機動戦艦ナデシコ

愛天使 外伝

ルリAからCまで・・・・

 

後編

『2202年5月31日』

by Granite


 

 

 連合宇宙軍中佐ナデシコC艦長、ホシノ・ルリに人生の転機は三度訪れていた。

 

 失って丸二年・・・・、もう戻らないと思っていた・・・。

 これが定めと諦めて、泣く事も止めた。

 

 が・・・今日、ルリは全てを取り戻したのだった。

 

 

 アキトとユリカ、そしてミナトとユキナとで夕食。

 新たに加わってきたラピスもルリの嬉しさに花を添えてくれた。

 

 恐らく、今日・・・2201年5月31日はルリにとって忘れられない日になることだろう。

 

 

 「むぅぅぅ・・・・ま、参った・・・・。」

 「はい・・・?」

 

 「あ゛・・・?、『はい・・?』・・じやないわよっ! 負けたわよ、ええそうよっ、完膚なきまで叩きのめされたわよっっ!」

 そう言えば、夕食後、ユキナとラピスとでチェスをしていたのだった。

 盤上ではユキナの黒いクイーンを、ルリの駒がガッチリと取り囲んでいた。

 

 「あ・・・終わってましたか・・・じゃ、次はラピスですね。・・・あ、寝ちゃってますね・・・。連戦連勝で疲れたんでしょうか?」

 「むっきぃぃぃっっ! ルリィ、あんたら全然マジメにやってないでしょっっ! 何よ何よっ、そんなんで負けちゃった私の立場はどうなるのよっ!」

 

 「マジメにやったららホントに立場がなくなりますよ・・・」

 

 「きぃぃぃぃぃぃっっっ!」

 

 

 ラピスを別室に寝かせてルリは帰ってきた。

 

 「ラピィは・・・?」 

 「私の部屋のベットに・・・って、なんです・・・そのラピィ・・・って?、さっきから良く聞きますが・・・。」

 

 「ルリィの妹みたいなもんでしょ、なら・・ラピィじゃん。簡単でいいわ。」

 「はぁ・・・・」

 曖昧に返事をしたがルリはなんだか嬉しい。

 ユキナのなんにでも直球勝負のその性格にこの数年何度も助けられてきたからかも知れない。

 こんな時、友達って良い・・と、ルリは心底思うのである。

 

 

 「さてと・・・いつまでも家族の団欒にお邪魔してる訳にも行かないわね・・・私もそろそろ・・・」

 ユキナと同室のミナトは先程、同じ様なセリフを残して帰っていった。

 ルリへの気遣いと言うよりは、隣の部屋にいる結婚三年・・・なれど、新婚旅行も始まったばかりの夫婦に気を遣ってのことだろう。

 

 「あ・・待ってください・・・・。」

 立ち上がるユキナの背中に声を投げるルリ。

 

 「ん・・・?」

 「あ、あのですね・・・・・す、少し・・・時間ありますか?」

 

 「時間って・・・・そりゃ・・これからお風呂に入って寝るだけだからあるにはあるけど・・・・。」

 「お、お風呂ですか・・そうですか、行きましょう。ご一緒にっ!」

 「・・・・・・・・・・ル、ルリィ?」

 大人しいルリがユキナの袖を引っ張り目を爛々と輝かせている。

 至極、珍しいルリの姿だった。

 

 「わ、私・・・そっちの趣味は無いわよ・・・・・」

 

 

 

 ルリは隣のユリカとアキトに簡単に言付けると、洗面器にシャンプー、リンス・・着替えの浴衣を用意していく。

 その姿を見てユキナは・・・

 

 『ハァ・・・そう言えばこの子・・・好きな人が戻ってきたんだっけ・・・・』

 ソワソワする気持ちは良くわかる。

 その好きな人が一番尊敬する人の所に戻って来た、ルリは居場所に困っているのかもしれない。

 ナデシコの艦長室、つまりルリの居室には簡易とは言え、シャワーも浴槽も装備してあるが、ワザワザユキナたちの利用する、一般の浴場に行きたいのはそん な訳なのだろう。

 

 「しゃ〜ない、久しぶりに一緒に行くか〜。」

 ユキナは一度自分の部屋にもどり自分の分の用意を済ませる。

 途中、ミナトも来るとか言い出すのだが、これにはルリが異様に反発した。

 

