赤橙の空が世界を染め、涙を誘われたいぬがばうわうと吠える頃。
 室江高校の通学路は、もうすぐ視界から消えるであろう太陽の力強い陽光に照らされ、幻想的な空気を生み出していた。
 この町は景色と空気が良い町でもあるので、昨年はドラマのロケなんかにも使われたりした。
 毎日下校途中、通学路で撮影現場に出くわすのだ。在校生は、わずかな期間ながら驚喜した。
 元々自由な校風で人気があった室江高は、ドラマ撮影の件でさらに入学時の倍率が上がったのだった。



挿絵

「そうなんですかー。それは傑作ですねー」
「でね、でね、そのたかみーがなんと、今はすずらん高校で生徒会長をしてんの」
「うわー。そうなんだー……。くっくっく、あっはははははは」

 一躍有名になったその通学路を、談笑しながら下校する清村・杉小路とタマキ・ユ―ジ。
 と言っても、主に話しているのは杉小路とユ―ジだが。
 クルマが大破したので、元とりごや組は電車で帰るのだ。残骸は既にレッカ―で自宅に移動させてある。
 ならば途中まで一緒に、との誘いを受け、杉小路は潔く承諾した。
 清村は相変わらずぶ―たれたが、コンビニでプリンを3つ買ってあげると黙ってくれた。



「……………………」

 清村は後悔していた。
 実は身体のあちこちが悲鳴をあげていて、歩くのがしんどい。
 これから電車に乗るのだが、乗り換えもあるし、何より座席に座れなかったら……。
 最寄り駅までの1時間半の間、立ちっぱ。
 つらい。
 後でオフクロに金借りてでもタクシーで帰りゃよかった。
 みんなで帰れば楽しいよ、とか、ガラにもない事をのたまった杉小路。
 お前ら3人で昔話されたら、俺はどうすればいいのだ?
 全く話題についていけない上に、盛り上がってそのまま喫茶店で何時間か続けられそうな状況で、俺はどうすればいいのだ?
 その為のプリンなのか?





KIYOSUGI BLADE 第3話「下校とそれぞれの夜」
髭猫 作



 

「たかちほ、私達、こっちだから。じゃ、また明日」
「おう!また明日ー。じゃーねー」

 交差点でタマキ・ユージと別れる。
 既に日は沈みかけ、空は濃い紫に変色を開始していた。

「おい、杉小路」

 清村が待ってましたとばかりにすかさず話しかける。

「そろそろ聞かせてもらおうか。何故この時期に室江高校なんかに編入しなけりゃならんのだ」

 杉小路は考える素振りを見せるフリをしつつも、あっけらかんと答える。

「清村は大学行くの?」
「わからん。決めてねぇ。行きたい気もするが面倒な気もする」
「とりごや高校はねぇ、スポーツ推薦枠がないんだよ」
「は?」

 いきなりそんな事を言われて、清村は思考がフリーズする。

「全くない訳じゃないけど、ホラ、今までそれで受かった前例がないから」
「ほお」
「だから、毎年何かしらきちんとしたスポーツ推薦がある高校に編入した方が楽に大学に行けるって訳」
「それは確かなのか?」
「室江高校のサッカー部の顧問と話したんだけど、条件付きでスポーツ推薦くれるって」
「ほお」
「条件っていうのは、卒業まで部の練習に特別顧問として参加する事」
「え」
「全国大会優勝の実力を活かした練習で、来年は室江高校が全国へ行けるようにしてくれってさ」
「ちょっと待て、それって俺もやらなきゃならんのか?」
「そうだよ。1人より2人の方が教え易いじゃん」
「お前にサッカーを教える技量があると思ってやがんのか」

 清村は憤慨した。俺の知らない間でそんな取引が行われていたなんて。
 杉小路、こいつはとりごや高校サッカー部でただ部長だっただけだ。
 それなのに、優勝した事と自分が部長だった事をフル活用して、これからをエンジョイしようとしてやがる。
 しかも俺を巻き込んでおいて、俺の意見や意志が介入する余地はないらしい。

