「動ける人はこれで全員ですか?」

「らしいな」

「随分蔓延したわね」

「急激に冷え込んだのが原因だろう。どうする?」

「どうもこうも……皆さんが回復するまで政務の方も中断せざるを得ないです。これだけの人数を欠けば、その埋め合わせをすることも大事ですし……」

「取り敢えず動ける人間は、他の奴らの看病に当たるってことか?」

「ですね。幸い、華佗さんが近くに来ているとの報告もあります」

「なら、動けるみんなで頑張りましょ」

「……ハァ、しっかし、風邪引く時ってこんなに一度に引くもんか?」


秋もそろそろ終わりに近づいてきた今日この頃。
急激に冷え込んで、大多数の人間が風邪を引いた。
今動けるのは、俺も含めて、朱里・紫苑・白蓮と、非常に心許ない。
ちなみに、麗羽の所は斗詩だけ風邪を貰ったらしい。
ただまぁ、麗羽と猪々子を動ける数に入れたくないってのがみんなどこかにあるらしい……


「美以ちゃんは大丈夫かしら?」

「あー、今帰郷してるんだっけ?」

「南蛮の方は気候も温暖ですし、大丈夫かと……」


風邪の病原菌の方が死滅するか。
ま、もともとタフな連中だし、心配はいらないだろう。


「取り敢えず、紫苑は璃々ちゃんの様子見てくれば?」

「いいのかしら……?私だけ……」

「さっきからソワソワしてるだろ。それに、どうせ政務は中断だし、華佗が来るのもそんなに時間はかからない。俺らだけでもなんとかなるって」

「でも直詭、紫苑を欠くと三人だぞ?」

「病人は寝かせとけばいい。それに、程度はそれぞれ違うんだし、よっぽど重症なら付添えばいいけど、あんまり大挙して押しかけても迷惑になる」

「そうですね。もしかしたら声をかけるかもしれませんけど、紫苑さんは璃々ちゃんの様子を見に行っても大丈夫ですよ」

「じゃあ……お言葉に甘えさせてもらうわね」


そう言って、少し早足で紫苑は出て行った。
やっぱり心配だったんだな。


「さて……俺も行くわ」

「行くってどこに?」

「取り敢えず全員の様子見て来る」

「全員を一人で見て回るのか?」

「朱里は政務の調整で忙しいだろ?」

「……実はそうなんです……」

「なら私も行くって」

「白蓮も朱里の手伝いしてやってくれ。付き添わないとヤバい奴がいれば声かけるから」

「大丈夫か?私が言うのもなんだけど、厄介な奴だっているだろ?」

「まぁな。ま、言って聞かないなら相応に考えるから」


……何身震いしてんだよ?
俺そんなにマズイ発言したか?


