忘れられた向日葵・後編


意識をしていなければ、日数の経つのは早い。
太陽が地平線から顔を出したのは、紫の言っていた3日後。
辺りがうっすらと明るくなるよりも前に、幽香は外の空気を吸っていた。

朝方の空気は澄んでいて美味しいとよく言われる。
ただ、幽香の表情は明らかに曇っていた。
吸い込んだ空気に不快感すら覚えているような、そんな不機嫌そうな表情。


「……………」


空は殆ど雲のない快晴。
にも拘らず、小鳥たちは囀りを聞かせない。
そよ風一つも吹きはしない。
気味が悪い程の静寂が辺りを支配している。
そんな世界に、幽香は明らかに気分を害していた。


「おはようございます」

「……………」


まだ人々が起き出す時間でもないのに、彼女はそこにいた。
銀色の髪が、登り立ての朝日に照らされて眩いほどだ。


「……随分と早いのね妖夢」

「仕事ですので」

「お姫様のお世話はいいの?」

「すべきことは済ませてから来ています」

「……あなたも真面目ね」

「仮にも私は従者です。与えられた使命や任務を全うするのは当然です」

「……ホント、クソ真面目……」


幽香の口調からして、今日最初に会いたかった相手ではなかったらしい。
どうせなら魔理沙のように、少々呑気な方がまだ気が楽だったのだろうか。
妖夢との会話の最中、あまり視線を合わせようとしない。


「幽輝さんは?」

「まだ寝てるわ。今日に限って珍しくね」

「珍しい?確かに今は“人外”ではありますが、元が人間だったならこの時間から起きている方が珍しいと思いますけど?」

「そういう奴なのよ、幽輝って」

「そうですか」

「……特に用事が無いならパトロールでもしてきてくれていいのよ?」

「あなたには用事がありませんが、幽輝さんに用事がありますので」


妖夢のその一言に、幽香は敏感に反応した。


「……幽輝に何の用?」

「答えた方が良いですか?」

「聞かせてもらえると嬉しいのだけれど?」

「あなたには然程関係はありませんが……?」

「……口止めでもされてるの?」

「いいえ、別にこれと言って──」

「なら聞かせてちょうだい」

「……風見幽香、今日のあなたは変ですよ?」

「何が?」


普段の幽香とは明らかに違う。
妖夢はそれを感じ取った。

長い年月を生きてきた妖怪の多くは、その辺の妖怪とは格が違うほどの力を有する。
その力の為か、普段からの振舞には余裕が見て取れる。
……今の幽香には、その余裕が見られない。
焦っているような、怯えているような、大凡大妖怪とは思えないような空気を醸し出していた。


「……失礼しました。屋根を提供しているのですから、あなたにも知る権利くらいはありますよね」

「話してもらえるの?」

「はい。とは言っても、本当にあなたにはあまり関係はありませんよ?」

「構わないわ。話して」

「分かりました」


一度妖夢は辺りを見回す。
気味が悪い程の静寂が覆う向日葵畑の花々は、まるで妖夢の言葉を待ち侘びているかのように黙り込んでいる。
それらを察してか、ゆったりと、静かに口を開いた。


