side.ルーク

途中何度か戦闘があったが、そのどれもを撃退する事に成功していた。

しかし、その代償はけして甘くなかったといえよう。

ルークは元より鍛錬用の武器しか持って居なかったのだ。

体格も大きく、体重も大きいであろうサイノッサスを攻撃した時点でルークの武器である木刀はポッキリと折れてしまった。

サイノッサス自体は辛くも撃退したが、半ばからぽっきりと折れてしまった木刀を見て、これからどうしたものか、とルークは考えた。

多少、現実逃避が入ってたのかも知れない。

結局その後は戦闘をさけ、ルークとティアは渓谷の出口付近に来る事に成功した。

日が暮れているせいか視界は悪く、周りには何も見えない。

そのとき、出口の方からガサガサッという音が聞こえて来た。

「…魔物、か?」

武器が破壊されたので、無手で戦えるように構える。

そしてティアの手にはナイフ。

ティアは飛びかかろう、として止めた。

「いやー参った参った」

其処に居たのは一人の男だった。

手にはバケツを持っている。

「…うわっ!」

ルーク達に気が付いた男は声を上げる。

「あ、あんた達、まさか漆黒の翼か!?」

「しっこくのつばさ?」

其れが何を指すのか解らなかったティアは、首をかしげた。

「盗賊団さ。ここら辺一帯を荒らしてる男女三人組の……あんた達は二人だから違うみたいだな」

すまん、と男は頭を下げた。

「あなたは?」

「俺は御者さ。ちょっとトラブルで馬車の水瓶に入ってた水が全部出ちまってな。此処まで汲みに来たんだ」

そう言ってバケツを見せる。

その中には水がいっぱいに入っていた。

「すみませんが、その馬車は首都まで行きますか?」

「あぁ、終点は首都になってるよ」

其れを聞いたティアはすかさず言った。

「でしたら、私達を乗せて頂けませんか?」

「良いけど……あんた達お金は持ってるのかい?」

其れを聞いたティアはハッとした。

自分の手持ちは無いに等しい。

同時に貴族であるルークがお金を持って歩く所が想像出来なかったからだ。

「……おい」

と、ルークが御者に声をかけた。

「金は無いがこれでどうだ?」

そう言って出したのは小ぶりな宝石だった。

「あぁ、これで良いよ」

さ、ついて来な、と続けて御者の男は先に行った。

「…あなた、どうしてあんな物を?」

「偶々だ。ポケットに入れてたのを思い出したからな」

兎に角バチカルに帰る為には仕方が無い、とルークは言った。

二人はそのまま馬車に乗り込み、タタル渓谷を後にした。



TALES OF THE ABYSS
  ―AshToAsh― 

ACT.05  チーグルの森

side.ティア

馬車に乗って暫くすると、ルークはすぐに眠りについた。

初めての実践のせいか、肉体的にも精神的にも疲れが溜まっているのだろう、とティアは判断した。

(寝てれば可愛いのに)

ふと、そんな事を思った。

直後慌ててその考えを消し、此処には居ない彼の事を思った。

ルークと同じ、炎のような髪の色。

確かアッシュの方が先端の色素が薄かったな、とティアは思った。

自分の教官に引き合わされてから、ティアはダアトに来た時には度々顔を見せるようにしていた。

簡単な護身術などを教えて貰ったりもしたものだ、とティアは思い出していた。

そんな事を考えていると、馬車を急激な揺れが襲った。

『そこの辻馬車、道をあけなさい!』

少し慌てて外を見ると、其処には一つの船を追う戦艦、のような物が見えた。

「…ん?」

その音でルークも目が覚めたのか、外を見る。

すると、その船をみた御者が興奮したように声を荒げた。

「ありゃーマルクトの最新鋭艦のタルタロスじゃねぇか!」

「えっ?」

ティアが疑問の声を上げるより早く、再び地面の揺れが襲った。

指示通りゆっくりと道をあける御者。

その直後、第五音素を利用した爆発により、架かっていた橋は落ちた。

それを見届け、ティアは再び聞いた。

「あの、この馬車はバチカルに向かってるんですよね?」

ティアの質問に怪訝な顔をする御者。

「いや、この馬車の終点は偉大なるピオニー九世陛下がおわすグランコクマさ」

その答えを聞いたティアは恥ずかしそうに呟いた。

「………間違えたわ」

「おいっ!」

思わず突っ込むルーク。

「どうするつもりだ!?」

「バチカルだったらさっき落とされた橋を通らなきゃいけなかったんだけど……この様子じゃ暫く通行は無理だと思うよ」

御者の言葉に青くなるルーク。

「兎に角何処かで降りないと………流石にグランコクマまで行くと戻るのが難しくなるわ」

御者に近くで降ろして貰うよう頼むと、一番近い所にあるエンゲーブという村で降ろして貰う事になった。

それから暫くしてエンゲーブに入ると、二人を降ろした馬車はそのまま次の目的地へと行った。

それを見届けたルークはティアに聞いた。

「これからどうするつもりだ」

「そうね…此処から南にある検問所を通る為には旅券がいるから通れないし……」

「それは俺がファブレ公爵家子息である事を明かしても駄目なのか?」

ティアの言葉に聞くルーク。

「完全に証明出来ないわ。何か印になる物があれば別だけど」

結局解決策が見付からなかった為、この日はエンゲーブの村を見て回る事になった。

途中買い物をする時、お金に関する事でティアがルークに教えたり―知識ではあっても実際にした事は無かった為―して、宿を取るために宿屋の前に行った時の 事だ。

食物庫が滅茶苦茶にされ、食料が盗まれた、と言う事で住民達が騒いでいた。

「食料なんざ、無くなったらまた買えば良いじゃねぇか」

鬱陶しそうにそう呟いたルークであったが、其れが聞こえていた住民達は騒ぎ出した。

曰く、犯人はコイツだ!

