「つまり、とっとと帰れと？ そういう事かな？」
アキトとメグミが地下で謎の人物に会った後、そこには火星で木星蜥蜴から生き残っていた人々のコロニーに連れて行かれた。当初、アキトは歓喜し、彼らに
地球に帰れると意気揚々と叫んだが、誰もそれに同調しなかった。
そして謎の人物は言った。『無事に火星から脱出出来ると誰も思っていない』と。それにメグミは、自分達は現にこうして火星まで来たと憤慨したが、謎の人
物――女性科学者、イネス・フレサンジュは、相転移エンジンとディストーションフィールドを考案した科学者の一人だと明かし、アキトが心配でナデシコごと
ユートピアコロニーまで追いかけて来たユリカに呆れつつも、イネスをナデシコのブリッジに迎え、生き残った人々は、地球に帰る気が無いと告げ、冒頭のフク
ベの言葉が出た。
「ええ、私達は火星に残ります」
イネスの言葉に、皆が――プロスペクターやエリス達も戻って来て、合流した――眉を顰める。
「ナデシコの基本設計をして、地球に送ったのはこの私……だから、私には分かる。この艦では木星蜥蜴には勝てない。そんな艦には乗る気にはなれないわ」
ハッキリと言い切るイネスに、ゴートが言い返した。
「お言葉だがレディ。我々は常に木星蜥蜴との戦闘に勝利して来た。だから我々―――」
「ハァ……いい事？ あなた達は木星蜥蜴について何を知っていると言うの？」
「アレだけの高度な無人兵器がどうして造られたか、目的は、火星を占拠した理由は？」
「信じてくれないのか！？ 俺達を！」
アキトの叫ぶような問いかけに、イネスは冷笑を浮かべて返した。
「君の心、解説してあげようか？ 少しばかり戦いに勝って、可愛い女の子とデートして、俺は何でも出来る……」
「んなっ！？」
「若いってだけでなんでもできると思ったら大間違いよ。誰でも英雄になれるわけじゃ―――」
「少なくとも……」
そこで初めてエリスが割って入った。イネスは、チラッとエリスを見る。
「木星蜥蜴とかいう奴らの目的は推測出来るわ……」
その発言に、皆、驚愕した表情を浮かべ、彼女に注目する。
「火星、月、そして地球……彼らは領土的野心よりも、地球人類の抹殺に重点を置いている。火星を占拠しても、彼らは無人兵器を配備するだけで、火星に何か
の建造物を築いた訳でも無い……何故、突如、地球人類を抹殺しようとするのか？ そこまでは分からないけど、彼らの技術力は、決して地球人類より進んでい
るとは思えない。それは、あのチューリップから現れる無人兵器を見れば明らかよ」
そこでエリスが目を閉じると、皆、彼女が本当に言いたい事が理解できなかったが、イネスだけは理解出来たようで笑みを浮かべる。
「へぇ……随分と聡明なお嬢さんね。状況だけで、そこまで推測出来るだなんて……それと、あのチューリップの秘密に気付いている様ね。なら、分かるでしょ
う？ この艦では、到底、脱出は無理だと？」
「フレサンジュさん」
と、そこへユリカが声を上げた。しばし無言で視線を交わすユリカとイネス。が、突如、警報が鳴り響いた。
機動戦士ガンダムＳＥＥＤ Ｄｅｓｔｉｎｙ〜Ａｎｏｔｈｅ Ｓｔｏｒｙ〜 ＩＮ ナデシコ
ＰＨＡＳＥ−０８ 英雄
「敵襲！ 大型戦艦５、小型戦艦３０！」
「グラビティブラスト、フルパワー！」
ルリの報告を聞いてモニターに敵の艦隊が映ると、ユリカはすぐさま指示を飛ばす。
「フルパワーＯＫ」
「グラビティブラスト、エネルギーチャージ」
「てぇーーーーっ！！！」
ユリカの号令と同時に発射されるグラビティブラスト。閃光に包まれる木星の艦隊。
「やった！ ……って、えぇ〜！？」
歓喜の声を上げたのも束の間。光が収まると、そこには全く無傷の木星の艦隊が尚も接近して来た。
「グラビティブラストを……持ち堪えた？」
呆然と呟くユリカ。