 「あ、良いんです、ミナトさんは・・・その、来られると、ショックが大きいですからっ!」 

 「・・・言えてる。」

 少し不機嫌そうなミナトに軽く会釈してルリとユキナは歩き出す。

 角を数度、エレベーターを使って移動。

 

 旗艦ナデシコC大浴場は大きな暖簾に『女』の文字、それを潜った先にある。

 

 「ラッキ〜、誰もいないみたいよ。」

 時間は既に深夜だから予想は出来た、ルリにとっては好都合である。

 

 ユキナは早速、制服に手を掛け服を脱ぎに掛かる。

 遅れてルリも。

 

 ルリは静々と丁寧に脱いで行くに対して、ユキナのそれはまるで忍者のそれだった。

 脱いだ服が空中で人の形を取っている様な、そんな凄まじいスピードだ。

 

 薄いピンク色の揃いの下着も惜しげもなくポン、ポ〜ンっと脱ぎ捨てる。

 床に散ったそれを最後に掻き集めてグルグル・・・っと、ひと纏めに籠の中に入れる。

 

 「おっ先ぃ〜♪」

 誰が見ているわけでもないとは言え、前も隠さずにタオルを肩に担いで駆け出していくユキナ。

 

 

 ルリは、まずは衣服を脱ぎ、下着だけの姿になると丁寧に衣服を折りたたみ籠の中に入れてから、頭の髪どめを外していく。

 一つ外すたびに軽くて柔らかい、ルリの髪が肩や背中、胸に掛かってくる。

 今日の髪どめは、私服時に良くつける青い方だ。

 二年前にアカツキに誕生日の祝として貰った物・・・だと、ルリは思っているが、・・・・実はあの頃、病床にあったアキトからの贈り物である、と言う事を ルリは知らないでいた。

 ただ・・・この二つの髪止めはルリにとってお気に入りで、すこぶる大事にしている所を見ると、何かしら感じ入る物があったのかもしれない。

 

 さて、ルリの準備はまだ終わらない、髪どめを外してばらけてしまった髪を掻き上げる、器用にタオルの端を口にくわえ、髪全体を頭の上の方に纏め上 げるのだった。

 

 「ルリィ〜っ、なにしてんの〜早く来なさいよ〜。」

 浴場の中からユキナの声がする。

 「は、は〜い。」

 応えるとルリはいよいよ、下着を外しに掛かる。

 背中に手を回しブラを外すと、それも小さく畳み籠に、ルリの小振りだが形の良い乳房がプルン・・・と揺れる。

 

 清潔そうな純白それ一色の上下対のショーツもゆっくりと下に降ろす。

 上半身が前に倒れると、流石にルリの小さめな乳房もその可愛い形を崩して綺麗な三角形を描くのだった。

 

 膝に引っかかる、時には足を内側に窄めて丁寧に・・・・、その時に日焼けのあとなど探しようもないルリのお尻がクネクネと揺れるのだった。

 利き足の右足を抜き取り、次いで左・・・それを軽く丸めると外からは見えないように衣服の奥に押し込める。

 

 タオルを手に取り、自らの乳房を押さえるように下に垂らした時、隣のユキナの下着か目に入った。

 

 記憶していた物より・・・・一回り・・いや、二回りは大きい気がする。

 ジッと・・金色の瞳を凝らしてみると・・・・・

 

 「・・・・・・4センチ・・・・・・・・一年前より4センチ・・・・・・・・」 

 呟くルリは一度だけタオルを避けて己の双丘に目を降ろした。

 

 ちょっとだけ、自分で掴んでみる・・・・・上手い具合に掌に納まるそれ・・・。

 一部の趣味の方は生唾モノなのだが、ルリは・・『はぁ〜っ・・・・』と重いため息を吐くのだった。

 

 

 

 ちょっと、重めの二重扉、一枚目を開いて風除室へ・・・未だ先にある扉は湯煙で白く濁っていた。

 その扉も開けると、広い浴槽が目に入る。

 

 時々、ルリは思う時がある、艦長室に浴室はあるけれども、それはもしかしてこの開放感を味わわせない為の辛辣な設計屋の嫌がれ背手背鼻だろうか と・・・。

 約、人数にして20人は軽く一度に入れるであろう、浴場にはユキナとルリだけ・・開放感もひとしおであった。

 

