第壹章    荒唐無稽な学園ライフを送るには?


「・・・・・で、お前はどうするんだよ」

 俺・・・後藤敬介はさっき自分の事を死神だと名乗った目の前の少女に問いかけた。

「どうするって?そりゃ勿論、後藤と一緒にいるよ?」

 ・・・一体どこまでついてくるんだこいつは・・・。俺の部屋を出てからずっとついてきやがる。

「なんで俺が見ず知らずのお前の面倒なんぞ見なきゃならんのだ!」

「いいじゃな〜い!大体、あんたとあたしはもうお互いを知らない仲じゃないんだしぃ。私の事ユングって呼んでいいからさぁ〜」

「うるさいわい!ご近所様が誤解するような言葉を吐くな!それに、俺はこれから学校なんだよ!それをお前みたいのがうろちょろしてたら、気が散ってしょう がねぇ・・・」

「えぇ〜?あたしの姿ってあんた以外に見えないんだよ?それでもダメなの〜?」

 俺は頭を抱えると、彼女・・・ユングに言った。

「それこそ大変だろうが!お前の姿が見えないのに、お前の言葉に一々反応してたら、俺はその瞬間から可哀想な人になってしまうではないか!」

 俺の言葉を聞いて、そいつは一瞬考えるようなそぶりをすると、目を輝かせていった。

「それじゃぁ、みんなにあたしの姿が見えればいいわけでしょ?そんなの簡単じゃな〜い!」

 そう呟くと、やつの体が眩い光に包まれる。

「な・・・なんだってんだ!?」

 俺はあまりの眩しさに目を開けていられなかった。光に向かって手をかざし、とりあえず事態を把握しようと躍起になるが・・・光はより強くなり、何も分か らなかった。

「ふぃ〜・・・っと、これでどう?」

 光が収まった向こう側に・・・俺は信じられないものをみた。

「お・・・おま・・・そ、その格好は・・・」

「どう?似合うかな・・・望大栗高校の制服」

 やつが今身に纏っているのは、先ほどまでの黒衣ではなく、望大栗高校の女子生徒が着る一般的な制服へと変わっていたのだ。これには驚いた・・・。そし て、そこで俺はある一つのことを思い出した。さっき、こいつが自分で言っていた事である。

「まさかお前・・・」

「そ。そのまさかよ。実体化して、あんたの通う学校の生徒として、あんたと一緒にいるからそのつもりでいてね〜。はぁ・・・一回でいいから、学園生活って やつを満喫してみたかったのよねぇ・・・」

 やつは両手を頬に当て、まるで夢見る少女のような眼差しで虚空を見つめていやがった。

「だぁぁぁぁっ!な・・・・なんだって、てめぇはそう俺を困らせようとするんだ・・・・」

 俺が頭を抱えて悩んでいると、ポンポン、と肩を叩かれた。

「まぁまぁ、これも何かの縁って事で諦めなさい」

 彼女は俺に向かって微笑みながらそう言ってきた。

「・・・・・って、それでかたがつく問題でもねぇだろうが!!」

「あ・・・ばれた?」

「ばれた?・・・じゃねぇぇぇぇぇ!!!」

  俺はそれから大分憂鬱な気分を抱え、学校への道を歩いていくのだった。二人そろって・・・・。だぁぁぁぁっ!俺が何したっちゅうん じゃぁぁぁぁ!!

















 学校に着いた・・・。俺の通う望大栗高校・・・まぁ、ありていに言ってしまえば望龍山大学・・・通称望大の付属学校である。

 この学校で大過なく過ごせれ ば、大学へエスカレータ式にいける上に、何と授業料がそこいらの私立と比べるとべらぼうに安い。

 公立高校の授業料にちょいとお足をつけたぐらいで、世の公 立高校生が夜なべして予備校だの通って大学行こうとするよりも断然お得なのだ。

 お金をかけずに大学に行かせるなら、この高校が一番だろう。望龍山大学と て、そこそこ名の通った・・・まぁ、二流三流である事は否めないのだが・・・といった大学へ進めるのだ。

