機動戦艦ナデシコ 逆行のミナト

第九話 奇跡の交渉『愛撫か?』 -その弐-




「博士〜!」
コスモスに係留中のナデシコ格納庫に必要以上に元気な声が木霊した。
その声の主はヤマダである。
小脇にスケッチブックを抱えてウリバタケの元へ走ってきた。
「博士〜!」
「誰が博士だ!? 何度言ったら判るんだよ、お前は!? 『博士』ってぇのはイネスさんみたいな人の事を言うんだ!」
もっともである(笑)。
「いや、そんな細かいことはどうでもいい! ちょっと頼みがあってな!」
「頼み〜?」
嫌そうな顔で聞き返すウリバタケに、その『頼み』を言うヤマダ。
「おお! 実は俺のエステのカラーを変えて欲しいんだ!」
「はぁ? 何で?」
「ほら、新入りのエステが青じゃないか! これじゃ色がかぶっちまう! そこでこんな風に変えて欲しいんだ!」
ヤマダの見せたスケッチブックにはヘタクソな絵にゲキガンガーっぽいカラーリングがなされていた。
「ヘタクソな絵だな〜」
「絵はどうでもいい! 俺の愛するゲキガンガーのカラーにして欲しいんだ! 出来るか!?」
「出来るかって言われりゃ出来るがよ……。……恥ずかしくないのか?」
「いいじゃねぇか! 好きなんだから! 出来るなら頼むぜ!」
「ああ、判った判った。判ったからさっさと行けよ。やっとくから」
「おお! 頼むぜ博士!!」
そう言って格納庫から駆け出すヤマダ。
「だから博士じゃねぇって言ってんだろうが!」
しかしウリバタケの言葉を聞くようなヤマダではなかったのだった……。


所変わって、ここはヤマダの部屋━━━━
扉が開いてヤマダが入ってくる。
中ではアキトがゲキガンガーを見ていた。
「あ、お帰り、ガイ。どうだって?」
「おう、やってくれるってさ。くぅ〜っ! これで俺のゲキガンガーが真のゲキガンガーに近づいていくぜ! ありがとな、アキト。お前に言われなかったら思いつかなかったぜ!」
座り込むヤマダが、いつものように『燃える!』と言っているときのようにタメを作っていた。

この二人、何を話しているのかと言うと、先程までいつものごとく『ゲキガンガー3鑑賞会』をしていたのだが、その際にヤマダの機体の色がアカツキの機体の色とカブることをアキトが示唆した。
どうしようかと悩んだ挙句、アキトが『好きな色に塗り替えてもらえば?』と言ったのであった。
当初は何色にするか悩んでいたヤマダだったが、その時見ていたゲキガンガーから『そうだよ! ゲキガンガーのカラーにすればいいんじゃねぇか!!』と、いきなりスケッチブックを取り出し、ヘタクソな絵を描き付けて色鉛筆で色を塗り、ウリバタケに頼みに行っていたのだった。

「いや、しかしナデシコの機体は俺の青に赤・オレンジ・緑、それにお前のピンクだったからなぁ。ちょうど戦隊モノのようだったんだが」
「一応俺はコックだからな、誤解の無い様言っておくが。軍人……戦闘要員じゃないんだ。これで正規のパイロットは五人になったんだし、それで戦隊モノにすればいいじゃん」
あれだけ戦場に出てても『自分はコック』を崩さないアキト。
ある意味頑固である。
「くっくっく……」
「「えっ? ……ああっ!?」」
突然聞こえた笑い声に二人が振り向くとそこにはアカツキが立っていた。
「いや、失敬。ドアが開いてたんでね」
都合の良い言い訳をするアカツキ。マスターキークラスの権限が無いと開かないはずなんだが……。バレないと思っているのか?
「アンタ!?」
「お前は!?」
驚いた二人は声を合わせて問う!
「「誰だっけ?」」
ゴン!!
二人のセリフに頭を壁にぶつけるアカツキであった。



