あれから二年が経った。

ボク―俺―はヴァン師匠に剣術の稽古をつけて貰いつつ、リグレットさんに銃の使い方、一般常識等を教わっていた。

そもそも、俺の中には未来とも言える自分の『知識と経験』がある訳で、この体がそれに慣れて来ればどうって事は無かった。

剣術を教えるとき、あまりにも早い飲み込みの早さに師匠も驚いていた。

今日は久しぶりに稽古の休みを貰い、ダアトからは離れたエンゲーブに来ていた。

詳しい事は解らないけど、六神将の一人だった、アリエッタを探す為だ。

以前聞いた事があった。
                           オラクル
アリエッタはイオンに拾われて、その恩から神託の盾騎士団に入りかつ、
導師守護役に就いたのだ、と。

イオンに拾われたのは何時かは知らない。

でも、アリエッタはあの時ライガクイーンの事を『ママ』と呼んでいた。

もしかしたらライガの森に居るかも知れない。

そう考えた俺は、休みを利用して確認しようと思ったのだ。

エンゲーブの人にチーグルの森の近くに、ライガが住んでいる森が無いか聞いてみると、北に暫く歩いた所にある、という事を聞いた。

休みは二・三日貰ってあるから大丈夫だろう、と思い、早速その森に行く事にした。

半日をかけてチーグルの森を通り、それから暫く歩くと森が見えて来た。

ところが、空はもう暗い。

どうしたものかと考えつつ、結局は森に入る事にした。

―――自分の間違いを悔いる事になるのは、森に入った直後の事だった。


TALES OF THE ABYSS
  ―AshToAsh― 

ACT.02  桃色の髪の少女


ライガに囲まれた。

森に入った直後の事だった。

これからの事を考えると、アリエッタはどうしても仲間にしたかった。

つまり、この状況でライガを殺さずに倒さなければならない、という事だ。

下手をすれば倒す事すら危ないかもしれないけど。

身体能力は幾ばくか強化されてるとはいえ、この身はただの十四歳児。

この場を掻い潜って逃げ切る自信は無かった。

勿論、正面突破などもっての外だ。

正直派手な事はしたくなかったけど、傷つけず、かつ迅速に逃げる為には仕方が無い、と諦める事にした。

直後、全身のバネを使って手近な所に生えていた木の枝に飛び移った。

成功するか冷や冷やものだったけど、上手くいった。

そのまま枝から枝に飛び移りつつ、アリエッタを探す事にした。

「グォォォォォンッッ!!」

気が付かないうちに、もっとも厄介な場所に来ていたらしい。

目の前には、ライガ・クイーンが居た。

お目当ての少女は、クイーンの足元で此方を見ていた。

心なしか震えている様に見えた。

服は汚れ、髪はぼさぼさ。

とてもじゃないけど人としてまともな生活を送っている様には見えなかった。

俺はその場に立ち止まると、身に着けていた武器や防具を片っ端から脱いでいった。

見事に上半身裸になった俺はそのまま両手を上に上げ、降参、と言った。

そんな様子を見ていた少女はキョトンとすると、クイーンに向かって何事かを言った。

「グルルッ」

直後、唸り声は消えた。

小さな少女が近づいてくる。

「何しに……来た、ですか?」

人との関係を絶った状況でも、言葉は喋れるらしい。

「迎えに来た」

そう答えると、アリエッタは解らなかったようで首をかしげた。

「誰を、ですか?」

「……君を」

流石にアリエッタの名前を出す訳にもいかず、そう答えた。

少女は首を振った。

「アリエッタ、…ママと居るです」

「大丈夫、ママと別れる必要は無い」

クイーンの事をママ、というには抵抗があったけど、そう言った。

流石にダアトに連れて行くことは出来ないけど、ここには一日あれば来れる。

休みさえ貰えれば何時でも会えるのだ。

それにアリエッタは魔物と話す事が出来る。

此処に来るのに鳥類系統の魔物に手伝って貰えば、更に速く来る事が出来るだろう。

俺はそれを一生懸命伝えた。

連れて行った後は自分がアリエッタの世話を見る、とも言った。

どうしてもこの少女を日の当たる世界に連れ出したかった。

「……解った、です」

少女はそう言うと俺を見上げた。

うるうるとしている目をみると、とても愛おしく感じた。

「―――可愛いっ!」

思わず抱きしめてしまう位。

「……汚い、です」

自分は汚れている、とアリエッタは言った。

でも、そんなのは関係無かった。

「汚くなんか無いよ?」

わしゃわしゃと髪の毛を撫ぜる。

アリエッタはくすぐったそうに目を細めた。

「そう言えば、名前を聞いてなかったな」

アリエッタを放し、正面から見据えて一言。

「はじめまして、俺はアッシュ」

「…アッシュ、兄様」

…あれ?

「アリエッタ、です」

再びアッシュ兄様、と言いアリエッタはキュッと抱きついて来た。

何処でこうなったのだろうか?

