第七章【出会いの予感とマインクラフト】


「カクの様子?」

「うん。最近外であまり見かけなくなっちゃったから。真直ちゃんは何か知らない?」

「何だか心配だよぉ」と顔良は不安げな表情を浮かべる。
彼女は田豊の前に袁紹と文醜にも同じことを聞いてみたのだが――

『カクの考えてることはよく分かりませんからね。まあでも心配など無用ですわ。最終的には主の私の所へ戻ってきますわ』

『ん〜? あいつにも色々都合があるんだろ。それよりも斗詩、腹が減ったから飯でも食べに行かね?』

まるで心配していない二人に落胆するのだった。特に文醜、いざという時には彼を守る立場だというのに。
そして対する田豊には思い当たる節があり、ソッと自分の顎に手をそえる。

(そう言えば最近の報告では地下に籠もったまま出てこないっていうのが多かったわね)

また何か新しい発見もしくは新たな道具でもコツコツと作っているのだろうか。
そうであるなら喜ばしいことだが、そうでないとすれば――悪い予感が過ぎり、田豊の表情が曇る。

「真直ちゃん大丈夫? 顔色が悪いよ」

「え、ええ。大丈夫よ」

「……何か思い当たることがあるの?」

「そうね。想像でしかないけれど……色々と周囲が変わったせいかもしれないわ」

その言葉に顔良はハッとする。
カクが自分達と出会う前、どのような生活をしていたのかは不明である。
仲間も近くで見かけなかった以上、長い間一人だったのかもしれないのだ。

(それを私達が見つけて、ここに連れて来た……)

「それに何も説明せず、警護も付けた。驚いて当然よ」

だが今はこうして自分達と共に日々を過ごしている。彼を取り巻く環境が劇的に変わったと言っても過言ではない。
仕方がない事とは言え、一人で過ごしてきた――かもしれない――自分の傍に警護の人間が付いて離れないのだ。
普通の人間もそうであるように、カクもまたその事に一抹の不安を感じたのかもしれない。

このままでは駄目だ――顔良は意を決した表情で田豊の手を両手で掴んだ。

「真直ちゃん……今からカクちゃんに会いに行こう!」

「え、えっ? どうしたの急に」

「今のまま放置するのは駄目だと思う。会って話……せないけど、会わなくちゃ!」

「…………分かったわ」

顔良の熱意に押され、田豊はゆっくりと頷いた。







(やっぱり長距離を掘ってると石のツルハシの消費がハンパないな。いくら掘っても足りないや)

念のために鉄のツルハシも携帯しているが、石や土ブロックを掘るのにはどうしても躊躇してしまう。
鉄は貴重な鉱石を掘るため、それ以外は石で掘る――マインクラフターによくある勿体無い病である。

(それにしてもボートの安定感凄かったなぁ。ゲームでも転覆はなかったけど)

最初に実験として適度な長さの水路を作ってボートを製作後、一刀は実際に乗ってみた。結果――進水式は見事に成功。
ゲームではキーボード操作で簡単だったが、実際乗ってみるとオールを漕がなければいけないのが若干面倒だった。

(水路の製作は順調だ。この調子で進めば良いな)

オマケに中間地点には松明、作業台、チェスト、無限水源と完備。二十四時間バッチリ掘れる。

(そろそろ外に顔を出しておいた方が良いな。バレたら苦労が水の泡だ)

作業に集中するあまり、一日中地下にこもって出てこなかった日が実際何日かあった。
不審に思われ、調査をされれば終わりだ。特に田豊にバレたら大目玉確定待った無しである。

(外に出たら何をしよう。斗詩さんか天和の所に行ってナデナデされ――)

「カクちゃ〜ん! ここに居るの?」

精神的な癒しを求め、考えを巡らしていた時である。候補に挙げていた人物の声が聞こえてきた。

(急に何故ここに!? 不味い、入り口を隠さなくちゃ!)

一刀は急いでインベントリから石ブロックを取り出し、入り口の前に積み重ねた。
これで何とか誤魔化せるだろう。その後、自室の前まで来ていた来客を出迎えた。顔良と田豊だった。

「突然ゴメンねカクちゃん」

(ビックリしましたけど、問題ないです)

「お邪魔するわねカク」

(はい。そこの椅子にどうぞ)

地下の一刀の自室はほぼ精錬した石製だ。床は温かみを出すため、木材ブロックである。
マインクラフトに実装されている正式な家具と言えばベッドのみで、一刀も例外ではない。
あるのは設置物を組み合わせた“なんちゃって”家具で、案内した椅子は木製階段を横にくっ付けたソファである。

「わっ、この椅子何だか不思議な感じ」

(素材の持ち味を生かしてますから)

「真ん中が空いてるわ。カク、こちらに座りなさい」

(女の子に挟まれながら座る……ちょっと夢でした)

若干おずおずとした様子で一刀は二人の間にちょこんと座った。
沈黙――顔良と田豊の顔を交互に見るが、ここを訪れた理由が分からない。

(何だろう……まさか秘密の地下水路がもうバレてる?)

ヤバイ言い訳が思いつかない――内心焦る一刀がそわそわし始めた時である。

「カク……その……」

(は、はい!)

