光あふ るる場所  やーちゃん祭り
IF 〜消えた先の世界で君と〜




「くたばれ、北辰ッ!」
アキトの裂帛の気合と共にローブと化したサレナのグラビティ・スマッシャーが北辰と夜天光に突き刺さり、一気に圧縮される。
「見事なり、復讐人……」
「ほっくん!」
超高重力に飲み込まれながら北辰に近づこうとする夜天光。
しかし彼女の赤いゴスロリ服は超高重力の渦に千切られ、見る見るうちに裸体になっていく。
近づく事も出来ないまま流される。
あまりの重力に機械化した北辰の両手足は一瞬でつぶれ、他の箇所ももう持たないようだった。
「やぁっ! やーを、やーを置いてかないでっ!」
夜天光が叫んだ瞬間、高重力の渦の中で光が走り、つぶれていく北辰に寄り添った。
そして……グラビティ・スマッシャーが消えた後、そこに北辰と夜天光の姿は無く……、アキトと北辰の因縁には決着が付いた……。



「む……。ここは……? それに我は確か……テンカワ・アキトに……、む?」
動かぬ体に気づき、周囲を見渡す北辰の目に飛び込んできたものは潰れて無くなった手足と、自分にしがみついている全裸の夜天光。そして……。
「北辰、貴方に尋ねたい事があります」
薄蒼い髪の夜叉がいた。


後に北辰は語る。

「今までの人生で最も強く感じた『恐怖』とはあの時だった」

と。


それはさておき。
「まず貴方のその状態ですが……。まあ手足が無いのは良いでしょう」
いいのか!?
「それよりその少女は何者ですか? まさかラピスのようにどこからかさらって来たと言うのなら……」
薄蒼い髪の夜叉、ホシノ・ルリ中佐の髪は重力に逆らって浮き上がっていた。
「ま、待て! これはさらって来た訳ではなく……」
「やーはほっくんのすれいぶだよー」
「「「「「「「「「「ほっくん?」」」」」」」」」」
裸の少女・夜天光の台詞に思わず鸚鵡返しになる一同。
代表してルリが夜天光に尋ねる。
「すいません、『ほっくん』とは一体誰の事ですか?」
「だから、ほっくん」
ルリの質問にそう言って、夜天光が指差したのは身動きの取れない北辰。
周囲の温度がいきなり摂氏零度まで下がる。
「「で、君は北辰の何だって?」」
アカツキと三郎太が同時に聞いてくる。
元大関スケコマシと現関脇スケコマシとしては聞き捨てならない発言があったようだ。
「だから、やーはほっくんのすれいぶだって」
「「「「「「「「「「スレイブ(奴隷)……」」」」」」」」」」
今度は周囲の温度が絶対零度まで下がった……。
いや、それを超えて下がり続ける視線があった。
「北辰……貴様……こんな年端も行かない子に……」
アカツキが今まで誰にも見せた事の無いような殺気を放つ。
「ラピスちゃんを襲って、艦長を襲って、ミスマル艦長をあんな目に合わせて、ミナトさんを殺そうとして、今度はこの子を奴隷だと……」
三郎太がおちゃらけの仮面を捨てて怒気を放つ。
「おしおきが必要なようですね……」
ルリの判決が言い渡される。
そして……。

「あれ? ほっくんどこ行くの?」
ナデシコクルーに引き摺られて行く北辰を見つけた夜天光が追いかけようとする。
「ん〜? 大丈夫、いなくなったりはしないわよ。それよりやーちゃん……でいいのかな?」
「うん、やーはやーだよ」
走り出そうとする夜天光を引き止めるミナトと、それに答える夜天光。
「ねえ、やーちゃん。とりあえず服を着ましょう。お姉さんが見繕ってあげる」
「いいの?」
「ええ。年頃の女の子が裸で走り回るものじゃないわよ」
そう言って夜天光に自分の上着を着せて部屋へ連れて行くミナト。
この時ミナトは自分が手を繋いでいる女の子がこちらの世界の機動兵器をはるかに上回るものだとは気づいていなかった。


「やーちゃんはお菓子好きかな?」
「うん、好きだよ。ほっくんの次に好き」
「じゃ、こんなのはどう?」
そう言って自室で着替えをさせた夜天光にクッキーをあげるミナト。
考えようによってはかなりシュールな光景である。
ちなみに着替えさせたのは普段の夜天光と同じ赤いゴスロリ服。
ミナトには本能的に似合う服装が判ったらしい。
「おいしい?」
「うん」
満面の笑みで答える夜天光に微笑むミナト。
「そ、良かった。で、ちょぉっと聞きたいんだけどいいかな?」
「何?」
クッキーを頬張りながらミナトに返す夜天光。
「さっき貴女、北辰の『スレイブ』だって言ってたけど……、どういう意味で言ったの?」
「だからやーはほっくんのすれいぶなの。やーはほっくんから生まれたからほっくんのすれいぶなんだよ」
「北辰から生まれた……?」
夜天光の拙い言葉を翻訳しながらミナトと夜天光の会話は続いていった……

