スーパーロボット大戦α 〜Future Story〜


第十話「悲しみの過去」


マドラスコアでの戦いから一日が過ぎ、ナデシコCは宇宙軍ヨコスカドックにいた。


「みなさん連続の戦闘お疲れ様でした。ナデシコは次の指令が来るまでここヨコスカで待機します。」

ユリカの艦内放送が響く。といっても整備班は休みがないわけだが。


   食堂

食堂では整備班が食べ終え、今はブリッジ、パイロットの面々が来ていた。

「さってと、飯にすっか。」

入ってくるなやいなやリョーコは早速注文をする。

「アキト、俺はチャーハンな。」

「早いね、他は?」

続けてサブ、アカツキ、ユリカ、ルリ、ラピスが注文する。

「俺もチャーハン。」

「僕は火星丼を。」

「私ラーメン。」

「私も同じで。」

「アキト、チャーハン。」

「あいよ、待っててくれ。」

アキトは厨房に入ろうとしたところを、サブが引き止める。

「おいアキト、シンとは仲直りしたのか?」

「ん、ああ。昨日ちゃんと謝ったさ。さっきも香織君とタカヤ君といっしょに食べてたからね。」

「そうか、ならいいんだ。」

アキトは料理を作り始める。


20分後、完成した料理をもってアキトがやってきた。


「いただきます」×七


しばらく食事をしていると、

「ユリカ、ハーリー君がいないけどどうしたんだ?」

アキトはハーリーが不在なのでユリカに尋ねる。

「ハーリー君?あの子はご飯いらないって言っててブリッジに残ってるよ。何か熱心に仕事してるの。」

「へえ、珍しいっすね。あいつが食事を抜くなんて。」

サブの言うとおり、ハーリーは常に三食とるタイプだ。

「ルリ、あいつ風邪でもひいたんかな?」

「どうでしょう、少し元気が無かったのは確かです。でもリョーコさんの言う風邪ではないと思いますが。」

と、

「あ、ユリカさん。」

噂をすれば何とやら。

「ハーリー君、やっぱりお腹すいたの?」

「いえ、その・・・お願いします。明日一日、いえ半日だけ外出の許可をもらえませんか?」

「外出?」

いきなりの発言にユリカは目を開く。

「まあ今は機体の修理とナデシコがオーバーホール中だからいいけど、突然だね。」

「自分勝手ですいません。」

「いいよ、でも連絡手段のコミュニケは持って行ってね。」

「はい、明日十時に出ますので。」

それだけ言い、クルっと周れ右をして食堂から出て行こうとするが、

「おい、ハーリー。」

サブが呼び止める。

「何ですか?」

「お前、一体どこに行くんだ?」

「べ、別にいいじゃないですか。」

見るからに慌てている。

「はっは〜ん、その慌てよう、「大切な人」にでも会いに行くのか〜?」

ハーリーの仕草を見て、敢えて恋人言わず意地悪そうに尋ねるが、

「・・・まあ、その通りです。」

「何!?」

思わぬ返答にビックリする。

「では、仕事がありますから。」

頭を下げて出て行った。

「・・・マジかよ、聞いたかアキト。」

「あ、ああ。ああもストレートに言われるとはなあ。」

「まあ彼も年頃だしねえ、結構結構。」

アカツキも席を立つ。

「ごちそうさん。プロス君が待ってるから、僕も仕事に戻るとするよ。」

「大変ですね、会長も。」

ルリが笑いながら言う。

「ははは、まあその通りだがね。じゃ。」

アカツキも食堂から出て行った。

そしてしばらくし、

「提督・・・気にならないっすか?」

「なるね、すごく。」

ナデシコの中でも特に話題好きなこの二人、サブとユリカがよからぬ事を考えているようだ。

「ターゲットは明日の午前十時に出発。」

「ナデシコ特捜班も、追跡に入りたいと思います。もちろん証拠を押さえるために。」

ナデシコ特捜班って・・・(汗)

