第一章 始まりは突然に



−5月23日、大阪府某所−

「きゃあっ!」

悲鳴をあげたのは森山(もりやま)美月(みつき)という名の女子高生。大阪府立舞浜(まいはま)高校に通う高校2年生、帰宅部所属、彼氏いない歴= 年齢というごくごく普通の女子高生である。
ショートカットの茶髪、整った顔立ち、暖かさと鋭さを兼ね備えた眼光。この容姿に惹かれる男子も多く、男子の間では隠れた人気者となっている。
話を美月の紹介から現実に戻そう。美月は何故に悲鳴をあげたのか?
昨今の社会で問題になっている不審者に襲われたわけではなく、目の前で交通事故が起きたわけでもない。一般常識の斜め上をいく事態が目の前で起きたのだ。
青い光球が沢山降ってきて、気がつくと物々しい格好した男が空に浮かんでいる。更には、男の反対側に剣を持っている女も浮かんでいる。そして、男の手から 放たれた青い光球が美月の近くに着弾し、その衝撃でアスファルトが破片となって美月の周囲に降り注ぐ。
そんな状況が美月の目の前で起きているのである。誰しもが悲鳴をあげざるを得ない状況と言えうだろう。

(もー、何なんこれ!)

美月は友達と帰っていたはずなのだが、その友達はいつの間にか消えている。
ここで町並みも灰色になっていれば、某団団長が発生させる某空間に迷いこんだと説明できるのだが……夕日に染まっていた町並みはいたって普通の町並みのま まである。

(うちの頭、壊れてしもたんやろか……)

夢であってほしいと頬をつねってみるが、痛みはちゃんと感じる。
どうすることもできず、ただ立ち尽くすだけの美月。
そんな美月など気にも留めず、空中に浮かんでいる男女は穏やかでない会話をしている。

「時空管理局シグナム二尉だ。武器を捨てておとなしく投降しろ」
「へっ、女が相手とはな…舐められたモンだぜ」
「軽口をたたけるのも今のうちだ…レヴァンティン!」
「シランデアホー!」

(え?)

美月の耳にツッコミ所満更の声が聞こえてくる。
と次の瞬間、女性が持っていた剣が伸びて鞭の様にしなった。

(ちょ、何なんよ……)

あたふたする美月などお構い無しに、上空での戦闘はますます激しくなっている。
男の手から放たれた光球は至るところに着弾し、クレーターの数をどんどん増やしていく。その衝撃波で吹き飛ばされたアスファルトの破片は問答無用で美月の 周囲に空気を爆音を立てて降り注ぐ。
そして、鞭のようにしなった剣は振られるたびに耳を劈くような金属音が鳴り響かせた。

(何がなんやら……)

と混乱している美月に、更なる災難が襲いかかる。

「んぎゃっ」

運の悪いことに、衝撃で破片となったアスファルトが美月の頭に直撃してしまったのだ。大きな悲鳴を上げて、美月の意識は深い闇に落ちていった。





「……い、しっかりしろ!」

誰かに揺り動かされてる気ような気がして、美月の意識が薄らと戻りかける。

(誰やろ……?)

頭を強打しているせいか、中々視力が戻らない。耳もあまり機能しないが、かすかに会話を聞き取ることができた。
どうやら美月を介抱している人と、もう一人別の人がいるようだ。

「アギト、シャマルに連絡してくれ」
「いーけどよ……別に頭打って気い失ってるんだったら下手にいじらねえ方がいいんじゃねえのか?」
「おかしいと思わんのか?我々が張った結界の中に何故この子がいる?」
「あ……」
「一度、詳しく検査をした方がいいかもしれん」
「だ、だけどよ……」
「私も無関係な人間は巻き込みたくはない。だが、この子は意図せずに結界を破った可能性がある。危険がないとは言い切れんのだ」
「分かったよ、シグナム……」

別の人が発した言葉が、美月の頭に引っかかる。

(シグナム?そういえば、さっきの人も……)