「……つまり、貴女たちがここに来る直前までいた世界は今からずっと先の未来で、アキト君がそこにいて、貴女は元々はその、高次物質化、だったっけ? の 力で北辰が生み出した戦闘兵器だったけど、アキト君のメイドさんと戦っている時に今の姿になる事が出来たということ?」
「ん〜。ちょっと違うけどそんな感じかな。ほっくんがアキトってひとのすれいぶのお姉ちゃんを見て羨ましいって思ったからやーは今のやーになれたんだ (喜)」
「そ、そう(アキト君、貴方一体何をやっているの!?)」
夜天光の言葉に、この事を知ったルリの反応を想像して青くなるミナト。
「じゃ、じゃあアキト君はまだその世界に居るって言う事なのかな?」
「たぶん。やーとほっくんは戦って負けてこの世界に飛ばされちゃったから」
「アキト君は未来で女子校の先生でメイドさんのご主人様か……(また、女生徒を落とすようなことしてないでしょうね……? 命の保障がなくなるわ よ……)」
恐らくは尋問(拷問ともいう)中の北辰からも似たような話を聞く事になるはずだから……、とそこまで考えて怖い思考になりかけたのでかぶりを振って思考を 散らす。
「そういえば、やーがいるとほっくんが変態になる、って言われたんだけどどうしてかな?」
そんな事をこの子達に言う命知らずがいる事に驚くミナトは思わず尋ね返す。
「誰に言われたの?」
「あずわど、っていうところの首領のお姉ちゃん」
ミナトはその『あずわど』というのがさっきの話の世界の組織……それも『首領』なんて言い方をするところを見るとあまりよくない組織である事に気づく。で も言ってる事は当たっているので否定できない(笑)。
「……そうね。確かにそう見られる可能性が高いわね」
「なんでなんでー?」
顔中に疑問符を浮かべる夜天光。
「まず外見。貴女と北辰じゃどうやっても親子には見えない。まあ、さっき言ってたスレイブっていうものだったらしょうがないけど。で、親子に見えないのに 北辰のような大人に貴女のような小さな子供が必要以上に懐いているというのは普通の人にとって異常な事態だからね……。幼女趣味の変態と思われても仕方な いわ。その上、人とあまり会話しない北辰みたいなタイプだと腕力的に抵抗できない幼女を玩具にしている様にも見られるからね」
「む〜」
ミナトの説明にむくれる夜天光だが、ミナトはフォローも忘れない。
「まあ、気にしなければいいだけなんだけどね」
「じゃあ、気にしない」
……北辰がラピスにした事の仕返しか、正しいフォローとは言いがたいが。
「それより教えて欲しいことがあるんだけど。」
何時の間にかミナトの後ろに立つイネス。いつもどおり白衣を身に着けている。
「教えてくれたら北辰ともっと仲良くなる方法を教えてあげるけど……どうする?」
「いいよ! ほっくんにもっと愛してもらえるなら!」
キラーン! とミナトとイネスの目が光る。
この時、この光景を見た者がいるのならこう表現しただろう。

……メフィストフェレスの契約より酷い、と。



「さて皆さん。我々は北辰への尋問(むしろ拷問)と彼の連れていた少女……北辰曰く『夜天光』ですが……彼女の証言により、コロニー襲撃事件の重要参考人 である『テンカワ・アキト』は未来の世界にいることが判明しました。しかし、……」
いったん言葉を切るルリ。
「それが『何処』かは判りましたが、『何時』かは判りません。よって北辰と夜天光両名のナビゲートによる該当座標での『未来』への複数回に渡る短距離ジャ ンプを敢行します」
「あれ? でも北辰ってB級ジャンパーだよね? チューリップも無い可能性のある時代にナビゲートできるわけ?」
ヒカルの質問に頷く者が出る。
『説明……』
「説明します。未来にもチューリップは存在します。もっともこの時代には火星移民の子孫はいないため遺跡にコンタクトできる人間がすでに居らず放置されて いるそうですが、それを使ってジャンプします。座標その他については夜天光の記憶にあったので、後はそれをイネスさん開発の新型ナビゲート装置に直結した 北辰に繋いで、無理矢理イメージさせてジャンプします」
イネスの説明を遮ったルリが、イネスより遥かに簡潔に説明を終える。
『ルリちゃん、あとでじっくりと話し合いましょうね……』
説明を邪魔されたイネスがルリをねめつけてからコミュニケを切る。
それを見ながら一部のクルーは……
(『直結』って……さすが艦長。容赦ないな〜)
(艦長……僕じゃ駄目なんですか!? 僕のほうが絶対貴女の事を愛しているのに!!)
(る、ルリルリ……、貴女最近ほんっと〜に手段を選ばなくなってきたわね……。このままだとアキト君を連れて帰ってきても、艦長の所に届けないで隠匿しか ねないわね……)
などと考えていた。

