前書き
この作品は東方Projectとペルソナシリーズのクロスオーバーです。オリジナル主人公の他、キャラの性格などが若干不自然に思われたり、戦闘が異なったりするかもしれませんのでご了承ください。
 今後ともよろしくお願いします、それではどうぞ!!
OPテーマ→凛として咲く花の如く

主な登場キャラ設定


名前:綾崎優也【あやさきゆうや】
能力:仮面を付け替える程度の能力
備考:2011年4月にとある都市の田舎町に引っ越してきた高校1年生の少年。八雲紫と廃れた博麗神社で出会い、彼女によって幻想郷に招かれる。ペルソナという力を得て、幻想郷にて起きる不可解な異変に立ち向かう。アルカナは世界。召喚レベルは55。

2、
名前:東風谷早苗【こちやさなえ】
能力:奇跡を起こす程度の能力
備考:優也同様に外の世界から幻想入りした少女。彼女の場合は守矢神社の二柱の存在が外の世界で危うくなったために、信仰を求めて幻想郷に望んで入った。外の世界では行方不明という形になっている。アルカナは恋愛。コミュニティは恋愛。

3、
名前:八坂神奈子【やさかかなこ】
能力:乾を創造する程度の能力
備考:守矢神社の一柱。もともと外の世界に住んでいた古き神であるが、信仰力が少なくなり、神としての存在、自身の命が危ういということで、同じく神社の一柱である諏訪子とともに幻想郷に避難した。全盛期ほどの力はないが、幻想郷ではトップクラスの実力を持つ。アルカナは太陽。

4、
名前:洩矢諏訪子【もりやすわこ】
能力:坤を創造する程度の能力
備考:守矢神社の一柱。もともと外の世界に住んでいた古き神であるが、信仰力が少なくなり、神としての存在、自身の命が危ういということで、同じく神社の一柱である神奈子とともに幻想郷に避難した。全盛期ほどの力はないが、幻想郷ではトップクラスの実力を持つ。アルカナは太陽。

5、
名前:八雲紫【やくもゆかり】
能力:境界を操る程度の能力
備考:幻想郷を作り上げた妖怪の賢者と呼ばれる存在。掴みどころのない謎めいた存在であり、優也ことを幻想郷に連れてきた張本人でもある。本人は面白半分、妖怪の餌として連れて来たつもりであったが、“ペルソナ能力”に目覚めるなど力を覚醒させているのを知り、警戒からか監視するようにしている。アルカナは隠者。コミュニティは隠者。

6、
名前:西行寺幽々子【さいぎょうじゆゆこ】
能力:死を操る程度の能力
備考:冥界の管理者であり、亡霊の存在。もともと食事は必要ではないが、何よりも食を愛しており、一度に食べる量は凄まじく、エンゲル係数は鰻上りの一途を辿っている。飄々としており、おっとりしているが幻想郷の上位の存在としての実力やカリスマ性も持ち合わせている。八雲紫の数少ない親友の一人。アルカナは死神。コミュニティは死神。

7、
名前:四季映姫・ヤマザナドゥ【しきえいき・やまざなどぅ】
能力:白黒はっきりさせる程度の能力
備考:普段は地獄にて死者の審判を行っているが、幻想郷の担当ということで、時折人里に足を運んでは善行とは何かを説いて回っている。非常に頭が硬く、生真面目であるために周りからも良くも悪くも思われている。本人は当然のことと思っており、それが間違っているとは思っていない。八雲紫とともに綾崎優也に対して警戒心を向けている一人。アルカナは審判。コミュニティも審判。

8、
名前:伊吹萃香【いぶきすいか】
能力:密と疎を操る程度の能力
備考:鬼の一族の一人であり、小柄ながら四天王の一人で“技の萃香”と呼ばれるほどの実力者である。他の鬼たちは地上の人間と関わりを絶ってしまい、地底世界に姿をくらませてしまっているが、まだ可能性があると信じているのか、頻繁に地上に出ている。アルカナは剛毅。コミュニティは剛毅。

9、
名前:小野塚小町【おのづかこまち】
能力:距離を操る程度の能力
備考:彼岸で渡し守をしている死神の一人。生真面目な上司である映姫とは対照的に非常にサボリ癖が酷く、彼女の長時間にわたる説教を何度受けてもその悪行は改善される様子は見られない。のんびりとマイペースを貫いているが、姉御肌の持ち主でもある。アルカナは節制。コミュニティは節制。



 早苗の後に付いて行き、彼女の「家族」が待つ席に向かう。そこには大きな注連縄を背負った、当然見知らぬ青髪の女性と奇妙な帽子をかぶった金髪の幼女がお 酒とつまみを手元に座っていた。
 早苗が戻ってきたのに対して「お帰り」と二人は言う。そしてその後ろにいる優也に視線を向け、その笑顔は消え、何かを観察するような視線を向けてきた。
 突然の二人の変貌に、早苗は二人と優也を交互に見る。彼女なりに違和感を持ったようだ。
 彼女たちから感じられるのは普通の力ではなかった。それが何なのかと聞かれても優也は答えられない。それを当てはめるだけの答えを持ち合わせていないからだ。
 その視線が綾崎優也という人間を観察、覗き込んでいるような感じがした。
 ありとあらゆるものを圧倒的な高次元から覗き見られているようで不快感しかしない。これ以上この不快感を感じ続けるのは嫌だった。優也は乱される精神を統一し、集中力を高める。そこに思い描くひとつのもの――アルカナの絵が描かれた一枚のタロットカード。
 そこに秘められた力――ペルソナ。
 自らの盾として、剣として、鎧としてそれを構える。そうした瞬間に二人の視線がさらに鋭くなる。 だが逆に先ほどまでの不快感というものはまるで糸をはさみで断ち切ったかのように消え失せた。
 一体なんだったのだろうか。
 そう思っていると優也の前に立っていた早苗が――。