アリエッタの頭を撫でながら思う。

こうして俺は、アリエッタという『妹』を持つ事になった。


◆ ◆ ◆


日が開けた。

昨夜はライガの居る森で一晩を過ごした。

隣には可愛らしい寝息を立てるアリエッタが居た。

「…アリエッタ」

揺さぶり、起こす。

「んぅ、兄様?」

目をこすりこすり、アリエッタは呟いた。

自分が使っていたフードをかぶせる。

「ダアトに行ったら綺麗な洋服を用意するから、其れまではこれで我慢してくれな?」

アリエッタは素直に頷いた。

「……兄様のにおい、するです」

幸せそうに笑った。

キュッと抱きしめてあげる。

「それじゃ、行こうか」

アリエッタを促し、外に行く事にする。

「ママ、行ってくるです」

クイーンは一鳴きすると、アリエッタの頬を舐めた。

こうして俺は、アリエッタと共にダアトに帰還した。






side.リグレット

「―――何? アッシュが子供を連れて来た?」

執務室で書類の点検をしていたヴァンは顔を上げ、そう聞いた。

「はい。何でも、拾ったとか」

一瞬、唖然とするヴァン。

其れを報告しているリグレットにも、困惑の色が見えてる。

「拾った、か。アッシュは何と言ってる?」

「神託の盾騎士団に入れてくれ、と」

「何を馬鹿な」

ヴァンは一笑した。

「ですが、その子供―アリエッタと言うのですが、アリエッタは魔物との会話が出来ると言ってます」

「それは本当か?」

一転、真剣な顔で聞くヴァン。

「間違いありません。私がこの目で確認して来ました」

「―――良いだろう。丁度頃合だと思っていた」

ヴァンは言った。

「アッシュと共に、護衛役兼六神将に任命しよう」

リグレットは息を呑んだ。

「六神将、ですか?」

現在、六神将には三つの空席がある。

確かにアッシュの成長には目を見張るものがある。

しかし、今新しく連れて来たアリエッタまでをも六神将にする意図が、リグレットには解らなかった。

「二人の方が効率も上がるだろう。丁度、導師エベノスの後継者が見つかった事だ。二人には後継者の護衛役をして貰う」

「了解しました。アッシュにはそのように伝えておきます」

次に、とリグレットは続けた。

「やはりアッシュですが、彼が服を買うお金が欲しい、と言ってます」

「服?」

「はい。アリエッタの服を買うのだ、と」

ヴァンはため息をついた。

「……リグレット、お前が服を買ってやってくれ」

「解りました。今からでも行って来ますが?」

「そうしてくれ」

ヴァンが返事を返すと、リグレットは一礼して部屋を後にした。

この日、上機嫌に歩くリグレットの姿が見れたと言う。




side.アッシュ

リグレットが言うには、俺とアリエッタには導師エベノスの後継者の護衛役と共に六神将につくように、という事だった。

行き成り六神将になれ、と言われた時にはびっくりした。

確かに空席はあるが、アリエッタのことが心配だった。

服の方はどうなった? と聞くと、今から買いに行く、という答えが返って来た。

横にちょこん、と座っているアリエッタの頭を撫でつつ、俺は話を聞いていた。

「準備は良いか?」

その言葉に二人して頷くと、リグレットはやさしく微笑んだ。

そのまま町に繰り出し、色々と服を物色する。

この後護衛対象の導師の後継者に会う事になっているので、きちんとした服を選ぶのだそうだ。

リグレットに手を引かれて出てきたアリエッタは、とても可愛らしい服を着ていた。

「……兄様、似合ってる、ですか?」

「うん、とっても可愛いよ」

思った事を素直に口にした。

すると、アリエッタは満面の笑みを浮かべて抱き付いて来た。

髪も綺麗に散髪し、いよいよ護衛対象に会う事になった。

「おぉ、君がアッシュか。ヴァンから話は聞いている」

教会の大聖堂に入ると、現導師であるエベノス様がそういって来た。
               ・ ・
その傍らには一人の少女。

「はじめまして、エベノス様」

