side.ルーク

カイツールへ向かう為にはフーブラス川を渡る必要がある。

そう言う訳で一行はセントビナーを後にし、フーブラス川を目指して歩き始めた。

さほど距離は無いものの徒歩となると時間がかかる。

約半日をかけて、一行はフーブラス川に到着した。

「此処を超えればキムラスカ領か……」

そう言うルークの眼前には水量が増しつつも緩やかに流れているフーブラス川があった。

「あぁ、フーブラス川を渡って少し歩くとカイツールって街がある」

「ご主人様頑張るですのー」

ルークは返事はしなかったものの、一目見れば不機嫌と解る表情をしていた。

頑張るですの、と言ってくるミュウを鬱陶しく思いながらルークはバチカルに思いを馳せた。

より正確に言うなればバチカルに居る自分の婚約者に、だが。

今回の旅―初めての旅にしては些か物騒の様な気もするが―を通して色々と解った事もある。

戦争を永遠にとは言わないでも、長期間止める事が出来るという可能性を見つける事も出来た。

これで約束に一歩近づいた、とルークは思った。

そう思うと少し嬉しくなる。

「あの、ルーク」

表面上は不機嫌なルークを見て、イオンが遠慮がちに声をかけた。

「すみません。この様な事に巻き込んでしまって……」

「―――気にするな」

本当にすまなそうにするイオンを見てそう答えるルーク。

実際ルークは気にしてない。

寧ろ、約束の実現に近づけた事で感謝をしたい位だった。

其れからは特に会話も無く道を進む。

「そう言えば……」

暫く歩いた所で唐突にジェイドが呟いた。

「イオン様、タルタロスから連れ出されていましたがどちらへ?」

「……セフィロトです」

ジェイドの疑問に、彼女はそう答えた。

その単語を聞いたルークは眉を顰めた。

それに聞き覚えがあるのに思い出せない。

約束に必要な事を重点的に覚えたので、妙な所で常識的な部分が抜けている。

実際は幼い頃に教えられていたのだが、ルークはそれを覚えていなかった。

「大地のフォンスロットの中でも特に強力な十ヶ所の事よ」

そんなルークに気が付いたティアは、お節介かと思いつつも答えた。
          セルパーティクル
「星のツボだな。記憶粒子っていう惑星燃料が集中してて、音素が集まりやすい場所だ」

其れを補足するようにガイが言った。

別に聞いていない、と言わんばかりにガイを見るルーク。

そんなルークに更に海や水がいかに危険かを教えるガイ。

「…セフィロトで何を?」

そんな二人のやりとりを視界に納めつつ、ジェイドはイオンに聞いた。

「すみません、機密事項なんです」

申し訳なさそうに答えるイオンに、今までガイとやりとりしていたルークが言った。

「教団というのはやけに機密事項が多いな」

その言葉を聞くと、イオンの近くに居たティアが顔を伏せた。

ティア自身にも機密に値する任務が与えられていたのだから仕方が無いとも言えよう。

川を渡りつつ何度か戦闘をこなし、一行は川を渡り終えた。

「グォォォォォンッ!」

雄たけび。

冷静に周囲を見回すと、自分達が来た方向―つまり背後に―ライガの姿があった。

そしてルーク達を挟むように、進行方向にはアリエッタとアッシュの姿があった。


TALES OF THE ABYSS
  ―AshToAsh― 

ACT.09  VSアッシュ



side.アッシュ

セントビナーから撤退した後、俺達はルーク達を待ち伏せするべく着々と準備を進めていた。

俺は自分の部下達にコーラル城の地下に匿っていたフローリアンを其処から連れ出すように指示を出していた。

万が一にも見付かる訳にはいかなかったからだ。

アリエッタの黒い笑みを直視してガクガクブルブルと震えてるシンクをあやしつつ、部下に指示を出す俺の姿は何ともしまらなかった。

まぁアリエッタのあの笑みは正直俺も怖いから、解らないでも無いんだけど……。

せめて自分の仕事はして欲しかったかな。

リグレットはヴァンの所に報告に行った。

カイツールの軍港に居るとの事だったから、さして時間はかからないだろう。

それに出発してからだいぶ時間が経ってるからもう直ぐ戻ってくるかもしれない。

ラルゴは以前の傷を癒す為にダアトに帰還した。

ディストは何時の間にか消えている。

多分コーラル城にあるレプリカ施設に行ったのだろう。

予定ではあそこで同調フォンスロットを開く事になってるから。

シンクはこの有様でアリエッタは相変わらずふふふ、と笑みを振りまいている。

さて、これからどうしよう?

半刻も過ぎると、シンクもアリエッタ普段通り。

落ち着いたシンクはコーラル城へ行った。

最初の予定ではディストとシンクがコーラル城であれこれする筈だったからだ。

ルーク達はそろそろフーブラス川を渡り終えた頃だろうか?

