side.ルーク

「所でイオン様、アニスはどうしました?」

タルタロスに備え付けてある装置を操作していたジェイドが隣に居るイオンに聞く。

「それが…」

イオンが語る所によると、アニスは敵に奪われた親書を取り戻そうとして、其れを妨害した魔物によってタルタロスから突き飛ばされたと言う事だった。

「ですが兵士達がアニスの死体が見付からない、と言っていたので無事で居てくれると……」

「そうですか……」

ジェイドは暫し考え込むと、イオンにではなくこの場に居る者全員に向かって言った。

「でしたらセントビナーへ行きましょう。其処が緊急時の合流地点になっています」

「セントビナー、か」

実際に訪れた事は無くても知識はあるルークが呟いた。

「…本当にアニスは其処に来るのか?」

死体は無い、と言っていたが怪我が酷くて辿り着く前に死んでしまうかも知れない。

そんな可能性を考慮したルークは、ジェイドに聞く。

「アニスですから」

「えぇ、アニスですから」

ジェイドとイオンが意味深な答えを返す。

二人の顔は笑顔だ。

アニスが生きている事を確信しているかのように。

一行はそのままセントビナーへ向かう事となった。




TALES OF THE ABYSS
  ―AshToAsh― 

ACT.08  変わった歴史/合流


「此処がセントビナーか……」

道中イオンが疲労していた為に野宿で一泊し、他にもルークの敵を殺す覚悟の話等で時間をとったが一同は無事にセントビナーに到着する事に成功していた。

もっともセントビナーに入る前に一悶着があったのだが。

と云うのも、先回りしていた神託の盾騎士団の兵士達がセントビナーの唯一の入り口を封鎖していたのだ。

それについてはエンゲーブの村長であるローズが乗る馬車に同乗させて貰う事によって解決した。

「さて……アニスが此処に来ていれば何らかの痕跡が残っているはずです。私は軍の駐屯所へと行って確認を取ってきますので、その間皆さんは自由に行動な さって下さい」

ジェイドはそう言うと、イオンと共にすぐ前にある軍駐屯所の中へと入っていった。

自由に行動すれば良い、と言われたものの特にする事が無かったルークは丁度この場所から見える巨木の元に行く事にした。

「……でかいな」

ガイがこの木は『ソイルの木』と云う名前だ、と言った。

セントビナーで植物が育つのもこの木のお陰だ、とも。

「確かに大きいわね……」

ティアも感嘆の声を上げる。

そうこうしているうちにだいぶ時間がたっていたらしく、ふと後ろを向いてみるとジェイドが歩いて来る所だった。

「アニスはどうだった?」

「えぇ、無事に合流出来ました」

そうニッコリ笑うイオンの後ろから、ひょっこりと姿を現すアニス。

その体には傷一つ無い様で、正に健康体そのものだった。

イオンが言うには駐屯所で匿われてたとの事だ。

一度神託の盾騎士団の兵士が来た時は冷や汗ものだった、らしい。

「ルーク様v」

「フンッ!」

アニスに呼ばれて不機嫌そうに顔を背けるルーク。

しかし、その横に居たガイにはしっかりとそれが照れ隠しである事が見て取れた。

「さて、アニスとも合流出来た事ですし、バチカルへ行く為にカイツールの軍港へ行きましょう」

まぁケセドニアを経由する必要がありますが、とジェイドは付け加えた。

「それじゃぁ行きましょう」

あまり長居すると良い事が無いと言わんばかりに、イオンが提案する。

一行はイオンの提案に賛成し、セントビナーを出ようとした。

町に入った時に神託の盾の兵士が居た為か、一人周囲を警戒していたティアが入り口付近にまだ兵が居るのを視認する。
            オラクル
「……隠れてッ! 神託の盾だわ」

