機動戦艦ナデシコ 逆行のミナト


第十四話 『○ACK T○ THE FU○UER』でいこう
 
 
 
私は自分の家の居間でお酒を飲みながら壁に掛かったカレンダーを見る。
二二〇七年七月七日 日曜日
明日はルリルリの誕生日……、だけどルリルリとアキト君の命日でもある。
アキト君は火星の後継者事件のあと、逃げる彼を捕まえて地球に連れ帰って治療していたけど、ナノマシンの暴走で三年前の今日死んだ。
艦長はその一ヵ月後に後を追うように衰弱して死んでいった。
治療も栄養も問題ないのにどんどん衰弱していって死んでしまった。
ルリルリは二人が死んだ直後から発作的に自殺未遂を繰り返すようになっちゃって……、目は死んだ魚のように何も映さないでただ呼吸しているだけ……。
高杉君やハーリー君、ナデシコAのみんな……。
ルリルリを元気付けようとして会いにきたけど誰にも返事を返さない……いえ、外界に何があっても感じ取れていなかった。
ラピスもアキト君が死んだ直後から自分から行動を起こすことはしなくなり、ただ生きているだけになってしまった。
イネスさんがなんとかしてこちらに呼び戻そうといろいろな手段━━━ 一部年齢的に不適切なものも含む ━━━をとってみたものの変わることはなかった……。今では生きた人形とほぼ変わらないあの娘の世話はエリナとイネスさんの二人が行っている。アカツキ君もたまに服などを買って持って行っているらしいけど、それにも反応しないらしいし……。
お酒を飲みながら私はついつい考えてしまう。
あの時もし違う行動が取れていたら……、もしアキト君たちを苦しめていた事情を少しでも知っていられたら……、もし艦長の事が判っていたら……、もしルリルリにとってアキト君が『大好きなのお兄さん』以上の存在であった事に気づけていたら……、もしルリルリがアキト君と結婚できていたら……、彼らは死ぬことは無かったのではないのかと……。
アキト君を捕まえた後、アキト君やアカツキ君から『無理矢理』聞き出した情報はそのくらい酷いものだった。
アキト君のこと、ルリルリのこと、艦長のこと、アキト君の両親のこと、ラピスのこと、木連のこと、ネルガルのこと、クリムゾンのこと、火星の後継者のこと、アキト君たちに行われた実験のこと……。
「ふう……」
そんな『IF』に意味は無いのについつい考えてしまう……。
あの時に戻れたら……、と。
 
さて、明日はイネスさんに会わなくちゃ……。
何か重要な相談があるって言ってたし……。ルリルリたちのお墓参りもしないと……。
 
 
 
翌朝、私は喪服で家を出る。
そしてルリルリたちのお墓参りを済ませてからイネスさんの所に顔を出した。
 
 
ネルガルの極秘研究所は一般には小さな会社のビルとして登録されているが、その出入りには特殊な身分証が必要だ。
私はアカツキ君経由でそれを持っているから入れるが、そうでないと入る以前に近づく事すら出来ない。
そのビルの入り口の中でイネスさんが待っていた。
普段は白衣のイネスさんだが、今日だけは黒っぽい服装をしていた。
その含むところに気づいたけれどもそれは黙っておく。向こうもきっとそうだろう。
「お久しぶりね、ミナトさん」
「イネスさんこそお久しぶり。元気してた?」
挨拶を交わした後、イネスさんの研究室に私たちは入って行った。
 
「過去は変えられない。私が『イネス・フレサンジュ』から『アイちゃん』に戻ることができないように。白鳥君が『生き返る』こともない。でもせめて、『これから起こること』を防ぐくらいなら出来る」
開口一番そう言ったイネスさん……を置き去りにして回れ右をする私。
「ちょ、ちょっと待って! 何故帰るの!?」
そう言って私を引きとめるイネスさんを……私は可哀想なものを見る目で眺めた後、おもむろに彼女の両肩を掴んだ。
「イネスさん……いくらアキト君が死んじゃって、忘れ形見みたいなラピスに『ママ』って呼んでもらえないからって……宗教に走っちゃダメよ。すぐにいいお医者さんを調べてあげるから少しだけ待ってて」
「違うわよ!! いくら何でもアキト君がいないからってそんなことはしないわよ!
……子供が欲しかったらお兄ちゃんの冷凍精子だってあるんだし……」
イネスさんの不穏当な発言は私の耳に入ってきたが……スルーすることにした。
「とにかく! そういう事ではないの! もう死んだ人は帰ってこないんだから!」
そしてため息をついたイネスさんは私をここに呼んだ理由を言ったのだった。
「貴女には『これから起こる』不幸を救う手助けをして欲しいの」
「『これから起こる』……?」
うっかり聞き返すミナトに……晴れやかな笑顔をしたイネスが嬉々として『説明』を始めるのであった……。
 
 
 
五時間後……、ようやく『説明』を終えたイネスの肌はツヤツヤしていた。
……対称的にミナトはボロボロになっていたが。
「というわけで貴女がこの実験に適任なの。彼らに最も遠くて近い場所にいた貴女なら最も親密でありながら客観的に状況を判断できるわ」
「……本当にそれで変えられるの?」
ボロボロになりながらも確認を取るミナトに、イネスは肯く。
「ええ。立ちまわり方にもよるけど九割がた確実ね。上手いことアカツキ君やエリナさんを使えれば、だけど」
その言葉を聞いてしばし……黙考したミナトは答えを出す。
「判ったわ……協力しましょう……」
 
そして『悲しい過去』という『未来』を変えるために、ほんの数人のレジスタンスが立ちあがったのだった……。
 
 
 
 

あとがき
 
ども、喜竹です。
今回のお話はミナトさんの逆行直前のお話。
つまり現在のミナトさんの未来にして過去のお話です。
そしてミナトさんの逆行の理由の一端を書いてみました。
でも真相がハッキリするのは最終話辺りです(オイ)。
 
TV版では総集編となった第十四話ですが、この作品でわざわざ総集編をやる必要も無いと思ったので何か話を入れようとしたんですが……思い浮かばなかったため、時間がかかったわりにこんな短い話になってしまいました。ゴメンなさい。
 
それはさておき……、2月2日の雪で事故りました……。
左フロントアーム損傷で修理費概算30万円……(現在細部を見積もり中のため増額する可能性大……)。
自損事故の保険をかけようと思っていた矢先の出来事のため、保険が全くおりず……(涙)。
しかも昨年度の不況による給料カット&ボーナスゼロのため現在貯金すらなく……、現在コレクションしているレアゲームやA3戦術機を売りに出すしかない状況に……(滝涙)。
せっかく武御雷を全色(紫・青・赤・黄・白・黒LIMITED・黒量産・UN)揃えたと言うのに……(号泣)。
せめて利を貪るショップではなく誰か大事にしてくれそうな人に買って欲しい……。



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