機動戦艦ナデシコ 逆行のミナト

第九話 奇跡の交渉『愛撫か?』 -その参-

 

「ねえプロスさん、ちょっといいかしら?」
「おや、どうかしましたかミナトさん?」
廊下を行くプロスを呼び止めるミナトに、いつもの表情で返すプロス。
「ちょっと話があるのよ。ネルガルの会長に」
「会長に、ですか? しかしそれは……」
「いまナデシコに秘書と一緒に来ているんだから秘密の話はしやすいと思うけど〜?」
ミナトの言葉に驚くアカツキ。
「……っ! そうですね……、確かに話はしやすそうです……。しかし何処で会長の顔を御知りになられたんですか?」
「大関スケコマシですもんね〜」
答えになっていない答え。
だが、それはプロスに何かを連想させるのには十分だったらしい。
「まったく……。もう少し自重してもらいたいものです」
「ま、しょうがないんじゃない? で、いつどこでやりましょうか?」
「そうですね……コスモスの会議室でやりましょうか? 現状ではあそこが一番防諜能力が高いですしね……。では一時間後に」
「おっけ〜」
そしてミナトはオモイカネに対してルリたちに後からコスモスに来るように言伝を頼み、これからの交渉に必要なものを用意するのだった。

 

一時間後、コスモスの会議室━━━━
「や〜れやれ、もうバレちゃってたのかい?」
そんなことを言いながら正面に座るミナトを見つめるアカツキ。
「バレバレよ。もう少し身分の隠し方に気をつけることね。最低限偽名を使うとか、ね」
「会長……」
呆れた顔でアカツキをねめつけるエリナ。
「エリナも。『会長秘書』が戦艦なんてものに乗り込んだら普通は怪しまれるわよ」
「う……」
アカツキに注意をしようとした矢先に自分のことも言われ、黙ってしまう。
「プロスさんだって『なんで会長秘書が乗ってくんの?』なんてこっそり言ってたんだし」
「ははは……聞こえてましたか……」
聞こえてるとは思わなかったのか、頭をかくプロス。
もっともミナトは元から知っていたのだが。

そして交渉が始まった。

ミナトは自分が木連━━木星圏ガニメデ・カリスト・エウロパ・及び他衛星国家間反地球共同連合体━━を知っている話した。
アカツキ・エリナは知っていたがプロスはこの事を知らなかった。
「どうしてそのようなことまでご存知なんです?」
始めて知った事実に驚くプロス。
「それは秘密♪ でもプロスさんも知っておいた方がいいと思ったから同席してもらったのよ」
これにより交渉の主導権は完全にミナトが握る事になったのだった。