『ゲキガンガー、発進じゃあーい!』
『ま、まさかケンたちがゲキガンガーのパイロットぉぉぉっ!?』
画面の中ではアカラ王子が事実を知って驚いていた。



「くくく……」
「笑うくらいなら見るなよ!!」
ヤマダがアカツキに食って掛かる。
アキトもアカツキに対して不機嫌そうだった。
「判らないなぁ……」
「判らないなら出て行けばいいだろうが! 俺たちのゲキガンガー鑑賞会を邪魔するんじゃねぇ!」
そのヤマダの言葉を無視してアキトに問うアカツキ。
「そういうアニメが好きなら、なおさらナデシコが軍に入るのは歓迎すべきじゃないのか?」
その言葉はアキトに向けた挑発のようだった。
「アンタはどうなんだ!?」
「僕はただ、戦うことが好きなだけさ」
そう言って皮肉気に笑うアカツキ。
「君は感じているんじゃないのか? イメージ・フィードバック・システムの影響で闘争本能に火がつく事を」
そこへルリがやってくる。
手に持った包みとポットは『アキト君を元気付けてきなさい』とミナトが渡してくれたお菓子とホウメイが用意した紅茶である。
しかし、アキトにはルリに気づく余裕は無い。
「戦争だからって……。戦争だからって戦争するのが嫌なんだ! 戦い以外に生きがいや仕事があっちゃいけないっスか!?」<サイズ変更+1>
アキトはアカツキに噛み付いていた。
「……怖いんだろう? 正直に言えよ」
「……喧嘩、売ってんスか?」
アキトとアカツキが睨みあう。
ヤマダはすでに置き去りだった。
「アキトさん!!」
険悪なところに割って入るルリに、興が冷めたのか、背を向けるアカツキ。
「同じチームの一員だ、喧嘩なんてしないよ……。せいぜいスポーツさ」



「ま、平和的にいこうよ。無重力バスケとかさぁ」
「いいぜ」
そう言って無重力バスケを始める二人。
ルリとヤマダの二人が見守る中、それぞれが自分のコートに分かれる。
「じゃあ、僕から行くよ!、って、え?」
スタートして僅か一秒でアキトにボールを取られるアカツキ。
そのあっけにとられた顔のアカツキを置き捨ててアキトがシュートを決める。
「うそぉ……」
アキトがここまでやるとは思っていなかったアカツキ。
実はこれもプロスの特訓によるものだったりする。
ミナトに『宇宙に出すんだったら無重力に慣れさせておいた方がいいんじゃない?』と言われたことが元で特訓させられたのだった(笑)。
「まだやりますか?」
不敵に笑うアキトに引きつった笑いを見せるアカツキ。
ただの甲斐性なしの草食獣と思っていたアキトが、実は結構大き目の牙を持った雑食獣であることに気づいたのだった。
「も、勿論さ! 今度はこっちからだね!」
ボールを持って試合を再開しようとするアカツキ。
しかし……
『こら! テンカワ! ヤマダ! ロン毛! 何遊んでやがる!! 出撃だぞ!!』
飛び込んできたリョーコの声が三人の男たちを止めるのだった……。



すぐにルリはブリッジへ、アキト達は格納庫へ向かう。

そして格納庫には……、必要以上に五月蝿い絶叫が響き渡っていた。
「うおおおおおおおおっ!!」
叫ぶヤマダの目の前にはゲキガンカラーになったエステバリスがいた。
「うるせーな。ちゃんとやってあるだろうが。これでいいんだろ?」
呆れた表情のウリバタケの言葉に全力で頷くヤマダ。
「ありがとう! ありがとう、博士!! これで俺のゲキガンガーも完璧だぜ!」
ウリバタケの両手を握り、あまりの喜びに滝のような涙を流すヤマダ。
……しかし、仕事が早いぞウリバタケ。さすがはマッドエンジニアだ(笑)。
『遊んでんじゃねぇ!! さっさと出撃しろ!!』
リョーコの叫びがエステバリスから響くのだった……。

『スバル・リョーコ、出るぜ!!』
そう言ってカタパルトから射出されるリョーコのエステ。
『先行くよ〜!』
『お先に……』
ヒカルとイズミのエステが次々に射出される。
『ダイゴウジ・ガイ! ゲキガンガー出るぜ!!!』
いつも以上に気合の入っているヤマダ。
……ちなみにその声量で意識が半分飛んだメグミが、ヤマダのエステに『黒板を爪で引っかく音』を大音量で流していたりしたが、本編とは特に関係が無いので割愛する。……何処で用意した、そんな音。
『先に行かせて貰うよ、テンカワ君?』
「とっとと行けよ! 出れないだろ!」
『はいはい……』
そしてアカツキとアキトのエステが戦火煌く宇宙へ飛び出していった……。