どこかで聞いた名前だと思ったが、さっき空に浮かんでいた女が名乗った名前だと気づく。
なんとか薄い意識を保っていたが、そこで再び美月の意識は闇に落ちた。





目を開けると、天井の蛍光灯の眩しさに目がくらんで、慣れるまでにしばらくかかった。目が慣れたところで、起きて周りを見回してみる。

「あ、起きたみたいね。頭痛くない?」

すると、側に居た金髪ショートカットの女性が美月に声をかけてきた。白衣を着ているということは、おそらく医者なのだろう。

「ハイ……大丈夫です……」

美月は違和感のある頭を撫でつつ、女医の問いに答える。違和感の正体は頭に巻かれた包帯。
包帯の下には大きな打撲痕、破片が直撃したときにできた傷がある。

(夢やったんやろか……)

記憶をたどりながら、美月は考える。が、頭に巻かれている包帯が夢ではないと物語っている。
美月が状況を飲み込めていないのを察してか、女医は自己紹介をした。

「あ、自己紹介がまだだったわね。私はシャマル、時空管理局の医務官よ」
「森山美月です……あの……シャマル先生、時空管理局って……?」
「あー、やっぱり分からないわよねー。ホント、シグナムってば心配性なんだから……美月ちゃん、ちょっと待っててね」

自動ドアが開き、シャマルと名乗った女性は部屋から出ていく。
開閉音が鳴り終わり、シーンとした空気が部屋に漂う。
自己紹介をされたが、何のこっちゃ分からない。
ふと美月は周りを見渡してみた。服は舞浜高校(舞高)の制服。横の机には自分の鞄が置いてある。そして、美月が寝てるのはアスファルトではなく、どこの病 院にもありそうな普通のベッド。

(……)

ますます謎は深まるばかり……と頭を悩ませていると、シャマルが帰ってきた。
ドアの開閉音とともに部屋の空気が一気に明るくなる。

「ごめんねー、起きたばっかりで悪いんだけど。ちょっと話を聞かせて欲しいって人が居るの」
「あ、ハイ……」

美月にも聞きたい事は色々ある。
すると、シャマルの後ろから人が現れた。
美月より少し長い茶色の髪、バッテンの髪止め、優しさと秘めたるものを感じさせるオーラの人物。茶色のスーツのような制服を着ている。

「ごめんなー、美月ちゃんも聞きたい事は盛り沢山やと思うねんけど、こっちも聞きたい事は盛り沢山やねんよー。あ、私は八神(やがみ)はやて。時空管理 局地上本部特別捜査官の二等陸佐や」
「……森山美月です」

はやて自身は簡潔に自己紹介したつもり。
しかしながら、初対面かつ状況を把握できていない美月にとっては全く簡潔ではない。
ある意味で救いだったのは、はやてが美月と同じ関西弁だったということだろう。同郷の人という理由だけでも、かなり打ち解けやすくなるからだ。

「……」

とはいっても、全く状況を飲み込めていないことには変わりない。
黙ってしまった美月を見たはやては思わず苦笑いする。

「いきなり時空管理局だの地上本部だの言われても分からへんわなー。えっとな、美月ちゃん、魔法使いって分かる?」
「分かりますけど……」

いきなり見ず知らずの人間に「魔法使いって分かる?」と聞かれて、素直に答える美月。
ある意味で中々の度胸である。
ちなみに美月の頭の中に浮かんでいたのは西洋の童話に出てきそうな箒に乗る魔女。

「んと……多分、美月ちゃんが考えたんはこんな感じやんなー」

と言って、はやてが紙に書いたのは美月の頭の中に浮かんでいた魔女の絵。何気に上手かったりする。

「はい、そうです」
「んー、間違ってはないんやけどなー」

「分かりやすい例ないか?」とシャマルに聞いているが、シャマルも困ったような顔をしている。
全く状況が飲み込めていない美月だが、『魔法使い』という筋の読めない話題を持ち出されて更に混乱してしまった。

(……全く分からへん……なんで魔法使いの話が出てくるん?)

美月の疑問を読み取ったようにはやては説明を進める。
はやて達はいわゆる魔法使いという存在である事。
はやて達が使う魔法は美月の想像と掛け離れた物であるという事。
世界は一個だけあるのではなくて、次元空間の中に無数にあるという事。
無数にある世界を管理するのが時空管理局だという事。
美月が居た地球は管理局で第97管理外世界と呼ばれているという事。
等々を説明した。

「あの……八神さん」
「あ、はやてでええよー」
「はやてさん、もしかしてここは地球やないんですか?」
「ここは第一管理世界、通称ミッドチルダにある時空管理局地上本部の医務室や。ちょっと調べたい事があってなー、運んでもろたんよ」
「な、なるほど……」

