放課後――。
 一部の生徒にとっては甘美な響きを醸し出し、一部の生徒にとっては憂鬱な響きを醸し出す、特別な時間。
 学生生活とは、青春とは、魔法だ。と、大人たちは口を揃えて云う。
 なかでも、一番重要だと言い切って問題ない時間帯は、放課後だ。



 コジローはそんなことを考えながら、小テストの採点をまとめ、職員室を後にした。
 俺は、若かりし頃の一番重要な時間を部活に費やした。
 後悔はしていない。
 確かに女子ともっと上手く接していれば、甘美な青春を謳歌出来たかもしれない。
 が、あの頃の自分に何が出来たか。
 きっと無理に背伸びしたところで、失敗していたに違いない。
 そんな事よりも、俺は剣道が楽しかった。
 あの頃はそれが全てだった。
 他人からすれば冴えない青春でも、俺の中では眩しい良い思い出だ。
 魔法は、解けるまでそれが魔法だとは気付けない。
 冷めた視点で刹那的に過ごすより、思いっきり楽しんで過ごす。
 それが正解だと解るのは、いつだって魔法が溶けてからなのだ。



 廊下からグラウンドを見渡す。
 サッカー部、野球部、陸上部。
 練習に精を出している部員の汗が輝いて見える。
 若さって、重要だなぁ。
 吉河先生から言わせれば、気持ちが若ければ年を取ってても関係ないそうだ。
 うん、最近なんとなくそれは正しいと思える。 
 俺もあいつら……剣道部の奴らと練習試合だ大会だと打ち込んで、少しは若返った気がする。
 なんてゆうか、ポジティヴなエネルギーを貰ってるというか……、小さな悩みに足を引きずられてる感が消えた。
 思えば俺が学生の頃も、欲しいものの為に食費削ったりして、お金はなかった。
 毎日の食費の為に真剣に悩んでる暇は、今はもうない。
 確かに肉体は日々老いを重ねていくが、それに身を任せて腐っていく気はない。
 教師として、剣道部顧問として、背中にのしかかる責任感が良い意味で心地よい。
 教師も、生徒と共に、成長していく。
 先輩のように2校掛け持ちとはいかないまでも、室江高校剣道部にコジローあり、くらいはなりてぇ。
 絶好調とまでは流石に言えないけど、最近、俺は好調だ。





KIYOSUGI×BLADE 第2話「清杉と剣道部」
髭猫 作





 ねこがにゃーと鳴いているのが、どこからか聞こえてくる。
 空がオレンジに変色する準備を整えた頃、剣道部の部室は騒がしくなり始める。
 食用ニワトリが絞め殺される時に放つ、悲鳴のようなかけ声が、道場の外まで響くのだ。
 が、今日に至っては、ある男子生徒の怒声が響くのみだった。

「杉小路てめぇ――――!!」

 清村が怒り狂って杉小路を追いかけまわす。
 楽しみにしておいた新製品、「はちみつミルクチョコ」をこっそり食べられてしまったからだ。しかも全部。
 清村に飲み物を買いに行かせてる内に、つまらないものですが、と杉小路がキリノとタマキに差し出してしまったのだ。
 勿論、戻ってくる頃にはキレイサッパリない。
 いやあ、彼女達の喜ぶ顔が見たくてさ。そう言いながら最後の1つをぱくり。
 飲み物の入った袋をどさりと落とした清村は、サイヤ人よろしく怒りの戦士と化したのだった。

挿絵「ごひほうはまへひちゃ」

 お口をもごもごさせながら清村に聞こえないようにつぶやいて、道場の端で正座して粗茶をすするキリノ。
 その横には、若干オロオロしながらも2人の様子を見守るタマキ。
 ご覧の通り、一番食べたのは実は杉小路ではなくキリノだったりするのだが。

「待て、今日という今日は逃がさんぞ!!」

 とうとう清村は杉小路を追いかけ、道場の外へ飛び出す。 

「二人とも、年上とはとても思えないくらいのはしゃぎっぷりですのぉ」
「小学生みたいです」

 傍観していた2人の率直な感想。
 室江高校女子剣道部は、正直な面々の集まりで活動しております。



「甘いぞ清村!!」
「へぶっ!?」

 バキッと、嫌な音がした。
 静まり返る外。
 そして戻ってきたのは杉小路だけであった。

「まったく、これだから甘党は……」

 騒動の元凶が捨てゼリフを吐き捨てたところで、ユージとダンがやって来た。

「あれー、早いですねキリノ先輩」
「おー、来たねー」
「あれ……この人……」

 ユージが杉小路を見て何か言いかけたのと、ダンが異様な殺気を感じ取ったのは、ほぼ同時だった。

「どけ……!!」

 ユージとダンの背後には、怒りの臨界点を突破寸前の清村がそびえ立っていた。

「ひいぃぃぃぃ――――――っ!!?」

 この人、仮免運転で登校して来た、(悪い意味での)噂の転校生の先輩……!?
 いやだいやだ、な、殴られる……!!
 ダンが半ベソで震えあがってあとずさったその時である。