 勿論競争率も自然と高くなり・・・一時期倍率二十 五倍とまで言われた超難関校である。

 まぁ、現在は少子化と世間を襲う不況の波に伴い、志願率は減少しているが、それでも倍率は十倍といわれている。

 まぁ、 そんな所に俺はうまい具合に受かり、一年とちょっと・・・大過なく過ごしてきたはずだ。

 まぁ、酒も煙草も覚えたのはこの高校に入ってからであるし、気の合 う仲間と一緒に居酒屋にも行った。

 その後も一緒に幾度か行ったが、幸か不幸か・・・未だに誰も学校や警察に捕まった奴らはいない。

「ねぇ・・・あれって、二年の後藤敬介よね?」

「・・・あの横にいる女の子って誰だっけ?」

「だぁぁぁっ!し・・・信じられん・・・何故あんな野郎にあんな可愛い彼女が・・・・」

「まぁ、彼ルックスはいいからねぇ〜。でぇも大胆よね〜。男女二人そろって遅刻してくるなんて・・・」

 などなど・・・自分がどんな目で見られてたのかがはっきりと分かったが・・・こうもあからさまに言われちゃ、こっちとて気が滅入る。

「なぁ、すまんが・・・俺と一緒にいても楽しい学園生活なぞ送れんだろうから、この後はお前一人で行けよ」

 いつの間にか、俺と腕組んで歩いていたユングに向かって、言った。

「いいのよ。あたしはあんたに興味を持ってこの学校に一緒に来たんだから、あんたと離れちゃ意味がないじゃない」

 こいつはさも当然のように言うが・・・俺としてはこの状況を早く何とかしたかった。

「ん?・・・はっは〜ん・・・さてはあんた・・・」

 横のユングは俺を見上げながら、意地の悪い視線を投げつけると、こうのたまった。

「あんた、こんな超絶美少女のあたしと腕組んで歩いてるのが恥ずかしいっての?」

 俺はその台詞を聞いたときどんな顔をしていたのだろう・・・。恐らくよっぽど酷い顔をしていたのだろう。

 呆れたような・・・まるで苦虫をかみ締めたよう な・・・まぁ、そういった類の顔だったに違いないだろうが、何を勘違いしたのか・・・恐らく、沈黙を肯定と受け取ったのだろう。

 俺の隣にいる奴は満足そう に頷く。

「それにしても・・・お前、手続きとかどうするんだよ。いきなり学校来ても、お前の学籍なんてないぞ?」

 俺は至極全うな事を言ったつもりだ。しかし・・・こいつはさらっと恐ろしい事を口走りやがった。

「そぉれなら簡単!あたしの死神の力を利用してチョちょいとみんなの記憶をいじれば――――」

「それで万事解決になるかアホ!」

 慌てて俺はあいつの頭をはたく。

「いったいなぁ・・・・何すんのよ!」

 はたかれた箇所を押さえ、涙目でこっちを見上げてくるそいつの仕草にぐっと来る何かを感じたのはここだけの秘密だが・・・俺は舌打ちをすると、そいつに 言った。

「てめぇがその力使って、なんか副作用みたいのはねぇのかよ?それに、勝手に自分の記憶をいじられるなんて・・・誰だって嫌だろうが?」

「う〜ん・・・まぁ、至極まっとうな事だけど・・・もうやっちゃった〜!」

「なんだとぉぉぉぉぉっ!?」

 こいつ・・・俺が注意してる傍で何かやってると思えば・・・んな事やってたのか。

「だってさぁ、こうでもしないと、現世での戸籍が無いあたしは編入すらできないじゃない?だから、これぐらい大目に見てくれてもいいんじゃない?」

「っく・・・」

 確かにこいつの言うとおりだ。死神のこいつに人間の戸籍があるわけなんかない。この学校の制服を着てようと、いつかばれるに決まっている。

 ばれないよう にするには・・・記憶をいじるしかない。

 分かっちゃいる。分かっちゃいるんだが・・・納得できん。

 そうこう俺が悩んでいる間に、一人の女生徒が此方に声を かけてきた。勿論俺は声をかけてきた女生徒の事などよく知らないのだが・・・。

「こんにちは〜、イシカワさん!今日も昼から出席なんて、熱いのね〜」

 ・・・・俺の苗字は後藤だ。決して、イシカワではない。それに、“今日も”・・・だと?