「い、一体どうしたというんですか!?」

 慌てて目の前にいる二人に対して言う。
 力のぶつかり合いの真ん中に立たされていたために、まるで金縛りにあったかのように動けなかったのだ。それがようやく解けたために彼女は動いた。

「いやぁね? そこの少年から不思議な力を感じたからね。少し警戒しちゃったんだよ」

 そう奇妙な帽子を被った幼女が言う。その態度からは優也に対して詫びを入れる様子は見られない。
 すると彼女の隣に座っていた青い髪の女性が。

「人の子よ、悪かったね。少し警戒しすぎたようだ」

 目を伏してそう言ってきた。
 慌てて幼女も詫びを入れる。
 どうやら彼女たちは優也のことを警戒、もとい試していたようだ。自分たちの身内のものがどこの誰かもしれない者を連れてきたのだから当然警戒を多少は持つだろう。それが強かったのは、優也は自分が持つ能力であるペルソナが原因だろうと考える。
 試したというのはその何か分からない能力を持つ人間がどれほどの実力なのかを知るためだとか。この一箇所だけで行われたからいいものを、博麗神社全体に及んでいたら宴会どころの騒ぎではなかっただろう。
 チラリと視線を向けると何人かの者たちはこちらに対して視線を向けているのが分かった。中には見知らぬ者たちもいるが、実力が高いのだろうと彼女たちの纏っている雰囲気、オーラというものから感じられた。

「取り敢えず座りなよ」フレンドリーに言ってくる幼女。その奇妙な帽子はどことなくカエルに見える。持っていた水の入ったコップをテーブルに置き、彼女たちと対面する形でそこに座ることにする。
 ところで二人は一体何者だろうか。
 さきほどの形容しがたい圧倒的な力、そして早苗が神社の巫女だということからもしかするとと考える。

「噂は聞いているよ、外来人の綾崎優也」

 ああやっぱりかと思う。
 彼女たちが守矢神社の関係者であるのならば、妖怪の山に住んでいることになる。そこには新聞を書くことを趣味とする天狗たちが住んでおり、当然どこよりも先に山ノ下で起きたその情報を知ることができる。
 一体どんな風に知られているかは分からない。
 優也は二人のことを知らないので、畏れ多いが尋ねてみることにした。

「知っているなら自己紹介はいらないな。それで、あんた達は一体何者だ?」
「君たち人間の言葉で表すと“神”だね」

 優也の問いに対して、奇妙な帽子を被った幼女が一般人にとってはとんでもない発言をしてきた。
 しかし優也としては、それを聞いて想像していたことが的中したと思うくらいだったのでそれほど大きな衝撃は受けていない。山の頂上に置かれた神社、その神社の巫女をする早苗、そんな彼女が付き従う二人の少女と女性――そこから出た答えは彼女が言った通り、二人が「神」だということだった。
 二人は優也の反応が思った以上に希薄だったので。

「おや、驚かないのかい? もう少しこう……何かしらのリアクションが欲しかったんだけどねえ」
「まあ、何となく予想していたから……」

 そうリアクションを求められても困ると、頬を掻く行動に現れる。
 なるほどと少しだけつまらなさそうに嘆息する。
 そんな彼女を早苗は気遣うように声をかけている。もう少し気を利かせた方が良かっただろうか、そう思っていると幼女の方の神が空いている席を指差し、座るように言ってきた。

「立って話をするのもなんでしょ? ささ、座った座った」

 容姿相応の笑みを浮かべ、そう言ってくる。
 そんな彼女を見ていると、とても神だとは思えない。
 だが纏っているオーラというものは確かに普通の幼女のそれではなく、上から押しつぶすかのような圧倒的なものがあった。
 彼女の言葉に頷き、対面する形で座る。
 その隣に早苗も続いて座り込む。
 手元には持って来ていた水の半分だけ入ったコップが置かれる。それを見た青髪の女性がムッとした表情を浮かべ、言う。

「なんだい? 折角の宴会だと言うのにお前さんは水を飲んでいるのかい」

 呆れたように彼女が言ってくる。
 見ただけで分かるものなのだろうか、それは別としてまだ未成年であるから飲むわけにはいかない。生真面目すぎる性格がここで祟っていた。

「幻想郷には私たちがいた外の世界の縛りなんてものはないんだよ? だから年齢制限なんてものもない」
「そうさね、見てみな、博麗の巫女や白黒魔法使いなんてあんたとなんら変わりない年齢の奴も飲んでいるじゃないか」
「早苗は比較的弱い方だからね、あまり多くは飲まないんだよね?」
「恥ずかしながら……」

 それを聞いて金髪の幼女が堅苦しいのはなしにしようというように話しかけてきた。
 郷に入ったら郷に従えと言うように、外の世界ではない幻想郷にいるのであれば、その幻想郷のルールに従うべきだ、ということだろう。
 だが飲み慣れないものをいきなり飲めと言われても優也としても困る。
 一口飲んでみたがとてもおいしいとは思えない。やはり年齢的なものや、慣れというものもあるのだろうと思う。
 霊夢や魔理沙が平気に飲んでいるのは、彼女たちがもう何年もお酒をたしなんでいるからだろう。そうなるともはや彼女たちにとってお酒とは水と同じということになる。少女から女性になった時、相当な酒豪になるのではないかと彼女たちの未来が不安に思う。
 浴びるよう飲んでいる二人と比べて早苗の飲むペースというのは遅い方だ。幼女が言うように彼女のお酒に対する免疫というのは弱いらしい。
 恥ずかしそうに顔を赤らめ、両手で持ったコップを口に付ける。
 そんな彼女を横目で見ていると、突然一升瓶を片手に持った女性が優也のコップにお酒をドバドバと注ぎだしたのだ、慌ててやめさせようとするもすでに口一杯にお酒が注がれていた。
 自身が信仰する神の行動に流石にまずいのではないかと早苗は言うが、大丈夫だと彼女は詫びもなく言う。ここは神、堂々としているというのか、傲慢というのか。
 並々と注がれてしまったそのお酒を見つめるしかできない。
 だがそれはただのお酒のようには思えなかった。そのコップに注がれた透明な液体から不思議な力が光の粒子となって溢れているように感じられた。
 見えるわけではないが、そのお酒が普通のものではないというのは感覚で分かった。
 普通の人間がそれを感じることはできないだろうが、ペルソナという神魔の分霊を操ることのできる能力を得ていた優也にはそれができていた。
 それを分かっていたためか、目の前に座る二柱の神は優也にそのお酒を飲むことを催促するような笑みを向けてくる。