宇宙空間に煌く爆発。
『ふっ。俺のゲキガンガーに敵うと思うか、キョアック星人ども!』
気炎を上げるゲキガンカラーのヤマダ機の周りには残骸となったバッタたちが漂っている。
まだ近接戦寄りの戦闘スタイルではあるがライフルなどを効果的に使い出した結果、いきなりスコアが伸びだしたのだった。
「あんまり近づくなよ! 攻撃しづれぇだろうが!」
前衛二人は突撃系であるために意外と近くで戦闘していた。
殆ど背中合わせの位置である。
慣れているとはいえ、普段より近いためうっとおしく思っているリョーコだった。
『ガイ! リョーコちゃん! 危ない!』
そんな二人にアキトからの警告がコクピットに響く!
「え!?」
『うおっと!』
ヤマダとリョーコが一塊になっているのを見たバッタたちが二人に向かって体当たりを敢行してきた。
ヤマダは間一髪かわす。しかし……。
「うわあぁぁぁぁぁっ!?」
ちょうどヤマダ機がブラインドになっていたリョーコは、ヤマダと違い反応しきれずに弾き飛ばされてしまった。
ヤマダ・ジロウ、『疫病神』の名に恥じない働き振りである……。
『リョーコちゃん!』
『リョーコ!』
『リョーコちゃん!』
『うおおおおおおおっ!? こいつらぁぁぁぁぁぁぁっ!!』
それを見たアキトとイズミ、ヒカルの三人はリョーコの後を追う。
ヤマダはかわしたバッタたちに再び取り付かれて応戦していた。
『リョーコちゃん!? リョーコちゃん!? 応答してくれ!』
アキトの呼びかけに答えないリョーコ。
通信機をやられたか、それとも意識を失ったか。
突き飛ばされた時と同じ姿勢でいるところを見ると後者のようだ。
『くっそ〜、リョーコちゃんから離れなさーい!』
『強化されたフィールドで攻撃が効かない……!』
リョーコ機に群がろうとするバッタを撃墜するヒカルとイズミは確実に撃墜してはいるものの、その為にリョーコ機との距離がどんどん開いていく。
『スバル機、重力波フィールド圏外に弾き飛ばされました』
ルリの通信が無常にも自分たちの活動限界距離を伝えてきた。
『ちぃぃっくしょおぉぉぉぉぉぉぉっ!』
アキトの叫びと共に最後のバッタが撃墜されたが……、すでにその時リョーコ機はエステの活動限界距離を大きく越えてしまっていた……。



「ユリカぁぁぁぁぁぁっ! 今すぐナデシコを発進させろ! リョーコちゃんを助けに行かなきゃ!!」<サイズ変更+2>
「無理だよ、アキト。今のナデシコは殆どオーバーホールの状態だよ。相転移機関だってまともに動いていないんだから!」
「だけど!」
艦長にすぐにリョーコを助けに行くように言うアキト。
アキトの剣幕にタジタジになりながらも行けない理由を言う艦長。
ちなみに一番そういうことを言いそうなヤマダは先程の戦闘で足を骨折し、医務室送りになっていた(笑)。この時代、骨折なんぞ三日程度で治るとはいえよく折る奴……って今回が初めてか、出航時に折ってないから。
そんな二人を尻目にミナトはアカツキに話しかけていた。
「ねぇ、アカツキ君。コスモスにIFSじゃないシャトルとか戦闘機とかってあったけ?」
「ノーマルの? 勿論あるけど……。何する気?」
「ん、ちょっとね。ルリルリ、リョーコちゃんの位置予測できる?」
「はい。あのままだったら現在はこのあたりのポイントを漂流しているはずです」
「おっけ〜」
そう言ってミナトはオモイカネに表示させたポイントを自分のコミュニケにコピーする。
「助けに行く気かい? もっと賢い人かと思っていたんだけどねぇ」
呆れたようなアカツキの言葉に微笑んで返すミナト。
「あら。私は自分の充実感が欲しくてナデシコに来た女よ? じゃあ戦闘機の用意よろしく」
「やれやれ……。ああコスモスブリッジ、聞こえる?」
そんな声を背中に聞いてアキトに近づくミナト。
「さて、アキト君行くわよ〜」
ミナトは艦長に食って掛かっているアキトの襟首を掴んで引っ張る。
「だから! ……ってミナトさんどこへ!?」
「リョーコちゃんを助けるんでしょ?」
「……!? はい!!」
一瞬驚き、そして頷くアキトを確認したミナトはウリバタケを呼び出す。
「ウリピー」
『なんだい、ミナトさんよ?』
コミュニケの向こう側のウリバタケの後ろではリョーコ機のいないハンガーを見て俯いている整備班が見える。
「うん、ちょっと頼みごと。アキト君の0G戦フレームの出撃準備とコスモスのノーマル戦闘機にエステ用のスペアバッテリーを積めるだけ積み込んで欲しいんだけど、出来るかしら?」
『そのっくらい余裕で出来るが……。どうする気だ?』
「うん、アキト君と一緒にリョーコちゃんを迎えに行こうと思って」
『……本気か?』
「ええ」
真剣な表情のミナトを見たウリバタケはすぐに決断する。
『判った。すぐ用意する。
手前ら! リョーコちゃんを助けにミナトさんが出る! コスモスの戦闘機、三十秒で引っ張って来い!!』<サイズ変更+2>
この声を聞いた整備班が俯いた顔から驚いた顔になり、そして真剣な表情になった。
『『『『了解です!!』』』』
続いて別の整備班員に指示をするウリバタケ。
『お前らはアキトのエステの出撃準備だ! ミナトさんやリョーコちゃんの足手まといにならないよう完璧に仕上げとけ!!』<サイズ変更+2>
『『『『判っかりやしたぁ!!』』』』
コミュニケの向こうではウリバタケ以下整備班が帰ってこないリョーコを嘆く事を止めて、いきなりフル稼働し始めたのだった。


