機動戦艦ナデシコ 逆行のミナト

第九話 奇跡の交渉『愛撫か?』 -その伍-

 

「やーやーやー、お帰りお帰りー。聞いたよ〜。すっごい戦果だったらしいじゃないか〜」
ネルガル本社の会長室に戻ったミナトたちに、必要以上に機嫌のいいアカツキが声をかける。
「こっちも社長派の力をか〜な〜り殺ぐ事が出来たからね〜。いや〜もう笑いが止まらないよ〜! で、テンカワ君の後ろに隠れている娘たちがそうなのかい?」
あまりにハイなアカツキに怯えて、アキトの後ろに隠れてしまった幼女たちだった。
その幼女たちの怯えた目は、研究所で研究員たちに向ける目とほぼ同質だった。
「……アカツキ……、この娘達が怯えているからとりあえず離れろ」
「酷い言われようだね……。まあ、今日の僕は機嫌がいい! そのくらいの事は気にしないでおいてあげよう! ハッハッハッハッハ!」
そう言って会長席に戻るアカツキをジト目で見るミナトとアキトとルリ。マキビ親子はついて来れないようだった。
ちなみに……その隣に佇むエリナの幼女たちを見る目がかなり怪しかったのは……気のせいだと思いたいミナトだったりする……。

目の前のソファーに並んだルリとアキト。そしてその二人に挟まれる場所にいる幼女二人に加え、マキビ一家とミナトにエリナと、会長室は普段と比べてかなり人口密度が上がっていた。
「で? その娘達は予定通り?」
アカツキがミナトに尋ねる。
「ええ。私たちで引き取るわ。マキビさんたちにも話は行ってますよね?」
頷いてマキビ主任に話を振るミナト。
「ああ。今回の一件で被害者が複数いた場合は半数をうちで引き取る、ということでしたね?」
「そうです。ちょうど二人だからお互いに一人ずつ、ということで」
「そうですね……。ではどちらがどちらを?」
「……そうですね……」
マキビ主任の言葉に悩むエリナ。
ラピスを引き取りたいが、子供たちの前で『あの娘が欲しい。この娘は要らん』などとは言いづらい。
そんなミナトにマキビ夫人が声を掛けた。
「あの……少しこの娘たちに面談させてもらってもいいですか?」
「面談、ですか?」
マキビ夫人の言葉に考えるミナト。
「はい。心の傷の度合いによっては、まずその治療を先にしなければならない場合もありますから」
なるほど、と頷いたアカツキがエリナに指示を出す。
「……じゃあ、その線でいきましょうかね? エリナ君、別室を用意してあげて……。エリナ君?」
返事をしないエリナを不審に思ったアカツキがそちらを見やると、放心したように二人の幼女を見つめるエリナがいた。
「エリナ君!」
少し強めに声をかけると、ようやく再起動するエリナだった。
「は、はい!? 何でしょう会長!?」
「聞いてなかったの? マキビ夫人があの娘たちに面談するから別室を用意してあげて、って言ったの」
「は、はい! 直ちに!」
ようやく動き出すエリナに不安が増してくるミナトだった……。

そして面談が終わり……どちらの幼女をどちらが引き取るかが決まった。

 

ミナトたちは幼女たちの引き取りに必要な手続きを始める。
薄桃色の髪の幼女はミナトに、銀髪の幼女はマキビ夫妻に引き取られる事になった。
なんでも銀髪の幼女の方が心の傷が深いらしく、ハーリーと言う経験のあるマキビ夫妻の方がいいだろう、という判断によるものだった。
アキトと離れる時、銀髪の幼女……後にマキビ家で『マキビ・キラ』と命名される幼女が寂しそうにしていたのは、気のせいではないだろう。
キラの手を引いていたのはアキトである。
『最初の温もり』の記憶がアキトなのだ。
アキトの『またきっと会えるから』という言葉が無かったらアキトにしがみついたまま離れなかったかもしれない。

 

そしてネルガル本社を出た一同はそれぞれの家に向かって帰り始めた。
泣きそうなキラをアキトが抱きしめているのをちょっとキツイ目で見ていた人物がいたのは……後で判りそうなので今は割愛する。

 