「今日の正午に、紫様から幽輝さんにお話があるそうです」

「知ってるわ。それで?」

「紫様と幽々子様のお二方から、幽輝さんに決断してほしいことがあるそうで、前もってそれを伝えるように言付かりました」

「……何を、伝えるの?」


注意しないと気付けないほど僅かだが、幽香の声は震えているように聞こえた。
恐らくは妖夢はそれに気づいていない。
だからか、そのまま間を置かずに言葉を続ける。


「生か死か、どちらか選ぶようにと」

「──っ?!」

「……どうされました?」

「……………何でもないわ。それよりどういう事?」

「それだけ伝えろとしか聞いていません。紫様が到着されて、幽輝さんの事をお話されることになります。そのお話を聞きながら、考えてほしいと伝えるようにと」

「……………」


不意に幽香は妖夢から顔を背けた。
今の自分の表情を決して見られまいと、体ごと顔を背けた。


「風見幽香?」

「……それは私から言うわ。パトロールに行ってきてくれる?」

「私から言えと言付かっていますので……」

「紫に叱られないようにしてあげるわ。だから私から言う」

「ですが──」

「一人にしてくれない?今、誰の言葉も聞きたくないし、気配すら感じたくないの」

「……随分と身勝手ですね」

「アンタの所のお姫様ほどじゃないでしょ?」

「それには返答しません。ですが……まぁ、分かりました。では」


幽香の気持ちを察したわけではないだろう。
ただ、これ以上の問答が無理だと言うことだけは悟った。
妖夢は一度幽香の表情を確認しようとして、それが無理だと分かるや否や、向日葵畑の入り口へと向かって行った。

残された幽香は、明らかに苛立っていた。
誰に聞かせるでもない独り言が勝手に零れるほどに……


「……あのクソ妖怪……」











「幽香さん、そんなに時間を気にしてどうしたんですか?」

「何でもないわ」

「ですけど……」

「気にしなくていいの。ほら、紅茶が冷めちゃうわよ?」

「え……?まだ淹れてもらったばかりで……?」

「……あら、そうだったかしら?」

「と言うか、幽香さんこそ紅茶飲まないんですか?とっくに冷め切っちゃってますよ?」

「私の事はいいのよ」

「……幽香さん?」


明かにいつもと違う幽香の様子に、幽輝は困惑していた。
いつもの仕事はしなくていいと言われ、そのままお茶に付き合っている。
だが、カップに注いだ紅茶を幽香は一口も飲もうとしない。
幽輝との間にも口数は少ない。
その幽香と言えば、懐中時計を頻りに確認しているばかり……
幽輝からすれば、今この場はかなり居辛い場所であった。


「……あと4分、ね……」

「何かあるんですか?」

「ちょっとね」

「……………」

「何か不満でもあるの幽輝?」

「不満ってわけじゃ……でも、幽香さんが何か考え事してるようには見えて、それが気になっているって言うか……」

「気にしなくていいって言ったでしょ?」

「……はい」

「余計な詮索は身の破滅を招くわ。そんなのは嫌でしょ?」

「……………」

「それでも私に聞きたいことがあるって顔してるわね」

「すいません……」

「人間は好奇心の塊だって話を聞いたことがあるけれど、強ち間違ってないわね」

『どの口がそんなことを言うのかしら』


不意に、幽香たちの会話に乱入者が現れた。
その姿は周りを見渡せど見当たらない。
だからか、幽香にはその声の主がすぐに分かったらしい。


「まだ時間じゃ無い筈よ?」

『出来る女と言うのは相手を待たせないものですわ』


二人の少し前方の空間に線が走る。
その線が開き、中から紫がゆったりとした足取りで現れた。


「お久し振り幽輝クン。息災だったかしら?」

「え、あ、はい。幽香さんのお蔭で……」

「それは何よりですわ」

「それで紫?いつもだったら相手を待たせるくせに、今回に限って何で早めに来たの?」

「早め?時間ぴったりの筈ですわ」

「そんな訳──」


懐中時計を取り出してみれば、確かに時計の針は正午ぴったりを指していた。


「時間なんてそんなものですわ。1秒が長く感じることもあれば、1時間があっという間に感じることもある。私たちのように長い年月を生きてきた者なら、数分なんて一瞬と変わりありませんわ」

