−ピグマリオ−
ジャック&ベティの大冒険!
作者:出之



 2.


 二人はそれからもひたすら歩を進めた。
 やがて雪原を渡りきり。
 少し下ると遂に雪が尽きた。
 更に進むと。
「街道だ」
 流石に、その場にへたり込む。
 待つこと二刻ほど。
 没しかける陽を背に、一頭の馬車が現れた。
「うひゃ!」
 待ち伏せの様に現れ、取り囲む人影。
 御者は頓狂な声を上げる。
 ムチを振り上げ。
 待った!!。
 男の気迫に御者は凍り付いた。
「怪しい者じゃないわよ、ホラ!」
 青女も馬の前に飛び出てその場でくるりと回ってみせる。
 なるほど、帯刀は無い。
「あ、あんたら」
 御者はようやく言葉を発した。
「なんなんだ」
 二人は顔を見合わせ、頷き合う。
「実は……」
 御者は二人の雰囲気に呑まれ。
 結局、事の顛末一部始終を耳にした。
「うーん。そいつぁ」
 御者は首を捻りつつ。
「たいそうなことだあなあ」
 一言に要約して見せた。
「で、あんたらどうするだ」
「金は、少しだが有るんだ」
 例の、“雪原の衣装屋”で、衣服以外の銭入れ、中身を全部集めると少しの間は保ちそうな額が手に入った。二人はそれをその場で折半。
 男は懐から金銀銅を取り出し、見せる。
「あーそんなら。銅2でじゅうぶんだあ」
 御者は始めて笑顔を見せた。
「次の町まででいいんだな」
「ああ、それでいい」
 男は応じる。
「そんじゃ、上がってくんろ。あー席はないじゃが。そのへんにてきとうに」
「有り難い。助かる」
 荷台に上がり、二人は息を呑む。
 そこは、ちょっとした武器庫の様相だった。
「なんだこれは。あんた、武器商人なのか」
「あー違うちがう」
 御者は顔を覗かせ、首と手を振り否定する。
「わしはただ運ぶだけだあに」
「じゃあ、戦争か」
 御者は首を傾げ。
「そったらおおごとではねえ」
 やはり、否定した。
「何でも、鬼退治、いうことんだに」
「鬼退治……」
 二人は顔を見合わせる。
 馬車が揺れる。動き始める。
 しばらくして御者は再び話しかけて来た。
「どうだ、あんたら」
「どうだ、とは」
 御者は人のいい笑いを浮かべ。
「町に着いても、なんのあてもなかんべ。その様子じゃあ」
「うむ」
 男は黙る。
「だから、参加してみっぺえよ、鬼退治」
「え」
 それは唐突な申し入れだ。
「あーあーチャバラの方でねえで、ほれ」
 と男を指差す。
「あんちゃん、いい身体してなっさる」
「ああ、それは」
 男は自身を見下ろす。
 御者の背丈の、頭二つは高いか。
 腕も足も太い。
「荷運び、せんね」
「ああ。なるほど、はい」
 得心顔で男は頷く。
「ねえちゃんは賄い」
 ……料理。出来るかしら。
 彼女は自分の記憶を探ると、腹立たしいことにそれなりのレパートリーを見出した。
 名前も過去も無いのにいい気なものだ。
「決まりだな。うん、報酬は弾むよう掛け合ったるで」
 やがてとっぷりと日も暮れた頃、馬車は町の門をくぐる。



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