隣に居るアリエッタを促しつつ、一礼する。

「アリエッタ、です」

アリエッタの方を見ると、少し怪訝そうな顔をした。

「この子は魔物との会話が出来るので、ヴァン師匠に無理を言って護衛役にさせて頂きました」

俺がそういうと、エベノス様は納得したように頷いた。

「そうですか。……この子が私の後継者になるイオンです。さぁ、イオン」

少女を促す。

「はじめまして、イオンです」

記憶にあるイオンの声より、若干高い気がする声で、イオンは挨拶してきた。
                 
「歴代導師の中で初めての女導師なんですよ」

……あれ?

エベノス様は朗らかそうに笑って、イオンの髪を撫でた。

「宜しくお願いしますね、アッシュ、アリエッタ」

「……よろしく、です」

イオンとアリエッタがニコニコと挨拶を交わす中、俺は『どうしてこんな事になっているのだろう?』とひたすら考えていた。

この日から丁度一週間後、エベノス様が病に伏せ、更に三日後、エベノス様の死去と同時にイオンが正式に導師になった。
                                                                                                          next.....





















後書き

何をトチ狂ったか、アビスのSSです。

ルークとアッシュの立ち位置入れ替え、かつ未来の記憶保持のパラレルです。

ついでにイオン様性別変わっちゃってます。

以前どこかのサイトでレプリカルークの事を兄様、と呼んで居るアリエッタに胸打たれ、先日読んだSSの中にあった親馬鹿ディスト&ガイなどをみて、ふっと 浮かんだのがこの作品です。

文字が小さいのは仕様です。

この作品についてはこの大きさで行こうと思っております。

いつもの大きさだと微妙に見にくかったもので。

さて、レプリカルークが未来の記憶を得たとき、どうやって未来のルークはこの世界に来たのか?

それはひとえにローレライの力です。

音素の乖離現象が進んでいたラストの時点でのルークですが、ルークは大爆発現象により、アッシュに音素を吸収、合併されます。

公式設定では、大爆発―ビックバン―とは、オリジナルがレプリカの情報を吸収するもの、とあります。

結果、レプリカは記憶だけをオリジナルに残して消え、オリジナルとして再生される。

そしてオリジナルはその結果、レプリカと自分の記憶の二つを所持する事になる、と言う事です。

つまり、EDで帰ってきたのはルークではなく『ルーク』、つまりアッシュだった、と言う事になります。

それではあんまりだ、と私は思ったわけです。

あれだけボロクソに言われて、結局自分は消えてしまった。

ですので、この作品ではレプリカルークに幸せを、のコンセプトを元に作ろうと考えたわけです。

で、肝心の記憶についてですが、アッシュに融合する直前に一部の音素を隔離し、ローレライはその音素を過去世界に飛ばし、かつレプリカどうしで大爆発現象 を起こさせた、と言う訳です。

捏造しまくりですね。

大体、レプリカ同士で大爆発現象が起こせるかどうかは知りません。

あくまで、捏造設定ですので。

さて、長々と書きましたが、これぐらいにして。

次回は一気に時が流れ、三年後の話になります。

オリジナルイオンが死んだ時、直後の話にするつもりです。

ゲームに出てきたイオンは生まれてから二年しか経ってない、と設定にはあります。

ですので私は原作二年前、つまりこの作品で言う三年後に導師を交代したと考えています。

シンクの話もここら辺で盛り込むつもりです。

では、次回でお会いしましょう。



2006.4.17   神威


連続で送ってくださいましたので、感想はまとめて行います。


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