「……………」

「あ、あの、紫さん」

「あら、どうかしたの幽輝クン?」

「今日は何か用事があるんですか?オレ、席外したほうが良いですか?」

「確かに用事があって来ましたわ。でも……その様子だと、幽香からは何も聞いていないと言うことでしょうね」

「え……?」


半ば無意識に、幽輝は幽香の方を振り返っていた。
その幽香は、あからさまに視線を逸らしている。


「ねぇ幽香」

「……何よ」

「あなたのその優柔不断……幽輝クンを苦しめることになるわよ?」

「……………」

「もしも待ってほしいなら、5分くらいは待ちますわ」

「……………」

「……残念ですわ」


紫はそう言いながら席に着く。
状況が呑み込めない幽輝は、どこに視線を向ければいいか分からなくなっていた。
時に紫を見て、時に幽香を見て、落ち着かない様子だった。


「さて……幽輝クン、あなた自身の事だけれど……幽香から何か聞いているかしら?」

「いえ、これと言って何も……」

「そう、でしょうね……」

「……紫さん?」

「なら、幽輝クンがどういった経緯でこの幻想郷に来たか……それを説明させてもらっていいかしら?」

「っ!?分かったんですか?!」

「えぇ、大半のことは分かりましたわ」

「じゃあ……っ!」

「けれど──」


幽輝の言葉を、紫は静かに遮った。


「幽輝クンにとっては、あまり知りたくないような……気分のいい話ではありませんわ。それでも聞きますかしら?」

「……はい。オレ自身のことですから」

「ふふっ、分かりましたわ。では、お話しましょう」


紫は一口紅茶をすする。
少しばかり話は長くなるのだろう。
それを理解したからか、幽輝も幽香も急かすような真似はしなかった。


「幽輝クン、ご家族の事は覚えていて?」

「……いえ、全然……」

「実のご両親は、幽輝クンが4歳の頃に亡くなっていますわ。その後、親戚の間を転々とたらい回しにされていたみたいですわね」

「そう、なんですか……」

「あまり恵まれた環境では育ててもらえなかった。そのことには少しばかり同情いたしますわ」

「……すいません」

「謝る必要はありませんわよ。それで……その環境に嫌気がさしたのでしょうね。幽輝クンはある日、家出をしてしまいますの」

「家出?」

「えぇ。まぁ、その時住んでいた家の人たちからも、厄介者として思われていたみたいですわね。幽輝クンの世界で言う“警察”には届けられなかったみたいですわ」

「……………」

「そして……たまたま港にあった船に潜り込んだ。こういうのを、“密航”って言うのだったかしら?」

「随分と悠長に話すのね紫。もっと要所ごとにパッパと話せばいいんじゃないの?」

「……幽香は黙ってらっしゃいな」

「なっ……!?」


不意に紫の言葉に圧力が込められる。
無意識に幽香は立ち上がっていた。
自身の紅茶がこぼれるのもお構いなしに……


「今私は、幽香の尻拭いをしていますのよ?」

「……そんなこと、頼んだ覚えなんてないんだけど?」

「尻拭いされるようなことをしたという自覚はありますのね」

「……っ!」

「話しておくべきことも話さず、幽香自身の我が儘で今日まで至っている。そのことを自覚していて、尚且つそれを幽輝クンに気づかれたくないと思っているのでしょう?」

「そんな訳──!」

「良いからお座りなさい。あまり時間は費やせませんの」

「……どういう意味?」

「それを説明するためにも、まずはお座りなさいな」

「…………………………」


渋々と言った様子で、幽香はその言葉に従う。
呆気に取られていた幽輝だったが、幽香が席について我に返った。


「……続けますわね?幽輝クンが密航したその船……出港してしばらくした後、嵐に遭遇しますの」

「……紫さん、まさかその船……?」

「察しがつきましたかしら。そう、その船は転覆し、乗っていた人々は海へと投げ出された。当然、幽輝クンも例に漏れずに……」

「……だから、ですか?」

「あら、思い当たる節でもありまして?」

「はい。何て言うか、水の音が頭に残ってるんです。その音を思い出すと、何となく息苦しいような感覚にも……」

「……何でそれを私に言わないのよ?」

「あ、すいません。思い違いだったかもしれなかったから、言えなくて……」

