〜第二部〜


 ここは、ロクな場所じゃない。
 気が付きゃ悪の吹き溜まりだ。
 どうしようもねえ連中ばっかりさ。



 空の酒瓶と煙草の吸殻が転がる酒場の床。
 テーブルでポーカーをやる者。
 電話をしながら何かをぼやく者。
 下着姿で客を拾う娼婦。
 カウンターで酔いつぶれて寝言をこぼす者。
 ダーツの代わりにナイフを投げる者。
 誰かを殴る者。
 誰かに殴られる者。
 人はまばらだが、それにしちゃ空いているテーブルが1つもない。
 バーテンは忙しそうに酒を運び、吸殻山盛りの灰皿を流しに放りこむ。
 それぞれの脇や腰にはホルスターが顔を覗かせる。
 皆、火を噴きたくてしょうがない相棒を連れている。
 甘ったるい香りや、酒の臭いや、反吐の臭いや、泥や埃の臭い。
 そいつが一緒くたに押し寄せてくる。
 いつだって、ここは稀に見るカオティックさを演出している。
そこへ――――――――





「伏せろッッ……!!」

 ズドオオォォンッ!!
 直後、背後から凄まじい爆発音と共に爆風が頬を払った。
 破片や埃が宙を舞い、火の粉がばら撒かれる。
 耳鳴り。眩暈。火薬の臭い。
 空気の流れが変わり、黒煙がたちこめる。
 今朝服用した頭痛薬もこれでパァだ。
 ちっくしょう、ふざけやがって。

「オラァ!! 出てきやがれ!!」

 続いて、銃声。
 蜜蜂たちのオーケストラ。
 無数の轟音が連続で絶え間なく響き、酒場にたむろする無法者どもの半数が踊った。
 体重を何%か増やした者は、派手に転び床に突っ伏した。
 飛び散ったケチャップとグラス。
 悲鳴すらかき消される、完璧なノイズ。

「おいおい、これで何回目だ!? 俺の店があぁ!!」

 マスターが泣き言漏らしながらショットガンで撃ち返す。
 煙のせいで視界が悪いが、何人かは撃ち返しているようだ。

「ちょッ……!! 助けて――――ッッ!!」

 日本人のサラリーマン風の青年が喚く。
 足元に散乱する空薬莢は、ものの数秒で倍になった。
 横にはアロハシャツを着た白人の眼鏡の青年。

「その内なんとかなりますよ」

 彼はそう言って荷物をまとめ、脱出の準備をしている。
 この状況で、何処から外へ飛び出すつもりだろうか。
 JAPの青年は気絶寸前だった。

「野朗ども!! 無事か!?」

 リボルバーで応戦しているガタイの良い黒人が大声で尋ねた。
 2人の青年は怯えた子猫のように小さく挙手。
 元気よく手を伸ばすと、蜂の巣になるからだ。

「おいッ!! 二挺拳銃の名は伊達じゃねぇってところ――」

 黒人のサングラスがキラリと光る。

「――見せてやれッッ!!」





KIYOSUGI×BLADE 第6話「ハンマーソングと痛みの塔」
髭猫 作





「くおらッッ!!」

 清村は両手の拳銃を思いっきり杉小路に投げつけた。
 予想だにしていなかった行動によけきれず、拳銃は見事に杉小路の顔面にヒットした。
 途端に銃声が止み、死んだ筈の無法者どももむくりと起き上がった。

「痛いじゃないか、清村」

 サラリーマン風の格好をした杉小路が顔面を押さえながらネクタイを緩めた。

「いきなり何するんだ。そんなの台本に……」
「やかましいッ!! 展開がいきなり過ぎて、読者がSS間違えたと思うだろッッ!!」
「いやだから前もって第2部と……」
「お前、勝手に余計な事し過ぎなんだよ!! 第一、何も終わっちゃいねぇだろ!! むしろ始まったばかりじゃねぇか!!」
「どうせなら続きは18禁部屋で……」
「貴 様 黙 れ」