「突然のことで驚いたでしょう。貴方に警護が付いたこと、事前に話さなくてゴメンなさい」

へっ? と一刀は思わず首を傾げた。もしかしてバレた訳ではないのだろうか。
そう考えると自然と落ち着きを取り戻し、一刀は田豊の話に耳を傾けた。

「警護をした兵から聞いたと思うけど、貴方を心配して警護を付けたと言うのは本当。誓ってもいいわ」

(最初から疑ってないですよ)

「詳しくは言えないんだけど……私を信じてほしい。自分勝手で呆れてると思うけど」

(信じてます)

「カクちゃん、私達ね、貴方があまり外で見かけなくなったから心配してここに来たんだよ」

欲張らずに戻って来ていて良かった。ボート移動を選択しておいて本当に良かった。一刀は心から安堵した。

(後少しでも遅かったら捜索されてたなコレは)

「環境が急に変わったから元気無くしちゃったのかと思ったんだけど、元気そうで良かったよ」

(まあ確かに劇的に変わったけど、充実してますよ〜)

「けれども私達は貴方に頼り過ぎて、当たり前のことを忘れていた気がする」

田豊がそう言いつつ、一刀の頭に手を置き、優しく撫でた。

「カク……ありがとう。ここに来てくれて。今の充実した私があるのは貴方のおかげよ」

(そんな……でもナデナデ気持ち良いです)

顔良もまた、田豊と同じように一刀の頭を撫でた。

「私からもありがとう。カクちゃんが居てくれるから毎日が楽しいよ」

予想もしていなかった二人からのお礼の言葉に若干戸惑う一刀。
だがそれ以上に嬉しさが勝り、ナデナデされているのも相まって朗らかな気持ちになった。

「全く、気持ちよさそうにしちゃって」

「カクちゃん。実は真直ちゃんね、ここに来るまでにカクちゃんに嫌われてたらどうしようって不安だったんだよ?」

「と、斗詩ッ! それは言わないでって……と言うか何でよりにもよってカクにバラすのよ!?」

唐突の暴露に田豊の顔が真っ赤に染まった。

「ふふっ、もう良いじゃん。カクちゃんは真直ちゃんを嫌ったりしないって私分かってたもん」

(前に猪々子も含めて斗詩さんがお願いしてたからなぁ。まあ嫌う訳がないんだけど)

「くう……わ、笑えばいいじゃない。嫌われる覚悟が出来てるって言っておきながら嫌われるのが怖かった私を」

「笑ったりなんかしないよ。ねっ?」

(うんうん)

二人の妙に息の合ったやり取りに田豊は顔を赤くしたまま悔しがるのだった。
その後、一刀は田豊と顔良に頭を撫でられ、膝枕をされ、精神的に癒された。

その中で田豊からお詫びとして、一刀の作った地下農場の拡大計画があることを聞かされた。
しかし袁紹が派手好きのため、地下という目立たず地味な場所に難色を示しているとの事だ。
だが必ず説得してみせると意気込んでいたため、一刀は楽しみに待っておくことにした。

(楽しみだなぁ。拡大したら兵の皆さんが手伝ってくれるみたいだけど、女の子希望!)

二人が地下室を後にし、一刀は水路作成の道具作りを再開した。
田豊から本音を聞き、もう警護の人間が付くことに不満はない。だが冒険心は抑えられなかった。

(新しい素材を見つければクラフトの幅も広がる。それに真直さん達も喜ぶだろう)

かと言って今日のように心配を掛ける訳にもいかない。
暫くの間、水路製作は皆が寝静まる深夜に行うことにした。







「では、本日はこれにて……」

「うん。月、ありがとだもん」

洛陽宮中――二人の女の子が言葉を交わしていた。
一人は劉協と言い、後の献帝である。もう一人の名は董卓。西涼太守である。

本来ならこうして二人で言葉を交わすことなど許されない程の身分の差がある。
だが何処か似た雰囲気を董卓に感じた劉協がそれを許し、何時しか友となった。
そして今ではお互い真名で呼び合う仲までになっていた。

「白湯様、霊帝様は……」

「相変わらず後宮に籠もりきりだもん。きっと趙忠が作るお菓子に夢中なんだもん」

「そうですか……」

「月が気にする必要はないんだもん。これは朕とお姉ちゃんの問題だから、ね?」

そう言いつつも、目の前の友達が寂しそうな表情を浮かべるのを董卓は知っていた。

(何とか力になってさしあげたい、けど……)

劉協は外の世界に出たことがない。いや、出ることが許されていない。姉の霊帝も同様である。
全ては権力を意のままに操りたい何進及び十常侍の陰謀だということは分かっている。
だが西涼の太守に過ぎない自分に出来ることと言えば、外の世界のことを語ることだけだった。

「月、次は何時ここに来れるんだもん?」

「また近い内に必ず。白湯様が驚くような御話を持って参ります」

「楽しみにしてるもん! あ〜あ、朕も外に出てみたい。お姉ちゃんも一緒に来れば変わると思うんだけどなぁ」

彼女の夢が叶う日が来ますように――董卓はそう願わずにはいられなかった。



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