「おはよう、清村。早く乗れよ」

 ドサッ。
 玄関を出てすぐにその光景を目の当たりにした清村は、鞄を落とした。
 ついでに、学校に行く気力も落とした。
 杉小路が昨日と同じ、軽に乗っていて、車窓から呼びかけて来たからである。

「……………………。」

 まるで得体の知れない巨大な霊をおんぶしてるかのように、清村は背中を丸め肩を落とす。

「どうしたんだよ、清村。朝っぱらからゴリラの真似か?」
「だまれ」

 ぴしゃりと会話を遮る。
 コイツ、本当に一晩で軽を修理しやがった……。



 高速に乗ると、信号のない道路は一瞬だけ自由な空間になる。
 朝の出勤ラッシュは何処だろうと変わらず、高速の上だろうと例外ではない。
 じきに混み出すと、3ケタの速度は出せなくなる。事故が起きれば尚更だ。

「杉小路、お前さぁ」

 清村が話しかける。

「ん?」

 前を向いたまま杉小路は答える。

「クルマ一晩で直せるんだったらさ、整備士になれるんじゃね?」

 清村は思った事をそのまま言ってみた。

「ヤだよ面倒臭い」

 もの凄い理由で断られた。
 
「どうせならぼくはもっと安定した高収入の企業で働くよ」

 更に、夢のない超現実的な意見を被せられた。
 コイツは、その安定した高収入とやらの為にあらゆる姑息な手を使いそうで怖い。
 時々思うのだが、コイツはたまに考えが達観していて、ついていけない。
 そのせいか、本当に同い年かと疑う時がたまにある。
 ふと窓の外を見ると、隣を走ってるクルマの運転手がまじまじとこっちを見ていた。
 制服姿で堂々とクルマを運転しているのに驚いたのだろう。
 何故これで警察に捕まらないか俺は不思議でならない。一体どんな抜け穴を通ったのだろうか。

「ま、フィクションだしな」

 言ってはいけない裏事情をこぼし、清村は考えるのを止めた。





KIYOSUGI×BLADE 第4話「竹刀と竹刀」
髭猫 作





「やあァァ――――――――――――――――ッ!!!」

 ビュンッッ!!
 窓の隙間から朝の陽光が漏れる剣道場に、サヤの声が響く。
 キリノの耳に声が届く頃には、竹刀は既に振り下ろされた後だった。
 ああ、いつからこの子はこんな鋭い一太刀を繰り出せるようになったんだろうねえ。
 思わず、ねこのように口が持ち上がる。
 部長として、部員の成長っぷりを目の当たりにするのは、まるで自分の事のように嬉しい。
 例えそれが同い年のサヤであっても、だ。
 毎日共に練習していると、目立たない成長は逆に気付きづらい場合がある。
 ミヤミヤやダンなんかは元が初心者だし、伸びが早いのでそれは明らかだ。
 逆に、サヤやユージのように経験者の方が一般的に伸びが遅い。
 何事も努力の積み重ねで少しずつ成長していくものだ。
 が、サヤの場合はその努力が実るのが人より早かったようだ。
 部活を休みがちである故の鈍りやブランクの次元を通り越し、実力的に言えばキリノに追いつく勢いである。

「たあァァ――――――――――――――――ッ!!!」

 ビュンッッ!!
 太刀が空気を切り裂く。
 これは、放課後が楽しみだな。
 キリノはサヤの姿を前に、自分の胸の内が静かに燃えていくのを感じた。






「やあッ!!」

 バシィッッ!!
 キリノの見事な小手が決まった。

挿絵「ああッ!! もうッ!! あと少しだったのにッ……!!」

 サヤが悔しそうに面を取り、うなだれる。
 放課後、早速サヤと稽古してみたキリノだが、結果はやはりいつも通りであった。

「踏み込みが浅いから、間合いを取りきれてないです」
「あと、サヤ先輩って、相手の空気に気負いされやすいですよね。だから若干攻撃が遅れがちになってますよ」

 タマちゃんとユージが的確なアドバイスをすかさず。
 第三者から見れば、それはもう一目瞭然な訳で。
 そう、こうして毎日続けているから、気付かれない。
 サヤの伸びは、ミヤミヤやダンくんとさして大差ない。そうキリノは確信していた。
 あとはそう……練習試合等で実戦的な改善を行えば、もっと強くなる。
 サヤに足りないのは、思い切りのよさと冷静さ、そして踏み込み。
 相手と竹刀を交える事を想定した練習を続ければ、それは補える。