 閑話休題。
 時刻は昼休み。
 清村と杉小路が室江高校演劇部で楽しく(?)遊んでいる頃……。



「ごちそうさまでしたーっと」

 中庭では女子剣道部の面々が昼食を終えたところであった。

「じゃ、私、用事あるから先行くねー」

 ミヤミヤはそう言ってそそくさと中庭を後にする。
 まあ、どうせ行き先はダンくんのところだろう。
 そこですかさず、キリノが乗りだしてタマちゃんに尋ねる。

「ねねね、タマちゃんさー、ちょっと訊いていい?」

 急な振りに圧倒されつつも、冷静を努めるタマちゃん。

「な、なんでしょう??」
「杉小路先輩って、タマちゃんの幼馴染だったよねー??」

 そこですかさずサヤも乗りだす。

「そーうそうそうそう!! 今の今まで黙っていたこの事実!! 何で!? 何で!?」

 何で、と言われても……。
 話すタイミングがなかっただけ、としか……。
 タマちゃんはどう答えていいのかわからなかった。

「いやねー、こないだの練習で竹刀落としたのってー、やっぱあれかなーって!!」
「杉小路先輩を意識してかなーって!! どうなの!? どうなの!?」

 さとりんが軽く引く程、2人は暴走していた。
 あ、あの……、と声を掛けようにも訊いてもらえそうにない。
 脂汗を流して明らかに困惑するタマちゃん。

「私ゃ、てっきりユージくんが意中の人なのかなーって思ってたけど!!」
「それにしちゃフツーだよねーって思ってたんだけど!!」

 ニコニコしながら2人は徐々に顔を近づけてくる。  
 もう、止まらない。

「やっぱりあれですかーッ!? 杉小路先輩の事を昔から……!!」
「四ツ葉のクローバーで約束とかしたクチですかーッ!? きゃーッ!! きゃーッ!!」

 押し寄せる圧迫感。重圧。
 タマちゃんは限界を突破した。

「…………わかりませんッッ!!」



 急の大声で場は一瞬凍りついた。
 キリノもサヤも目を点にしてフリーズする。
 さとりんが、あ〜あ、とため息をついている。
 いち早く冷静になったのはタマちゃんであった。
 あ、つい声を荒げちゃった……。どうしよう。あわわ。

「……ごめんなさい、失礼します」

 結局、数十秒の沈黙を破り、逃げるようにその場を後にするタマちゃん。

「にゃ〜」

 ねこがテクテクと目の前を横切る。
 中庭に平和が戻った瞬間であった。

「……怒らせちゃったかな〜」
「……やっちゃったね〜」

 2人は深く反省し、それでも暫く呆けていた。

「あ、あの、わかりませんよ、意中の人が誰かなんて……」

 フォローのつもりか、さとりんが口を開く。

「実は大穴で、杉小路先輩と一緒に居る清村先輩の事が……」
「それはない」
「それはない」

 2人はキレイにハモって断言した。



 一方、タマちゃんはというと。
 校舎の日陰でうずくまっていた。
 脂汗をびっしょり流し、頭を抱えながら。
 はたから見れば、具合が悪そうで保健の先生を呼ばれる状態だ。
 どくん。どくん。
 心臓の鼓動が早い。
 まさかの16ビート。恐ろしく早い。
 深呼吸しなきゃ。深呼吸。
 すぅ――。はぁ――。
 すぅ――。はぁ――。
 これは急に走ったからではない。
 理由は、なんとなくタマちゃん本人もわかっていた。
 ほんとに……。
 ほんとに……、わからないよ……。
 もやもや。もやもや。

「にゃ〜」

 ねこが何処からか寄ってきて、太ももにすりすり。
 そのねこを撫でながら、タマちゃんは空を眺めた。
 高校生って、何か、大変だ……。





……TO BE CONTINUDE





 あとがき


 どうも、髭猫です。

 すいません、悪ノリしました。
 でもこれは当初からやりたかったネタで、しかも実際やったのは杉小路……
 ウワナニヲスルテメ……(ry

 次回。
 お次はミヤミヤをメインで転がそうかな、と、思っちょりま。
 読んで下さってありがとうございました。次回もまた読んで下されば幸いです。


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