「調整が済み次第、私たちもお手伝いします」

「ん、よろしく」











さて、と……
まずはこの部屋からにするか。


コンコン


「はぁ〜い」

「入るぞ」

「え?直詭さん?あ、入っていいよ」


まず最初に来たのは桃香の部屋。
よし、ちゃんと寝てるな?
俺が来たから体を起こしたみたいだけど、まぁ大目に見てやろう。


「どうしたの?」

「見舞いだよ。いいから寝てろ」

「お見舞い来てくれたんだ!嬉しいなぁ〜♪」

「寝ろっての」


まぁ、そこそこ元気みたいだな。
程度は軽いのかな?
それだと回復も早いだろうし嬉しいんだけど……


「どのくらい熱あるんだ?」

「ちょっと自分ではわからないかなぁ?」

「ホレ」


手を桃香のおでこに当ててみる。
……んー、まぁ微熱ってとこか。


「どの辺が怠い?」

「やっぱり喉かな?今はマシだけど、咳とかもたまに出るし」

「水分はちゃんと取ってるか?」

「あ、それはまだ……」

「ならついでだし飲んどけ」


コップにお茶を注いでやる。
それを手渡すと、何故かそのまま俺の手を離そうとしない。


「どした?」

「……やっぱり、病気の時って心細いからね?こうやって、直詭さんがお見舞いに来てくれてすごく嬉しくって」

「そっか」

「ねぇ、もうちょっといてくれてもいい?」

「いてやりたいのは山々だけど、風邪引いたのは桃香だけじゃないからな」

「……そっか」


ちょっと残念そうな顔したな。
とは言え、桃香だけ構いっぱなしってわけにもいかないし……
……ったく……


「ほら」

「え?」


出来るだけ優しく頭を撫でてやる。
少し驚いたみたいだけど、何だか表情が穏やかになった。


「また後で来てやるから、大人しく寝てろ」

「……うん!絶対来てね?」

「あいよ」


桃香がお茶を飲んだのを確認してから部屋を出る。
さてさて、こんな感じに他の連中も甘えて来るんだろうか?
……そんなこと気にしてたらキリないな、やめとこう。


「さて、次は……」


次の部屋に向かう。
と言っても、すぐ隣なんだけどな。


コンコン


「……寝てんのかな?」


扉を開けて中に入ってみる。
すると、小さいけども寝息が聞こえてきた。
良く寝てるらしいな。
ちょっと悪い気もするけど、寝顔は確認しておくか。


「……うん、表情も穏やかだし、大丈夫だろう」

「……ん、んぅ〜……?」


あ、起こしたか?


「……………え?ななな直詭殿?!」

「あ、悪い。起こしたみたいだな」

「あ、いや、その、別に構わんが……い、いかがされた?!」

「何を警戒してんだ?」

「べべ、べべべ、別に、直詭殿が急にやってきて寝ている私に疚しいことをしようなどと思ったわけではなくてだな!」

「落ち着け愛紗。病人がそんなに騒ぐな」

「あ……し、失礼した……」

「いや、俺も勝手に入ってきて悪かったよ」


このまま寝かせておいた方が良かったな。
ったく、人を何だと思ってんだ?


「それで?調子はどんな感じだ?」

「あ、あぁ……少し喉がイガイガするが、それ以外は至って問題ない」

「そっか。ちょっと見せてな」

「へ?」


愛紗の返事も待たずにおでこに手を当てる。
んー……桃香より熱いか?
確かに桃香に比べると顔が赤いし……


「ま、華佗が来るまでは寝てろ。病人の務めだ」

「ふふっ、そうだな。では、そうさせてもらおう」

「……おっと。愛紗、水分は取ってるか?」

「先ほど少しお茶は飲んだ」

「なら、いいか。んじゃ、起こして悪かったな」

「いや、見舞いに来てくれて嬉しかった。出来ればその……」

「ん?」

「あ、えっと、その……も、もう少しいてもらえると、嬉しいのだが……」


……愛紗まで?
何で今日に限って俺モテてるの?


「……まぁ、病気の時って寂しいって言う話は聞くけど……愛紗だけ特別扱いするわけにはいかないよ。さっき桃香にもおんなじこと言われたし」

「そ、そうか……」

「……ハァ、そんなに気落ちするなって。後でまた来てやるから」

「ほ、ホントか?!」

「嘘は言わねぇよ。その代わり、大人しく寝てろよ?」

「あぁ、勿論だ!」


なんか急に元気になったな。
まぁ、それならそれでいいか。


「じゃあ、また後でな。おやすみ」

「おやすみ、直詭殿」


次の部屋は、と……
……次もなかなか甘えん坊だぞ?
甘えるの通り越して駄々捏ねるんじゃねぇか?


「……まぁ、スルーするわけにもいかないしな」


コンコン


「誰なのだー?」

「俺だ、入るぞ?」

「お兄ちゃん?」


入ってみると、予想通りと言うかなんというか……
ベッドの上で横になってるのはいいんだけど、ただゴロゴロしてるだけにしか見えない。
ま、暇なんだとは思う。
鈴々だしな。


「どうしたのだ?」

「見舞いに来たんだよ。調子どうだ?」

「別に何ともないのだ。ちょっと喉がイガイガするだけで、寝てなきゃいけないとか暇で仕方がないのだ」

「病人ってのはそんなもんだよ」

「ひーまーなーのーだー!」


やっぱり駄々捏ねてきたよ……
どうすっかな……?