「そんな事ないですよ〜。もぅ、後藤さんったら恥ずかしがりやだから、学校じゃいっつも私に冷たいんですよ〜」

「ハハハ!ご馳走様!今から丁度三時間目が終わったから、二人ともごゆっくり〜。それじゃ、また教室で」

 そう言って女生徒は昇降口から駆け上って教室へと向かっていった。

「・・・・おい、ありゃなんだ?そして、さっきの奴の言葉の意味は・・・」

 俺は精神的に置いてけぼりなこの状況を立て直すために、俺の隣に今だ陣取る・・・ユング=ローレンツ=イシカワに聞いた。

「あぁ、彼女はクラスメートの子だと思うよ。早速改竄の効果がでてきたわねぇ〜。嬉しいなぁ」

「・・・嬉々としている所申し訳ないけど、彼女の言葉の意味が分かりません」

 俺はできるだけ、務めて冷静にみえるよう機械的に言った。

「ん?クラスメートに対する挨拶でしょ?」

 何を言ってるんだ・・・といわんばかりの返答に、マジでキレそうになるが、そこは必死に抑え、再度聞いた。

「じゃぁ、何故挨拶に“今日も熱いねぇ〜”なんて言葉が入っているのでしょう?」

「あぁ〜・・・それはね、設定上あたしとあんたが両親公認の許婚って事になってるのよ」

「・・・・・・・・・・・・は?」

「だから、設定上あたしは体の弱いいいとこのお嬢様で、あんたとあたしは許婚って事になってるからよろしく〜」

 その言葉に・・・俺はようやく事態を把握した。

「てめぇ何勝手に――――――――!!」

「あ、因みに設定はあたしにしか変えられないし、無理に否定しようものなら、あんたの記憶をいじってもいいんだから・・・そこんとこよろしく〜」

 と、奴は手をひらひらと振りながら、教室へと向かっていった。

 俺は、奴の後姿を見つつ、自分の人生が・・・自由意志が消失した事を、この時悟ったのだっ た。だぁぁぁぁぁぁっ!やってられるかぁぁぁぁぁっ!!




























 そして、教室に入っても酷かった・・・四時間目から二人揃って出席という事で、クラスメート(特に男子)から手痛い洗礼を受けた。

「てめぇ!!何二人揃って遅刻してきてんだよ!」

 ・・・なんだか皆目が黄色く光ってて怖いじゃないか。それに、普段話した事のない野郎共まで・・・何故に俺に詰め寄る?

「いや・・・別に・・・」

「貴様ぁぁぁ!!言うに事欠いて“別に”だとぉ!?この全世界のもてない男の敵がぁぁ!!」

 そ・・・そんなに詰め寄るなお前ら・・・暑苦しいだろうが・・・。

「あぁぁぁぁんな可愛い彼女・・・他にこの世にいなかろう!」

 そりゃそうだ。死神なんだもの・・・。

「そんな彼女と今までベッドの中でメイク・ラァヴ!」

 あ・・・てめぇ何考えてやがんだ!俺はこいつと今日出会ったばかりだぞ!?

「ちょ・・・ちょっとまてお前ら。ここは冷静にだな――――――」

 俺が必死になだめようとした時、ユングの馬鹿は何を考えたのか・・・一緒に話していた女子に爆弾発言をしまくりやがっていた。

「で、で?結局の所どうだったの?彼って優しいの?」

「えぇ・・・とっても優しいです。私のことよく気遣ってくれますし」

 あのやろう・・・ここじゃ猫かぶってやがるな!それに・・・目の前の奴が木の上から落ちれば当然気遣うわ!