ミナトからの要求はルリと研究所にいるマシンチャイルドの親権を自分に欲しいというもの。
それを聞いて渋るアカツキ。
「ホシノ・ルリと今研究所にいるマシンチャイルドの子をよこせって言うのは……」
そのセリフを聞いてニヤリと笑うミナト。
「確か以前ナデシコの構造的欠陥を見つけたとき、『特別ボーナス』を出すって言ってたわよね?」
「あ……」
自分がそんなことを言っていた事を思い出したアカツキ。
「それに地球を出る前に私が指摘して作らせた装置『緊急起動システム』と『対テロ用電気銃(テイザー)』は合計三回役に立ったわよね?」
「う……」
確かにその通りであることをエリナも知っていた。
「サツキミドリだって私が全力航行試験を進言しなかったら、コロニーの従業員ごと落とされていたわよね〜? もし全員死んでいたりしたら被害や御見舞金とかいくらぐらいになるのかな〜?」
「ふぅむ……」
経理担当として考えさせられるプロスペクター。
「だったらその分も追加してルリルリとこのマシンチャイルドの子の親権ぐらい私にくれてもいいんじゃない? まして社長派が勝手に作った研究所なんでしょ? 潰すいい機会だと思うけど」
「ん〜……」
考え込むアカツキの頭の中ではミナトのやってきた事と、このお願いを無視して被るネルガルの被害を猛スピードで計算していた。
考えることしばし。
結論が出たらしい。
アカツキが逆にミナトに質問する。
「……もし、ホシノ・ルリやそのマシンチャイルドの子供が君と一緒に行かないって言ったらどうする?」
「その時は、ボーナスを金品でもらうわよ。そうねぇ……、ネルガルの株式の十五パーセントぐらい?」
お茶を飲んでいたアカツキがそのセリフに噴出す。
「ぶっ!! ちょ、ちょっと待って! それはいくらなんでも無茶苦茶だよ!」
ちなみに公開している株式のうち、四割ほどがアカツキの持ち株である。
それ以外の二割もアカツキの親族が分割して持っている。
ここで十五パーセントも持っていかれた日には、筆頭株主が入れ替わりかねない。
「あら? じゃあ、貴方が会長秘書に隠していることを色々ここで話しましょうか?」
「な、何を隠しているって?」
何を知られているのか判らないのでクールに通そうとするアカツキ。
「え〜と、レイコ、キヨミ、マミ、ミカ、シズカ、ミサコ、サオリ、シンディ、リカ、マイナ……」
「判りましたから勘弁してください!!」
ミナトが言い出した名前を聞くなり、いきなり土下座するネルガル会長。
その顔は脂汗がダラダラだった。
「……どういうことかしら、アカツキ君……?」
「仕事を放り出して逃げた時にデートしていた相手の名前」
殺気すら滲ませてネルガル会長に詰め寄る会長秘書に、教えてあげるミナト。調べたのは勿論ルリである。
「貴方ねぇ!!」
「いや〜、だって会長の仕事って単調で退屈でさぁ〜」
「言い訳になってないわよ! そのせいで私がどれだけ苦労したと思ってるの!?」
アカツキの襟元を掴んで揺するエリナだったが、基本的にエリナの言っていることのほうが正しいと思われる。

そんな惨劇?が繰り広げられている会議室にノックの音が響く。アキトとルリがやって来たのだ。
ミナトはアキトに例の手紙を持ってくるようにオモイカネに言付けてあった。
『これからネルガルの会長に会うから例の手紙を持ってきて』と言っておいたのである。
勿論コピーをとってからであるが。

