機動戦艦ナデシコ 逆行のミナト

第七話 いつか歌う『愛の詩』 -中編-



サツキミドリを出航して二ヶ月ほど経ち、火星が目前になったナデシコ。
この頃からめっきり手を出してこなくなった木星蜥蜴たちに、嵐の前の静けさを感じさせていた……。
そんなある日━━━━
艦長はいつものようにヤマダの部屋に遊びに行っていた。
「ヤマダさんは私の王子様なんだから、私の事が大好きなんだよね!」
「だから俺の名前はダイゴウジ・ガイだって!」<サイズ変更+1>
ゲキガンガーを見ていたヤマダにそう言ってにじり寄る艦長と逃げるヤマダ。
「大丈夫! そんな細かい事気にしないから!」
「俺が気にしてるんだ!」
ヤマダににじり寄る艦長の前に突然コミュニケのウィンドウが開く。
「ほえ?」
『艦長、反乱です!』
「へ?」
一瞬メグミの言葉が理解できない艦長。
『乗員の一部が反乱を起こしました!』
メグミの映っているコミュニケウィンドウにウリバタケのどアップが映る。
『責任者出てこーい!!』


同時刻、格納庫━━━━
『断固反対!』の文字がエステに貼り付けられ、ハンドマイクをもった整備員が叫んでいた。
「我々はぁぁ! 断固ぉぉ! ネルガルのぉぉ! 悪辣さにぃぃ! ……」<サイズ変更+1>