すぐに戦闘機とバッテリー、エステの用意が終わり、ミナトは戦闘機に乗り込み、アキトはエステで戦闘機に掴まった。
『燃料は四時間分。危なくなったらすぐに戻っておいで』
アカツキがからかうように声をかける。
「ありがと。行くわよ、アキト君」
『いつでもどうぞ!』
「おっけー。じゃあ、ルリルリ。ちょっと行ってくるからナデシコの事よろしくね」
『はい。任せてください』
『アキトさん、気をつけてくださいね。ミナトさん、発進準備良しです。発進シークエンスそちらに委譲します」
ルリとメグミの言葉を受けてアキトとミナトの表情が引き締まる。
「アイ ハブ コントロール……。さってと……。カウント3……2……1……ゴー!」
戦闘機はナデシコの格納庫から発進した。
闇の向こうにいるはずのリョーコに向かって……。



「さぁてと……どうするかな……」
リョーコは動かなくなったエステの中で漂流していた。
リョーコ自身は途中で意識を取り戻したがバッタたちに襲われて、撃退したもののエステのバッテリーは生命維持用だけに使用しても三十分が限界だった。
「ナデシコの方向に向けて漂流してるけど……。このままの速度じゃたどり着くまで五時間、か……」
どう考えても酸素が間に合わない。
「……そうだ」
何かを思いついたのか、エステを操作するリョーコ。
そして進行方向と反対側にあるパーツである足首がパージされる。
その反動で少し加速するエステ。
「これで加速と軽量化が出来るから……、どうだ?」
しかし、それでも三十分くらいしか縮まらない。
「ええい! ならこれでどうだ!?」
そう言って今度はエステの下腿部が、続けて大腿部がパージされる。
「これで加速は……これでも後三時間半掛かるか! でも確実に短縮されてる。なら!」
今度は左右の手首、前腕部、上腕部、そして肩部が順にパージされる。
「これで……よし、二時間半になった! なら最後!」
最後の腰部のパーツがパージされ、最後の加速を行うリョーコ機。
「これで非常用のソーラーセイルを拡げて…………それでもナデシコ到着まで一時間半……。生命維持装置を最小限にして、スーツの酸素も最大限に使っても伸ばせるのはせいぜい一時間……。間に合わねぇ、か……」
そう呟いてシートに身を沈めた瞬間、リョーコの目に涙がこぼれる。
「あーあ。結局俺は色恋沙汰はなかったな……。ヒカルは男友達結構いるらしいし、イズミは確か婚約者がいるって言ってたっけか…? 艦長はヤマダを追いかけてるし、メグミは結構計算高いようだからそういうの大丈夫そうだよな……。ルリはまだあの年齢だし、ミナトさんは……むしろ男のほうが放っておかないか……」
身近な女性たちの事を考えて一人欝になっていくリョーコ。
「身近なところにいた男って言うと……、テンカワぐらいか……。でもアイツはミナトさんやルリと仲いいようだしな……。テンカワ・アキト……か」
考えてみると身近な男性はアキトとヤマダ、そしてウリバタケくらいしか思いつかないリョーコ。
ジュンやプロス、ゴート、そしてアカツキは忘れ去られていた(笑)。
「そういや、アイツの周りの女って、皆アイツの事を名前で呼ぶよな……」
アキトの周りにいる女性(パイロットやブリッジクルーやホウメイ、ホウメイガールズにイネス)がみんなアキトの事を呼ぶときに名前で呼んでいた事に気づくリョーコ。
名前で呼んでいないのは自分くらいだ。
「俺もアイツのこと名前で呼べば、もう少し変われたかな……?」
シートに顔を埋め、声を殺して泣くリョーコ。
「……寂しいよ……。恐いよ……。アキト……」
恐らくは初めて漏れたリョーコの本音だった……。
『リョーコちゃぁぁぁぁぁん! 何処だぁぁぁぁぁぁっ!? 助けに来たぞぉぉぉぉぉぉぉっ!!』<サイズ変更+2>
そんな瞬間に通信機から聞こえたアキトの声に、ぽかん、とするリョーコ。
「ア…キト……?」
『リョーコちゃぁぁぁぁぁん! 返事をしてくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!』<サイズ変更+2>
幻聴ではないアキトの声。
その声に思わず涙が溢れ━━━━慌ててそれを拭う。
そして生命維持用エネルギー確保のために通常のエネルギーすら止めていたエステにもう一度火を入れるリョーコ。