「寝てなきゃ治んねぇぞ?」

「でーもー!」

「……ハァ」


元気が有り余ってるんだな。
とは言え寝ててもらわないと困るし……
んー……


「早く治さないと遊びにも行けねぇぞ?」

「このくらいなんともないのだ!」

「後で痛い目見るぞ?」

「そんなことないのだ!」

「……言うこと聞かないのか?」

「……お兄ちゃん?」


言うこと聞かない悪い子にはどうしてやるかな……


「お、お兄ちゃん?何だか目が笑ってないのだ……」

「鈴々」

「な、何なのだ?」

「早く治る方法があるにはある」

「ホントなのだ?!」

「その代りどっちか選びな。痛い鍼を打つか、苦い薬を飲むか」

「うっ……!ど、どっちも嫌なのだ……」

「なら大人しく寝てることだ。そうすれば、痛いのも苦いのもしなくていい」

「あぅ……」


すっかりしょんぼりしちゃって……
でも、風邪引いてる時に無茶して悪化させる方がよっぽどいい迷惑だ。


「まったく……」


ベッドに腰を下ろして、鈴々の頭を撫でつけてやる。
しょんぼりしたままだけど、俺の方を見上げて来る。
だから、優しい表情を見せてやる。


「病気を治したら、ちゃんと遊んでやるから。今だけ我慢すればいいんだよ」

「……イイ子にしてたら、お兄ちゃん、怒らないのだ?」

「怒らねぇよ。今は病気を治すことだけ頑張ればいい」

「そしたら、遊んでくれる?」

「約束するよ」

「……なら、鈴々ちゃんと寝るのだ!」

「イイ子だ」


今度はしっかりとベッドに横になったな。
ま、すぐに寝れるかは疑問だけど、大人しく寝てれば治りも早いだろう。
もう一度頭を撫でつけて、と。


「じゃあ鈴々、ちゃんと寝てろよ?」

「もう行っちゃうのだ?」

「風邪引いてるのは鈴々だけじゃないし、みんなの事も見ないといけないからな」

「……もうちょっと、一緒にいてほしいのだ……」

「ありがと。ちゃんと後で来るから、大人しく寝てな」

「分かったのだ……」


少しだけ寂しそうな表情だ。
でも、一人だけ特別扱いするわけにもいかない。
後で来るって言ったし、その時は長くいてやればいいな。


「じゃあ後でな」


部屋を後にする。
……ハァ、マジでなぜか今日はモテる。
コレをモテてると言っていいのかは甚だ疑問だが……
まぁ、病気だから人恋しいだけだろう、うん。


「取り敢えず次だ。次は、と……」


星の部屋か。
……逆に想像つかないな。
大人しく寝てるのも、さっきの鈴々みたいなのも、どっちも違う気がする。
まぁ、酒呑んでたらキレるかもしれないけど、それはさすがにないよな?


コンコン


「……返事無し、か」


愛紗みたいに寝てるのかな?
それだと楽でいいんだけど……


「開けるぞ?」


入ってみると、一応は寝てるらしい。
寝息もちゃんと聞こえて来る。
さっき愛紗は起こしちゃったし、このまま起こさないように出るか?


「一応、顔色は確認しておくか」


出口に背を向けてるから覗き込まないといけない。
……頼むから起きるなよ?