同時刻、食堂━━━━
「私たちも抗議に行きましょう!」
「「「「おー!」」」」<サイズ変更+1>
ホウメイガールズが気勢を上げていた。


「メグちゃんごめんねぇ〜」
銃を構えたヒカルがメグミに笑顔で詫びる。
「あは、あははは……」
乾いた笑いを浮かべる事しか出来ないメグミ。
ルリは比較的冷静を保っている。
そこへ寝起きのミナトとアキト、艦長と艦長を引っ張ってきたジュンと艦長に引っ張られてきたヤマダが現れた。
「も〜ヤマダさんとお話ししてたのに〜! プンプン!」
「どうしたのよ皆〜?」
むくれている艦長とあくびをしているミナトの台詞に気が立っているクルーが怒鳴る。
「どうしたもこうしたもあるか!!」
ブリッジ下部のブリーフィングエリアで対峙するブリッジクルーと反乱を起こしたクルーたち。
「この艦やネルガルに色々な特典や福利厚生がある事は判った。葬式なども希望を出来るだけ叶えてくれる事も判った。しかし俺たちには知らされていない事が あった」
「だからその辺は契約書に書いて……」
「今時契約書をよく読んでサインするヤツがいるか!? どうだ!?」
ウリバタケが艦長の眼前に契約書を突き出す。
「うわ〜、細かい……」
全員が契約時に見ているはずなんだが……。艦長、君はなぜ初めて見たような顔をする?
「そこの一番小さい文字を読んでみな」
リョーコの言葉に契約書を手に取って音読する艦長。
「なになに……『社員間の男女交際は禁止いたしませんが風紀維持のためお互いの接触は手を繋ぐ以上の事は禁止』。……何これ?」
「読んでの通り」
艦長の疑問に一言で返すリョーコ。
「うちの若いのが、女の子に声をかけたらこれを盾に断られたって言われてな」
いや、別に契約書の事が無くてもそいつはフラれる運命だったんじゃあ?
「な、解ったろう? お手手繋いで、ってここはナデシコ保育園か!? いい若いもんがお手手繋いで、で済むわきゃ、なかろうが……」
ウリバタケの台詞の後半で声が小さくなっているのは、リョーコとヒカルの手を握ったウリバタケに『調子に乗るな!』とばかりに二人が肘打ちしたからである (笑)。
「俺はまだ若い……」
「若いか?」
腹を押さえて呻くように言うウリバタケに突っ込むアキト。
「若いの! 若い二人が見つめ合い。あ、見つめ合ったら」
「唇が」
立ち直ったウリバタケの台詞に合いの手を入れるヒカル。
「若い二人の純情は、純なるが故に不純」
熱を帯びたこの一言の直後、ウリバタケから一歩身を引くクルーたち。
「せめて抱きたい抱かれたい」
物怖じしないヒカルだけが合いの手を入れている。
「そのエスカレートが困るんですなぁ」
一段上の艦長席をライトアップして現れたのはプロスペクターとゴート・ホーリー。
「貴様ぁぁぁぁぁっ!!」
「やがて二人が結婚すれば……、お金、掛かりますよねぇ?」
そう言って一段高いところで親指と人差し指で輪を作るプロス。
「さらに子供でも生まれたら大変です。ナデシコは保育園ではありませんので、ハイ」
「黙れ黙れ! いいか!? 宇宙は広い! 恋愛は自由だ! それをお手手繋いで、だとぅ……。それじゃ女房の尻の下の方がマシだぁぁぁぁぁぁぁっ!」
ウリバタケ、魂の絶叫。つーかアンタ妻子持ちだろ?
「とはいえ、サインした以上は……」
「うるせぇぇぇぇっ!」
プロスの言葉を遮るウリバタケの咆哮。
「これが見えねぇか!?」
スパナを構えるウリバタケと銃を構える他のクルーたち。
スパナを銃の様に構えてもどうなるとは思えないんだが……。
「この契約書も見てください」
そう言って契約書を掲げるプロス。
「こんな細かいとこまで見て契約するヤツなんかいるか! そうだろう、みんな!?」
皆に同意を求めるウリバタケ。
「「「「「「「「「「そうだそうだ!」」」」」」」」」」
艦長とブリッジになだれ込んできた他のクルーも同意する。しかし……。
「私は見たわよ〜」
「私も見ました」
「俺もミナトさんが教えてくれたんで……」
「「「「「「「「「「なにぃぃぃぃぃっ!?」」」」」」」」」」
ミナト・ルリ・アキトの台詞に驚くウリバタケたち。
「ふっ……、これで皆さんの行動の根拠はなくなりましたね?」
勝ち誇るプロス。
「こっ、この裏切り者がー!」
騒ぐウリバタケと三人を睨む他のクルーたち。
しかし、それに動じずミナトは返した。
「だって私達その項目、契約時に消したもの。それに……」
「「「「「「「「「「それに?」」」」」」」」」」
ミナトの台詞に疑問で返す他のクルーたち。アキトとルリもハテナ顔だ。
「見つからなきゃいいんだし、罰則規定もないもの」
よく確認すれば確かにそんな事は書いていない。禁止されているだけで罰則規定が書いていないのだ。
気づかれたプロスは表情を変えぬまま、冷や汗を流す。
「それに同性同士の恋愛には言及されていないしねぇ〜」
「ど、同性同士って……」
ミナトの台詞にルリがわずかに後ずさる。
しかしそれを安心させるように微笑むミナト。
「勿論私じゃないわよ〜。でもここに来ている人で何人かはいるんじゃないかな〜?」
ミナトに視線を向けられた瞬間、ピクリとするミカコ。
やっぱりか。
バレンタインの時に『リョーコお姉さま』って言っていたからそうなんじゃないかな〜とは思っていたけど。
「え〜と、一体どうしたら……」
艦長がどう状況を収拾すべきか考え始めたとき……。

ドカァァァァン!

今までに無い強い振動がナデシコを揺るがした!
「「「「「「「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉっ!?」」」」」」」」」」
「「「「「「「「「「きゃあぁぁぁぁぁぁぁっ!?」」」」」」」」」」