「敵もディストーションフィールドを使用している。お互い、一撃必殺とはいかないわね」
「４０ｋｍ前方、敵チューリップより敵戦艦、尚も増大中」
すると、チューリップから更に巨大な戦艦が続々と現れる。
「なっ、何よアレ？ 何であんなに入ってるの？」
明らかにチューリップよりも巨大な戦艦が出て来るので、驚きを隠せないミナト。それにエリスが答えた。
「アレは中に入ってるんじゃない……送り込まれてるのよ」
「そう……あの沢山の戦艦は、きっと何処か、別の宇宙から送り込まれてくるのよ」
それに続いてエリスが言う。皆が、呆然と彼女らの説明に聞き入っている間にも不利な状況は更に不利になる。
「敵、尚も増大中！」
「敵のフィールドも無敵ではない。連続攻撃だ！！」
「はっ、はい！ グラビティーブラスト、スタンバイ！！」
ゴートの言葉でハッとなり、ユリカはミナトに指示を出すが……。
「無理よ！」
「え！？」
「無理よ、此処は真空ではないから。グラビティーブラストを連射するには相転移エンジンの反応が悪すぎる」
「くそっ！ じゃあ、ＭＳで……」
「無理よ」
ブリッジから駆け出そうとするシンを、エリスが引き止める。
「デスティニーとグリードのエンジンは核と相転移のハイブリットエンジン。けれど、真空状態じゃない地上では、相転移エンジンは上手く機能しない。雑魚な
らともかく、ディストーションフィールドを持つ戦艦相手じゃ無理よ」
今、出て行ってもたとえ、シンやルナマリアが出ても蜂の巣にされるのがオチだ。エリスが出ても無理だと自分自身で、そう判断した。
「ディストーションフィールド！！」
「待ってください！」
「待って！」
ユリカの指示を慌ててメグミとイネスが止める。
「今フィールドを発生させたら、艦の真下の地面が沈んじゃうじゃないですか！！ そこには、イネスさんの仲間が！！ 生き残りの人達がいるんです！」
「た、直ちにフィールドを張りつつ上昇！！」
「ゴメン！ 一度着陸しちゃった以上、離陸にはちょっと時間がかかるの！」
ミナトがすまなそうに言う。
「敵艦、上方に周り込みつつあります」
「！！」
「チューリップからも……尚も敵艦増大中」
次々と追い込まれるナデシコ。ユリカは呆然と立ち尽くし、そこへイネスが問う。
「フィールドを張るか、敵の攻撃をこのまま受けるか……？」
「提督、艦長には重過ぎる決断みたいですね……」
「うむ……此処は……」
フクベがユリカに代わって指示を出そうとした時、メグミが叫んだ。
「でも、アキトさん、約束したんです！！ 絶対に助けるって、絶対に連れて帰るって、皆に約束したんですよ！！ それなのに……」
「アキト……」
その間にもナデシコは完全に包囲され、上昇する事も出来ない。
「迷っている時間は無い。構わん、自動防御だ」
「艦長命令がまだです」
ゴートの指示をルリが、それで一蹴する。皆、黙ってユリカを見つめる。
「敵艦に重力波反応」
すると、敵艦の先端が光り始め、誰もが直撃すればナデシコは一瞬で消し飛ぶと理解した。その時、アキトは振り返り、ユリカの決断に全て任せると、目線で
訴えた。そして、ユリカは静かに口を開き、ディストーションフィールドが展開された………地面を押し潰して。敵の攻撃は、雨のように降り注いだ。
「火星にチューリップが降って来た、あの日。私達の運命は決まっていたのかもしれない……フィールドを張っていなくても、この攻撃……」
降り注ぐ敵の攻撃の雨を見つめながらイネスは呟き、振り返ってユリカに言った。
「どちらにせよ、あなた達は英雄にはなれなかった、という事ね」
すると、ユリカは「うっ！」と口を押さえ、デスクに手を突いた。
「ユリカ！？」
「フィールドを維持して後退……敵との距離を取った後、反撃してください……それから……」
