「つぅ……」


捌き切れずに弾幕があたしの体を打ち据えてゴロゴロと転がす。
それを空中から見下ろしているのは、再び大量の弾幕を展開した“もう一人”のあたし。
彼女は、それはもう太陽のような笑顔を浮かべて死刑宣告を下した。


「これで終わりだよ、それーっ!」
「相変わらず卑怯よぉぉぉぉ!!」


もう一人のあたしの放つ数の暴力に、あたしはそう叫ぶしかなかった。


―――――――――――

――――――――

―――――

――


「……ふぅ」


目を覚ましたあたしはため息を吐いて布団から起き上がる。
初めて例の夢を見てから、毎日決まって例の夢を見るようになった。
霊撃を使えるようになってからは夢の中にも霊撃を持ち込めるようにはなったけど、向こうの弾幕は霊撃では消せないらしく、今日も勝てずに吹っ飛ばされて終わるのがオチだった。


「ま、とりあえず日課をしようかな」


うじうじ悩むのもあれなので、あたしは巫女服に着替えて、いつもの日課を始めることにした。



―――――



「ふぅ、こんなものかな」


日課を終えたあたしは朝食を作るべく、台所へ向かう。
そして食料庫を開けて材料を取り出そうとして、固まった。


「……無い」


あたしは扉を開けた手を止めて呻いた。
何故なら、そこには何も無かったからだ。見事に何も無い。すっからかんだ。


「嘘、まさか昨日の晩御飯で終わりだったと言うの……ッ!」


まずい。これは非常にまずい事態よ。
確かに少ない少ないとは思ってたけど、まさかここまで少なかったなんて。


「……こうなったら仕方が無い」


あたしは意を決して、霊夢の部屋へ向かう。
霊撃の一件から、霊夢はご飯を食べる時以外はずっと部屋に閉じこもって霊撃の改良をしていた。

魔理沙曰く「ここまで真剣な霊夢は初めて見たぜ」との事だった。

霊夢にも「用がある時以外立ち入り禁止。くだらない用事だったら張っ倒す」と釘を刺されたので、その真剣さはいやでも分かるけど、今は緊急事態だ。

霊夢の部屋の前まで来ると、思いっきり襖を開いて叫んだ。


「霊夢ッ! 緊急事たむがぁ!?」
「五月蝿いわね。気が散るから入らないでって言ったじゃない」


直後、真正面に飛んできた陰陽玉をまともに顔面に受けて、あたしは縁側に無様に転がった。
なんという硬さなのよ。鼻血まで出してしまったじゃない。
……いやいや、今は鼻血よりも大事なことがある。
めげずに立ち上がると、今度こそ霊夢に届けと大声を上げる。


「霊夢! 緊急事態なの! 食料がゼロよ!!」
「なん……ですって……!」


めんどくさそうにしていた霊夢の顔が見る見るうちに青ざめていく。
そして、ぶつぶつと呟き始める。


「おかしいわね……。私の計算だとまだ三日は持ったはずなのに……あ」


ぶつぶつと呟いていた霊夢は何か納得したようにあたしの方に向いた。


「そうか、智香が居候し始めたから倍速で無くなったのね」
「……むむむ」


確かにあたしという居候が増えて、単純計算で食料の消費は倍になった、と言っても過言ではない。
だんだんあたしは罪悪感に苛まれていく。
あたしが来たから食糧難に、あたしが来たから食糧難に、あたしが来たから食糧……。


「いいから買ってきなさい」
「めがっ!?」


ネガティブモードに移行しかけたあたしに霊夢が陰陽玉ごと何かをぶつけてきた。
陰陽球がぶつかったおでこをさすりながらその何かを拾うと、それはがま口だった。
中を開けて見ると、一分銀1枚と銅銭が割と入っていた。


……ゑ?あたしにこれを持って買い物に行けと?