『アキト君! レーダーに感有り! アキト君から見て十一時の方向!』
もう一度火の入ったエステをレーダーに捕らえたミナトがアキトに教える。
「了解!」
ミナトの指示した方向に向けて加速するアキトのエステ。
そして━━━━そこに機体の殆どのパーツをパージした赤い0G戦フレームが漂流しているのを発見したのだった。
接近しながらリョーコに問いかけるアキト。
『リョーコちゃん! 大丈夫か!? 怪我とかしていない!?』
「アキトぉ……」
アキトの呼びかけに涙ぐみながら答えるリョーコ。
『リョーコちゃん!? 良かった!!』
問いかけに答えが返ってきたアキトはすばやくリョーコ機に接近し、確保する。
『リョーコちゃん!』
自分のエステのハッチを開くアキト。
リョーコ機の開いたハッチからリョーコがアキトの胸の中に飛び込んできた。
「アキトぉ……。
アキト、アキトアキトアキトぉぉぉぉっ!!」
「リョーコちゃん、無事かい!?」
「うん! うん!」
「良かった……。ミナトさん、リョーコちゃんを無事確保!」
『良かった〜。来た甲斐があったわね〜』
「ありがとう……、ありがとう……」
アキトの胸で泣いてしまうリョーコを優しく抱きしめるアキト。そこへミナトから通信が入る。
『リョーコちゃん、心細かったでしょ? たぁっぷりアキト君に甘えてもいいからね〜! だ〜いじょうぶ! 皆には秘密にしておくから。じゃアキト君はリョーコちゃんが落ち着いたらリョーコちゃんのエステをこっちに括りつけてね〜。そしたらナデシコに帰りましょう』
そう言ってにやりと笑ったミナトは通信を切ってしまった。
赤くなったリョーコであったが、スーツ越しに感じるアキトの身体にもう少し一緒にいたいと思ってしまうことを止められなかった……。


十分後、ようやく戦闘機にリョーコのエステ(殆どアサルトピットのみ)を括りつけた三人はナデシコに向かっていった。
アキトのエステにはリョーコが相乗りし、エステを戦闘機に掴まらせて、である。
ナデシコに帰ったアキトのエステからリョーコが降りるのを見たルリの表情が険しかったのは言うまでも無い……。



「本当に有難うな、アキト」
「どういたしまして」
降りてきたリョーコとアキトのこの何気ない挨拶に、『キラーン!』とか『ギロッ!』とか反応した人たちがいたりするが、ここでは割愛する(笑)。
ただ、リョーコに対するヒカルとイズミのからかいの度合いが増し、整備班によるアキトへのイジメが増えた事は伝えておく……。
ちなみにイジメを実行しているのは『テンカワ・アキト呪殺連合』というらしい……。



リョーコを救助した日の夜……。
「アキト君」
「はい?」
「あ、ミナトさん」
ルリと一緒に廊下を歩いていたアキトがミナトから呼び止められ、振り返る。
ミナトはニコニコ笑いながらアキトに話しかける。
「ちょおっとお話があるんだけどいいかな〜?」
むしろ怖くなるような笑顔でアキトに問うミナト。
「いいですけど……一体なんです?」
ちょっとビビリながら問い返すアキト。
「ひ・み・つ♪。二人っきりで話がしたいの(はぁと)」
「ふ、二人っきりって!?」
何を想像したのか、赤くなるアキトを見て、ルリが一歩前に出る。
「ミナトさん私も聞きたいです」
ちょっと怒った表情は誰がどう見てもヤキモチである。
「はいはい。子供はもう寝る時間よ、ルリルリ」
「私、子供じゃありません。少女です」
一歩も引かないルリを説得するミナト。
「よく食べて、よく運動して、よく寝ないとおっきくなれないわよ? 特に背とか胸とか」
そう言われ、ミナトの胸を見て、自分の胸を見て、またミナトの胸を見て……
「……おやすみなさい……」
「よろしい。まあ、ルリルリが心配するようなことは無いわよ。それは安心していいから」
「わ、私が何を心配するって言うんですか!?」
ミナトの言葉に真っ赤になるルリ。
「ルリルリ真っ赤っか。か〜わいい♪」
ミナトにからかわれたルリは顔を赤らめたまま足早に自分の部屋に向かうのだった……。