「顔色は──」

「──いかがですかな?」


……寝たふりしてたのか。
ホント性質悪い……


「元気そうだな」

「おや?乙女の部屋に無断で入り、揚句にその寝顔を覗き見て、第一声がそれですか?」

「見舞いに来た人間をハメる奴に何も言われたくないんだが?」

「人聞きの悪いことを……それで、いかがでしたかな?私の寝顔は?」

「見れてねぇから何も言わない」

「……随分と突っぱねますな」


心配して来たのに茶化されたらそらそうなるわ。


「んで?」

「具合ですかな?」

「あぁ」

「まぁ、多少喉が痛む程度。熱もさほどないので、すぐに回復するかと」

「一応確認な」

「どうぞ?」


……まぁ、本人の言う通りそんなに熱はなさそうだ。
こんな調子だし、回復も早いかもな。


「んじゃ俺行くわ」

「もう行かれるので?」

「元気そうだしな」

「おやおや……風邪引きの乙女は人恋しいと、直詭殿はご存じないので?」

「知ってるよ?桃香たちの反応見ればそのくらいはすぐ分かる」

「……私が最初ではなかったか」

「あ……それは悪いと思ってる」

「ふふっ、気にされるな。少し言ってみたかっただけ故」

「……まったく、ホント性質悪いな」


でも、普段通りの星が見られたんだ。
本人の言うように症状も軽そうだし、安心した。


「じゃあ星、他の皆も見舞いに行かないとだし」

「分かっております。ただ、また後で来ていただけると嬉しいのですが?」

「……大人しく寝てたらな」

「ふふっ、承知」


星の部屋を後にする。
ま、今のところ皆それ程症状は重くなさそうだ。
ただ、風邪だからってバカにできない。
まだ医学もそこまで発展してないこの時代だ。
風邪を拗らせて死ぬってことも実際にあるかもしれない。


