「新しいパイロットが来るんですって、三人も」

「うん。アキトがいれば充分なのに」

 食堂で将棋を指しながら会話するユリカとエリス。近くの席ではウリバタケがエステバリスの0G戦フレームに興奮している。デスティニーとグリードは地上 だろうが無重力だろうが関係ない。海中だけは無理だけど。エリスは興味なさそうにお茶を啜りながら駒を打つ。

「艦長はアキトくんと仲良いのね〜」

 パチン。

「勿論! だってアキトは私の王子様なんだもん!」

 パチン。

「幼馴染だっけ? ふ、若いわね」

 パチン。

「む〜……エリスちゃん、私より年下でしょ!」

 パチン。

「まぁね」

 パチン。

「はい、王手飛車取り」

「はぅあ!? 待った!」

「これで4回目よ?」

「艦長命令です!」

「はいはい……」

 呆れつつ駒を戻すエリス。ユリカは先程と違う手を打つが……。

「はい、田楽刺し」

「しょえええええええええ!?」

「ホウメイさ〜ん。ミソ田楽作ってちょうだ〜い」

「はいよ」

 顔を真っ青にして盤を見つめるユリカに苦笑しつつ、ホウメイは早速、調理にかかる。

「あ、ウリちゃんウリちゃん」

「は! 何でございましょう!?」

 先程まで怪しい笑みを浮かべていたウリバタケは唐突にエリスに呼ばれると、立ち上がってビシッと敬礼した。

「肩揉んで」

「はい! ありがたき幸せ!!」

 シュバッと忍者みたいにエリスの背中に回り、肩を揉み始めるウリバタケ。

「う、う〜……エリスちゃん、待……」

<艦長。もうすぐ、間もなくL2のコロニー、サツキミドリ二号に到着します。至急、ブリッジにお戻りください>

 突然、ブリッジからメグミの通信が入った。ユリカはパァッと表情を輝かせると、席から立ち上がり、ビスィッとエリスを指差して高らかに言った。

「エリスちゃん! この勝負、引き分けね!」

「はいはい」

「勝負はまた次の機会よ! 首を洗って待ってなさい!」

 そう言うとユリカは逃げるように食堂から出て行った。

「首を洗ってね〜……でも、その前にお絞りで手を拭いてミソ田楽を頂きます、っと」

 お絞りで手を拭き、エリスは運ばれて来たミソ田楽を食べる。チラッと将棋盤を見ると、見事な田楽刺しだった。



機動戦士ガンダムSEED Destiny〜Anothe Story〜 IN ナデシコ

PHASE−04  ルナマリアVSリョーコ




<どうしたどうしたぁ!? もう終わりか〜!?>

 一方、シミュレーションルームでは、ガイとアキトが模擬戦を行っていた。その戦い振りは終始、ガイが圧していた。ガイは、口やかましくて暑苦しいけど、 パイロットとしての腕は一流のようだ。ただし、一対一に限る。多人数相手だと目立つ事ばかり考えていて、すぐに取り囲まれたりするのが欠点だ。

<だぁ〜! 何で俺がこんな事しなきゃいけないんだよ!?>

<パイロットたるもの、日頃の訓練が重要だろうが!!>

<俺ぁパイロットじゃなくてコックだ〜!!>

 その様子を見ていて、シンが目を細める。

「シン、あの人……」

「ああ、分かってる」

 ルナマリアも同じ事を思っていたのか、シンは組んでいた腕に力を込める。前々から感じていた。アキトは戦う事を恐れ、嫌がっている。この世界の戦闘兵器 を操るには、IFSというナノマシン処理を施さなくてはいけない事が分かった。普通はパイロットだけに施されるものだが、火星生まれのアキトは、ごく当た り前にIFSがあるらしい。

 戦闘パイロットが不足しているナデシコで、アキトのように戦える人間は貴重だ。もし、自分達がいなくても同じ事を言っていたのだろうか?