会議室に入るなり、アキトはアカツキを睨む。
「アカツキ……アンタがネルガルの会長だったとはな……」
「やれやれ……こんなに早くバレるとは思ってなかったよ。君のせいかな、ハルカ・ミナト君?」
責任転嫁するふりをするアカツキ。だがそれをポーズだと知っているミナトには何の痛痒も感じなかった。
「考え無しの貴方が悪いんじゃないの、アカツキ君?」
「酷いな〜。まあ、バレちゃったらしょうがないか」
「ネルガルの会長が何でわざわざパイロットを?」
ルリがある意味もっともな質問をする。
「趣味だよ、趣味。一つ間違えば吹き飛ぶ己の命……。ゾクゾクするじゃないか」
ふんぞり返って答えるアカツキ。
「で、君の交渉材料っていうのは?」
「……これだ……」
アキトに渡された手紙のコピーを読むアカツキの顔色が見る見る変わる。
「さて、どうするつもりかしら、アカツキ会長?」
「……参ったねこれは……」
そう言って後ろに居るエリナとプロスに手紙を見せる。
手紙を覗き込んだエリナとプロスは絶句した。
「こんなことって……」
「ここまでやっていましたか、先々代は……」
手紙にはボソンジャンプについての研究データ秘匿のためにネルガルのSSにライバル企業の研究者を殺させたり、味方に引き込むために行った非人道的な行いの数々が証拠付きで書かれていたのだった。しかもそれ以外にも現時点で把握しきれていなかった社長派の非合法の秘密研究所のリストもあったりする。
「まったく……ウチの親父さまは何を考えてたんだか……。こんなことが外部に知れたらどうなるか考えなかったのかね?」
はぁ〜、と大きくため息をついてアカツキは両手を上に上げた。
「オーケー、オーケー。君たちの要望を聞こうじゃないか。口止め料としてボーナスにプラスしてね」
「あら、物分りがいいじゃない?」
降参、とばかりに結論を出したアカツキをからかう様に問うミナト。
「これを表に出されたらこっちが困るしねぇ〜」
「ちょっと会長!?」
あっさり認めるアカツキに慌てて食って掛かるエリナ。
しかし、アカツキは決定を変えなかった。
「だってこれだけの証拠を集められちゃったんだよ? 木連のことも知ってるみたいだし。もしここで彼女たちを拘束したとしても、自動的に全世界へ発信されたら元も子もないじゃない。だったらさっさと認めて、お願いを聞いた方が得ってもんだよ。それに交換条件の社長派の秘密研究所のデータ、なんてとっても魅力的じゃないか?」
ルリは『木連』という単語の意味が判らなかったが、ここで口を挟むのは拙いと思い、無表情を通していた。
「だからって、こんなことを許せばどんどんつけあがってくるわよ!! ここは……」
「はいはい、この話はもう終わり! 彼女たちと友好的な関係を結ぶことは今後のネルガルにとっても間違いなくプラスになることなんだから! これは会長の決定ね!」
「でも!」
諦めの悪いエリナがアカツキにしつこく食らいつく。
「……つまり、そっちの会長秘書さんは自分じゃ出来なかったことをやられた事が悔しいから反対しているのかしら?」
「なんですって!」
図星を指されたのか、真っ赤になってミナトを睨むエリナ。
それを見て小馬鹿にするようにミナトは笑みを浮かべる。
勝者が決した状態を大声を上げれば変えられると思っている時点で子供の思考であり、秘書失格なのだと言う事に気づいていないのだ。
それを正す為に室内を見渡した。
「アカツキ君、ちょっとそこの控え室を借りるわよ。出入り口はそこしかないんでしょ?」
そう言ってミナトが指差したのは会議室に隣接している秘書たちの控え室として使われる部屋だった。
外部・内部の音を完全に遮断しするようになっており、備え付けのインターホンでのみ連絡できるようになっている。
「え? あ、ああ。そうだけど……」
「じゃ、逝きましょうか?」
そう言ってエリナの腕をつかんで控え室に連れて行くミナトだった。

控え室にあるのは小さなテーブルとソファー、そしてコーヒーメーカーと椅子だけである。
その中の大き目のソファーにエリナを突き飛ばすように座らせるミナト。
「っと!? ……どんな交渉をするつもりかしら? 言っとくけどここはちょっと操作すればすぐにSSが雪崩れ込んでくるから気をつけたほうがいいわよ? それに完全防音だから私が貴女を撃ち殺しても外には音が漏れないわよ」
気が強いだけで実はかなり怖がりなエリナは、強気に見せかけて牽制する。
「あら、そうなの。ちょうどよかった」
しかし、それはミナトにとっても好都合であった。
「ちょうどよかった……、って何をする気!?」
「危険な事はしないわよ。……アブないことはするけれど……」
そう言って上着を脱いでいくミナト。
「な、何をする気!?」
ミナトの表情に何か……命に関わるものではない恐怖を感じるエリナ。
「ふふふ……。私、全寮制の女子高の出身なのよねぇ……」
その艶かしい唇をペロリと舐め上げるミナトの背中には黒い蝙蝠の羽が、ヒップには矢印型の尻尾が生えているようだった……。

 

