無限航路−InfiniteSpace−
星海の飛蹟
作者:出之



第三話


 工場長のお目零しで出力したハードコピーは擦り切れるまで読み込んだ。
 トスカに拾われてからも寸暇を惜しんで関連テキストを貪って来た。
 総ては今日、この時の為に。
「合戦準備」
 張りのある、だが静かな声でユーリは発する。
 現在両艦は約120万km、相対速度+25000km/sで対峙している。
 無論、共にその存在を探知はしていない。
 互い、視ているのは艦が後方に引き摺る約15万kmに発達したインフラトン反応、その航跡である。
 ユーリは薄く笑った。
 緊迫、だが平静な中、自然な昂揚がCICの空気に広がる。大丈夫だ。いける。
「操舵」
 声を上げる。
「軌道欺瞞。詳細任せる」
「軌道欺瞞、アイ」
 操舵手はお、というような顔で復唱しつつ航法AIが無作為生成、表示した数値の通りにスティックを操作、直交加速を交える。
「対敵姿勢機動」
「対敵姿勢、アイ」
 対敵姿勢とは文字通り艦を敵正面に正対させる機動、姿勢を取ることであり、効果は対敵投影面積の極小化、つまり被弾確率の低減にある。頭を下げる、ハルダウン、戦術というよりは常識の範疇にある。
 直後。
「発砲!」
 敵の初弾が来た。
 それは過去位置、“航跡”の先端を射抜いたが「ユキカゼ」にはカスリもしていない。
「全門斉発!」
 応射を命じるユーリに従い連装二基4門のレーザ砲が一斉に光束を撃ち放つ。
 先制の発砲により敵海賊艦はその存在情報を暴露していた。
 だがこの時点で尚、彼我には100万に近い開きがある。敵の存在情報は射撃諸元算出の重大要素ではあるが決定的では無い。
 というかそも地球/月間が37万なので、100万といえば「狙って当たる」距離ではない。
 照準の種別で分けると射撃は、直接照準、間接照準、無照準の3種に大別される。
 照準出来ないのだからここは無照準となる。
 といって、射撃諸元を得ている以上ただの盲撃ちをする訳ではない。当然、当たってちょうだいと思って撃つ。所謂「公算射撃」というやつである。
 取りあえず敵は、ウェーキの先端にあり加速継続のまま射撃を加えてきた。だから、狙うのはそのへんだ。
 先の情報と射撃開始時での敵推計未来位置が加算され、FCSに流れ込む情報に従い「ユキカゼ」は発砲する。
 ファイア。
 FCSは射撃目標を算出する。
 2軸平面4象限の数値空間にそれは投影される。0,0を基点とする散布界。
 試射、レーザパルスがミリ・セカンド単位でそれを打ち抜いていく。
 FCSによる射撃管制はフルオートだが散布パタンの算出、案出は手動、或いは旗艦から指定される。
 これの出来、不出来は練度の格差に直結している。
 挟叉
 着弾を観測。これを基点に再構成された散布界に応じて火力と射速を増した効力射を続けて叩き込む。
 増大、放散、拡散。
「キル。ターゲット、ブロークン」

 それが三回ほど続くと、ユーリの隣でトスカは不機嫌に黙り込む。
 ややあって、彼女はユーリの顔を見た。
「艦長。最寄り星系に寄港することを提案します」
 ユーリも異変を察知していた。

 うん。この星域は、確かにおかしい。



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