何とか平静を取り戻しかけていた美月をさらなる(精神的)衝撃が襲う。
ドアの開閉音とともに妖精、いや女性が入ってきた。

「はやてちゃーん、検査の結果出ましたよ〜」
「…へ?」

はやてと同じバッテンの髪止め、腰まで伸びた水色の髪、大きな水色の瞳、小さな体中に漂う凛としたオーラ。はやてと同じ色の制服。
女性であるのは間違いない。
しかし、問題は身体の大きさだ。およそ30cmといったところか。
そんな光景を見たならば、誰しもが小さいと言うだろう。

「……ちっちゃ……」

美月も例外ではなく、思わず小さいと言ってしまう。
しかし、美月がボソッと呟いた言葉を彼女?は聞き逃さなかった。

「あーっ、リインはこれでもちゃんとした大人なんですよー。だからリインの事を小っちゃいなんて言ったらダメなのです!」

手足を大きくばたつかせて自分を誇示する妖精もどき。そう言われても、にわかには信じがたい。
某小学校探偵が「実は俺、高校生なんだ」と言うのより信じがたいだろう。

「……」
「リイン、自己紹介せな。美月ちゃん、固まっとるやん」
「あ、そうでしたね。はじめまして、私はリインフォースU(ツヴァイ)、はやてちゃんのユニゾンデバイスで空曹長なのです」

(ユニゾンデバイス?何それ…?)

今日は科学の授業で新しい単元に入ったかの如く、見知らぬ単語がポンポン出てくる。

「まあ、この子についてはおいおい説明するわー。さて……」

と、はやては居住まいを正すと美月にあることを尋ねた。
しかし、それは美月の予想を飛び越えた話だった。

「美月ちゃん、時空管理局に入ってみーひんか?」
「はい?……」

予想外の言葉に間抜けた声を出す。
当然である、いきなり「時空管理局に入ってみないか?」と言われたのだ。街頭で「お嬢さん、警察官になりませんか?」と尋ねられたようなもの。
面食らわない人は多分いないだろう。

「実はな、美月ちゃんが寝てる間に検査さしてもろてんけど……」

と言いながら、はやてはリインから渡された資料に目を通す。
美月は知る由もないが、資料には美月の身体情報と魔導師適性検査の検査結果が書かれている。適性検査の検査は合格、推定魔導士ランクAAと書かれていた。

「美月ちゃんは空戦魔導師としての素質があるんよ」
「はぁ……」
「で、もし良かったら時空管理局に入局してもらえへんかなーって思って」
「はぁ……」

状況を理解する間も無く、話はどんどん進んでいく。
「はぁ……」としか言いようが無い。

「あ、答えは今すぐでなくてええよ。自分の人生に関わる大事なことやからなー。一応、私の連絡先教えとくから。何かあったら何時でも連絡してや」

と言ってはやては美月にメルアド書いた紙を渡す。
美月は次元空間を跨いでメールができるのか気になった。が、できるからアドレスを教えたのだろう。
筆者としては、その仕組みを知りたいものである。

「ほな、今日はこれにて解散しよかー。シャマル、あとはよろしゅうな」

そう言い残し、はやてはリインを連れて部屋から出ていった。
はやてとリインを見送ったシャマルはくるりと美月の方へ向く。

「じゃ、帰る前に頭の治療するわね?」
「あ、頭?」

(私の頭、別に変な妄想とかはせえへんで?)

どこかズレた思考をする美月。
読者の方々はお分かりだと思うが、シャマルは美月の頭の傷の治療をするつもりなのだ。
シャマルの手に黄緑の光が纏われ、シャマルはニコニコ顔で美月に近づいてくる。

「大丈夫よ。全然痛くないから」
「あ……その……」

と後退りしようとした瞬間、頭に包帯が巻かれていたことを思い出す。

(頭の治療って、傷の治療のことか……)

確かに頭に包帯を巻いたまま家に帰るわけにはいかない。正直に理由を話しても、親は信じないだろう。
ベッドの上に座る美月の頭にシャマルの手が翳されて、少し重かった頭がだんだんと軽くなっていく。