「この任務は危険な任務になることが予想されるので参加は志願制にします。よく考えてください」
押し黙る一同。そして……。
「ま、しょうがないよね」
ヒカルの台詞が皮切りになる。
「そうだな」
同意する三郎太。
「とりあえずアキトの奴をぶん殴ってやらないとな!」
リョーコらしい言い訳。
『体のことも心配だし』
イネスらしい一言。
「何より! 女子校の教師やって、その上メイドさんに傅かれているって言うじゃねえか! 許せるか、野郎ども!?」
ウリバタケの漢の叫び。
「「『「『「『「『「否! 絶対否!!」』」』」』」』」」
同意する整備班他の男性ばかりの部署の人達。
「じゃ、そういうことで」
ミナトの台詞が全員の心を物語っていた。
そう言った彼らクルーの退艦者は一人もいなかった。
「皆さん……」
みんなの心に瞳が潤むルリ。
涙を拭いて全員に命令する。
「では各員作戦指令書を受け取った後は各部署の総チェック! 以降は長期にわたる作戦行動になります! 家族への連絡等の時間は設けますのでそれまでは英 気を養ってください!」
「「「「「「「「「『「『「『「『「『「了解!!」』」』」』」』」』」」」」」」」」」」


そして進む未来へのジャンプ準備。
忙しく立ち回るルリたちとは別に暇を持て余している人々がいた。
リョーコたちパイロットと北辰・夜天光である。
リョーコは……自室で本を読んでいた。
タイトルは『男を落とす百の方法』。……まだ諦めてないのね……。
ヒカルは……同人誌を描いていた。
内容は『夜天光×北辰』。……いや、いいけどさ。
イズミは……一人寒いギャグを言っては笑っていた。
一人でもだえ苦しむのはどうかと……。

そして北辰と夜天光の二人はと言うと……。


ナデシコCの北辰と夜天光の部屋……
「で、これは何の真似だ……?」
自分をベッドに縛り付けて服を脱がした上、自身も服を脱いでいる夜天光に尋ねる北辰。
「んとね、ほっくんとやーみたいな関係だったらこう言う事をするんだって」
「誰がそんな事を!?」
「ナデシコのミナトお姉ちゃん」
「おのれ売女めぇぇぇぇぇっ!」
怒りの表情を露にする北辰。
しかし、手足が無い以上怒りを露にする事しか出来ない。
この怒りの表情を夜天光は勘違いする。
「ほっくん、もしかして初めて? 大丈夫! やーいっぱい勉強したから! 痛くなんてないからね!」
「だから待てというに!」
自分の機動兵器、っていうかスレイブに襲われてどうする、北辰。
逃げようにもジャンプフィールド発生器は無く、文字通り手も足も無い北辰に逃げる術など有りはしない。
「大体どうやって勉強したと言うんだ!?」
「ナデシコのウリバタケおじちゃんが持ってた本とビデオ」
「おのれ変態めぇぇぇぇぇぇぇっ!」
「誰が変態だ、この野郎!!」
一瞬で現れたウリバタケによってぶん殴られた北辰は気を失い、それを確認したウリバタケは夜天光にサムズアップして「あとは頑張れ」と言い残して、またも 一瞬で消えていた。……いや、何者よアンタ。

その後、この部屋の中から出航直前まで男女の喘ぎ声のようなものが聞こえたと言うが定かではない(笑)。



ナデシコCのブリッジから全クルーへ通信が繋がる。
「ではこれより未来へ向けてジャンプします」
ルリの宣誓とともに新型ナビゲートシステムが作動する。
「強制イメージング開始!」
「ぐうぅぅ!」
イネスの声と同時に夜天光と直結した北辰が脂汗を流す。
相当につらいようだ。
心なしかやつれているようにも見える(笑)。

そして━━━━

「イメージング固定完了。コロニーアマテラスより目標エアルのチューリップへ! いつでもいけるわよルリちゃん」
「じゃんぷ!」
そしてナデシコCはこの時代から消えた。