<お前、まだそんなこと言ってんのか!? 戦えるなら戦わなきゃいけないだろうが!!>

 ガイもシン達と同じ事を思っているのか、アキトに向かって怒鳴る。

<俺は軍人でも戦いが好きな人間でも無いんだよ!!>

 そう叫ぶと、アキトのエステバリスが撃墜されて模擬戦は終わった。シミュレーターから出ると、アキトは不機嫌そうにその場から去って行く。

「おい! アキト! 待てよ!」

「うっさい! 先、部屋戻ってるぞ!」

 ガイが引き止めるのすら聞かず、アキトは歩く。そして、シンとすれ違う際、尋ねられた。

「戦いたくないんですか?」

「………俺はコックだ。君達もいるんだから、無理に俺が戦う必要は無いだろ」

「確かに……戦いたくない人を無理に戦わせても足手まといにしかなりませんから」

「っ!」

 足手まとい、と言われてアキトはカチンとなってシンに振り向く。が、シンに睨み返され、アキトは退いた。

「貴方、前に言いましたよね? 火星を助けたい、って……それは、どういう形で助けたいんですか?」

「それは……」

 ひょっとしたら生き残れたかもしれない人達を、と言いかけるアキトをシンが遮る。

「じゃあ、料理で敵と戦って助けてあげて下さい」

 そう言い、シンは去って行く。ルナマリアは、しばらくアキトとシンと見比べ、シンの後に付いて行った。

「シン、あんな事言って……」

「だって腹立ったから……ほら、俺達が初めて会った頃のアスランって、あんなんだったじゃん」

 己を偽り、守り、戦えるだけの力を持ちながら、それを使わず後悔ばかりしていた。まぁ、とある人物のお陰で、随分と吹っ切れたが。

「戦いたくない、なんて当たり前だろ。俺だって、戦いなんか好きじゃない。でも、戦えるのに戦わず、何かを失って後悔する方が、もっと辛い事だから……」

「………そうね」

 シンの言葉に頷き、二人は自分の部屋に戻って行った。




「後一分で、コロニー見えます」

「ディストーションフィールド解除。停泊準備」

 ルリの報告に続いてユリカが指示を出す。

「こちらは軌道戦艦ナデシコ。サツキミドリ二号、聞こえますか?」

 メグミがサツキミドリ二号と回線を開くと、軽いノリの声が返って来た。

<こちらサツキミドリ二号、了解……いや〜、可愛い声だねぇ>

「これより停泊します。準備の方は?」

<OK! OK! 任してくれ……>

 そこで通信が途切れると、モニターに映っていたサツキミドリ二号が一瞬、光り、コロニーのあちこちで爆発した。

「え!? 何!?」

「コロニー方向より衝撃波来ます」

 そうルリが言うと、ナデシコが大きく振動した。一瞬、モニターの映像が乱れるが、ユリカは努めて冷静に指示を出す。

「被害状況を確認」

「発生源、前方のサツキミドリ二号からです」

「………本艦はそのまま前進」

「フィールドジェネレーター第二区画付近に中程度の破損」

 ルリは、ナデシコの図面を映し出し、被害を知らせる。

「さっきまで……交信してたのに………さっきまでお喋りしてたのに……」

 目を潤ませながらメグミが震える声で呟く。つい先程まで通信していたサツキミドリ二号の通信士は、あの爆発に巻き込まれたかと思うと、彼女の気持ちも分 かる。

「メグミちゃん、生存者がいないか気を付けて」

「あ、はい!」

「ジェネレーター、すぐに点検を。周囲の状況確認は、そのまま続行」

 指示を出しながらも、ユリカは、こんな混乱している状況で敵に襲われたら圧倒的に不利だと内心、不安だった。




 その後、中破したジェネレーターを調べに行ったジュンが、小型の脱出カプセルを発見し、それが蛻の殻だったので、艦内全体に警戒警報が鳴り響いた。

<乗組員に緊急連絡! 何者かが本艦に侵入した模様! 全員、認識コードの送信を確認! 艦内補修班は作業続行! 他の乗組員は持ち場を維持せよ!>

「と、言われてもね〜」

 ジュージューと香ばしい匂いが漂う食堂にて、エリスはゴートの放送を聞きながらボヤく。一口サイズの球形、それが素早く球状に出来るかどうかで、上手い か下手かハッキリする日本の関西を発祥とし、古くから伝わる料理、たこ焼きを作りながらエリスがボヤく。

「アンタ、オオサカ出身?」

 まるで店で働いてたと思わせるぐらい、素早くたこ焼きを引っ繰り返して、焼いていくエリスを見て、ホウメイが尋ねる。

「ううん。ただ、本見て書いてた通りにやってみただけ」

 サッサとたこ焼きを三個ずつ刺して、トレイに乗せ、ソースと青海苔、そして鰹節をかけて出来上がり。湯気が立ち昇り、とても美味しそうだ。

「にしても、侵入者の方は良いのかい?」

「此処に来たら私がボコってやるわよ」

 新しい生地を流し込み、刻んだタコを落としながら答えるエリス。ホウメイは、「頼もしいね〜」と呟きながら出来立てのたこ焼きを食べた。




 アキトは、一人、銃を持ちながらゲキガンガーを見ていた。ガイは、まだ帰っていない。彼は、自分よりも年下のシンに、『どんな形で火星を助けたい?』と 問われ、それが、ずっと頭に引っかかっていた。

