少年がその老人の事を噂に聞いたのは、本当に偶然の事だった。

 その老人の存在はある出来事を経験した少年にとって、非常に都合 が良かった。

 彼に教えを請いたい。

 幼いながらも、少年は力を求めていたのだ。

「まず初めに行っておく。お主の身体はまだ幼すぎる。

 故に、それが今後どのように影響するかはワシにもわからん」

「それでも僕は力が欲しいんだ。大切な‘モノ’を護る為の力が!」

「……ボウズの癖に、一丁前に男の顔をしておるな。お前さんを見て いる と鷲士を思い出す」

 少年には老人の言う鷲士が誰の事かはわからなかったが、老人の 言わんとする事は何となく理解出来た。

 自分はこの老人に教えを請う事を許されたのだ。

「それじゃあ!」

「特別じゃ。その信念に敬意を表して、お主に九頭竜を伝授しよう」

 それが少年、八神 太一のハジマリであった。



 ―――時は流れ1999年 8月1日。

 この日、運命を司る歯車はゆっくりと、だが確実にまわり始める事 となる。




デジモンアドベンチャーIF
―月と太陽―

第零楽章  ゲート・オープン【開門せし扉】




 8月1日。

 この日は八神 太一が待ちに待ったサマーキャンプの日である。

 ただ一つ残念な事があるとすれば、彼の妹であるヒカリが高熱を出 し、このキャンプへの同行が不可能になった事だろうか。

 元々体の弱いヒカリだ。最近は大丈夫だったから、と少し油断しす ぎたらしい。

 初めヒカリは随分と駄々をこねた。

 幼少の頃の経験からか、ヒカリは大層お兄ちゃん子に育った。

 これはある意味仕方の無いことだとも言える。彼らが小さい頃は丁 度両親も忙しい時期だった。

 そんな訳で、病気になってもなるべく太一が面倒を見るようにして いたのだ。

 無論決定打になった事件もあるが、今は関係の無い事なので横にお いておこう。

 そんな彼らは今の今まで片時も離れる事無く過ごして来た。

 高熱を出しながらも自分も着いて行く、と駄々をこねるヒカリに対 し、正直太一も頷きかけた。

 とはいえ、本当に体の弱いヒカリのことだ。

 下手をすると命に関わる事態に発展しかねない。

 ならばいっその事、自分が行くのを止めるか? 太一がそう判断 し、母にその事実を告げようとした所――。

「今日は母さんがヒカリについているから。太一は皆と楽しんで来な さいね?」

「でも……」

「母さんに任せなさい」

 その言葉に頷き、ヒカリには帰宅後の休日に付き合う事と、土産話 を持ち帰る事を約束した。

 結局、太一は後ろ髪引かれる思いをしながらも集合場所へと向かう のであった。



◆ ◇ ◆ ◇




「どうやら止んだみたいだね」

 眼鏡をかけた少年が小屋から出てそう言ったのには、無論理由が あった。

 8月1日。

 どう考えても真夏であるこの日に、雪が降るという異常な事態が起 こったのだ。

 ここ最近、世界各地でこういった異常事態が度々発生していた。

 彼は当事者になることは無いだろうと若干楽観視していた為、この 事態に少々混乱しているのだ。

「丈、もう外に出ても大丈夫か?」

 そう言って入り口から顔を出したのは太一だ。

 丈、というのは眼鏡をかけた少年の名だった。

 フルネームを城戸 丈というその少年は、太一の一つ年上の先輩で あった。

「うわぁ、雪だ!」

 太一の後ろから姿を現し、一目散に走りだす少年。

 少年の名は石田 タケル。太一の二つ年下になる後輩だ。

「タケル、危ないぞ!」

 タケルを追う形で出て来たのはその兄のヤマトだ。

 年は丁度太一と同じで彼らは親友同士でもあった。

 太一ははしゃぐタケルから視線を外し、周りを見渡してみた。

 雪。

 それも吹雪であった事が一瞬で看破できるほど辺りは雪で覆われ ていた。

 太一はふと不安になった。

 先程からこれが何かの前兆ではないのか、という可能性が頭の隅に ちらついている。

 自分たちが何か大きな事に巻き込まれそうな、そんな予感。

「太一?」

 考え事に没頭していた太一に声をかけたのは一人の少女だった。

 武乃内 空。太一と同い年かつ幼馴染の少女だ。

 太一とは同じサッカークラブに通い、彼と共にツートップをつとめ ている。

 このメンバーの中で一番付き合いの長い少女でもある。

「……空?」

「空? じゃないでしょ。どうしたの? ボーっとして」

 空の言葉に太一は頭を掻いた。

 本人としては考えに集中していただけなのだが、傍から見るとボ ケッとしているように見えたようだ。

「あ、いや。なんでもねーよ」

 とりあえず曖昧に誤魔化す。

 今余計な事を言って、不安がらせる必要は無いと判断したからで あった。

 空は太一の答えに首をかしげながらも一応の納得を見せた。

 この状態の太一に何を言っても無駄だと云う事を知っているからだ ろう。