 そこでユキナは洗い場の真ん中にドッカリと胡坐をかき、ワッシワッシと髪を洗っていた。

 零れたシャンプーの泡が胸の先やら、腰の回りに張り付いている。

 

 「ンッ・・・・・んっんんっっ・・・・・」

 目にシャンプーが沁みたのか、ユキナは手探りでシャワーを探す。

 片手を床に付き、お尻をルリの方に向けてジタバタとするユキナ。

 取りあえず、ルリは近寄ってシャワーをユキナの手に『はい・・』と言って手渡してやった。

 

 「ありがと。」

 「あ・・出しますよ。」

 

 「ん・・お願い。」

 蛇口ではなくボタン式のそれ、一定量の水量が出ると自動的に止まるシステムだ。

 

 余談だが、兎角、宇宙戦艦と言うものにっとて水は貴重である。

 少しでも無駄を少なくする為に、このようなシステムが採用されているのだ。

 一部、女子達には『な〜んか、ケチくさい〜』と不評であるが・・・・

 

 「ったく・・ケチくさいシャワーよね〜。」

 一部が言っている・・・。

 

 と・・・話を戻そう。

 

 「ひゃっ・・・冷たっ・・・って、熱っ・・・・っと、っと・・・っとと・・・・・ふぅぃ〜・・・極楽極楽〜♪」

 新鮮な湯を浴びたユキナから雪が解けるようにして、泡が流れ落ちていく。

 濃い栗色のツヤツヤかな髪があらわになり、短めのそれがうなじに張り付いていた。

 

 くん・・と、顎を上に喉元を長く伸ばして胸元にシャワーを掛けると、胸の先に張り付いていた最後の泡も一緒に押し流されて行った。

 次いで、お腹・・・胸から片手で肌を優しく撫でる様に湯を流す。

 ルリのそれより二回りは大きな乳房が腕に挟まれて押し出されてくる。

 

 「ぷはぁ〜っ・・・・」

 ブルブル・・・っと頭を振り、水飛沫を飛ばしたユキナの肉体は、適度な脂肪と張りのある肌とで覆われていた。

 運動好きのユキナらしく、筋肉の一筋、一筋がしなやかで、弾力に溢れている。

 健康優良少女、ユキナの体は特にバランスがスゴイ・・・。

 手足の長さ、太さ・・・・それを繋ぐ曲線のシャープなことと言ったら・・・・「健康な体は財産」と言う言葉を信じたくなるようだ。

 

 

 

 ルリはユキナにシャワーを渡したあと、彼女の隣に腰を降ろす。

 無論、椅子の上にである。

 

 軽く、体にシャワーを体に浴びせる。

 いつまで隠しておくのか、水を吸ったタオルがルリの体に張り付いていく。

 胸からお腹の下にかけて、絶妙なラインがその形を浮き彫りにしていた。

 

 が・・そのタオルもとうとう役目を終えるときが来た。

 体中の真っ白な肌が温水を吸って、薄くピンクに紅潮してきた頃だった。

 

 ルリはシャワーを止め、シャンプーを手に取る。

 色々と意見はある様だが、ルリは体を洗う時は上から・・・つまり頭からと決めているのだ。

 ここ数年で長くなって、腰まで届く髪を洗うのは一仕事で、時間が掛かるから先に済ませたいと言う考えもあるのだが、やはり湯も水も上から下に落ちる物だ から、上から洗うのが道理と言う物だろう。

 細かい所では噂通り、妖精の名は伊達ではない様だ。

 

 シャカシャカと小気味のよい音を出しながらルリは己の銀髪を泡に絡めて行く。

 短い頃は『これぐらいでも大変なのに・・・』と思っていたことがウソの様に、最近では慣れてきていた。

 まだまだ、時間は掛かるものの髪を傷めないように、丁寧に洗う事は楽しくも感じられるようになっているのだった。

 

 

 その丁寧な仕草とは裏腹に意外と短い時間で作業は終了する。

 ツゥ〜・・っと滴り落ちてきたシャンプーの泡がルリの眉のラインを超える。

 片目を閉じて戻しておいたシャワーに手を伸ばした時だった。

 

 ざっぷ〜んっ・・・!