「……ま、それが無いようにこうやって見舞ってるんだけどな」


さて、次の部屋は、と。


コンコン


「ん〜?誰だ〜?」

「俺だ、入るぞ翠」


入ってる見ると、ちょっと意外だった。
鈴々と同じくらい体育会系の翠が大人しく寝てる。
……それはそれでちょっと心配だけど……


「具合はどうだ?」

「んー……ちょっと頭がボーっとするけど、まぁ大丈夫だとは思う」

「ちょっと見せてくれ?」


おでこに手を当ててみる。
……今までの中では一番熱いかな?
いつもみたいな元気がないのも心配だし……


「水分は取ってるか?」

「いや、まだ……」

「ついでだし飲んどけ」

「でも別にいらない──」

「飲んでおけって」

「……分かった」


体を起こさせて、熱めのお茶を飲ませる。
やっぱりどこか怠そうだな。
後で白蓮でも呼んでおくか。


「ふぅ……何だかすっきりした」

「大分弱ってるな」

「こんなこと、普段のあたしならあり得ないんだけどなぁ……」

「病気のせいだって。大人しく寝てな」

「……そうする」

「ま、早く元気になってもらわないと困るしな」

「何で直詭が困るんだよ?」

「気の知れた相手が元気無いのって見てて嫌なんでな。だからさっさと治して、今度遠乗りにでも連れてってくれ」

「……へへっ、直詭ってあんまり乗馬好きじゃなかったよな?」

「ゆっくりならまだ大丈夫だ」

「なら、あたしが世話してる中で、一番大人しい奴に乗せてやるよ」

「そりゃ楽しみだ。じゃあ早く治せよ」

「あぁ……って、どこ行くんだ?」

「ん?風邪引いてるのは翠だけじゃないし、他の奴の見舞いにも行かないといけなくてな」

「そ、そっか……」


……まったく、どいつもこいつも……


「後でまた来てやるって」

「ホントか?!」

「あぁ。だからそんな顔しないで寝ろ」

「……分かった!早く来てくれな!」

「あいよ」


翠の部屋を後にする。
ちょっと心配だし、人を呼んでおいたほうがいいかもしれないな。


「さてさて……次は──」


……あぁ、これも面倒な奴だ。
ま、ここまで来てスルーするって言うのも酷い話だし?
ちゃんと大人しく寝てることを祈っておくか。


コンコン


「……返事無し、か」


取り敢えず入ってみる。
……ちょっと予想外の光景があった。


「あれ?兄様どうしたの?」

「いや、見舞いに来たんだけど……何してんだ?」

「暇だし本読んでるの」

「そ、そうか……」


ちょっと蒲公英のイメージとそぐわないと言うか……
……ま、まぁ、大人しくしてるし良しとしよう。


「具合はどんな感じだ?」

「んーっとね、何となく喉がイガイガするぐらいかな?」

「ちょっと見せてもらっていいか?」

「いいよ」


うん、そこまで熱は無いみたいだな。
翠とはえらい違いだ。


「水分は取ってるか?」

「今欲しくないの」

「でも飲んでおいたほうがいいぞ」

「でも〜……」

「……飲んどけ」

「……うん、兄様が言うなら飲む」


今日に限って随分素直だな。
……実は熱が無いだけで病状は酷いとか?
それは無いと思いたいんだけど……


「ねぇねぇ兄様、今時間ある?」

「構ってやりたいのは山々だけど、風邪引いてるのは蒲公英だけじゃない。他の連中の様子も見に行ってやらないと」

「たんぽぽだけに構ってくれないの?」

「我が儘言うなって。後でもう一回来てやるから、それまで大人しく寝てろ」

「じゃあ、せめてたんぽぽが寝付くまで一緒にいて?」

「蒲公英だけ特別扱いできねぇよ。後で必ず来てやるから、それで勘弁してくれ」

「……ちゃんと来てくれる?」

「ちゃんと来るよ」

「分かった……」


あんまり見ない蒲公英のしょんぼりした顔……
……ったく、どいつもこいつも……


「ほら」

「え?」


少し雑に頭を撫でてやる。


「しょんぼりしてたら治りも遅くなるぞ?」

「そ、そんな顔してないよ!」

「そうか?」

「そ、そうだよ!」


そうそう、ちょっと意地っ張りなぐらいで丁度いいんだよ。
それが見れて少し安心したかな?


「大人しくしてたらまた後で来るからな」

「うん、待ってるから、ちゃんと来てね兄様」

「あいよ」


えっと、次は……?
あー、これもちょっと面倒な気がする……
でも、他の面子に比べれば大人だし、安静にしてる……よな?


コンコン


「誰じゃ?」

「俺。入っていいか?」

「構わんぞ」


入ってみると、頭の後ろで手を組んだ状態で桔梗は寝てた。
まぁ、それなりに暇なんだろうな。


「具合はどんな感じ?」

「少し喉に違和感があるのと、多少頭がボーっとする程度じゃな」

「見ていいか?」

「いいぞ」


許可をもらったので桔梗のおでこに手を当てる。
……うん、少し熱いかな?
ただ、顔色は良いし、そこまで重くないかもしれないな。


「水分は──」

「取っておる。なんじゃ?儂を子ども扱いか?」

「そう言うつもりじゃねぇけど……」

「ハハハ、冗談じゃ。床で休んでおるだけじゃと暇で仕方なくての、少し話相手がほしいと思っておったところでな」

「まったく……ま、案外大丈夫そうだな」

「ひょっとして、皆を見て回っておるのか?」

「まぁな。動ける奴が看病するのは普通だし」

「……で?儂が最初か?」

「そうしたいのは山々だったんだけども……」

「ハハハ、愛い奴じゃの。儂の冗談にそんなに真剣に付き合ってくれるとは」

「……ハァ、風邪引いてる時の方が性質悪いってどういう事だよ……」


取り敢えず大丈夫そう、と。


「んじゃ桔梗、悪いけど……」

「構わんよ。じゃが、また来てくれると嬉しいんじゃが?」

「……先に見てきた奴ら全員から言われてるし、行くとも言ったし、桔梗の所だけ来ないとかしねぇよ」

「なら、楽しみに待っておるぞ?」

「大人しく寝ててくれな」


桔梗の部屋を後にして次の部屋に向かう。
まぁ、次は多分大丈夫だろう。
何て言うか、そこそこしっかりしてるし?