「はい、これでもう大丈夫よ?」
「あ、ありがとうございます」

初めて体験した魔法の凄さを感じつつ、美月はシャマルに頭を下げる。
美月が包帯を外すと、傷はどこにも見当たらない。

「それじゃ、治療も済んだし、転送ポートまで送るわね?」
「ありがとうございます」

その日は、それでお開きとなった。





−2時間後、森山家・美月の部屋−

やっとのことで家に帰ってくることができた美月。ベッドにうつ伏せで寝転がると、ふかふかの布団が心地よい。
寝返りを打って仰向けになると、天井の照明を見ながら色々と考える。

(自分の人生に関わること……か……)

今の美月には将来の夢はない。が、やりたいことが無いわけではない。
パティシエ、美容師、ネイルアーティストetc...
しかし、あくまでもそれは憧れであり、夢と言うには程遠い。
時空管理局空戦魔導師
響きとしてはすごく格好良いし、美月自身も小さい頃は魔法使いに憧れていた。その上「素質がある」なんて言われて、心が揺れ動かない訳はない。

(空戦魔導師って、実際はどんな仕事をするんやろ……)

あれこれ考えながら、ふと時計を見ると深夜1時を過ぎていた。
夜更かしばかりしている筆者が言える事ではないが、夜更かしは肌に悪いのだ。

(……今日はこれくらいにして、また明日考えよ)

今日1日だけで1週間ぶっ続けで働いたくらいの疲労がたまってしまった。
布団に入ると美月はすぐに眠りについたのだった。





−翌日、舞浜高校2年C組−

ショートカットの茶髪と整った顔立ちを持つ人物、森山美月は机に突っ伏して溜め息をついた。普段、暖かさ中に鋭さを兼ね備えている眼光は何かを悩んでいる ようで活気がない。

「はぁ……」
「美月らしくないやん、ため息なんかついて。何かあったん?」

彼女は柴崎優奈、美月の小学校からの幼なじみ。透き通るような輝きの二重の瞳と肩甲骨にかかる長さの茶髪をポニーテールに纏めている。
スタイルも高校生とは思えないほど良く、運動神経抜群、成績優秀、彼氏持ちで文武両道を具現化したような人間。
動くたびにポニーテールを揺らす姿は男子からの注目の的。当然ながら男子は言うに及ばず、女子からの人気も高い。
美月が何でも気軽に相談できる親友でもある。

「いや、ちょっとな……バイトするか悩んでるねんけど」

魔導師の仕事と言っても、そう簡単に信じてもらえるわけはない。とりあえずは仕事の内容を伏せて相談してみる。

「ん?どんなバイトなん?」
「あ、内容はちょっと……」
「えー?内容分からんかったらアドバイスのしようもないで」

至極真っ当な意見である。
料理を食べさせずに、味見をお願いするようなものだ。

「興味あるんやったら、1回やってみたら?」

口を挟んできたのは彼は川嶋拓真。美月の高1・高2と同じクラスの友達だ。
ピンピンにはねた髪、人懐っこそうな目、キリッとしたオーラを漂わせている。

「んー……」

(やっぱり事情を話さずにアドバイスしてって言うのは無茶過ぎるかな……)

百人中百人が同意する考えに今更気づく美月。
しかし、自分だけで決めるのは中々難しいものだ。





−その夜、森山家・美月の部屋−

自分だけで決めかねた美月ははやてに助けを求めた。

「はやてさんへ
 先日の件ですが、自分だけでは中々決めることができません。
 何かアドバイスを頂きたいので、よろしくおねがいします。
              美月」

すると、早速はやてから返信があった。

「美月ちゃんへ
 確かに一人で決めれるようなことちゃうしなー
 私の友達に美月ちゃんと似たような体験をした人がおるから、紹介するわ
 案内するから、明後日の17時に天玉寺駅の改札口で待っててくれる?
              はやて」

文面を見た美月は複雑な気持ちになった。

(なんかお仕事中に申し訳ないなぁ……)

制度は違えど、はやてはれっきとした公務員なのだ。自分の仕事も大量に抱えている筈。
しかし、両親に相談することはできない。相談してはいけない訳ではないが、信用してくれる確立は低いだろう。
同じ地球生まれで関西人のはやてを頼る他はないのだ。
申し訳なさと様々な感情が入り交じった中で美月は眠りについた。





−3日後、天玉寺(てんぎょくじ)駅改札口−

天玉寺は美月の家から電車で十分のところにある。昨年に大型ショッピングモールが開店し、百貨店の建て替えが進むなど更なる賑わいを見せている。
学校が終わってから、美月は天玉寺まで電車で出る。改札口では、既にはやてが待っていた。