 太一としても詮索されないのはありがたかった。

「吹雪がやんだら繋がると思ったんですけどね……」

 太一が室内に視線を向けると、そこにはパソコンや携帯を弄る少年 が一人。

 泉 光子郎。太一の一つ下の後輩であり、このメンバーの中では空 に次いで太一との付き合いが長い。

 コンピューター系に強く、また年齢以上に頭も良い為、太一にも良 く頼られる少年だった。

「光子郎。外と連絡取れたか?」

「いえ、まだです」

 その手を休めることなく答える光子郎に、太一は溜息を吐いた。

 自分が期待した答えではなかったからだが、それも仕方の無いこと だろう。

 既に吹雪がはじまってから一時間以上の時間が経っていた。

「そっか。とりあえず、暫くはそのまま続けてくれ」

「やれるだけはやってみます」

 光子郎の答えに満足し、頷く。

 頑張れと言わんばかりに光子郎の頭をガシガシと撫でる。

 それに対して光子郎が嫌な顔をしないのは、太一が彼の憧れであり 目標である先輩だからだろうか。

「うわぁ、綺麗……」

 感嘆の声を上げたのは、太一の一つ下の後輩である太刀川 ミミ だった。

 何時の間にか外に出ていたらしい。

「太一さん、来てみて下さい!」

 興奮気味のミミに苦笑し、光子郎に一言入れると、太一は外に出 た。

「―――すっげぇ」

 疑問より先に、そんな言葉が出た。

 視線の先には見事なオーロラがあった。

 日本では見ることが出来ない筈だが、これも異常気象の一種なのだ ろう。

 そんな太一の声に反応してか、室内に居た光子郎も姿を現す。

 ぶつぶつと呟いている所をみるとこの異常について考察しているの だろうか。

「あれ?」

 オーロラに目を奪われていると、太一の視界の隅に黒い円が映っ た。

「なぁ、あれって……」

 太一がこの場に居る皆に声をかけようとしたその時、異変は起こっ た。

 その黒い円から何か隕石のような物体が飛び出して来たのだ。

 良く良く見ると隕石にしては小さいのだが、危険な事には変わりな い。

 一瞬で判断を済ませると、太一は咄嗟に叫んだ。

「逃げ……!」

 否、叫ぼうとした。

 全てが言い終わる前にその物体は着弾した。

 幸いだったのは、地面に雪が積もっていたお陰で比較的被害が少な い事だろうか。

 着弾の衝撃によって雪が舞う。

「……皆、怪我はない?」

 こんな時、何時もいち早く安否を問うのは空だった。

 今回も例に及ばず空が真っ先に正気に戻る。

「あぁ、こっちは大丈夫だ。タケルも無事だ」

 舞った雪が晴れるとタケルを庇った状態のヤマトが姿を見せる。

 ヤマトの言葉通り二人に怪我らしい怪我は見えなかった。

「一体何なのよぉ〜」

 若干泣きべそをかいているのはミミだった。

 こちらも見た限り怪我は無いようだった。

「僕のほうも問題は無いよ」

 ずれた眼鏡を戻しながら丈。

「こちらも問題はありません」

 太一の言葉に反応して安全圏まで離脱していた光子郎が答える。

 あの一瞬で判断できた判断力には脱帽するばかりだ。

 注意を促したのが太一だったのも一つの理由だろう。

「俺も無事……」

 最後に太一が無事を伝えようとした。

「痛ッ!」

 その時。一瞬だけ目に痛みが奔った。

「太一、どこか怪我でもしたの!?」

 空が心配そうに寄って来る。

 ミミや光子郎も心配そうな表情をしている。

「あ、いや。一瞬目に痛みが奔ってさ……。今はもう何とも無いか ら、舞った雪が目に入ったのかもな」

「怪我は無いのね?」

「あぁ。ほら、どこも怪我してねーだろ?」

 自分が無事である事をアピールしてみせる太一。

 心配そうな顔をしていた三人はホッと一息吐いた。

「……あれ?」

 そこで、光子郎が不思議な光景を目にした。

 謎の物体が落ちた部分が淡く光を発していたのだ。

 何となく気になって穴をのぞいて見る。

 その瞬間、大きな光が奔ったかと思うと何かがその穴から浮かび上 がった。

 理解不能の衝動に駆られ、光子郎はその物体に手を伸ばした。

 光子郎がその物体を掴み取る頃には、他の穴からも似たような物 が、この場に居るメンバーの下へと飛び立つ。

 全員が全員、その物体に不思議な感情を抱いた。

 何かに突き動かされ手を伸ばす。

 そうするとその光は伸ばされた手の中に自分から収まった。

「何でしょうね、これ」

 不思議そうに呟く光子郎の手の中には、形容しがたい形をした物体 があった。

 ポケベルのようにも見えるが恐らくは別のものだろう。

 仕様用途も今一解らなかった。

「…………」

 そんな中、太一だけはその物体にデジャブを感じ取っていた。

 何故か懐かしい感じがする。

「?」

 丈だけが太一のそんな様子に気付いたが、特に何かを言う事はな かった。