揺れるブリッジに、倒れる者、隣の者と支えあう者、座り込む者。
「な、なんだぁ!?」
「木星蜥蜴の攻撃……! 今までに無い強さです! 迎撃が必要です!」
振動を座り込んでやり過ごしたルリが報告する。
「全艦直ちに戦闘配置! ルリちゃん、フィールド出力100%に!」
艦長の指示にルリが報告する。
「火星に近づいたら自動的に強化するようにしておきました! 大丈夫です!」
「さっすがルリちゃん!」
誉められたルリは頬を赤くして訂正する。
「いえ、指示してくれたのはミナトさんです。『散発的な攻撃が来なくなったら、その分の戦力を束ねてくるかもしれないからフィールド強化しておいて』っ て」
「そっか! ミナトさんナイス!」
その言葉にサムズアップして答えるミナト。
そして艦長はブリッジにいる反乱メンバーに指示をする。
「皆さん! 契約書の件については今ここで議論している暇はありません! 今は迎撃を優先します! でないと……付き合 う前に死んじゃいます! 私だってヤマダさんといい事したいです!!」
艦長の魂の叫びに反応したクルーたちはすぐさま己の部署に向けて走る。
「とりあえず話は後だ! 今は出撃するぞ!」
「判った!」
「リョウ君カイ君天気予報……。リョウ、カイ……。了解……」
三人娘はシューターから格納庫へ。
「ガイ! 俺たちも行くぞ!」
「おおよ!」
アキトとヤマダもシューターへ。
「野郎共! 出撃準備だ! 三十秒で用意しろ! 俺もすぐ行く!」
『了解!』
格納庫に檄を飛ばすウリバタケ。
それぞれが自分の行うべき事を行い、直ちにナデシコを戦闘状態に持っていく。
日ごろの訓練が実を結んだ瞬間だった。
しかし……。
「俺のエステだけ何でぇぇぇぇぇっ!?」
アキトのエステには『断固反対!』の文字が張られたままだった。
「剥がす時間がねえ! とっとと出ろ!!」
「ど畜生ぅぅぅぅぅぅっ!」
結局そのまま出撃するアキトであった……。
イジメか?

「でもミナトさん。フィールドの事はありがたいんですけど、なんで相談してくれなかったんですか?」
「何度も相談したわよ〜。ただ艦長が訓練以外ではヤマダ君追っかけてばっかで話を聞いてくれなかったんだけど……」
「え? あー……。あはははははは……」
思い当たる事があるらしく笑ってごまかそうとする艦長。
「だから一応プロスさんに話して許可は貰ってそうしたの」
無視したわけじゃないことをきちんと伝えたミナト。
「ごめんなさい」
「よろしい」
素直に謝る艦長をミナトは笑って許した。



有象無象のように現れるバッタやジョロたち。
そこに向かっていくエステバリスたち。
『うわ〜、すっげー数……』
『なんだ、怖気づいたのかアキト?』
コミュニケから漏れる会話を聞きながら唇を舐めるリョーコ。
右手のIFSが輝きを増す。
「なめるなよ〜」
リョーコの言葉と共にエステバリスのカメラアイが光る。
「行っくぜぇぇぇぇぇぇぇぇ!」<サイズ変更+1>
ナックルガードを装備して殴りかかるリョーコ機。
その勢いはヤマダの『ゲキガンフレアー』に勝るとも劣らない(笑)
吹っ飛ぶバッタ。
「ヒカル!」
リョーコは自分の機体に敵をひきつけて加速することで囮となって相方を呼ぶ。
『はいは〜い』
リョーコに引き寄せられた敵をライフルの斉射でまとめて撃破する。
その様はまるで暗闇に咲く無数の花のようであった。
『ほ〜ら、お花畑〜!』
「あははははははは!」
『ははははは……』
笑いあう二人に混じるイズミの声に黙ってしまうヒカルとリョーコ。
『……ふざけていると……棺桶行きだよ……』
ディストーションフィールドを展開して敵に突っ込むイズミ機とそれに続くリョーコ・ヒカル機。
「何だよ、いきなり!」
『ホント、ハードボイルドぶりっ子なんだから……』
三機でディストーションフィールドを張っての敵中突破で撃破していくイズミたち。
『甲板一枚下は真空の地獄……。心を持たぬ機械の虫どもを屠る時、我が心は興奮の中……、何故か……』
さらにバレルロールで加速し、多数のバッタを屠るイズミ機。
『冷めたもの……。悪いわね、勝負なの』
「あああ〜っ! 変なヤツぅ〜っ! 変なヤツ、変なヤツ!」
普段の変な駄洒落を言うイズミからは想像も付かないシリアスぶりにリョーコは怖気と共に『変なヤツ』を連呼していた。