「おぉ!言うわねぇ〜!」

「えぇ・・・今朝・・・彼のベッドで目が覚めて・・・とてもいい匂いだったし・・・気持ちよかった」

 布団は干したばっかりだから、太陽の匂いはするし、心地よかっただろうに・・・・って、あいつ確かに嘘はついちゃいねぇが・・・言葉選びすぎだ!何て中 途半端な説明なんだ!!これじゃ誤解を深めるだけじゃ・・・・。

「ゴットウク〜ン」

 見慣れたクラスメート(男)の手が俺の肩に触れる。奴の顔は・・・笑っちゃいたが、目が・・・目の奥底に凄まじいまでの黒い炎を感じる・・・!

「な・・・なんだい坂崎君?」

 俺は戦々恐々としながら聞き返す。坂崎健太(さかざき けんた)・・・こいつは俺の友人の一人なんだが・・・思い込みが激しく、向こう見ずに突っ走るの が珠に瑕なんだが・・・いい奴には違いないんだがなぁ。っと、今はそれどころじゃねぇ!

「今の話は事実かな?」

「ま・・・待ってくれ・・・俺は無実だ!」

「今述べられた事は事実かと聞いているのだ!?」

 坂崎はまるでよくある刑事ドラマの取調べのような口調で俺に迫ってきた。

「じ・・・事実である事は認めるが、あれには大分言葉が――――――」

 と、俺の言葉はそこでさえぎられた。あの坂崎がニヤッと笑ったのである。そして、なぜか奴のかけている眼鏡のレンズも光り輝いた。

「裁判長・・・我々は審理を要請する!我々は、後藤敬介を告訴する!!」

 ビシッと俺に指を突きつけながら、坂崎はこうのたまった。そして、教室の前方の席・・・教卓のまん前の席の奴が立った。奴は・・・クラス委員の平城山悟 (ならやま さとる)・・・まさか!?

「いいでしょう、坂崎検事・・・要請を受理します。時間は本日四時間目終了後五分間の休憩を挟み、法廷を開廷いたします。傍聴人はクラスの人間のみ認めま す。尚、今回の法廷では被告人に黙秘権も弁護士を呼ぶ権利も与えられません。被告人後藤敬介は心するように。勿論、逃亡を図るようなマネをすれば、我らが 有する優秀な係官達が、君を地の果てまで追う事だろう」

「「「「イーッッッ!!!」」」」

 ・・・・その係官達がショ○カーの戦闘員に見えてしまうのは俺だけなのだろうか。

 しかし、有象無象とはいえ、ざっとみて二十五人・・・それだけの監視を 振り切って逃げる事はできないな。しかし・・・諦めてられるか!こんな所で俺はまだ死にたくない!!