確かに神託の盾の兵士が居る事を確認したルーク達は、そのまま近くの茂みに身を隠した。

隠れないよりはマシだ、という判断からである。

「導師イオンは見付かったか?」

リグレットがその端整な眉を顰めながら兵に聞く。

「セントビナーには訪れていない様です」

門番をしていた兵はそれに敬礼をしつつ答えた。

自分の満足のいく答えを得られなかったリグレットは、小さくため息をついた。

「イオン様の周りに居る人達、ママと『妹』達を殺そうとした人達……この仔達が教えてくれたの」

そう言ってアリエッタは持っていた人形をギュッと抱きしめる。

「でも、兄様は憎んじゃいけないって……だからアリエッタ、復讐はしない、です」

兄様が居るから大丈夫、とアリエッタは呟いた。

そんなアリエッタの頭を撫でるアッシュ。

それに実際、アリエッタの母であるライガクイーンは死んではいない。

咄嗟の所でアッシュが救出に成功している。

それが理由なのかさほど怒ってる様子の無いアリエッタ。

もっとも、前回イオンとの間に交わしたアイコンタクトで、イオンに其れに対する制裁を加えて貰うよう頼んだのだが。

ふふふ、と普段なら絶対に浮かべない黒い笑顔を浮かべるアリエッタだった。

「ど、導師護衛役がうろついてたってのはどうなったのさ」

そのアリエッタの笑みを直視してしまったシンクはどもりつつ聞く。

「マルクト軍と接触していた様です。…もっとも、機密事項と称して情報公開に消極的でしたので、さほど情報は得られませんでした」

「俺があの死霊使いに遅れを取らなければアニスを取り逃がす事も無かった。……面目無い」

実際、アニスに関してはわざと見逃したのもあるのだが、その様な事は感じさせずにいけしゃあしゃあと言うラルゴ。

アッシュの同士であるアニスは、其れ即ちラルゴ・リグレット・シンク・アリエッタの仲間だと言う事だ。

此処には中立的―仕事の報酬によってはどちらにでもつく、と云う意味の―なディストが居るのでこの様な会話になったのである。

目に見える範囲には居ないが、大方何時ものように上で出番を待ってる事だろう、と云う判断だった。

ちなみに報告をしている兵士はアッシュ派であるから特に気にする事は無い。

神託の盾騎士団の三割近くがアッシュに賛同してくれる同士というのだから、彼の人望が高い事が伺える。

着々と下準備をしてきたからこそ、でもあるのだが。

「ハーッハッハッハッハ!」

と、突如として馬鹿でかい笑い声が聞こえて来た。

件のディストのものである。

「だーかーら、言ったのです! あの性悪ジェイドを倒せるのはこの薔薇のディスト様だけだとッ!!」

明らかに場違いな高笑いを響かせながら、そう宣言するディスト。

本人はアリエッタでさえも微妙に距離をとっている事に気が付いていない。

「……薔薇じゃなくて死神でしょ」

こちらも微妙な突込みを入れるシンク。

相手をするのを鬱陶しく感じたのかもしれない。

「この美し〜い私がどうして薔薇じゃなくて死神なんですか!!」

「過ぎた事を言っても仕方が無い。どうする、シンク?」

ディストの事を思いっきり無視し、リグレットはシンクに聞く。

参謀総長である彼女の意見が第一なのだ。

「エンゲーブとセントビナーの兵は撤退させるよ」

「しかし!」

痛む傷を抑えながらラルゴが異議を唱える。

「アッシュに治療されたとはいえ、アンタの傷は完璧に癒えた訳じゃない。暫く大人しくしてたら?」

シンクはそう言う。

ラルゴを心配しての台詞なのだが、言い方がぶっきらぼうになるのは彼女の癖だ。

「またアッシュに迷惑かけたいなら話しは別だけどね」

シンクは肩を竦めた。

「どちらにしろ奴らは国境越えの為にカイツールに行く必要があるんだ。此処で軍を下手に刺激して外交問題に発展させるよりも、待ち伏せをかけた方が効率的 さ」

「おい! 無視するな!!」

「カイツールでどう待ち受けるか、ね。一度タルタロスに戻って検討するとしましょう」

ことごとくディストを無視しつつ、リグレットが呟く。

リグレットの呟きを聞いたラルゴは、すぐさま指示を出した。

「伝令だ! 第一師団、撤退!!」

「了解ッ!」

報告をしていた兵士は敬礼をしてその場を後にした。

すぐに伝令が行き届いたのか、兵士達がセントビナーを後にする。

「じゃ、俺らも行こうか」

今まで喋る事の無かったアッシュが、チラッと茂みの方を見ながら言う。

勿論顔を隠す為の仮面も常備だ。

リグレット達はそれに頷くと、直ぐにセントビナーを後にした。

一人ぽつんと残るディスト。