ユリカは懸命に指示を出すのであった。
「くそっ！！！」
何とか敵の包囲網を抜け、安全圏に達すると、廊下でシンが壁に拳を叩き付けた。エリスとルナマリアは、黙ってシンを見つめる。
「まただ……俺は、また誰も救えなかった……！」
「救う？ 私達の目的は元の世界に帰る事よ。火星で逃げ遅れた人々を救う事じゃないわ」
「っ！」
エリスの冷たいその一言に、シンは振り返り彼女の襟を掴んで睨み付ける。
「シン！」
慌ててシンとエリスの間に入るルナマリアだったが、エリスは冷たい目でシンを見つめ返して言った。
「全ての命を救う事なんて神でもない限り出来ない……あんた達は、前の戦争で、それが分かった筈よ」
「！？」
「彼らは地球に帰る事を拒み、木星の勢力内である火星に残る事を選らんだ。もし、アキトの言う通り、ナデシコに早く乗っていれば、もう少しだけ長生き出来
たんでしょうけど……」
イネスの言葉どおりだとしたら、どちらにしろナデシコは火星からは脱出出来ない、という事だ。地下の人々がナデシコに乗っていようが乗っていまいが、結
果は変わらないかもしれない。
「シン、アンタはこの世界を救いたいの？ それとも元の世界に帰りたいの？ 目的を見失い、ただ状況に流されるままになったら、どうなるか……そんなの分
かり切ってるでしょ？」
シンは、唇を噛み締め、エリスから手を離した。エリスは襟を正すと、その場から去って行く。
「もし、全ての命が救えるなら……私達は、あの時、９７人の兄弟を犠牲になんてしなかったわ」
シンは、ギュッと拳を握り締める。エリスだって辛い筈だ。救えたかもしれない命を救えなかった事は。それでも彼女は、感情を抑え込み、ただ目的を達成す
る為に行動している。自らの出生、１００年近く前の惨劇、そして兄と弟の殺し合い、それら全てが、彼女らの心を強くした。だが、シンは彼女みたいに強くは
なれない。
不意に、シンは自分を心配そうに見つめていたルナマリアを抱き締めた。突然、抱き締められ、驚きを隠せないルナマリアだったが、震えるシンの肩を見て、
ポンポンと背中を叩いた。
「アンタは人一倍優しいんだから……エリスさんみたいにならなくても良いの……辛い時は、私も泣いてあげるし、嬉しい時は、私も喜んであげる……だか
ら……ね？」
「ルナ……ごめん」
シンは顔を俯かせ、ルナマリアの肩に埋めた。
＜＜３，２，１……どっかーん！！＞＞
突如、脈略も無く始まった奇妙な映像。
＜＜なぜなにナデシコ！＞＞
画面には緑の帽子に、オレンジのオーバーオールを着たルリと、ウサギの着ぐるみを着たユリカが出て来た。
＜お〜い、皆！ 集まれ〜！ ナデシコの秘密の時間だよ〜！＞
＜集まれ〜＞
超乗り気なユリカに対し、ルリは台詞棒読みのやる気なし。
＜皆は、どうやってナデシコが動いているのか知ってるかい？＞
＜え〜！ ボク、知らないや〜！＞
突然、流れ出した幼児番組っぽい映像を見て、ゴートが駆け足でブリッジから飛び出して行く。
「か、可愛い……じゃなくてぇ〜！！」
「ゴロニャ〜ゴ！」
「うわぁ？！」
「おっす！！ じゃじゃ○さんだぞ！」
ユリカに見とれていたジュンだったが、突然、奇妙な猫の着ぐるみを着たエリスに迫られ、椅子から飛び上がった。その後ろには、ネズミとペンギンの着ぐる
みを着たシンとルナマリアが恥ずかしそうに突っ立っている。
「何やってんの！？ 何を！？」
「何って……超有名なマスコットキャラよ」
「また、作者の年齢がバレるようなコアなネタを……」
「いや〜。懐かしいからつい……艦長に、コレで登場して貰おうと思ったんだけど、何か大人の都合とかで、イネスさんに拒否られて」
「そりゃ拒否るよ……」
ガクゥッと肩を落として項垂れるジュン。
＜まぁ、それはいい質問ね＞
ジュンとエリスがコントしている間にも番組は進む。