ガルベローデ内、アキトの自室━━━━

ぞくっ!
午後の紅茶を楽しんでいたアキトの背筋に突然悪寒が走る。
「いかがなされました、マスター?」
「いや、なにやら悪寒が……」
そこへアリカが部屋に飛び込んできた。
「アキト大変! グラウンドにすっごい大きなものが浮かんでる!」
「大きなもの?」
即座にサーチを開始したサレナがアキトに報告する。
「マスター。この反応は……ナデシコCのようですが……」
「何!?」
その名前を聞いたアキトの顔は驚愕よりも恐怖に彩られていた……



「ミナトさん、座標はここで間違いありませんか?」
「やーちゃんの言ったこととイネスさんの分析が正しければ間違いないはずだけど……」
ルリの質問に計器を確認するミナト。
「いた! あそこにいる黒いメイド連れのバイザー男! アキトに間違いねぇ!」
「ホントですか、リョーコさん!?」
発進したエステバリスから入った通信に、コミュニケの画面を拡大する。
そこには赤いメイド服を着た女生徒たちと黒いメイドに囲まれたアキトの姿があった……



アリカとサレナを引き連れて自室から飛び出してきたアキトはグラウンドに現れたナデシコCと飛んでいるエステバリスを呆然と見上げる。
同じように見上げるコーラルやパールの生徒に学園長をはじめとする学園関係者たち。
「ほ、ホントにナデシコC……。なんでここに!?」
恐怖に彩られたアキトにナデシコCから外部音声が響き渡る。
『アキトさん、やっと見つけましたよ! もうどこへも行かせません! グラビティブラスト発射準備! 目標、敵(アキト さんの付近の女性)まとめて全部!』
敵(アキトの付近の女性)どころか施設まで吹き飛ばす武器をいきなり選択するルリ。
「ちょっと待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
アキトの叫びがヴィントブルームの空に響き渡った……。


その後、そこで何があったのかを語るものはいなかった。
ただガルベローデ初の男性準教員とオトメロボはいなくなり、何人もの生徒と教師と王宮関係者が悲しんだと言う事が記録に残って……いるかどうかは不明であ る。



また、この騒動の後、西暦二二〇四年の地球に帰還したナデシコC艦長ホシノ・ルリは連合宇宙軍を退役。
テンカワ・ユリカやハルカ・ミナトたちからも行方をくらませた。
一部の噂では、メイドのウェイトレスのいるラーメン屋の女将になっているという……。



数年後、地球某所━━━━

北辰は失った手足を義肢(戦闘用ではなく一般用のものに自爆装置を埋め込んだもの。テロ行為ならびにボソンジャンプを行ったときに使用する)で補い、一般 人として生活していた。
「ほっくん、うーのおしめおねがいー!」
「待て、太天光(たいてんこう)の風呂がまだだ! 宇天光(うてんこう)の分まで面倒は無理だー!」
「大丈夫、ほっくんならうーとたーの面倒見れるからー!」
「無理だといっておろうに! ええいこら暴れるな太天光! 夜天光! お前がなんとかしろ!」
「む〜! じゃあいっぱいいっぱい愛してね(はぁと)! やーはほっくんの愛があればいくらでも頑張れるから!」
「む、むぅ……」

やけににぎやかになっていた北辰一家であった。



って、いいのか、おい!?




あとがき

ども、「やーちゃん祭り」参加者の喜竹夏道です。
誕生日記念と言う事で出してみました。……某有名人や私などの。

やーちゃんの服装はスレイブの一部なんだから千切れて裸体になっていくのはおかしいんじゃ? と言う突っ込みもあると思いますが、そこんところはこう、外 装をパージして内部機構がむき出しになった状態とか、北辰の妄想力が生んだ奇跡とかそんな風に考えてください。
あとやーちゃんと北辰の子供については、子供もスレイブと言う事で人ではないってことにしてます。
スレイブを同時に複数呼び出したようなものと考えてください。それが嫁さんや子供の姿をして自律行動をとっているということで。だから北辰が死ぬと、やー ちゃん以下うーもたーも消えてなくなります。
やーちゃんのハッピーエンドが肝なので北辰にはボケ担当になってもらいました。
エアルじゃないのにスレイブが増えると言う事は……、まあご都合主義と言う事で。
子供たちの名前については、某超能力者ネタです。
一応ルリとアキトもハッピーエンド?っぽくしてみました。

さて、いい加減『逆行のミナト』シリーズや『ナデシコ童話』シリーズを進めなくては……。
新しいシリーズも書けないし(二〇〇七年十月二十三日現在でアイデアだけなら十八禁含めて五十作以上……。体がもたん……)
では、次作で会いましょう。





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