「ユリカ、サブも何をする気だ。」

「決まってるだろ、アキトの旦那。」

「ハーリー君の彼女を見に行こうってことだよ。」

やっぱりろくでもないことだ。

「お前らな〜、彼に悪いだろうが。」

「大丈夫だって、見つからなければいいんだからさ。」

「そうそう。」

「ユリカさん、さすがにそれは。」

ルリも二人を止めようとするが、

「ルリちゃん、気にならないの?」

「それは・・・」

「気になりますよね、艦長?」

気になるといえば、気になっていた。

二人はルリが黙ったのを見て、一気にまくしたてる。

「ルリちゃんも興味あるよね。」

「あいつなら笑って許してくれますよ。」

そしてついに、

「そう、ですね。私も気になります。」

心が折れた。

「決まりだね、もちろんアキトとラピス来るよね。」

「リョーコ、来るよな?」

三人を見るユリカとサブ。

「はあ〜、わかったわかった。俺も行くよ。」

「アキトが行くなら私も行く。」

「何かおもしろそうだな、俺も行くぜ。」

結局全員で行くのか・・・


そして翌日、午前十時


「ユリカさん、行って来ます。」

「はいは〜い、気をつけてね。」

普段着に着替えたハーリーが律儀にあいさつをし、ナデシコを出て行く。

「ターゲット行動開始、サブちゃん、車の用意は?」

「バッチリっす、行きましょう。」

「では、ナデシコ特捜班も出陣です。」

移動を開始する六人。格好は普段着に着替えてある。

ハーリーが軍の蒼いオープンカーに乗り込み、出発した。

と、その後ろを黒塗りのワゴン車がついていく・・・あの六人だ。


   ワゴン内

「サブ、見失うんじゃねえぞ。」

「わ〜てるよ、しかし・・・」

「結構飛ばすね、ハーリー君。」

そう、ハーリーはいつのまにか黒いサングラスを掛け、スピードを上げ始めたのだ。(制限速度ギリギリ)