 

 「ひゃっ・・!」

 突然、バケツをひっくり返したような湯が浴びせられた。

 ゴシゴシっ・・・

 取りあえず、顔を掌で擦って、後を振り返る。

 

 そこには笑いを堪えたユキナがいた。

 

 「ユキナさん、酷いですよっ!」

 「きゃハハハははっ・・・・・・・・・って・・・えっ?」

 堪えられず、噴出したユキナの笑が凍る。

 

 視線が上から下に・・・・ずぅ〜・・・っと下がる。

 

 ルリの長い髪は腰まで届く・・・それが・・・グチャグチャに乱れ背中はおろか、胸やお腹までピッタリと張り付いてしまっていた。

 更には申し訳なさそうに、双丘の先まで下の色が透けるほど上手い具合にだ。

 先端は足の間まで達していて、丸まったタオルを真ん中にそれに絡め取られる様に、際どい渦を巻いている。

 

 「ユキナさんてば・・・って、どこ見てるんですかぁっ?」

 惚けるユキナの虚ろな視線に気がついた、ルリが腕を畳んで体を隠すように小さくなる。

 

 「・・・・・・あっ・・・・、ゴ、ゴメン〜・・・・。」

 「もぅ・・・・」

 

 プイッ・・と、元に戻ってルリは怒ったように言う。

 

 「お詫びに背中流してあげるよ。」

 「良いですよ・・・そんな・・・。」

 

 「遠慮しないの。私は終わって暇なのよ!」

 「だったら、湯船に浸かって・・・・・」

 「あのね〜、ルリィ・・・・今からあんたが終わるまで使ってたらのぼせちゃうでしょっ!、いいから、はいっ・・そっち向いて、背中を倒すっ!」

 強引にルリの背中を押すと用意していたスポンジにタップリとボディシャンプーを取る。

 

 「むっふっふっふふ・・・・」

 「あ、あの・・・その笑い何とかなりませんか?」

 

 「ていっ!」

 「ひゃぅっ!」

 暖まった背中の肌にタップリの冷たいボディシャンプーは効果的だったろう。

 飛び上がるかのようにルリは身をくねらせた。

 

 「えへへへへっ。」

 「だから〜、その笑いは何なんですかぁ〜?」

 唯の人の悪い冗談だったのだが、ルリの反応が面白くて、ついついワルノリしてしまったらしい。

 

 シャカシャカとルリの背中を擦ると、擦ったあとがやや赤くなっていることに気が付く。

 柔らかい肌とはこんな感じなのかもしれないが、いつも力いっぱいゴシゴシと洗うのに快感を覚えていたユキナでさえも、ルリのどこまでも白い肌に傷をつけ るのは、スゴク罪悪感を感じるのだった。

 

 『まったくこの子は・・・・・こんな羨ましい肌してからに・・・。』

 透き通る肌、それが病的と言われる物ならユキナもこんな事は考えない。

 僅かに不健康を感じさせるものの、それを指摘するのはとても難しい。

 

 細く華奢なその体も骨格が適度に隠され、理想的な肉付きと言っていいだろう。

 

 『何故かしら・・女として敗北を感じるのは・・・・・・』

 手で撫でてみても、女のユキナがうっとりするほどの滑らかさである。

 

 『ったく・・・ルリィってば・・カパカパ結構食べてんのになんでこうなるのよ、一生懸命甘い物とか我慢してる私の立場が無いわよ。』

 思っているうちになんだか、妙な意地悪をしてみたくなる。

 そろそろ背中も終わりだ、ユキナは『ニヤ・・・』と、イタズラネコの様な笑みを溢すとそれを実行した。

 

 「はいはい〜、次は前よ〜♪」

 軽く言ってみる。

 

 「・・・・・・・・・・・・・」

 「ほら、ルリィ〜、前だってば〜」

 

 ゆっくり・・・ルリは後を振り向く、そして・・・。

 「はぁ?」

 心底、不思議な顔を向けてくるルリ。

 

 内心クスクス・・と笑いながらユキナは更に言う。

 

 「『はぁ?』じゃないわよ、『はぁ?』じゃ・・・・・前、前も洗うよ。」

 「いっ、いいですよ。自分でやりますから。」

 

 「なによ、今更照れる事ないじゃん。昔一緒に住んでた頃には良くやってたんだし・・・」

 「してませんてっ!」

 ルリの言う通りである。

 