「後藤敬介、突貫します!!」

 そういうと、俺は教室からグラウンドへと通じる窓めがけ、全力疾走し、飛び降りようとした。

「後藤殿!控えられよ!!殿中でござる!!」

 そう叫び、俺を羽交い絞めにした奴がいる。くそ・・・後一歩という所で・・・。

「放されよ、近松殿!情けにござるぅぅぅ!!」

 俺を羽交い絞めにしているのは近松太郎(ちかまつ たろう)・・・中学からの友人だ。

「止めとけって後藤・・・ここ三階だぞ?」

 松の廊下のショートコントが一段落ついて、近松が俺に言ってきた。

「し・・・しかし、俺はあんな恐怖裁判を受ける事は・・・」

「いいじゃん、面白そうだし」

「き・・・貴様ぁ!!親友が命を落とすかもしれん瀬戸際の時に面白そう・・・だと!?ぬぉぉぉ!!そこになおれぇぇぇぇ!!」

 と、俺が近松の拘束を振り切って振り向いた先には・・・縄やら鎖やらを掲げて控えていたクラスメート(シ○ッカー)達だった。

「ごっとぅく〜ん・・・逃げちゃダメだっていったじゃないかぁ〜」

「ま・・・まて、坂崎・・・きっと話し合えば必ず人は分かり合えるものと―――――!!」

 俺の説得むなしく・・・坂崎は例の係官とは名ばかりの戦闘員どもに号令をかける。

「引っ立てぇい!!」

「「「イーッ!!!」」」

 と、俺はあっという間に戦闘員どもに身体を縄でぐるぐる巻きにされ、自分の席の上に置かれ、更に体と椅子を固定された。

「これで逃げ出す事はかなうまい。覚えておけ・・・嫉妬に狂った男は女以上に手強いという事をな」

 坂崎は眼鏡のずらしを直すような動作で、眼鏡のレンズで光を反射させると、不気味に呟くのだった。

「い・・・・いやだぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 俺の叫び声だけが教室に虚しく響き渡ると同時に、四時間目が始まった。

 そして、教師は既にこういった事に慣れたか(慣れられても困るが・・・)俺の今の 状態に対して何も言ってこようとしない。

 近松は、俺の前の席に座っているため、時折後を振り返っては、必死に笑いを堪えていた。

 そして当のユングはという と・・・寝てやがる。

 ちっくしょうぅぅぅ!!なんて幸せそうな顔して眠ってやがるんだ!!俺はてめぇのせいで・・・・てめぇのせいで・・・!! ぬぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!









































「これより我らが裏切り者・・・後藤敬介への秘密裁判を開廷いたします。被告人、後藤敬介を入廷させてください」

 平城山が一段高い場所にある教卓に座り、教室の机は両端に置かれ、まるで裁判所のような風体をかもし出している。

 そして中央の開けた場所に置いてある椅 子に・・・俺は座らされる。両脇はがっちりと戦闘員に固められていて逃げようがない。

 因みに、中にいるのは男子ばかりで、女子は「馬鹿馬鹿しい」と、とっ とと出て行ってしまった。

「ふがーっ!ふがっふがーっ!!」

 俺は猿轡をはめられ、何を喋ってもまともには聞こえなかった。

「坂崎検事・・・被告人の罪状を」

「はっ!まず・・・被告人が犯した第一の罪はまさに、我々級友に対しての“裏切り”に他なりません。彼は若干十七歳にして既にかの望大栗高校男子生徒全て の憧れの華・・・ユング=ローレンツ=イシカワ嬢と両親公認の許婚となっております。彼女を独占する事はまさに我々に対する裏切りに他なりません!」

「ふがーっ!!」

 俺は猛烈に叫びたかった・・・奴とであったのは今朝が初めてだった!・・・と。

 しかし・・・既に彼らの記憶は、もう一人の当事者・・・ユングによって書 き換えられている。

 くそっ!貧乏くじか。・・・・俺が一体何をしたって言うんだ!?

「被告人の発言は認められていません。係官、被告人を黙らせなさい」

「「イーッ!」」

 俺の脇に控えていた戦闘員どもが一斉に動き出すと、なにやらダイヤルを回した。

「ふがっ!!」

 い・・・いてぇ・・・両腕に痺れるような痛みが・・・っく!なんだこりゃ!?

「被告人・・・これから不用意な発言は控えるように。さもなければ、この私が“若干”改良した低周波治療器の出力を上げねばなりませんからね・・・」

 平城山め・・・人の腕に勝手にそんなもんつけていやがったとは・・・。それに“若干”の改良だと?これのどこが若干だ!普通じゃありえない痛みだぞ!! 普通に感電したかと思った・・・。

「坂崎検事・・・続きをどうぞ」

「はっ・・・次ぎまして、被告人が犯した第二の罪は・・・遅刻にあります」

「ふがっ!?ふんふっがー!」

 待て待て・・・俺はそんなに遅刻の回数多くないぞ?むしろ、今日の事が無ければ俺は精勤賞を狙えていたはずだ・・・。

「被告人は、許婚がいるのをいいことに、彼女・・・ユング=ローレンツ=イシカワ同伴での遅刻が最近とみに目立ってきております」

「ふんがーっ!」

 ちょっと待て〜!!それは今日だけだろうが!!おい、坂崎!!てめぇ何とか言いやがれ!!

