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入学式から一月経ち、学校と云うよりも新しい教師陣にも慣れた頃。

この一ヶ月の間、特筆すべき事は何も起こらず零は友人共々平穏な毎日を過ごしていた。

もっとも‘平穏’とは一日の大半を学園で過ごす学生にとっての平穏である。

魔物の脅威にさらされているとは言え、特にハンターを目指していない一般人からしてみれば平穏とは程遠い生活と言えるだろう。

学生の生活の基本、そしてその大部分は戦闘訓練に始まりそしてまた戦闘訓練で終わる。

その中でも割合を多くしめるのは‘能力’に関してだ。

能力の大半は練度を増せば増すほど強力になるし、発動までのタイムラグも縮まる。

過ぎた力は時として災いを呼ぶが、それでも自衛にしろ魔物を退治する為にしろ能力が強いに越した事は無い。

座学も必要だが、命に関わる問題の為どちらかと云うと能力に関しての方に重点が置かれているのが現状だ。

とは言え、それは特に戦闘系の能力を持つ人間に対して言える事だ。

治癒系やサポート系の能力しか持たない人間は戦闘に関しては護身術程度で、逆に座学のほうに重点が置かれる。

更に月に一度、三人程度でチームを組んでの外部での実戦訓練もある。

これはハンターになるにあたって、なりたてのハンターは必ず三人以上のチームを組む事から来ている。

このチーム制度はギルドによって決められた事だ。

尚、その内訳は大体が戦闘系の能力者二人に治癒(サポート)系の能力者が一人だ。

ようは適材適所で仕事をしようということだ。

それにより生存確率は格段に跳ね上がる。

ハンターになりたての能力者が一人で突っ込んでも、結局の所死体が一つ出来上がるだけなのだ。

ある程度経験を積めばその様な事も無くなるのだがルーキーにそれを求めるのは酷だろう。

そんな訳で戦闘系の能力者や戦闘に活用出来る能力を持っている者にとって、郁美の戦闘訓練は必須の物となっていた。

零や慎司は戦闘に特化した能力であり、鈴音は応用すれば戦闘に使える能力を有している事からこの戦闘訓練に参加していた。

薫の能力は転移系故に完全なサポート系の能力だが、彼女に関しては本人の希望により座学よりも戦闘訓練を優先させていた。

これは零達が遥を加えた五人でチームを組む事を念頭に置いているからだ。

前線で戦える力をつけて、その能力をいざと云うときに上手く使うのが目的だ。

そして現在、零達Sクラスの人間はその戦闘訓練の真っ最中であった。

「―――今日の戦闘訓練はここまで」

学園の教官であり、零のクラスの担任でもある舞浜 郁美(まいはま いくみ)の号令の元、戦闘訓練が終了する。

前述したクラスとは能力の使い勝手を基準にわけられるランクの事である。

全部でS・A・B・C・Eの五クラスがあり、零のクラスは能力の一番使い勝手が良い能力者が集まるSになる。

零の能力は炎を操る『TYPE-A』の能力なのだが、普通であればBクラスが関の山だ。

『TYPE-A』の能力の特徴は媒介が無いと能力が使えない、そしてその能力は法則さえ越える事にある。

そんな中炎使いの零がSクラスになれたのは、その能力に制限がないからだった。

前述した通り通常『TYPE-A』の能力はその能力の元になる物が傍になければ使えない。

炎を操るには傍に炎がある事が前提条件だ、という訳だ。

普通の能力者はこれを補う為に常に媒介、ようはライター(炎)などを持ち歩いている。

ちなみに水や風、大地を操る能力者は問答無用でSクラスに配属される。

威力もさながら、空気中に存在する水分や空気、果ては地面そのものを操れるので使用条件が緩いからだ。

尚、電撃を操るタイプの能力は逆に最も扱いにくいものとされている。

攻撃力は高い部類になるが、その分直接雷を操って見せるか電線内を通る電流を操るかの二択しかない為、究極的に使いにくいのだ。

それはさておき。

零は炎使いの中でどうした事か、炎が無い場所でも‘炎を操って見せる’。

威力は他の『TYPE-A』に若干劣るとはいえ、使い勝手が良いので±ゼロといった所か。

