ほっくんやーちゃん珍道中



















 惑星エアルのガルデローベで、テンカワ・アキトが準教員となり、女子高生(?)ぱぅわぁに圧倒されていたその時、一人の男と一人と数えるか一機と数える のかよく分からない少女が道行く人たちの視線を一身に集めていた。

 北辰ことほっくんに、夜天光ことやーちゃんの凸凹コンビである。

 まぁ二人が視線を集めるのも無理は無い。
 北辰は組み傘と外套で身を隠した昔の任侠のような格好で、やーちゃんは鮮やかな赤い髪に加えて服装もそれに比して赤いゴシックドレスだ。見る人が見れ ば、いたいけな少女を連れた変質者か、どこぞの売れない派手な漫才コンビくらいにしか見えないだろう。


「ママー、見てみてちんどんやさんだー」

「しっ! まーくん、見ちゃいけません!!」


 中には妙な勘違いをする子供までいるらしいが見られる二人はそんなことお構いなしだ。
 というかガレデローベで珍問屋なぞあるのだろうか?


「…………」


 しかし地球にいた頃に既にその手の視線は慣れているのか、北辰は表情を僅かにも動かすことなく歩を進めている。
 やーちゃんは元から北辰以外には興味がないので、一般市民の視線など端から気にしていない。


(フッ、有象無象共めが)


 外道たる己には恐怖と嫌悪の視線こそが相応しい。
 闇に生きる者にとって、そのような感情こそが自分を奮い立たせるのだと――――


(我が自慢の夜天光に目を奪われておるわ!)


 ……………………あれ?


(最初はこやつに随分と振りまわされておったが、よく見れば死んだ沙耶子にそっくりの顔立ちではないか!)


 もしも〜し、北辰さ〜ん?


(これは最早天が我に遣わされた我と沙耶子の子供に相違あるまい! でなければ機動兵器がいきなり子供な ぞになるはずもない!


 ……どうやら常識外なことが起こったために、少々錯乱気味らしい。
 まぁ確かに普通は戦闘ロボットが美少女に変身するなど、思いも付かないことだろう。


(あのラピスを養子にするのはしくじったが、今度はしくじぬ! そして今度こそ我が一族から代々続く光源氏計画を実現させるのだ!)


 ……駄目だ、やっぱコイツ外道だ。


「ねぇほっくん」

「…………どうした、夜天光」


 愛しのやーちゃんから声が懸かり、表情が緩みそうになるのを抑えながら振り向く北辰。


「さっきからず〜っと歩いてるけど、今日はどこいくの?」

「うむ、我が復讐の怨敵である彼奴に一矢報いるために、まずは英気を養う」

「おー…」


 言葉の意味を分かっていないのか、呆けた顔でそう言うやーちゃん。
 仮にも元機動兵器というのに、語録が足りていないようだ。


「まずは酒と飯、そして暖かい布団だ」

「やーはプリンアラモード〜♪」


 外道の癖にやけに俗っぽい希望である。
 やーちゃんに関しては似合ってるので問題ないが。


「そしてその後はレンタルショップに足を運んでゲキガンガーだ!」


 その言葉に微妙な顔をするやーちゃん。
 主の前でそんな表情をするのはごく稀なため、北辰も「そんな表情もまたイイ……」と満足そうである。


「……やーはアレうるさくて嫌い」

「フッ、我は端から女子供にゲキガンガーを理解できることなど期待しておらん。貴様は『ヤレ行け! ボウシパンマン!』で も見ているがいい!」


 木蓮の聖典であるゲキガンガーにはこの外道も愛着があるらしい。
 いかに爬虫類顔でも、やはり根は木蓮男児なのだろう。

 そうして人々の種々の視線を受けながら、街を練り歩く異質な二人組み。
 「完全征腹! ガルデローベ飯店ガイド!」という雑誌を覗き込みながら、腹を満たすために次々と飯屋を制覇していく。
 木蓮男児は戦時中の食事が酷かったので、基本的には大食いなのだ。
 加えてやーちゃんも機動兵器の癖に甘い物好きで、プリンアラモードだけでなく、アイスや大福、ジャンボパフェなどの甘味を次々と平らげ、怪しい二人組み の異常な食欲をもって、ガルデローベのコック達の顔を青褪めさせていった。

