side.アッシュ

「アリエッタ」

フーブラス川から撤退した後、俺とアリエッタはカイツールの宿屋の一部屋に居た。

次の一手として、ルーク達をカイツールの軍港で足止めする事を考えた。

勿論、以前『ルーク』がやられた方法を真似る。

「……兄様、」

地面に膝をつき、アリエッタに視線をあわせる。

「カイツールの軍港に奇襲をかける」

俺がそう言うとアリエッタはコクン、と頷いた。

「船と、船を整備する整備長の身柄を確保する。船の方は一隻残らず破壊するから、アリエッタのお友達にも頼めるか?」

「…はい、です」

アリエッタは再び頷いた。

「それから、誰一人として殺すなよ?」

敵は排除する。

人を殺す覚悟も、それによって人に殺される覚悟もしている。

でも、今回の標的は一般人だ。

彼等は船を整備するのが仕事で、別に殺す必要性は全く無い。

「大丈夫、です」

俺はアリエッタの髪を撫でた。

こうされると喜ぶ事を知っていたからだ。

「……さて、仕事だ」

ルーク達が此処に来る前に行かなければ。

リグレットは既に此処に居ない。

フローリアンの事を頼んだからだ。

俺達も急ぎ此処を離れる必要がある。

ルーク達の事もあるが、先程ヴァンが此方に向かっているという情報が入ったからだ。

後半刻もしない内に到着するだろう、との事だ。

ルーク達の方も半日もあれば此処に着く筈だ。

俺とアリエッタはカイツールを後にした。

目指すは、軍港。



TALES OF THE ABYSS
  ―AshToAsh― 

ACT.10  始まりの場所


―――うわぁぁぁぁっ!

逃げ惑う人々の姿。

俺はそれに構う事無く船だけを狙って破壊していく。
   フォニム
風の音素が収束する感触。

「襲爪、雷斬ッ!」

雷が船を直撃し、それを完膚なきまでに破壊する。

アリエッタの使役する魔物達が船を破壊していく。

と、目の前に一人の整備員が倒れているのが見えた。

破壊の余波を受けて半ばから折れ、倒れてくる鉄柱を、そいつはぽかんと見上げていた。

「―――くそっ!」

慌てて加速。

幸い前方にはそいつしか居ない。

「烈破掌ッ!」

ゴガァァァァンッ!

鈍い音を発しながら鉄柱は吹っ飛んだ。

「はぁ……、怪我は無いか?」

そう言って剣を収め、手を差し出す。

「な、何で助けた?」

「何でって………助けるのに理由が必要か?」

そう言って強引に腕をひっぱり立ち上がらせる。

「そもそも俺達の目的は『船の破壊と整備長の身柄の確保』であって殺しじゃ無い」

そう言いつつ横を見ると、魔物達が引き上げる所だった。

「俺達だって無闇な殺生はしたくない。話し合いで解決するのに越した事は無いからな」

整備員はキョロキョロしたかと思うと、行き成りハッとした表情になった。

「誰も、死んでいない…」

流石に怪我人は居るだろうが、それでもかすり傷程度の筈だ。

「悪ぃけど、整備長は暫く預かるわ。ちゃんと無事に帰すから勘弁してくれな?」

俺はそう言うと、その場から立ち去った。

立ち去った、のだが……。

「貴様は――ッ!」

何でこんなに早くこっちに来るんだよ。

「タイミング悪っ……」

激昂して飛び掛ってきたルークを軽くいなし、居るかどうかも解らない『神』に恨み言を言いたくなった。

何をどうしたのか、俺が撤退する前にルーク達がカイツールの軍港に来てしまったのだ。

全く、どんな移動法で来たんだよ。

俺としては『ルーク』の記憶通り、カイツールでもう一度ルーク達と相対するつもりだったから、予定が狂うとはこの事か。

姿は見えなかったけど、やはりヴァンも居るようだったしホントに最悪だ。

「アリエッタ、後は任せた!!」

俺は素早くグリフィンの足をつかみ、ついでと言わんばかりに整備長も引っつかみ、とっとと此処からおさらばする事にした。

後ろでルークが何か言ってるが、気にしない気にしない。




side.ルーク

アッシュが去った後、先行していたヴァンと合流する為、一行は船着場へと向かっていた。

「……鳴き声?」

ティアが呟く。

船着場に向かっている最中に、その船着場の方向から魔物の鳴き声―咆哮―が聞こえて来たのだ。

慌てて走り出すルーク達。

「誰の許しを得てこの様な真似をしている、アリエッタ!」

其処にはアリエッタと、アリエッタに剣の切っ先を向けているヴァンの姿があった。

「アリエッタ!?」

アニスが驚愕する声。

てっきり此処から離れたと思っていた分、驚きは大きい。

「総長……ごめんなさい…兄様に頼まれて」

「アッシュに、だと?」

驚いた口調だったが、想定内の事の様に表情に変わりは無かった。

ルークはそれよりも兄様と云うのが、アッシュの事を指しているのに驚愕した。

あの二人は兄妹なのだろうか?