「もちろんよ。私はこれで忙しいんだからあんたが行くしかないでしょ」
「ですよねー」


溜め息を吐いて、あたしはがま口を袖に仕舞う。
しかし、ここで疑問がひとつ。


「でもどうやって人里に行くのよ?」


そう、あたしはここヘ居候を始めてから一度も近くの原っぱ含め、神社の外へ出たことがない。
場所も分からない人里へどうやって行けと。
そう尋ねると、霊夢は溜め息を吐くと、机に乗っている引き出しから何か紙切れのようなものを取り出してあたしに差し出した。
受け取って見ると、それは良く出来た幻想郷の地図だった。なるほど、これがあればあたしでも人里に行くことができる。
それも大事に袖に仕舞っていると、霊夢が今度は何かの御札を差し出してきた。


「これは?」
「ちょっとした結界を張る札よ。持ってるだけで若干魔除けの効果があるけど、智香が作ったら多分かなり強化されるはずよ。作り直すかどうかは任せるわ」
「ん、ありがたくもらうね」


あたしは霊夢に礼を言って、お札を受け取って自室へと向かう。
とりあえず、念の為お札は作り直す事にした。
弾幕が出せない上に自分の霊撃札でさえ満足に扱えない今、妖怪から確実に身を守るためには堅実に行くしかない。
普通の霊撃札もあまり消費したくないし。
部屋に戻ると早速筆を取って霊夢のくれたお札を見ながら新しい和紙に書き写す。
一見すると模写するだけのように思えるこの作業も案外難しいもので、筆跡は兎も角、書き方は完全にトレースしなければならない。
しかも、今回のターゲットは結界札で、文字もかなり複雑。
そこから文字の書き始めを見つけ、書き方をトレースしなければならない。
地味で面倒な事この上ないけど、やらなければ自分の身が心配なので腹を括って模写に取り組む。
まずはこの手のお札にありがちな五芒星から手をつける。
これを書いておけば大抵のものは魔除けになるしね。
筆を墨で湿らせて、丁寧に五芒星を書き始める。と言ってもこれはわりと簡単な作業なのですぐに終わった。
……さて、問題はここからね。
一旦使わない和紙に一通り札の文字を書き写し、一応写せているか確認した後、改めてお札に書き始める。
元からこういう仕事に家庭の都合上慣れていたあたしは、数分後、実は大した労力を使わずに1枚のお札を完成させていた。
取り敢えず、出来栄えを霊夢に見せてから出かけよう。
そう思って霊夢の部屋に行き、そこで再び陰陽玉を食らうことになったのだが、それはさて置き。
霊夢に大丈夫だと太鼓判をもらったあたしは、買ったものを入れる籠を用意して神社を後にしたのだった。



―――――



神社を出発してから大体三十分は歩いたと思う。今のところ妖怪の類に襲われるようなことはない。
いや、時折何かの気配は感じるんだけど、近くまで来ると急に反転して消えるみたいだった。
おそらくお札が効いているのかな。……と、信じたい。じゃないとあたしの精神がマッハで削れる。


「とにかく急がないとまずいよね……」


裏に生えていた山菜類と僅かに残った調味料で一応朝食と昼食(の仕込み)は作ってきたものの、量が心許無いのは確かなので、早めに買って戻らなくてはならない。
という訳で、そろそろ早足にした方が良いかな。


……気配が怖い訳じゃないから。うん、怖い訳じゃない。絶対に。



―――――



「……ちょっとルナ、これってどういうことよ」
「私に言われても困るわよサニー」


私のやる気の無くなった声に困ったようにルナが返してきた。
辺りを恐る恐る警戒しながら歩いている人間の女の子に悪戯をしようと、ルナとスターを誘ってやってみたはいいけど、近づこうとする度に見えない“ナニカ”に弾かれてしまう。
しかもタチの悪いことに私の能力が通じないのだ。多分あの“ナニカ”に弾かれてると思う。
―――私でも分かるよそのくらい。
問題はこのままでは悪戯失敗ということに成りかねないということ。
いや、悪戯失敗というのは稀にあるから違う。
巫女や魔法使い相手にも、看破されることはあっても弾かれるなんて事はなかった。
だから正直言って悔しい。どうしてもあの“ナニカ”に目に物見せてやりたい。
……お腹空いたなぁ。今日のお昼何だろ。またルナのふうき味噌かな。ルナは「……春」とかほっこりしながら言ってるけど、私はあまり好きじゃないんだよね。あれ?蕗の薹ってもう旬過ぎたっけ?