そんな事を考えてるとリグレットが帰って来た。

「…お帰り、です」

トテテ、とリグレットに走り寄ったアリエッタは少し微笑みながら言った。

「リグレット、俺とアリエッタはちょっと出かけるね?」

何処に行くのだ? と聞かれても秘密、とだけ答えてカイツールを後にした。

歩くと時間がかかる為、アリエッタに頼んでライガの背に跨った。

無論、フーブラス川でルーク達と相対する為に。


◆ ◆ ◆


さてさてどうしたものか。

俺はルーク達と相対しながら、そんなのんきな事を考えていた。

瘴気が出て来るのにはまだ時間があった。

「妖獣のアリエッタに鮮血のアッシュ……」

ガイが息を呑む。

そんなに緊張する事も無いのに、と言いたかったが、それも無理な相談か。

今回の目的は導師イオンの身柄の確保。

あまり乗り気では無いとはいえ、仕事だから仕方が無い。

「アリエッタ、アッシュ! 見逃して下さい。貴方達なら解りますよね? 戦争は決して起こしてはならないと」

相変わらずな演技力だ。

こちらに戦争を起こす理由等無い事を知っているのに。

「仕事、だから」

とりあえず淡々とした口調で答える―そうしないとふとした拍子に噴出しそうになってるから―と、スラリと剣を抜く。

「……ごめんなさい、イオン様」

そう言うアリエッタもライガ達を身構えさせる。

「アリエッタ…」

アニスの呟きが聞こえた。

二人は親友だったから、演技とはいえこういう風に相対するのはつらいのかもしれない。

勿論それはイオンとの間にも言える事なんだけど。

一斉に構えるルーク達。

俺は剣を正眼に構えそして―――

「魔神剣ッ!」

―――振り下ろす。

アルバート流の奥義書に記されている『魔神拳』を改良したものだ。

不可視の衝撃波が前衛に構えてるルークに向かう。

俺は既に走り出している。

狙いは後衛。

まずは回復役を叩く。

アリエッタも既にライガに指示を出している。

とっさの攻撃に反応出来なかったのか、ルークは吹き飛ばされる。

それを確認しつつ、唯一の回復役であるティアを狙う。

が、横から突撃してきたアニス(トクナガ)の攻撃を避ける為に走る勢いを殺してしゃがみこむ。

頭上をトクナガの豪腕が通り過ぎる。

そのまま足払いをかけてやると、トクナガは呆気無く転倒した。

「リミテッド!」

「―――ッ!」

しかし転倒したトクナガの傍にアニスの姿は無かった。

アニスは何時の間にか俺の背後に回っていた。

おいおい、トクナガは何時から遠隔操作(?)が出来る様になったんだ?