「危ない!!」

 まるでスローモーションであった。
 勢いよくジャンプして、ユージとダンの間を華麗にすり抜けた杉小路。
 空中で両腕をクロスして、目標に向かって急降下する。
 喰らえ、ぼくの必殺技――

「超天空×(ぺけ)字拳!!!」
「ぶべ――――――――っ!!?」

 違うマンガの悪役の様な無様な声を出して吹っ飛び、清村は再び道場の外へリングアウト。
 そして、静寂が訪れた。



「いやー、さっきの必殺技で確信しましたよ。杉小路先輩だって」
「何だよ、まるでぼくが昔から何も変わってないような言い方してからに」
「先輩、カッコ良かったなあ……。まるでヒーローみたいだった」

 数分後。
 すっかり杉小路と打ち解けたユージとダン。
 ユージは昔、やはり何回かタマキの道場で杉小路を見かけていて、存在だけは知っていたのだ。

「さーて……、あ、ダンくん、ミヤミヤは?」
「今日ミヤミヤはバイトだって」
「あ、そっかー。さとりんは今日小テストの追試だし……。いっか。練習始めますかー」
「折角だからぼくも見学してっていい?」
「あー、どうぞどうぞー。大歓迎ですよん♪」
「俺とユージでしごいてやるよー」
「ははははは」

 剣道部は今日も平和(?)であった……。





 一方そのころ。
 コジローは、道場へ向かって歩いていると、道のど真ん中で寝そべっている清村を発見した。
 
「…………。」

脇には、何処からか転がってきたサッカーボール。

「おいおい清村くん、何してんだこんなとこで。怪我してるのにサッカーか」
「う……違……」
「その気持ちはわからんでもないが、無茶はいかん。大方、途中で傷が痛くなって立てなくなったんだろう?」
「杉……」
「すぐに保健の先生呼んできてやるからな、ちょっと待ってろよ」

 自分の限界がわからなくなるまで、倒れるまで、か。
 スポーツに熱中する事は大切だが、スポーツで重要なのは体調を含めた自己管理だ。
 そしてそれはスポーツに限らず、生きてく上でも重要だ。
 ふふん。まだまだ青いな。
 自分の事は兎も角、コジローはそんな事を思いながら保健室へ向かうのであった。



 清村は思った。
 俺、室江高校でもこんな運命なのかな……。



 ふと見上げると、綺麗な夕焼けが空を彩っている。
 それを美しいと感じるか憎いと感じるかは、人それぞれの感性によるが。
 この破天荒な2人の転校生による青春は、まだまだ終わる気配がない。
 むしろある意味、始まったばかりなのかもしれない。
 解けない魔法、終わらない青春。
 過ぎてしまえば、全部思い出の中で美しくなると云う。
 それぞれの想い、それぞれの意志。
 今だけが楽しい、今だけが最高、ではなく、これからも楽しく、これからも最高。
 剣道部は、現在、そんな覇気に満ちている。



 保健室に運ばれる途中、清村は思った。
 俺の青春よ、早く終われ。





……TO BE CONTINUDE






 あとがき



 どうも、髭猫です。
 アニメ版のバンブーは、30分でコミックス2話分をやってますよね。
 だからか、他のアニメと違って、30分が濃厚に感じます。はい。
 
 このSSは多分、1話の長さがコミックス1話分と同じくらいです。
 だからか、すっと読める反面、内容が薄く感じるかもしれません。
 それとどう向き合うか、が、今後の課題となりそうです(苦笑)。

 シルフェニアの他の作家さんのSSと自分のを読み比べてみて、そう思いました(苦笑)。

 課題は山積みですが、書きたいネタも山積みです(笑)。
 一気に書くと特濃になるので、慎重に味見しながら第3話も執筆したいと思います。

 それでは。
 また次も読んで頂けたら幸いです。



 P.S. あ、またヤフオクの荷物届いた。みゃ〜♪



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