『流石に三人以上になるのに六畳一間は狭いでしょ』
出来るだけ安いアパートを借りようとしていたアキトにそう言ってミナトが用意したのは3LDKのマンスリーマンション。
昔の職場の伝手で安く借りられたらしい。
ちなみにアキトの職場の予定である雪谷食堂から自転車で五分の距離である。
その部屋に入って用意していた子供部屋に連れてこられた後、興味深そうに辺りを見ていた幼女が呟いた。
「モウジッケンシナクテイイノ?」
「いいんですよラピス。もうそんなことしなくても」
ルリの『ラピス』と言う問いかけが誰に対するものなのか考えた幼女は目の前にいる三人の名前を思い出し、それが誰にも当てはまらないことに気づくと問い返した。
「らぴす?」
頷いてラピスの前に跪くミナトがラピスと視線を合わせる。
「そう。ラピス・ラズリ・ハルカ。それが貴女の名前。そして私たちが貴女の家族」
「カゾク……?」
初めて聞く単語に首をかしげるラピス。しかしそれはおいおい実感していけばいい事だと三人は思っていた。
「よろしくね」
戸惑いを隠せないラピスにテンカワスマイルを炸裂させつつ、挨拶をするアキト。

まだ『家族』という言葉を実感できないであろうラピスが少しずつでも前へ進めるようにしよう、そう誓うミナトたちであった。

 

ラピスの荷物(主に服等)を整理し終わった後、『ん〜!』と伸びをしてミナトがアキトのほうを向く。
「さてと、次はアキト君の就職、っと」
「ははは……。ま、まあ確かにそうなんですけど……いくらなんでも全員で行くって言うのは……」
ミナトが『じゃ、全員でアキト君の職場に行ってみましょうか』と言ったのだが『お願いだから止めてください!』というアキトの懇願も受け入れられなかった(笑)。
「な〜に言ってるの? 支えなきゃならないものがあるから本気なんだ、って言うところを見せなきゃ信じてもらえないかもしれないでしょ? さ、準備準備」
かなりハイになっているミナトに背中を叩かれ、軽く咽るアキト。
「じゅ、授業参観じゃないんですから……」
「似たようなものでしょ。さぁ、さっさと準備、準備!」
その言葉を聞いてルリはラピスを着替えさせるために部屋に連れて行った。
ちなみにラピスの服はエリナからのプレゼントである。
「……とほほ……」
アキトは諦めの極致のような顔で、のろのろと着替えに向かうのだった……。

 

カランカラン。
「いらっしゃい。……悪いがまだ仕込みの最中……」
「お久しぶりです。サイゾウさん」
仕込みの最中、扉の開いた音だけを頼りに客を迎え入れたサイゾウは聞き覚えのある声に振り向く。
「ん? おめえ…アキトか? 何しに来やがった?」
一年ほど前にクビにした男が帰ってきた事を怪訝に思うサイゾウに、アキトが用件を告げる。
「もう一度雇ってもらえないかと思いまして」
苦笑いしているアキトを切って捨てるサイゾウ。
「臆病なパイロットを雇っている、なんて噂が立つのはゴメンだよ」
「大丈夫よ〜。アキト君、もうそのぐらいじゃ怖がらないから〜」
サイゾウの言葉を否定する女性の声に気づいたサイゾウはアキトの後ろにいるミナトに気づく。
「ん? お嬢さん、あんたは?」
アキトが女性を連れている事に驚くサイゾウ。
「あ、サイゾウさん。この人はミナトさんと言って……」
「アキト君と一緒に暮らしてま〜す」
アキトの言葉を取って宣言するミナト。
「一緒に暮らしてる?」
「ええ」
サイゾウの言葉に何のためらいもなく頷くミナト。
「……アキト。ちょっとこっちに来い」
火を止めた厨房から出てきたサイゾウはアキトの耳を掴んで奥へと引っ張っていく。
「痛い、痛いってば、サイゾウさん! 耳を引っ張らないで!」
思わずアキトが悲鳴を上げると半開きだった扉がさらに開かれた。
「アキトさん!」
「アキト!」
耳を引っ張られていくアキトを呼ぶ少女たちの声に気づいたサイゾウが入り口を見ると、薄蒼い髪の少女と薄桃色の髪の幼女がアキトを心配そうに見ていた。
「……ん? お嬢ちゃんたちは?」
「私とアキト君との子供たちで〜す」
二人を後ろから抱きかかえるようにして宣言するミナト。
「ミナトさ〜ん、誤解を生む言い方はよしてくださいよ〜!(涙)」
「アキト、おめえ一体何やらかした?」
「だから誤解ですってば〜!」
泣きながらサイゾウに説明するアキトであった……。