 最初はコックになりたかった。火星育ちの彼は、ただ地球の料理は美味いから、それだけの理由だった。二年前の第一次火星会戦により、ユートピアコロニー のシェルターに避難していたアキトは、そこへ木星蜥蜴が攻めて来た。避難民を逃がそうとしたが、逆にやられそうになった。その後、気がついたら地球にい て、食堂に雇って貰い、働いた。が、戦闘が始まると、火星で襲われた時の光景が蘇り、悲鳴を上げてしまう事で、クビになった。

 その後、偶然、幼馴染のユリカと出会い、彼女が火星から去った直後に両親が殺されたので、彼女に真相を問いただそうと追いかけてナデシコに来た。そし て、そのまま成り行きでコック兼エステバリスのパイロットにされてしまった。

「(戦いたくなんて……無いのに)」

 地球を守るヒーローのゲキガンガーを見ながら思う。子供の頃は、他の男の子同様、ヒーローに憧れていた。けれど、なれなかった。火星のシェルターにいた 時、配っていたミカンを上げた少女を思い出す。あんな小さな女の子一人、守れなかった。ヒーローになんかなれなかった。

「俺……何やってんだろ」

 何がしたいのか? 火星で何を、どう助けたいのか? アキトは分からなくなっていた。

 その時、ゴトッと天井裏から音がした。アキトはハッとなって体を起こす。ふと侵入者がいる事を思い出し、通風孔から天井裏という、まぁ何ともベタな侵入 方法を考えた。銃を天井に向け、警戒する。

<ジョーーーーーーッ!!!>

 スクリーンから、キャラの叫び声が響くと、突然、天井裏から泣き声がした。

「ふぇええええええん!!!」

「は?」

 すると、通風口が外れて、少女が落っこちてきた。

「どわぁ!?」

 真上に落ちて来て、アキトは悲鳴を上げる。落ちて来たのは、茶髪に眼鏡をかけた少女で、パイロットスーツを着ていた。豊満で柔らかい感触を感じつつ、ア キトは恐る恐る視線を上げると、少女は大声を上げて泣いていた。が、ふとアキトに気付いて体を起こす。

「あぁ! ゴメンなさい、ゴメンなさい! 大丈夫ですか!?」

 アキトを抱え起こす少女だったが、ふとゲキガンガーに目を移すと、彼を落っことす。そして、再び涙を流す少女を、アキトは珍獣を見るような目で見る。

「やっぱジョーって最高ですよね!?」

「え!?」

 いきなり話を振ってこられ、戸惑うアキト。

「私、つい最近ゲキガンガー3ってアニメを知ったんですよ〜。それで見たら、もうモエモエ〜って感じで!」

 キラキラと目を輝かせてウットリする少女。

「久し振りに昔取った杵柄で同人誌作ってコスミケ出しちゃおうかな〜、なんて事まで考えたりしたんですぅ」

「は、はぁ……じゃなくて……アンタ誰? どうしていきなり落ちてきたの?」

「あっ、そーですよね! いやー失敬失敬!」

 笑いながら答える少女に、アキトは、どうすれば良いのか分からない。

「もー! ツッコンでくれなくちゃ! 『今時、失敬はない!』だとかぁ〜」

 ボケが流されちゃって照れながらデコピンする少女。アキトは乾いた笑いを浮かべるしかなかった。




「側面に機影を確認。敵は四機」

 ふとルリは、ナデシコに向かって来る四機の機影を確認したので報告する。

「フィールド、いけますか?」

<ダメダメ! ジェネレーターは、後、十分はかかるよ!>

「五分でお願いします」

<艦長>

 そう、ウリバタケに言うと、突然、ルナマリアから通信が入る。彼女はパイロットスーツを着ており、どうやら自分の機体に乗っているようだ。

<私が出て、ナデシコを防御しましょうか?>

 この前のように、グリードのアマノイワトならナデシコを陽電子リフレクターで防御する事が出来る。グラビディブラストのような重力砲は無理だが、それ以 外のビームや実体弾に対しては、ディストーションフィールド以上の防御力を誇っている。