コンコン


「コホッコホッ……誰だ?」

「俺だけど……入っていいか?」

「直詭?入りたいなら入れ」


ったく、相変わらずぶっきら棒な奴だ。
ま、普段と変わりないと思えばそれでいいか。
焔耶が甘えて来るのも想像つかないし。


「どうだ、調子は?」

「……ひょっとして、見舞いに来てくれた、とか?」

「ん?そうだけど?」

「……あ、あ、あり、ああり──」

「どした?なんか顔が急に赤くなったように見えるんだが?」

「ききき気のせいだ!!」


なんかよく分かんないけど……


「取り敢えず、熱がどのくらいか見ていいか?」

「あ、あぁ、別にいい」

「んじゃ」


……うん、さほど熱はなさそうだな。
顔が赤いのが気になるけど、その辺は華佗に任せるか。


「水分取ってるか?」

「あ、あぁ……さっき水を飲んだ……」

「ならいいな。じゃあそのまま大人しく寝てな」

「え……?も、もう行くのか?」

「何かマズいのか?」

「い、いいいい、いやその……!そ、そう!暇なんだ!少し話相手になって欲しくて!」

「落ち着けって……まぁ、構ってやりたいけども、他の皆も見て回らないといけないし、それが終わってからでいいか?」

「……ホントに話し相手になってくれるのか?」

「暇なんだろ?」

「それは、そうだけども……」

「ま、後でまた来てやるから、ちゃんと寝てな」

「……(コクン)」


今日に限って丸いな。
これも風邪の影響か?
まぁなんにしろ、焔耶もそこまで重そうじゃないし良しとしよう。


「そうだ。一応、あっちも見ておくか」


少しだけ寄り道する。
部屋の中からは特に物音は聞こえてこない。


コンコン


「どうぞ」

「邪魔するな?」


ベッドの横には紫苑が静かに座ってる。
んで、そのベッドには璃々ちゃんがすやすやと寝息を立てて寝てた。


「今寝たとこ?」

「えぇ。ひょっとしてお見舞いに来てくれたの?」

「まぁな」

「ありがとう、直詭君。きっと璃々も喜ぶわ」

「まぁ今は寝てるし、また後で来るよ。んじゃ、何かあったら呼んでくれ」

「えぇ、みんなの事よろしくね」


璃々ちゃんもそんなに重症じゃないのかもしれない。
もしそうなら、紫苑がもっと慌ててるだろうし。
……変だな、何でか俺も自分の事のようにホッとしてる。


「……まぁいい、次行くか」


コンコン


「どうぞ」

「へ?」


扉を開けてみると、そこには朱里がいた。
いやあの、政務の調整はどうなった?


「おい朱里、忙しいんじゃなかったのか?」

「忙しいんですけど、こっちもどうしても気になってしまって……」

「……ま、それなら仕方ないか」

「直詭さん?」

「あれ?何で直詭さんが?」


朱里と雛里と摘里は、他よりも大きな部屋で三人で一緒に生活してる。
軍師同士での話し合いとかをする上での効率を考えた結果らしい。
そのお蔭で見舞うのも纏めてできるのはありがたい。


「ただの見舞いだ。朱里、二人の具合は?」

「雛里ちゃんも摘里ちゃんも、そんなに熱は無いと思います。でも、時々咳き込んだりするので……」

「あんまり気を抜いていいわけじゃないってとこか」


ふむ……
ここは朱里がいるし、任せても大丈夫かな?