明らかな異端。それ故に零はSクラスに当てられたのである。

ちなみに、零の友人である慎司と遥や従者の鈴音もこのSクラスに入っている。

念動力者としては最高峰の力を持つ典型的な『TYPE-B』能力者の慎司。

認識出来る、あるいは詳細に思い浮かべる事が出来る場所へなら制限なく‘跳べる’テレポート能力を持つ『TYPE-B』能力者の薫。

諜報活動に重宝されるであろう影を渡る力を持つ『TYPE-S』能力者の鈴音。

どれも使い勝手に関してはぴか一と言える。

鈴音などはその能力を応用した戦闘術(暗殺術)にも長けている。

尚この際なので追記しておくが、零の妹である遥は風を操る力を持つ『TYPE-A』の能力者である。

「……うへぇ」

そんな中、一番最後に戦闘訓練を受け終わった慎司がうめき声を上げた。

慎司がへたれているのは郁美との間で行なった模擬戦闘が理由だ。

郁美は週に一度学生との間で模擬戦闘をするのだが、先程その模擬戦闘で良い結果が残せなかったのだ。

「修行が足らん!」

零はその様子を見てニヤリと笑う。

勿論自分の事は棚上げである。

もっとも、零の場合はそれでも善戦した方ではあるのだが。

「お前はアレだ。いくみーとタイプが同じだしさぁ。俺のサイコキネシス(PK)はいくみーの能力とじゃ相性悪ぃもんよ」

ちなみにいくみーとは学生間での郁美の愛称である。

そんな郁美は重力を操る『TYPE-A』の能力者だ。

前述した通り『TYPE-A』の能力は法則を超える。

それ故に剣を使った接近戦、サイコキネシスによる遠距離攻撃を織り交ぜて使う慎司にとって、それを重力によって上手く交わしてしまう郁美とは相性が悪いと 言えた。

普通の念動力者なら兎も角、慎司のサイコキネシスなら郁美が防御に使う重力の壁も破れるのだが、如何せん能力を使う暇を与えて貰えなかった。

剣で相手をしながらだと能力を使う暇はないし、かと言って遠距離から狙おうとすると重力弾が文字通り飛んで来る。

重力を上手く使い分ける郁美とは正に相性の悪い相手(能力)といえる。

とはいえそれは相手が郁美、と云うよりも重力を操る能力だったから、というのが多分にある。

これ(相手)が零ならばここまで苦戦はしなかっただろう。もっとも、その場合は硬直状態に陥るのがオチだが。

零の場合は基本が徒手空拳といえど己の拳に炎を纏わせての接近(格闘)戦が出来る。

基本的に『TYPE-A』能力者は接近さえ出来れば幾らでも対処の仕方があるのだ。

慎司が同じタイプと言ったのは其処にあった。

零も郁美も基本が徒手空拳で、その手足に能力によって付加効果を付けて対応し、遠距離にはやはり能力を使う。

そのお陰で零にとって郁美から学べる部分が多いのは余談だ。

「とはいえ『TYPE-B』能力者じゃやっぱ相性悪いか。ま、実際お前だけに言えた事じゃないし」

「だろぉ? しかもいくみー、基本的に手加減無しだし」

ここぞとばかりに擦り寄ってくる慎司。

「えぇい鬱陶しい! 死なん程度には手加減されてるだろーが!!」

「そりゃそうだ。あくまで‘模擬’戦闘だからな」

「……はぁ」

そんな二人のやり取りを見ていた薫は珍しく、そして人知れず溜息を吐くのであった。






◆     ◇     ◆     ◇






午前五時。まだ明け方の時の出来事だ。

近衛学園、と云うよりも中等部校舎より徒歩十分程度の距離にある自宅の中庭にて、零は鍛錬を積んでいた。

―――両親は既に居ない。零が中学に入る前にハンターの仕事で他界していた。

それ以来零は両親の残した莫大な遺産とこの家を管理しつつ、その傍ら無駄にうるさい親戚連中を相手にしていた。

その姿は既に立派な家主だった、と後に遥は語る。

現在この家にいるのは、自分をのぞけば妹の遥と居候兼親友の双子の三人である。

その双子の兄妹である慎司と薫がここに居るのは、二人の両親もまた、既に他界しているからである。

これはお互いの両親が古参のハンターにも関わらず一貫してチームを組んでいたからだ。

彼等は同じ仕事に向かってそのまま帰らぬ人となったのである。


閑話休題(それはさておき)