「……サニー、あの人間どっか行ってしまうわよ」
「はえ? ……わ、わわ!」


と、思考がだんだんズレていく私の肩を呆れながらスターが叩いてくる。
見ると人間はずいぶん先に進んでしまっていた。慌てて後を追いかける。
しかし、追いかけたところで私達が出来ることなんて無かったのだった。


「悔しー!」


ルナの能力で声が辺りに響くことはないけど、取り敢えず私は大声で叫んでおいた。



―――――



「や、やっとついたわね……人里」


人里の入口まで辿り着いたあたしは、安堵のため息を漏らした。
既に日は高く昇っているから早目に買い物を済ませないと霊夢が大変なことになるかも知れない。主に空腹的な意味で。
そう思って、人里に足を踏み入れる。


「………なんという時代劇………」


目の前に立ち並ぶ時代劇に出てくるような木造の古めかしい家々を見てそんな感想を思う。
これ、セットとかじゃないよね。まるでタイムスリップした気分ね。
物珍しそうに家々を見ながらお店を探していると、やたら人の目線が気になってきた。
さらに道往く人々はこちらを見るなり、驚いたような顔をして何処かへ駆けていく。
……あたし、何か入っちゃいけなかったのかな?
なんだか不安になりつつ歩を進めていくうちに、やがて一人のおばあちゃんがあたしの目の前にやってきた。


「え…えと……?」
「おお……博麗の巫女様じゃ…」


見知らぬ人にまじまじと見つめられて困惑しながらも声をかけると、おばあちゃんはいきなりあたしの前で手を合わせて拝み始めたのだ。
こっちとしては訳が分からない。いきなり拝まれる覚えはないし、なんだか恥ずかしくなってきた。


「ちょ、ちょっと…人違いですってば。あたしは博麗の巫女様じゃないです」
「そんなことはありませぬ。その服は紛う事なき博麗の巫女服でございます。その服を着ておられるお方が博麗の巫女でなくてなんというのでしょう」
「え、えっとぉ……」


どう対応していいか分からずに困って辺りを見ると、既にあたしの周りには人だかりができていた。
そしてその誰もがあたしを見て拝んでいるのだ。


「巫女様…!」
「おお、巫女様じゃ…!」
「こうして里に来てくださるとは……」


いや、だからそんな拝まれてもあたしは霊夢じゃないんだから拝まれる価値なんてないですって…。
ますます増えていく人だかりを抜けることができずに呆然としていると、遠くから「ちょっとどいてくれないか」という声と共に人だかりが割れて、その中を一人の女の人が割って入ってきた。


「おい、霊夢これはどういう……ん?」


そう言いながらあたしの顔を見るなり首をかしげる女の人。


「君は…?博麗の巫女服を着ているところを見ると関係者ではあるようだが」
「は、はい。一応霊夢の所に居候してます……」
「ふむ、とりあえず場所を移そう。ここでは騒がしいだろう」


そう言って女の人は村の人に二言三言告げるとあたしを手招きする。
あたしはそれにおとなしくついていくことにしたのだった。



―――――



「ふむ、食料が無くなったのでここに買い出しに来たわけか」
「まあそうです、はい」


女の人――上白沢慧音さんというらしい――に案内された家で、あたしは軽い挨拶とこれまでの経緯を話した。
慧音さんはここの守護者をしているらしく、さっきも変な人だかりができていることに不審を抱いて来てくれたらしい。
まあ来てくれなかったらわやくちゃにされていただろうから、感謝感謝ね。


「それで買い物をしたいんですけど、村の人の様子があれだとちょっと……」
「ああ、安心してくれ。私はこれから寺子屋だから付き合えないが、代わりを用意した。という訳で頼むぞ妹紅」
「ええっ!?なんで私が…」


慧音さんの隣に座っていた白髪の女の人が不満そうな顔をして慧音さんに抗議する。
一応紹介はしてもらっている。藤原妹紅と言うらしい。
藤原って……と思ったけど、流石に時代がアレすぎる。関係ないと思う、たぶん。


「良いじゃないか。お前が一緒だと安心だ。頼むぞ」
「……仕方ないなぁ。今回だけだぞー?」


はぁー、と長いため息を吐いて、よっこいしょと妹紅さんが立ち上がる。
それと一緒にあたしも立ち上がる。


「それじゃあお邪魔しました慧音さん」
「ああ、また来てくれ」


慧音さんに挨拶をしてあたしと妹紅さんは慧音さんの家を出た。
その後、妹紅さんが八百屋さんとかに案内してくれるということなんだけど……。


「………」
「………」


うわっ、重い! なんか重いよ空気! めんどくさいっていう空気が妹紅さんから溢れ出してる!
えっと、なんて言ったらいいんだろう……。うーん、思いつかない。

いい天気ですね? なんか違う。
慧音さんとはどこで? ここで聞く話じゃないわね。
なんで白髪? いや、さすがに失礼でしょ。


「……着いたわよ」
「……へ?」


そんな思考の海に沈んでいると妹紅さんが立ち止ってある家を指さしたので慌てて立ち止まってその家を確認すると、八百屋さんだった。


「おう、採れたての野菜だぜ! 巫女さん、どうだい?」
「だから巫女じゃないですって……」
「俺たちにとっちゃその服着てるだけで巫女さんなんだよ。まあ少し負けてやるから好きなの選びな!」
「あ、ありがとうございます」