「あ、そうだ。朱里、白蓮はどこだ?」

「今、水を変えに行ってくれてます。何か伝言でも?」

「あぁ。一応だけど、翠の様子を見ておいてほしい。何となく不安だし」

「分かりました。伝えておきます」

「じゃあ、雛里も摘里も、大人しく寝てしっかり治してくれな」

「え、あの……もう行かれるんですか?」

「直詭さん、出来ればもうちょっといてほしいんですけど?」

「……分かった、後で来たときには長居してやる。それで今は許してくれ」

「ふふっ、やっぱり直詭さん、優しいですね」

「だよね?わちきも直詭さんのそう言う部分が良いなぁって……」

「はいはい。んじゃ朱里、後よろしく」

「はい」


……ふぅ……
女三人寄れば姦しいとは言うけども……
ま、細かいことはいいや。
次行こ次。


コンコン


「誰?入るなら勝手に入って」

「へ?」


何でまたこんな声出さなきゃならんのだ?


「おい、何で詠が起きてるんだよ?!」

「月の看病してるからに決まってるでしょ?」

「いやそうじゃなくて……詠も風邪引いてるんだろ?」

「ボクのなんて大したことないから大丈夫よ」

「……いいから寝ろ」

「だけど──」

「ね・て・ろ」

「うぐっ……!わ、分かったわよ……」


ちなみに、この部屋も相室だ。
月さんと詠が一緒に生活してる。
ちゃんと詠も自分のベッドにいったな?


「ったく……」

「私も詠ちゃんには寝ててって言ったんですけど……」

「病人は病人らしく寝ててほしいもんだ」


ま、ちゃんと寝たしこれ以上は言わないでおこう。


「それで、月さんも詠も具合は?」

「私はそんなに……少し喉が痛むぐらいです」

「ボクもそんな感じ。時々咳が出るけど」

「ま、風邪の引き始めってそんなもんか。で、水分は取ってる?」

「さっき詠ちゃんがお茶をくれました」

「詠は?」

「これから飲むわ」

「なら良し」


……ハァ、流石に疲れてきたな。
一度に見て回る人数じゃなかったか?


「ナオキさん、お疲れですか?」

「そんなことないですよ。月さんたちが早く風邪を治してくれれば、俺も元気になりますんで」

「じゃあ、早く治さないと、ですね」

「……迷惑かけるわね」

「気にすんな。じゃあ、他の人も見ないといけないんでこれで」

「もう行かれるんですか?」

「……後で必ず来ます。すいませんけど、それで許してくれません?」

「早く来なさいよ?」

「分かってる。それじゃ」


えっと……次で最後か?
……あー、斗詩の様子も──
いや、麗羽がごねそうだし悪いけどパスしよう。
流石に疲れてきたみたいだし……


コンコン


「返事無し、か」


取り敢えず入る。
うん、二人ともよく寝てる。


「……んぅ、白石殿……?」

「起こしたか音々音?」

「偶然目が覚めただけであります。恋殿は?」

「よく寝てるよ。音々音ももうちょっと寝たら?」

「少し寝すぎて目が冴えたであります。よければ話し相手になどなってもらえれば嬉しいのでありますが……」

「そうだな……それ、後でもいいか?」

「先約でもあるので?」

「ご名答。そんな訳で、先に他の連中の用事済ませたら来るから、それまで寝ててくれ」

「仕方ないであります。では白石殿、そこの本を取っていただけませぬか?」

「んっと……これか?」

「待ってる間、読書でもしてるであります。次に来るときは、恋殿が起きているときであれば尚いいであります」

「だな。じゃ、また後で来るな」


さて、と……
これで一通り回ったな。
ただ、ここから二週目が待ってる……
……さっきと同じ順番の方がいいかな?