「ちょっと待って! アレは……」

 ユリカは、ルナマリアの出撃を止め、拡大された機影を確認する。

「エステバリスの0G戦フレーム!?」

 モニターに映ったのは、補充される新型のエステバリスだった。

「味方なら識別信号を送って来る筈だ」

 ゴートが至極、当たり前の事を言うと、ミナトがそれに続ける。

「乗っ取られてる?」

「いいえ、識別コードを忘れているだけ」

 が、ユリカがそれを即座に否定した。

「何故、そんな自信タップリに?」

「ホラ、あれを!」

 モニターには、戦闘のエステバリスが牽引するツールボックスと繋ぐワイヤーに、白い布が巻かれていた。

「ワイヤーに目印……牽引する時の基本だな……が、それは車の話だ!」

「木星の蜥蜴が、あれくらいお茶目だったら良かったのにね〜」

 ミナトが苦笑しながら呟くと、エステバリスはナデシコに収容された。



 ユリカ、ジュン、ゴート、そして念の為に銃を持ったクルー二人を連れて格納庫へ入ると、既にシンとガイが入って来たエステバリスの前にいた。

「あ、艦長」

「シン君、どう?」

「出て来るみたいですよ」

 クイッとエステバリスを指差すと、コックピットのハッチが開き、リフトに乗ってパイロットが降りて来る。メットを取ると、エメラルドグリーンの短い髪の 少女の顔が露になった。

「ぷはぁ! たまんねーぜ! ったくよぉ〜」

 ボヤきながら、少女はヘルメットをユリカに投げ渡す。ユリカ達は出て来たのが、女だったので呆然となっている。

「おい! まず、風呂! それから飯な!」

「ほい」

「あん?」

 ふと横から良い匂いのするたこ焼きが差し出され、少女は眉を顰める。いつの間にか、エリスが来ており、爪楊枝を口に咥えて笑顔で立っていた。

「お腹減ってるならどうぞ?」

「お! 悪ぃな」

 少女はニカッと笑って、たこ焼きを口に運ぶと美味しそうに食べる。

「あ、あの……貴女、名前は?」

「(もぐもぐ)人に聞く時は、まずテメーからだ」

「あ、私はミスマル・ユリカ。本艦の艦長です」

 ユリカが名乗ると、少女は意外そうに彼女を見る。

「ふ〜ん……アタシは、スバル・リョーコ。で? 風呂、何処?」

 たこ焼きを全て食べ切ると、少女――スバル・リョーコが尋ねるのが、ゴートが尋ね返す。

「エステバリスの0G戦フレームは全部で四機だけか?」

「格納庫の残骸の中に、まだ一機残ってるがな……流石に全部は持ち切れなかったぜ」

「後の二人のパイロットはどうした?」

「さぁな。生きてるんだか、おっ死んでるんだか…」

 と、その時、格納庫の扉が開き、アキトと眼鏡の少女が入って来た。

「生きてるよ〜!!」

「うぇ!?」

 何で、もうナデシコの中にいるのか、リョーコは盛大に驚く。

「どうも〜! 私、パイロットのアマノ・ヒカルでぇ〜す! 蛇使い座のB型、18歳! 好きなものはピザの端っこの固いトコと、ちょっと湿気たおせんべで 〜〜す!! よろしくお願いしまーす」