そんな事を考えていたら、上空から降りて来た一体のグリフィンがアリエッタをつかむと、再び上空に上がる。

「……船を整備出来る人は、アリエッタが連れて行きます。返して欲しければ、ルークとイオン様がコーラル城へ来い……、です」

アリエッタはそう告げると、グリフィンと共にそのまま飛び去って行った。

「ヴァン謡将、船は?」

このままでは埒が明かない、と思いつつガイは聞いた。

破壊を免れた船が無いかを知りたかったからだ。

「すまん、全滅のようだ。機関部の修理はアリエッタが連れて行った整備長にしか出来なくてな」

船に乗ろうとすると訓練船の帰還を待つ必要がある、とヴァンは続けた。

「コーラル城……確かファブレ家が所有する別荘、だったか?」

「より正確にいうとファブレ公爵の、だけどな」

ガイが付け足す。

「そしてお前が七年前に発見された場所だ」

「俺が…?」

「あぁ、その時の事は覚えて無いんだっけか」

それを聞くと、ルークは何かを考え込むように顎に手をやった。

「ルーク、イオン様を連れて国境まで戻れ。アリエッタ討伐には私が向かう」

ルークがコーラル城に行く、と言う前にヴァンが言った。

コーラル城に行こうと思った矢先に言われたルークは憮然としながらも頷いた。

コーラル城に行くよりも、戦争回避の方が重要だと考えた結果だった。

一行はカイツールへと引き返すのだった。


◆ ◆ ◆


「………」

しかし、やはりと言うべきか。

ルークはコーラル城の存在が無性に気になっていた。

誘拐当時の記憶は欠片も残っていない。

其処に行けば、自分の記憶は戻るのだろうか?

そんな事を考えていた。

普段は気にならなかった事なのに、今になって気になりだす。

自分が見付かった場所を知ったからだろうか?