オープンカーなので、彼の髪が風になびいている。

「あいついつの間にあんなサングラスを・・・端からみりゃ誰かわかんねえな。」

「リョーコさん、結構ヨコスカから離れてきましたね。」

周りの景色が変わってきたことにルリが気付いた。

「そういやそうだな、どこまで行くんだあいつ?」

と、ハーリーの車がスピードを落とし始めた。

「お、やっと終点か。」

サブもスピードを落とし、脇へ寄せる。

しかしハーリーが止まったのは自動販売機の前だった。

「何でえ、のどが渇いただけか。」

「!?いや、あれは。」

アキトが驚きの声をあげる。車を降り自動販売機の前に立ったハーリーが買った物は・・・タバコだった。

「ハ、ハーリー君がタバコを・・・」

ラピス以外その光景に呆然としている。

「タバコの何がいけないの?」

どうやらラピスは知らないようだ。

「ラピス、法律で未成年はタバコを吸ってはいけないんです。」

ルリが簡単に説明する。

「え、じゃあハーリーは悪い事してるの?」

「そうなります、一体いつから・・・」

さすがにルリも信じられないといった顔をしている。

「ア、アキト。ハーリー君に注意しないと。」

だがハーリーは買ったタバコを座席に放り、車に乗り込んだ。

「・・・もう少し様子を見よう。」

そして、再び追跡を開始した。


そうして更に十分ほど走ったところ、簡素な住宅街に入っていく。


「ここ、住宅街だよね。」

ユリカが周りを見ながら言う。

「いよいよかな、ハーリーの奴。」

「(う〜ん、ここ前に来たことがあるような・・・?)」

サブ一人だけが、この景色に疑問を持っていた。

と、ハーリーが車が一つの家の前で止まった。

「アキト、ハーリー君が車から降りたよ。」

そして、その家の中に入っていく。

「ここがそうなんでしょうか?」

そこはごく普通の、二階建ての家だった。ただあまり人の住んでいる気配がしないことを除けばだが。

「ハーリーの彼女の家か?」

リョーコがじろじろと見ながら言う。

「いや、人の住んでいる気配がしない。まるで・・・ずっと放っておいたみたいな。」

「思い出した!」

「な、何だよサブ。」

いきなり大きい声を出したサブに、リョーコがビックリする。

「ここ、ハーリーの家だぜ。」


「ええ〜!!」×5


「(こ、ここがハーリー君の家・・・)」

ルリがそう思っていると、ハーリーが家の中から出てきた。しかし、

「あれ、服が変わってるね。」

ユリカの言うとおり、ハーリーの服は上下を黒で統一していた。まるで昔のアキトみたいに。

また車に乗り、出発した。

「サブ、行け!」

「ああ。」

そのまましばらく走っていると、またハーリーの車が止まる。そこは、

「墓地・・・か?」

お寺の裏手にある小さな墓地だった。ハーリーは助手席のタバコを持ち、中に入っていく。

その姿が見えなくなり、六人もワゴンから降りて雑木林の中に身を隠した。

ハーリーは歩いていき、一つの墓石の前に立つ。そこには・・・


真備家之墓 と彫られていた。


ハーリーはサングラスを外し、タバコの封を切って二本取り出す。

それにライターで火をつけ、蝋燭にも灯しながらそっと墓石の前に並べておいた。

そして手を合わせながら目を閉じ、しばらくして口を開く。

「義父さん、義母さん、ただいま。僕、帰ってきたよ。」

その声は、いつもの元気さが欠片もなく、寂しく、静かな墓地に良く響き、隠れている六人にもよく聞こえていた。



「・・・ユリカ、帰るぞ。」

「・・・うん。」

アキト達はこっそりと音を立てないようにワゴンへ戻った。

全員が乗り込んだのを確認し、サブはワゴンを出す。

全員押し黙っていたが、サブが口を開いた。

「もう、二年前のこと何すけどね。」

「二年前?」

ユリカがサブに尋ねる。

「ええ、あいつの両親・・・ハーリーを引き取ったマキビ夫妻は、交通事故で亡くなったんです。」

「交通事故・・・」

ルリが小さく返す。

「しかもそれは、ひき逃げだったんですよ。」

「ひき逃げだと!?」

「そうさリョーコ。そん時俺らは地球へ帰る途中だった。地球について、ハーリーが家に帰った時待っていたのは・・・マキビ夫妻の葬式だった。

 俺とハーリーが数日抜け出していた時期がありましたよね。」

「そんなことが・・・もしかしてやけに元気が無かったのは。」

「アキトの思ってる通りさ、マキビ夫妻には艦長も会ったことがありましたよね?」

「はい、大分前ですけど。」

「俺も何度か会ってますけど、あの二人は結構ヘビースモーカーだったんです。」

「そっか、だからハーリーはタバコを。」

ラピスはようやく分かった顔をしていた。

「だがなラピス嬢ちゃん、この話にはまだ続きがあるんだよ。」

と、急にサブの口調が重くなる。

「マキビ夫妻を轢いた犯人が捕まったんだ、偶然防犯カメラに映っていてな。」