「ふざけんな」
「え?」
「お前、とりごやの時みたいに毎日ふざけてたら、推薦なんかもらえねーに決まってんだろ」
「まあね、でも適当でいいと思うよ。別に毎日サッカー部に行かなくていいんだし」
「そうなのか??」
「うん、週1〜2回くらいで、時間が空いたらでいいって」
「少なっ」
「しかも顧問は、やるだけやりました、って大義名分が欲しいだけみたいよ、実は」
「なんだそりゃ」
「要は、今まで以上のサッカー部の部費が手に入ればそれでいいんだって」
「…………」

 腐っとる。顧問の野朗もそうだが、こいつも腐っとる。
 でも、反論しようにも俺にもメリットがあるし、まあ週1〜2回ならいっか、と思ってる自分がいる。



 結論。こいつは悪魔だ。悪魔の申し子だ。
 帰りの電車の中で清村はついに諦め、明日の事を考え出したのだった。





 こちらはユージとタマキ。
 清村・杉小路と別れた後、杉小路についての話題が出た。

「杉小路先輩、何にも変わってなかったね」
「うん」
「ああ、また明日からなんか楽しくなりそうだなあ」
「うん」
「……タマちゃん?」
「うん」
「……タマちゃ〜ん? お〜い」
「うん」

 タマキは考え事をしていた。
 それは勿論、杉小路について。
 たかちほが編入してきた事は嬉しい。
 これから毎日同じ学校で遊べるのを思うと、うきうきする。
 けど。
 なんだろう、胸がモヤモヤする。
 昔と変わらず、明るくて、社交的で、ちょっとやんちゃで、面白くて、賢くて、優しい。
 たかちほは何も変わってない。
 それは安心感。
 でも。
 どこか寂しいような、残念なような。
 この気持ちは何だろう。



 自分の感情が自分で説明出来ない。
 タマキが抱いた感情とは、俗に言う何だったのだろうか。
 それは、タマキ以外には誰にもわからない。






「もしもしー? サヤー?」
「おうー! キリノー! どったのー?」

 風呂上りのキリノが電話した相手とは、サヤこと桑原鞘子であった。
 室江高校女子剣道部2年。良い意味でも悪い意味でも真っ直ぐな性格の、キリノに続く剣道部のムードメイカー(?)である。

「ちょっとねー、今日ねー、面白い事があったんよー。サヤ何で今日学校来なかったのー?」
「いや、よくぞ訊いてくれました! あんね、遂に! 遂に!! Fのコードが押さえれるようになったの!!」

 ほへ〜??
 キリノは頭に沢山のクエスチョンマークを並べて意味を理解しようと試みた。
 ああ、ギターか。サヤ、まだやってたんだ……。

「ああそう、おめでと。それよりね、聞いてよ。今日ね、転校生が来てね――。」






「ああう〜。腹減った〜」

 コジローは一人、家で空腹と格闘していた。

「ごめん。無理。」

 意志は砕かれ、プライドは砂になって夜空に舞った。
 おもむろに携帯を取り出し、電話する。

「ごめん。俺。コジロー。ノブちゃん、やっぱ今月も金貸して……」






 電車を降りた清村と杉小路は、疲労の色を隠さず無言で改札を出た。
 結局、座れなかったのだ。1時間半立ちっぱ。これを毎日続けたら、卒業までもたないかもしれない。

「しんどい……」
「安心しろ、清村。今晩頑張って壊れたクルマ直すから」
「もうそんな気力残ってねーだろ……」
「だから清村も明日までに身体治しといてね」
「いや、無理だろ……」



 清村はまた今日も大人になった。
 何で始まりはいつも憂鬱なんだろう。
 何で終われば全て美しいんだろう。
 その答えのひと欠片を、今日手に入れた。
 ……そんな気がする。





……TO BE CONTINUDE






 あとがき



 どうも、髭猫です。
 更新遅れてごめんなさい。
 来週はきちんと月曜に更新出来るように頑張ります。



 さて、ワタクシ先日とある本を発見しました。
 バンブーブレイドのオフィシャルの小説です。(遅
 ええ、衝動買いしましたが何か?



 このSSが更新される頃にはコミックス8巻も発売されてます。
 資料が増えるのは有り難い事です!(ぇ



 SSというものを書き始めてから、
 作品に対する愛だけで文章力を補う事は困難だと痛感しております。
 精進します。
 また読んで頂ければ幸いです。



 P.S. バンブーファンの「キリノは俺の嫁」発言には吹きました(笑)。



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