「さあさあ、折角の宴会だよ? お酒を飲まないなんて愚行はしないでほしいな」
「多少の神力を込めてやったのは、私たちなりの歓迎の意を示すためさ。先ほどは試すようなことをして悪かったね。おおっと、私たちの自己紹介がまだだったね。私は八坂神奈子、守矢神社で表向きに信仰されている神だよ」
「そういうことだね。それと私は洩矢諏訪子、守矢神社の裏向き、もともとそこは私が祭られていた神社だからね」

 諏訪子――ああ、あの諏訪湖なのかと、彼女の名前を聞いて納得する。
 彼女たちのもともといた場所は長野県なのだと分かる。都会を中心に転校を繰り返していたので、そこまで行くことはなかった。
 ふと疑問に思う。
 守矢神社では二柱の神が祭られているとのことだが普通はひとつの神社に一柱ではないかと思う。そのことについて尋ねてみる。
 すると二人は苦笑いを浮かべて言う。

「それを聞いてくる人間が現れるだなんていつ以来だろうね。これもまた私たちが忘れられつつあるからかね」
「まあ、仕方のないことじゃないかな?」

 そう言う神奈子は少し寂しそうだ。
 彼女たちのような神ですらこの世界に来るのか。
この世界は外の世界に忘れ去られたり、人間からの認知が薄れてきたために存在の危機に陥ったりしているものがやって来る世界だ。つまり彼女たちは神社というものを構え、信仰する者たちを持ちながらもそれでも存在の危機に陥っていたということになる。
 元の世界から神社ごと引っ越して来たということは外にいる僅かな信者を捨てて来たということになる。だが消滅するくらいならば、まだ僅かな望みのあるだろうこの世界に掛けてきたというのは分かる。
 彼女の隣に座る諏訪子が軽い口調で言う。「それもそうさね」と神奈子は頷く。
 ゆっくりと当時のことを話してくれる。それを話す彼女は懐かしそうな表情を浮かべていた。
 時代は神々が住んでいたころに遡る。
 何千年も前の話だ。
 当時八坂神奈子――真名は“タケミナカタ”が治めていた国に対して、その国を明け渡すように迫ったのが“タケミカヅチ”だった。そんな“タケミカヅチ”に最後まで抵抗した。話し合うつもりなど彼女にはなく、両神の睨み合いは、やがて激しい戦闘へと移った。しかし力の差は歴然であった。“タケミカヅチ”の手は、氷柱や剣先に変化し、“タケミナカタ”を追い込んで行く。”タケミナカタ“は逃げ出すが、執拗に追跡し、信濃国の諏訪湖まで追いつめ遂に服従させたのだという。
 そして二人の出会いはそこからである。
 国を追われ、服従した”タケミナカタ“――八坂神奈子は逃げてきたその国、当時諏訪子が治めていた国に対して国譲りを今度は彼女が仕掛け、最期には彼女の勝利で諏訪の祭神になったという。

「――てなことがあったのさ」

 と、一気に話したために喉が渇いたのか、お猪口に入ったお酒をグイッと飲む。

「表向きはその国を治めることになった私が、裏では土着神であり、もともと信仰のあった諏訪子が引き続き祭られることで信仰を得て来たんだよ」

 人間は領土を奪い合うということをしていたというのは知っていたが、神々が確かに存在していた時代においてもそのようなことがあったのかと初めて知った。
 当時は彼女たちの間にも色々としこりというものがあっただろう。
 だが今の二人の様子を見てみれば、決してそのようなものを感じさせないくらい仲が良く見える。そんな二人に仕えている巫女の早苗も同じように思っているようだ。

「当時は軍神として祭られていたけど、流石に時代が移ろうにしたがって争いを望むような者たちは少なくなっていった。当然そうなると私の神としての信仰が薄れてしまう。だから今は山坂と湖の神として祭られているのさ」

 確かに今の時代、外の世界で軍神が信仰されるということは少ないだろう。
 争いの時代からそれが生むのは悲しみばかりだということを人間は知っているからだ。そうなると彼女の軍神という形での信仰は得られない。
 国譲りで”タケミカヅチ“に敗れてからそのように役割を変えたのだろう。
 軍神という立場で敗北した以上、そう名乗ることはできなかったからだと思う。

「幻想郷には当時博麗神社しか神社がありませんでしたが、私たちが外の世界から来て、信仰対象が二つになったんです。もともと博麗神社には信仰が少なかったので今は私たちが有利ですかね」
「……そうなのか」

 あまり宗教について興味がないために、あまり感情のこもっていない反応を見せる。そんな優也に対して早苗は気にすることなく二柱を信仰するために守矢神社に入信して見ないかと誘いを受けた。
 とはいえ優也は正直、あまり宗教に対して興味はなかった。
 だが直球に返すのもなんだか相手に失礼だと思ったので考えておくという保留の形にした。少し残念そうな表情を浮かべたが、まだ拒絶されたわけではないということもあり、すぐに彼女は気を取り戻す。