「幽香が責められたことじゃないですわよね?」

「……………」

「まぁともあれ、幽輝クンは海難事故に遭ってしまった。海に投げ出された時、たまたま板切れのようなものにしがみ付いて、流れに身を任せて海を漂うことになりましたわ」

「……あ、あの、紫さん……」

「何かしら?」

「……ひょっとして、オレ……もう──」

「ご想像の通り……幽輝クンは、外の世界では死亡していますわ」

「……っ!……あ、ぁ……」

「けれどね?死因は溺死じゃありませんの」

「それってどういう……?」

「たまたま……本当に偶然が重なって、幽輝クンはある島に流れ着いたの。まぁ、島と呼べるほどの大きさもないんですけれど」

「島に?」

「えぇ。ですけれど、辿りついた時には幽輝クンの体力は限界を超えていましたの。起き上がる気力もなく、そのままそこで餓死した、と言うのが実際の死因ですわ」

「……そうですか。オレ、死んじゃってたんですか……」


事実を知ってショックは大きいらしい。
幽輝は項垂れていた。
そんな様子を見て、幽香は何かを言おうとするも、言葉が見当たらない。


「それでね、幽輝クン」

「……はい」

「あなたが幻想郷に行きついた理由、それも教えなければならないの」

「……はい」

「どんな理由があるって言うの?」

「……実はね、幽輝クンが死亡したのは……幽輝クンの世界ではもう50年も前の出来事なの」

「へ……?」

「そう。だから、殆どの人はその事故を忘れてしまっている。忘れられたモノが辿りつくのがこの幻想郷……元いた世界で成仏ができなかった理由は分かりかねませんけど、忘れられたからこそ幻想郷に行きついたの」

「……じゃあ、もう……居場所も何もないんですね……」

「残酷ですけれどね」


幽輝は何とか平静を取り繕うとしている。
それを傍から見ている幽香には、痛々しくしか見えなかった。


「……ねぇ紫」

「なんでしょう?」

「幽輝が能力を得た原因は?」

「恐らくですけれど……この世界に行きついた時、肉体と魂の境界があやふやだったのでしょう。その時たまたま近くにいた亡霊か何かを取り込んで肉体を形成した、と私は考えていますわ」

「私の向日葵の妖力の恩恵が必要な理由は?」

「それも同じこと。取り込んだ亡霊が幽香の能力で生み出された植物のものだったから、と考えるのが自然ではなくて?」

「……………」


大抵の証明は終わってしまった。
幽香から幽輝に投げかけられる言葉はまだ見つからない。
それを把握してか、紫が口を開く。


「幽輝クン、妖夢から話は聞きました?」

「……え?いえ、何も……」

「そうですの」

「あの、大事な話だったんですか?」

「そうですわね。幽輝クンの今後に関係のある話ですもの、大事であることには違いありませんわ」

「……………」

「……幽香。その様子ですと、あなたが口止めしたみたいですわね」

「幽香さん?」

「……………」

「まぁ構いませんわ。あのね幽輝クン、あなたにはどちらか選んでほしいの」

「選ぶ、ですか?」

「えぇ。このまま生きるか、それとも安らかに死ぬか。そのどちらかを」

「……………え?」


幽輝にしてみれば唐突な話だ。
呆気に取られるのも無理はない。
それを分かっていながら、紫は言葉を続ける。


「幽輝クンは本来死亡している身。輪廻の輪の中に戻るのがベストではありますわ。でも、この幻想郷の中で生きたいというのなら、それを受け入れましょう。そう言うお話ですわ」

「……そんな、急に言われても……」

「……では、生きることと死ぬことについて説明いたしますわ」


紫はそこで一度間を置いた。
紅茶を一口すすり、幽輝と幽香にも勧める。
幽輝は促されるがままに口にしたが、味を理解できる状態ではない。
幻想郷で呑んだ紅茶の中でも、初めて“美味しくない”と感じるほどだった。


「まずは死ぬことから。これは即ち、元の世界に帰れると言うこと。新たな命として生まれ変わるまで時間がかかるかもしれないけれど、本来の世界に帰ることが出来ますわ」

「……はい」

「そして生きること。幽輝クンは“ありとあらゆるものを拒絶する程度の能力”を持っている以上、“死”も拒絶することになりますわ。言うなれば、“不死”になったと言うこと」