そんなこんなでルークは村長であるローズの家に連行される事になったのだ。

ティアはそんなルークの様子にため息をつきつつ後を追った。

家に入ると、中ではローズが軍人と何やら話している最中だった。

そんな事は知った事か、と言う具合に住民達はルークを突き出した。

「ローズさん! 食料泥棒を捕まえたぜ!!」

「違うと言ってるだろうがこの屑が! 第一食料に困るような生活は送っていない!!」

突き出されたルークは怒鳴り返す。

そうやって言葉の売り買いをしているうちに、ルークが漆黒の翼だと言う話になった。

「兎に角皆、落ち着いとくれ」

ローズがそういった丁度その時、其処に居た軍人が割って入った。

「そうですよ、皆さん」

大佐、とローズが呟いた。

「私はマルクト軍第三師団所属、ジェイド・カーティス大佐です。あなたは?」

軍人、ジェイドが促す。

「…ルークだ」

自分の父がマルクトの敵だと言う事を理解しているルークは、簡潔に其れだけを答えた。

「私はティアです。ケセドニアに行く途中でしたが馬車を乗り間違えて此処に来ました」

「おや、では貴方も彼のお仲間で?」

からかうような口調で告げるジェイド。

「私達は漆黒の翼ではありません」

それに、と続けて言う。

「漆黒の翼はマルクト軍がローテルロー橋に追い詰めていたのでは?」

その言葉にジェイドは合点がいったと言わんばかりに頷いた。

「なるほど……。先程の辻馬車に貴方達も乗っていたのですね?」

「どういう事です? 大佐」

それまで静かに話を聴いていたローズが聞く。

「いえ、ティアさんが仰った通り彼らは漆黒の翼では無いと思いますよ? 漆黒の翼と思わしき一団は先程我々が橋の所まで追い詰めましたから」

ジェイドは私が保証します、と最後に付け加えた。

「―――ただの食料泥棒でもなさそうですけどね」

直後、部屋に新たな人物が現れた。

パッとみは解らないが、女の様だった。

「イオン様」

いおん。

何処かで聞いた名前だな、とルークは思った。

何時何処で聞いたかは思い出せなかった。

「部屋の隅にこんなものが落ちていました」

そう言ってイオンが見せたのは何かの毛だった。

「これは……聖獣チーグルの抜け毛だねぇ」

それを見ていたローズが呟いた。

いざこざはあったが、住民達は自分の非を認め、謝罪した。

ローズの家を出て、ティアはおもむろに立ち止まった。

「どうして導師イオンが此処に……」

その言葉を聞いたとき、ルークの記憶はフラッシュバックした。

「導師イオン。確か行方不明になったと聞いていたが? だから師匠は帰国するのだ、と」

ルークの言葉に怪訝そうな顔をするティア。

「そうなの? でもあの様子だと誘拐された風な感じでも無いし……」

「チッ! これについては明日にでも聞きただす必要がありそうだな」

ルークの言葉を聴いたティアは、意外そうな顔をした。

勿論その顔を見たルークの機嫌が悪くなったのは言うまでも無い。

その後、宿泊する宿に行く事になり、早速二人は宿に入った。

するとそこには一人の少女が宿屋の主と会話をしていた。

「連れを見掛けませんでしたかぁ? 私よりちょっと身長高めのぼーっとした女の子なんですけど」

わたわたと慌てつつ説明する少女。

「いや、俺はちょっと席をはずしていたから……」

その答えを聞いた少女は、がっくりと肩を落とすと呟いた。

「もーイオン様ったら何処に行っちゃったのよぅ」

聞き覚えのある名前を聞いたルークは、答えてやる事にした。

「導師イオンの事なら村長の家に居るぞ」

「ホントですかぁ!? ありがとうございますー」

少女はそのまま去ろうとするが、其れよりも早くルークが質問した。

「おい、導師イオンは行方不明だと聞いたが?」

「はぅあ! そんな事になってるんですか!? イオン様に伝えないとっ」

今度こそ少女は走り去った。

結局、ルークが聞きたかった事は聞きそびれてしまった。

その日の宿は、先程の件もあり無料でいいとの事になり、二人は予定を話し終えると眠る事にした。




翌日、目が覚めたルークは今後の事について考えていた。

先日食料泥棒にされた事について少々鬱憤が溜まっていたのだ。

今日の予定は寝る前に話されていた。

しかし、ルークとしては今回の真犯人をとっ捕まえてやりたい、という思いがあった。

時間に余裕は無い。

しかし、どうしても鬱憤を晴らしたい。

結局この日は『チーグルの森』に行く事になったのだった。
                                                                                                          next.....




感想

物語本編に入ったみたいですね〜

神威さん凄いペースです(汗)

しかし、アッシュなルークというのは色々大変です。

ルークと違って知識もありますし、

彼は国を良くしようと言うナタリアとの約束もありますからある程度色々考えて行動しますしね。

政治のパワーバランスなんかも考えるかも知れませんね。


ルークなアッシュ行動方針や目的がある訳ですが、その割にはのんびりしていますね。

色々仕掛けを施す暇はあったと思うのですが……

特にローレライ関連はね……知識があるのなら先に動くのも手かと思いますが。

ハーレムだけが現在目立ってますので少し暗躍して欲しい所ですね〜


とは言えまだまだ序盤ですし、

次回以後どのような方向性で展開するのか、期待しております!




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