「きぃぃぃぃぃっ! この私を無視するなんてッ! 私が美と英知に優れているから嫉妬しているんですね――――ッ!!」

そう言って椅子を空高くへと上らせ、何処かへ飛んで行くのだった。



「……しまった、ラルゴを殺り損ねましたか」

神託の盾騎士団が去った後、ポツリとジェイドが呟いた。

「あれが六神将……」

世界情勢などは勉強したものの、ダアトについては詳しく勉強しなかったルークは六神将と云う単語に聞き覚えが無かった。

「六神将?」

「神託の盾の幹部六人の事です」

イオンが答える。

「全員居たのか?」

「多分、な」

ガイが言う。

「黒獅子ラルゴに死神ディストだろ? 烈風のシンクに妖獣のアリエッタ、それと魔弾のリグレット。残りの仮面男が鮮血のアッシュだな」

指折り数えながら答えるガイ。

「彼等はヴァン直属の部下よ…」

憎しみすら篭もった声で告げるティア。

「ヴァン師匠の!?」

思わぬ所で出てきた自分の師の名前に驚愕するルーク。

「六神将が動いているのなら戦争を起こそうとしているのは、ヴァンだわ」

「いえ、六神将はどちらかと言うと中立です。表立って公言していないので大詠師派にとられがちですが……」

イオンがティアの答えを否定する。

「それに、僕個人も彼らと交流がありますから」

それはないでしょう、とイオンは続けた。

そんなこんなで多少いざこざがあったのもあわせ、日も暮れると言う事で出発は明日に見送りになった。

カイツールに行く為にはフーブラス川を渡る必要がある、と言う事なのでその為に英気を養う、と云う理由もあったのだが。

こうして一行はフーブラス川を渡る事となった。

                                                                                                          next.....



























後書き

ACT.08をお送りしましたが、いかがでしたか?

前回書き忘れましたが、アリエッタはラルゴの事を『パパ』と呼びます。

ラルゴの方も死んだと思っている娘メリルにアリエッタをかさねて、本当の娘の様に接しています。

では、早速レス返しを。


4/22

7:15 abyss大好きなので之からも頑張ってください(アリエッタいっぱい出して〜)
>ありがとうございます。
 アリエッタはこれから多く出演すると思うので、そこは期待していて下さい。

10:14 とても面白く、これからが楽しみです。簡潔まで頑張ってください
>ありがとうございます!
 そう言っていただけると非常に力がわきます。

21:57 うっわー!すごく面白いっすね!
>その言葉が何よりの特効薬です。
 これからも応援よろしくお願いいたします。


4/23

0:56 これからも頑張って下さい!!続きを期待しています。
>ありがとうございます。
 完結までがんばりますので応援お願いします。


拍手を下さった皆さん、有難うございます。

では次回に、また。

※拍手で指摘を受けた部分は修正致しました。
 報告を下さった方、ありがとうございます。


2006.4.24  神威

 
感想

うぬ、すごい事になっていますね〜

神託の盾の三割が同志ですか……はっきり言って、奇襲なら教団を乗っ取れる人数ですな。

ここまで来ているとなると、ヴァンは手のひらの上で踊っているだけの存在でしょうし、

ルーク達に行動をとらせる必要があるのか疑問です。

この先の展開は難しい物になりそうですね。

ゲームと同じルートを取るにはアッシュが力をつけすぎてしまいました。

和平を成功させるのも難しくないでしょう。

ヴァンの拘束をいまだ行っていないのが不思議なくらいです。

この先展開を戻すなら、アッシュの勢力を大幅に削ぐイベントが必要になりそうですね。

主人公を強くする場合必要になるのが、周辺への配慮です。

それを失敗すると、主人公が最善と思われる選択肢を選ばないでまごまごしているという不思議な現象が起こってしまいます。

一回や二回ならそういったことも起こりうるのですが、強すぎると選択肢が無数に発生し、それら全てを選ばないという事態に陥るわけです。

それを防ぐには選択肢を狭めてやるしかない訳で……

えらそうな事を言って申し訳ないですが、強くする時には周辺への影響力に常に気を配る必要があるということです。



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