「なんだよ、なんだよ! あいつら楽しそうじゃんかよ!」
三人娘の敵中突破について来ただけのアキトは未だに一機も落とせず苛立っていた。
……まあ、未だに張り付いている『断固反対!』の文字もその一因であろうが……。
『落ち着けアキト! 向こうのほうがお前よりもずっと腕がいいんだから仕方ないだろうがよ!』
そう言うヤマダも敵中突破時に『ゲキガンフレアァァァァァァッ!』と叫んでバッタを落としていた。
アキトだけスコア0のままである。
「ん!?」
後方にいたアキトはバッタたちの向こうに何かの光を見つけ、とっさにスラスターを噴かす。
その直後、アキトの居た場所を木星蜥蜴の戦艦の砲撃が駆け抜けていった。


「きゃあっ!」
敵艦の砲撃はナデシコのフィールドに阻まれたが、やはり視覚的に怖いらしいメグミが小さく叫ぶ。
「フィールド正常に作動中。船体への被害はありません」
「グラビティブラスト広域放射の射程までは!?」
「あと五千です! 収束放射なら届きますけど、あれだけの数を落とすには……っ!」
ルリの報告に艦長が決断する。
「判りました! ミナトさん! 広域放射の射程までなんとしても近づいてください!」
「おっけ〜!!」
「ジュン君! エステバリス隊へナデシコがあと五千接近できるように指示お願い!」
「判った!」
すばやく行動するクルーたちに、プロスは満足顔だった。
(これで契約書の件も有耶無耶に出来ますね……)
おい!

何とかして前へ出ようとするが敵艦隊の砲撃に押し戻されてしまうナデシコ。
「くそっ! なんて砲撃の厚さだ!?」
ジュンが珍しく苛立ったように悪態をつく。
「か、艦長! エステバリス隊を回収したまえ!」
「必要ありませんわ。ヤマダさんファイト!」
提督の言葉をキッパリ断る艦長。
「え、し、しかし!」
「敵はグラビティブラストを備えた戦艦である、と仰りたいのですねぇ?」
うろたえる提督の後ろから声をかけるプロス。
「大丈夫。その為の相転移エンジン、その為のディストーションフィールド、そしてグラビティブラスト……。あの時の戦いとは違いますぞ。お気楽にお気楽 に」
プロスの言葉に、あの時の無力感をまた感じてしまったフクベ提督であった……。

しかし、次々に射ち込まれる敵の砲撃。
そのあまりの砲撃の多さにキレたミナトはとうとうルリに指示を出す。
「ルリルリ! グラビティブラスト収束放射準備! ナデシコで敵戦艦をたたっ斬るわよ!」
「ミナトさん、何を!?」
「いいから! ジュン君! エステバリス隊の位置は!?」
ルリの質問を押さえ込んでジュンに尋ねる。
「え、ああ! 十時の方向、上側に集まってる!」
「了解! グラビティブラスト、発射タイミング教えて!」
場所を確認してルリに指示を出すミナト。その余りの気迫に艦長たちも逆らえない。
「は、はい! オモイカネ!」
<発射タイミング、モニターに出します>
そう言ってモニターに昔の映画のカウントダウンのようなものを出すオモイカネ。
……3……2……1……。
「ナデシコ、緊急回頭!」
その瞬間、グラビティブラストが刃物のように流れ、ナデシコから見て中央から右側の敵艦隊が爆発していく。
グラビティブラストを収束放射した瞬間、ナデシコを回頭させグラビティブラストで敵戦艦をまとめて斬ったのだ。
「右翼敵戦艦群、今ので三割が撃沈」
「うわ〜」
「すっご〜い……」
ルリの報告に感嘆の声を上げる艦長とメグミ。
「なんという無茶を……」
顔を青くするプロス。
「うむ、見事だ」
いつの間にかブリッジに上がってきてミナトを称えるフクベと無言で同意するゴート。
「ミナトさん……、今のは……?」
ジュンが何が起こったのかをミナトに尋ねる。
「ふっ……。名づけて『グラビティブレード』! でもなければ『超重斬』にしましょうか?」
「とりあえず『グラビティブレード』でいいです……」
艦長の呟きを聞いたみんなが頷いていたのは当然かもしれない。
「圧倒的多数の戦艦を相手にする時用に練習しておいたのよ。ね、オモイカネ?」
<はい。しかしここまで上手くいくとは……>
知っていたオモイカネも驚くその威力。しかし……。
「すごいです! これならもう一回やれば……」
「無理よ〜。だって細かい照準つけられないもの〜。アキト君たちのいる場所に射ち込む気〜?」
「あう……」
この技はナデシコが一番前にいるとき以外使えないのと精密射撃が不可能な点が難点だった……。