 「そうだっけ?・・・・・でも、いいじゃん。どの位成長したか見てあげるよ」

 「良いですっ、結構ですってばっ!」

 ここまで拒絶されるとイタズラも本気になってくるユキナ。

 素直にこっちを向けば『あはははは、やっぱ照れくさいや〜』とか言って誤魔化せたものを・・・・。

 

 「いいから、こっち向きなさい。」

 少し強めに、ルリの体を捕まえて回してみる。

 予想通り軽がった・・・が、この時は勢いがありすぎた。

 椅子にたまったシャンプーやらが潤滑剤の役目もした。

 

 ルリの体は予想以上の勢いで回ったのである。

 

 「きゃっっっ・・」

 突然で、バランスを崩しかけたルリの両手は胸辺りを押さえていた、それを放棄していっぱいに開かれる。

 更に、足も崩れた体制を止めようと大きく開かれ、ドン・・っと音を立てて床を掴んでいた。

 

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 胸元に大事に抱かれていたタオルは後に仰け反ったルリに健気に張り付いていた。

 その姿は所々が皺になり、フィールドの役目を果たしていなかった。

 

 「イタタタ・・・もぅっ、ユキナさんっ!」

 

 ったく・・・ルリィは・・・私の前にこんな姿で・・・・イジメたくなっちゃったこの気持ちをどうしてくれんのよ。

 この際だから、本気でスリスリナデナデと洗っちゃおうかしら?

 そしたらきっとルリィは・・・『ぁっ・・いけません、ユキナさん・・・・、か、艦長命令ですよ・・・』とか言うのかも知れない。

 イヤ・・・言う。

 絶対にルリィはそう言う。

 そんでもって、強引にいくと・・・『ダ、ダメです・・私は好きな人が・・アキトさんが・・・。アキトさん助けて〜・・・』とか言うのだ。

 

 どうしてくれようか・・・・・?

 

 が・・・ユキナは・・・

 「あはははは、まだまだ子供ね、ルリィ〜。シッカリ洗ってきなさいよ。」

 と言って、背中を洗った時のスポンジをルリに放るのだった。

 

 

 

 「まだまだ子供・・・・・・私の前を見て・・・・・・子供・・・・・・・私は・・・子供・・・・・・子供・・・・・・ブツブツ・・・・・」

 ユキナには知らす知らず、ルリにはピンポイントでクリティカルだった。

 

 

 

 

 カッぽぉ〜ン・・・・

 

 「風呂桶や〜、肌に沁みいる、湯の香り〜♪・・・ハァ〜極楽〜。」

 「滅茶苦茶ですね・・・ユキナさん・・・・・」

 

 「相変わらず、詩的じゃないわね・・・・らしいといえば、らしいけど・・・・・。」

 「今のが詩的には・・・・」

 「うるさいわね、気持ちいいから言ってみただけじゃないの。」

 体も綺麗に洗い、湯船に浸かる二人。

 これだけ広いと二人の声が湯気を吸った重い空気と、広い室内で反響して奇妙な声になって聞こえる。

 

 四肢を大きく伸ばして我が物顔で湯船に浮かぶのはユキナ。

 何を遠慮しているのか、隅の方で小さく湯縁に半分体を預けているのがルリである。

 巨大な浴槽に入るのは華奢な少女二人だけ・・・暫し、優雅なひと時を楽しむのであった。

 

 

 程よく体も火照り・・頬が紅潮してきた頃のこと・・・。

 

 「で・・・・・、なによ・・・・。」

 汗ばんできた顔をタップリの湯で流してユキナがルリを見ずに言う。

 

 「なにって・・・・なにがです?」

 「惚けんなっての・・・・・・、人を此処まで連れ出して、一緒にお風呂に入りたかっただけな訳ないでしょうが。」

 「・・・・・・・・・・・・・・」

 どうやら図星らしい・・・・・。

 ルリは決まり悪そうに視線を逸らしていた。

 

 なんで不器用な子だろうか・・・?