ルリと別れたミナトたちは、アキトの部屋へ向かう。

アキトの部屋に入ったミナトはまずオモイカネを呼び出した。
「オモイカネ、これから話す事は一切記録を録らないで欲しいの。それとルリルリが部屋の中を覗こうとしたらブロックして欲しいの」
<それは規定に反します>
オモイカネはそう言ってミナトの願いを断ろうとした。
「ルリルリにもいずれ関係する話なの。今のあの子に聞かせたくないのよ……。お願いできる?」
ルリに関係する、と言う言葉で少しの間逡巡し……、了承するオモイカネ。
<……判りました……。『今の』、ということはいずれは……>
「ええ、勿論ルリルリにも話すわ。ただ今はダメなの」
<はい>
そのミナトの言葉に一応納得したらしいオモイカネはウィンドウを消した。
それを確認し、ミナトは机の引き出しの鍵を開け、手紙と小箱を取り出すミナト。
手紙と小箱をアキトの前に並べて、真剣な表情で話し始める。
「アキト君……。この手紙なんだけど……」
「手紙、ですか?」
ミナトが差し出した手紙を見て首をかしげるアキト。
「ええ。貴方のご両親からの、ね」
「え!?」
驚いて手紙とミナトの沈鬱な顔を交互に見るアキト。
「アキト君のご両親の写真の中に隠してあったの。悪いとは思ったんだけど、見せてもらったわ……」
「何が……書いてあったんですか……? ミナトさんがそんな顔するなんてよっぽどのことが……?」
「ええ……。落ち着いて読んで頂戴……」
そう言われ、手紙を読み始めるアキト。
読み進めるにつれて、顔色が悪くなっていく。
「父さんと母さん……テロで死んだんじゃなくて……軍に殺されたわけでもなくて……ネルガルに殺されたっていうのか……?」
「確証は無いけどね……。でも当時の会長に色々言われていたことは確かな様ね。当時の会長はすでに死んでいるし、しばらく前に先代の会長も事故死……。だから今の会長は関係無いでしょうけど……」
「うすうす感付いていたのに……何で逃げなかったんだよ!?」
「きっと……、それでも守りたかったのよ……。アキト君のご両親が発見した、この『ボソンジャンプ』っていう移動法ははっきり言って反則よ。火星−地球間を一瞬で移動することも出来る。燃料費も関係なく、その凄まじいコストパフォーマンスは独占すれば地球と火星を牛耳ることも出来るわ。それを防ぎたかったのよ……。独占しなければ企業努力でどんどん研究も進んでいくでしょう……。でもそれをネルガルは独占しようとしていた……。そしてその為にはその技術を公開しようとしている研究者は邪魔だった……。でも今じゃ証拠が無いからなんとも言えないわ……。軍だってそれに感付いたから以前アキト君が言っていた様に『研究成果をよこせ』って言ってたのかもしれないし……」
未来の記憶には無かった事実。
その事実に打ちのめされるアキトに、ミナトは更なる事実を伝えなければならない。
知らないほうが幸せなのかも知れない。
でも、もし知ってしまった時にどうするのか。それを考える時間は必要だとミナトは判断し、アキトに話しかける。
「それとね、アキト君。もう一つあるのよ」
そう言って小箱からデータメディアを取り出すミナト。
「それは……?」
「ちょっとショックかも知れないけど……、ご両親の告白よ。しっかり聞いてあげて」
「一体何が……」
アキトの言葉に答えず、メディアを備え付けの端末に入れ、起動させるミナト。
そこにはアキトの両親が映っていた。
『アキト……。お前がこの映像を見ていると言うことは私たちはすでに死んでしまっているだろう。だからお前に話しておかなければならない全てを今話す。しっかり聞いていてくれ……』
そうしてメディアの再生が始まった……。


『……これが全てだ……。もしお前が木連の草壁という男に会うことがあったら、お前の親友である煌越寺明孝は火星に生き、火星人として死んだ、と伝えてくれ……。そしてそれを後悔していないと……」
『アキト……。貴方は優しい子だから辛いかもしれないけど……きっとそれを一緒に支えてくれる人が出来るはずよ。だから諦めないで……頑張りなさい……』
そこで映像は終わっていた。
全てを見終わった後、アキトはブラックアウトしたモニターの前で一人、拳を握り締めていた……。
「『木連』……って……百年前に月を追い出されて、火星にたどり着いて……さらに火星から追い出された人たちの作り上げた国家だって言うのか……? 親父がそこの出身だって……?」