「すっげ〜な、ナデシコって……」
『あんな技あったんだ〜』
『凄まじいの一言ね……』
『こっちだって負けてられるか! ゲキガンフレアァァァァァァァッ!』


「うわおぉぉおぉあぉあぁぁっ!?」
先ほど上手い事敵戦艦からの砲撃を避けたアキトだったが、その後の制御が上手くいかず戦域を離脱してしまっていた(笑)。
「慣性ってのは全くもうぅぅぅぅっ!」
スラスターを小刻みに吹かし、何とか立て直すアキト。
「ふう……やっと止まった……。皆は!?」
ようやく落ち着いて辺りを見渡すと、エステバリス隊は敵戦艦に取りつこうとしているのが見えたのだった。
「あっちか!」
自分のエステを加速させるアキトだった。


「アレが頭だな! 行くぜ!」
一隻だけいたヤンマ級の戦艦に向かって加速するリョーコ・ヒカル・イズミ・ヤマダのエステバリス。
しかし、そこにルリからの通信が入る。
『敵戦艦フィールド増大』
「何!?」
そして接近するも弾かれる四機のエステバリス。
「ちっ! 奴らのフィールドか!」
『死神が見えてきたわね』
「『見えん見えん!』」
イズミの発言に突っ込むリョーコとヒカル。
『そういやアキトは?』
ヤマダの声に初めて気づく三人。
「そういえば……」
『さっきから見てないね』
アキトの姿を、敵戦艦の砲撃で散開した辺りから見ていない事に気づいて周囲を確認する。
『死神に連れて行かれたかしら?』
「お前な!」
イズミの不吉すぎる発言に突っ込むリョーコ。
『うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!』
そこにアキトの声が通信で入ってきた。
「無事か!?」
落とされていない事に喜ぶリョーコ。しかし……。
『うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!』
「うわっ!?」
『おわっ!?』
『きゃあ!?』
『あら』
四人の真ん中を突き抜けてヤンマ級に突っ込んでいくアキトであった……。

加速していたアキトのエステバリスは敵のフィールドに阻まれ減速する。
「くそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
それでもなお前進し……戦艦の装甲に触れた時点で押し戻された。
「どはあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!? うわっ、たっ、たっ、とぉぉっ!」
きりきり舞いするエステを立て直すアキト。今回は短時間で出来たようだ……。
「くそう……、敵のフィールドか……」
今気づいたように呟くアキト。
君はルリからの通信を聞いていなかったのか!?
『危ねーだろぉ! このタコ!』
「ご、ゴメン!」
リョーコの剣幕に思わず謝るアキト。
『かっこいいけど間抜けな特攻でしたね〜!」
「へ?」
ある意味一番冷静な発言をヒカルから受け、きょとんとするアキト。
『死に水は取ってあげるわ』
「はぁ……」
『イズミぃーっ!』
イズミの不穏な発言にどう答えていいか判らないアキトと、怒るリョーコ。
『よくやったぞアキト! あれこそ男の戦いだ!』
「あ、ありがと……」
無意味に感動する熱血馬鹿もいた。
『それよりどうするの〜? このままじゃあ……』
「『『『う〜ん……』』』」
ヒカルの言葉に考え込む四人。
「そうだ!」
アキトが叫んで戦艦に向かって加速した。
その手にはイミディエットナイフが握って。
『おい、テンカワ! 無茶だ!』
『本当に特攻!?』
「違うよ!」
力強く宣言したアキトがさらに加速する。
「入射角さえ間違わなけりゃぁぁぁぁぁっ!」
ディストーションフィールドの上からイミディエットナイフで戦艦の装甲を切り裂くアキト機。
しかしやっぱりフィールドに弾き飛ばされる。
『何やってんだ、テンカワ!』
「まだまだぁ!」
そう言って突っ込んでいくアキト機。
「ゲキガンシュゥゥゥゥゥゥゥゥトォォォォォォォォォッ!」<サイズ変更+1>
そして敵戦艦の装甲のナイフ傷に向かって拳を射ち込む!
しかし、凹みはするものの一撃で撃沈とはならなかった。
『そういうことか! テンカワ、加勢するぜ!』
『それこそ男の戦いだぁぁぁぁっ! ゲキガンフレアぁぁぁぁぁぁっ!』
しかしその意図を真っ先に理解した漢が二人(笑)。
二人でフィールドを押しつぶしながら敵戦艦の装甲をボコった。
その勢いでアキトの付けた傷口から大きく凹む戦艦の装甲。
『そーいうこと〜!』
『やってみますか……』
今度は四人が正方形にフィールドを凹ます。
そして……。
『今だ! テンカワ!』
叫んだリョーコの言葉を合図に、四機で作った正方形の中心に飛び込むアキト機。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」<サイズ変更+2>
先ほどより遥かに加速して、かつ速度を殺されずに戦艦に拳を叩きつけるアキト機。
フィールドをまとわりつかせたまま機体の半分以上を戦艦にめり込ませたアキトを他の四機が掴んで離脱する。
その数秒後、破損箇所から火の手が上がり、数十秒で爆発してしまったのだった。
『やったぜ、アキト!』
『やるじゃねぇかテンカワ!』
漢二人(笑)から賛辞をもらうアキト。
『……ってちょっとすごくない?』
「へ?」
ヒカルの言葉に全員が見ると、ヤンマの爆発に巻き込まれて周囲のカトンボ級の戦艦が次々と誘爆していくのだった……。
『うお〜』
『すごいわね……。死神が焼き尽くされてく……』
『……だからそういう言い方はよせ!』
呆れるヤマダとやはり物騒なイズミに突っ込むリョーコだった……。