サイドステップでそれを避けると、

「エナジーブラスト!」

今度はジェイドの譜術が俺を襲った。

「グッ!」

サイドステップ直後の攻撃だった為、直撃を受けてしまう。

思わず後ろに吹っ飛ぶ。

体制を整えつつちら、と周囲を見るとルークとガイはアリエッタとライガが抑えている様だった。

「臥龍撃ッ!」

トクナガの上に乗り直したアニスが強烈なアッパーをしかけてくる。

受けるのは危険と判断し、右に回り込むように避ける。

その間にもジェイドが呪文詠唱を行う。

全く、やっかいなコンビだ。

戦闘も激しさを増して来た所で―――大地が揺れた。

「アリエッタ!」

俺が呼ぶと、アリエッタはすぐにライガは撤退させて自分も後ろに下がる。

ライガを撤退させた為、此処には俺とアリエッタにルーク達しか居ない。

瘴気が出て来る前に撤退あるのみ。

「アリエッタ!!」

撤退するライガを見たアニスがアリエッタを呼ぶ。

「…アニス、イオン様。また、です」

直後、上空からグリフィンが二体飛んで来る。

俺とアリエッタはその足をつかむと、そのままはカイツールへと撤退した。




side.ティア

行き成り大地が揺れた、と思ったらアッシュ達は瞬く間に撤退して行った。

ティアは最後にあったやりとり―アニスがアリエッタを呼んだ事―が少し気になったが、考えても仕方が無いと思考を打ち切った。

今はそれよりこの状況をどうするか、の方が大切だった。

揺れは治まる事無く、寧ろ激しさを増していく。

「何なんだ、この揺れはッ!!」

苛立った様子でルークが叫ぶ。

異変は続く。

「これは…」

地面に亀裂が走ったかと思うと、次の瞬間黒い蒸気の様なものが噴出してきたのだ。

「瘴気だわ!」

ティアが思わず叫ぶ。

其れほどまでに危険なのだ。

「いけません、瘴気は猛毒です!」

イオンがそう叫ぶと一行は直ぐに後ろへと下がる。

もっとも、気休め程度にしかならなかったが。

「瘴気は長時間吸い続けなければ大丈夫」

そう言って此処を脱出しようとするが、次の瞬間新たな亀裂が走り、瘴気が溢れ出す。

これで逃げ道は無くなった。

辺りが瘴気で囲われる。

それを見たティアは静かに瞳を閉じ、杖を構えた。

静かに一回深呼吸をする。

―――トゥエ  レィ  ズェ  クロア  リュオ  トゥエ  ズェ

「譜歌を歌ってどうするつもりです? 其れよりも脱出の方法を…」

「待って下さい! これは……ユリアの譜歌です!!」

―――クロア    リュオ    ズェ    トゥエ    リュオ    レィ    ネゥ    リュオ    ズェ

ティアが譜歌を歌い終わった時、ルーク達を中心に不可思議な紋章が出現する。

紋章からドーム状に障壁が作られる。

その直後、あれだけ周囲に充満していた瘴気も地面の揺れも嘘の様に消え去っていた。

「瘴気が、消えた?」

「瘴気と同じ固定振動を与えたの。でも一時的な防御壁よ」

長くは持たないわ、とティアは続けた。

あの時撤退していったアッシュ達はこの事に気が付いていたから撤退したのだろうか?

ジェイドはティアの使ったユリアの譜歌が気になったが、詮索は後に回してまずは此処から逃げるのが先決だ、と疑問を後回しにした。

そしてルーク達は瘴気が復活しないうちにフーブラス川を後にした。
next.....






















後書き

はい、ACT.09をお送りしました。

今回は微妙にアッシュとルーク達が戦闘しました。

本人はあまり乗り気では無いんですけどね。

次回はカイツール、カイツールの軍港、コーラル城までの話になると思います。

もしかしたら途中で区切るかもしれないですけど。

では拍手のレス返しに。

4/24
22:01 とてもよかったです 続きに期待してます!
>ありがとうございます。
 ある程度スピードは落ちると思いますが、これからもごひいきに。

4/25
0:43 更新早くてビックリです。これからも期待しています。
>更新スピードは落ちて来ますが、週に一回は出せる様に頑張ります!

0:44 おもしろかったです。
>そう言って頂けるのが一番の促進剤(執筆に対する)です!

0:53 続編楽しみに待っております
>ありがとうございます。

10:17 面白かったです。これからもがんばってください。
>応援有難うございます。


17:59 最高です。楽しみにさせていただくので頑張ってください
>うぉ! 最高っすか。
そう言って頂けると作者名利につきます。

21:23 おもしろいッス!
>ありがとうございます!

4/26
0:26 読んで見て面白かったです。続きもがんばってください。たのしみにしています。
>有難うございます。
やっぱり面白い、と言われると嬉しいですね。

23:22 アッシュが擬似超振動で跳べるのが一日2回で、ライガの森に行くのとダアト周辺に行くので合計2回になりますよね。それで、タルタロスにルークが連行され てから半日もたってないはずなのに、アッシュがダアトからルグニカ大陸に行くのにある程度時間がかかるはずですよね。その辺どうなんでしょうか
>アリエッタの『友達』に連れて行って貰った、と云うことにして下さい(汗)
アリエッタのみをダアトに残して、それで鳥類系の魔物に連れて行って貰った、と考えて頂ければ。

4/27
14:31 六神将がわの話がもっと見たいです
>そうですね……。
ルーク側の事ばかり書くと原作と似たようなものになってしまうと思うので、アッシュ視点の話も増やしていきたいと思います。

4/28
0:08 さぁさぁさぁ続きをキリキリ書けーーーー!!(壊)
>おふぅ! 誠意執筆中です。
気長にお待ち下さい。


後、
気になったんですけど、この小説ではシンクは彼女では?(他似た様な質問が二つ)

全く持ってその通りです、はい。

確認した所、直したと思ってた部分が修正されてない事に気付きました。

今度はきちんと修正しました。

誤字の指摘、ありがとうございました。


2006.4.28  神威
 
感想

むむぅ、私の感想かなり毒舌気味かなぁ(汗)

まあ、こういうのもそれぞれ思い入れの違いと言う物がありますから、

仕方ないといわれればそれまでですし……

ですが、私の感想ちとマズイ方向に行きがちです。

強い主人公というのは好きなんですが、取れる選択肢を取らない主人公というのは苦手ですから。

アッシュ=ルークはつまり、以前とよく似た状況を作り出して、少しだけ違う未来を手に入れようとしていると言う事でしょうか。

タルタロスを襲って見せたのも、ジェイドに封印を施したのも、そのための布石であるというのでしょうね。

現状ならヴァンを止めてからキムラスカ・ランバルディアの動きを封じるのが一番確実だと思うのですが……

あまり、派手な変更はしない方向で行くのでしょうね。

イオンもどちらかと言えば六神将で最初から保護しておいて、ヴァンを牽制するということも出来るんですが、それをやると歴史が変わってしまいますからね。

神威さんの考える流れというものがどういったものなのか、楽しみに待たせて頂きます。



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