「お待たせしました」
「ううん、大丈夫やよ。ほな、行こか〜」

4日前にも通った転送ポートを通り、美月ははやてと共にミッドチルダへと向かう。
はやてに連れられて着いた先は、時空管理局地上本部の近くの訓練場。

「なのはちゃーん、連れて来たでー」
「ありがと〜」

なのはと呼ばれた白を基調とした制服を着ている女性が返事をした。包みこむような優しいオーラを漂わせている。

「森山美月ちゃんだよね?私は高町なのは、時空管理局教導隊の教導官だよ」
「あ、よろしくお願いします」
「話は聞いてるよ。立ち話も何だし、ちょっと移動しようか?」
「あ、ハイ」
「はやてちゃん、あとは任せてくれるかな?」
「うん、よろしゅうなー」

はやてに見送られて、美月となのはは歩き出した。

「あの、どこへ……?」
「ん?食堂だよ。飲み物を飲みながらゆっくり話せるし」

美月達の行く手には地上本部の建物が見える。
スカイツリーすら凌駕する高さの塔が数本。特に真ん中の塔は天辺すら見えないほど高い。
その姿に圧倒されて、食堂に行くだけなのにとても緊張してしまう。

(ヤバい……相談してもらうのに、まともに話されへんかもしれへん……)

そんな不安を抱えながら、美月となのはは建物に入っていった。





−10分後、時空管理局地上本部・食堂−

「どーぞ」
「あ、ありがとうございます」

なのはから紅茶を受け取り、美月はお礼を言う。
ミッドチルダの通貨を持っているわけがなく、美月はなのはに奢ってもらった。
向かい合って席に座るが、美月は緊張し過ぎて固まってしまう。

「……」

なのはが気を使って、美月に話しかける。

「ささ、飲んで飲んで。冷めたらもったいないよ?」
「あ……いただきます……」

緊張すると喉が渇くので、少し冷めかけた紅茶が喉に潤いを与えていく。何となく緊張がほぐれていく感じもする。
少し緊張がほぐれたところで美月はなのはに聞いてみた。

「なのはさんは……その……私と同じ様な体験をしたんですよね?具体的にはどんな体験をしたんですか?」
「うん……私が初めて魔法に触れたのは9歳の時。ある探し物を探す手伝いをしてて、ある女の子と出会ったんだ……」

美月は何となく、なのはの目が悲しさに染まった……気がした。と同時にどこか懐かしさを感じているような気もする。

「その子は色々な事情で私と敵対してたんだけど、その子の瞳を見て思ったの。「本当は優しい子なんだ」「ちゃんと向き合って話がしたい」って」
「……」
「その過程で時空管理局の存在を知ってね。始めは民間協力者だったんだけど、最終的に10歳の時に入局したんだ」
「でも、どうして入局しはったんですか?」

紅茶を一口飲むと、なのはは話を続ける。

「美月ちゃんにはピンと来ないかも知れないけど、次元犯罪には次元世界一個を楽々壊してしまうようなものがあるの」

なのはの言う通り、いきなり「次元世界が壊れる」と言われてもピンと来ない。

「それを防げるのは時空管理局だけ。「次元犯罪で誰かが悲しむ姿を見たくない」っていうのが一番の理由かな……」
「……」

美月はいつの間にか、なのはを尊敬の眼差しで見ていた。
なのはは9歳の時から、大きな視点で物事を考えていたのだ。それに比べ、美月は未だに将来の夢すら決まっていない。

(なのはさん、すごいなぁ……)

なのはは美月が想像している以上の過酷な人生を送ってきているのだが、それについては別の機会に。

「……」
「美月ちゃん?」

黙ってしまった美月を心配したのか、なのはが声をかける。

「大丈夫?」
「あ……何となく踏ん切りがついた気がします」
「にゃはは、私のお話が役に立てたみたいで嬉しいよ。それでね、この後仕事があるから行かなくちゃいけないんだ。ゴメンね」
「あ、どうもありがとうございました」
「どういたしまして。じゃ、またねー」

と言って、なのはは大急ぎで食堂を出て行った。





−その夜、森山家−

「ただいまー」
「お帰りー」
「お帰りなさい」

我が愛娘の帰宅にリビングで受け答えをする両親。と、その耳に聞き慣れぬ声が聞こえた。

「お邪魔しますー」

(……?)