「前方の敵艦隊八十パーセント消滅。降下軌道取れます」
「降下する前に送り狼されないように敵を殲滅します。ルリちゃん、グラビティブラスト広域放射の準備! メグミさん、エステバリス隊に帰艦命令を!」
「はい。……エネルギーチャージできました。敵も全て射程圏内に入っています。いつでもいけます」
「了解です。エステバリス隊直ちに帰艦してください。繰り返します。エステバリス隊直ちに帰艦してください」
そして数分後、ナデシコの前まで帰ってきたエステバリスが全機着艦していく。
「エステバリス、全機帰還しました」
「敵艦隊、ならびに無人兵器群すべて射程圏内です」
メグミとルリから報告が上がる。
「了解です。ルリちゃん、グラビティブラスト発射!」
「発射」
その一言と共に前方の木星蜥蜴の戦艦群と無人兵器群は消滅していった。
「敵、完全に消滅しました」
ルリの言葉に頷くと、ミナトに顔を向ける艦長。
「ではミナトさん。ナデシコの主砲を火星地表の敵艦隊に向けてください」
「どうする気〜?」
「地表に第二陣がいるはずです。軌道上でグラビティブラストを連射して殲滅を確認後に降下します。地上じゃ連射なんて出来ないし、少しでも安全になるよう にすべきですから」
艦長が言い出さなかったら自分が言おうと思っていたミナトは微笑んで操艦を開始する。
「オッケ〜。じゃあいくわよ〜!」
火星に向かって角度を取っていくナデシコ。