「何だ、やっぱり悪は滅びるんだよ。」

ユリカは本当に良かったといっている。

「提督、その犯人が問題なんですよ。」

「どういうことです?」

「その犯人は、宇宙軍の軍人だったんだ。」

「そ、そんな・・・」

ユリカは口に手をあてる。

「ちょうど休暇中だったらしい。カメラが証拠となってすぐに捕まったんだ。それでハーリーと面会をしたんだが・・・」

そこで一度口をつむぐ。

「あいつ、出会った瞬間ホルスターに手を伸ばして、銃を突きつけて引き鉄を引こうとしたんです。」

その言葉に全員が息を飲んだ。サブは話を続ける。

「危なかった、もう少しで引き鉄が引かれるところでした。俺ともう一人の軍人があいつを押さえ込んだので最悪の事態にはなりませんでした。

 でもハーリーはこう言ったんです。「殺してやる、殺してやる!あなたが、あなたが義父さんと義母さんを!!」って。

 あの時ハーリーの眼にあったのは、怒り、憎しみ、そして殺意でした。初めて見ましたよ、あんな眼をしたハーリーは。」

全員がサブに注目している。

「あいつはその後、俺につっかかってきた。「僕の両親を殺したのに、何であの人はのうのうと生きているんだ。何で止めたんですか!」ってな。」

信号で一旦止まる。

「俺は何も言えませんでした。大人であいつの兄貴ぶってるのに、何も言えなかったんです。」

青に変わり、動き出す。

「あれは人なら誰でも持っている感情です。俺にだってあるものだ。でもあいつは、次の日ナデシコに戻りましょうって言ったんだぜ。

 明らかに無理してるのが見え見えだったのに、無理矢理笑顔を作って。でもあいつは立ち直ろうとしてた、俺は思いましたよ。

 ああこいつ、また大人になったなって。」

「ハーリー君・・・」

ユリカは目頭を押さえる。

「でも、ハーリー君がそんな行動に移った気持ちは、分かる気がします。私達マシンチャイルドにとって、「親」とは特別な存在だから。」

昔を思い出すように、ルリが目を閉じる。

アキトもかつてルリのいた研究所へいっしょに行った事があった。

普段は感情をあまり表に出さないルリが、強く感情を表したところだったのだ。

「昔のあいつは駄々をこねて、わがままばっかだった。でも今は違う、もう俺達の元から離れ始めてる。一人の大人、一人の男としてな。

 本当に・・・強くなった。」

サブはどこか寂しそうな表情だ。

「なあ艦長、ハーリーの奴が何でオールバックやめたか知ってますか?」

「いえ、知りません。」

「それが、「もういつまでも子供のままと思われたくないんです」って言ってさ、元々あれは自分を大人っぽく見せようとした子供の感情から

 来てたんですよ、オールバックは。」

「ふ、彼らしいな。」

「まあアキトの言うとおりだけどさ、あいつはありのままの方がいいんです。これからも・・・ね。」

「サブ、本当は寂しいんじゃねえのか?」

リョーコの言葉にサブは目をそらす。

「な、何言ってんだよ。」

「んなこと言ってよ〜、寂しいんだろ?」

「う、うるせえ。っと!?」

慌ててハンドルをきる。

「キャッ!」

ユリカがアキトにもたれかかる。

「おいサブ、事故るなよ。」

「分かってる。あとこの話はハーリーにすんなよ、うるさくなるからな。」

「わかってますよサブロータさん。ラピスもいいですね、特にユリカさん。」

「うん。」

「何で私だけ強調するの?」

「言葉通りですよ。」

「ルリちゃんの言うとおりだな。」

「アキトまで〜(泣)」

そんなテンカワ家を横目に、ヨコスカドックが見えた。

「到着っと。」

サブは基地内に入り、車を返却する。

「じゃあみんな、それぞれの仕事に戻ってね。」

ユリカの言葉を聞きながら、各々の場所へ向かった。


そして二時間後、ハーリーが戻ってきた。ただ服装はあのままだったが。


「すみませんユリカさん、ただいま戻りました。」

「お帰りハーリー君。」

「はい、ルリさんもラピスも仕事をまかせっきりですいません。」

「別にいい。」

「では早速手伝ってください。」

「了解。」



次回予告

ナデシコは現れたアンデッド殲滅のために出撃する。場所は太平洋。
だが、敵はアンデッドだけではなかった。
ついに現れた血染めのMS。そのパイロットは、少年のよく知る少女だった。
少年は機体を奔らせ、知ることになる。少女が戦う理由を。
その心に忘れかけた闇が広がる時、少女は自分の想いを告げる。
そして少年は一つの決断を下す。それが長い別れ・・・新たなる戦いの始まりとなってしまう。
全ては、ネオ・ジオンの名の下に。


スーパーロボット大戦α 〜Future Story〜


第十一話「明かされた真実 砕かれた正義」

ルリ「うそつき・・・」





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