「その前にうがいでもしていこう。風邪うつされたら笑い話にもならないし」











それから約一週間後──


「んーっ!やっと治ったね!」

「大事に至る方がいなくてホッとしています」

「これで思いっきり遊べるのだ!」

「その前に、滞っていた政務を片付けなければならない。鈴々、遊ぶのはその後だ」

「ま、それは仕方ないな」

「えーっ!折角治ったのにーっ!」

「桃香様の為ならワタシはいくらでも頑張ります!」

「威勢がいいの焔耶。その調子で頑張るといい」

「……あれ?朱里ちゃん、直詭さんの姿が見えないけど?」

「あ……直詭さんは今──」

「直詭君の事だから、一足先に仕事してるんじゃないかしら?」

「あるやもしれん。直詭殿はそう言う部分真面目だからな」

「なら直詭さんに倣って私たちも──」


パタパタパタ


「朱里、ちょっといい?!」

「あ、詠さん」

「む?詠、どうしたのだそんなに慌てて?」

「あんたの用事は後!それで朱里、華佗なんだけど、5日は来れないらしいわ!」

「……ではその間、お二人にお願いしてもよろしいですか?」

「無論よ!じゃあボク行くから!」


パタパタパタ


「何を慌てているのだ詠は?」

「あの……実は、直詭さんが……」

「兄様がどうしたの?」

「……昨晩からものすごい高熱で寝込んでおられて……」

「にゃ?!お兄ちゃん、風邪引いちゃったのだ?!」

「そりゃないぜ……あたしと遠乗りする約束してたのに……」

「恋も、遊ぶ約束してた」

「たんぽぽもだよー!」

「鈴々もなのだ!」

「……いや、ちょっと待たれよ」

「星?どうかしたか?」

「……皆、正直に申し出てほしいのだが……直詭殿が見舞いに来た時に、少しでも長く付き合ってほしいと無理を言った者、挙手を」


……………すっ


「え?全員?!」

「ひょっとして、直詭殿の風邪とは……」

「恐らくですけど、皆さんのがうつったのかと……」

「「「「「…………………………」」」」」

「お、お見舞い行ったほうがいいのだ?」

「どんな顔していけばいいんだよ?」

「合わせる顔が無いよねぇ……」

「儂らが我が儘を言ったせいじゃからのぉ」

「ど、どうしたらいいかな?」

「でも、見舞いに行かないのも酷い話だし……」

「か、華佗が来るまでは、安静にしていただこう。そのあと、各々順番にと言うのはいかがか?」

「じゃ、じゃあ、一応それで……」











「ゴホッ!ゲホッ!」

「な、ナオキさん!お水です、どうぞ!」

「すいません……あと、うつるんで部屋の外で……」

「で、ですけど……!」

「月!」

「あ、詠ちゃん!」

「白石の様子はどう?」

「熱と咳が酷いの。やっぱりこれって、私がうつしちゃったんだよね?」

「いや……俺が不用心に風邪引きの皆を見て回ったのが原因──ゲホッゲホッ!」

「あーもう!無理に喋らなくていいから!今何か欲しいものある?」

「うつしたくないから、外にいててくれればいい。何かあったら呼ぶから」

「すぐに呼んでくださいね?!私、すぐに駆けつけますから!」

「ありがとうございます」


……頭がクラクラする。
今飲んでるのって水か?それともお茶か?
てか吐きそうだしこれ以上欲しくねぇ……


「(ここまで酷くなるとは予想外だな……)」


まぁ、うつるんじゃないかなぁとは思ってた。
でもまさかここまでとは……


「……華佗、さっさと来てくれ……これ以上誰かに心配かけたくない……」


大人しくする気以外起きない。
てか、何もする気が無いって言うのが正しい。
今は取り敢えず……


「……ま、皆が元気になったんだ。それで良しとしておこう」










後書き

すいません、本編書く気力がなぜか出ません(滝汗
なのでしばらく短編と言うか、番外編的なものを投稿していこうと思います。
蜀ルートが完結したので、取り敢えずは蜀の面子との日常編が主になるかな?

んで、今月も二週間弱で終わると思うと、ちゃんとしたもの書きたいなぁと思うこの頃……
本編が書けない理由の一つに、オリジナルを制作しているというのもあります。
果たして、そのオリジナルを皆様にお披露目できる日が来るのかは分かりませんが……
今月末にでも、その一部を公開できたらいいなぁと思っております。


ではまぁ、また次話で



押して頂けると作者の励みになりますm(__)m


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