完全防音の控え室に入って三十分程した後……。
上気した顔で部屋からミナトだけが出てきた。
不審に思った四人が部屋を覗くと……、そこには部屋の中で全裸でソファーに横たわっている、色々な汁でビチャビチャになったエリナがいた……。
唖然としている四人の後ろからミナトがエリナに声をかける。
「交渉は成立よね?」
「…は……い、おねえ……さま……」
((((貴女一体どんな交渉をしたのですかぁぁぁぁぁぁ!?))))
心で思っても突っ込めないアキト・ルリ・プロス・アカツキであった。

 

さらに三十分後━━━
シャワーを浴びて着替えてきたミナトとエリナだが、ミナトはともかくエリナは何故か頬を上気させ、何やらもじもじしていた……。どうやらシャワールームで完全に堕とされたらしい……。
そんなエリナを気にしつつも話を進めていくミナト以外の四人。
結局、交渉内容としては最初にミナトが言った内容がほぼそのまま通った形になった。
アキトのボーナスについて、両親殺害の慰謝料と口止め料を含めたことが違うくらいである。
当時の会長も今は亡く、これ以上の追及は難しいとのミナトの判断をアキトも了承したためであった。

そしてアキトはミナトと共にナデシコを降りる決心をした。
その理由は先々代ネルガル会長にあるが、そのことを話せる訳でもない為、『アカツキの嫌がらせに疲れた』ことにして降りる事にした。
確かにアカツキは何かにつけてアキトに突っかかる……というか、からかうことをしていたのを他のクルーもよく見ており、理由付けにはいいかもしれなかった。
悪役にされたアカツキは頬を引きつらせていたが、諦めたように大きくため息をついた。
「……ま、悪役(ヒール)は嫌いじゃないしね……」
その言葉を聞いて、アキトが一歩後ずさる。
そして冷や汗を流しながら尋ねた。
「アカツキ……、アンタまさか……マゾヒストなのか?」
「なんで!?」
アキトの言葉に全力で聞き返すアカツキ。
なにやら容認できない内容だったようだ。
「だって踵(ヒール)が好きって……」
「そっちの『ヒール』じゃない!!」
……確かにそっちの『ヒール』が好き、って言うのは大問題だ(笑)。
「それと、そこ! キラキラした瞳でこっちを見ない!」
アカツキの指差した先には、今の発言でなにやらうずうずしている人もいた(笑)。
ちなみに今この部屋の中でハイヒールを履いているのは二人だけである(大笑)。

紆余曲折あった交渉も終わり、コスモスから帰ってくる三人の耳に、会議室からアカツキの悲鳴が聞こえたかどうかは定かではない……。

 

コスモスからの帰りにルリはミナトに聞いてきた。
「ミナトさん、『木連』って何ですか?」
「後で説め……、もとい、教えてあげるわ。ここじゃ拙いから」
危うくブロックワードを言うところだったミナトはそれを押しとどめ、ルリに答える。

ナデシコに戻ってからミナトから木連やアキトの両親の話、他のマシンチャイルドの話をすべて聞いたルリは、ミナトやアキトと共に一度ナデシコを降りる決心をするのだった……。

 

あとがき

ども、喜竹夏道です。
大変遅くなって申し訳ありませんでした。
分量減らしてですが、お送りします。

大佐になりました。ザクS出ました。サイサリスもゲットしました。
でもどちらも結構使いづらいです。
目立つし、狙われるし……。
ズゴックSもザクTもまだ未入手です。ゲルググキャノンも実装されるらしいし頑張らねば。

ようやく怪我も治りましたが仕事が忙しく、執筆時間どころか日常生活時間が取れません。
家に帰ったら風呂に入って寝るだけ……。食事を作る気力も無い……。
メールの確認も週に一度くらいになってしまいました。
ベランダのサンダルはここのところの長雨でカビてました。正直、掃除は週に一度出来ればいい方。
夏休みに至っては全日程出勤と言う異常事態に。
実は今回の話も、会社の昼休みを利用して執筆してます(涙)。

それはさておき。
次回はあの人とあの娘が登場します。
お楽しみに。




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