「不死……でもそれって……?」

「理解が早くて助かりますわ。そう、この太陽の畑から出ることが出来ない。この幻想郷と言う世界そのものが消滅しない限りは、ね」

「…………………………」

「どちらを選んでいただいても、私はそれを受け入れますわ。ですけれど、少々急いでいただきたいの」

「え?な、何でですか?」

「もしも“死ぬ”方を選ぶ場合、外の世界と幻想郷を繋げる必要がありますわ。ですが、異世界同士はそう易々と繋げられない。それに、幻想郷の中のものを“外”に出すことは非常に困難」

「それって、“繋がり”ができたからってこと?」

「幽香の言う通り……幽輝クンは幻想郷に受け入れられた。つまりは、幻想郷と繋がりを持ってしまったと言うことですの。その繋がりを断ち切らなければ、外の世界には帰せない」

「……今ならまだ間に合う、ってことですか?」

「えぇ。幻想郷に来て、まだ2週間余り……これが一月になってしまえば、もうこの世界で生きる以外の道はありませんの」

「……………」

「……幽輝クンには悪いとは思いますけれど、時間的には本当にギリギリ……考える時間を少し差し上げるから、今日この場で答えを出していただけるかしら?」


そう言って紫は砂時計を取り出した。
サラサラと砂が下に落ちて行くのが見て取れる。


「10分……これが今の私に待てる限界……」

「……あの、紫さん」

「何かしら?」

「幽香さんと二人きりで話しても良いですか?」

「……構いませんわ。では、私は一度席を外しますわね」


そう言うや否や、紫は異空間へと消えて行った。
残されたのは幽輝と幽香の二人。
難しい表情をしている幽香に対し、幽輝はどこか爽やかな表情をしていた。


「……何でそんな顔できるの?」

「……何でですかね?」


幽香の問いに、はにかんで答えて見せた。
流石の幽香も驚いたが、悟られまいと平静を装う。


「それで?私と二人きりで話って何?」

「……お礼が言いたくて」

「お礼?」

「はい」

「……まさか、もう決めたの?」

「はい」

「自分自身の運命に関することなのに?」

「はい」

「幻想郷は全てを受け入れるというのに?」

「はい」

「……………」

「もう、決めました」

「……悔いはないの?」

「ありますよ?数えきれないくらいたくさん……」

「なら──」

「──でも」


幽輝は真正面から幽香に向かい合った。
その表情は、確固たる決意が滲み出ているようで……
……どこか、寂しげで……


「過去の記憶が全くないから、だからこそ言えます。幽香さんに出会えて嬉しかった」

「……………」

「この嬉しいって気持ちを持ったまま、オレはあるべき場所に帰りたい」

「……私が──」

「……はい」

「……もしも私が……ここに居てほしいって言っても?」

「……はい」


最後の返事は、とても優しい口調だった。
今になって幽香は、幽輝の瞳に涙が溜まっていることに気づいた。


「……そう」

「この数日間、本当にありがとうございました」

「あっそ。なら、とっとと帰ったら?」

「……はい」

「……ねぇ」

「……それはダメです」

「まだ何も言ってないわよ」

「分かりますから」

「……あっそ」

「だって……泣くのは男だけでいいでしょ?」

「私が泣くとでも思ってるの?」

「泣いてくれないんですか?」

「……バーカ」











幻想郷に風が吹く。
穏やかな秋風だ。
向日葵たちも自分の季節が終わったのを感じている。
夏に比べれば元気が無いように見える。


「ふふっ、まだ寂しいの?」


幽香が語り掛けても、向日葵たちは返事を返さない。
そんな向日葵を見て、幽香もどこか寂し気な笑みを浮かべる。


「……ホント、あのクソ真面目。この子たちにまで寂しい思いさせるなんて……」


優しく向日葵を撫でる。
その瞳は、うっすらと潤んでいるようにも見える。


「……今度会ったら、どうしてやろうかしら」


誰に聞かせるでもない独り言。
向日葵たちは、慰めるようにそよいでいる。
クスリとはにかんで、幽香は空を見上げる。


「私もあなたを受け入れたわよ?いつでも来なさいな。紅茶、用意しておいてあげるから……ね」



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