十五分後……。
「…つまりお嬢さんとそっちの薄青い髪のお嬢ちゃんはアキトがここを辞めた後の職場で知り合った同僚で、薄桃色の髪のお嬢ちゃんはそっちのお嬢さんが引き取った子で、一緒に前の職場を辞めたから同じ部屋に住んで生活費を浮かそうって考えた、ってことか」
「そうっす」
ようやく事情を説明できたアキトがサイゾウの理解を肯定する。
「おめえが女の子まとめてコマすような真似出来るとは思っちゃいないから安心しろ。で、生活費を稼ぎたいからここで働きてぇ、というわけだ」
「……そうっす(涙)」
そこまで理解されているのは悲しいのか、涙ながらに肯定するアキトだった。
「……条件がある」
「なんですか?」
少し考えてから条件を出すサイゾウに、条件を尋ねるアキト。
「その借りた物件引き払って来い」
いきなりの言葉にいきり立つアキトはサイゾウに食って掛かる。
「なんでっすか!?」
アキトの剣幕をものともせず、ぷかり、とタバコの煙で輪を作るサイゾウ。
「うちの二階が空いてる。どうせ生活費を浮かすつもりなら、うちで住み込みで働け」
その理由を聞いて目を丸くするアキトとミナト。
「サイゾウさん……」
「本当にいいの? サイゾウさん?」
ミナトは思わず尋ねてしまった。
「かまわねぇよ。大人が三人に子供が二人。二部屋あれば何とかなるだろ。それに状況から見て共働きになるのなら、大人不在の家に女の子二人だけってのは危険だろ? ここにいりゃあどこかに大人の目がある」
その言葉は子供たちの事を本当に心配しているものだった。
サイゾウの心遣いに感極まって声も出ないアキトとミナトに代わってルリが尋ねる。
「いいんですか? 私たちが一緒に住んでも?」
ルリの言葉に漢の笑みで答えるサイゾウ。
「かまわねぇ、って言ったろ? ま、悪いと思うんなら暇な時店を手伝ってくれりゃいい。注文取りくらいは出来るだろ?」
「はい。そのくらいでしたら」
「ラピスモデキル……」
そう言われたら断れないルリは即座に返し、続いてラピスも返事をする。
「そう。偉いわねラピス」
ルリがOKした事よりも、積極的に他人に関わろうとするラピスを誉めるミナト。
「有難うございます、サイゾウさん!」
そしてアキトが代表して礼を述べると、サイゾウが立ち上がる。
「おら、決まったならさっさと荷物運び込みやがれ! すぐに夜の分の仕込みをしなきゃならねえんだからな!」
そう言ってサイゾウは厨房に向かう。
「はい! ただちに!」
返事をして店を飛び出したアキトはラピスの荷物を運ぶためにネルガルからレンタルしてきた車に向かう。
「りょ〜かい」
「はい」
「ウン」
残り三人も返事をして店を出る。

一時間後に全ての荷物を運び込みなおしたアキトと部屋の解約の手続きをしてきたミナトは、荷物の整理をしていたルリとラピスに声をかけて店に出る。
アキトは仕込みを手伝い、ミナトはルリとラピスに接客の仕方を教えていた。
特にラピスは他人と触れ合うことが殆ど無かった事から念入りに教える事になった。

 

「ところでサイゾウさん」
仕込みを手伝うアキトがサイゾウ声をかける。
「何だ?」
仕込んでいる鍋から目を離さず、聞き返すサイゾウ。
「さっき『俺が女の子まとめてコマすような真似出来るとは思っちゃいない』って言ってましたけど、何だと思ったんですか?」
アキトの言葉に少し考えるような顔をして答えるサイゾウ。
「……攫ってきたのかと思ってよ」
言うに事欠いて酷い言われようである。
「……俺、誘拐犯じゃないっす……(涙)」
涙ながらに否定するアキトだった……。

 

そして雪谷食堂に三人の看板娘が誕生したのだった。

 

あとがき

ども、喜竹夏道です。
ラピスとキラ、無事命名されました。
さらにサイゾウさんも出ました。
アキトが地球で頼れそうなのはミスマル提督と、このサイゾウさんくらいしか思いつかないもんで……。
一応、他にはゲームのキャラと単行本のキャラ、そしてオリジナルのキャラを出す予定です。
出てくるのは結構先になるかもしれませんが。

ゲルググキャノンとザクTもゲット。
さあ、今度は全機体のセッティングのコンプだ!
でもやっぱり中距離・狙撃そして格闘苦手。つーかザクT使いづらすぎ!
とりあえずサイサリスはバンナム戦オンリーで出すとして、それ以外は狙撃と格闘を進めていこうかな〜。

……最近、自分の誕生石の一つがラピス・ラズリらしいことが判明。
妙なところで色々な小説・マンガやアニメと共通項を発見してるなぁ……。
本名の名前は某マンガの主要キャラと同じだし(結構読み方が判らない漢字)、某マンガの人気キャラと同じ星座だし、某有名人と同じ誕生日だし……(最後はマンガと関係無いな)。
世の中、何が自分に絡んでくるか判りませんね〜。




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