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メディアに記録されていたのはアキトの父親が『木連』……すなわち『木星圏ガニメデ・カリスト・エウロパ及び他衛星小惑星国家間反地球共同連合体』の出身者であり、今から四十年ほど前、十五歳のころに調査のため火星に来ていたところ、事故を起こし火星に不時着。落下中に艦から放り出され地表に激突したアキトの父は、当時すでに入植していたテンカワ・アカリ━━のちのアキトの母━━に発見され、保護された、ということだった。
当時は怪我の影響で記憶を失っており、テンカワ家の養子として引き取られた。その十年後、オリンポス山でかつて自分が乗っていた艦の発掘を手伝ううち記憶が蘇ったというのだ……。
しかしすでにアキトの父は、己を助けてくれたテンカワの家に婿養子として入り、テンカワ・アカリを妻として迎え、科学者としてネルガルに就職していた。
礼節を重んじるアキトの父は記憶が戻ったことを妻とその両親に告げた。
そして自分が何者で何のために火星に来たのか、全てを伝えたのだった。これが元で離縁……いや、殺されることがあっても仕方ないと思いながら……。
しかしテンカワ夫妻もアカリも何も言わずに明孝を抱きしめてくれた。『よく言ってくれた……』と言って……。
その後アキトが生まれ、ネルガルの魔の手を感じながらも幸せな日々が続いていたと告げた……。
……テロが起きる半年前に記録されたこの映像は、アキトに凄まじいショックを与えていた……。
━━━━━━━━━━

俯くアキトの発した言葉に頷くミナト。
「このメディアに記録されていることが本当のことだとするとそうなるわね」
未来の記憶で『木連』が存在することを知っているミナトはその辺りをぼかして話す。
「じゃあ何だよ……。あいつら……木星蜥蜴って……人間なのか!? 無人兵器を使っているだけで、指示しているのは人間だって言うのかよ!? じゃあ、何のためにユートピアの……火星の皆は殺されたんだよ!? 女子供関係なく潰されて焼き殺されて…………!!」
「落ち着いて、アキト君!!」
「ミナトさんだって見たでしょ! 俺だって、あいつらと同じ血を引いてるんですよ! 俺が……俺が火星のみんなを殺したようなものじゃないですか!!」<サイズ変更+1>
余りのショックに暴れだすアキト。
「アキト君!!」
そのアキトの頭を胸に抱きしめるミナト。
「アキト君のご両親は間違いなく貴方を……、そして火星を愛していたはずよ……。でなければ、アキト君がこんなに優しい子に育つはずは無いもの……。アキト君が優しいのは間違いなくご両親譲りのはずよ……」
アキトは動かない。
暴れることを止めたアキトに、さらに語りかけるミナト。
「だから、自分を傷つけるような真似は止めて。私やルリルリがアキト君についているから。だから……決して自棄を起こしたりしないで……。アキト君がいなくなったらルリルリも私も、すっごく悲しいんだから……」
だが、アキトは何も言葉を発しなかった。
なぜなら……、ミナトの胸に顔が埋まって窒息しかけていたからだった(笑)
その豊かな胸で窒息しかけながら、必死にミナトの腕をタップするアキト。
ルリが見ていたら折檻ものである(笑)。
そのタップにミナトが気づき、ようやく話してもらったアキトはものすごい勢いで呼吸していた……。
「こ、殺す気ですか!?」
「あはは、ゴメンゴメン。でもね、私はそんな事を知ってもなんとも思わないわよ。きっとルリルリだってそう。だってアキト君はアキト君だもの。まっすぐで、優しくて……頼りないけど頑張り屋で。ルリルリが大好きになったアキト君だから、私はそんなことどうでもいいと思ってる」
微笑むミナトに癒されるアキト。
「……ねぇ、アキト君」
「なんですか?」
何気なく聞いてきたミナトに生返事を返すアキト。
しかしミナトの次の一言に目を丸くする。
「ナデシコを降りてみる?」
「え?」
何故ミナトがそんなことを言い出したのか判らないアキト。
「元々アキト君がナデシコに乗ったのは半ば成り行きでしょ? しかも戦うことが怖いときがある……。やりたいのがコックならそれを追いかけたって誰も悪いとは思わないわ」
「ミナトさん……」
ミナトの言葉に驚くアキト。
そして自分がやりたかった事を思い出した。
IFSがある、と言うだけでエステに乗っていたが、自分がやりたいことはコックだ。
そもそも乗ったのだって一人しかいないパイロットのサポートで、本職になる気は無い。
「もし一人じゃ嫌なら私も一緒に降りてあげる。……きっとルリルリもついてきちゃうと思うから三人で暮らしてみましょ? そうすれば本当にやりたいことが見えてくるかも知れないわ」
「お、俺は……」
ミナトの言葉に驚くアキトは上手く言葉が出なかった。
「今、無理に答えなくてもいいわ。ゆっくり考えて……それで決めてちょうだい。私はこれで戻るけど……一人寝が寂しかったら遊びに来てもいいからね?」
「みっ、ミナトさん!!」
今までの深刻さを吹き飛ばすようにアキトをからかうミナトに思わず強い言い方になるアキト。
「あはは。じゃあね〜。お休み〜!」
そう笑ってミナトは部屋から出て行った。
「……やりたいこと……か……」
独りになった部屋で天井を見上げて呟くアキトだった……。