 そうして全員がまじまじと手にある物体を見ていると、事態は更に 変化を見せた。

 手に持った物体が光を放ったかと思うと、水が滝のように流れてき たのだ。

 何も無い場所から出てくるものだから一同は唖然としてしまった。

 その滝は真ん中から割れると太一たちを飲み込んでいく。

 悲鳴がこだまする中、太一は声を聞いた。


『待ってるよ、太一。だから迎えに来てね?』


 光がはじける。

 次の瞬間、彼らの姿はこの『世界』から消え去った。

















後書き


本作はデジモンアドベンチャー と電撃文庫より発売中のDADDY FACEのクロスオーバーとなります。
作中冒頭に出てくる九頭竜というのは、クロス先であるDADDY FACEに登場する武術です。
オリジナルではないのでお間違いのないように。
都合上DADDY FACEは設定と登場人物のみのクロスになってしまうかもしれませんが、その場合はご了承下さい。
追記しますと、本文に登場した老人の口調ですが、本家
DADDY FACEに登場する老人と若干口調が異なるかもしれません。
あらかじめご了承下さい。

さて。前置きはこれぐらいにして。
皆さんどうもお久しぶりです。

本作は月と太陽の回施曲(ロンド)の改訂版になります。
ちなみに改定前と違って三人称だったのには一応試験的な意味があり ます。
というのも最近一人称で書き続けていたせいか、ちょっと三人称の書 き方が怪しくなってきたんですよね。
元々一人称の方が書きやすかった、というのもあるんでしょうが、 ちょっとまずいかな? と思いまして。
客観的に物事を見るのが下手なのかなぁ……。

さて、ここまで全て読んで頂いた方の中で、ありがちな主人公最強物 じゃね? と思った方。正解です。
この作品は、主人公である太一のキャラクター性を踏まえると主人公 最強、ならびに主人公至上主義に分類される物です。
アニメ版の太一の設定でも個人的には十分すぎるくらい素質に恵まれ ていたと思います。
今回はそれらを総合的に底上げし、あげく肉体的な才能を付加した状 態ですから。
そんな最強物がどうして生まれたか?
そもそも自分が以下の二点を同時に満たす作品を読んでみ たい、という気持ちがあったというのが一番の理由でしょうか。


・ とりあえず太一主義である自分の趣向にそった、太一が主人公かつノマカプの 原作をなぞった 長編が読みたい。

・ デジモンと素手で渡り合える太一が見たい。


上の一点のみならまだしも、素手で戦う、という点を満たすとなると 果たして存在するのかどうか。
私はまず存在しないだろうという結論に至りました。
そこから、存在しない以上は自分で書くしかない、という当然の結論 に至りました。
根が貧乏性な私は、書いたなら公開しなきゃ気がすまない性質でし て……。
そうして本作の改定前の作品である月と太陽の回施曲が世に出る事に なりました。
この作品は数ある二次小説の中でも、より究極的な自己満足によって 生まれた訳です。

ちなみにこの作品がクロスオーバーなのには一応理由があります。
今でこそセイバーズという、主人公がデジモンと素手でケンカをする アニメが存在します。
ですが、月と太陽の回施曲がはじめて世に出たのは今から三年前の 2005年 6月。
当時はまだそんなハチャメチャなアニメは存在しませんでした。
同時にセイバーズの場合、主人公は決して戦闘のプロではありません でし た。
あれはあれで中々上手い設定だとは思います。
しかし私の中にはデジモン相手に素手で戦うなら戦闘のプロ、という 先入 観がありました。
そうでなければ対等には渡り合えないだろう、と。
なので、まず私はこういった人間外の相手に有効な武術は何か、とい う事を考えました。

真っ先に思い浮かんだのがDADDY FACEと云う作品でした。
この作品に登場する九頭竜とは、対仙術・仙術というみょうちくりん な妖拳法の事です。
始祖が九頭竜ことクトゥルフというぶっ飛んだ設定もあります。
そして九頭竜の中には人間外を相手に出来るような戦法があるという 様なことを本編中で言及しています。
一から考えるより既存のものから持って来た方が良いかな、という考 えもあり、この作品とのクロスオーバーが決定しました。
その中にはDADDY FACEを題材にした作品が然程出回っていない、ある意味マイナーであった事もあります。
個人的に好きな作品ですからこの機会に普及しようかな、という思惑 もあったということです。
無論この作品がクロスである以上、DADDY FACE側のキャラクターも出演させる予定です。
改定前はそこまで話が進まなかったので今回は上手く進める事を目標 とします。

それでは、後書きなのに随分と長くなりましたが、これで失礼させて 頂きます。




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