「ねえ、君は外の世界にいた時には高校生だったのかい?」
「ああ、そうだけど」

 そんな二人の様子を見ていた諏訪子が言う。
 突然の質問であったが優也は落ち着いてそう答える。
問い掛けてきた彼女は隣に座る神奈子にも視線を向け、お互いに頷き合った。一体何をアイコンタクトで確認しあったのか。優也はもちろんのこと、早苗にも分からない。

「なら丁度良い、この際入信とかを無視して早苗と友だちになってくれないかな?」
「えっ!? す、諏訪子様、いきなりどうしたのですか!?」

 すると視線をもう一度こちらに向けてきた諏訪子が、落ち着き払った様子を見せながらそう言って来た。彼女の言葉に一番驚きを見せていたのは優也ではなく、そう言われたもうひとりである早苗の方だった。
 優也としても、別に知り合いになるのは別に構わない。
隣にいる早苗もまた、年が近い、それも同じ高校生ということもあり知り合い、友だちになれれば嬉しい限りである。
 だが入信を無視してということには驚きを隠せなかった。
 彼女たちがこの世界に来たというのは何より神奈子と諏訪子の二柱の信仰を集め、存在を確固たるものにするためであったろうに。
 優也は彼女たちにとってどの宗教にも属していないため、格好のターゲットのはずだ。
 この世界に来てからまだそれほど年月が経っていないために、信仰の数というのはそれほど多くは集まっていないだろう。
 そんな時だからこそ入信を求めるべきだと思っていたが、その信仰を求めている神自身がそう言ってきた。
とてもではないが、彼女に驚くなと言うのは無理な話だった、

「突然も何も、折角同じ年頃の男子がいるんだから信仰集め以外にも楽しみがあっても良いと思ってね。ほら早苗はこの世界に私たちについて来てくれたけれど、その代わりに外の世界にいた友だちを捨ててきてしまっただろう?」

 申しわけなさそうにして言う神奈子。
 諏訪子と共に彼女を娘として育ててきたために、彼女の幸せな未来のひとつを摘み取ってしまったことを今でも思い悩んでいたのだ。

「か、神奈子様まで……私は別に気にしていませんよ?」

 そんな彼女に対して早苗は気にしていないと言う。
 この世界に来る前には一ヶ月の猶予があった。その間に元の世界に残るか、それとも彼女たちに付いて行き幻想郷に向かうかの選択肢を頭にずっと悩んだ。
 そして悩み抜いて出した答えがこれだった。
 決して後悔はない。
 それでも寂しさというものは決してないというわけではなかった。この世界では早苗は自分が少しだけ浮いている存在のように感じていた。
 世界そのものの時代が以前いた世界の時代よりも前ということで自分が知っている知識や話題が通用しないことが多かったのだ。同い年の人里の人間がいないわけではなかった。しかし気軽に話しができるというわけでもなかった。
 だから知らず知らずの内に寂しさというものが募っていた。同じ巫女という立場にいる霊夢やその周りにいる魔理沙などとも話をするとしても外の世界で好きだった自分の趣味などが通用するというわけではなかった。
 だがそんな時に現れたのが外来人の綾崎優也だった。
 そしてそんな優也と友だちになれば良いと、神奈子と諏訪子が彼女の背中をそっと押してくれた。

「確かに話をできる人間はこの世界にいるだろうけど、話題が合わないとかがあって話をしても楽しくないって思ってるだろうからね。君が話し相手になってくれるならば早苗も少しは羽目を外せるだろうしね」
「えっと……そのう、優也さんは……どうでしょうか?」

 こちらを不安そうに見てくる。
 優也としても同じ外の人間である彼女と知り合いになれれば少しはただひとりの外来人という無意識の内の孤独感というものを和らげられるかもしれなかった。それにこの世界に来てからそのように友だちになろうといってくるものはいなかった。もとより自分からそのような関係を作りにいくような性格ではなかった優也であるが、素直に嬉しく思った。

「別に構わない。俺も気軽に話せる相手って、あんまりいないから」
「ほ、本当ですかっ!?」

 構わないという優也の言葉に、早苗は素直に喜びを表す。
 そんな彼女を見て、二柱もまたよかったという安堵の表情を浮かべている。
 もう少し話をしても良いだろう。慣れないお酒を片手に、ひとりと二柱と共に少しだけ懐かしい外の世界について話をした


 三人との話はまた有意義なものだった。
 特に驚きだったのは神様である二柱が以外に俗界に染まっていたということだ。何故外の世界にいたとはいえ、ゲームやドラマの話をスラスラと言えるだろうか。
 話を聞いてみれば、基本的に外の世界、現代になってからはそれほど大きく動くことはしなくなったし、することができるほど力も残っていなかったので暇つぶしだったという。
なんとも神らしくない神だと思う。
 すっかりお酒の入ってしまい、上機嫌になっている神の二柱と、あまり強くないにもかかわらず、調子に乗って飲みすぎてしまい、伸びている早苗の姿があった。

「ありゃりゃ、すっかりでき上がっちゃってるね。調子に乗って飲みすぎたかな?」

 そう言いながら諏訪子が徳利を傾けてお猪口にお酒を注ぐ。
 まだ飲むのかと呆れを抱く。
 そう言う優也は最初に入れられたお酒をまだ半分しか飲んでいない。やはり飲みなれないものだということで、あまり身体が受け付けなかったのだ。今後少しずつ慣れていかなければこの世界の宴会では身が持たないかもしれないと思う。
 テーブルに突っ伏してしまっている早苗の口からはムニャムニャと熟睡している声が聞こえる。

「なんだかんだいって結構な時間話し込んじゃったようだね。久しぶりに外の人間と話すことができて、私は楽しかったけどね」
「まさか神と話をするだなんて思いもしなかったけどな。なんていうか、罰当たりな気がする」
「それくらいじゃあ、私たち神は罰なんて与えないよ。君は分霊とはいえ私たちと同じ存在である神魔を操ることができる。気楽に考えなよ」