「被告人・・・静粛にしなさい。また電流を流しますよ」

 ・・・な、平城山の目がこえぇ・・・。

「さて・・・被告人が静かになった所で・・・検事、被告人の罪状は以上でしょうか?」

「現在余罪についても追求中でございますが、現在判明しているのはここまでです」

「結構・・・。それでは、被告人後藤敬介に判決を言い渡す!」

 ・・・・えらいスピード裁判だな。やはり、弁護人も何もいない裁判ってのは、はやいなぁ・・・被告人の人権無視かよ・・・。ったく、あいつら後でぶっ飛 ばす!!

「被告人の罪は重く、反省の色はまったくなし。よって判決は、有罪!!被告人には一週間の昼食抜きを宣告する!」

 げぇっ・・・勘弁してくれよ!一週間も昼飯抜かされたら、死んじまうよ・・・。

「その判決、まったぁぁぁぁ!!」

 突然その静寂を破って現われた一つの影・・・と、それに続くいくつかの影。

「貴様・・・小野崎昴(おのさき すばる)・・・去れ。今、ここは神聖なる法廷と化している。もう一度言う・・・女子供は去れ」

 平城山が眼光鋭く睨みつけ、痛烈な言葉を浴びせる。・・・が、あいつには堪えた様子がまったく無い。

 何せ、小野崎は・・・平城山の数少ない天敵の一人だ からだ。

 なにせ、平城山と小野崎は幼馴染らしく、平城山はこいつに頭が上がらないらしい。

 それを証拠に、最初の一言以来、平城山は黙りこくったままだ。

「あんたねぇ、いい歳こいて何やってんのよ!ユングちゃん泣きついてきたわよ!?“後藤君が皆に殺される!”って・・・。確かに、この雰囲気じゃリンチさ れてもおかしくないわ」

 小野崎が教室を見渡しながら言った。そりゃ、皆殺気だってりゃそう取られるわな。普通・・・。

「やい、近松!あんたなんでこいつら止めなかったんだ!!お前なら止められただろう!!」

 小野崎の姿を見つけて直ぐ、こそこそと教室を出て行こうとした近松が捕まり、小野崎に怒鳴られる。

「い・・・いやぁ・・・それが・・・ねぇ」

 ククク・・・あの近松が、あいつの前じゃまるで借りてきた猫だ。ざまぁみろってんだ!人を見捨てるからこういう事になる。

「なんなんだ!?」

「お・・・面白そうだなぁ・・・と思ってね」

「・・・はぁ・・・ったく。なんで私はこんな奴好きになっちゃったんだか・・・」

 そう、この小野崎と近松も何の因果か、昨年の夏ごろから付き合い始めている・・・もはや公認カップルの一組だったな。

「い・・・いやな、すっちゃんさ・・・」

「学校で・・・」

 近松の言葉をさえぎり、小野崎は近松の制服の襟首をつかむ。

「その名を・・・」

 片手で近松を持ち上げ、振り上げる。

「呼ぶなといったろぉぉぉぉぉ!!!!」

 そして、一直線に窓の外へと放り投げる。

「あぁぁぁぁぁぁぁれぇぇぇぇぇぇぇ・・・・」

 遠く、グラウンドのほうでズシャァ・・・っと、何かが擦れながら落ちる音がした。・・・確かここは三階だったような・・・。

「小野崎さん・・・ここは三階・・・」

 ユングが珍しくまともな事を言った。

「フン!あの程度で死ぬような奴だったら苦労してないよ。さぁっ!あんたらもあぁいう風になりたくなかったら、直ぐに後藤を開放してやるんだね!さもない と・・・・」

 小野崎の睨みを効かせた言葉に、男子は一斉にワラワラとクモの子を散らすようにあちらこちらへと散った。

 ・・・まぁ、小野崎は怖いわな。なんせ柔道三段 空手は二段、実家は合気道の道場やってて免許皆伝の腕前だってんだから・・・俺よりもちいせぇくせに、あいつにだけは勝てるきがしねぇ。