そんな居候連中が居る中、この時間に起きているのは零ただ一人であった。

「―――ヒュッ!」

軽い呼気と共に打撃を繰り出す。

右。左。右。左。

それは息も吐かせぬコンビネーションであり拳の嵐であった。

相手に反撃の隙を与えないように、‘速さ’だけを突き詰めたソレ。

一見無駄が多いように見えるが、その実能力とあわせる事によってその一撃一撃が非常に重い必殺の拳。

―――とはいえ、このままでは実戦で使える物ではないだろう。

幾らなんでも実戦でこれだけのスピードの拳を連打すればすぐにスタミナが尽きてしまう。

体力があるとはいえ、それが無限だという訳ではないからだ。

これで止めがさせなければそこでジ・エンド。それでは意味が無い。

実戦での終わりはそのまま人生の終わりに直結するからだ。

今現在零がしている動作は、その殆どが鍛錬用の物だった。

実戦ではもう少しスピードを落とし、威力やコンビネーション重視の攻撃になる。

今は技の錬度を高める為に動きながら試行錯誤をしている最中であり、戦闘に必要な筋力を付けている最中であった。

この動作で必ずしもそういった筋力が鍛えられるのか、と聞かれると首を傾げざるを得ないが。

零が父に習っていたのは徒手空拳の流派の一つだ。

それ以外での鍛錬法を知らないので、かなり無茶な自己鍛錬をしているのである。

「ハッ!」

連打を止めた直後に蹴り(足技)に持っていく。

膝蹴り。回し蹴り。踵落とし。

いかに無駄が省けるか。いかに鋭くするか。いかに‘確実に’相手を屠るか。

ただ愚直にそれを求め続ける。

妹とは別に、零は能力に覚醒したその日から両親の方針によって父の仕事を手伝わされる事が多々あった。

ギルドの制度では正規のハンターの監修の下、かつ程度の低い仕事ならばライセンスを持たない者でも同伴する事が許可されていた。

ハンター全体の錬度を上げる為に、早いうちから実戦を積ませる為の制度であった。

零の父はその制度を逆手に取り、零のみで可能な仕事ばかりを選び、それによって零に実戦経験を積ませていた。

はっきり言おう。零が今この時まで生きていたのは奇跡だ、と。

実際に何度か死掛けた事もあった。

それでも尚、両親は執拗といっていい程零に経験を積む事を求めた。

元々ライセンスとはハンターとして最低限の仕事が出来る、と判断されてから与えられる物だ。

ようはハンターの仕事をする為の免許証のようなものだ。

いくら制度により簡単な仕事なら監修付きで請けられると言っても、頻繁に仕事を任せるのはあまりにも危険だ。

それを理解した上で両親は零に実戦経験をつませた。

―――そしてその中で完成したのが、今現在零が使う武術とも言えないソレだった。

基本は父に習った古武術。そこに実戦で培ったモノを加えて完成したのが現在零の使う自己流の戦闘術だ。

「………はぁぁぁぁぁっ」

目を閉じ、深呼吸。そして意識を集中。

ボ ウッ!

足元から炎が吹き出し体に纏わりつく。更に右手に意識を集中。

すると、体全体に纏っていた炎が右腕に集中する。

その場で左足を前にし、半身になって構える。狙うのは目の前にある大木だ。

そこから更に左手を前に出し、右手を拳を握ったまま限界まで後ろに引き絞る。

その姿はまるで弓を引くかの如く。

「紅蓮ッ!」

右足を大きく、そして素早く踏み出すと同時に最速の突きを繰り出す。

右腕に纏っていた炎が矢の如く飛び出す。

ドォォォォォォンッ!

それは標的であった大木に直撃すると、直撃した部分を根こそぎ吹き飛ばしてしまった。

その部分は炭化して見る影も無い。

「ふぅ。まだモーションが長いけど、威力の方は申し分無いな」

零が今したのは実は簡単な事だ。

右手からスピードを乗せた突きから炎を放っただけである。

普通に炎弾として放つよりもスピードに乗っている分、数倍威力が高い。

欠点はためが非常に長い点か。

しかしいかんせん実戦で使うにはモーションが長い上に現時点では停止状態でしか使えない為、非常に使いにくい技でもあった。

更に言うなれば、これはまだ未完成でもあった。

理想としてはもう少しためを短くしてあわよくば移動中に使用出来るようにする事だった。

逆に威力を下げて連射性を高める事も考慮している。

もっとも、後もう少しモーションが短くなれば‘移動中には使えないが実戦では使える’程度までには仕上げてあるが。

「さて、走りこみに行って来ますか」

若干疲労した状態で走りこみをはじめる零。

疲労が溜まっている時に走る事によって、疲労した状態でのペース配分を考える為だ。

感が鈍るといけないので自己鍛錬とあわせて日課のようなものだった。

何時でも万全な状態で戦闘が出来る訳ではない。零はそれを理解していた。

何しろ、それを自分の身をもって理解していたのだから。

溜息を吐く回数は一向に減らない。

「……はぁ」

自分が歩んで来た波乱万丈の過去を改めて思い出し、憂鬱になる零であった。
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