 満足そうに笑っている神奈子が言う。
優也としても恐れ多いことであるが、何故か彼女たちとは外の話題で話しこんでいたのは楽しかった。まだ数ヶ月しか外の世界からはなれていないが、それでも小さな寂しさというものがなかったわけではなかった。
 神と話すということが外の世界ではありえないことだったので若干緊張もしたが、彼女たちの神とは思えないフレンドリーなところを見せられて自然に話すことができた。
 そろそろ宴会も終わりに近かった。
 最後に話をしておかなければいけないと思われる者のところに行くために優也は立ち上がる。それを理解しているために神奈子と諏訪子の二柱は引き止めるようなことはしない。
 二柱に対して、時間ができた時や人里で会った時に話しかけてみると伝える。二柱も是非そうして欲しいと言い、眠ってしまっている早苗を見ながらまるで母親のような笑みを浮かべる。
 そっとしておこうと、彼女たちのいた席から離れ、その者がいるテーブルに向かった。


「大分この世界に馴染んできたんじゃないかしら?」

 そう言って来るはこの世界の管理者であるスキマ妖怪の八雲紫だ。相変わらず何を考えているか分からないと言う雰囲気を纏っている。
 だが今の彼女からはこちらをからかうような様子は見られず、純粋にこの世界を楽しんでいるかどうか、窺っているような様子を見せている。

「少なくとも、良い方になら……」
「あら、良かったじゃない」

 多少お酒が入ってしまっているために冷静な思考ができない。
それでも彼女の問いに対してはしっかりと答えることができた。
最初は突然どことも知らない場所に送られて、さらには死ぬ危険にも晒されたために彼女に対して感謝などという感情は抱くはずもなかった。
だが彼女は優也の心の中にある小さな願望というものを汲み取ったに過ぎなかった。変わらない世界、ただ流されるように進む自分の人生に対して刺激というものを意識的にしろ、無意識的にしろ、それを願望として抱いていたのだから。
 優也の言葉を聞いた紫は満足していると取れるような笑みを浮かべている。
 隣に座っている水色の服を着て桜色の髪をした女性が彼女に対して「よかったわねー」といいながら手元に置かれている大皿に入った大量の料理を例えは悪いがまるで掃除機がゴミを吸い取るかのように勢いよく口に運ばれては消えていく。
 その彼女の後ろに従者なのだろうか、白い髪に黒いカチューシャをした少女が正座をしながら呆れた表情を浮かべているのが見えた。緑色の服とスカート姿、その背中と腰には長短の刀がある。
 このテーブルには彼女たち以外のものの姿もあった。

「おっ? 新参者の子だね。そんなところに立ってないで座りなよ」

 そう言ってくるのは先ほども縁側で姿をチラリと見た白いノースリーブの服と青いスカートを穿き、頭の二本の角の生え、後頭部に大きな赤いリボンを着けた、金の長髪の鬼の少女だ。アクセサリーか何かなのか分からないが、彼女の両腕と髪にはそれぞれ「○・△・□」の形を模っている分銅がついており、その手にはお酒が入った瓢箪を持っており、こちらに相当よっているために顔を真っ赤にさせて視線を向けてくる。
 どれだけ飲んでいるのだと、とても彼女の酌には付いていけない自信があった。

「新参者とか、気にしなくても良いってことだよ。折角の宴会、楽しまないと、ん? くくく、それに、ねえ?」

 同じようにお猪口に入ったお酒を味わっている青と白を基調にした服を着て、赤い髪をツインテールにした女性。鬼の少女と同じくらいよっているためか顔を赤らめており、厚いということで来ているものを少しだけはだけさせている。だが自己主張するかのようにある胸が露になっている。一瞬視線がそちらに向いたのに気付いた彼女は酔っているためか、それとも素なのか、話をしている途中に意地の悪そうな笑みを向けてきた。
 優也も多少酔っているためか、表情に彼女に対するムッとした感情が浮かぶ。だがこの場において、それはお酒の肴にしかならない。すぐに感情を無表情の仮面を被ることで誤魔化す。今更遅いだろうが、これ以上から変われるのはごめんだった。

「あらあら、まあまあ」
「やっぱり男の子よね。こういう反応を示す人間は久しぶりね。周りが回りだから仕方のないことだけど」

 桜色の髪をした女性と紫が扇子で口元を隠しながらクスクスと笑う。
 彼女たちからすれば優也は所詮人間であり、子どもでしかないだろう。その反応ですら可愛らしいという言葉だけで片付けられるのだから、厄介だ。
 そんな優也の反応を面白がっているこの場を締めるように声が聞こえた。

「まったく……貴女たちはからかうということに節度を持ちなさい」
「四季様、ここは宴会場ですよ? それにこれくらいは普通に――」
「そもそも小町、貴女がそんなふしだらな格好をしているからこんなことに」

 このテーブルに集まっていた者たちの視線を一身に浴びるは、上質そうな生地で作られた服を着ている緑の髪の女性だった。身長はやや低く、見る人によっては少女とも取れた。だが彼女が纏っている雰囲気、オーラというものがまた別次元の存在のように感じられた。妖怪とも当然人間とも違う存在――どちらかというと先ほど会ってきた八坂神奈子や洩矢諏訪子の二柱のように神に近いそれだった。
 その手には棒というのか板切れのようなもの。それには何やら文字のようなものが書き込まれているが、読めない。
 小町と呼ばれた赤髪のツインテールの女性が彼女のことを四季()と呼ぶことから彼女の上司か何かなのだろうと思う。この世界の管理者たる紫に対してもその堂々とした姿勢を崩さない様子を見る限り、彼女も何かしらの重要な役割を担っている存在なのだろうと思う。
 小町と呼ばれた女性が四季と呼ばれる彼女に対してもっと気楽にいきましょうよというように話すが。彼女は頑としてそのまじめそうな姿勢を崩すことはせず、どこから取り出したのか手鏡のようなものを手にしながら小町に対して諌めるように話す。
 あたいのせいですかと、とばっちりだというように言う彼女の言葉を無視して優也の方に視線を向けてきた。視線を外させない強い力が優也を拘束するかのようにしている。