＜じゃ、ナデシコの相転移エンジンについて説明して上げましょう。さ、こっち＞
＜え？ あ、ちょ……＞
何故かシナリオと違い、台本を読むユリカ。
＜この中で最も位置エネルギーが高いのはどれか分かる？＞
三つの高さの違う水槽の絵を見せて尋ねるルリ。
＜え〜っと……どれだか分かんないや〜。何しろボク、ウサギだし〜＞
＜そ。一番高い所のこの水槽ね＞
＜え？＞
＜丁度、この水槽はビッグバン直後における宇宙のエネルギーの……＞
＜ちょっと、ホシノ・ルリ！！＞
そこで、カットの声が響いた。
「ナデシコの良い子達が見てるのよ」
ビデオを撮っていたイネスがカットし、ルリに説教する。
「台本通りおやりなさい。ハイ、ニッコリ、こっち向いて！ おねぇ〜さん」
「…………馬鹿」
そう言って振り返ったルリの頬は、ほんのりと赤かった。
「あはは……ドンマイドンマイ！ リラックスだよ、ルリちゃん！」
「さぁ！ 続きからいくわよ！」
「いく必要は無い」
続きを取り始めようとしたイネスだったが、突然、ゴートが入って来た。
「この馬鹿騒ぎの理由は何だ、フレサンジュ？ 敵のグラビティブラストの直撃を受け、現在エンジンは出力低下。フィールドは弱まり、重力圏を抜ける事も叶
わず、パロディに出来る状況では無いと思うが？」
「私の帰る場所を奪ったのは、あなた達でしょ？」
辛らつなイネスの言葉に対し、ユリカが瞳を潤ませてゴートに迫る。
「イネス先生を叱らないでください！ イネス先生は私が取った行動をクルーの皆に弁護してくれるおつもりなんです！」
言ってる事は真面目だが、ウサギの着ぐるみ着て言われても説得力が無く、ゴートは表情を引き攣らせる。
「私は……私は……」
「「バカ」」
そこで、イネスとルリの言葉がハモる。
「許すも許さないもないでしょ。あの状況じゃ……それに、何て言うのかな？ 私は……」
そう言い、イネスは自分の胸に手を当てた。
「私、此処がちょっと人と違うみたいなのよね」
その行動に何故か、ちょびっとゴートが頬を染める。
「あ、勘違いしないでね。ハートがって意味」
「変わってるってのは分かるけど？」
「私、８歳以前の記憶が無いの。８歳って言うのもそれ位って意味。私、火星の砂漠で拾われたの。だからなのかなぁ、今が本当の気がしないの。悪いけど死ん
だ人も、貴女も私にとっては、余り興味が無いって訳で……じゃ、続けましょ」
「…………はぁ」
艦長が現在、テレビ出演中なので、代わりに艦長席に座ってる――というか、立っているのに疲れた――エリスは、唐突に溜息を吐いた。
「どうしたの？」
隣に座っているジュンが不思議そうに尋ねると、エリスは遠い目をして笑みを浮かべる。
「そういえば最近、静かだな〜と思ってたんだけど、ガイは？」
すっかり忘れていたが、あの暑苦しい男がいないので何かが足りないと感じていた。
「ヤマダだったら、火星に降りる時、壁に激突して、あちこち骨折したから現在、医務室だよ」
「彼、怪我してばかりね」
「その内の一つは君の裏拳が鼻の骨を砕いたんだろ？」
「遠い過去の話よ」
フッと黄昏つつ、モニターを見るとハッと目を見開いた。
「ちょっと！ アレ、何！？」
「え？」
エリスがそう叫ぶと、ジュン、ミナト、メグミも目を凝らしてモニターを凝視する。そして目を見開いて驚愕した。モニターには、かつて彼らの目の前から消
えた戦艦が映っていた。
「反応は？」
「今、相手から識別信号が来ました。記録と一致しています」
ゴートが尋ねると、メグミが信じられないといった様子で答えた。ブリッジには、アキトとイネス以外の主要メンバーが集まっている。二人とも、先程、呼ん
だからすぐに来るだろう。
「では……アレは紛れも無く」
「でも、おかしいです。アレが吸い込まれたのは地球じゃないですか。護衛艦、クロッカスはチューリップに吸い込まれたのに……」
