ここに居たよ
 視える知り合いが出来、少しして招待した。
 あら、ずいぶん賑やかな家ね、と早速彼女。
 まるで猫屋敷ね、と眺めながら言う。
 確かに二匹の姉妹が居るが、しかし。
 ほら、ここにも、と屋根を指さす。当然、私には何も見えない。

 玄関に上がり、異変が起きた。

 一角、下駄箱の下をじっと見据え、おいで、ほらと手招き。
 鳴き声が、私の耳にも確かに聞こえた。
 よしよし、と彼女は抱き上げ、
 耳を澄まし、
 そして突如、号泣する。

 戸惑う私にしゃくりあげながら、彼女は切れ切れに発する。
 そう、あなた、金剛って言うの。
 ちゃんと名乗って。賢い子ね。

 耳を疑った。

 確かに、昔、一度その猫は居た。私が拾って来た。
 だが、当時の先輩、彼ももう土の下だが、ソリが悪かったのか、
 余りにも、金剛はあっけなく私の前から姿を消した。

 悪気は無かった様だ。
 とある少女に、可愛い、と、
 そう、私がした様に、連れ去られ、
 しかし、彼は刹那の私を思慕してくれたらしい。
 出先で、我が家へ帰ろうと、
 国道を横断しようと。仔猫の身で。

 金剛。

 ここで、ずっとあなたを見ていたのよ、
 ほら、抱いてあげて。

 彼女が差し出す。

 確かな質感、温かい塊。

 おまえ、ここに居たのか。

 にゃあ、そう、虚空から木魂した。


 やっぱりだめだな、と痛感して。
 今も彼女は私の隣に居ます。




あとがき
家出猫モチーフのプチホラーです。



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