「フゥ……件の彼が来たところで話を進めても構いませんね、八雲紫?」
「どうぞ、四季映姫様」

 小さくため息をつき、四季映姫という女性は紫に対して意を求める。小さく首肯しながら彼女は話を進めても構わないという意を示す。件の彼――つまりは優也のことだ。どうやら今の今まで待っていたということになる。

「話してくれればすぐに来たというのに……」
「そうはいかないわよー。あなたにだって今日の宴会を楽しむ権利はあるわ。それを取り上げるだなんてことはできないの」

 おっとりと言う桜色の髪の女性。彼女からもまた普通とは違った雰囲気が感じられる。温かいようで、とても冷たいもの。人間であるのに、人間とは思えない。一体何者なのだろうかと思う。

「幽々子の言う通りよ。折角幻想郷を楽しいと思ってくれているのだから、私から評価は下げることはしないわ」

 彼女の名前は幽々子と言うようだ。
 連れてこられた身であるが、外の世界にいた時に比べたら確かにこの世界での生活というのには不思議と充実感というものを感じているし、楽しいとも思う。

「それで、俺に何か?」
「ええ、今回の幻想郷において起きた異変。これについてです」
「えっ? 四季様、それについてはもう話はついているはずじゃないですか?」

 そろそろここで何を話すのか、尋ねてみる。
 小さく咳払いをする映姫が本題を告げる。それはやはり紅魔館において起きた異変についてだった。しかしそれはすでに話はついていたはずだと思う優也。
それを代弁するかのように小町がそう言う。
 内心では優也はあのフランドールと瓜二つだった存在のことを告げるべきかと悩んでいた。あの時ベルベットルームに再び呼ばれ、イゴールから伝えられたこと―「シャドウ」という存在―を彼女たちにも伝えるべきかどうかだった。
 だが“シャドウ”という存在が幻想郷に存在していないので彼女たちに伝えたとしても信憑性はないだろうし、さらに優也は所詮外来人でしかない。そのことを伝えても相手にされないだろうと思った。それになぜそれを知っているのかと尋ねられても答えることはできても、証明することはできない。何せベルベットルームには契約者である優也ですら自分の意志で行けるというわけではないからだ。
 それにこのように瓜二つの存在が表れるという異変が以前から起きているという話は聞いていない。つまり優也がこの世界に来てから起こったということだ。さらに“ペルソナ”という“シャドウ”同様に幻想郷にはない存在、力を操る優也は十分に怪しいとされる容疑者のひとりと見られてもおかしくはなかった。
 映姫が取り出していた手鏡のようなものに視線を落とす。そして。

「ええっと、映姫様? それは確か浄玻璃の鏡ですよね?」

 黒いカチューシャをした少女がその手鏡の名前を言う。
 一体何に使うものなのだろうかとそれを見ながら思う。複雑な形をしているわけではなく、いたってシンプルな形をしている手鏡だ。だがあまり良いイメージはもてなかった。
 すると小町が、

「その鏡に罪人を映すと、その者の過去の行いが全て映るという閻魔用の裁判用品……って四季様一体どうしてそんなものを今持ち出しているんですか!?」

 驚きを露にしながら言う。
 優也にとってはその手鏡の力以外に映姫が閻魔だということが驚きだった。
確かに普通の存在ではないだろうとは思っていたがまさかあの昔話などに出てくる地獄の裁判長である閻魔だとは思わなかった。
それにとても物語などで語られる容姿ではない。もっと大柄な男性だと、昔話を聞かされたこともあった優也は想像していた。チラリとこちらに視線を向けてきた映姫。それは今優也の思っていたことを見透かしていると、そう訴えているのに十分な威圧感があった。
 絶対に口にはできないと思う

「プライバシーもへったくれもない恐ろしい道具ね、相変わらず」
「スキマを開いて好き勝手覗き込んでいるあなたに言われたくありませんよ、八雲紫」
「うふふふ、一本取られたわね、紫」

 そう言う紫の言葉にはからかいが含まれている。
 だがそんな彼女の言葉を聞いて、映姫はまったく気にすることもなくあっさりと彼女に対して鋭いツッコミを放って見せた。
 確かに魔法の守であり巣に助けられる前に見られていた視線はやはり彼女のものだったのかとここに来てようやく確信する。スキマという優也の常識では計り知れない力、目の前で手鏡を見ている映姫が閻魔ということはその部下に当たるかもしれない小町もまた地獄に済む存在。近くの壁に立てかけられているのは鋭い湾曲した刃を持つ大きな鎌だった。それを見て彼女が死神なのだと分かった。
 この世界がどれだけ常識外なのかが良く分かった気がする。もはや常識を壊されたと言っても良い。参ったというように頭を抱える。

「あなたの過去を覗かせてもらいました。特に罪を犯した様子もなく、小さな善行をつんでいるようですね。特に今回の紅魔館の一件では大きな罪を犯すところでしたが、ことがうまく運んだのでしょうね、善行となっていますよ」
「紅魔館の一件ということは吸血鬼の妹を救ったということですわよね、閻魔様?」

 幽々子の言葉に対して頷くだけの映姫。
 罪? 善行? どういうことだと優也は疑問を浮かべる。
 確かにあの時の自分はどうかしていた。ただ周りの流れに身を任せるだけに生きていた。だから映姫は、罪は犯していないと言ったのだろうと思う。だが紅魔館での一件は違った。一歩間違えば罪に問われてもおかしくはなかったという。
 それはフランドールのことを救うことができなかった場合だろうか。あの時の行動は確かにフランドールの心に傷をつけてしまった。それは今回のことが善行であったとしても、優也の背負うべき罪だ。無言である映姫であるが、その話から自覚しろとでも言っているのだろうと思う。