 いつも冷静で、その計算には狂いなし、その巧みな技術で電子の妖精とまで言われるのに、いや・・・そう言われるからこそなのかも知れない。

 この時々見せてくれる・・同級生の様な表情を見せるのは・・・・恐らく未だ・世界で唯一人自分の前でだけ・・・

 ユキナの数少ない・・けれども誰にも言った事のない自慢の一つである。

 

 「まどろこしいのよね、ハッキリ言って御覧なさいよ。」

 バシャ・・・

 湯を掻き分けるようにルリの方に向かって人泳ぎ、ユキナはスゥィ〜っとルリの横に並んだ。

 

 「はぁ・・・・・で、でも・・なんと言ったら良いのか・・・?、それがその・・・・。」

 

 「無くなった物が戻ってきて、嬉しいけど・・・『なんだか私の居場所がないみたい〜♪』ってなとこ?」

 「・・・・・っ!」

 湯面が音を立てて波立つほど勢い良くルリは振り向いていた。

 

 「クスクスクス・・・・、時々・・・あんた、わかり易過ぎだよ。」

 「うっ・・・・・」

 

 

 「なによ、そんなことで本気で悩んでんの? 結婚してる好きな人にキスまでした人が」

 「あぅ・・・っっ・・・」

 一気にのぼせた様に真っ赤になる。

 顔も半分沈み、ブクブクと口と鼻から泡を吐いているルリだった。

 

 

 「気にする事ないんじゃない?」

 「ブクブクブク・・・ブグ・・・バブ・・・バァ・・・」

 

 「なになに・・・?『アキトさんとユリカさんのお邪魔になるのかも・・・?』っですって・・・? あのね、あの二人が邪魔にするとでも思う?」

 「モガァ・・・ブクブク・・・・」

 

 「そうでしょうが・・・・・」

 「ぶばっ・・、ブクブク・・モガラバ・・ブクモガぁ・・・・」

 

 「『でも・・二人だけの時間と言うのは必要かも知れませんし・・・』ってねぇ・・・・、そんなの二年前と変わんないじゃん。」

 

 「ブク・・・・ブクブモガガ・・・・」

 「いい加減、ハッキリ喋んなさいよ。」

 ぷはぁ〜・・・っと顔を浮上させてルリは大きく空気を吸い込む。

 

 「変わった物もありますよ・・・・・その・・・・あの・・・わ、私の気持ちとか・・・

 「なにそれ?、今のあなたと昔のあなたで・・何が違うというのよ。」

 

 「ち、違いますよ・・・・・、私はアキトさんを・・・・その・・・・ゴニョゴニョ・・・・・

 より一層、真っ赤な顔をしてルリは言う。

 

 「なんだか、聞いてると・・・昔より好きになったみたいに聞こえるけど・・・」

 「・・・・・・・まぁ・・・そうです・・・・はい・・・。」

 

 「バッカバカしぃ〜っ! ルリィ・・あんた、昔からそんなもんなのよ。気が付いてないみたいだから言ってあげるけど、あんたの目っ、あんたの声っ、あん たの仕草っ・・・体が少し大きくなった程度で大して差なんか無いわよ。端でみてるとね。」

 

 「そうでしょうか・・・?」

 少し考えるルリ。

 実際はどうだろう・・・・アキトやユリカが戻ってきてから、ルリの恋愛に関する気持ちは拡大されている気がするが・・・・、確かにユキナの言うように昔 より大きくなったか?・・と聞かれると自信がない。

 昔はもっと好きだった様な気さえしてくるではないか?

 

 「あのねぇ・・ルリィ・・・・、好きだとか、嫌いだとか・・・・感情は成長しても気持ちは成長なんてしないわよ。現に一番好きな人は変わってない でしょ?」

 「まぁ・・・そうですが・・・・」

 

 

 「それとも何?・・・年月が経って、奪いたくなってきた?」

 ニタ〜、と笑ってユキナは顔を近づけてきた。

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 「成長したルリィ・・で迫ってみたい?」

 「なっ・・・バカな事言わないでください。私は二人を祝福しているんですよ。」

 

 「ふ〜ん・・・そうなんだ?」

 「そうですぅっ。」

 

 「なら良いじゃない。居場所なんかに悩まなくったって・・・・。」

 「そう言うものではないと思いますが。」

 

 

 「なら聞くけど・・・ルリィが邪魔したくらいでどうにかなると思う?、あの二人が・・・・」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 それは在り得ない。

 残念ながら・・自信を持って言える。

 

 「ウプププ・・・・・なんなら、昔みたいに今夜も川の字になって寝てみたら?、知ってんだから〜、寝相が悪くなった振りして誰かさんに抱きついた事 も・・・・くっくくくく・・・」

 「・・・・・・ぼぉん

 がバッ・・っと立ち上がるルリ。

 波立った湯がユキナの顔を直撃する。

 

 「あガラばっ・・・ゴホゴホ・・・ルリィ〜っ!」

 

 「なっ・・ぬっ・・ななっ・・・ぬなっ!