両親はお互いに顔を見合せ、首をかしげる。
女性の声なのだが…
以下、両親の無言の会話である。

(美月が友達でも連れてきたんかな?)
(でも……あの娘やったら、連絡してから連れてくると思うけど……)
(友達やとしても、もう晩飯時やで?)
(うーん……)

いぶかしむ両親がいるリビングに美月が入ってくる。
美月と一緒に二十代前後の女性も入ってきた。

「……?」
「初めまして、時空管理局特別捜査官の八神はやてです」
「あ……初めまして」

突然、娘が連れてきた女性と女性の肩書きに戸惑う両親。
そんな両親を美月はおずおずと見る。

「お父さん、お母さん……ちょっと話があるねんけど……」

娘のあまりにも小さな声、しかし何か深い決意を秘めた声に両親は頷くしかなかった。
はやては美月と両親を交互に見て、少し困惑したような表情をする。はやてに気を使って、母が慌てて席を勧めた。

「あ、どうぞお座り下さい」
「失礼します」

美月は下を向いて黙っていたが、やがて深呼吸をすると両親を見る。

「……私、空戦魔導師になりたいねん」

愛娘の言葉に一瞬、両親は耳を疑う。

「……く、空戦魔導師って?」
「魔導師って……魔法使いって事やろ?そんな夢みたいな事が……」

当然の反応である。
娘がいきなり「魔法使いになりたい」と言い出したのだ。驚かない親はいないだろう。
これが幼稚園児なら「アニメのキャラクターへの憧れ」程度で済ませれるが、娘は高校2年生なのだ。頭でも打って、思考が変になってしまったのだろうか。

「えっと、少しよろしいですか?私の方から少し説明させていただきたいので」
「あ……は、はい」

〜はやて説明中〜

「という事です。」
「な、なるほど……」

はやてから魔法や管理局、美月についての説明を受けた両親は何とか納得したようだった。
平静を取り戻した母が美月に尋ねる。

「え、えっと……美月、理由を聞かせてくれる?」
「……やってみたいっていうのと、憧れっていうのと……」

そこまで言うと、美月は一旦口を閉じた。
少し照れ臭そうにしながら、再び口を開く。

「……はやてさんやなのはさんのようになりたい……から」

はやては少し驚いたような顔をして聞き返す。

「私やなのはちゃんみたいに?」

美月は顔を赤らめつつも頷く。

「なのはさんの話を聞いてたら、はやてさんやなのはさんがとても立派で格好良く思えて……それで、私もなのはさんやはやてさんみたいになれたらいいなっ て……」

要するに「尊敬」のようなものなのだが……
美月の告白から数分間、リビングに漂う妙な沈黙。美月は何か言いかけようとするが、場の雰囲気に飲まれて口ごもってしまう。

「……美月」

母が静かに口を開いた。
美月は母の顔を見る。

「……?」
「本当に大丈夫なんやね?」
「え?……あ、うん」
「……そう……なら、あんたの好きにし」
「お母さん?」

美月は驚きのあまり、思わず椅子から立ち上がった。シンとしたリビングに椅子が動く音が響く

「美月が決めたんやったら、お母さんらは止めへん。精一杯頑張り?」

横で美月の父親がウンウンと頷く。
娘に突然「空戦魔導師になりたい」と打ち明けられても、この柔軟な対応ができる両親。
中々な肝の座りようだ。

(アリサちゃんにすずかちゃん、なのはちゃんのお母さんらも理解早かったよなぁ……もしかして、魔導師に関係する人らは共通の思考パターンでもあるんか な?)

ふと、そんな事を考えるはやて。話が一段落したのを見計らって、はやては口を開いた。

「えっと、この事は他言厳禁でお願いしますね?」
「この事というと、美月が空戦魔導師やという事ですか?」
「はい。この世界では魔法という概念がないのはご存知だと思いますが、下手に騒ぎ立てると今後の活動に支障が出るので」
「分かりました」

美月の両親が揃って頷く。
こうして美月は時空管理局空戦魔導師としての道を歩み始めた。






〔あとがき〕
どーも、かもかです♪
何度も何度も改稿して申し訳ありません。

皆様のコメントを真摯に受け止め、更なる文章の質の向上に取り組んでいきたいと思います!!

なお、この作品には作者好みのネタがどんどん投入されていきます。 楽しんでいただけたら幸いです♪



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