威勢のいいおっちゃんに感謝して野菜を吟味する。
うーん、春物だからキャベツとかあるわね。タラの芽とかの山菜も多いわね。
どれにしょうかちょっと悩むなぁ……。


「………」


怖ッ! 妹紅さんめっちゃ怖ッ!
なんかすんごいプレッシャー掛かってくるんだけど! そんなにめんどくさかったの!?


「えっと、じゃあこれとこれをお願いします」
「あいよ! じゃあ合わせてこんなもんだな!」


パチパチと器用にそろばんを弾いて値段を出したおっちゃんにあたしはがまぐちからお金を取り出して渡す。
それと引き換えに野菜の入った籠を受け取る。……籠!?


「他にも回るんだろ? だったらそれ使いな。その代り野菜はうちで頼むぜ?」
「あ、ありがとうございます」


頭を大きく下げておっちゃんにお礼を言った後、あたしと妹紅さんは八百屋を後にした。
次のお店に向かう途中で、あたしは勇気を振り絞って妹紅さんに話しかける。


「えっと、妹紅さん?」
「ああ?」
「う……なんでそんなに不機嫌なんですか?」
「……いや、別に不機嫌なわけじゃないからあまり気にしないで欲しいんだけど」
「逆に気になるんです。というか誰が見ても不機嫌です」
「………」


ふと妹紅さんが立ち止ったので、あたしもつられて立ち止まる。
妹紅さんは大きくため息を吐くと、あたしの方を振り向いた。


「……あなた、その霊力は一体何なの?」
「……へ?」


突然言われた事に着いていけず思わず変な声で聞き返すあたし。
その反応には妹紅さんにも予想外だったようで、彼女自身も驚いた顔をしていた。


「へ? ってあなた気が付かなかったの?」
「全く何の事だか」
「……はぁ……」


首をかしげると思いっきり呆れられてしまった。むぅ。


「あなた、常人ではありえないぐらい霊力を保有してるのよ、外の人間なのに。しかも傍までよらないと気が付かないぐらいその霊力は放出されていない……はっきり言って異常よ。博麗の巫女には何も言われなかったの?」
「いえ……、自分より霊力が多いんじゃないかって言われたぐらいで……」
「まあ、彼女のことだから分かっていて放っておいてある可能性もあるわね。その事についてはもう気にしないわ。けど一つ覚えておいて」
「はい?」
「その異常な程膨大な霊力、今でこそ何もないけど、何かの拍子に手が付けられなくなるかもしれないわ。……気を付けることね」
「は、はい。肝に銘じておきます」


真剣な妹紅さんの言葉にあたしはしっかりと首を縦に振った。
それに満足したのか、妹紅さんは笑顔になってまた村の一角を指さした。


「あそこが魚屋よ。今なら諸子辺りが旬だと思うわ」
「も、諸子!?」


妹紅さんの言葉に思わず声が上ずるあたし。
だって諸子ってあれでしょ?琵琶湖とかの近江の近くで獲れる魚で珍しいんじゃなかったっけ?
ここ最近の漁獲量が減ってすんごい高いお魚だったんじゃ……。


「あれ? 諸子を知らないの?」
「い、いえ、知ってますけど……」
「そうなの? じゃあどうして?」
「諸子って外じゃ珍しいんですよ」
「へぇ、そうなの」


そんな会話をしながら店に入るとまたもやおっちゃんが魚の入った藁の皿を氷の上に並べていた。
そのおっちゃんに妹紅さんが先に声をかける。


「おっちゃん、活きのいい諸子ある?」
「そりゃあ、こいつらみんな新鮮だぜ?」
「じゃあこれはどう?」
「ん? こいつか? 相変わらず目がいいな妹紅の嬢ちゃん」
「はは、どうも」
「ほれ、おまけしてやろう」
「有難う、おっちゃん」
「はは、いいってことよ!」