 そうして一通り腹も含んだ所でレンタルショップへと赴いた北辰だったが――――


「ええい何故だ! 何故この街にはゲキガンガーが置いておらんのだ!」


 当然ながら、地球や木蓮とは全く縁も所縁もない惑星にゲキガンガーなぞ置いているわけがない。
 カラフルな色合いと、たっぷりの採光によって異様に明るい店内において、北辰とやーちゃんは服装もあってやけに目立っていた。


「第一なんだこの『魔法プリンス リビダルやいば♪』とかいう訳の分からんアニメは! 普通は魔法少女だろうが!」


 北辰が手に持っているディスクのパッケージには、白を基調としたフリル付きのシャツに半ズボン、そしてマントに金属質の杖を握った茶色のショートカット のあどけない少年がニッコリと笑っていた。


「え〜、でも可愛いよこのパッケージの男の子」

「年端も行かぬ半パンの少年なんぞに萌えてたまるか!」


 他にも色々と作品を見て周る二人だが、何故かいたいけな少年が活躍する作品が異様に多い。
 おそらく、近くにオトメ候補生の学園があるため、自然とそのようなラインナップになっていったのだろう。


「え〜い全くなっとらん店だ! 萌えはともかく、燃えの作品が全く置いておらんとは! けしからん! 全く持ってけしからん!!」


 店の中で叫ぶ編み笠のマント男。
 そんな様子に流石に店員さん達も見過ごすことが出来ず――


「ちょっとお客さん! 聞き捨てなら無いねぇ」

「なに?」

(以下、お店の人からのエアルにおける、燃えと萌えの解説が続く――――)










「不覚、我がかの様な者に2時間も動きを封じられるとは……」


 レンタルショップの前には、少しふらついた北辰と長い話によって完全に熟睡したやーちゃんの姿があった。


「だがまあ良い、あの店員のおかげで色々と分かったことがある」


 北辰が思い返すのは、必死にこの世界における「燃え」を伝えようとする店員の表情だ。

 彼は本気だった。

 例え多くの人がそれを理解できなくとも、自分だけはその道を貫き通すのだという意思があの店員の瞳から伺えた。
 この世界に本当の「燃え」は非ず、されどエアルを蔓延する「萌え」の中にも確かに「燃え」はあるのだと彼は言っていた。
 彼はその「燃え」に賛同する同士が一人でもいる限り、あと十年は戦えるのだとはっきりとした口調で言っていた。


「あのような者がいるのならば、この世界でゲキガン魂が宿るのもそう遠くないことであろう」


 北辰はそう言い残すと、やーちゃんと共にそのレンタルショップを後にしたのだった。

 ――――両手に「魔法プリンス リビダルやいば♪」の全巻が入った布袋を持って。















 一方その頃、テンカワ・アキトと彼の守護者であるサレナと言えば――――。


「マスター、紅茶を淹れてきました」

「有難うサレナ…………あぁ、美味いな」


 メイド服を着たサレナが淹れた紅茶に口をつけ、静かにそれを飲みながら目を細めるアキト。
 マシロもアリカもおらず、二人だけの世界でゆっくりと時間が過ぎていく中。


「俺達出番無いけど……平和だなぁ」

「ええ、そうですね……」


 暖かい日差しの元、のんびりと学園の寮でまどろんでいたという。





 おわる






あとがき


 とりあえず色々とゴメンナサイ。
 鳩さんの作品で描写がありましたが、「ほっくんからの愛が無くなるとやーは死んじゃうけど」とやーは言っておりました。
 そしてやーは元機動兵器のAIが元、つまりは彼女が北辰に嘘を言う可能性は全く無いと言っていいでしょう。
 つまりは北辰はそっけない表情をしながらもやーちゃんを溺愛していたんだよ!!


 あ、ちなみにこれってやーちゃんの作品じゃなくて北辰の作品じゃね? という突っ込みは受けますが、返しはしないのであしからず。




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