 「なに〜っ、なんで知ってるかって?、そんなの決まってるじゃない〜、前に一緒に暮らしてた時・・・一緒に寝たことがあるでしょう?」

 「うがっ、もがががっ?」

 既に日本語でないルリ。

 

 「『それがどうしました?』・・・ウフフフ・・・その時ね〜、ルリィってば・・・私のムネに顔を埋めて・・・『アキトさ〜ん・・・ムニャムニャ〜・・』 とか言ってたのよっ!」

 

 パクパクと口を開きつつ、ユキナを指差すルリ、もはや声も出ないらしい。

 そこにユキナのトドメの一撃。

 

 「あ、やっぱり、アレはそうだったんだ〜♪ ルリィ〜大胆〜♪」

 

 「・・・・・・〜っ#!」

 謀られた・・・・・・、巧妙に誘導尋問に引っ掛かってしまった。

 ブルブルと震えるルリは、ケラケラと笑うユキナをキッと睨むと、掌に湯をたくさん集めてそれを一気に打ち上げた。

 

 バシャャァァっっ!

 

 「ぶはっっ!」

 

 今度はルリが笑う番である。

 普段は絶対しない、お腹を抱えて大きな声と共に『あははははははっ!』と笑ったのだった。

 

 「ぬぅぅっっ・・ルリィィっっ・・・今度はこっちよっっ!」

 ずばしゃゃゃっっっっ!

 

 手だけに止まらず、腕から体全体で湯を集め、大きな水柱を立ち上げる。

 

 「うぷっっ・・・・・ケホケホ・・・・ユ、ユキナさんやりましたねっ・・・」

 「ふ〜んだ、私に勝てるとでも思ってんの?」

 

 「の、望むところですっっ!」

 ルリの言葉と二人の放った水柱が激突するのは同時だった。

 髪が乱れようとも、湯船の湯がなくなろうとも二人はそんな事を考えもせず、一心不乱に湯を掻き分けていた。

 

 次第にやっているのが楽しくもなってくる。

 キャーキャーとはしゃぐ声が浴室に響き、水飛沫が舞う。

 

 ルリは本気で悩んでいた。

 ユリカとアキト・・二人が帰ってきて・・・昔と変わらぬ二人を見ているうちに・・変わってしまった自分がなんだかイヤだった。

 成長期でルリの姿が著しく変わってしまったのも要因かもしれない。

 あの頃のように子供ではないし、その自覚も自信もある・・・・・。

 そうか・・・そうだったのだ・・・・。

 ルリは・・・私はあの頃の自分に戻れるか不安だったんだ・・・。

 あの二人の間でいつまでも、良い妹を演じ続けなければならないのでは・・と思っていた。

 二人に望まれているのは妹としての自分なのではないかと・・・・

 

 

 でも・・・そんなことは考えなくて良かったらしい。

 

 望まれようが望まれまいが関係ないのだ。

 家族として生きる以上そんな遠慮はまったく無用な事・・・・。

 そこに感情が入り込もうとも気にする必要はない、・・・・だって・・・私はユリカさんが好きなアキトさんを好きになったんですから・・・・

 

 

 

 考えてみればユキナには残酷な相談をしたかもしれない。

 兄を永遠に失い、今はミナトと二人・・・・

 一時、家族として生きたルリにはわかる。

 際限ない明るい笑顔の陰でユキナはいつも泣いていた。

 

 それでもルリにはそんな所を見せず、飾らない本音の言葉で支えてくれるのだ。

 感謝のしようがない・・・・。

 これからルリには多くの友達が出来るだろう。

 だけども・・・なにかあった時、一番の相談相手は・・・・・・・・・・きっとこの少女・・・・。

 

 ルリの様な金色をしていなくても、更に輝く太陽を閉じ込めたような瞳をしたユキナであろう。

 

 ルリは思う・・・この先どれほど仲の良い友達が出来ても一番先にすることは・・・・

 『この人が・・私の一番のお友達です・・・』と彼女を紹介することだろう。

 