駄目だ、戦争回避の為には師匠の言ったのがベストの筈だ。

ルークはかぶりを振った。

軍港を出る前の会話が思い出される。

―――班長を助けて下さい。

整備員の一人が、ルークに言った言葉だ。

奇跡的に一人も死者が居なかったとはいえ、殺される可能性がある。

―――ルーク達は死者が居なかった事を運が良かった、で片付けていた。

いや、若干三名は殺す気が無かったから死者が居なかった、と云う事に気が付いていたが。

ルークは彼を助けたい、と思った。

彼を大切に思ってる人が居る事を聞いたから。

自分と『彼女』に置き換えた結果、助けたい、と思ったのだ。

そしてそれを続ける事が約束にちょっとずつ近づく事だとも。

「……」

カイツールの宿屋に入っても、ルークは黙ったままだった。

無性に気になる。

「………俺は行くぞ」

そう言って立ち上がるルーク。

気になる、といえばもう一つ。

それはアッシュの事だった。

彼の動きは、ルーク自身が扱う流派に似通ったものがあった、気がした。

イオンはルークの宣言に喜び、ガイは肩をすくめる。

ティアとアニスも特に反対する事は無かった。

「解りました」

止めると思われたジェイドがあっさりと許可し、一同はコーラル城へ向かう事になったのだった。







「此処が……コーラル城か」

そう言うルークの眼前には、朽ち果てた門があった。

「そう。で、お前が発見された場所でもある」

「…やはり何も思い出さない、か」

この場所に来ただけで何かを思い出せるとは考えて無かったルークは、さして残念なそぶりも見せずに呟いた。

もっとも、此処で何らかの手がかりは手に入ると思っていたのだが。

兎に角、此処でたむろしていても仕方が無いので、ルーク達は城に入る事にした。

「…やはり記憶に無いな」

城の中に入ったものの、ルークには見覚えの無い物ばかりだった。

入って正面にあった人形が気になったが、特に警戒する事無くそれに近づく。

「ルーク!」

それを見たティアがルークをいさめる。

「無用心に歩くのは関心しないわ」

「俺の勝手だろうが」

そう言ってティアの方―つまり後ろ―を向くルーク。

直後、ルークの目の前にあった人形の瞳に光が宿る。

「ルークッ!!」

「今度は……」

ルークが言葉を言い切る前に、ティアが続けて叫ぶ。

「後ろッ!」

「―――ッ!!」

弾かれた様に後ろを向くと、其処には今にも腕を振り下ろそうとする人形の姿が。

「エナジーブラスト!」

ジェイドの譜術を受け、後ろに傾く人形。

重量の為か吹っ飛びはしなかった。

が、その場から退避するには十分だった。

バックステップを活用してその場から離脱するルーク。

そして直ぐに剣を構え、攻撃に移る。

「覇ッ!」

切り上げ、振り下ろしの連続攻撃。

剣を片手に持ち替え、開いた左手で―――

「烈破掌!」

一撃を打ち込む。

上に乗っていた人形と椅子が分離する。

どうも別個でも活動できるらしく、その人形は再び襲い掛かって来た。

「しつこいよぅ!」

トクナガの腕でなぎ払いつつ、アニスは詠唱の為に音素を溜める。

「鷹爪襲撃!」

トクナガの巨体がジャンプし、地面に着地。

衝撃波が人形を襲う。

ついでと言わんばかりに――

「リミテッド!」

譜術をお見舞いする。

直撃をくらったかと思えば、人形は動きを止めた。

「一体なんだったんだ、こいつは」

剣を収めながらルーク。

「侵入者撃退用の譜術人形、って所か」

其れを観察していたガイが答える。

「…結構新しいな、これ」

近づいて確認し直していたガイが呟く。

使われていない屋敷に、新しい人形。

何かきな臭いものを感じたものの、一行は奥に進む事にしたのだった。
                                                                                                          next.....































後書き

何とか四月中にはあげれそうです(挨拶)

ACT.10をお送りしました。

今回の題名はあまり意味がなかったりします。

只単に思いつかなかった、というのもありますが。

さて、では早速レス返しに行きましょう。

4/28
6:12 とてもおもしろいです ぜひ完結までがんばってください
>ありがとうございます。
完結まで頑張ります!

8:55 GJ
>有難うございます。

15:05 更新が途切れない事を祈りつつ感想を一言、多少気になる所もありましたが面白かったです
>ラッシュとしては今回が最後になるかもしれないです。
それでも最低月一は更新したいですね。

15:51 ACT.8 さほど起こってる様子の→怒っている 其れに対する制裁加えて→制裁を 誤字脱字報告です。
>報告ありがとうございました。
すぐに修正しました。

4/29
1:48 続きも期待して待っています!
>ありがとうございます!

皆さん、本当にありがとございます。

拍手を励みに一層頑張ります。

では、この辺で。


2006.4.30  神威

 
グリフォンさんに代理感想を依頼しました♪


感想

4月中にあがったのに、ここに感想を書くのは5月な代理感想者グリフォンですっ!

それ以前に、よくよく見たら、投稿規程の代理感想者一覧には私は入っていなかったり…(汗

一応辛口派の感想を書くタイプなのなぁ…(笑

 

では感想っと…

本編を準えながらのアッシュやアリエッタの微妙な違いは新鮮味がありますね…

一言だけ言うと、歴史変化という分類は多方面にその変化が影響します。六神将ともなればなおのこと。

ただし、これはある意味で間違えなんです(オイ…

良い例を出しましょう。このサイトの主思われる逆行ものナデシコは主に良い例として上げられます。

本当に歴史改変をしているなら『変更しても大筋が同じ』なんてありえないと思いません?

ナデシコTV版準じで話を進む逆行ナデシコものは、その意味で変であり、同時に正しいんです(オイオイ…

 

なぜなら『戦艦という閉鎖空間で、主人公との関係ある人のみにその影響が出るから』ですね。

主人公が基本的に一少年にしか過ぎないナデシコにおいては逆行ものでいくら黒の王子様だとしても

所詮は『一人の少年』にしか過ぎず、その影響範囲は狭い。

更には戦艦という閉鎖空間ではなおのこと、だから大筋が同じでも不自然さがないのです。

もっと言えば、主人公側の変化に対応してくる相手(木星蜥蜴)がプログラムで予定通りに進むのもあります。

 

ですが、このジ・アビスはその囲いがナデシコに比べて薄いという点があります。

その影響はすでに小説内に散りばめられていますが、現在は六神将とその周辺レベルのようです。

そして、対応するはずのヴァンの変化があまり見られないというところが少々不自然とも言えるかもしれません。

 

もっとも、ヴァン視点の一人称があるわけではないので、読者側は知らないけど…という可能性も多いにありなのですが (笑

だとしても、そのヴァンの描かれていない変化の部分は、最低でも、ティアの変化として現れるはずですし…

人間関係の繋がりから、連鎖的に生まれてくる変化の歪みがどこまで行くは実際のところ、脳内にその人数分の性格をイ ンプットして

どうなるか思考しないといけないわけですから、早々できることではありません(汗

 

そこら辺は神威さんの腕の見せ所と言う奴ですかぁ……月一なら妄想の時間はたっぷりあります、ぜひそれを考えて見て ください(笑

というわけで、まだ代理感想人一覧に乗っていない幽霊感想人『グリフォン』から辛いのか何なのか分からない感想&考 察でしたぁ〜〜

(こんなので良かったのかなぁ……)

 




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