 眼鏡の少女――アマノ・ヒカルはハイテンションで自己紹介し、頭を下げると、ピーっと頭につけていた玩具を吹いて伸ばす。それを見て、リョーコは呆れて 頭を押さえた。

「あ、あれ? 面白く無かったですか?」

 ちっとも反応が無いので、ヒカルが尋ねると、ユリカ達は苦笑いを浮かべて答える。

「「「「い、いいえ……」」」」

 ただ、もうどう反応して良いのか分からなかった。

「甘いわね。どうせやるなら、これぐらいやらなくちゃ。ね、艦長」

「ほへ? ひょえええええええええ!?」

 その時、ポン、とユリカの肩をエリスが叩く。振り向くと、目の前にガイコツがドアップで現れて悲鳴を上げた。

「わ、凄い……」

 カタカタカタと笑うエリスを見て、ヒカルは素直に感動した。

「二人残りゃ上等か……」

<勝手に殺さないで……>

 すると、リョーコの腕につけている通信機から、突然、か細い声が上がった。

「イズミちゃん!?」

 その声を聞いて、ヒカルは駆け寄って来て、リョーコの腕を掴む。

「生きてたんだ!? ねぇ、今、何処!?」

<それは……言えな〜い。それより……ツールボックス、開けてみて>

「「??」」

 そう言われ、リョーコとヒカルは顔を見合わせるが、リモコンでツールボックスを開いた。すると、白煙の中から、苦しむような女性のシルエットが出て来 た。

「く、く……あはははははは!! はぁ、空気が美味しい……」

 長い前髪をかき上げ、女性は笑みを浮かべる。呆然となる一同を他所に、リョーコが思いっ切りツールボックスを閉じようとすると、女性が踏ん張る。

「ちょ……駄目、いや〜!! お願いだから絞めないで……サバじゃないんだからさ……ぷっ! あははははは!」

「…………コイツもパイロットのマキ・イズミ。以下略」

 一人で笑い悶える女性――マキ・イズミを紹介し、皆、苦笑いを浮かべた。

「ん? な、何じゃこりゃあああああああ!?」

 その時、リョーコが格納庫で横になっているデスティニーとグリードを見て、驚愕の声を上げる。グリードのコックピットからは、ルナマリアが顔を出して キョトンとなっている。

「デカ!? っつか、何だよ、この機体!? エステバリスじゃねぇのか!?」

「私達の機体が最新型じゃなかったの?」

「それはMSっていう、全く違う人型兵器よ。IFSの必要も無い、相転移エンジンと核エンジンのハイブリットエンジン搭載の機体よ。重力下、無重力でも対 応できる凡用型。しかも、装甲は実体弾をほぼ無効化出来るものを使用。運動性は、少なくともエステバリスの数倍ね。パイロットは、そこのルナマリアと…… コイツ」

 クイッとシンを指差して説明するエリス。リョーコは、チラッとシンを振り返ると、ジトっと睨み付けながらズカズカと歩み寄って来る。

「な、何だよ?」

「…………勝負しろ」

「は?」

「俺と勝負して、俺が勝ったらお前の機体、寄越せ!」

「はぁ!?」

 いきなり、とんでもない事を言い放つリョーコに、シンは驚きの声を上げる。

「お前みたいなガキに、あんな機体、もったいねぇ! 俺が有効に使ってやる!」

「何、勝手なこと言ってんだよ!? そんな事、出来るか!」

「だから勝負しろっつってんだ! 強いものが、より優れた機体に乗るのは当たり前だろ!」

「無茶言うな! 大体、アンタの機体と俺の機体じゃ、勝負になんないだろうが!」

「じゃ、シミュレーションで勝負すれば?」

 と、そこでエリスが割って入った。

「シミュレーション? でも、シミュレーターにデスティニーとグリードは……」

「暇だったんで、データだけ作っといたりして〜」

 そう言い、データディスクを取り出すエリス。シンは、表情を引き攣らせる。

「確かにスバルさんの言う事も一理ある。優秀なパイロットが、強い機体に乗るのもね。じゃあ、こうしましょう。MSのサイズをエステバリスに合わせ、機動 性も落とす。そして、スバルさんと戦って貰うのは……ルナマリア!」

「は?」

 突然、ルナマリアを指名するエリスに一同が呆然となる。本人も目をパチクリさせている。

「言っとくけど、シンの腕はルナマリアよりずっと上よ。だから、ルナマリアと勝負して負けたら、諦めがつくでしょ?」

 そう言われ、リョーコは「なるほど」と笑みを浮かべて納得する。

「良いぜ。勝負してやる!」




「何で、こうなるのかしら……」

 シミュレーターに乗りながら、ルナマリアがボヤいた。エリスは、デスティニーとグリードの設定をエステバリスに合わせるよう調節している。

<体長も機動力もエステバリスにまで落としたから、決めるのはパイロットの腕の差。スバルさんも、これなら文句ないでしょ?>

<おおよ!>

 やる気満々なリョーコ。もうルナマリアも、なるようになれだった。やがて、調整も終わり、模擬戦が開始される。ステージは、小惑星群だ。

「(うわ!? デブリ!?)」

 苦手なステージに設定され、ルナマリアは冷や汗を垂らす。

<感覚は普段と一緒だから、サイズとか気にしないで戦えるわよ。尚、相転移エンジン無しの、核エンジンだけだから>

「(それって……)」

 感覚は同じで、核エンジンだけ。つまり、使い易くなっている、という事ではないかとルナマリアは思った。別にディストーションフィールドが使えなくて も、陽電子リフレクターを使えば問題ない。