 

 

 

 

 やがて、水を掛け合っていた二人も尽かれ・・・、床にペタリ・・と腰を降ろす。

 二人の・・・互いの背中を支え合う様に座り込んだ。

 

 「ルリィ・・・・上がろうか・・・?」

 「そうですね・・・・」

 

 

 

 脱衣場に戻り、着替えを済ませるとユキナが言った。

 

 「迷いは晴れた?」

 二人分の牛乳を買い求め、その一つをルリに差し出して言うのだった。

 ルリは応えず、受け取り蓋を外す。

 

 「あ・・手は腰だからね。」

 ユキナも遅れて蓋を外して言う。

 

 そして一気に喉の奥に流し込む。

 

 「ぷはぁ〜っっ・・・・・・」

 飲み終えるのはコンマ何秒かユキナが早い。

 暖まった体に心地良い冷たさだった。

 

 

 「ありがとうございました。」

 ご馳走になったのみではなく、全てに対してルリはそういったつもりだった。

 「ん・・・・・、まぁ、何もしてないけどね・・・」

 それはどうやらユキナにも通じたようだ。

 コリコリと頭を掻く様に照れるユキナがなんだか年下に見えて微かにルリは笑った。

 

 

 

 今日からまた新しいルリが生まれる。

 太陽系に知らぬ者なしの電子の妖精を見いだし・・・、育てたのは何者だったのか・・・・・意見が割れる所である。

 

 多くの物は、ナデシコが育てたと応える・・・

 また多くの者はテンカワ・ユリカと・・・戦乱の時代の申し子だと・・・・

 

 が・・・・、ここにも確実に一人・・・・

 記すに相応しい人物がある事を伝えおく・・・。

 

 けして表舞台には出ることのない・・・立役者がある事を・・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

機動戦艦ナデシコ

愛天使 外伝

ルリAからCまで・・・・

 

後編

『2201年5月31日』

 

 

終劇

 

 

 

 

 

 

 

 

〜エピローグ〜

 

 ユキナはルリを部屋の前まで送ることにした。

 道すがらユキナの話といえば・・・・

 

 「絶対、試すだけの価値はあるってばっ!」

 「試すと言われても・・・・・そんな事したら・・今度こそ・・・」

 

 「大丈夫っ! さり気なく・・布団を並べて一番に真ん中に入れば・・・うふふふふ・・・・」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 「絶対いけるってっ!」

 

 どうやら二人の間では、とある計画が進行中らしい。

 

 「ルリィ・・・・いいわね・・・・さり気なくよ・・・。そして・・寝惚けたフリをして・・・・ギュッ・・と・・・・」

 「・・・・・わ、かわりました。やってみます・・・・・。」

 考え込んでいたルリが拳を握り締めて、プルプルと震える。

 

 ぎこちなく緊張してドアを開けるルリの肩をポンと叩く。

 「頑張ってね、ルリィ。」

 僅かに頷くルリのその向こう・・・

 ドアを開けたときに奥に並んだ布団を見つけたユキナは『な〜んだ、心配ないじゃん』と漏らしていた。

 

 ドアが閉まるまで・・その真ん中の布団を目指して不自然に飛んでいくルリが可笑しかった。

 

 「さぁ〜て・・今夜は私もオネーちゃんと寝るかな〜?」

 もう閉じてしまったドアに向かってユキナは言う。

 少し羨ましかったのかも知れない。

 

 

 

 

 

 

 翌朝・・・食堂であった二人は誰にも気付かれない様に小声で戦果を確認したが・・・・

 

 「ラピスに邪魔されました・・・・・・・それから、ユリカさんに抱きつかれて身動きが・・・・」

 僅かに赤い目をしたルリは口惜しそうに言うのだった。

 

 「諦めちゃダメよ・・・そう、これから月があるわ・・・・月でなら・・・・・」

 その後・・・物語の終局までこのユキナ発案の作戦は絶えず実行される事になるが、吉報が聞けるかどうかは・・不明である。

 

 ただ・・・・語られるべき電子の妖精の物語に、その事は掲載を許される物ではないらしい。

 

 

 

 

 

 

機動戦艦ナデシコ

愛天使 外伝

ルリAからCまで・・・・

 

 

シルフェニアの一千万アクセス記念

 

 

 

 

 




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