「あー、どんまいどんまい。サヤも地味に前より上手くなってるし」

 ここでフォロー入れとかないと、折角の成長がまた停滞しちゃうかんね。

「おー、やってるな」

 そこへ、剣道部顧問のコジローがやってきた。

「じゃ、次はミヤミヤとさとりんの番だね」
「うん、ダンくん、応援しててね」

 ミヤミヤは面を付け、さとりんと向き合う。
 きっと、さとりんが本気を出せばミヤミヤなんか瞬殺だ。
 ミヤミヤもそれを自覚している。だから、勝とうなんて思わない。
 目的はただひとつ。1分1秒でも長びかせる。そして、隙あらば頂く。1本を。
 現在の自分の実力からして、そこまで出来れば上等だと思う。

「よろしくお願いしますね」

 さとりんの目がキリッと真剣になる。

「こちらこそ」

 ミヤミヤの竹刀を握る両手に力がこもる。
 自分の方が弱いからといって、そう簡単に無様に負けてあげるつもりは毛頭ない。






「ふう」

 ユージとダンは飲み物を買いに、剣道場の外に出た。

「ん?」

 すると、自販機の前に知った顔があった。

「杉小路先輩!こんなとこで何してんですか?」

 室江高校のサッカー部のユニフォームを着ている。良く似合っていた。

「ああ、ユージにダンか。サッカー部のコーチサボってるとこ(笑)」

 缶ジュース片手にもの凄く爽やかな笑顔で杉小路は言った。
 汗が光の結晶のように輝き、眩しかった。

「……えっと、コーチとかしてるんですか」
「まあね。顧問の先生に是非、ってお願いされちゃって。だから暇があればやるつもり」

 その真意を、ユージとダンは知らない。

「でも面倒臭くなっちゃって。だから適当にメニュー与えて放置してきた」

 出た、これぞ杉小路流。一応真面目にやってる清村とは大違い。

「そうだ、時間あるし、剣道部にまた遊びに行こうかな」
「でも今、女子が稽古してるよー」
「大丈夫、長居はしないよ」

 杉小路の目的は、タマちゃんだ。
 彼女は昔から剣道が強かった。
 それが、今はどのレベルまで達しているのか。
 これは是非、拝見したい。






「杉小路ィィ――――――――!! 何処へ消えたァァ――――――――!!」

 清村が、校庭をうろちょろしているいぬのかわりに吠えたのは、それから1時間後の事である。



「よしお前ら、各自シュートの練習だ!!」

 適当に指示し、清村は杉小路を探す事にした。
 あいつは何処に行ったのだろう。
 まずクルマを確認する。
 ほっぽって帰った訳じゃなさそうだ。
 トイレにしては長過ぎる。
 ……ったく、あの野朗何処でサボって……。
 その時。

「……ハッッ!?」

 閃いた。
 あそこに違いない。
 清村は急いで駆け出した。





……TO BE CONTINUDE






 あとがき


 どうも、髭猫です。

 最近お仕事したくない病です。
 SS休暇が欲しいです。

 4日あれば1ヶ月分のSS書けるのになぁ、なんて思ってみたりするも、
 3日遊んでラスト1日でひいひい言ってる気がします(笑)。
 はい、夏休みの宿題は最初にしないタイプです(笑)。

 バンブーブレードのコミックス8巻が出ました!
 みんなチェックしたかな?(笑)

 コジローがまた好きになりました。
 そして、原作と自分がSSで描いたコジロー像にブレがない事も確信しました。
 ……とかいってブレてたりして(笑)。
 どうだろう? ブレてないといいなあ。

 さて、それではまた次回でお会いしましょう!
 読んで下さってありがとうございました! 次回もまた読んで下されば幸いです!


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