第十七章【童心とマインクラフト】


一仕事終えた一刀は専用の幕舎で成果の鉱石を満足そうに眺めていた。
ラピスラズリ――ゲーム内では主に村人との取引や染料の材料として使われる。特に染料としての要素は面白く、青色の羊毛を作ったり、革製の防具を染めたりと個性が出せるのだ。
本来ならダイヤモンドと同じくらい深い場所でしか見つからない筈だが、ちょっとしたイレギュラーも異世界ならではだろうと一刀は特に気にしなかった。寧ろ幸運だと感じていた。

(これならダイヤモンドも浅いところで見つかりそうだな。この世界だとこれはどれぐらいの価値になるんだろう?)

現実の世界でも貴重な宝石扱いだったし、麗羽への献上品(ご機嫌取り)に使えるかもしれない――だが今は使う時ではない。
自分のインベントリにソッとしまい、代わりに一刀は次の鉱石をインベントリから取り出した。

(鉄鉱石に金鉱石、そしてレッドストーン。ここは色々な鉱石が眠っているから良いな)

水関への潜入口を作る最中に豊富な鉱石が手元にドロップしていた。袁紹の領内でもなかなか見つけられない物もある。
それ等の鉱石を纏めてかまどに入れての精錬中、一刀はふと思った。もしかしたら“アレ”が出来るのでは? と。

幸い材料は持ってきてある。大量のインゴットを前に試さない手は無いと一刀は即座に行動に移った。

先ず鉄のインゴットのみでクラフトし、トロッコがすぐさま完成。
そして更に鉄のインゴットと棒をクラフトすればレールの完成である。
更にパワードレールも作成可能だったが、コストパフォーマンスが悪いため、泣く泣く見送りした。

(ひゃっほう。ついにトロッコが出来たぞ。近代化が捗るなぁ)

試しにレールを幕舎内で円形に設置していき、トロッコをレール上に乗せた。
満足気に頷いた一刀は意気揚々と乗り込み、トロッコを走らせてみた。

(いいねいいね。何か気持ち良いなぁ)

加速させるパワードレールギミックが無いため、徐々に減速していくが、それでも乗り心地は最高であった。
更にトロッコはアイテム運搬用、アイテム自動回収用とクラフト派生があるため、余計に夢が広がる。
暫くの間、童心に返った一刀は子供のように両手を上げてはしゃいでいたが――

「カク、お疲れさ――何をしているの?」

そういう時に限って、お楽しみの時間は早く終わってしまうものである。労いにやってきた田豊だ。
見られた恥ずかしさのあまり固まる一刀を尻目に、トロッコはグルグルと動き回った。無情である。

「また貴方はこんな物を作って……もうちょっとの事じゃ驚かなくなってきたわ私」

(いっそ驚いてくれた方がどれほど良かったことか……)

「見たところ運搬用の道具……いえ、貴方が乗ってるのだから馬のような物なのかしら?」

(冷静に分析しないで下さい……)

「それに変わった板の上を規則的に動いていたわね。それはその上でないと動かないの?」

まるで黒歴史ノートを冷静に分析されているかのような気分の一刀だった。
ちなみにトロッコはもう完全に止まっており、されるがままである。

「あっ……ご、ゴメンなさい」

一刀が先程から動かないのは突然来訪した自分のせいだと思い、田豊は慌てて調べていたトロッコから手を離した。

「悪い癖ね。驚かなくても貴方の作った物を調べずにいられないのは」

(いえ、もう気にしないで下さい)

「言われた通り穴を掘ってくれて感謝するわカク。これでこの戦は貰ったも同然よ」

(この身体じゃあ戦自体に参加出来ないからなぁ)

ロクな武器と防具無しであるマイクラボディの自分対リアルボディで豊富な武器防具を纏った兵の皆さん。
うん、勝ち目どころか勝負にすらならない。良くて瀕死、最悪一撃死であろう事は簡単に想像がついた。
この世界では無理に戦いに参加せず、あくまで自衛用に武器等を作った方が良さそうだと改めて感じた。

「ご褒美と言っては何だけど、私が動かしてあげるわ。ほら、そのまま乗ってなさい」

(うえっ!? いや、流石にそれは羞恥心が働くと……)

「押すわよ。それ!」

(ひょえ!?)