 そう考えていると、アラートが鳴ってハッとなり、振り返る。すると、背後から赤いエステバリスが銃口を向けており、銃弾が飛んで来る。が、グリードは陽 電子リフレクターを発生させて防ぐ。

<な、何だそりゃあ!?>

「えっと……この機体の特殊装備。ビームも実体弾も防ぐんだけど……」

<ちょ……んな卑怯なもん使うな!>

「ひ、卑怯って……」

 装備をフルに使うのは別に卑怯でも何でも無いと思うルナマリア。

<うおりゃああああああああ!>

 一方、リョーコはディストーションフィールドを拳に纏わせて突っ込んで来る。もう卑怯とか、そういう問題じゃない。ルナマリアは、ハァと溜息を零すと、 グッと目を細め、ビームランスを抜く。

「(模擬戦だったし、随分と忘れてたわね……)」

 一年前、自分達が体験したのは異星人と無人機による戦いではない。ましてや、模擬戦でも無い。人間と人間による、命の奪い合いだった。向こうは、恐らく 模擬戦だから死ぬ事は無いと思い、安心しているだろう。それは、戦闘において、死に直結する。ルナマリアは、一年前の戦争のような気持ちで、リョーコが 突っ込んで来るのを見定める。そして、紙一重で避けると、エステバリスの胴体を真っ二つに切り裂いた。

<な……!?>

「言っておくけど、シンは本当に私より強いわよ」

 驚愕するリョーコに笑みを浮かべて言うと、彼女のエステバリスは爆発した。




「うん、予定通り」

 ルナマリアの勝利を見て、エリスはニコッと笑いながら呟く。それが聞こえたシンは、「どういう事ですか?」と尋ね返す。

「あの子、この一年で随分と腑抜けちゃってたみたいだから、これで勘を取り戻して貰おうと思ってね。後、あのスバルさんって勝気だけど、一度、完敗させる と素直に言う事聞いてくれるタイプみたいだし、これをバネに立ち直ってレベルアップしてくれたら一石三鳥でしょ?」

「…………おみそれしました」

 てっきり楽しんでるだけだと思ったが、シンは実際、そこまで考えていたエリスに感服した。

「にしてもシン……アンタ、やっぱり本質は戦士じゃない? 遺伝子、解析してみる?」

「勘弁して下さいよ……今のルナとステラ、それに子供達と一緒に暮らしてる生活に満足してるんですから」

 確かに、この前、久し振りの実戦をしたが、腕に衰えは感じなかった。自分の本質が戦士である事を感じずにはいられない。が、今更、デスティニープランの 話題を出されても乗り気にはなれない。

「で? どっちか選ぶ気は?」

「は?」

「ルナマリアもステラも、今の生活が幸せだと思ってるんだろうけど、本当は早くアンタに答えを出して欲しいんじゃない? どっちが……ね」

「どっちって……」

 シンがエリスから視線を逸らすと、彼女はクスッと笑う。

「偏見かもしれないけど、人の幸せって好きな人と結婚して、子供作って、平穏に暮らす事じゃない? 私は、もう無理だけど……アンタ達は出来るでしょ?」

「無理って?」

「だって私が好きだった人、死んだからね……正直、複雑よ。最愛の男性が、最愛の弟と戦って、死ぬのは」

 その言葉に、シンはハッと目を見開いて驚愕する。エリスは、ポリポリと頭を掻きながら、苦笑いを浮かべると、ポンとシンの背中を叩いた。

「男だったら、ちゃんとハッキリしなさいよ。あの子達なら、どっちを選んでも恨んだりなんてしないだろうから」

 そう言われ、シンは目の前にいる少女と、今は此処にいない自分の帰りを待ってくれているであろう少女を思い浮かべた。




 〜後書き談話室〜

ルリ「禁断ラブ?」

エリス「良いじゃないの。だって私の周りにいる男って言えば、全員、兄か弟なんだから」

ルリ「ところで何でたこ焼きを?」

エリス「作者が食べたいと思ったから」

ルリ「…………作者の都合ですか」

エリス「にしても、やっぱ、何だかんだでルナマリアもやるわね〜」

ルリ「あのリョーコさんを一蹴……」

エリス「忘れてた? 彼女も赤なのよ」

ルリ「…………敢えて台詞には突っ込みません」

エリス「ナデシコはSFと恋愛の物語。シンもどうなるか見物よね〜。若者の青春メロドラマを生で見るのは楽しいわ〜」

ルリ「バカばっか……」


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