倒だけど、一応先頭を歩く。
洞窟と言うか鍾乳洞と言うか……
天井から滴がポタポタ落ちて来る。
首筋に当たるとさすがに身が縮こまる。


「洞窟の中はどう進めばいいんだ?」

「真っ直ぐでいいだろ?」

「いや……その地図に進路とか書いてないのか?」

「無い」


……非常に帰りたい。
誰か代わってくんねぇ?


「でも、随分と広い洞窟ですね」

「罠とかしかけてあったりな」

「ちょっと猪々子さん、そんな不吉なこと言わないでくださる?」

「だって麗羽様、項羽の財宝ですよ?罠の一つくらいあってもおかしくないでしょ」


俺が思うに、とっくに財宝荒らしにあってると思う。
どんだけ前の人物の話だと思ってるんだ?
てか、ココの地図がある時点で、誰かが見つけてるとか考えないかなぁ……?
言ったところで無意味だと思ったから言わなかったけど……


「何でもいいが、その辺無暗に触るなよ?本当に罠があったら面倒なことこの上ない」

「直詭さんこそ、しっかりと前を向いてくださる?そのようにキョロキョロされては不安──」


──カチッ


「……今の、何の音だ?」

「私の手元からした気が……」

「いやいや、麗羽様が何か押したんじゃないですか?」

「麗羽様……」

「な、何ですの?!」


取り敢えず状況整理すると、麗羽が罠のスイッチを押した、と。
さて、どうしたもんか。
こいつら放り出して逃げるのも手だが……


「なぁ、なんか音しない?」

「ゴゴゴゴ……って、奥の方からするね」

「何かが迫ってくるとか……でしょうか?」

「……なんでお前ら冷静なの?」


もうちょっと焦るとかない?
よくあるパターンだと、大岩が転がってくるとか……
てか、この手のパターンは多すぎて想像がつかない。
何が来るんだろうか……


「ナオキ、前の方照らしてくれる?」

「……こうか?」

「何か、水のような音がしませんこと?」

「……水か」

「思い当たるところでもあるんですか?」

「いや、こういう場合に聞こえる水の音って、大概──」


あ、呑気に喋ってる場合じゃなかった。


「ちょ、ちょっと!すんごい勢いで水が流れてきてますよ!」

「な、何とかしてくださいな直詭さん!」

「あー、無理」

「ちょっとー!!!」











「……………あ」


──生きてた……
悪運が強いのか弱いのか……
取り敢えず、どっかの川に流されたらしいな。
現状、その流れに身を委ねてる状態だし。


「……よっと」


起き上がって周りを見渡す。
川の深さはそれほどでもない。
座って、胸より少し上くらいに水面がある感じだ。


「あ、直詭さーん」

「……斗詩か」

「ご無事でしたか?」

「ま、怪我はない」


川から出たところで、斗詩が駆け寄ってきた。
後ろからは麗羽と猪々子も歩いてくる。
一応は全員無事ってところか。


「まったく……替えの服がなければ大変でしたわ」

「いや、麗羽様……荷物も全部流されちゃいました」

「何ですって?!なら猪々子さん、早く何とかなさい!」

「無理ですって〜……取り敢えず現在地特定しないと……」


森の中なのは分かる。
ただ、それ以上の情報は今のところない。
……いや、ちょっと待てよ?


「(ココ……何か見たことある気が……)」

「兎も角麗羽様、まずは服を乾かしましょうよ」

「そしたら、項羽の財宝に再挑戦だな!」

「えー!また行くのー?!」

「当然ですわ!この私をここまでコテンパンにして、黙っていられませんわ!」


……まだ付き合わされるのか俺?
ま、そんなことは今どうでもいい。
問題は今ここがどこなのか。
ただ、何となく見覚えのある風景だし……


「えっと……?」

「ちょっと直詭さん?私を置いてどこに行くおつもりですの?」


今は無視する。
少し歩いて、いろいろ見渡してみる。
……あぁ、分かった。


「ここ、城の裏の森だわ」

「え、本当ですか?」

「何か見覚えあると思ってな。んじゃ、俺帰るな」

「何を言ってますの?」


……もう解放しろ!
こんな目に遭ったんだ、もう部屋に戻って寝たい!
……でも、解放してくれそうなの、斗詩くらいなもんだよなぁ……


「ナオキ!もう一回挑戦するぜ!」

「行きますわよ!私の輝かしい栄光の為に!」

「すいません!本っ当にすいませぇん!!」


……ハァ、俺は悪運が強いんじゃない。
悪運が強いのはむしろこいつ等だ。
俺はただ単純に、厄介事に巻き込まれやすいだけだ……


「……なぁ、帰ろうぜ?」


俺の願い虚しく、袁家との財宝探しはまだまだ続く……




後書き

ちょっと雰囲気変えてみました。
いやはや、袁家出すとネタに困らなくていいですね(オイ
次話はちょっとロマンチックにして見ようかと思います。
……出来るかは自信ないですが……


では次話で



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