一刀の後ろに回った田豊がトロッコを勢いよく押し、稼動を再開させた。加速を得たトロッコはグルグルとレールを動き回る。
まるで親に遊んでもらっている子供のようだと一刀は思いながら、半ばヤケクソ気味に今の状況を楽しむのだった。











水関の戦い――切っ掛けは董卓配下の将である華雄が孫堅から挑発を受け、水関から打って出たのが始まりだった。
連合軍に兵力で圧倒的に劣る十常侍軍が優位を保つには、要害たる水関に立て篭もる事が条件である。出てはそれが崩れてしまう。
間の悪い事に血気盛んな華雄を抑えていた張遼は、たまたまその場には居らず、華雄の出陣を許してしまうのだった。

「あんのアホがッ! 今のウチ等の状況分かっとんのか!」

「将軍、我々は如何致しますか!」

「見捨てる訳にもいかん。華雄のアホをとっととここに連れ戻してくるわ。出るで!」

「畏まりました!」

華雄を連れ戻すべく、張遼も兵を率いて出陣する。無論水関にも配下の将と兵を多数残しておくのも忘れてはいない。
飛龍偃月刀を携え、戦場に出た彼女は――案の定四方を囲まれて苦戦する華雄を見つけ――連合軍に突撃を開始する。

「張遼か! すまん、助かった!」

「後で覚悟しときぃや。雑魚に構わず一気に駆けるで!」

「応ッ!」

飛龍偃月刀、金剛爆斧を振り回し、戦場を駆け抜ける二人の猛将。その闘志に圧され、追撃をしてくる兵は極僅かだ。
水関の門まで後もう少しというところまで迫った二人の目に飛び込んできたのは驚愕の光景であった。

「んな、嘘やろ……!」

「馬鹿なッ! 何時の間に……!」

要害たる水関の上になびくのは張遼でもなく、華雄でもなく――袁紹。
華雄はともかく、自分が水関を出てからそれほど時間は経っていない。それどころか敵を通してすらいない筈。
張遼が混乱する中、水関の門がゆっくりと開く。そこから文醜と顔良が率いる兵が現れ、すぐさま突撃を開始した。

「おらぁ! 行くぞお前等!!」

「訓練の成果を見せる時です! 張遼さんと華雄さんは捕らえて下さい!」

「ちいぃぃぃっ!!」

「くそっ! 挟撃されたか!!」

流石の猛将二人も挟撃されては堪らず、徐々に物量に圧され始める。
異変を察知し、呂布率いる軍勢が救援に駆け付けた時にはほぼ壊滅状態であった。

「恋が来てくれたようやけど、あそこまで行くにはちと厳しいな」

「ならば私が囮になろう。張遼、お前は血路を開いて逃げろ」

「……アホ。それでケジメ取ったつもりか」

「こんな事になったのも私の責任だ。せめてお前を無事に逃がさなければ武人の恥となる」

「そう思うんなら、生きて汚名をそそぎぃや。……ウチ等と合流出来そうならするんやで」

「ああ、分かった」

その後、華雄の捨て身の突撃により、無事に呂布の元へと辿り着いた張遼は虎牢関へと逃げ延びた。
そして隙を見て撤退を始めようとした華雄は――

「ぐっ……こんな事になるならいっそ討ち死にしてしまいたかった……!」

「敵将の華雄を捕らえたぞ!」

一刀が掘ったまま埋め忘れていた穴に偶然にも落ちていた。
それを聞いた一刀は敵ながら申し訳ない気持ちになったという。



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