「話が脱線してしまいましたね。過去を覗いたのは実際に私がその時の様子をこの目で確かめたかったからです」

 過去を除くことで優也たちの発言に嘘がないかを確かめたのだろう。
 特に何も言ってこなかったということは、彼女が納得したということだ。

「確かに瓜二つの姿になるという存在は、私も聞いたことも、幻想郷でも見たことがありませんね。能力的なものだと仮定してもそうですね」

 ふと映姫の言葉を聞いてあれっと思う。過去を除くということは優也が体験したことは全てそれに映るということのはず。しかしそこにはベルベットルームにおけるやり取りがまったく出ていなかった。一体どういうことなのかと、怪訝そうな表情を浮かべる。
 そんな優也に対してひとり瓢箪に入ったお酒で晩酌をしていた少女が話しかけてきた。

「綾崎優也だったっけ? 何か腑に落ちないことでも有るのかい?」

 彼女に見透かされたと思い、思わず息を呑む。
 視線が一斉に優也に注がれる。

「伊吹萃香、浄玻璃の鏡に映らないことはありませんよ? それはあなたも知っているはず」
「そうだね、確かにそうだ」

 何を言っているのかいうように映姫は彼女に言う。
 対する彼女は言われなくても分かっているというようだ。改めて聞かされなくても記憶に刻まれていることなので説明は不要だ、と映姫の言葉を遮る。
 なら一体何を言いたいのか、と映姫が尋ねる。
 そうだね、と萃香は瓢箪のお酒を口に運びながら数秒虚空を眺め、そして。

「綾崎優也、お前はまだ何か隠しているよね。そう、何か言えないことを」

 完全に見透かされている。仮面を被ることで表情には出さないが、その仮面すら彼女には看破されてしまっているだろう。他の者たちはそうなのかという疑問を浮かべているだけ、特に映姫はそれが顕著に顔に出ている。

「ええっと……浄瑠璃の鏡は万能というわけじゃないんですか?」
「零ではないだろうけどね。例えば閻魔である四季様以上の実力者ならばそれが可能だろうね。だけど」
「彼にその力があるとは思えない。例え“ペルソナ”という力を持っているとはいえ、力の大きさでいえば閻魔様の方が断然上ねー」

 カチューシャの少女が尋ねる。
 小町は、可能性は零ではない、と言う。だが彼女自身、それは普通あり得ないと思っている。
人間であれ、妖怪であれそれらを裁く役割を持つのが閻魔であり、その役割を担っているのが彼女であるからだ。そんな彼女を凌ぐというのであれば神といっても相当上位のクラスとなる。それこそ国を生み出したという“伊邪那岐”クラスになるだろう。そんな存在がそこんらそこらに存在しているはずはない。
 ならば優也自身に何か特別な何かがあるのかという仮説も出てくるが、それはすぐにないと答えられる。古今東西の神魔を宿しているとはいえその総合しても彼女には届かないと幽々子が言う。
 ならばどうしてなのだろうか。
 優也に対する周りからの視線が鋭くなる。
 まだ言っていないことを抱えているというのを看破して見せた萃香という鬼。相変わらずお酒を飲んでいるだけの飲兵衛にしか見えないが、見た目で判断すると痛い目に遭うというのはこのことかと痛感させられる。
 ならこのことを言うべきか。それとも多少のぼかしを入れるべきか。だがぼかしたところでまた萃香に見破れるかもしれないし、正直に話したところでそれを信じてもらえる可能性は低い。何せ証明するものがないからだ。彼らがここに現れるか、こちらからベルベットルームに向かうことができればまだそちらの方が良いのだがと考える。
 このまま黙っていても意味はない、と思い、意を決して口を開く。

「アレについて、ひとつだけ気になることがある……」
「アレというのは、吸血鬼の妹と瓜二つのあの存在についてですか?」

 映姫が尋ねてきたのに対して、表情を変えることはせずにただ頷く。

「アレの言った言葉――「我は影、真なる我」――が少し気になる」
「我は影……か。なるほど確かに影ならもうひとりの自分が作れるね」
「真なる我……ならこれは本音と考えても良いかもしれないわね。事実、浄玻璃の鏡に映ったその「影」にはフランドールの抑圧されていた本音――嫉妬と怒り――が表れていたわ。多少誇張されているようだったけど」

 優也の言った言葉を聞いてそれぞれの見解を示す。
 小町と紫のそれが一番イゴールから聞いている“シャドウ”の説明と合致している。

「ならそれを今後“影”とでも呼ぶのかしらー?」
「えぇー、もっと面白いネーミングはないの、幽々子?」
「八雲紫……まだ大きな被害は出ていなくともまだはっきりとした詳細の分からない存在なのですよ!? そんなことまで娯楽にしないでください!」

 相変わらず間延びする独特な雰囲気の幽々子の言葉に対して唇を尖らせてもっと面白いネーミングはないのかとケチをつける紫。
 今回のことについてあまり危機感を抱いていないのかどうか。
 そんな彼女に対して映姫が諌める。

「なら“シャドウ”……と呼ぶのは? あまり捻りはないけど」
「うー……ん、もっと面白い呼び方でも良さそうだけど――」

 優也のいうのを聞いて扇子を閉じたまま、それを口元に触れさせチラリと映姫の方に横目で視線を送る。
スッと目を細め、彼女を睨みつける。

「映姫様が怒りそうだからそれで妥協するわ」

 もういちいち言葉で突っ込むのも疲れてしまったのだろうか、映姫は盛大なため息を漏らす。

「そろそろ宴会もお開きですね。この件についてもここまでということで」

 映姫が締めるように言う。
 宴会に出されていた料理もお酒もほとんどなくなっており、テーブルの周りには屍のように眠っている者たちが見える。中には一升瓶のことをまるで抱き枕を抱くようにして抱えて眠っている者もいる。
 残っているコップの中のお酒を口に運ぶ。