モニターには吹雪の中、沈黙しているクロッカスが映っていた。
「どうして……火星に」
「前にも説明した通り、チューリップは木星蜥蜴の母船ではなく一種のワームホール、あるいはゲートだと考えられる。だとしたら、地球でチューリップに飲み
こまれた船が火星にあったとしても不思議ではないでしょう？」
いつの間にか来ていたイネスに説明され、皆、信じられないと言った表情を浮かべるが、チューリップから巨大戦艦が出てきた事を考えれば納得がいった。シ
ンとルナマリアは、顔を見合わせ、ひょっとしてアレが、自分達がこの世界に来てしまった原因なのかと考える。
「じゃあ、地球のチューリップから出現している木星蜥蜴は、この、火星から送られてきているということか？」
ゴートがそう尋ねると、ミナトがそれを否定する。
「そうとも限らないんじゃない？ だって、同じチューリップに吸いこまれたもう一隻の護衛艦……え〜と何だっけ？」
「パンジー」
「そうそれ。その姿は無いじゃない。出口が色々じゃあ、使えないよ」
「「「「お〜」」」」
その意見に、皆、驚きの声を上げる。確かに、ワームホールを実用すれば、時間短縮にはなあるが、出口がランダムでは、とても戦争に利用出来ない。
「ヒナギクを降下させ、艦内の生存者を探します」
「その必要は無いでしょう。我々には別の目的がある」
ユリカの提案を、プロスペクターが即座に却下した。
「でも、生存者がいる可能性も……提督」
ユリカがフクベに向くと、彼は頷いた。その時、アキトが駆け足で入って来た。
「あ、あのっ！！ 俺、聞きたい事があるんですけど……」
「何をやっている？ 今頃、ノコノコと……」
ゴートの咎めを無視し、アキトはキツい表情でフクベへと歩み寄って行く。
「提督、第一次火星会戦の指揮とってたって……」
「まぁまぁまぁ！ 昔話は、また今度にでも……」
アキトの心境を察したプロスペクターが二人の間に入るが、ユリカが意外そうな声を上げた。
「フクベ提督があの会戦の指揮とってたなんて、誰でも知ってるわ。おかしいわよ、アキト？」
「そうさ、知ってる……初戦でチューリップを撃破した英雄……でもその時……火星のコロニーが一つ消えた！！」
そこでアキトの脳裏に火星で見た最後の光景がフラッシュバックする。
墜落したチューリップ。
まだ幼いミカンを上げた少女。
その直後、迫り来るバッタの群れ。
燃え上がるシェルター……。
「う、うあああああああああああああああああ！！！！！！！」
突然、叫び声を上げ、フクベに掴み掛かろうとするアキト。
「あんたが、あんたが、あんたが、あんたがあああああっ！！！！！！」
今にもフクベに殴りかかりそうなアキトだったが、その腕を突然、エリスが掴んで止めた。
「離せ！！！」
「や〜よ」
男のアキトなら、エリスの細腕ぐらい簡単に引き離せると思ったが、予想以上に握力の強いエリスの腕はビクともしない。
「年寄り殴るなんて駄目よ。そんな事しても死にはしないわ」
「「「「「は？」」」」」
てっきりアキトを止めたのかと思った一同は、エリスがニコッと笑顔を浮かべて、とんでもない事を言ったので目が点になる。エリスは、スッとアキトに銃を
差し出す。
「この人の指示の所為で故郷が滅んじゃったんでしょ？ だったら、この場で殺しなさい。な〜に、邪魔する奴は私が止めてあげるから♪」
「ちょ、ちょっとエリスさん！ 何言って……シン？」
エリスを止めに入ろうとするルナマリアだったが、シンに止められた。シンは、ジッとエリスとアキトの事の成り行きを見守る。
「ただし……」
スッと目を細め、鋭くさせるとアキトは、ビクッと震えた。
「それで貴方の気が晴れなかったら、貴方は只の人殺し……もし、気が晴れたら何もしないけど、そうじゃなかったら、私が貴方を殺す。復讐心も無いのに人を