火星からの避難民は基本的に体力が落ちている者たちばかりだったので、医務室とヒナギクの荷室に急遽作成したベッドで暮らしていたが、地球に降りられる事を聞いて皆喜んでいた。
聞けば、全員地球の出身であり、火星には仕事などで出向・出張していた際に取り残されたのだという。
自分と同じ火星生まれ・火星育ちがいないことは残念だったが、ナデシコの火星行きの目標の一つ、『避難民の保護』は概ね達成できたことを実感したアキトはある決意を胸にしていたのだった……。



翌日━━━━

「「「「「「「「「「ええ〜〜〜!?」」」」」」」」」」
ブリッジに驚愕の声が上がる。
「え〜、今日から我が艦に派遣された新しい提督さんです」
「よろしく〜〜!」
そうプロスが紹介した人物は……以前ナデシコ乗っ取りを企み、海に捨てられた後、偽の命令でナデシコを撃沈しようとした、あのムネタケ・サダアキ副提督であった……。
みんなの非難の声も当然だろう……。
一生懸命に振っている両手のピースサインがむなしく空振っていた……。
そして、そのムネタケの隣にいた士官の制服を着た女性が一歩前へ出る。
「エリナ・キンジョウ・ウォン。副操舵士として新たに任務につきます」
「……です、ハイ……」
エリナの自己紹介の言葉を取って、話を終わらせようとするプロス。
しかし、彼はこうも呟いていた。
「……たく……なんで会長秘書が乗ってくんの……?」



ナデシコの艦内監視用モニタールーム━━━━

多数のモニターの前でエリナとアカツキが逢引……もとい密談していた。
「貴方が乗ってるなんて思わなかったわ」
「迷惑かい?」
「ええ」
キッパリと言うエリナ。
「で? どう?」
欠片も気にしていないアカツキの言葉にモニターに目をやるエリナ。
「これは火星からのボソンジャンプする瞬間のテンカワ・アキト」
そう言って見つめていたモニターにはヤマダと一緒にゲキガンガーを見ていたのにアキトだけが忽然と消え、直後意識を失って展望室に現れたシーンが映っていた。
「おやおや……」
「ふふっ……。イイわ、彼……」
モニターの灯りだけが照らす部屋の中、エリナ・キンジョウ・ウォンが怪しい笑みを浮かべていた……。




あとがき

ども、喜竹夏道です。
骨折はまだ治っていません。

リョーコちゃんが『アキト』と呼ぶようになりました。
でも実はTV版第八話『温めの『冷たい方程式』』で無重力バスケ中のアキトをいきなり『アキト』と呼んでいたリョーコちゃんだったりします……。

ここでアキトの秘密、大発覚!
正体不明のアキトの親父は実は木連の人間だった!!
いや〜、これは他の作品ではちょっとやらないネタでしょう(笑)。
何とか年齢的な折り合いもついたのでやってみました。

アキト自身も何らかの決心をしたようです。
今後は徐々にTVの構成から離れていく事になります。
しばらくお待ちください。


さてさて、皆さんお待ちかね〜! のクイズ正解発表です!(笑)
正解は『ルパン三世 カリオストロの城』ではなく、
『陸軍中野予備校』<サイズ変更+3>
と言う漫画です。
主人公・酢堂大雑が敵に怪我をさせられて意識を取り戻した後このセリフを言い、周囲にいた人間に『カビの生えたアニメマニアが!』とボコられるシーンから持ってきています。

正解者の智音さんには、ご希望のイツキのSSをお作りします。
待っててくださいね。

ではこれからもよろしくお願いします。



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