「うっ!?」

 思わず顔を顰める。
 やはり苦い。
これで三杯目であるが、やはりこの独特な味にはそう簡単には慣れない。
 ようやく緊張によって支配されていた空間から解放されたと思える。紫はスキマを開いて自分の屋敷に戻ると大きなあくびをしながら戻っていき、幽々子は何やら持って来ていた重箱に余った料理を入れるなどという徹底した暴食家っぷりを発揮している。萃香と小町はギリギリまで晩酌をしていく様子。そんな小町に頭を抱えながら映姫が明日の仕事に遅れないようにと釘を刺し、博麗神社を後にする様子が見受けられた。
 今日はそろそろお暇しようと思い、立ち上がる。
一緒に返る予定の慧音と妹紅の姿を探す。
慧音の姿はなかったのでおそらく彼女の性格からして片づけを手伝っているのだろうと思う。
妹紅はすぐに見つかる。
別テーブルでまだ残っているお酒を勢い良くコップに開けて同じ席で競い合うようにして永遠亭に住む蓬莱山輝夜とともに飲み合いをしていたのだ。双方の顔色が悪くなっているのを見てそろそろ吐き出すのではないかと思う。薬師である永琳も来ている野で大丈夫だろうとは思う。
確か鈴仙もいたはずなのだが。チラリと永琳の隣に何かが転がっているのが見えた。良く見ると白い毛のウサギが口から泡を吐いて気絶しているためか転がっていたのだ。
――哀れだな……強く生きろ。
おそらく師匠である永琳の実験に巻き込まれてしまったのだろうと思う。流石に死ぬようなことはないだろうと思うのでそっとしておくことにした。
最初に座っていた紅魔館の三人が座っていたテーブルには咲夜の膝を枕代わりにして眠る二人の姉妹の姿が見えた。お互いの手を握り合うなど、今までは決してできなかったことがされていると少しずつ関係の修復をしているというのが見て分かった。
また別のテーブルには大きく口を開けて眠っている魔理沙と、人形たちに囲まれながらすやすやと眠っているアリスの姿があった。
 台所のある方向の部屋からひょっこりと顔を出した霊夢が、

「飲むだけ飲んで、食べるだけ食べて……はあ、そうだ手が空いてるならこいつら部屋に運んでおいてくれない?」

 死んだように眠っている者たちを見て呆れながらため息をつく。
 だが小さく笑みを浮かべている彼女の表情から、今日の宴会は楽しかったという素直な気持ちが見て取れた。
 視線をこちらに向け、優也が持っていた食器などを彼女が代わりに持つと言う。その代わりに優也が今日止まることにした者たちをそれぞれ客間に連れて行くように言われた。一応すぐ近くだというので迷うことはない。
 だがこれだけの量の食器の片づけをどうするのか。

「後片付けは――」
「私も手伝うわ。お嬢様と妹様も眠ってしまったしね」

 面倒だけど何とかなるわ、と言おうとした霊夢であるが、彼女の言葉を遮るようにして横から咲夜が現れ、自分も手伝うと言う。
 いつの間に、と思った。
 レミリアとフランドールはというと、座布団を枕代わりに眠っていた。

「そう? なら咲夜も手伝って。今台所の方で慧音も手伝ってくれてるから」
「分かったわ。私たちも泊まるつもりだから、お嬢様と妹様のこともよろしくね」

なら早くして、と催促するようにして霊夢は優也から代わりに預かった食器を持ちながら台所の方へと向かっていく。
咲夜も、はいはい、と言いながら食器を片付け始める。
 優也も眠っている二人のもとへと近づく。足音が聞こえても目を覚ますことはない。夜という時間であるが、相当お酒が入ってしまっているためか、目を覚ます様子はない。そっと二人のことを抱き上げる。
羽には質量がないのだろうか。ほとんど重さは感じられず、二人もまた幼子を抱えているくらいにしか感じられない。
宴会場から出て、縁側を歩く。夜ということもあり、涼しい風が、お酒が入って火照っている身体を涼ませてくれる。空を見上げると満月から月が欠け始めていた。
普通なら綺麗だと思える月も、この時ばかりは、何故かカウントダウンが始まった砂時計のように見え、不気味さを覚えたのだった。




後書き
EDテーマ→《東方Vocal》Necro Fantasia (REDALiCE Remix) / ネクロファンタジア

 はじめての方は、はじめまして。
 いつも読んでくださっている方は、ありがとうございます。
 作者の泉海斗です。
 前回の投稿はかなり空いてしまいましたが、今回は以前よりは早めに投降できたと思っています。
 前回の続きの宴会でのやり取りでしたがようやく幻想郷上位メンバーとの話に持ってゆくことが出来ました。
 まだまだ始まったばかりの第三章ですが、気長に楽しんでいただけると嬉しく思います。
 今回もこの作品を最後まで読んでくださりありがとうございました。楽しんでいただけたのなら幸いです。
この作品を読んでくださったみなさまに無上の感謝を、変わらず。
 それではまた次回!

コミュ構築

愚者→幻想郷の民
道化師→???
魔術師→霧雨魔理沙
女教皇→アリス・マーガトロイド
女帝→???
皇帝→???
法王→上白河慧音
恋愛→東谷風早苗
戦車→???
正義→博麗霊夢
隠者→八雲紫【新】
運命→レミリア・スカーレット
剛毅→伊吹萃香【新】
刑死者→???
死神→西行寺幽々子【新】
節制→小野寺小町【新】
悪魔→射命丸文
塔→八意永琳
星→フランドール・スカーレット MAX→アストライア
月→蓬莱山輝夜
太陽→???
審判→四季映姫・ヤマザナドゥ【新】
世界→十六夜咲夜
永劫→???



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