布で包まれた魚を受け取った妹紅さんはそれをあたしにパスする。
受け取ったあたしは籠の中にそれを大切に入れる。


「巫女様、魚を持たせたいんなら日干しにするといいぜ。ほれ、塩もおまけするぜ」
「ありがとうございます。えと、お値段は…」
「いいよ、ここは私が払ってあげるから」
「え、そんな悪いですって」
「いいからいいから」


そう言って妹紅さんはさっさと代金を支払ってしまった。
仕方ない。好意はありがたく受け取っておこう。



―――――



買い物を終えて村の入り口に来た頃にはすっかり日が傾いていた。


「今日はありがとうございました妹紅さん」
「いや、妹紅でいいよ。うーん、暗くなってきたわね。神社まで送るよ」


ぺこと頭を下げると、恥ずかしそうに妹紅さん……いや、妹紅は手を振り、それからそんな提案をしてきた。
正直ありがたいけど、そこまでしてもらうわけにはいかない。


「いえ、悪いですって」
「何言ってるのよ。あなたの霊力、そこまで抑えられてるってことは使えないってことじゃないの?」
「うっ……。でもいざとなったら霊撃がありますし」
「それだけで足りると思ってるの? それにその結界札だけじゃ心配だし」
「あ、それは分かってたんですね」
「当り前よ」


ですよね。
あはは、と乾いた笑いをしていると妹紅はさっさと歩きだして、あたしを手招きした。
あたしはもう一度ぺこと頭を下げてから妹紅の後を着いて行ったのだった。



―――――



神社に戻った頃にはすっかり暗くなっていた。
途中また例の気配があったけど、今回は全く何もせずにすぐに消えてしまった。なんだったんだろう。


「ありがとう、妹紅。ついでだし、何か食べてく?」


あたしが妹紅にそういうと、妹紅はブンブンと首を振る。


「いいよ、悪いし」
「今日のお礼だと思って受け取ってよ」
「……仕方ないなぁ」


あたしのごり押しの説得に仕方なく応じてくれた妹紅はあたしの後に続いて神社に入る。
とりあえず霊夢に挨拶しとくべきだと思い、霊夢の部屋に向かう。
部屋の前に行くと、灯りが点いていた。どうやらまだ生きてはいるようね。


「霊夢ー? 買い物してきたよー?」


そう声をかけた途端、ダン、と障子が開かれる。
中から現れた霊夢は割とやばげな形相であたしの胸元を掴む。


「え、えと……?」
「よくやったわ。早く晩御飯お願いね」
「う、うん……」


霊夢の迫力に気圧されて頷いたあたしはとりあえず台所へ向かう。


「手伝おうか?」
「うーん、別に一人でも大丈夫だよ。妹紅はお客さんだしね」
「いや、手伝わせてよ。霊夢にも食わせないといけないんでしょ?」
「まあそうだけど、じゃあお願いしていい?」
「ん、任されたわ」


そう頷いて妹紅は腕まくりをしてあたしの隣に立った。


「私は何すればいいかな?」
「とりあえずその鶏のモモを焼いてくれる?味付けはしておくから」
「了解。焼くのは任せてよ」


そうして二人でお互いのことを話しながら料理を作った。
あたしは外の事。
妹紅は自分の暮らしや慧音さんの事。
いろいろ聞けて、話せて楽しかった。
気が付くと一杯に作られた料理がちゃぶ台の上をひしめいていた。
準備が出来たので、霊夢の所へ呼びに行く。


「霊夢ー、ご飯出来たよー」
「待ってたわ!」


ダン、と勢いよく障子が開いて霊夢が飛び出して居間へと向かっていく。


「あはは……」


置いて行かれたあたしは乾いた笑いを上げるしかできなかった……。


「あれ、なんであんたがいるのよ」
「智香に誘われたのよ。良いじゃない」
「もう…また食材減るじゃない……」
「今度また食材持って遊びに来てあげるわよ」
「それよりお賽銭が欲しいわ」
「霊夢、相変わらずだねぇ……」


―――まあ、その日の晩御飯はとても美味しかった、うん。


その後、夜も遅いということで、妹紅は一晩泊まることになり、自分の部屋でまた話が盛り上がったのは別のお話――。




あとがき

長らく音沙汰無しで済みませんでした、何とか立ち直りました。
これからもゆっくりではありますが完結を目指して頑張りたいと思います。



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