しかし、そのナデシコの格納庫では……。


時間をちょっとだけ戻す。
帰還してきたアキトたちがエステを整備班に預けて格納庫備え付けの自販機に向かっていく。
アキトがカードを入れようとした時、先にリョーコがカードを入れる。
「え?」
割り込まれたかと驚くアキト。しかしそのカードの主、リョーコは笑って、
「奢るよ」
「え?」
想いもよらぬ言葉に驚くアキト。
訓練のときは、『ちゃんとやれ!』だの『周りを良く見ろ!』などと怒鳴られた事しかなかったので驚いてしまったのだ。
そんなアキトにさらにヒカルが声をかける。
「ほーんとびっくりしちゃった。こーんな感じ?」
「うおわっ!?」
上げた顔から飛び出す目玉……、パーティー用のドッキリグッズである(笑)。アキトは相当驚いたらしいが……ヒカルちゃん、君は一体それをどこに持ってい たんだ?
「なかなかやるな、ってこと」
「あ……」
リョーコに肩を抱かれたアキトはその手から香る香気で彼女が女性である事を再認識する。
「貰って……」
彼女たちプロに認められた事が嬉しくなったアキトは驚き、そして微笑み……、
「ありがとう……」
と言った。
この笑顔を間近で見たリョーコは、
(へぇ……。いい顔で笑うじゃん、コイツ)
なんて思っていたりする。
無意識の女誑しが発動した瞬間だった……(笑)。
「まっ、俺ほどじゃないがな! だがコイツは熱血をわかるヤツだ! コイツを見くびると大変な事になるぜぇ!」
いい雰囲気をぶち壊すように、空気を読まないヤマダがアキトの肩を後ろから抱き自分の事のように自慢するヤマダ。
「そうなのか?」
半信半疑なリョーコの表情に、胸を張って答えるヤマダ。
「うむ! コイツはナデシコが地球でチューリップに襲われた時に初めて乗ったエステで俺と一緒にチューリップにダメージを与えたのだ! 俺とのダブルゲキ ガンフレアーでな!」
「初めてで?」
「へ〜。すっごーい」
「人は見かけによらないっていうのは本当のようね……」
ヤマダの言葉にアキトの顔を見て、三人とも感心していた。
「あ、ありがとう……」
三人娘の感心した表情がアキトには照れくさく、そして心地よかった……。

「おっと」
リョーコがよろめいてアキトにもたれかかる。
「す、すまない……」
「い、いや。別に……」
赤くなるリョーコと戸惑うアキトに、「キュピーン!」と目を光らせたヒカルとイズミが声をかける。
「あれあれ〜。リョーコちゃ〜ん、顔赤いよ〜。どうしたのかな〜?」
「もしかしてアキト君に大・接・近〜?」
ヒカルとイズミの言葉に真っ赤になって否定するリョーコ。
「ば、馬鹿! ちげーよ! なんかバランスが崩れて……」
「またまた〜。そんな嘘言わなくても……って、あれ? なんか傾いてない?」
「壁と床が入れ替わっているような……」
言いかけて気づいたヒカルとイズミ。アキトも気づき不思議がる。
「ホントだ……。でも何で……。うわっ!?」
角度が四十五度を越え、立っているのが難しくなり、慌てて近くの手すりを掴むアキト。
「な、なんだぁ!?」
落ちてはたまらない、と手近なものに掴まる格納庫の面々。
しかし間に合わなかった連中が転がっていくのが見える。
「まさか……火星の重力か!? 格納庫は作業用に重力制御を甘くしてあるから、火星の重力に引かれて火星側に落ちているのか!?」
ようやく事態に気づいたアキト。
「ユリカぁぁぁぁぁっ! ちゃんと重力制御しろぉぉぉぉぉぉぉっ! ぐえっ!」
「うわわっ! 落ちる落ちる!」
「お助け〜!」
「流石に、ちょっと、やばいかも……」
「ぐほあっ!」
「「「「「「なんでテメェだけそうなんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」」」」」」<サイズ変更+1>
格納庫には手すりにつかまるアキトにしがみつく三人娘と、それを羨みながら落ちていくウリバタケ以下整備班の姿があった。
ちなみにヤマダは落ちてきた工具箱に頭を直撃され、羨む間もなく昏倒していたのだった……。




あとがき


喜竹夏道です。
ようやくドムキャノン入手しました。
その記念作品です(笑)。でも高機動ゲルググは支給期間に昇格が間に合いそうにない……。

TV時とは違うヤンマの落とし方になりましたが、ご容赦の程を。
いくらなんでも普通に考えて、戦艦が拳一個で落ちるとは思えなかったのでこういう演出にしました。
これでチームワークも倍増(笑)。
『漢が二人(笑)』……。いや戦いに関してはリョーコちゃんも『魂が漢』だと思うんで。戦いに関してだけ、ですよ?
その後のジュースの一件でアキトも女性を感じているわけですし。
ただ、この話では割愛しましたがリョーコちゃんはバレンタインではアキトより多くチョコを貰ったりしています(笑)。

一応ストーリーは出来ているのですが最終話までは長そうです。
よろしくお付き合いいただけたらと思います。






押して頂けると作者の励みになりますm(__)m

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