 まぁ、そこそこい い勝負をする自信はあるが・・・。

「ったく・・・後藤も後藤だ。あいつらなんか、あんたがその気になりゃ五分とかからんだろうに・・・」

 小野崎はぶつくさ言いながらも、俺の両手を縛っていたロープを解き、猿轡も外す。

「いや、すまん・・・最後まで付き合おうと思ったら・・・逃げ出すチャンスを失ってな」

「嘘をつけ・・・最初から逃げられんかったんでしょうが」

 ごまかすように笑う俺を責めるような目で見る小野崎。・・・俺が何か悪いってのか!?小野崎は突然目を閉じたかと思うと、苦笑して、俺の肩をたたくとこ うのたまった。

「ったく・・・あんたみたいのが、女を泣かすなんて十年早いんだよ」

 はぁっ!?女を泣かすぅ〜?俺が・・・?一体・・・いつ!?

「ほれ、そこで婚約者様が待ってるよ。・・・行ってやんなよ」

 小野崎の指差す先には・・・おろおろとした様子・・・を装って、内心大笑いしているであろうユングの姿であった。

「お・・・おぉ・・・わりぃ」

 なにやら後で罵詈雑言の類が聞こえるが、直ぐに静かになった。おそらく小野崎が睨みをきかせたのだろう。俺はユングの傍まで行くと、やつの耳元で呟い た。

「ついて来い・・・いいたい事がある」

 それだけ言うと、俺は振り向きもせずに屋上に向かった。そして、屋上の中央に来た所で、立ち止まり、振り返ると・・・ユングはしっかりとついてきてい た。

「しっかりついてきたんだな・・・」

 俺は案外律儀なユングに驚いた。

「何、後藤君・・・」

「それと・・・ここは、あんまり人が来ないから回りの目を気にせんでもいい。お前が何でそういう喋り方をしているのか知らんが、気色悪くて堪らん」

 俺が苦笑しながら言うと、ユングはブスッと頬を膨らませて、不機嫌そうにいった。

「気色悪いとはなによ、うっさいわね!しょうがないじゃない。深窓のお嬢様ってことでみんなの記憶をいじったんだから・・・」

「それだ・・・。お前大体どれくらい前からの記憶をいじってるんだ!お前と俺がまるでずっと前からの知り合いのようになってるんだぞ!?」

「そうね〜・・・おそらくここ二、三年の記憶だと思うわ。あたしも死神として、まだまだ駆け出しのほうだから、そんなに力もないし・・・」

 若干悩むような仕草を見せると、ユングはそういった。・・・ったく、あわせるほうの身にもなってみろってんだ。

「お前なぁ・・・そういう話は事前に入れとけ!俺の言動でお前の辻褄あわせがばれたらどうすんだよ!」

「・・・その時は、その時よ」

「お前・・・・そんなんで本当に大丈夫なのかよ?」

「はぁ・・・さっきからそんな話?あたしはてっきりさっきのお礼の話だと思ったわよ」

 と、ユングは呆れ口調で俺に言ってきた。

「あん?」

「だから、助けてあげたお・れ・い!」

「はぁっ!?」

 チンプンカンプンだな。俺はこいつに助けてもらったか?

「・・・っもう!分からないならいいわよ!!もう、あんな事になっても助けてあげないから!!」

 それだけ言い残すと、ユングは足早に去っていった。・・・なんだぁ?

「そういえば、さっき小野崎が女を泣かすのはどうとかって・・・なんだぁ、まさかあいつが小野崎に泣きつきにいったってことかぁ!?」

 知り合ってからのユングの姿を思い浮かべちゃみたが・・・。

「あいつが泣きながら人に物を頼む姿が想像できん。学校じゃ猫を被るわ、うちじゃまるで家主のように振舞うし態度でかいわで・・・居候って感覚があるのか あいつに・・・」

 俺は屋上の端まで歩き、手すりに寄りかかると、制服の内ポケットに忍ばせておいた煙草を取り出し、一服する事にした。

「あぁ〜あ・・・訳分からん・・・・」

 それだけいうと、俺は大きな溜息と共に紫煙を青い空向かって吐き出していたのだった。


















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