殺した貴方は、死によってでしか償われない」
エリスに言われ、アキトは銃を手にすると、フクベに向ける。フクベは何も言わず、黙ってアキトのする事を見守る。アキトは震えながら、引鉄に指をかけ
る。
「う……ぐ……！」
「どうしたの？ 殺したい程、憎いんじゃないの？ 故郷にチューリップを落としたんでしょ？」
「う……！」
「それとも何？ 殺して気が晴れないって分かってるの？ じゃあ私に殺されるのが怖いのかしら？」
「ち、違う！！ 俺は……俺はコイツを………！」
「じゃあ早く引鉄引きなさいよ」
そこで再びアキトはビクッと硬直する。エリスは呆れ果てて溜息を零した。
「やれやれ……殴るのは良いけど、殺すのは嫌？ 甘いことほざいてじゃないわよ、このガキがっ！！！」
エリスは怒鳴ると、アキトの襟を掴むと、思いっ切り背負い投げた。床に叩き付けられたアキトは、呻き声を上げながら気絶したのであった。
「来た」
モルゲンレーテ社のヘリポートに立つキラ、アスラン、カガリ、ムウ、ステラ、メイリン。アスランが呟くと、ヘリが一機、降り立った。風が彼らの服と髪を
靡かせながら、ヘリの扉が開く。
「エリシエル……先輩？」
「あら、皆さん。久し振り」
アスランが呆然と呟くと、皆、エリシエルの腕に抱かれている赤ん坊に目がいく。後から出て来たリサも、まぁ当然だろうという表情で目を閉じた。
「こ、子供出来たんですか……おめでとうございます」
笑顔を引き攣らせながらも祝いの言葉を述べるキラに、エリシエルは「ありがとう」と答える。
「エリシエル。リサからも聞いたと思うが、アークエンジェルが……」
「やぁやぁやぁ。随分と大変な事になったようだねぇ〜」
「「「「「！？」」」」」
すると、更にヘリから別の声がしたので、皆、目を見開く。降りてきたのは、白衣を靡かせ、銀髪を束ねた青年だった。青年は笑顔を浮かべ、彼らの前に立
つ。
「せん……ぱい……」
アスランは呆然と、青年に言った。
「何で手にガラガラとでんでん太鼓持って、頭にネコミミ付けてるんですか？」
「いや、赤子が泣くのでね……シリアスに登場しようと、勝負下着を穿いてきたんだけど、無駄になってしまったよ、ハッハッハぶっ！」
両手にガラガラとでんでん太鼓を持ち、頭にネコミミを付けながら、爽やかにズボンに手をかけようとする青年をエリシエルが笑顔を浮かべながら顔面に蹴り
を入れる。青年は派手に転がり、ブルブルと震えながら呟いた。
「ど、読者が待っていた私の登場シーン……こんな扱いかよ……」
「いや、実に兄さんらしいと思いますよ」
彼――レン・レヴィナスの姿を見て、皆、変わっていない。この人は全然、変わってないと確信した。
〜後書き談話室〜
レン「読者諸君！ 待たせたね！ 超容姿端麗、超才色兼備な元主人公！ レンくんだ！」
ルリ「はて？ データでは、変態変質変人最悪腹黒駄目人間主人公とありますが？」
レン「世間の風は冷たいものだ」
ルリ「こんなのでも父親になれる時代なんですね」
レン「ハッハッハ！ 美しいお嬢さん。中々、キツいね」
ルリ「登場を散々、引っ張った挙句、折角の登場シーンが情けなさ過ぎですね」
レン「ふぅ……天才とはいつの世にも理解されんな」
ルリ「レンさんもですが、エリスさんも割りと厳しいですね。アキトさんを、あそこまで追い詰めるなんて。本当に撃ったらどうしたんでしょう？」
レン「姉さんの事だから、きっと弾を抜いて……」
エリス「え？ ちゃんと六発全部、装填してたわよ」
レン「はっはっは！ 流石は姉さん！ ぐっじょぶ！」
ルリ「バカばっか……」
押して頂けると作者の励みになりますm(__)m
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